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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S
管理番号 1298062
審判番号 不服2013-15441  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-09 
確定日 2015-03-04 
事件の表示 特願2009-526676「IDドップラー移動検出器」拒絶査定不服審判事件〔平成20年3月13日国際公開、WO2008/030357、平成22年1月28日国内公表、特表2010-502951〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この審判事件に関する出願(以下、「本件出願」という。)は、2006年(平成18年)9月1日(以下、「優先日」という。)にアメリカ合衆国でされた特許出願に基づくパリ条約の優先権を主張して平成19年8月27日にされた国際特許出願である。そして、平成22年8月27日付け手続補正書及び平成24年11月21日付け手続補正書により特許請求の範囲についての補正がされ、平成25年6月7日付けで拒絶査定がされた。査定の謄本は、同年同月11日に送達された。
これに対して、同年8月9日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がされた。

第2 本件補正の却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、本件補正前(平成24年11月21日付け手続補正書による補正の後をいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1を以下のように補正することを含む。なお、下線は、請求人が付したものであり、補正箇所を示す。

(本件補正前)
「【請求項1】
無線周波識別(RFID)検出システムに用いられるRFIDリーダーであって、
RF信号を生成するRF源と、
前記RF源に連結されたアンテナであり、呼掛領域内の一つのRFIDマーカーからのRF信号に応答して受信された前記呼掛領域内の交信信号を受信し、その交信信号は、前記呼掛領域内の前記RFIDマーカーの移動を示すドップラー信号を含むアンテナと、
前記RFIDマーカーからの前記交信信号を受信する受信機と、
前記交信信号から前記ドップラー信号を抽出すると共に、前記ドップラー信号を検出する運動検出回路系とを備え、
前記リーダーは前記RFIDマーカーへの呼掛には適さない第1の電力モードで作動すると共に、到来するドップラー信号が検出されたならば、前記RFIDマーカーへの呼掛に適する第2の電力モードへ切り換えられ、その第2の電力モードは第1の電力モードよりも大きいリーダー。」

(本件補正後)
「【請求項1】
無線周波識別(RFID)検出システムに用いられるRFIDリーダーであって、
RF信号を生成するRF源と、
前記RF源に連結されたアンテナであり、呼掛領域内のアイテムに取り付けるように構成された一つのRFIDマーカーからのRF信号に応答して受信された前記呼掛領域内の交信信号を受信し、
その交信信号は、前記呼掛領域内の前記RFIDマーカーの移動を示すドップラー信号を含むアンテナと、
前記RFIDマーカーからの前記交信信号を受信する受信機と、
前記交信信号から前記ドップラー信号を抽出すると共に、前記ドップラー信号を検出する運動検出回路系とを備え、
前記リーダーは、前記RFIDマーカーの移動が無いときには、前記RFIDマーカーへの呼掛には適さない第1の電力モードで作動すると共に、前記呼掛領域へ入る前記アイテムによる到来するドップラー信号が検出されたならば、前記RFIDマーカーへの呼掛に適する第2の電力モードへ切り換えられ、その第2の電力モードは第1の電力モードよりも大きく、
前記RFIDリーダーは更に、
前記ドップラー信号を分析して前記アイテムが移動している相対的な方向及び速度を決定すると共に、前記呼掛領域内の前記アイテムが初期の場所から他の場所へ移動したことを決定するホストコンピュータを備えるリーダー。」

本件補正のうち、請求項1についての補正は、第一に、「呼掛領域内の一つのRFIDマーカー」が「アイテムに取り付けるように構成された」ものである旨の限定を付加するものである。第二に、「前記リーダー」が「前記RFIDマーカーへの呼掛には適さない第1の電力モードで作動する」条件が「前記RFIDマーカーの移動が無いとき」である旨の限定を付加するものである。第三に、「前記リーダー」が「前記RFIDマーカーへの呼掛に適する第2の電力モードへ切り換えられ」る条件である「到来するドップラー信号が検出された」ときについて、「到来するドップラー信号」が「前記呼掛領域へ入る前記アイテムによる」ものである旨の限定を付加するものである。第四に、「前記RFIDリーダー」が「更に、前記ドップラー信号を分析して前記アイテムが移動している相対的な方向及び速度を決定すると共に、前記呼掛領域内の前記アイテムが初期の場所から他の場所へ移動したことを決定するホストコンピュータを備える」旨の限定を付加するものである。
したがって、本件補正のうち、請求項1についての補正は、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。
この場合、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
しかし、以下に述べるとおり、本件補正発明は、本件出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明と周知技術とに基づいて、本件出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際特許を受けることができない。

2.刊行物に記載された事項
以下に掲げる刊行物1から3までは、いずれも、本件出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である。また、刊行物1は、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物であり、刊行物2は、原査定の拒絶の理由に周知例として引用された刊行物である。

刊行物1:特表2005-528815号公報
刊行物2:特開2002-48863号公報
刊行物3:特開平11-136161号公報

(1)刊行物1
ア.刊行物1の記載
刊行物1には、以下の記載がある。

(ア)段落0002から0004まで
「【技術分野】
【0002】
本発明は識別の分野に関し、さらにタグを識別するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0003】
問い合わせ送信機から符号を送信し、それに応じてタグによって送信される情報を得ることにより、多数の無線タグを調べることが望ましい。これは一般的に、問い合わせメッセージを受け、それに対して独特なシリアル番号および/または他の情報で応答するタグにより達成される。しかし、読み取りのために読取り装置を各タグに近づける必要がないように、無線タグの有効範囲を拡張することが望ましい。読み取りシステムの有効範囲を拡張する際には2つの問題が生ずる。問題の1つは無線タグからの送信に利用可能なのは限定された出力であり、有効範囲が大きければ、多数のタグが問い合わせシステムの有効範囲内に入ってしまい、それらの応答が互いにエラーを生じさせてしまうことがあり得ることである。無線周波数(RF)の現在の利用形態は、読取り装置の有効範囲内の多数のタグが全て問い合わせメッセージに応答しようとするとき生ずるインターフェース・プロトコルや衝突防止の問題を扱うための相当な論理回路を必要とする。たとえば、RFタグに用いられる現在の集積回路はインターフェース・プロトコルを扱い、かつ衝突防止プロトコルを扱うために、ほぼ3000個の論理ゲートを必要とする。集積回路が必要とするこのように大きなサイズによって、RFタグのコストは増大し、かかるタグがさらに一般的に用いられる見込みは低くなっている。多数のRFタグを読み取る際に衝突を回避する先行技術の試みは米国特許第5,266,925号、第5,883,582号、第6,072,801号に記載されている。しかし、これらの先行技術のアプローチは多数のRFタグを読み取る際の衝突を回避するには不十分な解決策しか提供しない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の態様によれば、タグが識別符号を有し、読取り装置によってそのタグを識別する方法が行われる。この方法はデータをタグに送信し、そのデータの送信に対する少なくとも1つの応答を受信することを含む。その際、応答のタイミング・ロケーションはタグの識別符号の第1の部分に対応する。応答はタグの識別符号の第1の部分を含む。」

(イ)段落0029から0035まで
「【0029】
図1は、読取り装置12と複数のタグ18、19、20を含む識別システム10の例を示している。システムは通常、受動的なまたは半受動的のいずれかのアクティブ・バックスキャタ・トランスポンダをタグとして用いた、リーダー・トーク・ファーストRFIDシステムである。タグに電池および/またはメモリを内蔵することは、より長い読み取り範囲を容易にするための拡張的な特徴であるが、電池の使用は、より高コスト、限定的寿命、より長いフォーム・ファクタ、より大きい重量、寿命後の処理の必要性などの、特定の交換条件を必要とする。したがって、タグ18、19、20は、メモリおよび/または電池を有してもよいし、これらの要素の何れも有さなくてもよい。読取り装置が電池入りのタグと電池無しのタグに問い合わせするシステムにおいて、異なったタイプのタグを混合してもよいことを理解されたい。
【0030】
本発明に用いることができるタグには少なくとも次の4つのクラスがある。(1)タグのアンテナから得られる電力以外にはタグに電源がないもの。しかし、このタグはタグの識別符号を有するリードオンリ・メモリを含む。(2)内部電源はないが、読取り装置から電力を与えられると、タグ内の不揮発性メモリにデータを書き込むことができる。このタイプのタグも識別符号を記憶するメモリを含む。(3)タグ内の回路に電力を提供する小型電池を有するタグ(かかるタグも、不揮発性メモリならびにタグの識別符号を記憶するメモリを含む)。(4)他のタグまたは他の装置と通信できるタグ。
【0031】
図1は読取り装置の実施形態を示している。読取り装置12は通常、受信機14と送信機16を備えており、これらはそれぞれ、I/O(入出力)コントローラ21に接続されている。受信機14と送信機16がそれぞれ専用のアンテナ14a、16aを備えていている。本発明の開示に鑑みて、送信機16と受信機14は、アンテナに存在する信号を制御し、受信機と送信機を互いに分離する受信/送信スイッチがあることを条件に、同じアンテナを共有できることを当業者は理解するであろう。受信機14と送信機16は、現在の読取り装置に見られる従来の受信機と送信機ユニットに類似であってもよい。一実施形態において、受信機と送信機は通常、北アメリカにおいて、約900メガヘルツの周波数範囲で動作する。
【0032】
受信機と送信機はI/Oコントローラ21に接続されており、I/Oコントローラ21は、受信機でのデータの受信と、送信機16からのコマンドなどのデータの送信を制御する。I/Oコントローラはバス22に接続されており、バス22は、マイクロプロセッサ23とメモリ24に接続されている。要素21、22、23、24に代表される処理システムのために、読取り装置12において用いることができる様々な異なった可能な形態がある。一形態において、マイクロプロセッサ23は、8051マイクロコントローラまたは他の周知のマイクロコントローラまたはマイクロプロセッサ(たとえば、パワーPCマイクロプロセッサ)などの、プログラマブル・マイクロプロセッサである。一形態において、メモリ24は、ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリとそのメモリの動作を制御するメモリ・コントローラを含む。メモリ24は、データとソフトウエア・プログラムを記憶する不揮発性リードオンリ・メモリを含んでいても良い。
【0033】
メモリ24は通常、マイクロプロセッサ23の動作を制御するプログラムを含み、タグの問い合わせのようなタグの処理中に用いられるデータを含む。以下で述べる一実施形態において、メモリ24は通常、マイクロプロセッサ23にI/Oコントローラ21を介して送信機宛てにサーチ・コマンドを送信させ、受信機14とI/Oコントローラ21を介してタグから応答を受信させるコンピュータ・プログラムを含む。メモリ24はさらに、特定のサーチ・アルゴリズムの故に、ツリーまたはその一部が作成される二分木(たとえば、図4、9、11に示した二分木)などのデータ構造を含む。特定のサーチ・アルゴリズムを以下でさらに説明する。読取り装置12は、読取り装置がネットワークを介して他の処理システムと通信することを可能にする、イーサネット(登録商標)・インターフェースなどのネットワーク・インターフェースを備えることもできる。ネットワーク・インターフェースは通常、問い合わせにおいて識別されるタグのリストなどのデータを、マイクロプロセッサ23またはメモリ24の何れかから受信できるように、バス22に接続されている。
【0034】
図2Aは、本発明で用いることができるタグの一形態の例を示している。タグ30は、送受信(TR)スイッチ33に接続されたアンテナ31を備えている。このスイッチは、受信機/復調器35と送信機39に接続されている。相関器/コントローラ・ユニット37は、受信機/復調器35と送信機39に接続されている。図2Aに示したタグの特定の例は、コマンド間でデータを維持するためのメモリがタグに含まれており、タグにおいてビット毎の相関が生ずる様々な実施形態において用いることができる。かかる相関は、タグによって実行されるコマンドに応じて、以下で説明する「整合」を行うために用いることができる。
【0035】
受信機/復調器35は、アンテナ31とスイッチ33を介して信号を受信し、信号を復調して、これらの信号を相関器/コントローラ・ユニット37に提供する。受信機35によって受信されたコマンドは、タグの動作を制御するためにユニット37のコントローラに渡される。受信機35によって受信されたデータもコントローラ・ユニット37に渡され、このデータは、以下で述べる実施形態において、タグの識別符号と相関させられる。コントローラ・ユニット37の制御下にある送信機39は、スイッチ33とアンテナ31を介して、応答または他のデータを読取り装置に送信する。本発明の開示に鑑みて、送信機は単に、アンテナ31などのアンテナからの反映を変調するスイッチまたは他の装置であってもよいことが、当業者には理解されるであろう。」

(ウ)段落0089から0092まで
「【0089】
RFトランスポート層
本発明は、広い領域の周波数にわたって採用できる。この項で考察する一実施形態において、超高周波数(UHF)動作について特定されたパラメータを用いてRFトランスポート層を説明する。しかし、当業者は本発明がUHFの領域に限定されないことを理解するであろう。
【0090】…(略)…
【0091】…(略)…
【0092】
周波数
一実施形態において、北アメリカにおけるRFトランスポート層は902?928MHz(UHF)帯を利用している。本発明における他の実施形態は、13.56MHz、2450MHzと他の周波数帯を利用できる。各特定の周波数帯と国は、体域幅、出力、変調と規定認可に特定の相違がある。本発明の開示に鑑みると、本発明はRFトランスポート層に利用される周波数によって限定されないことが当業者には分かるであろう。」

(エ)段落0112
「【0112】
読取り装置は、ドップラー開始のオプションを備えることもできる。この場合に、読取り装置は、低出力静止モード読取り装置によって点灯されたRF領域における動きによって検出するなどの、ドップラー信号を検出する能力を有する。ドップラー信号が観察されなければ、読取り装置は、読取り装置の領域におけるタグの母集団に変化が発生しなかったと仮定することができる。そのため、母集団の高出力インベントリは必要とされず、読取り装置はこの低出力モードに無期限に留まることができる。周期規則が、静止読取り装置をアクティブにさせることができる場合がある。ドップラー開始と周期的(またはランダム)開始の組合せを、静止読取り装置をアクティブにさせるために用いることができる場合もある。この目的は、電力送信、電力消費、帯域幅使用を最小化することである。」

(オ)段落0116から0117
「【0116】
アプリケーション層
前述のように、本明細書中で使用について説明しているタグは、アドレスと呼ばれる識別子あるいは識別符号を含む。アドレスまたは符号という用語は、交換可能に用いることができ、本発明のコンテキストにおいて一方の用語または他方の用語により限定は示唆されていない。一実施形態において、タグ・アドレスは64ビット長とすることができるが、他の実施形態ではそれよりも短くても長くてもよい。
【0117】
タグに記憶されたデータが符号に続く。データは、ネットワークまたはインターネット上で記憶して、タグから検索した符号を用いることにより、ネットワークまたはインターネットからアクセスすることもできる。符号に続くデータには多くの方法でアクセスして解釈することができる。たとえば、符号は、読取り装置と連係するホスト・システムによって理解される特定の意味を有するデータの1または複数のフィールドから構成される。」

(カ)段落0122から0130まで
「【0122】
タグ・データと使用
本明細書中で説明するタグの使用は、多くの多岐に渡るアプリケーションを包含する。たとえば、タグは製品製造時に符号化と検証のために付すことができる。タグは電子タグ・データベースに記録できる。仕掛品は製造施設内で追跡することができる。棚卸しはタグで管理することができ、監査はタグを用いて行うことができる。タグは、発送、受け取り、追跡と運送計画を含む流通と倉庫アプリケーションに利用することができる。車両の出入りを監視するなど、輸送アプリケーションも存在する。
【0123】
タグ内には独特な識別子が含まれているため、偽造防止アプリケーションが存在する。
【0124】
小売りアプリケーションは、店舗内における受け取り、棚卸し管理、商品追跡ならびに盗難防止、盗難検知、警備、盗難予測を含む。
【0125】
タグはオフにしたり(不作動にしたり)、不作動にならないようにしたりすることも可能である(回復可能タグ)。タグは、消費者プライバシーのために用いることができる、破壊シーケンスを備えてプログラムすることができる。
【0126】
タグは、消費者のショッピングカートや自動チェックアウトに採用することができ、店舗のディスプレイで消費者と対話的に用いることができる。特別な特徴には、消費者忠実機能、製品返却、所有権の証明、保証などがある。
【0127】
読取り装置は、家庭内で用いたり小売り後に用いたりすることができ、電子レンジ、冷蔵庫、調理台、キャビネット、洗濯機、AV機器、コンピュータ機器などの家電製品や家具に組み込むことができる。
【0128】
タグと読取り装置は、廃物処理(寿命になった物の処理)分別、廃棄情報、リサイクル情報、危険物質識別、取り扱い情報に用いることができる。
【0129】
タグと読取り装置は、航空機手荷物取り扱い、チケット、通行証、免許証に用いることができる。
【0130】
1または複数のタグを、流通段階の商品などの多様な種類の物品に付して、かかるタグを前述の様々な実施形態の何れかと共に用いることができることが想定される。たとえば、雑貨店やスーパーマーケットで商品(たとえば、シリアルの箱、おむつのパッケージ、スープの缶など)に独特なタグを付すことができる。通常、製造業者(たとえば、CAMBELL‘SスープやKELLOGGS)は商品の各パッケージに独特なタグを付して、このタグは、倉庫やトラック(または他の輸送手段)または店舗内(たとえば、雑貨店、スーパーマーケット、または衣料品店など)において在庫を維持するために用いることができる。
【0131】
さらに、タグは店舗から商品を「チェックアウト」するために用いることができる(商品上の印刷されたバーコードの従来の使用に類似した方法で。このバーコードはスーパーマーケットのチェックアウト・カウンターなどの購入時点でスキャンされる)。在庫を維持するにしろ、商品をチェックアウトするにしろ、タグは、タグの独特な符号を得るために読取り装置によって読み取られる。独特な符号は、その符号を商品名、商品仕様、小売価格などの他の情報と関連づけたデータベースにおけるルックアップ操作を通して商品を識別するために用いることができる。商品の各見本(たとえば、FROSTED FLAKESシリアルの各箱)用の各タグは独特な識別符号を付してもよいし、あるいは、同じ商品(たとえば、FROSTED FLAKESシリアルの各16オンス箱)用のタグに同じ識別符号を付してもよい。
【0132】
タグは、トースター、コーヒーメーカー、テレビ、DVDプレーヤなどの家電製品に付すことができる。タグ付きの家電製品が家庭に持ち込まれたときに、読取り装置がタグに問い合わせを行うことができる。タグは家庭(特に、ローカル・エリア・ネットワーク(LAN)やローカル・オペレーティング・ネットワーク(LON)がある家庭)の他の家電製品と協働するように設計することができる。」

イ.刊行物1に記載された事項
(ア)刊行物1には、読取り装置12と複数のタグ18、19、20とを含む識別システム10が記載されている(段落0029及び図1)。

(イ)読取り装置12は、受信機14と送信機16とを備えており、受信機14及び送信機16は、それぞれ専用のアンテナ14a、16aを備えているが、同じアンテナを共有することもできる(段落0031及び図1)。

(ウ)受信機14及び送信機16は、約900メガヘルツの周波数範囲で動作する(段落0031)。これは、無線周波数(RF)帯、特にUHF帯の周波数である(段落0089及び0092)。

(エ)読取り装置12は、低出力モードにあるときもドップラー信号を検出する能力を有し、ドップラー信号が観察されなければ、高出力インベントリが必要とされず、低出力モードに無期限に留まる(段落0112)。

(オ)識別システム10に用いることができるタグ30は、送受信スイッチ33と、送受信スイッチ33に接続されたアンテナ31、受信機/復調器35及び送信機39と、受信機/復調器35及び送信機39に接続された相関器/コントロール・ユニット37とを備えている(段落0034及び図2A)。
受信機/復調器35は、アンテナ31及び送受信スイッチ33を介して受信し、復調したコマンド及びデータを相関器/コントロール・ユニット37に提供し、相関器/コントロール・ユニット37の制御下にある送信機39は、送受信スイッチ33及びアンテナ31を介して、応答又は他のデータを読取り装置12に送信する(段落0035)。
すなわち、タグ30は、応答又は他のデータを読取り装置12に送信する。

(カ)タグ30は、発送、受け取り、追跡及び運送計画を含む流通・倉庫アプリケーション、車両の出入りの監視などの輸送アプリケーション、偽造防止アプリケーション、店舗内における受け取り、棚卸し管理、商品追跡、盗難防止、盗難検知、警備及び盗難予測を含む小売りアプリケーションなどに使用される(段落0122から0124まで)。
タグ30は、流通段階の商品などの多様な種類の物品に付して使用される(段落0130)。

(キ)タグ30は、符号を含む(段落0116)。符号は、読取り装置12と連係するホスト・システムによって理解されるデータから構成される(段落0117)。

ウ.刊行物1に記載された発明(引用発明)
上記イ.(ア)から(キ)までの事項を総合すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「読取り装置12と複数のタグ18、19、20とを含む識別システム10の読取り装置12であって、
受信機14と、送信機16と、受信機14及び送信機16が共有するアンテナとを備え、
受信機14及び送信機16は、無線周波数(RF)領域、特にUHF領域の周波数である約900メガヘルツの周波数範囲で動作し、
低出力モードにあるときもドップラー信号を検出する能力を有し、ドップラー信号が観察されなければ、高出力インベントリが必要とされず、低出力モードに無期限に留まり、
複数のタグ18、19、20のそれぞれであるタグ30が、応答又は他のデータを読取り装置12に送信するものであり、発送、受け取り、追跡及び運送計画を含む流通・倉庫アプリケーション、車両の出入りの監視などの輸送アプリケーション、偽造防止アプリケーション、店舗内における受け取り、棚卸し管理、商品追跡、盗難防止、盗難検知、警備及び盗難予測を含む小売りアプリケーションなどに使用されるものであり、流通段階の商品などの多様な種類の物品に付して使用されるものであり、さらに、読取り装置12と連係するホスト・システムによって理解されるデータのフィールドから構成される符号を含むものである
読取り装置12。」

(2)刊行物2及び3
ア.刊行物2の記載
刊行物2には、以下の記載がある。

(ア)段落0001から0006まで
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、個別対象物認識システム(データキャリアシステム)をセキュリティ管理施設の入退出管理手段として利用する場合に、入退出ゲートへの進入者が不法侵入である場合に検知可能な機能を付加した、データキャリアシステムに関する。
【0002】
【従来の技術】データキャリアシステムは、マイクロ波によるデータ通信を用いて、R/Wから離れた位置にある応答器(以下IDタグ)の中に記憶された個別データを読み出し、またIDタグにデータを書き込むシステムである。このようなデータキャリアシステムは、FA(Factory Automation)、物流、鉄道切符およびスーパーマーケットの価格読み取り、あるいは鉄道保安装置等に広く利用されている。
【0003】ここで、一般的なデータキャリアシステムの概要を説明する。図6は、データキャリアシステムの構成を示したブロック図である。この図において、符号1はIDタグであり、認識される対象物に搭載され、変復調回路2、アンテナ3およびMPU回路4、メモリ5、内蔵電池6で構成されており、R/W7より送信される自身の個別情報データがメモリ5に記憶されている。
【0004】R/W7は、送受信回路8、アンテナ9、変復調回路10およびMPU回路11で構成されており、ホストコンピュータ12に通信回線D3を介して接続され、ホストコンピュータ12より命令を受け、IDタグ1内のメモリ5に保持されているデータの読出し、および書込みを行う。ホストコンピュータ12は、R/W7を制御し、IDタグに対する個別情報データの収集と管理を行う。
【0005】IDタグ1において、変復調回路2はMPU回路4から送信された信号を変調し、信号波としてアンテナ3により送信すると共に、アンテナ3で受信された信号波を復調し、MPU回路4に受信信号を送信する。MPU回路4は、変復調回路2からの受信信号および変復調回路2への送信信号の送受信データの管理を行う。
【0006】R/W7において、送受信回路8はIDタグ1との通信における送信波および受信波をアンテナ9により送受信する。変復調回路10は、送受信回路8へ送信する信号の変調を行い、送受信回路8より受信する信号の復調を行う。MPU回路11は、送受信するデータの管理およびホストコンピュータ12との通信制御を行う。」

(イ)段落0011から0013まで
「【0011】
【発明が解決しようとする課題】このようなデータキャリアシステムの応用として、セキュリティ管理施設の入退出管理手段として利用する場合に、入退出ゲートへ進入する者にIDタグを携帯させることで進入許可者の個人識別のチェックシステムを構成することが可能である。しかしながら、このシステムでは、IDタグを携帯しない進入不許可者が入退出ゲートを通過した場合は、その不法侵入を検出することが不可能である。
【0012】本発明は、上記技術課題に鑑みてなされたものであり、セキュリティ管理施設のゲート等への進入者が不法侵入である場合に検知可能な機能を付加せしめたデータキャリアシステムの提供を目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明の構成上の特徴の第1は、被検知人物が携帯する応答器手段と、ホストコンピュータと通信する質問器手段とよりなり、前記応答器手段が前記質問器手段に近接したときにウェイクアップして前記質問器手段との間でマイクロ波による通信を実行する第1通信手段と、前記応答器手段からのマイクロ波による前記被検知人物からのドップラー反射波により前記被検知人物の進入を検知する第2通信手段とを、具備せしめた点にある。」

(ウ)段落0016から0022まで
「【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係わるデータキャリアシステムの一実施形態を図1により説明する。図6で説明した要素と同一要素には同一符号を付して示す。図1において14はセキュリティ管理施設の入退出ゲート(図示せず)に進入する被検知人物(進入者)であり、この人物が合法的な進入許可者であればIDタグ1を所定位置に携帯しているものとし、進入者14が不法な侵入者であれば、IDタグ1を携帯していないものとする。
【0017】鎖線で示したブロックR/W7’は、ゲート近傍で進入者14の携帯するIDタグ1との通信可能な位置に固定配置されている。ウェイクアップ後のIDタグ1との通常通信の態様を説明する。ホストコンピュータ12からのコマンドを受けたMPU回路11は、IDタグにコマンドを送るためのデータをコード化回路15で作り、ASK変調回路10aに与えてVCO16の搬送波出力(周波数f)を変調する。変調されたマイクロ波は送受信回路の送信アンプ8aで電力増幅され、送信アンテナ9aより、進入者14の携帯するIDタグ1に向けて送出される。
【0018】IDタグ1よりの応答信号並びに進入者14の身体からのドップラー反射波は、受信アンテナ9bで受信され、送受信回路の受信アンプ8bで増幅されて出力RFがミキシング回路17に入力され、送信アンプ8a側より与えられる送信周波数の信号LOと混合される。ミキシング回路17の出力成分のうち、IDタグ1からの応答信号は復調回路10bでFSK復調されてMPU回路11に供給される。以上の通信態様は従来のデータキャリアシステムの動作と同一であり、IDタグ1を携帯する進入者14を確認、特定できる。
【0019】ミキシング回路17の出力成分のうち、ドップラー反射波の成分はローパスフィルタ18で抽出される。この交流信号Vdはレベル検出回路19に与えられ、振幅が一定レベル以上の場合には、入出力ゲートにおいて所定速以上で進入する人物あり、と判断しMPU回路11に発信する。このように、本発明では、図2(A),(B)に示すように同一の送信マイクロ波によりIDタグ1の応答検出とドップラー反射波による進入者14の検出とを同時に実行する。
【0020】…(略)…
【0021】…(略)…
【0022】このように、進入者14があれば、その移動速度Vに比例したドップラー周波数の信号Vdを得ることができる。従って、Vdにより進入者14が存在が検知され、かつIDタグ1による通信が正常に成立したときに進入者14は正規の許可者と判断され、IDタグ1による通信が成立しなかった場合には、検知された進入者14は不法侵入者と判断することが可能となる。」

イ.刊行物3の記載
刊行物3には、以下の記載がある。

(ア)段落0001から0003まで
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、無線通信システムに関し、特に、変調バックスキャッタ技術を用いた無線通信システムに関する。
【0002】
【従来の技術】機械、在庫品又は生き物を識別したりその動きをチェックする目的で、無線周波数識別(RFID)システムが利用されている。RFIDシステムは、質問器(インテロゲータ)と呼ばれる一つの無線送受信器と、タグと呼ばれる多数の安価な装置との間で通信する無線通信システムである。
【0003】RFIDシステムでは、変調無線信号を使用して質問器からタグへ通信し、タグは変調無線信号により応答する。質問器は、タグにメッセージを送った(ダウンリンクと呼ばれる)後に、連続波(CW)無線信号をタグに送る。それからタグは、変調バックスキャッタ(MBS)を用いてそのCWを変調する。このMBSでは、アンテナは、変調信号により、RF(無線周波数)放射の吸収体の状態からRF放射の反射体の状態に電子的にスイッチ操作される。この変調バックスキャッタにより、タグから質問器への通信(アップリンクと呼ばれる)が可能になっている。」

(イ)段落0004から0012まで
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来のMBSシステムは、(a)質問器の領域へと通過する物体を識別するため、及び(b)タグ上にデータを記憶し後にそのタグからデータを取り出して、目録を管理したり他の有用なアプリケーションを行う。
【0005】…(略)…
【0006】別のセンサーにおいては、基地装置(質問器)に対するセンサー(タグ)の相対的速度を知るために用いられる。例えば、電子料金回収システムにおいては、タグを識別するだけではなく、タグへデータを記憶しそれを取り出すことのみではなく、タグの速度を判断すること(例として、速度超過していること)が重要となる。
【0007】セキュリティアクセスにおいては、タグを有する物体を識別し、タグの速度を判断し、また、タグが存在するかに関わらずタグの運動が読みとりフィールドの範囲内にあるかを判断することは有用である。
【0008】…(略)…
【0009】本発明の幾つかの実施例においては、質問器に対するタグの相対的速度を決める機能、タグが存在していないときでも運動が読みとりフィールド内にあるかを判断する機能、タグに付いている装置(ポンプ等)の振動兆候を決める機能等を行うMBS RFIDシステムを用いる方法を開示する。
【0010】この方法においては、1以上の質問器を有する高価でないRFID網を、RFID機能、センサー機能、運動検出、及びセンサーデータ解析機能を行う手段により構築できる。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明の一実施例において、無線通信システムは、無線信号を生成、送信する質問器を有する。無線通信システム内には1以上のタグ(トランスポンダ)が含まれる。バックスキャッタ変調器は、サブ搬送信号を用いて無線信号の反射を変調し、これにより反射された変調信号を形成する。質問器はこの反射変調信号を受信し復調する。
【0012】この復調された信号の特性に基づき、質問器はタグの識別情報、及び質問器に対するタグの相対的速度を判断することができる。また、質問器は、その質問器の周囲にて運動があるかどうかをタグが存在していなくても、別の運動検出システムを必要とせずに、判断できる。また、復調信号の特性により、振動周波数のようなタグの運動の特性を判断するのに用いることができる。」

(ウ)段落0014から0021まで
「【0014】
【発明の実施の形態】本発明は、RFIDタグの識別情報を得るような従来のRFID能力と、運動及び速度の判断を統合する方法を提供する。RFID質問器は、タグからの反射MBS信号に基づいてタグの特定の特性(例えば、質問器に対する相対速度、タグが振動する物体に取り付けられている場合の振動特性)を判断できる。
【0015】MBS動作
図1は、この発明を適用を示すのに適したRFIDシステムの一実施例の全体ブロック図を示すものである。アプリケーションプロセッサ101は、ローカルエリアネットワーク(LAN)102を介して複数の質問器103、104に通信する。質問器それぞれはさらに、タグ105?107のうちの一つ又は複数と通信する。たとえば、質問器103は、情報信号を、たとえばアプリケーションプロセッサ101から受信する。質問器103はこの情報信号を取り入れ、プロセッサ200(図2参照)は、タグに送信するのに適した形式のダウンリンク・メッセージ(情報信号200a)を生成する。
【0016】図1及び図2において、無線信号源201は無線信号を合成し、変調器202はその無線信号に乗せて情報信号200aを変調し、送信器203はこの変調された信号をアンテナ204を通じてタグに送信する。…(略)…
【0017】タグ105(図3参照)では、アンテナ301(通常、ループアンテナ又はパッチアンテナ)が変調信号を受信する。この信号は、検出器/変調器302によって直接にベースバンドに復調される。…(略)…
【0018】それから情報信号200aはアンプ303によって増幅され、クロック回復回路304で同期回復される。…(略)…クロック回復回路304の出力情報はプロセッサ305へと送られる。
【0019】プロセッサ305は…(略)…実行する特定のプログラムに基づいて情報信号306を生成する。情報信号306は結局はタグ105から戻って質問器(例えば103)へと送られる。
【0020】情報信号306は変調器制御回路307に送られる。変調器制御回路307は、情報信号306をサブ搬送周波数源308で生成されたサブ搬送周波数に変調して信号311を作るのに使用する。…(略)…
【0021】変調サブ搬送信号311は、検出器/変調器302が、タグ105から受信したRF信号を変調して変調バックスキャッタ信号(たとえば反射信号)を生成するのに使用される。…(略)…電池310又はその他の電源は、タグ105の回路に電力を供給する。また、電力は誘電カップリング、マイクロ波を用いて受けることができる。」

(エ)段落0027から0033まで
「【0027】相対的速度
まず、MBSシステムがどのように質問器と、例えば乗り物との間の相対的速度を決めているのかを説明する。この例の場合、乗り物が測定時間の間、一定の方向、一定の速度で移動しているものと仮定する。速度を決めるため、CW警察用ドップラーレーダーシステムと同様のMBSシステムを用いる。図4に示すような単純なドップラーレーダーシステムは、質問器410から送信されたCW信号420を用い、この信号は移動自動車440により反射される。その反射信号430は、移動自動車のドップラーシフトによって、RF搬送波(f_(c)、420参照)から周波数シフトされる。レーダードップラーシフト(Δf)を相対的速度(v)と関連づける式を以下の数式1に示す。
v=Δf*λ/2 ・・・(1)
ここで、λはRF波(f_(c))の波長である。数式1が2の係数を持っている理由は、レーダードップラーシフトにおいては2つ分のドップラーシフトがあるからである。
【0028】周波数シフトΔfは質問器410において以下のように検出される。この方法を用いる質問器の詳細なブロック図を図5に示す。無線信号源501はCWRF信号を生成し、これは送信アンテナ504を用いて送信器503により送信される。この信号は、送信信号510と呼ばれる。反射信号520は受信アンテナ505により受信され、低雑音アンプ506により増幅される。(ここで、レーダーシステムは単一の送信/受信アンテナを用いてもよい。)ミキサ507は、無線信号ソース501から来るRFソース(502)信号を混合し、信号508を作る。(ミキサ507への入力と同じ無線信号ソースを用いると、ホモダイン検出を構成することになる。)周波数f_(c)と、反射信号520の周波数の差(ドップラーシフト)はΔfである。信号508の周波数Δfは周波数検出器509により決められ、制御プロセッサ510はΔfの値を用いて相対的速度を決め、RF搬送波周波数f_(c)は既知なので数式1を用いて質問器と自動車との間の相対的速度へと数学的に変換できる。この時点においてあいまいさが存在することに留意する、上の流れにおいてはドップラーシフトΔfの絶対値を決めることができるが、他の情報が存在すれば、上の流れではΔfの符号は決めることはできない。即ち、質問器と自動車がお互い近づいているのか遠くなっているのかがわからない。このあいまいさを解決するためには他のデータが必要である。
【0029】…(略)…
【0030】ドップラーシフトされたサブ搬送ここでは、ドップラーシフトされたサブ搬送を用いて、質問器が自身とこれに協力するタグの間の相対的速度を決める方法を開示する。ここで、RFIDシステムは、交流電源の電線の周波数と比べて、正確な周波数のサブ搬送f_(s)、ディジタル信号処理、及びサブ搬送の正確な位置を用いることによって拡張された領域を達成することができる。一実施例においては、周波数f_(s)における狭帯域サブ搬送を用いる。この狭帯域サブ搬送は、小さなノイズ帯域幅と、及びサブ搬送がRF搬送周波数f_(c)からf_(s)離れた周波数に位置してクラッターノイズが大幅に減少することが原因で、より長い距離の範囲で検出される。
【0031】狭帯域サブ搬送信号を用いてRFIDシステムのドップラー効果を考える。簡明さのため、RFIDタグが質問器に向かって移動しているものとする(RFIDタグが質問器から離れる場合にも同様な解析が成り立つ。)。Δfを2方向のドップラーシフトとして用いる(数式1で用いたように)。質問器103は周波数f_(c)でRF信号をタグ105へ送信する。タグ105は周波数源308の範囲でサブ搬送周波数f_(s)を生成する(図3参照)。一実施例において、変調器制御307が更なる変調を行わないものと仮定する。周波数f_(s)は検出器/変調器302へと課され、この検出器/変調器302は、f_(c)の入来CW周波数と混合する。この処理の出力は質問器103により受けられる。即ち、周波数(f_(c)+Δf)のドップラーシフトされた非変調反射602と、周波数(f_(c)-f_(s)+Δf)のドップラーシフトされた変調反射604と、周波数(f_(c)+f_(s)+Δf)のドップラーシフトされた変調反射603である。(ここで、受信信号が複雑な形式であっても同じ結果を得る。)図6には、これらの信号の相対的位置を示してある。ミキサ507を通しての復調の後、図7のように信号509は現れる。ドップラーシフトされた非変調反射602は、典型的なレーダーシステムにおいて処理される上述の信号である。これは一般に数百Hzのオーダーであり、従って低周波可聴音として検出できる。ドップラーシフトされた非変調反射602は、RF場にある物体の相対的速度を決めるのに用いることができるが、複数のものはRF場において異なる速度で移動し得る。この場合、Δfの値が異なる複数のドップラーシフトされた非変調反射602が存在し、どの反射がタグの移動を表すかが明確でなくなる。このことは、どの信号が真のターゲットを表すか、及びどの信号が他の反射ソースからの「クラッター」であるかというレーダーにおける旧来からの問題である。
【0032】従って、タグと質問器の間の相対的速度を測定するために、ドップラーシフトされたサブ搬送信号を用い、従って、それぞれベースバンド周波数(f_(s)-Δf)と(f_(s)+Δf)におけるドップラーシフトされた変調反射である信号702と703に関心がある。これら2つの信号の「帯域幅」、即ち、これらの信号の中央周波数の間の距離は、2Δfである。ここで、もし質問器とタグの間の相対的速度が一定ならば、受信した信号は周波数(f_(s)-Δf)と(f_(s)+Δf)における2つの音であり、これらの2音の間に信号はないことに留意する。また上述のように、Δfの符号の決定において基本的なあいまいさがあることに留意する。1つが(f_(s)-Δf)、他方が(f_(s)+Δf)にある2つの同一の信号があるので、更なる情報なしでは質問器とタグが近づいているのか遠ざかっているのかは決めることができない。
【0033】従って、タグと図1の質問器と似ているRFID質問器の間の相対的速度を決めるために、フィルターアンプ210によって信号508をフィルタリングし、増幅する。このフィルタは、サブ搬送周波数f_(s)を中心にして広がり、期待される最大の2Δf帯域幅信号を通過するのに十分に広い帯域幅を有する。(実際には、旧来のRFID通信で同じシステムで相対的速度を測定するとフィルタアンプ210の帯域は場タグから質問器へのアップリンク信号を通過するのに十分に広い。これらの信号は容易に帯域幅100kHz以上となり、サブ搬送周波数f_(s)を中心に広がる。)信号の帯域幅2Δfを検出するため、サブ搬送復調器212(通常のRFID通信のために復調及びフィルタリングされた信号211から情報信号213を抽出するのに用いる。)は、この場合、サブ搬送周波数f_(s)において存在する信号の「帯域幅」を測定するのに用いられる。信号帯域幅2Δfをわかると、数式1を用いて相対的速度vを求めることができる。」

ウ.刊行物2及び3に記載された周知技術
刊行物2には、R/W7’と、R/W7’から離れた位置にあり、R/W7’とマイクロ波によるデータ通信を行うIDタグ1とからなるデータキャリアシステムにおいて、R/W7’が受信した、IDタグ1を携帯している又は携帯していない進入者14の身体からのドップラー反射波に基づいて、進入者14の移動速度Vを検出することが記載されている。
刊行物3には、無線送受信機である質問器103と、無線変調信号を使用して質問器103からの通信を受け、質問器103に応答するタグ105とからなる無線周波数識別(RFID)システムにおいて、質問器103が受信したタグ105からの反射MBS信号のドップラーシフトに基づいて、タグ105の質問器103に対する相対速度を測定することが記載されている。
すなわち、刊行物2及び3のいずれにも、読み取り装置(R/W7’、質問器103)とタグ(IDタグ1、タグ105)とからなる識別システム(データキャリアシステム、無線周波数識別(RFID)システム)において、読み取り装置が受信した反射波のドップラーシフト(ドップラー反射波、反射MBS信号のドップラーシフト)に基づいて、タグ(進入者14が携帯するIDタグ1、タグ105)の移動速度を測定することが記載されている。したがって、これは、本件出願の優先日前に当業者に周知の技術である。

3.対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。

(1)引用発明の「読取り装置12と複数のタグ18、19、20とを含む識別システム10」及び「読取り装置12」は、それぞれ、本件補正発明の「無線周波識別(RFID)検出システム」及び「RFIDリーダー」に相当する。

(2)引用発明の「読取り装置12」は、「無線周波数(RF)領域、特にUHF領域の周波数である約900メガヘルツの周波数範囲で動作」する「送信機16」を備えているから、無線周波数源を備えることが明らかである。
したがって、引用発明の「読取り装置12」は、本件補正発明の「RF信号を生成するRF源」に相当する構成を備える。

(3)引用発明の「受信機14及び送信機16が共有するアンテナ」は、「送信機16」に接続されていることが明らかであるから、本件補正発明の「前記RF源に連結されたアンテナ」に相当する。

(4)引用発明の「複数のタグ18、19、20のそれぞれであるタグ30」は、本件補正発明の「一つのRFIDマーカー」に相当する。
引用発明の「タグ30」が「流通段階の商品などの多様な種類の物品に付して使用されるもの」であることは、本件補正発明の「一つのRFIDマーカー」が「アイテムに取り付けるように構成された」ことに相当する。
引用発明の「タグ30」は、「応答又は他のデータを読取り装置12に送信するもの」であるから、引用発明の「タグ30」が「付して使用される」「流通段階の商品などの多様な種類の物品」は、明らかに、「読取り装置12」と交信できる領域にあることが想定されている。これは、本件補正発明の「一つのRFIDマーカー」を「取り付ける」「アイテム」が「呼掛領域内のアイテム」であることに相当する。

(5)引用発明の「受信機14及び送信機16が共有するアンテナ」は、「受信機14」に接続されていることが明らかである。また、「タグ30」が「読取り装置12に送信する」「応答又は他のデータ」は、「受信機14」によって受信されることも明らかである。
したがって、引用発明の「受信機14及び送信機16が共有するアンテナ」は、本件補正発明の「一つのRFIDマーカーからのRF信号に応答して受信された前記呼掛領域内の交信信号を受信」する「アンテナ」に相当する。

(6)引用発明の「タグ30」は、「発送、受け取り、追跡及び運送計画を含む流通・倉庫アプリケーション、車両の出入りの監視などの輸送アプリケーション、偽造防止アプリケーション、店舗内における受け取り、棚卸し管理、商品追跡、盗難防止、盗難検知、警備及び盗難予測を含む小売りアプリケーションなどに使用されるもの」であるから、「タグ30」が「付して使用される」「流通段階の商品などの多様な種類の物品」は、一般に、移動するものである。
そうすると、「タグ30」が「読取り装置12に送信する」「応答又は他のデータ」は、一般に、「タグ30」の移動に伴うドップラー信号を含むことになる。これは、本件補正発明の「アンテナ」が「受信」する「前記呼掛領域内の交信信号」が「前記呼掛領域内の前記RFIDマーカーの移動を示すドップラー信号を含む」ことに相当する。

(7)引用発明の「タグ30」が「読取り装置12に送信する」「応答又は他のデータ」は、「受信機14」によって受信されることが明らかであるから、引用発明の「受信機14」は、本件補正発明の「前記RFIDマーカーからの前記交信信号を受信する受信機」に相当する。

(8)引用発明の「読取り装置12」は、「低出力モードにあるときもドップラー信号を検出する能力を有し、ドップラー信号が観察されなければ、高出力インベントリが必要とされず、低出力モードに無期限に留ま」るから、「タグ30」が「読取り装置12に送信する」「応答又は他のデータ」に含まれるドップラー信号を抽出し、検出する回路を備えることが明らかである。
したがって、引用発明の「読取り装置12」は、本件補正発明の「前記交信信号から前記ドップラー信号を抽出すると共に、前記ドップラー信号を検出する運動検出回路系」に相当する構成を備える。

(9)引用発明の「タグ30」が「読取り装置12に送信する」「応答又は他のデータ」は、一般に、「タグ30」の移動に伴うドップラー信号を含むから(上記(6))、「ドップラー信号が観察されな」いことは、「タグ30」の移動がないことを意味する。
そうすると、引用発明の「読取り装置12」が「ドップラー信号が観察されなければ、」「低出力モードに無期限に留ま」ることは、本件補正発明の「前記リーダー」が「前記RFIDマーカーの移動が無いときには、」「第1の電力モードで作動する」ことに相当する。

(10)引用発明の「読取り装置12」は、「ドップラー信号が観察されなければ、高出力インベントリが必要とされず、低出力モードに無期限に留ま」るのであるから、反対に、ドップラー信号が観察されれば、「高出力インベントリ」が必要とされることになる。
そうすると、引用発明の「読取り装置12」が「ドップラー信号が観察されなければ、高出力インベントリが必要とされず、低出力モードに無期限に留ま」ることは、本件補正発明の「前記リーダー」が「前記呼掛領域へ入る前記アイテムによる到来するドップラー信号が検出されたならば、前記RFIDマーカーへの呼掛に適する第2の電力モードへ切り換えられ、その第2の電力モードは第1の電力モードよりも大き」いことに相当する。

(11)引用発明の「タグ30」が「読取り装置12と連係するホスト・システムによって理解されるデータのフィールドから構成される符号を含むものである」ことから、「読取り装置12と連係するホスト・システム」が存在することが明らかである。
引用発明の「読取り装置12と連係するホスト・システム」と本件補正発明の「RFIDリーダー」が「備える」「前記ドップラー信号を分析して前記アイテムが移動している相対的な方向及び速度を決定すると共に、前記呼掛領域内の前記アイテムが初期の場所から他の場所へ移動したことを決定するホストコンピュータ」とは、「RFIDリーダー」が「備える」「ホストコンピュータ」である点で共通する。

(12)以上のことをまとめると、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「無線周波識別(RFID)検出システムに用いられるRFIDリーダーであって、
RF信号を生成するRF源と、
前記RF源に連結されたアンテナであり、呼掛領域内のアイテムに取り付けるように構成された一つのRFIDマーカーからのRF信号に応答して受信された前記呼掛領域内の交信信号を受信し、
その交信信号は、前記呼掛領域内の前記RFIDマーカーの移動を示すドップラー信号を含むアンテナと、
前記RFIDマーカーからの前記交信信号を受信する受信機と、
前記交信信号から前記ドップラー信号を抽出すると共に、前記ドップラー信号を検出する運動検出回路系とを備え、
前記リーダーは、前記RFIDマーカーの移動が無いときには、第1の電力モードで作動すると共に、前記呼掛領域へ入る前記アイテムによる到来するドップラー信号が検出されたならば、前記RFIDマーカーへの呼掛に適する第2の電力モードへ切り換えられ、その第2の電力モードは第1の電力モードよりも大きく、
前記RFIDリーダーは更に、
ホストコンピュータを備えるリーダー。」

(相違点1)
本件補正発明の「第1の電力モード」は、「前記RFIDマーカーへの呼掛には適さない」ものであるのに対し、引用発明の「低出力モード」(本件補正発明の「第1の電力モード」に相当する。)は、「タグ30」(本件補正発明の「RFIDマーカー」に相当する。)との関係が不明である点。

(相違点2)
本件補正発明の「ホストコンピュータ」は、「前記ドップラー信号を分析して前記アイテムが移動している相対的な方向及び速度を決定すると共に、前記呼掛領域内の前記アイテムが初期の場所から他の場所へ移動したことを決定する」ものであるのに対し、引用発明の「ホスト・システム」(本件補正発明の「ホストコンピュータ」に相当する。)は、そのようなものでない点。

4.相違点についての判断
(1)相違点1について
引用発明の「読取り装置12」が「低出力モードにあるときもドップラー信号を検出する能力を有し、ドップラー信号が観察されなければ、高出力インベントリが必要とされず、低出力モードに無期限に留ま」るのは、刊行物1の段落0112に記載されているとおり、「電力送信、電力消費、帯域幅使用を最小化する」ためである。
したがって、引用発明の「読取り装置12」が「低出力モードにあるとき」の消費電力をできるだけ少なくするために、「低出力モード」における出力を「ドップラー信号を検出する能力」を維持できる範囲で最小化することは、当業者にとって自明である。
引用発明の「読取り装置12」が「低出力モードにあるとき」に、「タグ30」が「読取り装置12に送信する」「応答又は他のデータ」を受信できないことは、「低出力モード」における出力を「ドップラー信号を検出する能力」を維持できる範囲で最小化したことの単なる結果にすぎない。
このとき、引用発明の「読取り装置12」が相違点1に係る構成を備えることは、明らかである。

(2)相違点2について
ア.まず、本件補正発明の「ホストコンピュータ」が「前記ドップラー信号を分析して前記アイテムが移動している相対的な方向及び速度を決定すると共に、前記呼掛領域内の前記アイテムが初期の場所から他の場所へ移動したことを決定する」ことの具体的な意味を検討する。
本件出願の明細書には、「前記ドップラー信号を分析して前記アイテムが移動している相対的な方向及び速度を決定する」ことについて、以下の記載がある。

「【0018】
図2を再度参照すると、リーダー12には、到来ベースバンド信号からドップラー信号を検出すると共に、そのドップラー信号を処理のために分離させることを可能とする回路系が設けられている。具体的には、受信機24に到達する信号はミキサ26へ送られて、ここで必要に応じて、到来RF信号の周波数が異なる周波数へ変換されるようにしてもよい。アイテムの移動を示すドップラー信号は到来信号から濾波されて、ドップラー信号のみを包む派生信号がデジタル信号プロセッサ(DSP)28によって個別に処理される。到来信号の残りは、例えば、受信機24内のキャパシタ30を介してDSP28へ渡されて、ここで個別に処理される。
【0019】
変更されたドップラー信号は、ホストコンピュータ16により更に分析することができる。到来信号から濾波されたこれらの信号は、アイテムが移動している相対的な方向及び速度を決定するために更に分析してもよい。RFIDリーダー12におけるドップラー信号検出回路系の内包物以外には、RFID呼掛領域内のアイテムの移動を検出及び監視するために必要な付加的なハードウェアは無いことに留意されたい。この方式では、RFIDリーダー12は、その通常のマーカー呼掛機能に加えて、運動センサーの働きをなして、例えば、呼掛領域内の製品が初期の場所から他の場所、例えば保管区域へ移動したことを決定することができる。」

すなわち、本件出願の明細書には、アイテムの相対的な移動方向及び移動速度を決定するために、ドップラー信号をホストコンピュータ16により更に分析することが記載されているだけで、ドップラー信号からアイテムの相対的な移動方向及び移動速度を決定するための具体的な方法は記載されていない。
したがって、本件補正発明の「ホストコンピュータ」は、当業者に知られた適宜の方法を用いて、「前記ドップラー信号を分析して前記アイテムが移動している相対的な方向及び速度を決定する」ものと認められる。
また、本件出願の明細書の上記記載から、「前記ドップラー信号を分析して前記アイテムが移動している相対的な方向及び速度を決定する」ことと、「前記呼掛領域内の前記アイテムが初期の場所から他の場所へ移動したことを決定する」こととは、それぞれが別個に行われるのではなく、「前記ドップラー信号を分析して前記アイテムが移動している相対的な方向及び速度を決定する」と、それがそのまま「前記呼掛領域内の前記アイテムが初期の場所から他の場所へ移動したことを決定する」ことになるものと認められる。

イ.ところで、上記2.(2)ウ.でみたように、読み取り装置とタグとからなる識別システムにおいて、読み取り装置が受信した反射波のドップラーシフトに基づいてタグの移動速度を測定することは、本件出願の優先日前に当業者に周知の技術である。
一方、引用発明の「読取り装置12」は、「読取り装置12と複数のタグ18、19、20とを含む識別システム10」の構成要素であり、「識別システム10」は、上記周知の技術の前提である「読み取り装置とタグとからなる識別システム」にほかならない。また、引用発明の「読取り装置12」は、「ドップラー信号を検出する能力を有し」ている。さらに、引用発明の「応答又は他のデータを読取り装置12に送信する」「タグ30」は、「車両の出入りの監視などの輸送アプリケーション」「に使用されるもの」であるから、(車両に付して使用される)「タグ30」の移動方向及び移動速度は、引用発明の「識別システム10」を使用する者にとっての関心事項であると認められる。
以上のことを勘案すると、引用発明の「読取り装置12」が検出した「ドップラー信号」に基づいて「タグ30」の移動速度を測定することは、上記周知の技術の単なる適用にすぎない。その際、必要な演算を引用発明の「読取り装置12と連係するホスト・システム」に行わせることは、当業者が適宜行い得る設計事項にすぎない。
また、上記周知の技術では、移動方向までは測定することができないが、刊行物3の段落0028に記載されているように、他のデータを用いれば移動方向まで特定できることが知られているから、引用発明の「読取り装置12と連係するホスト・システム」に適宜の方法を実行させて、「タグ30」の移動速度に加えて移動方向を測定することも、当業者が適宜行い得ることである。
その結果、引用発明の「読取り装置12」が相違点2に係る構成を備えることは、明らかである。

5.請求人の主張について
請求人は、審判請求書の「5.引用文献との対比説明」において、次のように主張する。

「引用文献1(特表2005-528815号公報)は、その段落0002に記載されたように「識別の分野に関し、さらにタグを識別するための方法および装置に関する」ものであり、ドップラー信号を抽出して検出することは開示も示唆もされていません。」

しかし、引用発明の「読取り装置12」は、「低出力モードにあるときもドップラー信号を検出する能力を有し、ドップラー信号が観察されなければ、高出力インベントリが必要とされず、低出力モードに無期限に留ま」るから、「タグ30」が「読取り装置12に送信する」「応答又は他のデータ」に含まれるドップラー信号を抽出し、検出する回路を備えることが明らかである(上記3.(8))。
したがって、請求人の主張は、採用することができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)と周知技術とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件出願に係る発明についての判断
1.本件出願に係る発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1から16までのそれぞれに係る発明は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1から16までのそれぞれに記載された事項によって特定されるとおりのものである。そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
無線周波識別(RFID)検出システムに用いられるRFIDリーダーであって、
RF信号を生成するRF源と、
前記RF源に連結されたアンテナであり、呼掛領域内の一つのRFIDマーカーからのRF信号に応答して受信された前記呼掛領域内の交信信号を受信し、その交信信号は、前記呼掛領域内の前記RFIDマーカーの移動を示すドップラー信号を含むアンテナと、
前記RFIDマーカーからの前記交信信号を受信する受信機と、
前記交信信号から前記ドップラー信号を抽出すると共に、前記ドップラー信号を検出する運動検出回路系とを備え、
前記リーダーは前記RFIDマーカーへの呼掛には適さない第1の電力モードで作動すると共に、到来するドップラー信号が検出されたならば、前記RFIDマーカーへの呼掛に適する第2の電力モードへ切り換えられ、その第2の電力モードは第1の電力モードよりも大きいリーダー。」

2.原査定の拒絶の理由
本件発明に対する原査定の拒絶の理由は、概略以下のとおりである。

「本件発明は、本件出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1に記載された発明と周知技術とに基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特表2005-528815号公報(前掲)」

3.刊行物1に記載された事項
刊行物1に記載された事項は、上記「第2」2.(1)に記載したとおりである。

4.対比・判断
本件発明は、本件補正発明から、「呼掛領域内の一つのRFIDマーカー」が「アイテムに取り付けるように構成された」ものである旨の限定と、「前記リーダー」が「前記RFIDマーカーへの呼掛には適さない第1の電力モードで作動する」条件が「前記RFIDマーカーの移動が無いとき」である旨の限定と、「前記リーダー」が「前記RFIDマーカーへの呼掛に適する第2の電力モードへ切り換えられ」る条件である「到来するドップラー信号が検出された」ときについて、「到来するドップラー信号」が「前記呼掛領域へ入る前記アイテムによる」ものである旨の限定と、「前記RFIDリーダー」が「更に、前記ドップラー信号を分析して前記アイテムが移動している相対的な方向及び速度を決定すると共に、前記呼掛領域内の前記アイテムが初期の場所から他の場所へ移動したことを決定するホストコンピュータを備える」旨の限定とを省いたものである。
そして、本件発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記の限定を付加した本件補正発明は、上記「第2」3.から6.までに記載したとおり、刊行物1に記載された発明と周知技術とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうすると、本件発明も同様に、刊行物1に記載された発明と周知技術とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、刊行物1に記載された発明と周知技術とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-24 
結審通知日 2014-09-30 
審決日 2014-10-20 
出願番号 特願2009-526676(P2009-526676)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 説志  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 関根 洋之
酒井 伸芳
発明の名称 IDドップラー移動検出器  
代理人 奥谷 雅子  
代理人 山崎 行造  
代理人 尾首 亘聰  
代理人 赤松 利昭  
代理人 内藤 忠雄  
代理人 今井 千裕  

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