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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K |
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管理番号 | 1298578 |
審判番号 | 不服2013-419 |
総通号数 | 185 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-01-10 |
確定日 | 2015-03-11 |
事件の表示 | 特願2007-556370「フコシル残基を欠くCD30に対するモノクローナル抗体」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月24日国際公開、WO2006/089232、平成20年 8月 7日国内公表、特表2008-530244〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯・本願発明 本願は、2006年2月17日(パリ条約による優先権主張2005年2月18日、米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1に係る発明は、平成25年1月10日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 フコース残基を欠く、単離された抗CD30抗体であって、前記抗体は、 (a)配列番号:1を含む重鎖可変領域、および (b)配列番号:4を含む軽鎖可変領域を含む、抗体。」 (以下、「本願発明」という。) 第2.引用例 本願優先日前に頒布された刊行物であって、原査定で引用文献3として引用された国際公開第2003/059282号(以下「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている(なお、引用例3は英文であるから、引用例3のパテントファミリーである特表2005-534281号公報の記載を翻訳文として記載する。)。 ア.「1.ヒトCD30に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体。」(第88頁、クレーム1) イ.「III. CD30に対するHuMabの作製 ヒトCD30に対するヒトモノクローナル抗体を、上に解説したように作製したトランスジェニックマウスで以下の通りに作製した。 ・・・(途中省略)・・・このプロトコルの結果、目的の三種類の抗体17G1-1、5F11 及び2H9が単離された。 HuMab 17G1-1、5F11及び2H9のVH 及び VL 領域を、ハイブリドーマのRNAから単離し、cDNAに逆転写させ、これらV 領域をPCRで増幅し、そのPCR産物を配列決定した。」(第66頁16行?第67頁32行) ウ.「図面の簡単な説明 ・・・(途中省略)・・・ 図11は、HuMab 5F11の VH-領域のヌクレオチド配列(配列番号9) 及び対応するアミノ酸配列 (配列番号10)を示す。CDR領域が示されている。 図12は、HuMab 5F11の VL-領域のヌクレオチド配列(配列番号 11) 及び対応するアミノ酸配列 (配列番号12)を示す。CDR領域が示されている。」(第10頁) エ.図面頁3/15?4/15に、「図3;抗CD30 HuMAbのADCC活性」、および「図4;抗CD30 HuMAbのADCC活性」が記載され、図3、4には抗体5F11のADCC活性について示されている。 上記ア?エの記載より、引用例3には、ヒトCD30に結合し、ADCC活性を有する、単離されたヒトモノクローナル抗体5F11が記載されており、この抗体のVH-領域のアミノ酸配列は配列番号10、VL-領域のアミノ酸配列は配列番号12であるから、引用例3には、 「単離された抗CD30抗体であって、前記抗体は、 (a)配列番号10の重鎖可変領域、および (b)配列番号12の軽鎖可変領域を含む、抗体。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 また、本願優先日前に頒布された刊行物であって、原査定で引用文献2として引用された国際公開第2003/085107号(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審が付した。) オ.「発明の開示 本発明は、以下の(1)?(43)に関する。 (1) N-グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素の活性が親株細胞よりも低下または欠失するようにゲノムが改変された細胞。」(第4頁10?14行) カ.「抗体の糖鎖に関しては、抗体のN-グリコシド結合糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサニミンへのフコースの付加修飾によって、抗体の抗体依存性細胞障害活性(以下ADCC活性と表記する)が大きく変化することが報告されている(WO00/61739)。これらの報告は、ヒトIgG1サブクラスの抗体のエフェクター機能に糖鎖の構造が極めて重要な役割を果たしていることを示している。 一般的に、医薬への応用が考えられているヒト化抗体の多くは、遺伝子組換え技術を用いて作製され、動物細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣組織由来DHO細胞などを宿主細胞として用いて製造されているが、上述したように、抗体エフェクター機能には糖鎖構造が極めて重要な役割を担っていること、宿主細胞によって発現された糖蛋白質の糖鎖構造の違いが観察されることから、より高いエフェクター機能を有する抗体を作製することが可能な宿主細胞の開発が望まれている。」(第2頁21?32行) キ.「WO00/61739記載のα1,6-フルコシルトランスフェラーゼ(以下、「FUT8」と表記する)の遺伝子」(第70頁下3?下2行) ク.「実施例6.FUT8対立遺伝子をダブルノックアウトしたCHO/DG44細胞における抗体分子の発現 ・・・(途中省略)・・・ 実施例7.FUT8対立遺伝子をダブルノックアウトしたCHO/DG44細胞が産生する抗体組成物のin vitro細胞障害活性(ADCC活性) 実施例6で精製した抗CD20抗体のin vitro細胞障害活性を評価するため、以下の記述に従いADCC活性を測定した。 ・・・(途中省略)・・・ 第22図に各抗CD20抗体のADCC活性を示した。FUT8遺伝子ダブルノックアウトクローンWK704-2B8Pより得た抗体は、いずれの抗体濃度においても市販のRituxan^(TM)より高いADCC活性を示し、最高細胞障害活性値も高かった。Rituxan^(TM)は、FUT8遺伝子が破壊されていないCHO細胞を宿主細胞として製造された抗CD20キメラ抗体である。・・・(途中省略)・・・以上の結果より、FUT8対立遺伝子を破壊した宿主細胞を用いることにより、FUT8遺伝子が破壊されていない宿主細胞を用いた場合より、細胞障害活性の高い抗体の生産が可能となることが分かった。 実施例8 FUT8対立遺伝子をダブルノックアウトしたCHO/DG44細胞が産生する抗体組成物の糖鎖解析 ・・・(途中省略)・・・ 以上の結果より、宿主細胞のFUT8対立遺伝子を破壊することにより、N-グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する機能を完全に欠失させることが可能であることが明らかとなった。」(第106頁16行?第116頁14行) 上記オ?クの記載より、引用例2には、FUT8対立遺伝子をダブルノックアウトしたCHO/DG44細胞を用いて抗体を作成すると、作成された抗体には、N-アセチルグルコサミンの6位にフコースが結合していないこと、及び、フコースが結合していない抗体(実施例6で精製した抗CD20抗体)は、フコースが結合した抗体(Rituxan^(TM))よりも高いADCC活性を示したことが、記載されている。 第3.対比・判断 本願発明と引用発明を対比する。 引用発明の重鎖可変領域のアミノ酸配列「配列番号10」、軽鎖可変領域のアミノ酸配列「配列番号12」は、引用例3の配列表に示された配列からみて、それぞれ本願発明1の重鎖可変領域の配列「配列番号:1」、軽鎖可変領域の配列「配列番号:4」と完全に一致する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、 「単離された抗CD30抗体であって、前記抗体は、 (a)配列番号:1を含む重鎖可変領域、および (b)配列番号:4を含む軽鎖可変領域を含む、抗体。」である点で一致し、本願発明の抗体は、フコース残基を欠くものであるの対して、引用発明の抗体は、フコース残基を欠くかどうか不明である点で相違する。 そこで、この相違点について検討する。 上記引用例2の記載事項カには、ADCC活性を含む、抗体のエフェクター機能がより高い抗体を作製することが望まれていることが記載され、実際に、引用文献2では、FUT8対立遺伝子を破壊(ダブルノックアウト)したCHO/DG44細胞を用いて抗体を発現させるという方法を用いて作製した、フコースが結合していない抗体が、フコースが結合した抗体よりも高いADCC活性を示したことが確認されている。 そうすると、上記引用例2の記載に接した当業者であれば、引用発明の抗体に、より高いADCC活性をもたせるために、引用発明の抗CD30抗体を引用例2に記載の方法により、フコースが結合していない、すなわち「フコース残基を欠く」抗体にすることは、容易に想到し得たことである。 そして、本願発明の抗体が高いADCC活性を示すことは、引用例2,3の記載から、当業者が予測し得る範囲のことであり、本願発明において奏せられる効果が格別なものとはいえない。 よって、本願発明は、引用例2,3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4.請求人の主張に対し 請求人は、引用例2に記載される細胞系列は、低レベルではなく、高レベルの標的抗原を発現する細胞系列であるから、引用例2は、脱フコシル化された抗体が低レベルの標的抗原を発現する細胞に対して高いADCC活性を有することを示唆していないこと、および、本願発明の抗体がCD30の発現が低い場合でも顕著なADCC活性を発揮することは、引用例2および3の教示から予測可能であったとはいえないこと、を主張している。 しかし、実験を実施する際に、多くの細胞を網羅的に用いてみることは、効率の観点からみて現実的では無いなどの理由から、引用例2の実施例では、代表的な細胞としてCCR4/EL-4細胞やRaji細胞が用いられたに過ぎないと考えられ、引用例2の記載をみても、抗体を適用する細胞から標的抗原の発現が低レベルの細胞が除外されているとか、ADCC活性が増加するのは、抗体が高レベルで抗原を発現する細胞に対して使用された場合に限られる、などとはいえない。 また、本願明細書の記載をみると、実施例2において、4つのCD30+ 細胞株、L540、L428、L1236およびHarpasを用いてADCC活性が評価され、図4?7に細胞障害活性曲線が示されており、図6には、CD30発現の低いL1236株の場合に、0.05μ/ml程度の低い抗体濃度において、脱フコシル化していない抗体5F11はADCC活性を示さず、脱フコシル化された抗体5F11はADCC活性を示したことが示されているが、この図6には、脱フコシル化していない抗体5F11であっても、10μ/ml程度に抗体濃度を高めればADCC活性を示したことも示されているから、図6に示された結果は、いわば、本願発明の抗体は活性が高いから低い濃度でも有効であった、ということを示すに過ぎず、そしてこのことは、当業者が予測できないような効果ではない。 第5. むすび 以上のとおり、本願請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-09-17 |
結審通知日 | 2014-09-30 |
審決日 | 2014-10-23 |
出願番号 | 特願2007-556370(P2007-556370) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C07K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田中 晴絵、小暮 道明 |
特許庁審判長 |
鈴木 恵理子 |
特許庁審判官 |
中島 庸子 小堀 麻子 |
発明の名称 | フコシル残基を欠くCD30に対するモノクローナル抗体 |
代理人 | 水野 祐啓 |