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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1298035
審判番号 不服2013-1530  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-28 
確定日 2015-03-02 
事件の表示 特願2008-544428「インフルエンザウイルスワクチンアジュバントまたは免疫‐刺激因子としてのdsRNA」拒絶査定不服審判事件〔平成19年6月14日国際公開、WO2007/067517、平成21年5月7日国内公表、特表2009-518410〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成18年12月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年12月7日、2005年12月23日、及び2006年4月20日、いずれも米国)を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成22年 1月 4日 手続補正書
平成24年 2月13日付け 拒絶理由通知書
平成24年 8月 1日 意見書・手続補正書
平成24年 9月21日付け 拒絶査定
平成25年 1月28日 審判請求書・手続補正書
平成25年 3月 6日 手続補正書(請求の理由)
平成26年 1月22日付け 審尋

そして、平成26年1月22日付け審尋に対する回答書が提出されなかったものである。

2 平成25年1月28日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年1月28日付け手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の請求項1に記載された発明
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】アジュバントまたは免疫刺激因子としての二本鎖リボヌクレオチド核酸(dsRNA)と免疫誘発量の抗ウイルスワクチンとが調和よく組合わせて投与される、急性または慢性ウイルス感染に対するワクチン保護を促進するための医薬であって、二本鎖リボヌクレオチド核酸が一般式rI_(n)・r(C_(11?14)、U)_(n)からなるミスマッチdsRNAである、前記医薬。」を、
「【請求項1】アジュバントまたは免疫刺激因子としての二本鎖リボヌクレオチド核酸(dsRNA)と免疫誘発量のインフルエンザワクチンとを組合わせてなる、急性または慢性のインフルエンザウイルス感染に対するワクチン保護を促進するための医薬であって、二本鎖リボヌクレオチド核酸が一般式rI_(n)・r(C_(11?14)、U)_(n)からなるミスマッチdsRNAであり、医薬が鼻腔内経路によって投与される、前記医薬。」
(下線は補正箇所を示す。)とする補正を含むものである。

上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「抗ウイルスワクチン」を「インフルエンザワクチン」に限定し、「医薬」の投与経路を「鼻腔内経路によって投与される」ものに限定するものであって、その補正の前後において、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であると認められるから、特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載した発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)引用例の記載事項
ア 引用例A
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である「一戸猛志 他,臨床免疫,2005年 6月,Vol.43, No.6,p.647-651」(以下、「引用例A」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審による。)

(a-1)「二重鎖RNA[poly(I:C)]をアジュバントとした経鼻インフルエンザワクチン
はじめに
免疫系は,大きく感染早期に働き特異性の低い自然免疫系と感染後期に働き特異性の高い獲得免疫系の2つに分けられる.生体はウイルスや細菌がもつ特有の分子パターンを認識・・・して,迅速に感染性病原体に対する非特異的な自然免疫応答を開始させる.その分子パターンを認識する受容体のひとつにToll-like receptor (TLR)ファミリーが存在し,ペプチドグリカン,二重鎖RNA(dsRNA),・・・などの病原体特有の分子パターンを認識する。現在ヒトでは10種類(マウスでは11種類)のTLRが同定されているが,そのなかのTLR3はウイルスが複製過程に産生するdsRNAを特異的に認識する.TLR3によってdsRNAが認識されるとI型インターフェロン(IFN-α/β)が誘導され細胞が抗ウイルス状態を保つばかりでなく,その後の獲得免疫応答の種類と形質を形づくるのに役立つ.・・・
そこで本稿ではTLRへの刺激による自然免疫系活性化から獲得免疫系活性化までの仕組みに触れた後に,TLR3のリガンドであり二重鎖RNAと機能的に類似した物質であるポリイノシンポリシチジン酸[polyinosinic-polycytidylic acid;poly(I:C)]を例にとり,われわれの経鼻インフルエンザワクチンの系を用いて,poly(I:C)のアジュバントとしての作用機序と効果について概説する.」(表題及び647頁左欄1行?同頁右欄10行)

(a-2)「Poly(I:C)経鼻接種後のNALTにおける自然免疫系サイトカインの誘導
マウスの鼻腔床部の粘膜直下には,正中線に沿って一対の鼻咽頭関連リンパ組織(nasopharyngeal-associated lymphoid tissue;NALT)が存在し,これはヒトの鼻咽頭周辺に環状に存在するリンパ組織(ワルダイエル扁桃輪)に相当する(図2A).NALTは上気道のIgAの誘導組織として中心的なものであり,ウイルスが気道の粘膜上皮細胞に感染して増殖を始めると,抗原提示細胞がウイルス抗原を取り込みNALTや頸部リンパ節へもち帰る.そこで全身を循環しているリンパ球を活性化し,この微小環境でのさまざまなサイトカインの影響によってその後の獲得免疫系の方向性が形づくられる.とくに個々で産生されるI型インターフェロン(IFN-α/β)は樹状細胞(抗原提示細胞)の成熟,その後の獲得免疫の開始にきわめて重要である.そこでまず不活化ワクチン単独またはpoly(I:C)アジュバントを添加したものをマウスの鼻腔へ経鼻接種したときのNALTにおけるI型インターフェロン(IFN-α/β)mRNAの発現を経時的に観察した.するとワクチンにpoly(I:C)アジュバントを添加したものを経鼻接種した群では,経鼻接種6時間後という早い段階においてIFN-α/βの発現の誘導が認められ,接種24時間以内には元のレベルまで戻っていた(図2B).しかしワクチンのみの接種群ではIFN-α/βの発現の誘導が認められなかった.」(648頁左欄下から6行?右欄最下行)

(a-3)「これらの結果から,不活化インフルエンザワクチンとpoly(I:C)アジュバントをマウスの鼻腔に経鼻接種することは,実際にインフルエンザウイルスが宿主細胞内で増殖している場面を模倣しているようである.これによってpoly(I:C)を特異的に認識した生体は「ウイルスが生体内で増殖している」という錯覚を起こして,迅速に感染性病原体に対する非特異的な自然免疫応答を開始させ,その後の獲得免疫応答の準備を始めるようである.そこでマウスのインフルエンザモデルを用いて,ワクチンとともにpoly(I:C)アジュバントを経鼻接種したときのインフルエンザウイルスの感染防御効果について検討した結果を次に述べる.」(649頁右欄下から3行?650頁左欄下から4行)

(a-4)「Poly(I:C)をアジュバントとした経鼻インフルエンザワクチン
1μgのHAワクチンを1?10μgのpoly(I:C)アジュバントとともにマウスの両鼻腔へ4週間間隔で2度経鼻接種すると,アジュバントを用いない免疫群では抗体価の上昇が認められなかったが,アジュバントを併用したワクチン接種群ではHA特異的な鼻腔洗浄液中のIgA抗体,血清中のIgG抗体価の上昇が認められた(図4).この抗体価の上昇に伴い1,000pfuのインフルエンザウイルス(A/PR8)感染に対しても,上気道でウイルスの感染が成立しなくなり,感染3日後の鼻腔洗浄液中のウイルス力価は検出限界以下であった。さらにインフルエンザ肺炎モデルマウスにおいてもpoly(I:C)アジュバント併用ワクチン接種群ではウイルスの感染を完全に防御することができ,ワクチン株とは異なる亜型のウイルスに対しても防御効果が認められた.また抗体応答だけでなく全身の特異的T細胞応答もpoly(I:C)アジュバント併用ワクチンを経鼻接種することにより誘導されることがわかった.」(650頁左欄下から3行?651頁左欄4行)

(a-5)「おわりに
抗原提示細胞が外来抗原を貪食すると同時にTLRからの刺激を受けて活性化し,自然免疫応答が開始され,その後の獲得免疫の種類(Th1/Th2シフト,抗体産生,CTL誘導など)が決定される.一般にTLR3の刺激はCTL応答を優位に誘導すると考えられているが,今回のわれわれの実験系[少量のpoly(I:C)アジュバントをマウスの鼻腔へ投与]では,特異的T細胞応答のみでなく抗体応答も良好に得られた.このように獲得免疫の芳香性とマグニチュードはアジュバントの「種類」と「量」に加えて「投与部位」が大きく関与している。」(651頁左欄5行?最終行)

イ 引用例B
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である米国特許第4,024,222号明細書(以下、「引用例B」という。)には、次の事項が記載されている。(原文は英語であるため日本語に翻訳した。また、下線は当審による。)

(b-1)「16.二本鎖の相補性ポリヌクレオチド複合体であるポリイノシン酸およびポリシチジル酸複合体上に、この複合体分子を、生物器官の細胞における酵素活性により、より容易に加水分解させるための化学部位を形成するための方法であって、分子のストランド間の塩基対形成を、シチジル酸(C)またはイノシン酸(I)を、ウリジル酸(U)およびグアニル酸(G)からなる群から選択されるヌクレオチドと置換して、ポリ(C_(n),U),ポリ(C_(n),G),ポリ(I)・ポリ(C_(n),U)及びポリ(I)・ポリ(C_(n),G)(ここでnは4?29の整数である)からなる群から選択される複合体を形成することで妨害するステップを含む方法。」(請求項16)

(b-2)「インターフェロンはウイルス感染に応じて動物細胞より放出された抗ウイルス性蛋白質である。従来、RNAはインターフェロンの放出を動物細胞内に開始する特殊な成分で、天然及び合成二本鎖RNAはインターフェロン産生を刺激することが知られている。これら二本鎖RNA分子はその毒性により化学治療剤としての有用性が確かめられていない。かかる毒性は主に二本鎖螺旋RNA構造の存在に関係する。最近、生物細胞へのインターフェロン誘導の第1工程、すなわちポリシチジル酸にアニールしたポリイノシン酸の核酸複合体(rI_(n)・rC_(n))の吸収は速やかに起こることが確かめられ、これにより誘導複合体の完全な一次構造は細胞内に極く僅かな期間存在することが示唆されている。本発明は、ひとたびインターフェロンの誘導が開始されると、二本鎖螺旋RNAの連続した存在は不必要で、抗ウイルス活性の程度を増大させることなく細胞に二次作用をもたらすことを結論した。そこで、本発明はインターフェロン産生を細胞に誘導する能力を維持しながら細胞中のヌクレアーゼにより容易に加水分解し得る二本鎖核酸複合体を提供する。そのような核酸複合体は、二本鎖ウイルス遺伝子の複製物であってウイルス感染中インターフェロン産生を促進するが、修飾されて細胞内で容易に破壊されやすい能力のため細胞への毒性が軽減される。本発明に係る化合物類はすでに1973年10月31日に刊行された研究文献(ジャーナル・モレキュラー・バイオロジイ,70,568[1972])に開示されている。」(第1欄17行?51行)

(b-3)「不対塩基を含有するrI_(n)・rC_(n)複合体
ウリジル酸残基を不対塩基としてrI_(n)鎖及びrC_(n)鎖に導入し、ある特定の場合にはグアニル酸を同じ目的のためrC_(n)鎖に導入した。これらランダム共重合体の組成及びその沈降係数を第1表に示す。これらポリヌクレオチド鎖は沈降計数値から判断して30,000?100,000の分子量を有する。」(第12欄20行?30行)

(b-4)「 第1表
合成共重合体の調製、塩基組成、及び沈降係数
重合体 酵素反応における 収率 共重合体の 沈降
基質(μモル) (%) 基本組成 係数(S20,w)
ポリ(I_(39),U) IDP(600)+UDP(30) 42 I:U=39.4:1 10.2
・・・
ポリ(C_(13),U) CDP(578)+UDP(60) 44 C:U=12.7:1 6.7
・・・」(第7欄?第8欄、第1表)

ウ 引用例C
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である米国特許第4,130,641号明細書(以下、「引用例C」という。)には、次の事項が記載されている。(原文は英語であるため日本語に翻訳した。また、下線は当審による。)

(c-1)「培養された生きた動物細胞において、該細胞に対する毒性効果なしにインターフェロンの産生を誘導するための方法であって、該方法は有効量の二本鎖螺旋RNA分子種であって、少なくともひとつの、ヌクレアーゼによって容易に加水分解される部位を有し、この部位はRNA鎖にグアニンヌクレオチドやウリジンヌクレオチドなどの不対塩基を導入することで形成されるものを与えることからなる方法であり、ここで該ヌクレオチドは3’,5’位に結合したリン酸ジエステル結合である。」(請求項1)

(c-2)「インターフェロンはウイルス感染に応じて動物細胞より放出された抗ウイルス性蛋白質である。従来、RNAはインターフェロンの放出を動物細胞内に開始する特殊な成分で、天然及び合成二本鎖RNAはインターフェロン産生を刺激することが知られている。これら二本鎖RNA分子はその毒性により化学治療剤としての有用性が確かめられていない。かかる毒性は主に二本鎖螺旋RNA構造の存在に関係する。最近、生物細胞へのインターフェロン誘導の第1工程、すなわちポリシチジル酸にアニールしたポリイノシン酸の核酸複合体(rI_(n)・rC_(n))の吸収は速やかに起こることが確かめられ、これにより誘導複合体の完全な一次構造は細胞内に極く僅かな期間存在することが示唆されている。本発明は、ひとたびインターフェロンの誘導が開始されると、二本鎖螺旋RNAの連続した存在は不必要で、抗ウイルス活性の程度を増大させることなく細胞に二次作用をもたらすことを結論した。そこで、本発明はインターフェロン産生を細胞に誘導する能力を維持しながら細胞中のヌクレアーゼにより容易に加水分解し得る二本鎖核酸複合体を提供する。そのような核酸複合体は、二本鎖ウイルス遺伝子の複製物であってウイルス感染中インターフェロン産生を促進するが、修飾されて細胞内で容易に破壊されやすい能力のため細胞への毒性が軽減される。本発明に係る化合物類はすでに1973年10月31日に刊行された研究文献(ジャーナル・モレキュラー・バイオロジイ,70,568[1972])に開示されている。」(第1欄22行?54行)

(c-3)「不対塩基を含有するrI_(n)・rC_(n)複合体
ウリジル酸残基を不対塩基としてrI_(n)鎖及びrC_(n)鎖に導入し、ある特定の場合にはグアニ酸を同じ目的のためrC_(n)鎖に導入した。これらランダム共重合体の組成及びその沈降係数を第1表に示す。これらポリヌクレオチド鎖は沈降計数値から判断して30,000?100,000の分子量を有する。」(第12欄7行?16行)

(c-4)「 第1表
合成共重合体の調製、塩基組成、及び沈降係数
重合体 酵素反応における 収率 共重合体の 沈降
基質(μモル) (%) 基本組成 係数(S20,w)
ポリ(I_(39),U) IDP(600)+UDP(30) 42 I:U=39.4:1 10.2
・・・
ポリ(C_(13),U) CDP(578)+UDP(60) 44 C:U=12.7:1 6.7
・・・」(第5欄?第8欄、第1表)

エ 引用例D
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である「 CARTER,W.A. et al,International Journal of Immunopharmacology,1991年,Vol.13,p.69-76」(以下、「引用例D」という。)には、次の事項が記載されている。(原文は英語であるため日本語に翻訳した。また、下線は当審による。)

(d-1)「ミスマッチdsRNAであるアンプリジェン(ポリ(I):ポリ(C_(12)U))は、HIV疾病において抗ウイルス及び免疫刺激活性を示す
要約:
ミスマッチdsRNA(アンプリジェン)は抗ウイルス及び免疫調節活性の広範なスペクトルを有している。この活性はHIV疾病進行の3つの重要な代用マーカーにおける安定化あるいは改善をもたらす。アンプリジェンで処置されたHIV疾病患者は、AZTまたはプラシーボで処置された患者とは対照的にp24抗原に対して陽性とはならない。アンプリジェン/AZT療法を受けている患者においてもウイルス負荷は低下できる。インビトロ研究によれば、AZTに感受性のウイルスもAZT抵抗性のウイルスもアンプリジェン単独で阻害でき、またアンプリジェンとAZTの併用により相乗的に阻害される。アンプリジェンの免疫調節的な効果は、CD4カウントの安定化として現れる。アンプリジェンをAZTと併用すると、CD4カウントの増加がみられる。さらに、おたふく風邪、カンジダ菌、及び白癬菌属に対する遅延型の過感受性の回復又は上昇が、アンプリジェンで処置された患者の約70%でみられた。HIV疾病におけるアンプリジェンの活性は、その抗ウイルス剤及び免疫刺激剤としての多機能性の活性による。その抗ウイルス活性は、直接HIVおよびその他の、HIV疾病の促進及び進行において関与するウイルスの感染を阻害する。その免疫調節的な活性は、免疫機能を安定化、増強、あるいは復元する。この高められた免疫機能はまた、疾病の進行と関連する付加的な感染症をさらに阻害する。したがって、アンプリジェンはHIV疾病に対して多機能的に作用する。」(表題及び要約)

(d-2)「アンプリジェン(ポリ(I):ポリ(C_(12)U))は、ミスマッチdsRNAの特定の形態であり、そこにおいてはシチジル鎖中のウリジル酸(U)置換が、螺旋配位において非水素結合の領域をもたらす。二本鎖RNA(dsRNA)はサイトカイン類を調節できるが、より重要なことは、それが、種々のdsRNA依存性の、種々の異なったヒト組織中に存在する、細胞内抗ウイルス防御機構を刺激するとともに、直接細胞の免疫活性をメディエートすることである。(文献名・・・)。このウリジル酸の挿入による二本鎖RNAの構造的な修飾により、ミスマッチアナログが産生される。このアナログは、ポリ(I):ポリ(C)型の二本鎖RNAと不可避的に関連している毒性の応答を生じることなく抗ウイルス活性、及び免疫性及び天然の細胞防御機構を増強する能力を有している。 (文献名・・・)。」(70頁左欄第2段落)

(3)対比
上記(a-1)?(a-4)の記載からみて、引用例Aには、「アジュバントとしての二重鎖RNA[poly(I:C)]と免疫誘発量のインフルエンザワクチンとを組合わせてなる、インフルエンザウイルス感染に対するワクチン保護を促進することがマウスで確認された経鼻インフルエンザワクチン」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
ここで、引用発明の「二重鎖」と本願補正発明の「二本鎖」は同義であり、またワクチンは医薬の一種であることは明らかであるから、
本願補正発明と引用発明とは、
「アジュバントとしての二本鎖リボヌクレオチド核酸(dsRNA)と免疫誘発量のインフルエンザワクチンとを組合わせてなる、インフルエンザウイルス感染に対するワクチン保護を促進するための医薬」
である点で一致し、一方、以下の二点で相違する。

(相違点1)
前者においては、インフルエンザが「急性または慢性のインフルエンザ」であるのに対して、後者においては単に「インフルエンザ」と記載されている点。

(相違点2)
前者においては、二本鎖リボヌクレオチド核酸が「一般式rI_(n)・r(C_(11?14),U)_(n)からなるミスマッチdsRNA」であるのに対して,後者においてはpoly(I:C)である点。

(4)判断
そこで、上記相違点1および2について以下に検討する。

(相違点1について)
本願明細書において、「急性または慢性」と常に一対で使用されており、急性インフルエンザと慢性インフルエンザとを特に区別して記載しているわけではなく、単にインフルエンザ全般を対象としているという程度の意味であるから、単に「インフルエンザ」と記載する引用発明と実質的な相違は認められない。

(相違点2について)
引用例Aには、TLR3のリガンドであり二重鎖RNAと機能的に類似した物質であるポリイノシンポリシチジン酸poly(I:C)を例にとり(上記ア(a-1))、二重鎖RNAと機能的に類似した物質をアジュバントとして不活化インフルエンザワクチン(上記ア(a-3))あるいはHAワクチン(上記ア(a-4))とともにマウスに経鼻接種すると、アジュバントを用いない免疫群と比較して抗体価が上昇すること(上記ア(a-2)及び(a-4))が記載されている。
これは、二重鎖RNAと機能的に類似した物質poly(I:C)のアジュバントとしての作用機序と効果を調べるマウスを用いた研究であって、ヒトのインフルエンザウイルス感染経路に関与する器官に類似した器官を有する動物モデル(上記ア(a-2))を用いた研究であるから、動物モデルでのワクチンとしての有効性が確認された場合、ヒトへの適用にあたり次のステップとして、二重鎖RNAと機能的に類似した物質poly(I:C)に対して充分な耐性があるか、即ち、副作用である毒性を更に検討することは、医薬品開発における不可避のステップである。
そして、本願明細書の段落【0032】においても、マウスにおける実験に引き続いて霊長類モデルでの耐性を調べている。

ここで、引用例Aで例示されたpoly(I:C)は、その毒性が本願優先日以前から広く知られていたところであり(例えば、Toxicology and Applied Pharmacology,Vol.18, Issue 1,Jan.1971,pages 220-230; 及びToxicology and Applied Pharmacology, Vol.23, Issue 4, Dec. 1972,pages 579-588等)、このことは本願優先日後の刊行物ではあるが、1980年代におけるこのような事情について「医学のあゆみ Vol.244 No.9 2013.3.2 (795頁右上欄)」には「合成dsRNAのpoly(I:C)はIFNの発見以来,強力なタイプI IFN誘導剤,NK細胞活性化剤として知られ、1980年代に免疫アジュバントとして臨床応用が試みられたが,副作用の強さから実用化に至っていない.」と記載されており、同じく本願優先日後の刊行物ではあるが特表2008-542405号公報においてもその段落【0009】において、「しかしながら、PIC(ポリイノシン酸・ポリシチジル酸)を動物に用いたとき、それによって深刻な毒性が現れる。例えば、Phillipsらは、PICを2.0mg/mlの用量でイヌに亜慢性投与したときに、深刻な毒性の徴候が誘発されたことを報告した。毒性の特徴は、自発的活動の減少、協調運動不全、嘔吐、食欲不振、体重減少、造血の減少を反映する血液学的変化、アルカリホスファターゼおよびトランスアミナーゼの活性の増加、胸腺の変性、骨髄の破損、小葉中心領域における肝洞様毛細血管の拡張、生細胞のネクローシス、肝構造の崩壊、および、全身性の関節炎である(Phillipsら, Toxicology and Applied Pharmacology; 18: 220 - 30, 1971を参照のこと)。」と記載され、1971年発行の上記刊行物を例示している。

してみると、このような技術的背景があるのであるから、ヒトに適用するにあたっては、二重鎖RNAと機能的に類似した物質として引用例Aに例示されたpoly(I:C)をそのままヒトに適用するのではなく、その有効性を維持しつつ、副作用である毒性が軽減されるものを用いようとすることは、当業者において至極当然のことと認める。

そして、引用例Aには、TLR3によってdsRNAが認識されるとI型インターフェロン(IFN-α/β)が誘導されることも自然免疫系の1ステップとして記載されている(上記ア(aー1))のであるから、このpoly(I:C)についての毒性の問題を解決する手段として、インターフェロン誘発剤としてしられていたpoly(I:C)の毒性の問題をミスマッチdsRNAにより解決することが記載されている引用例B及びCにたどり着くのは当業者であればたやすいことである。
この引用例B及びCには、rI_(n)鎖またはrC_(n)鎖をUで中断する多くの例が記載され、具体的にrC_(n)の例としてポリ(C13,U)も記載(上記ア(b-4)及び(c-4))されており、これをrI_(n)と複合させたものは前者で使用するrI_(n)・r(C_(11?14)、U)_(n)からなるミスマッチdsRNAに包含されるものである。
さらに、引用例Dには、抗ウイルス及び免疫刺激性の活性を示すミスマッチdsRNAとして、本願明細書において好ましいミスマッチdsRNAとして記載されているアンプリジェン(ポリ(I):ポリ(C_(12)U))が「ポリ(I):ポリ(C)型の二本鎖RNAと不可避的に関連している毒性の応答を生じることなく抗ウイルス活性、及び免疫性及び天然の細胞防御機構を増強する能力を有している。」(上記ア(d-2))と記載されており、免疫刺激性の活性を示すという点で本願補正発明と軌を一にする用途で、ポリ(I):ポリ(C)の毒性の問題を解決しつつ、免疫性及び天然の細胞防御機構を増強するアンプリジェン(ポリ(I):ポリ(C_(12)U))を、引用例Aにおけるpoly(I:C)に代えて採用することには格別の困難性は認められない。

そして、本願補正発明の奏する効果についても、引用例A?Dの記載から予想される範囲内のものであり、格別に顕著なものとは認められない。

(請求人の主張について)
なお、請求人は、本願補正発明の奏する効果として、ワクチン株に対する交叉保護の効果も実施例2及び3において裏付けられていると主張する。
しかしながら、ワクチン株とは異なる亜型のウイルスに対しても防御効果が認められることは、すでに引用例A(上記ア(a-4))に記載されているところである。
また、そもそもそのような交叉保護、すなわちワクチン株と異なる亜型ウイルスに対する保護は、本願補正発明を規定する請求項1において特定されていないものであるから、本願補正発明はその発明特定事項から顕著な効果を奏するものとは認めることができず、請求人の主張は考慮できない。
したがって、請求人の主張には理由がない。

(まとめ)
よって、本願補正発明は、引用例A?Dに記載された発明および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 本願発明について
(1)本願発明
平成25年1月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成24年8月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)
「【請求項1】アジュバントまたは免疫刺激因子としての二本鎖リボヌクレオチド核酸(dsRNA)免疫誘発量の抗ウイルスワクチンとが調和よく組合わせて投与される、急性または慢性ウイルス感染に対するワクチン保護を促進するための医薬であって、二本鎖リボヌクレオチド核酸が一般式rI_(n)・r(C_(11?14)、U)_(n)からなるミスマッチdsRNAである、前記医薬。」

(2)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例A?Dの記載事項は、上記「2(2)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、上記「2」で検討した本願補正発明における「インフルエンザワクチン」を「抗ウイルスワクチン」としており、ウイルスをインフルエンザに限定しておらず、また、「医薬」の投与方法について、「医薬が鼻腔内経路によって投与される」という限定がないものであるから、本願補正発明を包含するものである。
そうすると、本願発明に含まれる本願補正発明が、前記「2(4)」に記載したとおり、引用例A?Dに記載された発明および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様にして、引用例A?Dに記載された発明および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-09 
結審通知日 2014-10-10 
審決日 2014-10-21 
出願番号 特願2008-544428(P2008-544428)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 荒巻 真介  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 大宅 郁治
大久保 元浩
発明の名称 インフルエンザウイルスワクチンアジュバントまたは免疫‐刺激因子としてのdsRNA  
代理人 小野 新次郎  
代理人 星野 修  
代理人 富田 博行  
代理人 小林 泰  
代理人 中濱 明子  

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