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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 G10H |
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管理番号 | 1298067 |
審判番号 | 無効2011-800016 |
総通号数 | 184 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-04-24 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2011-02-02 |
確定日 | 2012-07-11 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3097534号発明「楽音生成方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 平成7年12月21日:出願(特願平7-349045号) 平成12年8月11日:特許権の設定登録(特許第3097534号) 平成23年2月 2日:本件無効審判請求 平成23年4月21日:答弁書提出(被請求人) 平成23年7月12日:口頭審理陳述要領書提出(請求人及び被請求人) 平成23年7月26日:上申書提出(被請求人) 平成23年7月26日:口頭審理 第2.本件発明 本件無効審判請求は、請求項1に係る発明についての特許の無効を主張するものである。本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という)は、その請求項に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その記載は次のとおりである。 「【請求項1】 演算処理装置による演算により楽音波形サンプルを生成する楽音生成方法であって、 複数のサンプリング周期に対応する演算周期毎に該演算周期に対応する期間に含まれる複数の楽音波形サンプルを一括生成する楽音波形サンプル生成処理を起動し、 波形のエンベロープ特性を前記演算周期を単位とする折れ線により近似して各サンプリングタイミングにおけるエンベロープ値を算出することを特徴とする楽音生成方法。」 第3.当事者の主張の要約 1.請求人の主張 請求人は、特許3097534号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として、以下の無効理由を主張し、証拠方法として甲第1号証?甲第10号証を提出した。 [無効理由] 本件請求項1に係る発明は、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。 [証拠方法] 甲第1号証:特開平2-179694号公報 甲第2号証:特開平7-261763号公報 甲第3号証:特開昭52-43415号公報 甲第4号証:特開平2-179692号公報 甲第5号証:特開平3-78799号公報 甲第6号証:特開平4-51000号公報 甲第7号証:特開平4-58291号公報 甲第8号証:特開平2-179692号公報 甲第9号証:特開平4-136994号公報 甲第10号証:特開平5-6171号公報 (なお、甲第3号証?甲第7号証は、本件出願当時の周知慣用技術(楽音を演算生成する音源装置において、複数の発音チャンネルを備えること)を示す文献として、甲第8?甲第10号証は、本件出願当時の周知慣用技術(エンベロープの特性曲線を折れ線で近似すること)を示す文献として提示されている。) 2.被請求人の主張 被請求人は、答弁書を提出し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の主張する無効理由に対して、次のように反論する。 本件請求項1に係る発明は、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないので、請求人の主張する無効理由は理由がない。 第4.当審の判断 1.甲各号証の記載事項 (1)甲第1号証(特開平2-179694号公報) 甲第1号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ア.「[発明の目的] すなわち、この発明の目的は専用の音源回路ハードウェアを使用しないで楽音を生成でき、かつ特性に制限のないエンベロープを正確なタイミングで生成可能な電子楽器用処理装置を提供することである。 [発明の構成、作用] この発明によれば、上記の目的を達成するため、プログラムを記憶するプログラム記憶手段と、このプログラム記憶手段のアドレスを卸御するアドレス制御手段と楽音の生成に必要なデータを記憶するデータ記憶手段と、演算回路手段と、上記プログラム記憶手段のプログラムの各命令を解読して上記各手段の動作を制御するオペレーション制御回路手段とを備えるマイクロコンピュータを使用し、更にこのマイクロコンピュータに楽音のサンプリングタイムごとに割込信号を発生するタイマーインタラプト制御回路手段を設け、この割込信号によって上記プログラム記憶手段から呼び出され、実行されるプログラムのなかに楽音の波形を演算するルーチンと楽音のエンベロープを演算するルーチンとを含めることにより、楽音の波形の生成に合わせてエンベロープの生成動作が行われるようにしたことを特徴とする電子楽器用処理装置が提供される。」(第3頁右下欄第14行?第4頁左上欄第19行) イ.「[実施例] 以下、図面を参照してこの発明の実施例を説明する。 本実施例に係る電子楽器の全体構成を第1図に示す。装置全体の制御はマイクロコンピュータ1により行われる。特に、この発明に従い、楽器の制御入力の処理のみならず、楽音を生成する処理もマイクロコンピュータ1で実行され、楽音生成用の音源回路ハードウェアは必要としない。鍵盤2と機能キー3とから成るスイッチ部4は楽器の制御入力源であり、スイッチ部4から入力された情報はマイクロコンピュータ1で処理される。マイクロコンピュータ1の生成したアナログ変換後の楽音信号はローパスフィルタ5でフィルタリングされ、アンプ6で増幅され、スピーカ7を介して放音される。電源回路8はマイクロコンピュータ1、ローパスフィルタ5、アンプ6に必要な電源を供給する。」(第4頁左下欄第1行?第18行) ウ.「所定時間ごとに制御用ROM31の楽音生成プログラムを実行するため、この実施例ではタイマーインタラプトを採用している。すなわち、タイマーを有するインタラプト制御部40により、一定時間ごとにROMアドレス制御部39は制御信号(割込要求信号)を送り、この信号により、ROMアドレス制御部39は次に行うメインプログラムの命令のアドレスを退避(保持)し、楽音の生成が行われるインタラプトサービスプログラムの先頭アドレスを代わりにセットする。これにより、インタラプト処理プログラムが開始される。インタラプトサービスプログラムの最後には、リターン命令があるので、このリターン命令がオペレーション解析部38で解読された時点で、ROMアドレス制御部39は退避してあったアドレスを再度セットし、メインプログラムに復帰する。後述するようにこのインタラプトサービスプログラム(以下、インタラプト処理プログラムという)のなかに、各々のチャンネルの楽音の波形を演算するルーチンと楽音のエンベロープを演算するルーチンが含まれており、インタラプトの周期(楽音のサンプリング周期)で波形とエンベロープの生成が可能になっている。」(第5頁左上欄第20行?同頁左下欄第2行) エ.「第3C図のC2?C9の処理を1チャンネル分について詳細に示したのが第7図である。チャンネル処理は大きく分けてエンベロープ処理(D1?D7)と波形処理(D8?D21)から成る。」(第6頁右下欄第3行?第7行) オ.「次に、波形処理D8?D21について述べる。波形処理では、現在アドレスの整数部を使って波形ROMから隣り合う2つのアドレスの波形データを読み出し、(整数部+小数部)で示される現在アドレスに対して想定される波形値を補間で求めている。補間が必要な理由は、インタラプトによる波形サンプリング周期が一定であり、アドレスの加算値(ピッチデータ)が楽器への応用上、ある音域にわたるためである(音階音しか出力しない楽器で音階音ごとに波形データを用意すれば補間の必要はないが許容できない記憶容量の増大となる。)補間による音色の劣化、歪みは高音域の方が著しいため、通常は、原音の記録サンプリング周期より高速の周期で原音を再生する。この実施例では原音(A4)再生の周期を2倍にしている(第9図)。したがって、アドレス加算値が0.5のとき、A4の音が得られるようになっている。この場合、A#4ではアドレス加算値は0.529となり、A3のとき、1となる。これらのアドレス加算値はピッチデータとして制御データ兼波形ROM37に記憶されており、押鍵時には発音処理A9において、鍵に対応するピッチデータと選択されている音色の波形スタートアドレス、波形エンドアドレス及び波形ループアドレスがRAM34の対応をするレジスタ、すなわち、アドレス加算値レジスタ、スタートアドレス兼現在アドレスレジスタ、エンドアドレスレジスタ、ループアドレスレジスタにセットされる。 参考までに、第10図に時間に対する補間波形データを示す。図中、白丸は波形ROMのアドレスにある波形データ値、黒丸は補間値を示している。 補間の方式はいろいろあるが、ここでは直線補間を採用している。第7図の波形生成処理D8?D21を詳細に述べると、まず、D8で現在アドレスにアドレス加算値を加算して新しい現在アドレスを得る。D9で現在アドレスとエンドアドレスを比較し、現在アドレス>エンドアドレスならば、D10,D11により、現在アドレス<エンドアドレスのときはD12により、物理上(番地上)または論理上(動作上)の次のアドレスを計算し、D14でその整数部により波形ROMをアクセスして次回波形データを得る。ループアドレスは動作上エンドアドレスの次のアドレスである。すなわち、第9図の場合、図示の波形は繰り返し読み出される。したがって、現在アドレス=エンドアドレスのときは次のアドレスとしてループアドレスの波形データを読み出す(D13)。D15、D16により、現在アドレスの整数部で波形ROMをアクセスして今回の波形データを読み出す。次に、D17で次回波形値から今回波形値を減算し、D18でその差に現在アドレスの小数部を乗算し、その結果をD19で今回の波形値に加えることにより、波形の直線補間値を求める。この直線補間したデータに上記エンベロープ処理で得ている現在エンベロープ値を乗算してチャンネルの楽音データ値を得(D20)、それを波形加算用レジスタの内容に加えて楽音データを累算する(D21)。」(第7頁左下欄第10行?第8頁右上欄第8行) 以上を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されている。なお、甲第1号証の電子楽器用処理装置は、楽音波形の生成の動作を行うものであるから、方法の発明として捉えて楽音波形生成方法として認定した。 「マイクロコンピュータによる演算により楽音波形の生成を行う電子楽器用処理装置の楽音波形生成方法であって、 楽音のサンプリングタイムごとの割込信号により実行されるプログラムのなかに、楽音の波形を演算するルーチンと楽音のエンベロープを演算するルーチンとを含め、 前記プログラムでは、今回波形値と次回波形値とをアドレスの小数部で直線補間し、直線補間したデータに現在エンベロープ値を乗算してチャンネルの楽音データを得、それを波形加算用レジスタの内容に加えて楽音データを累算し、 前記エンベロープの波形は折れ線により近似されている、 楽音波形生成方法。」 (2)甲第2号証(特開平7-261763号公報) 甲第2号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。 「【0001】 【産業上の利用分野】この発明は、楽音波形データを時系列のフレームに分割し、各フレームにおける周波数スペクトルを所定個数のピークデータ(周波数データ,強度データ)からなるフレームデータとして表現し、この時系列のフレームデータに表現されているピーク音を発生して加算合成することにより楽音信号を発生する分析合成系の音源装置に関する。 【0002】 【従来の技術】本出願人は、従来より、特願平3-271183号,特願平3-282988号などで分析合成系の音源を提案している。この分析合成系の音源は、波形メモリ型の音源の特長である原音の再現性の良さを備えているとともに、FM音源などの基本波合成系の音源の特長である波形の加工性の良さを兼ね備えたものである。すなわち、音声信号の周波数スペクトルにおける複数個(128個程度)のピークに対応する基本波形データ(sin波)を発生してこれを加算合成することにより、殆ど原音と同一の波形を再現することができ、且つ、波形メモリ型音源に比べてデータ量を小さくすることができる。さらに、原音波形からピークデータ(周波数データ,強度データ)として特徴が抽出されているため、これを加工することにより、音色の加工も容易である。」、 「【0010】 【実施例】図6?図9はこの発明の実施例である音源装置に用いられるボイスデータを説明する図である。図6は1つの楽音波形をフレームに分割する方式を説明する図である。図7は各フレームの周波数特性を分析するフィルタ構成を説明する図である。図8は各チャンネルにおけるデータ抽出の方式を説明する図である。図9は上記の方式で生成されたボイスデータの構成を示す図である。 【0011】楽音信号は発音から消音までを32kHzの周波数でサンプリングされ、ディジタルの楽音波形データとされる。この楽音波形データから連続する2048サンプルを抽出して1フレームとする。この1フレームの楽音波形データをフーリエ解析して周波数スペクトルを求め、これを図7に示すようなフィルタアレイによって128チャンネルの周波数帯域に分割する。フィルタアレイの各フィルタ毎に、その周波数帯域におけるピークの周波数データとその強度データを抽出する(図8参照)。このようにして1フレームにつき、128個のピークデータ(周波数データ,強度データ)が抽出される。これをフレームデータとする。楽音波形データからのフレームの切り出しは、図6に示すように楽音波形データの先頭(発音時)から最後尾(消音)まで6サンプル(2ms)毎にオーバーラップして行われる。楽音波形データの発音から消音までの間で切り出されたフレーム数がn個あるとすると、ボイスデータはn個のフレームデータからなるデータとなる。 【0012】このようなボイスデータを用いて楽音信号を合成する場合には、フレームデータを読み出し、各ピークデータの周波数データで指示される周波数の基本波形データをその強度データで指示される強度で発生してこれらを加算合成する。フレームデータの読み出しは6サンプリングタイミング(2ms)毎に行い、その間の5サンプリングタイミングの間は各データを直線補間すればよい。この補間は同一のボイスデータ内における処理であるため、非調和的になることはない。このようにすることにより、サンプリング音源に近い品質の楽音信号を合成することができる。」、 「【0016】音源部5は、ボイスデータメモリ10,フレームデータ読出制御部11,フレームデータ処理部12,フレームデータ補間部13,合成部14および波形処理部15からなっている。ボイスデータメモリ10は図9に示したボイスデータを複数個記憶している。ボイスデータはフレームデータ読出制御部11によって読み出される。フレームデータ読出制御部11には音色指定データTCが入力されており、フレームデータ読出制御部11はボイスデータメモリ10から読み出すボイスデータをこの音色指定データTCに基づいて決定する。なお、フレームデータ読出制御部11は、音色指定データTCで指定された音色が中間音色の場合には、該音色を生成するための複数個のボイスデータを同時に読み出し、楽音の発音中に音色指定データTCが切り換えられたときは、音色をオーバーラップして変更するため2つのボイスデータを同時に読み出す。 【0017】フレームデータ処理部12は、フレームデータ読出制御部11が2個のボイスデータのフレームデータVa(FRQa,i ,MAGa,i ),Vb(FRQb,i ,MAGb,i )(i=0?127)を同時に読み出したとき、これらのフレームデータを組み合わせることによって新たな1つのフレームデータ(FRQi,MAGi)を生成し、次のフレームデータ補間部13に出力する。中間音色を発生する場合には、補助操作子2の操作量データに基づいて0?127のチャンネル毎に両フレームデータからいずれかのピークデータを選択し、これを組み合わせて新たなフレームデータを生成する。また、音色をオーバーラップして変更する場合には、変更元の音色のフレームデータのピークデータを変更先の音色のフレームデータのピークデータに置き換えてゆき、全てのピークデータが変更先の音色に置き換えられたとき、変更元の音色の読み出しを停止して音色の変更を完了する。 【0018】フレームデータ補間部13には、6サンプリングクロック毎にフレームデータ(FRQi,MAGi)が入力される。フレームデータ補間部13は、新たに入力されたフレームデータと直前のフレームデータとの間で直線補間演算を行いフレームデータとフレームデータとの間の5サンプリングタイミングにおけるフレームデータを生成する。したがって、フレームデータ補間部13は、発音開始から2フレームのフレームデータが入力されたとき、各サンプリングタイミング毎に補間されたフレームデータ(IFRQi,IMAGi)の出力を開始する(図2参照)。 【0019】合成部14は、フレームデータ補間部13から入力されるフレームデータ(IFRQi,IMAGi)に基づいて楽音波形データを合成する回路である。フレームデータは128個のピークデータからなっているが、各ピークデータの周波数データで指定される周波数の基本波形データを該ピークデータの強度データで指定される強度で発生する。発生された128個の基本波形データを加算合成して楽音波形データWAVEを形成する。合成部14が合成した楽音波形データWAVEは波形処理部15に入力される。波形処理部15は、この波形データWAVEに対して残響などの種々の効果を付与する。付与する効果の種類や程度は、制御部4から入力されるキーコードTC,タッチ強度データTCH,音色指定データTCに基づいて決定される。波形処理部15で効果が付与された楽音波形データは出力データOUTとして出力される。出力された出力データOUTはアナログ化されて増幅されスピーカなどから放音される。」 2.対比 本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という)と甲第1号証発明とを対比する。 甲第1号証発明の「マイクロコンピュータによる演算により楽音波形の生成を行う電子楽器用処理装置の楽音波形生成方法」は、本件発明の「演算処理装置による演算により楽音波形サンプルを生成する楽音生成方法」に相当する。 甲第1号証発明は、「楽音のサンプリングタイムごとの割込信号により実行されるプログラムのなかに、楽音の波形を演算するルーチンと楽音のエンベロープを演算するルーチンとを含め」ているものであり、「前記プログラムでは、今回波形値と次回波形値とをアドレスの小数部で直線補間し、直線補間したデータに現在エンベロープ値を乗算してチャンネルの楽音データを得、それを波形加算用レジスタの内容に加えて楽音データを累算」するものであるから、サンプリングタイムごとの割込信号により実行されるプログラムにより、前記直線補間したデータや現在エンベロープ値(1サンプル分のデータと考えられる)を演算するものであるといえる。 したがって、甲第1号証発明は、「1サンプリング周期に対応する演算周期毎に該演算周期に対応する期間に含まれる1楽音波形サンプルを生成する楽音波形サンプル生成処理を起動」するものであるといえる。 よって、本件発明と甲第1号証発明とは、「サンプリング周期に対応する演算周期毎に該演算周期に対応する期間に含まれる楽音波形サンプルを生成する楽音波形サンプル生成処理を起動」するものである点で共通するものである。 刊行物1発明は、「前記エンベロープの波形は折れ線により近似されている」ものであるから、本件発明と刊行物1発明とは、「波形のエンベロープ特性を折れ線により近似して各サンプリングタイミングにおけるエンベロープ値を算出すること」で共通するものである。 したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。 [一致点] 「演算処理装置による演算により楽音波形サンプルを生成する楽音生成方法であって、 サンプリング周期に対応する演算周期毎に該演算周期に対応する期間に含まれる楽音波形サンプルを生成する楽音波形サンプル生成処理を起動し、 波形のエンベロープ特性を折れ線により近似して各サンプリングタイミングにおけるエンベロープ値を算出することを特徴とする楽音生成方法。」 [相違点1] 本件発明は、複数のサンプリング周期に対応する演算周期毎に該演算周期に対応する期間に含まれる複数の楽音波形サンプルを一括生成する楽音波形サンプル生成処理を起動するのに対し、甲第1号証発明は、1サンプリング周期に対応する演算周期毎に該演算周期に対応する期間に含まれる1楽音波形サンプルを生成する楽音波形サンプル生成処理を起動する点。 [相違点2] 本件発明では、波形のエンベロープ特性を前記演算周期を単位とする折れ線により近似するのに対し、甲第1号証発明は、波形のエンベロープ特性を折れ線により近似するが、折れ線は、前記演算周期を単位とするものではない点。 3.当審の判断 相違点2における本件発明の「前記演算周期を単位とする折れ線」について、「前記演算周期」は、相違点1における本件発明の「複数のサンプリング周期に対応する演算周期」であるから、2つの相違点は互いに関連しているので、これら相違点1及び2について併せて検討する。 甲第2号証に記載された技術は、いわゆる分析合成系の音源であり、入力された波形データの複数サンプルを抽出して1フレームとし、1フレームを分析して周波数データと強度データとを得て記憶し、その記憶された周波数データと強度データとを読み出して加算合成により1フレームの波形データを合成することを前提とするものである。 したがって、上記加算合成により合成される1フレームの波形データは、複数サンプルからなるものであって、これは記憶された1組の周波数データと強度データから1組の複数サンプルの1フレームが合成される(‘記憶された1組の周波数データと強度データ’と‘1組の複数サンプルの1フレーム’とは、一対一に対応する)ものであるから、この意味では、波形データを1サンプル毎ではなく一括生成するという技術思想が記載されているということはできる。 しかしながら、本件発明は、‘一括生成する複数のサンプリング周期に対応する演算周期’を単位とする折れ線により、波形のエンベロープ特性を近似するというものであり、楽音の波形とエンベロープとを1サンプル毎に生成する甲第1号証発明において、甲第2号証の一括生成の技術が存在したとしても、‘一括生成する複数のサンプリング周期に対応する演算周期’を単位とする折れ線により、波形のエンベロープ特性を近似することが容易に想到し得るとする根拠はない。波形のエンベロープ特性の折れ線近似が、必要に応じて任意に近似することができるとしても、折れ線による近似の単位を、上記演算周期の単位とすること(上記演算周期を単位とする折れ線とすること)までもが容易に想到し得るとはいえない。そのような思想は甲第1号証にも甲第2号証にも存在しない。本件発明は、そのような構成としたことにより、1サンプル毎に折れ線の変化点に到達したか否かをチェックする必要がないことにより演算の負荷を軽減することができるという効果を奏するものである。 結局、本件発明における「複数のサンプリング周期に対応する演算周期毎に該演算周期に対応する期間に含まれる複数の楽音波形サンプルを一括生成する楽音波形サンプル生成処理を起動し、波形のエンベロープ特性を前記演算周期を単位とする折れ線により近似して各サンプリングタイミングにおけるエンベロープ値を算出すること」は、請求人の提出した甲第1号証ないし10号証の何れにも記載されていないし、周知技術でもない。 4.まとめ したがって、本件発明が、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 第5.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件請求項1に記載された発明に係る特許は、無効とすることができない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2011-08-09 |
出願番号 | 特願平7-349045 |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Y
(G10H)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 益戸 宏 |
特許庁審判長 |
加藤 恵一 |
特許庁審判官 |
千葉 輝久 古川 哲也 |
登録日 | 2000-08-11 |
登録番号 | 特許第3097534号(P3097534) |
発明の名称 | 楽音生成方法 |
代理人 | 船橋 茂紀 |
代理人 | 内藤 義三 |
代理人 | 辻本 恵太 |
代理人 | 大場 弘行 |
代理人 | 田中 成志 |
代理人 | 山田 徹 |
代理人 | 西山 彩乃 |
代理人 | 飯塚 義仁 |
代理人 | 遠山 光貴 |
代理人 | 大橋 厚志 |
代理人 | 飯田 秀郷 |
代理人 | 大友 良浩 |
代理人 | 森 修一郎 |