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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03F
管理番号 1297779
審判番号 不服2013-25559  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-26 
確定日 2015-02-20 
事件の表示 特願2010- 24295「大型ペリクルの枠体及び該枠体の把持方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月 6日出願公開、特開2010-102357〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年7月2日(優先権主張2007年7月6日、日本国)を国際出願日とする実願2009-600054号(以下「原出願」という。)を平成22年2月5日に特許出願に変更したものであって、平成24年6月4日付けで刊行物等提出書が提出され、同年8月30日付けで拒絶理由が通知され、同年10月18日付けで意見書が提出されるとともに、同日付で手続補正書が提出され、平成25年2月22日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年4月26日付けで意見書が提出されるととともに手続補正書が提出され、同年9月26日付けで平成25年4月26日付けの手続補正の補正の却下の決定がなされるとともに、同日付で拒絶査定がなされた。本件は、これに対して、平成25年12月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。その後、平成26年2月10日付けで前置報告がなされた。


第2 平成25年12月26日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年12月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の請求項に記載された発明
平成25年12月26日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、本願の特許請求の範囲の請求項1は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的として補正された。
よって、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。

「複数の辺からなる多角形形状を有する枠体であって、該枠体の上縁面に接着されたペリクル膜と、該枠体の下縁面に塗着された粘着材とを備えることができる、前記枠体の最も長い辺の長さが1.4m以上2.0m以下である大型ペリクルの前記枠体において、前記枠体は、すべての辺にそれぞれ把持運搬用の凸部または凹部を有し、前記把持運搬用の凸部または凹部が、枠体の外側面上であって上縁面及び下縁面から離間した位置にあり、前記把持運搬用の凸部または凹部のペリクル枠体辺方向に沿った長さがそれぞれの辺の長さの10%以上である大型ペリクルの枠体。」

そこで、上記本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するか否か)について、以下に検討する。

2.引用刊行物
(1)原出願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2006-284927号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

(a)「【0001】
本発明は、フォトマスクなどの透明基板への異物の付着を防止するペリクル、ペリクルや液晶ディスプレイなどに用いられる支持枠、枠体および枠体の製造方法に関する。」

(b)「【0007】
近年では、ウエハや液晶パネル等の大型化に伴って、ペリクルの大型化、すなわち、支持枠で囲うことができる面積の増大化が要請されている。ところが、支持枠に何らの対策を施さずに支持枠の寸法(すなわち、支持枠で囲うことが可能な面積)を大きくすると、支持枠自体の自重、ペリクル膜の張力、温度変化に起因する応力といった各種要因により支持枠に撓みや歪みが発生する虞があり、一方、支持枠の断面積を大きくして断面性能を向上させると、前記した問題点は解決されるものの、支持枠自体の面積・容積が増大してしまうことから、転写装置の大型化を招来する虞がある。
【0008】
ところで、支持枠となるアルミニウム合金製の枠体は、強度の割りに軽量であるという特性を活かして、前記したペリクル用の支持枠に限らず、大画面の液晶ディスプレイやプラズマディスプレイといった大型精密製品等の支持枠としても利用されている。
【0009】
このような枠体は、アルミニウム合金製の圧延材を切削することにより得られることから、枠体の短辺側の寸法が、圧延材の幅寸法よりも大きい場合には、接合部のない枠体を製造することはできない。したがって、前記した大型精密部品などに用いられる枠体を製造する場合には、二以上の部材を組み合わせて製造する必要があるが、その合理的な構造および製造方法が確立されていないのが現状である。
【0010】
このような観点から、本発明は、ペリクルはじめとする精密部品等に使用される支持枠であって大型化しても撓みや歪みが発生し難い支持枠を提供することを課題とし、さらには、このような支持枠を備えたペリクルを提供することを課題とし、加えて、このような支持枠に利用可能な枠体およびその製造方法を提供することを課題とする。」

(c)「【0014】
なお、前記埋設凹部が枠体の外周側の側面に開口している場合には、補強部材の少なくとも一部の幅寸法を、前記埋設凹部の深さ寸法よりも小さくしてもよい。このようにすると、枠体の外周側の少なくとも一部に「凹部」が形成されることとなるが、このような凹部があると、これを利用して支持枠を把持あるいは固定することが可能となるので、好適である。」

(d)「【0019】
また、本発明に係る支持枠においては、前記補強部材は、前記枠体の全周に亘って配置してもよいし、前記枠体の角部を跨ぐ位置など枠体の一部分にのみ配置してもよい。
【0020】
補強部材を枠体の全周に亘って配置する場合には、前記補強部材を前記枠体の形状に合わせて成形された有端の成形素材で構成し、当該成形素材の一端と他端とを互いに係合させることで、無端状にするとよい。このようにすると、補強部材の繋ぎ目を一つだけにすることが可能となるので、補強効果が高いものとなる。」

(e)「【0037】
なお、前記した支持枠あるいは前記した枠体を用いてペリクルを構成することができる。すなわち、前記支持枠の上面に透光性のペリクル膜を覆設するとともに、前記支持枠の下面に接着層を形成し、この接着層の下面に保護膜を剥離可能に覆設すると、大型化したときでも撓みや歪みが発生し難いペリクルを得ることができる。ここで、「上下」は、ペリクル膜の位置を基準としており、実際の使用状態(すなわち、転写装置等に装着した状態)とは関係がない。すなわち、ペリクル膜側の面を「上面」といい、その反対側の面を「下面」という。」

(f)「【0042】
本実施形態に係るペリクルPは、図1に示すように、平面視して矩形形状を呈する支持枠1と、この支持枠1の上面に覆設された透光性のペリクル膜2と、支持枠1の下面に形成された接着層3(図2参照)と、この接着層3の下面に剥離可能に覆設された保護膜4とを備えており、使用時には、保護膜4を剥離させて接着層3の表面を露出させたうえで、保護すべき透明基板(図示略)に接着させる。なお、ペリクル膜2も、図示せぬ接着層を介して支持枠1の上面に張設される。
【0043】
支持枠1は、図2に示すように、黒色化処理が施されたアルミニウム合金製の枠体10と、この枠体10に埋め込まれた補強部材20とを備えて構成されている。
【0044】
まず、枠体10について詳細に説明する。
枠体10は、その外周側の側面に開口する埋設凹部11を有し、断面形状が横U字形状を呈している。
【0045】
埋設凹部11は、枠体10の全周に亘って形成されていて、補強部材20を嵌入可能で、かつ、補強部材20の三面(本実施形態では、上面、下面および内周側の側面)を完全に覆い隠すことができるような寸法・形状の断面形状を有している。また、埋設凹部11の底面には、その延長方向(紙面垂直方向)に沿って貯留凹部12が形成されている。なお、埋設凹部11および貯留凹部は、枠体10の外周側の表面を切削することにより形成することができる。」

(g)「【0059】
次に、補強部材20について詳細に説明する。
図6の(a)に示すように、補強部材20は、枠体10の埋設凹部11に嵌入されるものであり、枠体10よりも弾性係数の大きい材料からなる。なお、補強部材20は、例えば、鉄(ステンレス鋼を含む)やチタン(チタン合金を含む)等の枠体10よりも弾性係数が大きい材料で形成すればよい。
【0060】
補強部材20の厚さ寸法tは、埋設凹部11の開口幅Wと実質的に等しくなっている。また、補強部材20の幅寸法bは、埋設凹部11の深さ寸法Dよりも小さくなっていて、補強部材20を枠体10の埋設凹部11に嵌入すると、枠体10の外周側の側面に凹部が形成される。」

(f)「【0065】
補強部材20は、図7の(a)に示すように、枠体10の全周に亘って配置されている。なお、補強部材20を枠体10の全周に亘って配置した場合には、結果的に、補強部材20が、枠体10の四つの角部Kおよび二つのコ字状部材100,100の接合部分Jを跨ぐこととなる。」

(i)「【0073】
また、この支持枠1によれば、図6の(a)に示すように、補強部材20の少なくとも一部の幅寸法bを埋設凹部11の深さ寸法Dよりも小さくしたことにより、枠体10の外周側の側面の少なくとも一部に凹部が形成されることとなるが、このような凹部があると、これを利用して支持枠1を把持あるいは固定することが可能となるので、好適である。」

(j)「【0077】
そして、支持枠1を備えて構成された本実施形態に係るペリクルP(図1および図2参照)によれば、これを大型化したときでも撓みや歪みが発生し難くなる。しかも、支持枠1を構成する枠体10に、黒色化処理が施されているので、その表面に埃等の異物が付着した場合に、その発見を簡易迅速なものにすることができる。しかも、この支持枠1によると、その上下面および内周側の側面については、黒色化処理が施されたアルミニウム合金製の枠体10のみが露出することになるので、支持枠1に照射された光線の散乱が防止され、その結果、回路パターンを精度よく焼き付けることができる。」

(k)「
【図1】


【図2】


【図6】


【図7】




上記記載事項(f)の【0044】の「枠体10は、その外周側の側面に開口する埋設凹部11を有し、断面形状が横U字形状を呈している。」との記載、上記記載事項(k)の図2及び図6の横U字形状断面を呈する枠体断面形状の記載から、上記「枠体10」が枠体の上縁面及び下縁面から離間した位置に「開口する埋設凹部11」を備えることは、明らかである。

すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

「平面視して矩形形状を呈する支持枠1と、この支持枠1の上面に覆設された透光性のペリクル膜2と、支持枠1の下面に形成された接着層3とを備えてペリクルを構成することができ、支持枠1は、枠体10と、この枠体10に埋め込まれた補強部材20とを備えて構成されており、枠体10は、その外周側の側面に開口する埋設凹部11を有し、断面形状が横U字形状を呈し、枠体10が枠体の上縁面及び下縁面から離間した位置に開口する埋設凹部11を備えており、埋設凹部11は、枠体10の全周に亘って形成されていて、補強部材20は、枠体10の埋設凹部11に嵌入されるものであり、補強部材20の幅寸法bは、埋設凹部11の深さ寸法Dよりも小さくなっていて、補強部材20を枠体10の埋設凹部11に嵌入すると、枠体10の外周側の側面に凹部が形成され、補強部材20は、枠体10の全周に亘って配置され、枠体10の外周側の側面に形成された凹部は、これを利用して支持枠1を把持することが可能な、大型化しても撓みや歪みが発生し難いペリクルの支持枠1」

3.対比
(1)引用発明1と本願補正発明との対比
(a)引用発明1の「平面視して矩形形状を呈する支持枠1」、「ペリクルの支持枠1」は、本願補正発明の「複数の辺からなる多角形形状を有する枠体」、「ペリクルの枠体」にそれぞれ相当する。
また、引用発明1の「この支持枠1の上面に覆設された透光性のペリクル膜2と、支持枠1の下面に形成された接着層3とを備えてペリクルを構成することができ」る構成は、本願補正発明の「該枠体の上縁面に接着されたペリクル膜と、該枠体の下縁面に塗着された粘着材とを備えることができる」構成に相当する。

(b)引用発明1の「支持枠1」は、「枠体10」の「外周側の側面に開口する埋設凹部11」に「埋設凹部11の深さ寸法Dよりも小さ」い「幅寸法b」の「補強部材20を」「嵌入する」ことで「枠体10の外周側の側面に形成された凹部」を備えること、「埋設凹部11は、枠体10の全周に亘って形成され」かつ「補強部材20は、枠体10の全周に亘って配置され」ること、「枠体10の外周側の側面に形成された凹部は、これを利用して支持枠1を把持することが可能」であることから、
引用発明1の「支持枠1は、枠体10と、この枠体10に埋め込まれた補強部材20とを備えて構成されており、枠体10は、その外周側の側面に開口する埋設凹部11を有し、断面形状が横U字形状を呈し、枠体10が枠体の上縁面及び下縁面から離間した位置に開口する埋設凹部11を備えており、埋設凹部11は、枠体10の全周に亘って形成されていて、補強部材20は、枠体10の埋設凹部11に嵌入されるものであり、補強部材20の幅寸法bは、埋設凹部11の深さ寸法Dよりも小さくなっていて、補強部材20を枠体10の埋設凹部11に嵌入すると、枠体10の外周側の側面に凹部が形成され、補強部材20は、枠体10の全周に亘って配置され、枠体10の外周側の側面に形成された凹部は、これを利用して支持枠1を把持することが可能な」構成は、
本願補正発明の「前記枠体は、すべての辺にそれぞれ把持運搬用の凸部または凹部を有し、
前記把持運搬用の凸部または凹部が、枠体の外側面上であって上縁面及び下縁面から離間した位置にあり、
前記把持運搬用の凸部または凹部のペリクル枠体辺方向に沿った長さがそれぞれの辺の長さの10%以上である」構成に相当する。

(2)一致点
してみると、両者は、
「複数の辺からなる多角形形状を有する枠体であって、該枠体の上縁面に接着されたペリクル膜と、該枠体の下縁面に塗着された粘着材とを備えることができる、ペリクルの前記枠体において、前記枠体は、すべての辺にそれぞれ把持運搬用の凸部または凹部を有し、前記把持運搬用の凸部または凹部が、枠体の外側面上であって上縁面及び下縁面から離間した位置にあり、前記把持運搬用の凸部または凹部のペリクル枠体辺方向に沿った長さがそれぞれの辺の長さの10%以上であるペリクルの枠体。」
で一致し、次の点で相違する。

(3)相違点
本願補正発明では、「前記枠体の最も長い辺の長さが1.4m以上2.0m以下である大型ペリクルの前記枠体」であるのに対して、引用発明1では、「ペリクルの支持枠1」の大きさが明らかでない点。

4.判断
引用発明1は、「大型化しても撓みや歪みが発生し難いペリクルの支持枠1」であるところ、ペリクル枠の寸法については、特開2006-323178号公報(【0019】)に1500×1500mmであるペリクル枠が記載され、また、特開2007-57502号公報(【0027】)に1650mm×1850mm程度のフォトマスクが、特開2007-145398号公報(【0002】)に1400mm×1600mmのマスクブランク、転写マスクが記載される(通常、ペリクル枠の寸法は、マスクの寸法より若干小さい程度である)ような寸法が周知であり、本願補正発明の「1.4m以上2.0m以下」という範囲に格別な技術的意義がないことも考慮すれば、引用発明1の「ペリクルの支持枠1」の長辺の長さを1.4m以上2.0m以下とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(3)効果について
本願補正発明が奏し得る効果は、引用発明1及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

(4)結論
本願補正発明は、引用発明1及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.小括
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明
平成25年12月26日付けの手続補正は上記のとおり却下され、平成25年4月26日付けの手続補正は平成25年9月26日付けで補正の却下の決定がなされているので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年10月18日付けの手続補正により補正された、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「複数の辺からなる多角形形状を有する枠体であって、該枠体の上縁面に接着されたペリクル膜と、該枠体の下縁面に塗着された粘着材とを備えることができる、前記枠体の最も長い辺の長さが1m以上である大型ペリクルの前記枠体において、前記枠体は、すべての辺にそれぞれ把持運搬用の凸部または凹部を有する大型ペリクルの枠体。」

2.引用刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、原出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2006-301525号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。)

(a)「【0001】
本発明は、半導体デバイス、プリント基板あるいは液晶ディスプレイ等を製造する際のゴミよけとして使用されるリソグラフィー用ペリクル、特には液晶ディスプレイ製造に用いられる大型のペリクルに関するものである。」

(b)「【0003】
この場合、異物はフォトマスクの表面上には直接付着せず、ペリクル上に付着するため、リソグラフィー時に焦点をフォトマスクのパターン上に合わせておけば、ペリクル上の異物は転写に無関係となる。
このペリクルは、通常光を良く透過させるニトロセルロース、酢酸セルロースあるいはフッ素系樹脂などからなる透明なペリクル膜を、アルミニウム、ステンレス、ポリエチレンなどからなるペリクルフレームの上端面にペリクル膜の良溶媒を塗布し、風乾して接着する(特許文献1参照)か、アクリル樹脂やエポキシ樹脂等の接着剤で接着し(特許文献2、特許文献3参照)、更に、ペリクルフレームの下端には、フォトマスクに装着するためのポリブデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂等からなる粘着層、及び粘着層の保護を目的とした離型層(セパレータ)が設けられる。
【0004】
また、ペリクルをフォトマスクに貼り付けた状態において、ペリクル内部に囲まれた空間と外部との気圧差をなくすことを目的として、ペリクルフレームの一部に気圧調整用の小孔を開け、小孔を通じて移動する空気からの異物侵入を防ぐためのフィルターが設置されることもある(特許文献4参照)。
ペリクルを製造する際には、組立や搬送のためにペリクルフレームを保持する必要があるが、図6に示すように、一般的にはペリクルフレームの外側面に溝や凹み部63を設け、ここにピン等を挿入して保持することが行われている。一般的には、凹み部は対向した2辺に各2箇所ずつ、計4箇所設けられる。このとき、この凹み部63は、ピン等でペリクルフレームを保持した際に上下方向の撓みが出にくいよう、コーナー部62よりフレーム辺長の20?30%程度離れた位置に設けられることが多い。」

(c)「【0012】
図1において、ペリクルフレーム11の長辺に、コーナー部12の近傍50mm以内の部分に凹み部13を設けている。
そのため、この凹み部13にピン等の剥離冶具を挿入して剥離した場合、図2に示すように、コーナー部から剥離するため、剥離に要する力を小さくすることができ、さらには、ペリクルフレームがコーナー部付近で上方に塑性変形して再接着しにくくなるため、剥離が極めて容易となる。ただし、この凹み部13の位置はコーナー部12から50mm以内であることが必要で、これ以上離れると剥離に必要な剥離力が著しく増加するうえ、コーナー部を完全に剥離させることが難しくなり、所望の効果は得られない。
【0013】
従来、こういった凹み部は、保持を目的としたものとして対辺に2個ずつ、荷重がバランスすることに主眼をおいて位置決めされて、4箇所設けられるのが一般的であったが、本発明では、本来のペリクルフレームを保持する目的の凹み部に加えて、剥離を考慮した位置にこれを追加して配置するか、もしくは剥離を考慮した凹み部のみを配置することにより、より容易に剥離を行うことができるようになった。
さらに、このとき、凹み部は直径1.0mm以上3mm以下、深さ0.5mm以上で、かつ、非貫通の丸穴であることとすることが望ましい。従来の凹み部は、保持を主眼としていたので、保持具が係合すれば足り、直径も深さも必ずしも剥離治具に適合するものではなかった。
そして、このようなペリクルフレームを使用してペリクルを構成すれば、そのペリクルはフォトマスクからの剥離が非常に容易なものとなる。
【0014】
この実施の形態では、凹み部13を長辺のコーナー部12の近傍に配置しているが、短辺に配置されていても良い。また、短辺と長辺の両方に配置されていても良い(図4(b))。さらには、ペリクルフレームを保持するために設けた凹み部と剥離に使用する凹み部を別に設けても良い(図4(a))。
図3は、この凹み部の望ましい形状を示した断面図であって、基本的に断面が円形となっている。円形のため加工が容易であるし、通常用いられる円形のピンとの嵌め合いも良い。また、保持あるいは剥離に用いるピンとの十分な嵌め合いを考慮すると、0.5mm以上の深さが好ましい。
【0015】
直径は、1mm以上3mm以下、特には2?2.5mmの範囲が好ましい。1mm以下では保持あるいは剥離に用いるピンの強度が維持でき難くなり易く、精度の良い保持および剥離に際して要求される強度を満足することができ難くなり易い。また、3mm以上ではペリクルフレームの欠損量が多くなり、使用時の強度に問題が出る恐れがある他、剥離時に凹み部の周囲がめくれたり、欠けやすくなり剥離がしにくくなるという問題点があり得る。また、穴(凹み部)底部の形状は、図示のように、ドリル先端形状そのままとなっていても良いし、球面や平面等に仕上げられていても良い。
【0016】
通常、この凹み部の大きさ・形状は、全箇所同じであれば加工が容易であるが、例えば、位置および用途によってピンの差し込みやすさを考慮して、個別に最適化されていても良い。
図4(a)は、他の実施の形態を示したものであるが、コーナー部22近傍の凹み部23の内側に複数の別の凹み部24を設けている。また、図4(b)では長辺だけでなく短辺にも(追加)凹み部34を設けている。このような形態であれば、辺長が700mmを超えるような特に大型のペリクルフレームに対しても、コーナー部から順番にピンを差し込み、徐々に剥離していくことができるため、フォトマスクからの剥離をより容易とすることができる。」

(d)「【符号の説明】
【0027】
11 ペリクルフレーム
12 コーナー部
13 凹み部
14 マスク粘着層
15 石英ガラス基板
16 ペリクル膜
17 ペリクル膜接着層
21 ペリクルフレーム
22 コーナー部
23 (コーナー部近傍の)凹み部
24 (追加)凹み部
31 ペリクルフレーム
32 コーナー部
33 凹み部
34 凹み部
51 ペリクルフレーム
52 凹み部
53 石英ガラス基板
54 剥離冶具
55 マスク粘着層
61 ペリクルフレーム
62 コーナー部
63 凹み部
64 マスク粘着層
65 石英ガラス基板
66 (ペリクルフレームが剥離・変形してできた)隙間」

(e)「
【図1】


【図2】


【図3】


【図4】




上記記載事項(e)の図4(b)に記載された「ペリクルフレーム31」は、上記記載事項(b)の【0003】に記載された「ペリクルフレーム」と同様に、ペリクルとするため、ペリクル膜を、ペリクルフレーム31の上端面に接着し、更に、ペリクルフレーム31の下端には、フォトマスクに装着するための粘着層、を設けることができることは、自明である。
上記記載事項(b)の【0004】、上記記載事項(c)及び上記記載事項(e)の記載から、図4(b)に記載された「ペリクルフレーム31」において、「凹み部33」は剥離を考慮した凹み部、「凹み部34」は組立や搬送のための保持及び剥離を目的とした凹み部であると解される。
また、上記記載事項(e)の図4(b)に示される「ペリクルフレーム31」の形状が長方形であることは明らかである。

すると、上記引用文献2の記載事項から、引用文献2には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。
「ペリクル膜を、ペリクルフレーム31の上端面に接着し、更に、ペリクルフレーム31の下端には、フォトマスクに装着するための粘着層、を設けることができる、辺長が700mmを超えるような大型のペリクルフレーム31であって、ペリクルフレーム31の形状は、長方形であり、長辺だけでなく短辺にも組立や搬送のための保持及び剥離を目的とした凹み部34を設けている大型のペリクルフレーム31」

3.対比
(1)引用発明2と本願発明との対比
(a)引用発明2の「ペリクルフレーム31」、「辺長が700mmを超えるような大型のペリクルフレーム31」は、本願発明の「枠体」、「大型ペリクルの前記枠体」にそれぞれ相当する。

(b)引用発明2の「ペリクルフレーム31の形状は、長方形であ」る構成は、本願発明の「枠体」が「複数の辺からなる多角形形状を有する」構成に相当する。

(c)引用発明2の「ペリクル膜を、ペリクルフレーム31の上端面に接着し、更に、ペリクルフレーム31の下端には、フォトマスクに装着するための粘着層、を設けることができる」構成は、本願発明の「該枠体の上縁面に接着されたペリクル膜と、該枠体の下縁面に塗着された粘着材とを備えることができる」構成に相当する。

(d)引用発明2の「長辺だけでなく短辺にも組立や搬送のための保持及び剥離を目的とした凹み部34を設けている」構成は、本願発明の「すべての辺にそれぞれ把持運搬用の凸部または凹部を有する」構成に相当する。

(2)一致点
してみると、両者は、
「複数の辺からなる多角形形状を有する枠体であって、該枠体の上縁面に接着されたペリクル膜と、該枠体の下縁面に塗着された粘着材とを備えることができる、大型ペリクルの前記枠体において、前記枠体は、すべての辺にそれぞれ把持運搬用の凸部または凹部を有する大型ペリクルの枠体。」
で一致し、次の点で相違する。

(3)相違点
本願発明では、「枠体の最も長い辺の長さが1m以上である」のに対して、引用発明2では、「大型のペリクルの辺長が700mmを超える」ものである点。

4.判断
(1)相違点について
引用発明2は、「辺長が700mmを超えるような大型のペリクルフレーム31」であるところ、長辺が1m以上の大型ペリクルフレームは、特開2006-323178号公報(850mm×1200mm程度のサイズのペリクルが記載)、特開2005-202011号公報(【0038】に、短辺の長さ790mm、長辺の長さ1120mmのペリクル枠が記載)、特開2008-129453号公報(段落【0078】に、外形1366mm×1146mmのペリクル枠体が記載)等に示されるように周知であるから、引用発明2の「ペリクルフレーム31」の長辺の長さとして1m以上の長さを採用することは、当業者が適宜なし得ることである。

(2)効果について
本願発明が奏し得る効果は、引用発明2及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

(3)結論
本願発明は、引用発明2及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4 むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-22 
結審通知日 2014-12-24 
審決日 2015-01-09 
出願番号 特願2010-24295(P2010-24295)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03F)
P 1 8・ 121- Z (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 創  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 土屋 知久
山口 剛
発明の名称 大型ペリクルの枠体及び該枠体の把持方法  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

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