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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C08L
管理番号 1297817
審判番号 不服2014-4889  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-13 
確定日 2015-03-10 
事件の表示 特願2009-284972「熱可塑性樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成23年6月30日出願公開、特開2011-126961、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成21年12月16日の出願であって,平成25年5月10日付けで拒絶理由が通知され,同年7月16日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年12月10日付けで拒絶査定がなされ,それに対して,平成26年3月13日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正書が提出され,同年5月26日付けで前置報告がなされたものである。



第2 平成26年3月13日付けの手続補正の適否

1.補正の内容
平成26年3月13日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,審判請求と同時にされた補正であり,平成25年7月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲を補正するものであって,前記特許請求の範囲の,
「【請求項1】
(A)構成モノマーの70質量%以上がエチレンであるエチレン重合体と,(B)アクリルゴムとを,質量比で9:1?8:2の範囲で含み,(C)ハロゲン系難燃剤およびアンチモン系難燃剤をさらに含む,熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記成分(A)のエチレン重合体が,エチレン-酢酸ビニル共重合体および/またはエチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を含む,請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(A)のエチレン重合体が,密度0.93g/cm3以下の直鎖状低密度ポリエチレンを含む,請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
架橋後の引張強さが15MPa以上であり,かつ,脆化温度が-40℃以下である,請求項1?3のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物を電離性放射線により架橋して得られる硬化物を含む成形品。」
について,その請求項1を,
「【請求項1】
(A)構成モノマーの80質量%以上がエチレンであるエチレン重合体と,(B)アクリルゴムとを,質量比で9:1?8:2の範囲で含み,(C)ハロゲン系難燃剤およびアンチモン系難燃剤からなる難燃剤を,前記成分(A)と(B)の合計100質量部に対して30質量部?60質量部の量でさらに含む,熱可塑性樹脂組成物。」
とする補正(以下,「補正事項1」という。)を含んでおり,この他に補正事項はない。

2.補正の適否
本件補正の補正事項1は,請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である,成分(A)のエチレン重合体に関し,本件補正前の構成モノマーの「70質量%以上」とのエチレンの割合の数値限定範囲について,これを「80質量%以上」と限定し,かつ成分(C)のハロゲン系難燃剤およびアンチモン系難燃剤からなる難燃剤に関し,その含有割合を「前記成分(A)と(B)の合計100質量部に対して30質量部?60質量部の量」と限定するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,特許法第17条の2第3項及び第4項に違反するところはない。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(1)刊行物の記載事項
事案に鑑み,原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-60414号公報(原査定における引用文献3。以下,「刊行物」ということもある。)についてまず検討する。
刊行物には,以下のとおり記載されている。

ア 「【請求項1】 エチレン系共重合体95?40重量%およびアクリルゴム5?60重量%からなるベース樹脂100重量部に対し,金属水和物150?280重量部およびメラミンシアヌレート化合物0?70重量部を含有し,金属水和物のうち50重量%以上がシランカップリング剤で表面処理されていることを特徴とする絶縁樹脂組成物。」(特許請求の範囲請求項1)

イ 「【発明の属する技術分野】本発明は,埋立,焼却などの廃棄時において,重金属化合物の溶出や,多量の煙,腐食性ガスの発生がない絶縁樹脂組成物並びに電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線に関する。
【従来の技術】電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線の被覆材料には,難燃性,引張特性,耐熱性など種々の特性が要求される。このため,これら絶縁電線の被覆材料として,ポリ塩化ビニル(PVC)コンパウンドやエチレン系共重合体を主成分とするベース樹脂に分子中に臭素原子や塩素原子を含有するハロゲン系難燃剤を配合した,樹脂組成物を使用することがよく知られている。近年,このような被覆材料を用いた絶縁電線を適切な処理をせずに廃棄した場合の種々の問題が提起されている。例えば,埋立により廃棄した場合には,被覆材料に配合されている可塑剤や重金属安定剤の溶出,また焼却した場合には,多量の腐食性ガスの発生,ダイオキシンの発生などという問題が起こる。このため,有害な重金属やハロゲン系ガスなどの発生がないノンハロゲン難燃材料で電線を被覆する技術の検討が盛んに行われている。従来のノンハロゲン難燃材料は,ハロゲンを含有しない難燃剤を樹脂に配合することで難燃性を発現させたものであり,このような被覆材料の難燃剤としては,例えば,水酸化マグネシウム,水酸化アルミニウムなどの金属水和物が,また,樹脂としては,ポリエチレン,エチレン-1-ブテン共重合体,エチレン-プロピレン共重合体,エチレン-酢酸ビニル共重合体,エチレン-アクリル酸エチル共重合体,エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体などが用いられている。
【発明が解決しようとする課題】ところで電子機器内に使用される電子ワイヤハーネスには,安全性の面から高い難燃性が要求されており,非常に厳しい難燃性規格 UL1581(Reference Standard for Electrical Wires,Cables, and Flexible Cords)などに規定される垂直燃焼試験(Vertical Flame Test)のVW-1規格や水平難燃規格,JIS C3005に規定される60度傾斜難燃特性をクリアするものでなければならない。さらに,難燃性以外の特性についても,ULや電気用品取締規格などで,破断伸び100%以上,破断抗張力10MPa以上という高い機械特性が要求されている。
ノンハロゲン難燃材料を用いた絶縁電線においてこのような高度の難燃性と機械特性を実現するために,以下のような技術が検討されてきた。・・・
さらに絶縁電線は,絶縁電線被覆層の端末を剥がし各種金属端末と接続する処理が必要とされ,この被覆層の剥離が容易であること(以下,電線の皮むき性という)が要求される。この可否により例えば家電製品等への量産対応性が大きく左右される。しかし通常のノンハロゲンの樹脂組成物を被覆材とする絶縁電線の場合は,従来のPVC樹脂組成物を被覆材とする絶縁電線と比較して皮むき性が劣り,電線の皮をむいた際被覆層が一部伸びた部分(以下ひげという)が残るなどの問題点がある。このひげ等が加工部に残っていると接触不良などの問題が生じる可能性が大きくなる。またノンハロゲン難燃組成物の場合,金属水和物等の配合量が多いため,押し出し時に目やにが大量に発生する問題がある。」(段落0001?0005)

ウ 「本発明は,これらの問題を解決し,絶縁電線に要求される高度の難燃性と優れた機械特性を有し,任意の色に着色でき,被覆層の皮むき性が容易で,かつ,廃棄時の埋立による重金属化合物やリン化合物の溶出や,焼却による多量の煙,腐食性ガスの発生などの問題のない絶縁樹脂組成物及びこの組成物を被覆材とする絶縁電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】本発明者らは,被覆材のベース樹脂としてエチレン系共重合体を用い,上記課題に鑑み鋭意検討を行ったところ,ベース樹脂の一成分としてさらにアクリルゴムを使用し,特定の表面処理剤で処理された金属水和物と必要に応じてメラミンシアヌレート化合物の特定量を難燃材として含有するエチレン系共重合体樹脂組成物により,VW-1規格に適合する優れた難燃特性を有し,しかも機械特性,電気特性に優れ,導体からの被覆材の皮むき性が良好で,燃焼時にダイオキシンなどの有害物質を発生しない絶縁電線が得られることを見出した。 さらに特定のアクリルゴムを使用することにより,水中や高温多湿による絶縁抵抗の低下がほとんどなく,強度,難燃性に非常に優れた絶縁樹脂組成物,絶縁電線が得られることがわかった。また特定の滑剤を使用することにより,絶縁抵抗を低下させることなく,電線押出時の被覆材表面の目やに状の異物の付着を抑制し,表面性の良好な絶縁電線が得られることがわかった。本発明はこの知見に基づくものである。
・・・
【発明の実施の形態】本発明においては,エチレン系共重合体およびアクリルゴムをベース樹脂とし,シランカップリング剤で表面処理された金属水和物を使用することにより,機械特性,難燃性(垂直難燃性など)および皮むき性が優れた絶縁樹脂組成物とし,メラミンシアヌレート化合物を配合することによりさらに難燃性が向上する。本発明の絶縁樹脂組成物においては,アクリルゴムを配合することにより,皮むきの際にひげ状に被覆層を伸ばすことがなく皮むき性が良好になるとともに,さらに難燃性を向上させることが可能になる。さらにエチレン系共重合体とアクリルゴムを併用することにより難燃性を保つだけでなく,絶縁特性と機械的強度を高いレベルに維持することができる。」(段落0006?0009)

(2)刊行物に記載された発明
刊行物には,摘示アより,「エチレン系共重合体95?40重量%およびアクリルゴム5?60重量%からなるベース樹脂100重量部に対し,金属水和物150?280重量部およびメラミンシアヌレート化合物0?70重量部を含有し,金属水和物のうち50重量%以上がシランカップリング剤で表面処理されている絶縁樹脂組成物」の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

(3)対比
引用発明と補正発明とを比較する。
引用発明における「エチレン系共重合体」は,補正発明における成分(A)に相当し,引用発明における「アクリルゴム」は,補正発明における成分(B)に対応しており,それらの各成分の重合割合についても両者において重複一致している範囲を包含している。
そうすると,両者は,下記の一致点で一致しており,下記の相違点1及び2で相違しているといえる。

一致点
「(A)エチレン重合体と,(B)アクリルゴムとを,質量比で9:1?8:2の範囲で含む,熱可塑性樹脂組成物」

相違点1
エチレン重合体について,補正発明では,「構成モノマーの80質量%以上がエチレンである」と特定しているのに対して,引用発明では,そのような特定がされていない点。

相違点2
難燃剤について,補正発明では,「(C)ハロゲン系難燃剤およびアンチモン系難燃剤からなる難燃剤を,前記成分(A)と(B)の合計100質量部に対して30質量部?60質量部の量でさらに含む」と特定しているのに対して,引用発明では,「金属水和物150?280重量部およびメラミンシアヌレート化合物0?70重量部を含有し,金属水和物のうち50重量%以上がシランカップリング剤で表面処理されている」と特定している点。

(4)判断
事案に鑑み,まず相違点2について以下に検討する。
摘示イ及びウの記載からみて,引用発明の課題は,絶縁電線に要求される高度の難燃性と優れた機械特性を有し,任意の色に着色でき,被覆層の皮むき性が容易で,かつ,廃棄時の埋立による重金属化合物やリン化合物の溶出や,焼却による多量の煙,腐食性ガスの発生などの問題のない絶縁樹脂組成物及びこの組成物を被覆材とする絶縁電線を提供することであって,従来,ハロゲン系難燃剤を配合した樹脂組成物を使用した被覆材料を用いた絶縁電線を焼却した場合には,多量の腐食性ガスの発生,ダイオキシンの発生などという問題が起こること,そのため,ノンハロゲン難燃組成物とした場合には,金属水和物等の配合量が多いため,押し出し時に目やにが大量に発生するなどの問題があったことをその前提とするものであると認められる。そして,引用発明においては,エチレン系共重合体およびアクリルゴムをベース樹脂とし,シランカップリング剤で表面処理された金属水和物を使用することにより,機械特性,難燃性(垂直難燃性など)および皮むき性が優れた絶縁樹脂組成物とするものであると認められる。
そうすると,引用発明において,ノンハロゲン難燃剤として特に採用されている「シランカップリング剤で表面処理された金属水和物」をあえて他の難燃剤に置換しようとする動機付けを導きだすことは困難である。
そもそも,上記のとおり,引用発明はノンハロゲン難燃剤の使用をその前提とするものといえるから,仮に他の難燃剤に置換しようとしたとしても,前提としないハロゲン系難燃剤を使用することには明らかな阻害事由が存在する。そうすると,ハロゲン系難燃剤およびアンチモン系難燃剤からなる難燃剤自体が周知のものであった(原査定の引用文献5?7)としても,かかる難燃剤を引用発明に適用することは,たとえ当業者であっても想到できるものではない。
してみると,相違点1について検討するまでもなく,補正発明は,引用発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
そして,原査定における引用文献1,2及び4もノンハロゲン難燃剤の使用をその前提とするものといえるから,これらの引用文献においてハロゲン系難燃剤を使用することには補正発明におけるのと同様に阻害事由が存在するといえ,ハロゲン系難燃剤をこれらの引用文献に適用することは,たとえ当業者であっても想到できるものではない。
したがって,補正発明は,原査定の引用文献1?7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから,特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
また,本件補正後の請求項2?5に係る発明は,補正発明をさらに限定したものであるので,補正発明と同様に特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
よって,本件補正の補正事項1は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

3.むすび
以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。



第3 本願発明

本件補正は,以上のとおり,特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから,本願の請求項1?5に係る発明は,願書に最初に添付された明細書及び本件補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして,本願については,原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2015-02-24 
出願番号 特願2009-284972(P2009-284972)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C08L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 久保 道弘  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 小野寺 務
田口 昌浩
発明の名称 熱可塑性樹脂組成物  
代理人 三好 秀和  

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