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審判番号(事件番号) データベース 権利
判定2014600031 審決 特許
判定2015600011 審決 特許
判定2016600042 審決 特許
判定2015600032 審決 特許

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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) A23L
管理番号 1298221
判定請求番号 判定2014-600041  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2015-04-24 
種別 判定 
判定請求日 2014-09-04 
確定日 2015-03-05 
事件の表示 上記当事者間の特許第5048011号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号製品目録記載の野菜飲料は、特許第5048011号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号製品目録記載の野菜飲料は、特許第5048011号発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

第2 本件発明
1 本件発明
特許第5048011号(以下「本件特許」という。)に係る願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4の記載は,次のとおりである(以下、請求項1ないし請求項4に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」ないし「本件発明4」といい、これらを総称して「本件発明」という。)。
「【請求項1】
クエン酸を有効成分として含む、野菜飲料に添加するための有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害剤であって、
前記芽胞発芽増殖阻害剤は、前記クエン酸の前記野菜飲料に対する濃度が5mM?80mMとなるように添加され、
前記芽胞発芽増殖阻害剤は、前記野菜飲料のpHが4.2?4.6となるように添加される
ことを特徴とする芽胞発芽増殖阻害剤。
【請求項2】
前記有芽胞菌がバチルス属またはクロストリジウム属であることを特徴とする、請求項1に記載の芽胞発芽増殖阻害剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の芽胞発芽増殖阻害剤を添加した野菜飲料。
【請求項4】
クエン酸を添加することを含む、野菜飲料における有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害方法であって、
前記芽胞発芽増殖阻害剤は、前記クエン酸の前記野菜飲料に対する濃度が5mM?80mMとなるように添加され、
前記芽胞発芽増殖阻害剤は、前記野菜飲料のpHが4.2?4.6となるように添加される
ことを特徴とする芽胞発芽増殖阻害方法。」

2 構成要件
本件発明1ないし本件発明4を、構成要件に分説すると、次のとおりである。

(1)本件発明1
A クエン酸を有効成分として含む、野菜飲料に添加するための有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害剤であって、
B 前記芽胞発芽増殖阻害剤は、前記クエン酸の前記野菜飲料に対する濃度が5mM?80mMとなるように添加され、
C 前記芽胞発芽増殖阻害剤は、前記野菜飲料のpHが4.2?4.6となるように添加されることを特徴とする
D 芽胞発芽増殖阻害剤。

(2)本件発明2
E 前記有芽胞菌がバチルス属またはクロストリジウム属であることを特徴とする、請求項1に記載の芽胞発芽増殖阻害剤。

(3)本件発明3
F 請求項1または2に記載の芽胞発芽増殖阻害剤を添加した野菜飲料。

(4)本件発明4
G クエン酸を添加することを含む、野菜飲料における有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害方法であって、
H 前記芽胞発芽増殖阻害剤は、前記クエン酸の前記野菜飲料に対する濃度が5mM?80mMとなるように添加され、
I 前記芽胞発芽増殖阻害剤は、前記野菜飲料のpHが4.2?4.6となるように添加されることを特徴とする
J 芽胞発芽増殖阻害方法。

第3 当事者の主張
1 請求人の主張
イ号製品の構成は、以下のとおりである。
a.クエン酸を有効成分として含む、野菜飲料に添加するための有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害剤であって、
b.前記芽胞発芽増殖阻害剤は、前記クエン酸の前記野菜飲料に対する濃度が23.7mM又は28mMとなるように添加され、
c.前記芽胞発芽増殖阻害剤は、前記野菜飲料のpHが4.21又は4.22となるように添加されることを特徴とする芽胞発芽増殖阻害剤を添加した
d.野菜飲料。
(判定請求書4ページ(4)及び判定請求書に添付したイ号説明書)

イ号製品は、本件発明1ないし本件発明4の構成要件を全て充足する。
よって、イ号製品は、本件発明1ないし本件発明4の技術的範囲に属する。(判定請求書4?6ページ(5)及び(6))
本件発明の「芽胞発芽増殖阻害剤」に含まれるクエン酸は、由来を問わずあらゆるクエン酸を含み得るから、被請求人の主張は失当である。(弁駁書2ページ17?22行)

2 被請求人の主張
イ号製品の構成及びその関連事項を分説すると、以下のとおりである。
a.クエン酸を成分とする、野菜ミックス濃縮ジュースに配合するためのレモン果汁であって、
b.レモン果汁は、クエン酸の野菜ミックス濃縮ジュースに対する濃度が23.7mM又は28mMとなるように配合され、
c.レモン果汁は、野菜ミックス濃縮ジュースのpHが4.21又は4.22となるように配合された、
d.レモン果汁。

e.バチルス属及びクロストリジウム属は、有芽胞菌である。

f.前述のレモン果汁を配合した野菜ミックス濃縮ジュース。

g.クエン酸を成分とするレモン果汁を配合することを含む、野菜ミックス濃縮ジュースの製造方法であって、
h.レモン果汁は、クエン酸の野菜ミックス濃縮ジュースに対する濃度が23.7mM又は28mMとなるように配合され、
i.レモン果汁は、野菜ミックス濃縮ジュースのpHが4.21又は4.22となるように配合された、
j.レモン果汁の配合方法。
(答弁書2?3ページ(2-2))

野菜飲料に添加するためのレモン果汁は、本件発明の「クエン酸を有効成分として含む、野菜飲料に添加するための有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害剤」から除外される。(答弁書4ページ15?17行)
よって、イ号製品は、本件発明1ないし本件発明4の構成要件AないしD、FないしJを充足しないから、本件発明1ないし本件発明4の技術的範囲に属しない。(答弁書5?7ページ(3-2)及び(4))

第4 判断
1 イ号製品
甲第2号証によれば、イ号製品は、クエン酸を23.7mM又は28mM含有する。なお、この点は被請求人も争わない。
一方、乙第1号証、乙第2号証によれば、イ号製品は、野菜とレモン果汁を原材料とする野菜ミックス濃縮ジュースである。そして、乙第3号証、乙第4号証によれば、レモン果汁はクエン酸を4.2?8.3%含有する。
そして、レモン果汁以外のクエン酸を含有する剤をイ号製品に添加していることを示す証拠はない。
そうすると、イ号製品は、クエン酸を23.7mM又は28mM含有するものの、該クエン酸は、原材料であるレモン果汁に含まれていたものと認められる。
以上によれば、イ号製品の構成は、次のとおりと認められる。
a.クエン酸を成分として含むレモン果汁を添加した野菜ミックス濃縮ジュースであって、
b.前記レモン果汁は、前記クエン酸の前記野菜ミックス濃縮ジュースに対する濃度が23.7mM又は28mMとなるように添加され、
c.前記レモン果汁は、前記野菜ミックス濃縮ジュースのpHが4.21又は4.22となるように添加された
d.野菜ミックス濃縮ジュース

2 構成要件Aの充足性
構成要件Aは、「クエン酸を有効成分として含む、野菜飲料に添加するための有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害剤であって」というものである。
請求人は、イ号製品が、「クエン酸を有効成分として含む、野菜飲料に添加するための有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害剤であって」との構成を備えることは、甲第1号証及び甲第2号証により裏付けられていると主張する。
しかし、甲第1号証、甲第2号証には、どこにも「有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害剤」について言及するところがないから、これらの証拠によっては、イ号製品が「有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害剤」を含むものであると認めることはできず、イ号製品が構成要件Aを充足するということはできない。
もっとも、上記1のとおり、イ号製品は、クエン酸を成分として含むレモン果汁を添加した野菜ミックス濃縮ジュースであるから、上記イ号製品に添加されたレモン果汁が、構成要件Aの「有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害剤」に該当するかを進んで検討する。
本件明細書には、レモン果汁、及び、構成要件Aの「有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害剤」に関連して、次の記載がある。

「【背景技術】
【0002】
加熱殺菌を要する酸性飲料は、食品衛生法において、pH4.0未満の製品では65℃で10分間あるいは同等の加熱によって微生物的な安全性を確保することが定められている。また、pH4.0以上4.6未満の製品では、85℃で30分間の加熱または同等の加熱を行うことが定められている。しかし、耐熱性芽胞菌は、この条件でも滅菌されない場合がある。また、pH4.6未満でも発育可能な株が存在することから、飲料充填時に耐熱性芽胞菌が混入し、変敗事故が起こる危険性がある。
【0003】
この危険性を回避するために、市販の酸性飲料では、pHを上記範囲内(4.0≦pH<4.6)であっても低めに設定することが多い。しかし、低めのpH値設定は、飲料全体の呈味性に好ましくない影響を与える。
【0004】
例えば、野菜・果実飲料では、レモン果汁を添加してpH4.2程度に設定していることが多い。また、多くの酢含有飲料では、充填温度においても殺菌効果の期待できるpH4.0未満に商品規格を設定している。」

「【0019】
本発明は、有機酸が有芽胞菌において芽胞の発芽増殖を阻害し、その結果として有芽胞菌の増殖を抑制することができるという発見に基づく。」

「【0024】
前記芽胞発芽増殖阻害剤は、有機酸を有効成分として含むことを特徴とする。前記有機酸には、例えば、クエン酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸またはこれらの塩が含まれる。特に、酢酸、乳酸およびクエン酸が優れた芽胞発芽増殖阻害効果を示す。これらは、単独で、または複数の有機酸を組み合わせて使用することができる。
【0025】
本発明の芽胞発芽増殖阻害剤の剤形は特に限定されないが、当該分野で通常使用される賦形剤と混合して製剤化することができる。また製剤とする場合には、エタノール、グリセリン脂肪酸エステル、各種糖類、糖アルコール、レシチン等を使用することができる。」

「【0035】
さらに、本発明者らは、野菜飲料においても酢含有飲料と同様の効果が得られることを確認した。
上述したように、野菜飲料は、レモン果汁を添加してpHが4.2程度に調節されていることが多い。しかし、本発明者らは、芽胞発芽増殖阻害剤としての効果を有する有機酸を添加することにより、pH4.2以上であっても微生物的な安全性が確保された野菜飲料を提供できることを確認した。」

「【0037】
野菜飲料にレモン果汁等を加えてpHを低くすると、酸味が強くなる等の問題が生じる。上述したように、本発明による野菜飲料は、pHを高く設定することが可能である。pHを高くすることにより、酸味を低下させることができ、飲みにくさを改善すると共に飲料の味を向上させることが可能である。」

上記記載によれば、本件発明の「有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害剤」は、有機酸であるクエン酸を有効成分として含むことを特徴とし、単独または複数の有機酸を組み合わせて使用することができ(【0024】)、剤形は特に限定されず、当該分野で通常使用される賦形剤と混合して製剤化することができ、製剤とする場合には、エタノール、グリセリン脂肪酸エステル、各種糖類、糖アルコール、レシチン等を使用することができるものである(【0025】)。
一方、本件明細書には、レモン果汁を有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害剤として用いることは記載されておらず、むしろ、本件発明の背景技術として、野菜飲料は、レモン果汁を添加してpHが4.2程度に調節されていることが多いが(【0004】、【0035】)、野菜飲料にレモン果汁等を加えてpHを低くすると、酸味が強くなる等の問題が生じることが記載されている(【0037】)。
上記本件発明の背景技術に係る、pHを4.2程度に調節するために野菜飲料に添加されるレモン果汁が、本件発明の「有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害剤」に該当するとの解釈は明らかに不合理である。そうすると、レモン果汁は、クエン酸を含有するものの(乙第3号証、乙第4号証)、そのことをもって直ちに「有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害剤」に該当するということはできない。
そして、請求人が提出した証拠によれば、イ号製品がクエン酸を含有することが認められるが、イ号製品に添加されたレモン果汁が「有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害剤」に該当することが立証されているとはいえない。むしろ、イ号製品のpHが4.21又は4.22であることを考慮すると、イ号製品は、レモン果汁を添加してpH4.2程度に設定した本件発明の背景技術と同様のものであると推認される。
よって、イ号製品に添加されたレモン果汁は、構成要件Aの「有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害剤」に該当するということはできず、イ号製品は、構成要件Aを充足しない。
なお、請求人は、本件発明に係る「芽胞発芽増殖阻害剤」に含まれるクエン酸は文言どおり由来を問わずあらゆるクエン酸を含み得ると主張するが、該請求人の主張は上記判断を左右するものではない。

3 構成要件B、C、D、E、F、H、Iの充足性
構成要件B、C、D、E、F、H、Iは、いずれもその構成要件に「芽胞発芽増殖阻害剤」を含んでいる。
そして、イ号製品に添加されたレモン果汁が、「有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害剤」に該当するものでないことは、上記2のとおりである。
よって、イ号製品は、構成要件B、C、D、E、F、H、Iをいずれも充足しない。

第5 むすび
以上のとおり、イ号製品は、構成要件A、B、C、D、E、F、H、Iを充足しないから、本件発明1ないし本件発明4の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲 イ号製品目録

1 商品名「野菜一日これ一本」、内容量190g

2 商品名「野菜一日これ一本」、内容量200mL

3 商品名「野菜一日これ一杯」、内容量920g

4 商品名「野菜一日これ一杯」、内容量1000mL
 
判定日 2015-02-24 
出願番号 特願2009-89294(P2009-89294)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柴原 直司  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 佐々木 正章
紀本 孝
登録日 2012-07-27 
登録番号 特許第5048011号(P5048011)
発明の名称 有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害剤及び有芽胞菌の芽胞発芽増殖阻害方法  
代理人 北谷 賢次  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  

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