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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1298540
審判番号 不服2013-7756  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-26 
確定日 2015-03-12 
事件の表示 特願2009-231427号「接着部材」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 2月25日出願公開、特開2010- 45382号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年 6月27日(優先権主張平成13年 6月29日)に出願した特願2002-187588号の一部を平成18年11月13日に新たな特許出願とした特願2006-306770号の一部を平成21年10月 5日に新たな特許出願としたものであって、平成25年 2月14日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年4月26日に審判請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされた。
そして、その後、当審において、平成26年10月15日付けで拒絶の理由が通知され、平成26年12月19日に意見書および手続補正書が提出されたものであって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成26年12月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。

「【請求項1】
接着剤層を有し、上段と下段の大きさが同一である半導体チップ同士の接着に使用される、フィルム状の接着部材であって、該接着部材は、電気接続のためのワイヤーに接触しないように前記半導体チップ間に設けられ、
総厚みが150μm以上であり、
動的粘弾性測定装置を用いて測定した場合の接着剤層の貯蔵弾性率が200℃条件下で1MPa以上であり、
接着剤層の厚み精度が±5μm以下であり、かつ
接着剤層がエポキシ樹脂とエポキシ基含有アクリール系共重合体とを含む、チップ積層型のチップサイズパッケージ用の接着部材。」

2.引用刊行物記載の発明

(1)これに対して、当審における、平成26年10月15日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開2000-144072号公報(平成12年5月26日公開、以下「引用例1」という。)には、「電子部品用両面接着フィルム」に関する発明が開示されており、そこには、図面とともに次の事項が記載されている。

・「【請求項1】 コア材の両面に接着剤層が形成された電子部品用両面接着フィルムにおいて、該接着剤層が未硬化の熱硬化性樹脂組成物であり、該コア材が熱硬化性樹脂組成物の硬化物であることを特徴とする電子部品用両面接着フィルム。
【請求項2】 接着剤層の硬化物およびコア材の動的粘弾性測定装置で測定される25℃の貯蔵弾性率が10?2000MPaかつ260℃での貯蔵弾性率が3?50MPaであることを特徴とする請求項1に記載の電子部品用両面接着フィルム。
【請求項3】 熱硬化性樹脂組成物が(1)エポキシ樹脂及びその硬化剤100重量部、(2)エポキシ当量が2000?15000g/molでガラス転移温度が-10℃以上でかつ重量平均分子量が80万以上であるエポキシ基含有アクリル系共重合体100?300重量部、(3)硬化促進剤0.1?5重量部からなる請求項1または請求項2に記載の電子部品用両面接着フィルム。」

・「【0009】本発明は、半導体チップと半導体搭載用有機基板のように熱膨張係数の著しく異なるものを接着するための低弾性な電子部品用両面接着フィルムおよびそれを用いた半導体搭載用有機基板ならびに半導体装置を提供する上で、接着性を向上し耐温度サイクル性、耐リフロー性などの信頼性を向上することを課題とした。具体的にはコア材と接着剤層からなる電子部品用両面接着フィルムにおいて、コア材の弾性率を低減しかつコア材と接着剤層との接着力を向上し更にはコア材と接着剤層の熱膨張係数を整合させることを課題とした。」

・「【0026】コア材の両面に接着剤層を形成する方法は特に限定するものではない。例えば、ラミネート、コーティング、ディッピングなどの公知の方法で形成することができる。好ましい方法は、ラミネートとコーティングであり、電子部品用両面接着フィルムの厚さを精度よく制御することが可能である。特にラミネートは予め接着剤層のみを形成しておくことができるため量産性にすぐれる。このときのコア材および接着剤層の厚さは特に限定するものではないが、これらを合わせた電子部品用両面接着フィルムのトータルの厚さは10?500μmが好ましい。10μm未満では熱応力の緩和効果が小さくなり剥離やクラックを生ずる恐れがある。500μmを超えるとリードまたはワイヤボンディングがしずらくなり、また半導体装置の厚さが厚くなる。さらに好ましくは50?250μmである。」

・「【0033】(実施例1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート828、油化シェルエポキシ株式会社製商品名)45重量部、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(ESCN195、住友化学工業株式会社製商品名)15重量部、フェノールノボラック樹脂(プライオーフェンLF2882、大日本インキ化学工業株式会社製商品名)40重量部、エポキシ基含有アクリルゴム(HTR-860P-3、帝国化学産業株式会社製商品名、分子量100万、Tg-7℃)150重量部、硬化促進剤1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(キュアゾール2PZ-CN、四国化成工業株式会社製商品名)0.5重量部、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(NUC A-187、日本ユニカー株式会社製商品名)0.7重量部に、メチルエチルケトンを加えて撹拌溶解し接着剤ワニスとした。この接着剤ワニスを、厚さ75μmの離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布し、140℃で5分間加熱乾燥して膜厚が50μmの塗膜とし、接着剤フィルムを作製した。この接着剤フィルムを170℃で1時間加熱硬化させたもの貯蔵弾性率を動的粘弾性測定装置(レオロジ製、DVE-V4)を用いて測定(サンプルサイズ 長さ20mm、幅4mm、膜厚50μm、昇温速度5℃/分、引張りモード、10Hz、自動静荷重)した結果、25℃で360MPa、260℃で4MPaであった。接着剤フィルムと同様の方法で膜厚が100μmの塗膜を作製し、これを170℃で1時間加熱処理して硬化させコア材を得た。コア材の貯蔵弾性率は接着剤フィルムの貯蔵弾性率と同値であった。接着剤フィルムを接着剤層としてコア材の両面に80℃、0.3MPaで熱ラミネートし、電子部品用両面接着フィルムを得た。
【0034】(比較例1)コア材として実施例1の接着剤層と同じ組成で厚さ100μmの未硬化の接着剤フィルムを用いた以外は実施例1と同様の方法で電子部品用両面接着フィルムを得た。
【0035】(比較例2)コア材として厚さ100μmのポリイミドフィルム(ユーピレックスS、宇部興産株式会社製商品名)を用いた以外は実施例1と同様の方法で電子部品用両面接着フィルムを得た。」

これらの記載事項によると、引用例1には、実施例1として、

「半導体チップと半導体搭載用有機基板を接着するためのもので、コア材の両面に接着剤層が形成された電子部品用両面接着フィルムであって、膜厚が50μmの塗膜とし作製した接着剤フィルムを接着剤層として、膜厚が100μmの塗膜を作製し硬化させたコア材の両面に熱ラミネートして得た電子部品用両面接着フィルムであり、この接着剤フィルムの貯蔵弾性率を動的粘弾性測定装置(レオロジ製、DVE-V4)を用いて測定した結果、260℃で4MPaであり、かつ、接着剤フィルムはエポキシ樹脂及びエポキシ基含有アクリル系共重合体とを含む、電子部品用両面接着フィルム。」の発明(以下「引用例1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)同じく、当審における、平成26年10月15日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開平9-289278号公報(平成9年11月4日公開、以下「引用例2」という。)には、「半導体装置用リードフレームの製造方法」に関する発明が開示されており、そこには、図面とともに次の事項が記載されている。

・「【0018】また、接着剤2の厚さのばらつきは±5μm以下で、±3μmであることが好ましい。これは、厚さのばらつきを±3μmとすることでリードフレームの各リードを完全に接着することが可能となるからである。一方、接着剤2の厚さのばらつきが±5μm以上であると、未接着のリードが発生して半導体素子の固定が不安定となり、その結果、ワイヤボンディング性が低下する。」

(3)同じく、当審における、平成26年10月15日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開2000-58743号公報(平成12年2月25日公開、以下「引用例3」という。)には、「半導体装置」に関する発明が開示されており、そこには、図面とともに次の事項が記載されている。

・「【0015】而して、第1と第2の半導体チップ10、11の間にスペーサ30を形成して、第1の電極パッド12aの上方に空間19を形成し、第2の半導体チップ11をひさし状に突出させている。この空間19は、第1の半導体チップ10の端部から第1の電極12aを露出するだけの幅(図1:W)を持ち、更には第1のボンディングワイヤ16aのワイヤ高さを収納するだけの高さ(図1:t1)を持つ。但しスペーサ30と各半導体チップ10、11との接着剤15の膜厚をも考慮する。この様なスペーサ30としては、膜厚が100?200μ程度の絶縁接着テープ、直径が100?200μの粒状の絶縁フィラーを混入した絶縁性のエポキシ系接着剤等が利用できる。」

(4)同じく、当審における、平成26年10月15日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開平9-246423号公報(平成9年9月19日公開、以下「引用例4」という。)には、「半導体装置」に関する発明が開示されており、そこには、図面とともに次の事項が記載されている。

・「【0008】
【発明が解決しようとする課題】上記従来技術では半導体素子と配線パターンを有するテープまたはプリント配線基板の接着において、半導体素子と実装用プリント基板との熱膨張係数の違いにより発生する熱応力を緩和するため、低弾性のエラストマ接着材を用いている。
【0009】しかし、エラストマ接着材をスクリーン印刷法などで塗布後、両者を圧着して加熱硬化する従来技術では、接着材層の所望の厚さと平坦性を確保することが困難である。平坦性が悪くなると、接着材界面のボイド発生がおこり半導体装置において、耐湿性や耐はんだリフロー性などの信頼性低下の要因となる。」

・「【0045】(実施例6)図6に本実施例による半導体装置の製造工程、及び半導体装置のプリント基板への実装例を示す。厚さ75μmのポリイミドフィルム,膜厚20μmの接着材層,厚さ35μmの銅箔より形成された配線層からなるTABテープ3を用い、インナーリード部分を半導体素子5とバンプ接続する。この半導体素子を液状ポッテングエポキシ樹脂を封止用樹脂7に用いて封止する。次に、実施例2と同様のポリアミドイミド樹脂の20μm厚熱可塑性樹脂フィルム上に室温硬化性の未硬化シリコーン樹脂を塗布し、さらにその上にポリアミドイミド樹脂の20μm厚熱可塑性樹脂フィルムを載せた後、60℃に加熱された熱ロール間を通し、厚さ200μmの3層構造の低弾性接着材17を得る。この接着材シートを切断成形し、前記TABテープにバンプ接続された3個の半導体素子間に挿入し、これらの半導体素子を一括で加圧圧着することにより、図6(d)に示す半導体装置を得る。
【0046】得られた積層型半導体装置を前記の3層構造の低弾性接着材を介してプリント基板に位置合わせ後、ヒートブロックを用いて加熱圧着する。ヒートブロックを取り除いた後、ボンダーを用いて、各半導体素子に接続しているTABテープのアウターリードを実装用プリント配線回路基板のパターン電極に、順次、ボンディングし、プリント基板上に実装する。」

(5)同じく、当審における、平成26年10月15日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開平10-27880号公報(平成10年1月27日公開、以下「引用例5」という。)には、「半導体装置」に関する発明が開示されており、そこには、図面とともに次の事項が記載されている。

・「【0015】上記工程でチップを接着剤上に載せた際、接着剤はチップを載せたことによる圧力で伸張するが、チップ周縁部にまで接着剤が伸張したとしても硬化前の接着剤は流動性を有しているため、ボンディングワイヤに損傷は生じない。要はチップ相互間の距離を接着剤により25μm以上、300μm以下に設定すれば、ボンディングワイヤに損傷を与えることなく、かつ、段差を設ける等の特別な加工を施していない同一サイズのチップでも積層していくことが出来るのである。」

・「【0018】次に、一層目のチップの中心部の4mm×10.7mmの領域にエポキシ樹脂(Ablestic社製 商品名 Ablebond 968-1)を塗布した後、二層目のチップ4として一層目のチップと同じサイズのLSIチップを接着剤上に載せ、キュア温度150℃、キュア時間2時間で接着した。接着剤を硬化させた後のチップ相互間の接着層5の厚さは200μmとした。その後、一層目と同様、二層目のチップにアルミニウムワイヤ3をボンディングし、チップを二層積層した半導体装置を作製した。」

3.対比
本願発明と引用例1記載の発明を対比すると、後者における「接着剤フィルム」からなる「接着剤層」は、前者における「接着剤層」に相当する。
また、後者における「膜厚が50μmの塗膜とし作製した接着剤フィルムを接着剤層として、膜厚が100μmの塗膜を作製し硬化させたコア材の両面に熱ラミネートして得た」電子部品用両面接着フィルムであることは、前者における「総厚みが150μm以上」であることに相当する。
また、後者において「接着剤フィルムの貯蔵弾性率を動的粘弾性測定装置(レオロジ製、DVE-V4)を用いて測定した結果、260℃で4MPa」であることは、前者における「動的粘弾性測定装置を用いて測定した場合の接着剤層の貯蔵弾性率が200℃条件下で1MPa以上」であることに相当する。
また、後者において「接着剤フィルムはエポキシ樹脂及びエポキシ基含有アクリル系共重合体とを含む」ことは、前者において「接着剤層がエポキシ樹脂とエポキシ基含有アクリール系共重合体とを含む」ことに相当する。
また、後者における「電子部品用両面接着フィルム」は、前者における「フィルム状の接着部材であって」、「チップ積層型のチップサイズパッケージ用の接着部材」に相当する。

したがって、両者は、
「接着剤層を有し、フィルム状の接着部材であって、総厚みが150μm以上であり、動的粘弾性測定装置を用いて測定した場合の接着剤層の貯蔵弾性率が200℃条件下で1MPa以上であり、かつ、接着剤層がエポキシ樹脂とエポキシ基含有アクリール系共重合体とを含む、チップ積層型のチップサイズパッケージ用の接着部材。」である点で一致し、次の各点において相違する。

[相違点1]
本願発明においては、「接着剤層の厚み精度が±5μm以下」であるのに対し、引用例1記載の発明においては、そのような規定がない点。

[相違点2]
「接着部材」について、本願発明においては、「上段と下段の大きさが同一である半導体チップ同士の接着に使用される」ものであって、「接着部材は、電気接続のためのワイヤーに接触しないように半導体チップ間に設けられ」たものであるのに対して、引用例1記載の発明においては、「半導体チップと半導体搭載用有機基板を接着するためのもの」である点。

4.判断
相違点1について検討すると、引用例1の段落【0026】には、「好ましい方法は、ラミネートとコーティングであり、電子部品用両面接着フィルムの厚さを精度よく制御することが可能である。」と、厚さを精度よく制御することが記載されており、また、引用例2の段落【0018】には、「接着剤2の厚さのばらつきは±5μm以下で、±3μmであることが好ましい。」と記載されていることから、引用例1記載の発明において、接着剤層の厚み精度を±5μm以下とすることは、当業者にとって、適宜採用し得る事項にすぎないものと認められ、格別なものであるとは認めることができない。

相違点2について検討すると、引用例3の段落【0015】に、膜厚が100?200μ程度の絶縁接着テープにより、上段と下段の大きさが同一である半導体チップ同士を、絶縁接着テープがボンディングワイヤに接触しないように接着することが記載されており、また、引用例4に、実施例6として、熱膨張係数の異なる半導体素子と実装用プリント基板の接着のための接着材シート(低弾性接着材17)を半導体素子同士の接着に用いることも記載されていることから、引用例1記載の発明による「電子部品用両面接着フィルム」を、「上段と下段の大きさが同一である半導体チップ同士の接着に使用」し、「接着部材は、電気接続のためのワイヤーに接触しないように半導体チップ間に設けられ」るようにして、相違点2に係る構成とすることが、当業者にとって、格別に想到困難なことであるとは認めることができない。

また、作用、効果についても、引用例5に、半導体チップ同士を接着する接着剤の厚さを適宜選択することにより、積層された半導体チップ間にあるボンディングワイヤに損傷を与えないようにすること(段落【0015】参照)、および、実施例として、接着層の厚さを200μmとしたこと(段落【0018】参照)が記載されていることを考慮すれば、当業者が予測し得る程度のものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1記載の発明、および引用例2?5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は他の請求項について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-15 
結審通知日 2015-01-20 
審決日 2015-01-29 
出願番号 特願2009-231427(P2009-231427)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂本 薫昭  
特許庁審判長 大熊 雄治
特許庁審判官 丸山 英行
小関 峰夫
発明の名称 接着部材  
代理人 三好 秀和  

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