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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16H
管理番号 1298109
審判番号 不服2013-22982  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-25 
確定日 2015-03-05 
事件の表示 特願2009-118682号「ロボット用ハーモニック減速機」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月25日出願公開、特開2010-266008号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成21年5月15日の出願であって、平成25年8月30日付けで拒絶査定(発送日:同年9月3日)がされ、これに対し、平成25年11月25日に拒絶査定不服審判が請求され、その後当審において平成26年9月5日付けで拒絶の理由を通知したところ、平成26年10月27日付けで特許請求の範囲及び明細書を対象とする手続補正がなされるとともに意見書が提出された。

そして、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成26年10月27日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
ロボットのハウジングに形成されたフレームと、このフレームに固定され、且つ環状をなし内周に内歯を有するサーキュラスプラインと、このサーキュラスプラインに内挿され、前記内歯と歯合する外歯を有し且つ出力軸を連結した円筒状のフレクスプラインと、このフレクスプラインに内装され入力軸を連結した楕円状のウェーブジェネレータとを備えたロボット用ハーモニック減速機であって、
前記フレームは、貫通孔を有し、この貫通孔の一方の開口の周縁部に、前記ハーモニック減速機の前記出力軸の中心線の延長となる仮想中心軸線と直交する方向に平面をなすサーキュラスプライン取付座面を有し、
さらに、このフレームには、前記サーキュラスプライン取付座面からフレーム内部にかけて前記仮想中心軸線と平行にねじ切り形成された雌ねじを備え、
且つ前記フレームには、前記サーキュラスプライン取付座面における前記雌ねじの開口周縁部に、この雌ねじの径寸法より大きな径寸法に形成された凹部を備え、
前記サーキュラスプラインには、前記雌ねじと対向する位置に一端面から他端面にかけて前記仮想中心軸線と平行に形成されたねじ挿通孔を備え、
サーキュラスプライン取付用ねじを前記サーキュラスプラインの前記ねじ挿通孔及び前記凹部を通して前記雌ねじに螺合することにより前記サーキュラスプラインを前記フレームに固定したことを特徴とするロボット用ハーモニック減速機。」

2 引用文献及びその記載事項
(1)当審の拒絶の理由に引用され、本願出願日前に頒布された刊行物である特開平9-250607号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0002】
【従来の技術】図1には、波動歯車装置を減速機構として組み込んだロボットの関節機構等に使用される駆動装置を示してある。この駆動装置1は、駆動源としてのモーター5と、モーター5の高速回転を減速して取り出す波動歯車装置2を有している。波動歯車装置2は、装置ハウジング11に取付け固定された剛性内歯歯車21と、この剛性内歯歯車21の内側に同心状に配置されたカップ状の可撓性外歯歯車22と、この可撓性外歯歯車22の内側に嵌め込まれて、当該可撓性外歯歯車22を半径方向に撓めて剛性内歯歯車21に対して部分的に噛み合わせると共に、これらの噛み合わせ位置を周方向に移動させる波動発生器23とを有している。
【0003】波動発生器23は、モーター5の出力軸5aに連結さており、高速回転が入力される。これに対して、カップ状の可撓性外歯歯車22の側は、そのカップ形状の底部分を規定しているボス22aの部分が被駆動部材3の側に連結されている。
【0004】波動発生器23は一般には楕円状の輪郭をしており、可撓性外歯歯車22を撓めて、2個所の位置で剛性内歯歯車21の側に噛み合わせている。波動発生器23が回転すると、歯車21、22の噛み合い位置も円周方向に移動する。この結果、これらの歯車の歯数差に応じた相対回転がこれらの歯車の間に発生する。剛性内歯歯車21は固定されているので、可撓性外歯歯車22が回転する。この回転により被駆動部材3が回転させられる。」

イ 「【0013】
【発明の実施の形態】本発明は図1に示す波動歯車装置に適用可能である。したがって、以下に、本発明をこの波動歯車装置2に適用した場合の例を説明する。波動歯車装置2の基本構成は前述してあるので省略し、剛性内歯歯車21の装置ハウジング11に対する取付け部分のみを説明する。
【0014】図2には、本発明の第1の実施の形態による取付け構造を示してある。図に示すように、剛性内歯歯車21の装置ハウジング11への取付け面である両側の環状端面41、42には、その外周面43の側の部分に内側に凹んだ段差が形成されている。これにより、当該剛性内歯歯車21の断面形状は、外周面43の側の部分が他の部分に比べて狭い幅となった断面形状となっている。
【0015】一方、装置ハウジング11の側は、モーターケース5bの側に固定されたモーター側ハウジング12と、被駆動部材の側に位置する負荷側ハウジング13とを有している。これらの環状端面12aおよび13aのそれぞれに対して、剛性内歯歯車21の環状端面41、42が取付けらる。このように剛性内歯歯車21が左右から挟まれた状態で、これらの三部材が締結用ボルト6によって締結固定される。」

ウ 図2を参照すると、負荷側ハウジング13は、大径部と、それに続く小径部とからなる貫通孔を有しており、この貫通孔の大径部側の開口の周辺部に、波動発生器23の軸とは直交する方向に、環状端面13aを備えており、前記環状端面13aには、波動発生器23の軸と平行に、締結用ボルト6がねじ込まれる雌ねじを備えており、また、剛性内歯歯車21には、前記締結用ボルト6が挿通する孔を有しているといえる。

上記の記載事項及び図面の記載を総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が実質的に記載されている。
「波動歯車装置を減速機構として組み込んだロボットの関節機構等に使用される駆動装置であって、
駆動源としてのモーター5と、モーター5の高速回転を減速して取り出す波動歯車装置2を有し、
波動歯車装置2は、装置ハウジング11に取付け固定された剛性内歯歯車21と、この剛性内歯歯車21の内側に同心状に配置されたカップ状の可撓性外歯歯車22と、この可撓性外歯歯車22の内側に嵌め込まれて、当該可撓性外歯歯車22を半径方向に撓めて剛性内歯歯車21に対して部分的に噛み合わせると共に、これらの噛み合わせ位置を周方向に移動させる波動発生器23とを有し、
波動発生器23は、モーター5の出力軸5aに連結され、楕円状の輪郭をしており、
カップ状の可撓性外歯歯車22は、そのカップ形状の底部分を規定しているボス22aの部分が被駆動部材3の側に連結され、
装置ハウジング11の側は、モーターケース5bの側に固定されたモーター側ハウジング12と、被駆動部材の側に位置する負荷側ハウジング13とを有し、
これらの環状端面12aおよび13aのそれぞれに対して、剛性内歯歯車21の環状端面41、42が取付けられ、
剛性内歯歯車21が左右から挟まれた状態で、これらの三部材が締結用ボルト6によって締結固定され、
負荷側ハウジング13は、大径部と、それに続く小径部とからなる貫通孔を有し、
この貫通孔の大径部側の開口の周辺部に、波動発生器23の軸とは直交する方向に、前記環状端面13aを備え、
前記環状端面13aには、波動発生器23の軸と平行に、締結用ボルト6がねじ込まれる雌ねじを備え、
剛性内歯歯車21には、前記締結用ボルト6が挿通する孔を有した波動歯車装置。」

(2) 当審の拒絶の理由に引用され、本願出願日前に頒布された刊行物である特開平11-264448号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0038】図3にカップ形波動歯車減速機の基本構造を示す。図中(a)は構成部品、(b)は構成部品が組み合わされた状態を示し、(c)は歯車のかみあいの様子を模式的に示している。構成部品は、厚肉の内歯車サーキュラスプライン(以後C/S)、超薄肉のカップ形状でその開口部外周に歯切りされた外歯車であるフレクスプライン(F/S)、楕円形状のカムの外周に薄肉のボールベアリングをはめた波動発生器とも呼ばれるウエーブジェネレータ(W/S)の3点である。・・・」

イ 「【0110】(4.4 角度伝達誤差を低減する高精度組立て法の提案)・・・ここでは、波動歯車減速機を高精度の状態で使用するため、その組立て上および設計上注意すべきポイントすなわち、どのような点を注意すればC/Sを変形させずに組み立てられるかを明確にし提案する。
・・・(中略)・・・
【0115】(C/Sの軸方向の変形防止)
(1)C/S取付部材の取付面平面度の確保
C/S取付部材の取付面加工時に生ずるバリ、カエリ、特にタップ加工時に生ずるネジ穴周辺の盛り上がりの除去。
・・・(中略)・・・
【0121】(4.6 まとめ)組立誤差が波動歯車減速機の角度伝達誤差に与える影響について開発した試験機を用いて詳細な測定を行った。この結果、波動歯車減速機において、最も注意すべき取付誤差は、C/Sに半径方向および軸方向の変形を与える取付誤差であることが明らかになった。・・・」

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「負荷側ハウジング13」は、本願発明の「フレーム」に相当する。以下、同様に、「剛性内歯歯車21」は「環状をなし内周に内歯を有するサーキュラスプライン」に、「カップ状の可撓性外歯歯車22」は「円筒状のフレクスプライン」に、「波動発生器23」は「ウェーブジェネレータ」に、「環状端面13a」は「サーキュラスプライン取付座面」に、「雌ねじ」は「雌ねじ」に、「波動歯車装置」は「ハーモニック減速機」に、それぞれ相当する。
引用発明は、「波動歯車装置を減速機構として組み込んだロボットの関節機構等に使用される駆動装置」であるから、引用発明の負荷側ハウジング13は、ロボットに設けられるものであり、したがって、引用発明は本願発明の「ロボットのハウジングに形成されたフレーム」及び「ロボット用ハーモニック減速機」との構成を備える。
引用発明では、「駆動源としてのモーター5と、モーター5の高速回転を減速して取り出す波動歯車装置2を有し、波動歯車装置2は、装置ハウジング11に取付け固定された剛性内歯歯車21と、この剛性内歯歯車21の内側に同心状に配置されたカップ状の可撓性外歯歯車22と、この可撓性外歯歯車22の内側に嵌め込まれて、当該可撓性外歯歯車22を半径方向に撓めて剛性内歯歯車21に対して部分的に噛み合わせると共に、これらの噛み合わせ位置を周方向に移動させる波動発生器23とを有し、波動発生器23は、モーター5の出力軸5aに連結され、楕円状の輪郭をして」いるから、引用発明は本願発明の「フレームに固定され、且つ環状をなし内周に内歯を有するサーキュラスプラインと、このサーキュラスプラインに内挿され、前記内歯と歯合する外歯を有し且つ出力軸を連結した円筒状のフレクスプラインと、このフレクスプラインに内装され入力軸を連結した楕円状のウェーブジェネレータ」との構成を備える。
引用発明では、「負荷側ハウジング13は、大径部と、それに続く小径部とからなる貫通孔を有し、この貫通孔の大径部側の開口の周辺部に、波動発生器23の軸とは直交する方向に、前記環状端面13aを備え」ており、「環状端面12aおよび13aのそれぞれに対して、剛性内歯歯車21の環状端面41、42が取付けられ」るから、引用発明は本願発明の「フレームは、貫通孔を有し、この貫通孔の一方の開口の周縁部に、前記ハーモニック減速機の前記出力軸の中心線の延長となる仮想中心軸線と直交する方向に平面をなすサーキュラスプライン取付座面を有し」との構成を備える。
引用発明では、「環状端面13aには、波動発生器23の軸と平行に、締結用ボルト6がねじ込まれる雌ねじを備え」ているから、引用発明は本願発明の「フレームには、前記サーキュラスプライン取付座面からフレーム内部にかけて前記仮想中心軸線と平行にねじ切り形成された雌ねじを備え」との構成を備える。
引用発明では、「装置ハウジング11の側は、モーターケース5bの側に固定されたモーター側ハウジング12と、被駆動部材の側に位置する負荷側ハウジング13とを有し、これらの環状端面12aおよび13aのそれぞれに対して、剛性内歯歯車21の環状端面41、42が取付けられ、剛性内歯歯車21が左右から挟まれた状態で、これらの三部材が締結用ボルト6によって締結固定され」、「剛性内歯歯車21には、前記締結用ボルト6が挿通する孔を有し」ているから、引用発明は本願発明の「サーキュラスプラインには、前記雌ねじと対向する位置に一端面から他端面にかけて前記仮想中心軸線と平行に形成されたねじ挿通孔を備え、サーキュラスプライン取付用ねじを前記サーキュラスプラインの前記ねじ挿通孔及び前記凹部を通して前記雌ねじに螺合することにより前記サーキュラスプラインを前記フレームに固定した」との構成を備える。

以上のことから、本願発明と引用発明とは次の点で一致する。
「ロボットのハウジングに形成されたフレームと、このフレームに固定され、且つ環状をなし内周に内歯を有するサーキュラスプラインと、このサーキュラスプラインに内挿され、前記内歯と歯合する外歯を有し且つ出力軸を連結した円筒状のフレクスプラインと、このフレクスプラインに内装され入力軸を連結した楕円状のウェーブジェネレータとを備えたロボット用ハーモニック減速機であって、
前記フレームは、貫通孔を有し、この貫通孔の一方の開口の周縁部に、前記ハーモニック減速機の前記出力軸の中心線の延長となる仮想中心軸線と直交する方向に平面をなすサーキュラスプライン取付座面を有し、
さらに、このフレームには、前記サーキュラスプライン取付座面からフレーム内部にかけて前記仮想中心軸線と平行にねじ切り形成された雌ねじを備え、
前記サーキュラスプラインには、前記雌ねじと対向する位置に一端面から他端面にかけて前記仮想中心軸線と平行に形成されたねじ挿通孔を備え、
サーキュラスプライン取付用ねじを前記サーキュラスプラインの前記ねじ挿通孔及び前記凹部を通して前記雌ねじに螺合することにより前記サーキュラスプラインを前記フレームに固定したロボット用ハーモニック減速機。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点]
本願発明では、「フレームには、前記サーキュラスプライン取付座面における前記雌ねじの開口周縁部に、この雌ねじの径寸法より大きな径寸法に形成された凹部を備え」ているのに対して、引用発明では、環状端面13a(本願発明の「サーキュラスプライン取付座面」に相当。)の雌ねじの開口周辺部に凹部を備えていない点。

4 判断
上記相違点について検討する。
引用文献2(引用文献2の前記記載事項「ア」、「イ」を参照。)には、波動歯車減速機(本願発明の「ハーモニック減速機」に相当。)のC/S(サーキュラースプライン)に関して、「(1)C/S取付部材の取付面平面度の確保 C/S取付部材の取付面加工時に生ずるバリ、カエリ、特にタップ加工時に生ずるネジ穴周辺の盛り上がりの除去。」と記載されており、この記載から、ハーモニック減速機では、C/S取付部材(本願発明の「フレーム」に相当。)のタップ加工時に生ずるネジ穴周辺の盛り上がりの除去(バリ取り)が必要であることが理解される。すると、引用発明においても、環状端面13aの締結用ボルト6がねじ込まれる雌ねじの盛り上がりの除去が必要であることは明らかであるといえる。
ところで、上記のようなネジ穴周辺の盛り上がりの除去(バリ取り)は、作業能率が悪かったところ、これを不要とするために、「雌ねじの開口周縁部に、この雌ねじの径寸法より大きな径寸法に形成された凹部」を設けることは、当審の拒絶の理由に引用され本願出願日前に頒布された刊行物である特開昭59-214515号公報(特に、1ページ右下欄7?9行、2ページ左下欄8?14行、3ページ右上欄7?11行、4ページ右下欄15?17行及び第3?10図を参照。)、同じく当審の拒絶の理由に引用され本願出願日前に頒布された刊行物である特開2001-113416号公報(特に、段落【0006】、【0016】、【0025】及び図5?6を参照。)、及び、同じく当審の拒絶の理由に引用され本願出願日前に頒布された刊行物である特開平8-294737号公報(特に、段落【0001】、【0002】、【0006】、【0016】及び図6を参照。)に記載されているように、本願出願日前に周知の技術である。
すると、引用発明において、環状端面13aの締結用ボルト6がねじ込まれる雌ねじの盛り上がりの除去を不要とするために、環状端面13aの雌ねじの開口周辺部に凹部を設けることにより、本願発明の上記相違点に係る構成とすることは、引用文献2記載の事項及び上記周知の技術から当業者が容易になし得たものといえる。

そして、本願発明により得られる作用効果も、引用発明及び引用文献2記載の事項及び周知の技術から当業者であれば予測できる程度のものであって、格別のものとはいえない。
以上のことから、本願発明は、引用発明、引用文献2記載の事項及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明、引用文献2記載の事項及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-19 
結審通知日 2015-01-06 
審決日 2015-01-19 
出願番号 特願2009-118682(P2009-118682)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大内 俊彦  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 小関 峰夫
稲葉 大紀
発明の名称 ロボット用ハーモニック減速機  
代理人 特許業務法人 サトー国際特許事務所  

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