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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01C
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01C
管理番号 1297910
審判番号 不服2012-21352  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-29 
確定日 2015-02-23 
事件の表示 特願2009-524136「ナビゲーション装置において使用するための改善された地図データを生成する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月21日国際公開、WO2008/019880、平成22年 1月28日国内公表、特表2010-502939〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年(平成19年)8月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年8月15日、英国、2007年2月15日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年6月22日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、平成24年10月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。
一方、当審において、平成25年4月10日付けで拒絶理由を通知したところ、平成25年10月15日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに、平成26年1月27日付けで最後の拒絶理由を通知したところ、平成26年7月31日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年7月31日付け手続補正書による手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年7月31日付け手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正する内容を含んでおり、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
(1)本件補正前
「【請求項1】
ナビゲーションデバイス内の、複数の道路のベクトル及び該ベクトルに関連づけられたデータで構成される第1の地図の形式の地図データを変更する方法であって、
前記第1の地図を用いて前記ナビゲーションデバイスのルート計画モジュールで目的地へのルートを計算するステップと、
前記計算されたルートに沿って移動中に、サーバから少なくとも1つの地図変更をダウンロードし、当該少なくとも1つの地図変更を前記ナビゲーションデバイスのメモリに格納するステップと、ここで前記地図変更のそれぞれは、道路のベクトル又はそれに関連付けられるデータの変更であり、地図変更それぞれは他の地図変更とは独立して適用可能にするための一意の識別子と共に格納され、かつ、前記少なくとも1つの地図変更は1以上の他のナビゲーションデバイスがユーザ入力に応じて作成し、アップロードした地図変更レポートに基づいて作成されたものである;
前記ナビゲーションデバイスにおける前記少なくとも1つの地図変更を適用して、前記第1の地図を補足して第2の地図を、前記第1の地図及び前記少なくとも1つの地図変更から、前記第1の地図を永続的に変更しないで作成するステップと、
前記第2の地図をナビゲーション装置にロードし、前記第2の地図を前記ルート計画モジュールにて利用できるようにするステップと、
前記少なくとも1つの地図変更が前記ルートに沿っているか否かを判定するステップとを有し、
前記少なくとも1つの地図変更が前記ルートに沿っていることを表わす判定がなされた場合、前記ルート計画モジュールは自動的に、又はユーザ入力に応じて、前記目的地までのルートを前記第2の地図を用いて再計算することを特徴とする方法。」

(2)本件補正後
「【請求項1】
ナビゲーションデバイス内の、複数の道路のベクトル及び該ベクトルに関連づけられたデータで構成される第1の地図の形式の地図データを変更する方法であって、
前記第1の地図を用いて前記ナビゲーションデバイスのルート計画モジュールで目的地へのルートを計算するステップと、
前記計算されたルートに沿って移動中に、前記ナビゲーションデバイスのユーザインターフェース上のユーザ入力を受信して少なくとも1つの第1地図変更を生成し、当該少なくとも1つの第1地図変更を前記ナビゲーションデバイスのメモリに記憶するステップと、
前記計算されたルートに沿って移動中に、サーバから少なくとも1つの第2地図変更をダウンロードし、当該少なくとも1つの第2地図変更を前記ナビゲーションデバイスの前記メモリに格納するステップと、ここで前記少なくとも1つの第2地図変更は1以上の他のナビゲーションデバイスがユーザ入力に応じて前記第1地図変更として作成し、アップロードした地図変更レポートに基づいて作成されたものである;
ここで、前記地図変更のそれぞれは、道路のベクトル又はそれに関連付けられるデータの変更であって、(i)少なくとも道路のベクトルにおけるブロック又はブロック解除、(ii)少なくとも1つの道路のベクトルの交通の方向の修正、(iii)少なくとも1つの道路のベクトルの右左折制限の追加又は除去、(iv)少なくとも道路ベクトルの追加、の1つ以上を含み、且つ、他の地図変更とは独立して適用可能にするための一意の識別子と共に格納される; 前記メモリに記憶された第1地図変更と前記ナビゲーションデバイスにおける少なくとも1つの第2地図変更を適用して、前記第1の地図を補足して第2の地図を、前記第1の地図と前記第1地図変更及び前記少なくとも1つの第2地図変更から、前記第1の地図を永続的に変更しないで作成するステップと、
前記第2の地図をナビゲーション装置にロードし、前記第2の地図を前記ルート計画モジュールにて利用できるようにするステップと、
前記第1地図変更及び第2地図変更の少なくとも1つが前記ルートに沿っているか否かを判定するステップとを有し、
前記第1地図変更及び第2地図変更の少なくとも1つが前記ルートに沿っていることを表わす判定がなされた場合、前記ルート計画モジュールは自動的に、又はユーザ入力に応じて、前記目的地までのルートを前記第2の地図を用いて再計算することを特徴とする方法。」
(下線は、補正箇所を明示するために審決にて付した。)

2 本件補正の目的要件
本件補正は、請求項1の記載について、「前記計算されたルートに沿って移動中に、前記ナビゲーションデバイスのユーザインターフェース上のユーザ入力を受信して少なくとも1つの第1地図変更を生成し、当該少なくとも1つの第1地図変更を前記ナビゲーションデバイスのメモリに記憶するステップ」を追加するとともに「第2の地図を、前記第1の地図と前記第1地図変更及び前記少なくとも1つの第2地図変更から、前記第1の地図を永続的に変更しないで作成するステップ」とする補正事項を含むものである。
請求人は、本件補正について「上記構成には、ナビゲーションデバイスにてユーザが地図変更を入力する要件が示されています。今回の補正では、発明をより分かりやすくするため、ユーザが地図変更を入力する要件を独立させました。ただし、ユーザが入力する地図変更と、サーバからダウンロードする地図変更を区別するため、第1地図変更、第2地図変更とそれを区別した次第です。上記要件は、既に審査された要件を分離させたものであって、新たなサーチも必要はないので、この補正は適法なものであると思料します。」(平成26年7月31日付け意見書の第5?9頁参照。)と主張する。
しかしながら、補正前の請求項1には、「前記少なくとも1つの地図変更は1以上の他のナビゲーションデバイスがユーザ入力に応じて作成し、アップロードした地図変更レポートに基づいて作成されたものである」と記載されており、ユーザが入力するのは「他のナビゲーションデバイス」であり、移動中の(自車の)ナビゲーションデバイスに対するユーザ入力については何ら特定されていないから、上記補正事項は、補正前の請求項1に記載した事項を分離したものではなく、補正前の請求項1に記載されていない新たなステップを追加するものに当たる。
よって、本件補正の上記補正事項は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定したものとは認められないから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。
さらに、本件補正の上記補正事項は、誤記の訂正にも、明りょうでない記載の釈明にも当たらないことは、明らかである。
したがって、上記補正事項を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するから、特許法第159条第1項の規定で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

本件補正の目的については、上記のように判断するものであるが、念のために、本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合に、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 本願補正発明の独立特許要件
3-1 特許法第36条第6項に規定される要件について
本願補正発明は、「前記計算されたルートに沿って移動中に、前記ナビゲーションデバイスのユーザインターフェース上のユーザ入力を受信して少なくとも1つの第1地図変更を生成し、当該少なくとも1つの第1地図変更を前記ナビゲーションデバイスのメモリに記憶するステップ」、「前記メモリに記憶された第1地図変更と前記ナビゲーションデバイスにおける少なくとも1つの第2地図変更を適用して、前記第1の地図を補足して第2の地図を、前記第1の地図と前記第1地図変更及び前記少なくとも1つの第2地図変更から、前記第1の地図を永続的に変更しないで作成するステップ」とを含み、さらに「ここで前記少なくとも1つの第2地図変更は1以上の他のナビゲーションデバイスがユーザ入力に応じて前記第1地図変更として作成し、アップロードした地図変更レポートに基づいて作成されたものである」とされている。
以上の事項からして、本件補正発明の「第1地図変更」は、移動中に(自車の)ナビゲーションデバイスのユーザインターフェース上のユーザ入力により生成されるものであるが、この「第1地図変更」は、他のナビゲーションデバイスがユーザー入力に応じて作成したものでもあり、「第1地図変更」をアップロードした地図変更レポートに基づいて「第2地図変更」を作成したものとなる。
そうすると、「第2地図変更」は、移動中に(自車の)ナビゲーションデバイスにユーザ入力により生成した「第1地図変更」に基づいて作成したものとも解され、「第1地図変更」と「第2地図変更」とは、実質的には同様内容の地図変更となるから、「第1地図変更」と「第2地図変更」とから「第1の地図」を作成するステップを設けることの技術的意味が不明となる。
また、発明の詳細な説明には、「第1に、メニュー項目「Exchange Changes」により、ユーザはユーザ自身の変更のアップロードを開始でき、且つ他のユーザによる変更を装置にダウンロードできる。」(段落【0023】参照)と記載されており、ユーザ自身の変更と、他のユーザによる変更が可能なものであるが、本願補正発明は、発明の詳細な説明に記載された内容と十分に整合するものではない。
したがって、特許請求の範囲の記載が明確ではなく、また、本願補正発明、すなわち、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、本願補正発明は、特許法第36条第6項第1号及び第2号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
特許法第36条第6項に規定される要件については、上記のとおりであるが、さらに、本願補正発明の「第1地図変更」を移動中の(自車の)ナビゲーションデバイスか、他のナビゲーションデバイスかを問わずユーザ入力により生成された変更と解釈し、本願補正発明の「第2地図変更は1以上の他のナビゲーションデバイスがユーザ入力に応じて前記第1地図変更として作成し」を「第2地図変更は1以上の他のナビゲーションデバイスがユーザ入力に応じて第1地図変更として作成し」の誤記と扱って、移動中に(自車の)ナビゲーションデバイスにユーザ入力により生成した「第1地図変更」と、他のナビゲーションデバイスが作成した「第1地図変更」とは、その内容が異なるものとしてみて、本願補正発明が特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについても検討を行う。

3-2 特許法第29条第2項に規定される要件について
(1)刊行物1に記載された発明
当審において通知した拒絶の理由に引用された特開2000-180193号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1-a)「【0002】
【従来の技術】特開平8-095488号公報は、地形変化や道路新設、または通行止めといった更新地図情報を外部から通信によって取得し、自動的に内蔵されている地図データを更新することで最新の地図を表示することができる装置を開示している。
【0003】また、特開平8-178682号公報は、バケット法を用いた経路計算方法を開示している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の技術は外部から通信によって取得された通行止めなどの規制情報を地図データとして記録および更新するだけであり、経路計算が行なわれた後に規制情報を受信しても、その情報を計算された経路に反映させることができないという問題があった。
【0005】そこでこの発明は、得られた情報を計算された経路に反映させることができるナビゲーション装置を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するためこの発明のある局面に従うと、ナビゲーション装置は、目的地までの経路を計算する計算手段と、外部から規制情報を取得する取得手段と、取得された規制情報が計算された経路に反映されるようにデータの処理を行なう処理手段とを備える。
【0007】この発明に従うと、取得された規制情報が計算された経路に反映されるナビゲーション装置を提供することが可能となる。
【0008】好ましくは、ナビゲーション装置は取得された規制情報が計算された経路に関する情報であるときに警告を行なう警告手段をさらに備える。
【0009】このように警告を行なうこととすると、ドライバに規制があることを喚起することができる。
【0010】さらに好ましくはナビゲーション装置は、取得手段により規制情報が取得されたときに、目的地までの経路の再計算が必要であるか否かを判定する判定手段と、判定手段の判定結果に基づいて、目的地までの経路の再計算を行なう再計算手段とをさらに備える。
【0011】このように再計算を行なうようにすると、一旦経路が計算された後においても、取得された規制情報に基づき目的地までのより正確な経路を得ることができるようになる。」

(1-b)「【0014】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の実施の形態の1つにおける交通情報提供システムの外観を示す斜視図である。図を参照して、交通情報提供システムは、路上に設置された路上ビーコン100と、路上ビーコン100に通信回線(公衆回線または専用回線)を介して接続された情報センター200とから成り立っている。情報センター200には、主要交差点同士をつなぐリンク(以下「交通情報リンク」という)を構成単位とする経路ネットワークに対応するリンク交通情報が記憶されている。リンク交通情報は、通行止め、一方通行などの規制情報を含んでいる。
【0015】リンク交通情報は、通信回線を介して情報センター200から路上ビーコン100へ一定時間ごとに与えられる。そしてリンク交通情報は、FM多重放送により路上ビーコン100から車両300の受信機10へ送信される。
【0016】図2は、リンク交通情報に含まれる規制情報の具体例を示す図である。図を参照して、規制情報は、メッシュ番号と、交通情報リンク番号と、規制情報の種類と、有効期間開始日時と、有効期間終了日時と、開始時刻と、終了時刻とから構成されている。
【0017】経路ネットワークは、メッシュにより複数の領域に分割され、それぞれの領域にはメッシュ番号が付与されている。そして交通情報リンクのそれぞれには交通情報リンク番号が付与されている。図2に示される規制情報の「メッシュ番号」および「交通情報リンク番号」の欄には、規制の対象となっている交通情報リンクが属する領域のメッシュ番号と、規制の対象となっている交通情報リンクの交通情報リンク番号とが記録される。
【0018】また、図2に示される「規制情報の種類」の欄には、規制の種類が何であるか(たとえば幅員減少であるか、通行止めであるか、右折禁止であるか)が記録される。」

(1-c)「【0022】車両用ナビゲーション装置1は、記憶装置2からのデータの読出を行なうメモリ制御部11と、表示装置3の制御を行なう表示制御部12と、入力部4からの入力処理を行なう入力処理部13と、車速センサ5、方位センサ6、GPS受信機7、および距離センサ8からの信号を受信することで車両の現在位置を検出する車両位置検出部14と、スピーカ18に対する音声の出力制御を行なう音声制御部15と、車両の現在位置と目的地との情報からルートの計算を行なう動的ルート計算処理部16と、FM多重受信機10やビーコン受信機9を介して受信された交通情報(規制情報を含む)を記憶するコントローラ17とから構成される。
【0023】コントローラ17は、コントローラ17の制御を行なうCPU171と、SRAM172と、DRAM173と、受信された交通情報を記憶する、書込/読出が可能な記憶装置174とから構成される。
【0024】記憶装置2には、前述のとおり表示用道路地図データやルート計算用道路地図データなどが記憶されている。表示用道路地図データは、表示装置3に道路地図を表示させるためのデータである。
【0025】ルート計算用地図データは、ルートの計算のために用いられる経路ネットワークのデータである。ルート計算用地図データの経路ネットワークのデータもメッシュにより複数の領域に分割されている。また、ルート計算用地図データの経路ネットワークのデータは、道路の交差点などに相当するノードとノードとをつなぐリンクを構成単位とする。このリンクは、上述の情報センター200における「交通情報リンク」とは異なるため、「ナビリンク」と呼ぶことで区別する。
【0026】記憶装置2には、ナビリンクのそれぞれに対応させて、リンクの長さ、リンクの旅行時間(リンクコスト)、道路種別、および規制情報などが記憶されている。
【0027】ドライバにより入力部4を介して目的地などの各種計算条件が入力されると、この入力された目的地データなどはDRAM173に記憶される。記憶装置2からルート計算用地図データが読出される。目的地に最も近いナビリンクと車両位置検出部14で検出された現在位置に最も近いナビリンクとの間のルートが、各ナビリンクの規制情報を考慮しながら、たとえばバケット法などを用いて算出される。算出されたルートは、表示装置3に表示されている道路地図上に重畳して表示される。
【0028】また、道路工事による通行止めが新たに生じたり、新たな通行規制が追加されたりする場合がある。それらの規制情報を経路計算に生かすためには、記憶装置2に記憶されている各ナビリンクの規制情報だけでは不十分である。したがって、上述のような規制情報が路上ビーコン100から提供されている場合には、その情報が書込可能な記憶装置174に記憶されることで、規制情報データが更新される。また、新たな規制が計算されたルート上にある場合はその旨が警告され、必要であれば再度ルート計算が行なわれる。なお、記憶装置2が書込可能であれば、記憶装置2にそれらの情報を記憶させてもよい。」

(1-d)「【0033】図5(B)は、記憶装置174に記憶されている規制情報の内容の具体例を示す図である。図を参照して、規制情報の内容は、規制情報の内容(種類)と、有効期間開始日時と、有効期間終了日時と、開始時刻と、終了時刻とから構成される。このデータは、路上ビーコン100から受信された規制情報(図2)に含まれるデータと同じである。」

(1-e)「【0037】(ステップS1)車両のエンジンが始動されて車両用ナビゲーション装置1の電源が入ると、車両用ナビゲーション装置1は記憶装置174に記憶されている規制情報データをチェックし、期限の過ぎた規制情報があればデータから削除する。ここで、記憶装置2にはルート計算用道路地図データとして図4のデータが記憶されており、記憶装置174には規制情報データとして図5に示されるデータが記憶されているものと想定する。
【0038】図5の規制情報のデータは、以前に行なわれた路上ビーコン100からの受信により得られたデータである。
【0039】(ステップS2)ドライバは、各種ルート計算条件を入力した後、ルート計算指示信号を入力する。すると、車両用ナビゲーション装置1は記憶装置2からルート計算用地図データを、記憶装置174から規制情報データを読出して、ルート計算を行なう。
【0040】(ステップS3)車両の走行中、車両用ナビゲーション装置1では、交通情報が受信されたか否かが常に判別されている。
【0041】(ステップS4)交通情報が受信されていない場合は、ルートが計算されていることを前提に、ルート案内を行なう所定の地点、たとえばルート上の交差点などの手前に車両が到達したか否かが判定される。
【0042】(ステップS5)上記所定の地点に車両が到達したと判定された場合、ドライバに対して交差点の形状や案内する方向を表示装置3の表示画面またはスピーカ18による音声で指示する。
【0043】(ステップS6)車両の走行中、ステップS3で交通情報が受信されたと判定された場合、その交通情報に規制情報が含まれているか否かが判定される。
【0044】(ステップS7)規制情報が含まれている場合には、記憶装置174に記憶されている規制情報データを参照し、受信された規制情報が記憶装置174にすでに記憶されているかが判定される。そして、受信された規制情報が記憶装置174に記憶されていないのであれば、その規制情報の記憶装置174に対する追加および更新を行なう。」

(1-f)「【0049】(ステップS8)次に受信された規制情報が、ステップS2で算出されたルートに関するものか否かが判定される。
【0050】(ステップS9)規制情報が算出されたルートに関するものである場合には、その旨がドライバに告知される。たとえば、スピーカ18を用いて、「ルート上の○○?○○の区間で、通行規制がございますので、ご注意下さい。」のような警告が行なわれる。
【0051】(ステップS10)ステップS9における規制情報が「通行止め」のような情報の場合には、ステップS2で計算されたルートの再計算が必要となる。ステップS10においては、ルートの再計算が必要であるか否かが判定される。
【0052】(ステップS11)ルートの再計算が必要である場合には、その旨がドライバに通知される。たとえば、「ルート上の○○?○○の区間が通行止めとなっていますので、再度ルートを求めます。」などの音声がスピーカ18から出力される。
【0053】(ステップS12)新たに受信された規制情報を考慮して、ルートの再計算が行なわれる。
【0054】以上のように本実施の形態におけるナビゲーション装置によると、ルート(経路)が計算された後に取得された規制情報がルートに反映されるため、好ましいルートを得ることができる。
【0055】また、ルート上に制約がある場合に警告やルートの再計算が自動的に行なわれるため、使い勝手が良い。」

(1-g)段落【0024】?【0026】より、「ルート計算用地図データ」は、記憶装置2に記憶されたルート計算のために用いられる経路ネットワークのデータであるから、このデータにルート計算に用いる規制情報が含まれることは明らかである。また、段落【0026】より、規制情報はナビリンクに対応させて記憶装置2に記憶されており、段落【0028】より、規制情報は、更新されるものであり、記憶装置174に限らず記憶装置2に記憶させてもよいものであるから、刊行物1には、「ナビゲーション装置内の、複数のナビリンク及び該ナビリンクに対応させたデータで構成されるルート計算用地図データを更新する方法」が開示されているといえる。

(1-f)段落【0022】、【0039】より「ルート計算用地図データを用いてナビゲーション装置の動的ルート計算処理部16で目的地へのルート計算を行うステップ」、段落【0015】、【0043】、【0044】より「車両の走行中に、情報センター200から規制情報を受信し、当該規制情報を前記ナビゲーション装置の記憶装置に追加及び更新されるステップ」、段落【0049】より「受信された規制情報が前記ルートに関するものか否かを判定するステップ」を有すること、段落【0018】より、「規制情報は、ナビリンクに対応づけられた規制情報の更新であって、通行止めであるか、右折禁止であるか等の規制情報の種類を含んで追加及び更新」されること、段落【0050】?【0053】より「規制情報が前記ルートに関するものである場合、前記動的ルート計算処理部16は自動的に、前記目的地までのルートを受信された規制情報を考慮して再計算する方法」が、それぞれ把握できる。

上記の事項を総合すると、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「刊行物1発明」という。)。
「 ナビゲーション装置内の、複数のナビリンク及び該ナビリンクに対応させたデータで構成されるルート計算用地図データを更新する方法であって、
前記ルート計算用地図データを用いて前記ナビゲーション装置の動的ルート計算処理部16で目的地へのルート計算を行うステップと、
車両の走行中に、情報センター200から規制情報を受信し、当該規制情報を前記ナビゲーション装置の記憶装置に追加及び更新されるステップと、 ここで、前記規制情報は、ナビリンクに対応づけられた規制情報の更新であって、通行止めであるか、右折禁止であるか等の規制情報の種類を含んで追加及び更新され、
受信された規制情報がルートに関するものか否かを判定するステップとを有し、
規制情報が前記ルートに関するものである場合、前記動的ルート計算処理部16は自動的に、前記目的地までのルートを受信された規制情報を考慮して再計算する方法。」

(2)刊行物2に記載された事項
新たに引用する特開平9-145383号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(2-a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は地図編集表示装置に関し、例えば車両用ナビゲーションの地図編集表示装置として有用なものである。」

(2-b)「【0026】図1は、本発明第1の実施の形態の基本構成を示すブロック図である。図1において地図編集表示装置は、受信装置1と、入力装置2と、演算処理装置3と、記憶装置4と、出力装置5とから構成される。
【0027】受信装置1は地図データやその他の情報を地図編集表示装置外部から受信するものであり、FM受信器あるいはモデムなどによって実現される。
【0028】入力装置2は、表示する地図の範囲や更新する内容などを利用者が地図編集表示装置本体に対し入力するものであり、メニューボタンやキーボードなどによって実現される。
【0029】演算処理装置3は、予め記述されたプログラムに従って地図編集表示装置本体を制御するものである。
【0030】記憶装置4は、地図データを記憶するための装置であり、データの書き換え可能な記録デバイスと、その駆動装置によって実現される。
【0031】出力装置5は、記憶装置4に記憶されている地図データ、および演算処理装置3における処理結果を利用者に対して提示するものであり、情報を視覚的に出力するディスプレイと音声を出力するスピーカーによって実現される。
【0032】図2は第1の実施の形態における隣接領域の補正による地図更新の手順を示すフローチャートでありこれに従って動作を説明する。
【0033】まずステップ21において、利用者の指示あるいはセンターからの通信によって地図データの更新が開始され、地図更新情報が取得される。
【0034】次にステップ22に進み、地図更新処理が行なわれる。ここでの地図更新にはステップ21で取得された更新情報が用いられ、領域単位で記憶された地図データに対する対応部分の置き換え、あるいはデータの追加によって処理が実行される。」

(2-c)「【0089】(実施の形態7)以下、本発明の第7の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0090】地図データの更新形態には、地図の製造元あるいは販売元によって定期的に行なわれるものと、地図利用者によって個人的に行なわれるものの二種類が考えられる。実施の形態7では、前者の更新形態を「バージョンアップ」、後者を「カスタマイズ」という言葉でそれぞれ定義する。
【0091】地図のバージョンアップでは、道路の追加・削除、形状の補正、交通規制情報の修正などが行なわれる。一方、利用者によって行なわれる地図のカスタマイズでも、目印となるランドマークの追加・削除の他、道路の追加・削除、道路形状の補正などが行なわれる。
【0092】しかし、過去に利用者が地図のカスタマイズを行なっていたとしても、バージョンアップによって地図が新しいものに置き換えられた場合には、これまで利用者が変更してきた内容は削除されてしまう可能性がある。このため、利用者は地図のバージョンアップを行なう度に、新たにカスタマイズをやり直す必要がある。またこの場合においても、カスタマイズによって追加した道路が、今回のバージョンアップによって地図データ内に正式に追加されたような場合には、カスタマイズされたデータとバージョンアップされたデータのどちらを優先して地図の更新を行なうかの判断が必要になる。
【0093】第7の実施の形態では、この2種類の地図更新形態の整合をとることによって、地図の更新を効率的に行なうことが出来る地図編集表示装置を提供することを主な目的としている。
【0094】第1の実施の形態で定義した道路網構造を持つ地図をカスタマイズする内容としては、道路の追加・削除、道路形状の補正、ランドマークデータの追加・削除などが考えられる。
【0095】例えば、図12(a)に示すような道路網に対して、図12(b)に示すようなリンクLを新たに追加しようとした場合の処理手順を説明する。まず、更新しようとする地図を画面上に表示する。次に操作スイッチを用いて、追加するリンクの両端点となるノードN1、N2の座標を画面上で指示する。また、新たに追加したリンクLと既存のリンクの交わる交差点ノードN1、N2における交通規制情報を入力する。すなわち、この交差点を構成する任意のリンク間で、侵入禁止、あるいは右左折禁止などの通行規制が存在する場合には、その旨の属性情報を追加する。そして、更新データの入力確定を促すスイッチを操作することにより、画面上で指定した座標値をもつノードN1、N2を両端点とするリンクLが道路網内に追加される。またこの場合、追加したリンクの実距離や、通過に要する時間などを登録しておけば、任意区間の最適経路を自動的に求める経路探索処理に用いることも可能である。」

(2-d)「【0099】なおこれらの地図カスタマイズによるデータ更新内容は、例えば図14に示すような構造をもつ履歴データとして記録しておくこととする。そして、バージョンアップに伴って地図データを新しいものに置き換えたような場合、この履歴データに基づいて、カスタマイズ処理を自動的に行なう。以下、このような場合に行なう、履歴データを用いた自動カスタマイズ処理の流れを図15のフローチャートに従って説明する。
【0100】まずステップ1501では、利用者のカスタマイズの履歴を記録した履歴データから順にカスタマイズデータを読み出す。
【0101】次にステップ1502では、ステップ1501で読み出した履歴データの示す更新対象が、新しい地図データ内に存在するかどうかの判定を行なう。即ち、利用者がバージョンアップ前の地図にリンクを追加していたような場合、この追加したリンクに対応する道路データが、今回のバージョンアップによって正式に地図データ内に追加されているかどうかの判定を行なう。なおこの場合の判定は、カスタマイズによって追加したリンクの両端点を表すノード座標と、バージョンアップされた新しい地図内に存在するリンクの両端点を表すノード座標とを比較することによって行なう。そして、カスタマイズした対象が新しい地図データ内に存在する場合はステップ1503へと進み、存在しない場合にはステップ1504へと進む。
【0102】ステップ1503では、カスタマイズの内容とバージョンアップされた新しい地図データの内容とのどちらを優先して更新するかの判定を行なう。この場合の判定は、更新するデータの対象や更新の内容などに基づいて、判定の基準を利用者があらかじめ設定しておくことにより自動的に行なう。そして、カスタマイズデータを優先して地図の更新を行なうと判定した場合にはステップ1504へ進み、バージョンアップされた新しい地図の内容を優先する場合にはステップ1505へと進む。
【0103】ステップ1504では、履歴データに従って実際に地図をカスタマイズする。次にステップ1505では、読み出すべき履歴データがまだ残っているかどうかの判断を行なう。読み出すべき履歴データが存在しない場合は地図更新処理を終了し、逆に履歴データがまだ存在する場合にはステップ1501へと戻って、新たに履歴データを読みだし、ステップ1502からステップ1505への処理を読み出すべき履歴データがなくなるまで繰り返す。
【0104】以上のように本発明の第7の実施の形態によれば、地図提供元による定期的なバージョンアップと、利用者が個人的に行なうカスタマイズとの整合をとることが可能になり、地図データの更新を容易かつ効率的に行なうことが出来る。」

上記の事項から、刊行物2には、「利用者の地図カスタマイズによるデータ更新内容を履歴データとして記録しておき、地図提供元によるバージョンアップに伴って地図データを新しいものに置き換える場合に、地図カスタマイズした内容が新しい地図データに存在しない場合に利用者の地図カスタマイズを実行し、バージョンアップとカスタマイズとの整合をとり、地図データの更新を容易かつ効率的に行う車両用ナビゲーションの地図編集表示装置」が開示されている(以下「刊行物2記載の事項」という。)。

(3)対比
本願補正発明と刊行物1発明とを対比する。

ア 本願補正発明において「第1の地図」は、「第1の地図を用いてナビゲーションデバイスのルート計画モジュールで目的地へのルートを計算する」ものであるから、刊行物1発明の「ルート計算用地図データ」は、本願補正発明の「第1の地図の形式の地図データ」又は「第1の地図」に相当する。

イ 本願補正発明の「ベクトル」に関して、本願明細書には「道路は線、すなわちベクトル(例えば、道路の始点、終点、方向であり、道路全体は、各々が始点/終点方向パラメータにより一意に規定される数百の区間から構成される)として記述される。」(段落【0002】参照)と記載されているから、刊行物1発明の「ナビリンク」は、本願補正発明の「道路のベクトル」又は「ベクトル」に相当する。

ウ 刊行物1発明における「ナビゲーション装置」、「更新」、「動的ルート計算処理部16」、「記憶装置」、及び「追加及び更新」は、それぞれ、本願補正発明における「ナビゲーションデバイス」、「変更」、「ルート計画モジュール」、「メモリ」、及び「格納」に相当する。
また、刊行物1発明における「規制情報」は、外部から取得されて地図データを更新するものであるから(段落【0004】等参照)、本願補正発明における「第2地図変更」又は「地図変更」に相当する。

エ 刊行物1発明における「ナビゲーション装置内の、複数のナビリンク及び該ナビリンクに対応させたデータで構成されるルート計算用地図データを更新する方法であって」は、本願補正発明における「ナビゲーションデバイス内の、複数の道路のベクトル及び該ベクトルに関連づけられたデータで構成される第1の地図の形式の地図データを変更する方法であって」に相当する。
刊行物1発明における「ルート計算用地図データを用いてナビゲーション装置の動的ルート計算処理部16で目的地へのルート計算を行うステップ」は、本願補正発明における「第1の地図を用いてナビゲーションデバイスのルート計画モジュールで目的地へのルートを計算するステップ」に相当する。
刊行物1発明における「車両の走行中」とは、「目的地へのルート計算を行うステップ」の後であり、通常、目的地までのルート計算を行ったら、そのルートに沿って車両を走行させるものであるから、刊行物1発明における「車両の走行中」は、本願補正発明における「計算されたルートに沿って移動中」に相当する。また、刊行物1発明の「情報センター200」は、情報を提供するためのサーバを有していることは自明な事項であり、「規制情報」を受信することは、ダウンロードすることも含むといえる。
したがって、刊行物1発明における「車両の走行中に、情報センター200から規制情報を受信し、当該規制情報をナビゲーション装置の記憶装置に追加及び更新するステップ」は、本願補正発明における「計算されたルートに沿って移動中に、サーバから少なくとも1つの第2地図変更をダウンロードし、当該少なくとも1つの第2地図変更をナビゲーションデバイスの前記メモリに格納するステップ」に相当する。
刊行物1発明の「通行止め」、「右折禁止」は、本願補正発明の「ブロック」、「右左折制限」に相当する。また、刊行物1の段落【0033】には、記憶装置174に記憶されている規制情報の内容として、規制情報の内容(種類)と、有効期間開始日時と、有効期間終了日時等から構成されることが記載されているから、それぞれの規制情報が独立して適用可能であることは明らかであり、また、そのための何らかの識別子も記憶されていることも明らかである。
よって、刊行物1発明における「規制情報は、ナビリンクに対応づけられた規制情報の更新であって、通行止めであるか、右折禁止であるか等の規制情報の種類を含んで追加及び更新」される概念と、本願補正発明における「地図変更のそれぞれは、道路のベクトル又はそれに関連付けられるデータの変更であって、(i)少なくとも道路のベクトルにおけるブロック又はブロック解除、(ii)少なくとも1つの道路のベクトルの交通の方向の修正、(iii)少なくとも1つの道路のベクトルの右左折制限の追加又は除去、(iv)少なくとも道路ベクトルの追加、の1つ以上を含み、且つ、他の地図変更とは独立して適用可能にするための一意の識別子と共に格納される」概念とは、「地図変更は、道路のベクトル又はそれに関連付けられるデータの変更であって、(i)少なくとも道路のベクトルにおけるブロック又はブロック解除、(ii)少なくとも1つの道路のベクトルの交通の方向の修正、(iii)少なくとも1つの道路のベクトルの右左折制限の追加又は除去、(iv)少なくとも道路ベクトルの追加、の1つ以上を含み、且つ、他の地図変更とは独立して適用可能にするための一意の識別子と共に格納される」との概念で共通する。
刊行物1発明における「受信された規制情報がルートに関するものか否かを判定するステップ」は、本願補正発明における「第1地図変更及び第2地図変更の少なくとも1つがルートに沿っているか否かを判定するステップ」に相当する。
刊行物1発明における「規制情報がルートに関するものである場合、動的ルート計算処理部16は自動的に、目的地までのルートを受信された規制情報を考慮して再計算する」概念と、本願補正発明における「第1地図変更及び第2地図変更の少なくとも1つがルートに沿っていることを表わす判定がなされた場合、ルート計画モジュールは自動的に、又はユーザ入力に応じて、前記目的地までのルートを前記第2の地図を用いて再計算する」概念とは、「第1地図変更及び第2地図変更の少なくとも1つがルートに沿っていることを表わす判定がなされた場合、ルート計画モジュールは自動的に、又はユーザ入力に応じて、前記目的地までのルートを再計算する」概念で共通する。

オ したがって、本願補正発明と刊行物1発明とは、
「 ナビゲーションデバイス内の、複数の道路のベクトル及び該ベクトルに関連づけられたデータで構成される第1の地図の形式の地図データを変更する方法であって、
前記第1の地図を用いて前記ナビゲーションデバイスのルート計画モジュールで目的地へのルートを計算するステップと、
前記計算されたルートに沿って移動中に、サーバから少なくとも1つの第2地図変更をダウンロードし、当該少なくとも1つの第2地図変更を前記ナビゲーションデバイスのメモリに格納するステップと、
ここで、前記地図変更は、道路のベクトル又はそれに関連付けられるデータの変更であって、(i)少なくとも道路のベクトルにおけるブロック又はブロック解除、(ii)少なくとも1つの道路のベクトルの交通の方向の修正、(iii)少なくとも1つの道路のベクトルの右左折制限の追加又は除去、(iv)少なくとも道路ベクトルの追加、の1つ以上を含み、且つ、他の地図変更とは独立して適用可能にするための一意の識別子と共に格納される;
第1地図変更及び第2地図変更の少なくとも1つがルートに沿っているか否かを判定するステップを有し、
第1地図変更及び第2地図変更の少なくとも1つが前記ルートに沿っていることを表わす判定がなされた場合、前記ルート計画モジュールは自動的に、又はユーザ入力に応じて、前記目的地までのルートを再計算する方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明は、「計算されたルートに沿って移動中に、ナビゲーションデバイスのユーザインターフェース上のユーザ入力を受信して少なくとも1つの第1地図変更を生成し、当該少なくとも1つの第1地図変更を前記ナビゲーションデバイスのメモリに記憶するステップ」を備えているのに対し、刊行物1発明には、そのようなステップを有していない点。

[相違点2]
本願補正発明は、「少なくとも1つの第2地図変更は1以上の他のナビゲーションデバイスがユーザ入力に応じて第1地図変更として作成し、アップロードした地図変更レポートに基づいて作成されたものである」のに対し、刊行物1発明は、そのような特定がない点。

[相違点3]
「地図変更は、道路のベクトル又はそれに関連付けられるデータの変更であって、(i)少なくとも道路のベクトルにおけるブロック又はブロック解除、(ii)少なくとも1つの道路のベクトルの交通の方向の修正、(iii)少なくとも1つの道路のベクトルの右左折制限の追加又は除去、(iv)少なくとも道路ベクトルの追加、の1つ以上を含み、且つ、他の地図変更とは独立して適用可能にするための一意の識別子と共に格納される」点に関し、この「地図変更」は、本願補正発明では、第1地図変更及び第2地図変更のそれぞれの地図変更であるのに対し、刊行物1発明では、第2地図変更である点。

[相違点4]
本願補正発明は、「メモリに記憶された第1地図変更と前記ナビゲーションデバイスにおける少なくとも1つの第2地図変更を適用して、第1の地図を補足して第2の地図を、前記第1の地図と前記第1地図変更及び前記少なくとも1つの第2地図変更から、前記第1の地図を永続的に変更しないで作成するステップと、前記第2の地図をナビゲーション装置にロードし、前記第2の地図を前記ルート計画モジュールにて利用できるようにするステップ」を有するのに対し、刊行物1発明は、そのようなステップが明示されていない点。

[相違点5]
「第1地図変更及び第2地図変更の少なくとも1つがルートに沿っていることを表わす判定がなされた場合、ルート計画モジュールは自動的に、又はユーザ入力に応じて、前記目的地までのルートを再計算する」点に関し、本願補正発明では、目的地までのルートを第2の地図を用いて再計算するのに対し、刊行物1発明は、第2の地図を用いることが明示されていない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点1、3?5について
(ア)刊行物1記載の発明における「目的地までのルートを受信された規制情報を考慮して再計算する」場合において、「規制情報を考慮」するためには、ルート計算用地図データである「第1の地図」に新たに受信された規制情報を適用して、新たなルート計算用地図データである「第2の地図」を作成し、これをナビゲーション装置にロードして利用できるようにすることは、当業者にとって自明な事項である。
そして、この規制情報に関して、刊行物1には「(ステップS1)車両のエンジンが始動されて車両用ナビゲーション装置1の電源が入ると、車両用ナビゲーション装置1は記憶装置174に記憶されている規制情報データをチェックし、期限の過ぎた規制情報があればデータから削除する。」(段落【0037】参照)と記載されており、この「期限の過ぎた規制情報があればデータから削除する」ことは、全ての規制情報が更新後に永続的にその状態が維持されるのではなく、期限付きで更新される規制情報が含まれるから、本願補正発明における「永続的に変更しないで作成する」ことに相当するものといえる。
よって、刊行物1記載の発明に基づけば、第1の地図を補足して第2の地図を、第1の地図を永続的に変更しないで作成するステップを設けることは当業者が適宜なし得る事項である。

(イ)刊行物2記載の事項における「利用者の地図カスタマイズによるデータ更新内容を履歴データとして記録」することは、本願補正発明の「ナビゲーションデバイスのユーザインターフェース上のユーザ入力を受信して少なくとも1つの第1地図変更を生成し、当該少なくとも1つの第1地図変更を前記ナビゲーションデバイスのメモリに記憶する」ことに相当するものである。

(ウ)刊行物2の段落【0094】、【0095】に、利用者が地図をカスタマイズする内容として、「交差点を構成する任意のリンク間で、侵入禁止、あるいは右左折禁止などの通行規制が存在する場合には、その旨の属性情報を追加する。」と記載されていることをふまえると、刊行物2記載の事項における「利用者の地図カスタマイズによるデータ更新内容」は、進入禁止、あるいは右左折禁止などを含むのであって、これは、本願補正発明の第1地図変更が「(i)少なくとも道路のベクトルにおけるブロック又はブロック解除」、「(iii)少なくとも1つの道路のベクトルの右左折制限の追加又は除去」を含むことに相当するものである。

(エ)また、刊行物2記載の事項の「地図提供元によるバージョンアップに伴って地図データを新しいものに置き換える場合に、地図カスタマイズした内容が新しい地図データに存在しない場合に利用者の地図カスタマイズを実行」することは、地図提供元によるバージョンアップと利用者の地図カスタマイズを適用した新しい地図を作成することを意図したものといえるから、本願補正発明の「メモリに記憶された第1地図変更とナビゲーションデバイスにおける少なくとも1つの第2地図変更を適用して、第1の地図を補足して第2の地図を」作成することに相当するものである。

(オ)刊行物1発明と刊行物2記載の事項とは、ナビゲーション装置という共通の技術分野に属するものであり、外部から受信した情報により地図データの更新を行うという共通の機能を有するものである。
よって、刊行物1発明に刊行物2記載の事項を適用し、ナビゲーションデバイスのユーザインターフェース上のユーザ入力により第1地図変更を生成するとともに、当該第1地図変更と第2地図変更を適用して第2の地図を作成し、これをナビゲーション装置にロードするためのステップを設けて、目的地までのルートを当該第2の地図を用いて再計算することは、当業者が格別の創作能力を要さずになし得たことである。
そして、刊行物1発明に刊行物2記載の事項を適用するにあたり、第2地図変更と同様に第1地図変更についても、計算されたルートに沿って移動中に生成してナビゲーションデバイスのメモリに記憶させることは、当業者が適宜なし得たことである。

(カ)したがって、刊行物1発明及び刊行物2記載の事項に基づいて、上記相違点1、3?5に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について
道路状況の変更があった場合に、ユーザーが地図データに変更を加えたもの(第1地図変更)をセンターに送り、これに基づいて作成したデータ(第2地図変更)をセンターから他のユーザー送るようにすることは、例えば、特開2001-227977号公報の段落【0052】、特開2006-52972号公報の段落【0039】にみられるように、本願優先日前に周知の技術である。
よって、刊行物1発明において、上記周知の技術を適用し、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が適宜なし得たことである。

ウ 本願補正発明が奏する効果について
本願補正発明が奏する効果は、当業者が刊行物1発明、刊行物2記載の事項及び周知の技術から予測し得る程度のものであって、格別のものではない。

エ まとめ
以上のように、本願補正発明は、当業者が刊行物1発明、刊行物2発明及び周知の技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3-3 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定にも違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、平成25年10月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、「第2 1(1)」に記載したとおりである。

2 刊行物
刊行物1及びその記載事項並びに刊行物1発明は、上記「第2 3 3-2(1)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
(1)対比
本願発明と刊行物1発明とを対比する。
「第2 3 3-2(3)ア?ウ」に記載した内容(ただし、本願補正発明を本願発明に読み替える。)に加えて、刊行物1発明の「規制情報」は、外部から取得されて地図データを更新するものであるから、本願発明の「地図変更」に相当する。
これに、さらに、「第2 3 3-2(3)エ」に記載した内容をふまえれば、本願発明と刊行物1発明とは、
「 ナビゲーションデバイス内の、複数の道路のベクトル及び該ベクトルに関連づけられたデータで構成される第1の地図の形式の地図データを変更する方法であって、
前記第1の地図を用いて前記ナビゲーションデバイスのルート計画モジュールで目的地へのルートを計算するステップと、
前記計算されたルートに沿って移動中に、サーバから少なくとも1つの地図変更をダウンロードし、当該少なくとも1つの地図変更を前記ナビゲーションデバイスのメモリに格納するステップと、ここで前記地図変更のそれぞれは、道路のベクトル又はそれに関連付けられるデータの変更であり、地図変更それぞれは他の地図変更とは独立して適用可能にするための一意の識別子と共に格納され、
前記少なくとも1つの地図変更が前記ルートに沿っているか否かを判定するステップとを有し、
前記少なくとも1つの地図変更が前記ルートに沿っていることを表わす判定がなされた場合、前記ルート計画モジュールは自動的に、又はユーザ入力に応じて、前記目的地までのルートを再計算する方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点6]
本願発明は、「少なくとも1つの地図変更は1以上の他のナビゲーションデバイスがユーザ入力に応じて作成し、アップロードした地図変更レポートに基づいて作成されたものである」のに対し、刊行物1発明は、そのような特定がない点。

[相違点7]
本願発明は、「ナビゲーションデバイスにおける少なくとも1つの地図変更を適用して、第1の地図を補足して第2の地図を、前記第1の地図及び前記少なくとも1つの地図変更から、前記第1の地図を永続的に変更しないで作成するステップと、前記第2の地図をナビゲーション装置にロードし、前記第2の地図を前記ルート計画モジュールにて利用できるようにするステップ」を有するのに対し、刊行物1発明は、そのようなステップが明示されていない点。

[相違点8]
「少なくとも1つの地図変更がルートに沿っていることを表わす判定がなされた場合、ルート計画モジュールは自動的に、又はユーザ入力に応じて、前記目的地までのルートを再計算する」点に関し、本願補正発明では、目的地までのルートを第2の地図を用いて再計算するのに対し、刊行物1発明は、第2の地図を用いることが明示されていない点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点6について
「第2 3 3-2(4)イ」に記載した内容、特にそこで示した周知の技術をふまえれば、刊行物1発明において、上記相違点6に係る本願発明の構成となすことは、当業者が適宜なし得たことである。

イ 相違点7、8について
「第2 3 3-2(4)ア(ア)」に記載した内容をふまえれば、刊行物1発明において、ナビゲーションデバイスにおける少なくとも1つの地図変更を適用して第2の地図を作成し、これをナビゲーション装置にロードするためのステップを設けることは当業者にとって自明な事項であるから、目的地までのルートをこのステップにより作成された第2の地図を用いて再計算し、上記相違点7、8に係る本願発明の構成となすことは、当業者が格別の創作能力を要さずになし得たことである。

ウ 本願発明が奏する効果について
本願発明が奏する効果は、当業者が刊行物1発明及び周知の技術から予測し得る程度のものであって、格別のものではない。

エ まとめ
したがって、本願発明は、当業者が刊行物1発明及び周知の技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-25 
結審通知日 2014-09-29 
審決日 2014-10-10 
出願番号 特願2009-524136(P2009-524136)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01C)
P 1 8・ 57- WZ (G01C)
P 1 8・ 575- WZ (G01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 貴俊  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 藤井 昇
平城 俊雅
発明の名称 ナビゲーション装置において使用するための改善された地図データを生成する方法  
代理人 木村 秀二  
代理人 大塚 康弘  
代理人 下山 治  
代理人 大塚 康徳  
代理人 高柳 司郎  

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