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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1298682
審判番号 不服2012-23909  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-03 
確定日 2015-03-09 
事件の表示 特願2007-501855「メタノールのカルボニル化工程のストリームからの過マンガン酸還元性化合物の除去」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月15日国際公開、WO2005/085166、平成19年 9月13日国内公表、特表2007-526310〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年2月24日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年3月2日(US)米国〕を国際出願日とする出願であって、
平成20年2月25日付けで手続補正がなされるとともに、上申書の提出がなされ、
平成22年11月9日付けの拒絶理由通知に対し、平成23年5月16日付けで意見書の提出及び手続補正(以下「第2回目の手続補正」という。)がなされるとともに、平成23年5月18日(受付日)付けで手続補足書の提出がなされ、
平成23年9月9日付けの拒絶理由通知に対し、平成24年3月22日付けで意見書の提出及び手続補正(以下「第3回目の手続補正」という。)がなされるとともに、平成24年3月29日付けで上申書の提出がなされ、
平成24年7月26日付けの補正の却下の決定により第3回目の手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、
これに対して、平成24年12月3日付けで審判請求がなされると同時に手続補正(以下「第4回目の手続補正」ともいう。)がなされ、
平成25年3月21日付けの審尋に対し、平成25年9月24日付けで回答書の提出がなされ、
平成26年1月22日付けの審尋に対し、平成26年7月23日付けで回答書の提出がなされたものである。

第2 平成24年12月3日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成24年12月3日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1.補正の内容
平成24年12月3日付け手続補正(第4回目の手続補正)は、第2回目の手続補正により補正されていた補正前の請求項1の
「メタノール、酢酸メチル、及びそれらの混合物からなる群から選ばれるカルボニル化可能な反応物の酢酸生成物へのカルボニル化において形成される過マンガン酸還元性化合物(PRC)、C_(3-8)カルボン酸及びヨウ化C_(2-12)アルキル化合物を削減及び/又は除去するための改良された方法であって、前記カルボニル化による生成物は、蒸留して精製酢酸生成物を得るための揮発性相と、ヨウ化メチル、水及び少なくとも一つのPRCを含む第一のオーバーヘッドとを含み、該改良法は、
(a)前記第一のオーバーヘッドを凝縮し、該第一のオーバーヘッドを二相的に分離して、第一の重質液相と第一の軽質液相とを形成させ、さらに該第一の軽質液相の少なくとも一部を蒸留して、ヨウ化メチル、ジメチルエーテル、及び前記少なくとも一つのPRCを含む第二のオーバーヘッドストリームを製造するステップと;
(b)前記第二のオーバーヘッドを水で抽出して、第一のラフィネートと、前記少なくとも一つのPRCを含有する第一の水性抽出物ストリームとを形成するステップと;そして
(c)前記第一のラフィネートを水で抽出して、第二のラフィネートと、前記少なくとも一つのPRCを含有する第二の水性抽出物ストリームとを形成するステップと
を含み、第二のラフィネートの少なくとも一部を直接又は間接的に反応媒質に導入することをさらに含む方法。」
との記載を、補正後の請求項1の
「メタノール、酢酸メチル、及びそれらの混合物からなる群から選ばれるカルボニル化可能な反応物の酢酸生成物へのカルボニル化において形成される過マンガン酸還元性化合物(PRC)、C_(3-8)カルボン酸及びヨウ化C_(2-12)アルキル化合物を削減及び/又は除去するための改良された方法であって、前記カルボニル化による生成物は、蒸留して精製酢酸生成物を得るための揮発性相と、ヨウ化メチル、水及び少なくとも一つのPRCを含む第一のオーバーヘッドとを含み、該改良法は、
(a)前記第一のオーバーヘッドを凝縮し、該第一のオーバーヘッドを二相的に分離して、第一の重質液相と第一の軽質液相とを形成させ、さらに該第一の軽質液相の少なくとも一部を蒸留して、ヨウ化メチル、ジメチルエーテル、及び前記少なくとも一つのPRCを含む第二のオーバーヘッドストリームを製造するステップと;
(b)前記第二のオーバーヘッドを水で抽出して、第一のラフィネートと、前記少なくとも一つのPRCを含有する第一の水性抽出物ストリームとを形成するステップと;そして
(c)前記第一のラフィネートを水で抽出して、第二のラフィネートと、前記少なくとも一つのPRCを含有する第二の水性抽出物ストリームとを形成するステップと
を含み、第二のラフィネートの少なくとも一部を直接又は間接的に反応媒質に導入することをさらに含み、
抽出ステップ(b)及び(c)のうちの一つに使用するための水が、水性抽出物ストリームのうちの一つの少なくとも一部を含む方法。」
との記載に改めるとともに、補正前の請求項2?7を削除する補正からなるものである。

2.補正の適否
(1)はじめに
上記請求項1についての補正は、補正前の請求項1において、補正前の請求項2の記載等に基づいて「抽出ステップ(b)及び(c)のうちの一つに使用するための水が、水性抽出物ストリームのうちの一つの少なくとも一部を含む」ことを更に特定するものであって、これにより補正前後の当該請求項に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が変更されるものではない。
したがって、上記請求項1についての補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について検討する。

(2)進歩性について
ア.引用文献及びその記載事項
(ア)引用文献1:特開平08-067650号公報
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献1」には、次の記載がある。

摘記1a:請求項3
「ロジウム触媒、ヨウ化物塩およびヨウ化メチルの存在下、メタノールと一酸化炭素を反応させ、反応液を酢酸、酢酸メチルおよびヨウ化メチルを含む揮発性相とロジウム触媒を含む低揮発性相とに分離し、揮発性相を蒸留して、酢酸を含む生成物と酢酸メチルおよびヨウ化メチルを含むオーバーヘッドを得、該オーバーヘッドを反応器に再循環する酢酸の製造方法において、オーバーヘッドあるいはそのカルボニル不純物濃縮液を水と接触させ、酢酸メチルとヨウ化メチルを含む有機相とカルボニル不純物を含む水相とに分離し、該有機相を反応器に再循環することを特徴とする請求項1記載の高純度酢酸の製造方法。」

摘記1b:段落0020?0021
「好ましい方法の第1工程では、例えばアセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、ブチルアルデヒド等のようなカルボニル不純物を含む分液槽下相液30を水と接触させ、水相にカルボニル不純物を抽出する。…
抽出器はミキサーとセトラーの組み合わせ、スタティックミキサーとデカンターの組み合わせ、RDC(rotated disk contactor)、Karr塔、スプレー塔、充填塔、多孔板塔、邪魔板塔、脈動塔など、技術上周知の適当ないかなる装置でも用いることができる。抽出器からデカンターを経て、カルボニル不純物を含む水相流とカルボニル化不純物を含まない有機相流を得る。有機相流はカルボニル化反応器へ再循環される。水相流は蒸留塔に送り、カルボニル不純物を水から分離し、水は抽出器へ再循環される。分析方法によって、カルボニル不純物の除去値を知ることができる。…
本発明において、除去すべきアセトアルデヒドの量は、定常連続反応中の反応液中のアセトアルデヒド濃度を400ppm以下(好ましくは350ppm以下、更に好ましくは300ppm以下)に保てる量である。…アセトアルデヒドをプロセス液から抜き取ることによって、製品酢酸中のアセトアルデヒド由来の有機ヨウ化物、カルボニル不純物が減少するのみならず、プロピオン酸も減少させることができ、酢酸の精製が容易になる利点がある。」

摘記1c:段落0024
「実施例1 本実施例では、前記80段蒸留塔の塔頂抜取液を用いて水抽出を行い、得られた抽出液を蒸留し、アセトアルデヒドが分離できることを示す。抽出は抽剤である水と前記80段蒸留塔の塔頂抜取液との比S/Fを1(重量比)、理論段2段で行った。…反応器でのアセトアルデヒド濃度は200ppmであった。この結果、得られる製品酢酸の過マンガン酸タイムは200分であった。また、ヨウ化メチル-酢酸スプリッターカラム14の底部付近から取り出された湿潤生成物流は蒸留により乾燥されるが、この乾燥した生成物液中のヨウ化ヘキシルは9ppb、プロピオン酸濃度は270ppmであった。」

(イ)引用文献2:特表2001-508405号公報
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献2」には、次の記載がある。

摘記2a:請求項1
「メタノールから酢酸生成物へのカルボニル化において形成される過マンガン酸塩還元化合物(PRC)及びC_(2-12)アルキルヨウ化物化合物を減少及び/又は除去するための方法であって、該メタノールはVIII族金属触媒、有機ヨウ化物及びヨウ化物塩触媒促進剤を含む好適な液相反応媒体中でカルボニル化し;該カルボニル化の生成物は生成物を含む揮発性相とVIII族金属触媒、酢酸、及びヨウ化物触媒促進剤を含む揮発性に劣る相とに分離し;該生成物相は蒸留塔において蒸留して精製生成物並びに有機ヨウ化物、酢酸メチル、水、酢酸、及び未反応メタノールを含むオーバーヘッドを得、該オーバーヘッドの少なくとも一部はオーバーヘッド受容器デカンターに導き、該オーバーヘッド受容器デカンターは該オーバーヘッドを酢酸及び水を含む軽質相と酢酸メチル及び有機ヨウ化物を含む重質相とに分離し;かつ、該重質相をカルボニル化反応器に再循環させる方法であって、以下を含む改善:
(a)酢酸及び水を含む軽質相を蒸留器に導き、該蒸留器は該混合物を、水及び酢酸を含む残滓流(1)並びにヨウ化メチル、酢酸メチル、メタノール、C_(2-12)アルキルヨウ化物、及びPRCを含むオーバーヘッド流2)の2つの流れに分離するものであり;
(b)工程(a)の流れ(1)を該反応器に戻し、及び工程(a)の流れ(2)を第2蒸留器に導き、該第2蒸留器はPRCを該混合物から除去する役目を果たすものであり;
(c)工程(b)のPRCを除去した混合物を抽出器に導いてそこから有機ヨウ化物化合物を除去してもよく;かつ
(d)濃縮したPRCを廃棄のために分別し、(e)の有機ヨウ化物相を、PRC及びC_(2-12)アルキルヨウ化物の割合が低い流れとしてカルボニル化反応器に戻す、
を特徴とする方法。」

摘記2b:第8頁第6?15行
「本発明は、…過マンガン酸塩還元化合物(PRC)、例えば、アセトアルデヒドの除去に向けられている。他のPRCとしてはアルキルヨウ化物、例えば、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピル、ヨウ化ブチル、ヨウ化ペンチル、ヨウ化ヘキシル等が挙げられる。さらに別のPRCとしてはプロピオン酸、この酢酸プロセスの副生物、が挙げられる。PCRは、典型的には、ヨウ化物触媒促進剤(例えば、MeI)に非常に近い沸点を有し、アルキルヨウ化物を十分に除去することは困難である。」

摘記2c:第17頁第5?9行
「メタノールから酢酸へのヨウ化物促進ロジウム触媒カルボニル化に用いられる典型的な反応及び酢酸回収系が図1に示されており、これは液相カルボニル化反応器、フラッシャー、及びヨウ化メチル酢酸軽留カラム14を具備し、このカラムは酢酸側流17を有し、この側流はさらなる精製に進む。反応器及びフラッシャーは図1には示されない。」

摘記2d:第19頁第15行?第20頁末行
「本発明の好ましい態様が図1に示される;軽留、すなわちスプリッターカラム14の頂部から流れ28を介して気体を除去し、濃縮し、16に導く。これらの気体を、濃縮して濃縮可能なヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒド及び他のカルボニル成分と水とを2層に分離するのに十分な温度に冷却する。軽質相を蒸留カラム18に導く。カラム18は流れ32中のアセトアルデヒドを濃縮する役目を果たす。流れ30の一部は、流れ34として、軽留カラム14に還流物として戻す。流れ28の一部は濃縮不可能の気体、例えば、二酸化炭素、水素等を含み、図1で流れ29に示されるように排出することができる。図1には示されていないが、流れ28の重質相もオーバーヘッド受容器デカンター16を離れる。通常、この重質相は反応器に再循環される。…
流れ30は流れ32としてカラム18に、このカラムの中央部付近から流入する。カラム18は、水及び酢酸を分離することにより流れ32のアルデヒド成分を濃縮する役目を果たす。本発明の好ましい方法においては流れ32を18内で蒸留するが、ここで18は約40の棚を有し、その内部の温度はカラムの底部での約283°F(139.4℃)から頂部での約19°F(88.3℃)までの範囲をとる。18の頂部からは、PRC、特にはアセトアルデヒド、ヨウ化メチル、酢酸メチル、及びメタノール、並びにアルキルヨウ化物を含む流れ36が流出する。18の底部からは、約70%の水及び30%の酢酸を含む流れ38が流出する。流れ38は熱交換器を用いて冷却し、最終的に反応器に再循環させる。流れ36は、カラム16を通して再循環した後に約7倍多いアルデヒド含量を有することが見出されている。16を通して戻される、流れ46として識別される流れ38の一部の再循環が本発明の方法の効率を高め、それによってより多くのアセトアルデヒドが軽質相、流れ32中に存在するものと見込まれることが見出されている。流れ36は、次に、冷却して存在する濃縮可能な気体を濃縮した後、オーバーヘッド受容器20に導かれる。
アセトアルデヒド、ヨウ化メチル、酢酸メチル、及びメタノールを含む流れ40が20を流出する。流れ40の一部、すなわち、側流42は還流物として18に戻る。流れ40は蒸留カラム22に、カラムの底部付近から流入する。カラム22は大部分のアセトアルデヒドを流れ40中のヨウ化メチル、酢酸メチル、及びメタノールから分離する役目を果たす。…
22の残滓、流れ44は塔の底部から流出し、カルボニル化プロセスに再循環される。」

摘記2e:第21頁第19行?第22頁第10行
「PRCを含む流れ52が22の頂部から流出する。流れ52は濃縮器、次いでオーバーヘッド受容器24に導く。濃縮の後、濃縮不可能な物質は受容器24から排出する。流れ54が24から流出する。流れ56、流れ54の側流は還流物として22に用いる。ヨウ化メチル、メタノール、酢酸メチル、メタノール及び水を含む流れ44が22の底部から流出する。この流れは流れ66と組み合わせて反応器に導く。…
本発明の好ましい態様においては、24から流出したら直ちに、流れ54/58を濃縮器/冷却器を通して(既に流れ62)抽出器27に送り、その水性PRC流から少量のヨウ化メチルを除去して再循環する。濃縮不可能の気体は24の頂部から排出する。抽出器27においては、PRC及びアルキルヨウ化物を水で、好ましくは、反応系内の水量バランスが維持されるように内部流からの水で抽出する。この抽出の結果として、ヨウ化メチルが水性RPC及びアルキルヨウ化物相から分離する。好ましい態様においては、水量対供給量比が2であるミキサー-沈降タンクが用いられる。
ヨウ化メチルを含む流れ66がこの抽出器を流出し、これは反応器に再循環させる。64の水性流は抽出器の頂部から流出する。このPRCに富む、特にはアセトアルデヒドに富む水性相は廃棄物処理に導く。」

摘記2f:第26頁の図1




(ウ)引用文献4:石油学会誌,1977年,第20巻第5号,p.388-391
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献4」には、次の記載がある。

摘記4a:第390頁左欄第24行?右欄第12行
「2.2 Monsanto法
Monsantoは、1970年に13.5万t/yrのプラントを建設以来,好調に商業生産を続けている模様である。その経済的有利性の故に,世界各国へのライセンシングの話題が最近の新聞紙上を賑わしている。
Monsanto法の最大の特長は,高活性,高選択性のロジウム触媒を用いていることである。…
Monsanto法では反応は28atm,175℃で行われ,メタノール基準の収率99%とCO基準の収率90%が得られている。
主反応は,次式の通りである。
ロジウム触媒 CH_(3)COH
CH_(3)OH+CO -------→ ? (1)
助 触 媒 O
副反応として,種々の平衡反応が考えられる。
2CH_(3)OH ⇔ CH_(3)OCH_(3) + H_(2)O (2)
CH_(3)OH+CH_(3)COH ⇔ CH_(3)COCH_(3)+H_(2)O (3)
? ?
O O
CH_(3)OH+HI(aq) ⇔ CH_(3)I+H_(2)O (4)
しかし,これらの副反応は平衡反応であるので,究極的にはこれら中間体は酢酸に変わる事になる。」

(エ)引用文献6:特開2000-072712号公報
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献6」には、次の記載がある。

摘記6a:請求項1
「ロジウム触媒、沃化物塩及び沃化メチルの存在下、一酸化炭素とメタノール、ジメチルエーテル又は酢酸メチルを反応させる第1工程、第1工程で得た反応液を蒸留し、カルボニル化合物を含む高揮発性相と低揮発性相に分離する第2工程、第2工程で得たカルボニル化合物を含む高揮発性相を蒸留し、酢酸を含む生成物とカルボニル化合物を含む不純物に分離する第3工程、第3工程で得たカルボニル化合物を含む不純物を水と接触させることにより、沃化アルキルを含む有機相とカルボニル化合物を含む水相に分離する第4工程並びに第4工程で得た有機相を反応工程に返送する第5工程、を具備しており、第4工程において、カルボニル化合物を含む不純物と水との接触を30?60℃で行うことを特徴とする酢酸の製造方法。」

摘記6b:段落0020?0021
「次に、第4工程において、抽出部25で、第3工程で得た不純物を水と接触させることにより、主として沃化メチル等の沃化アルキルを含む有機相と、主としてカルボニル化合物を含む水相に分離する。…
第4工程における不純物と水の接触は、30?60℃、好ましくは35?50℃の範囲で、常圧又は加圧下で行う。前記温度範囲で処理を行うことにより、アセトアルデヒド等のカルボニル化合物の抽出率を高く維持すると共に、沃化メチル等の沃化アルキルが水相中に混入することを抑制し、さらに沃化アルキルを反応工程に返送して再利用することにより、原料の有効利用と廃液中に混入する沃化アルキルによる環境への悪影響を防止できる。」

摘記6c:段落0037及び0040?0041
「(第4工程)第3b工程で得た塔頂抜取液580g/hrを抽出部25となる充填塔(理論段数は表1に示す)に送り、表1に示す温度及び時間で水と接触させ、水相と有機相に分離した。水相は、別途設けた分離塔に供給して蒸留し(理論段8段、還流比0.3)、留出液としてアセトアルデヒドを取り出し、缶出液として水を取り出した。この水は、凝縮器18に返送した。…
【表1】
接触温度 … 沃化メチルの排出量 … 処理に用いた分
(℃) … (kg/hr) … 離器の理論段数
実施例1 38 … 0.3 … 1.6

実施例1及び2は、アセトアルデヒドを除去すると共に、沃化メチルを反応器に返送して再利用するため、廃液中における沃化メチル濃度を減少できた。得られた製品酢酸の過マンガン酸タイム(過マンガン酸還元性物質試験)は190分であった。過マンガン酸タイムは、JIS K1351に記載の方法による、酢酸中の極微量な還元性不純物の存在量を調べる品質試験であり、その時間(分)が長いほど純度が高いことを示すものである。」

摘記6d:段落0045
「比較試験例2、3、4の場合には、下記式で表される副反応が生じるため、沃化水素量が返って増加するものと推定される。
CH_(3)I+CH_(3)OH ⇒ HI+CH_(3)OCH_(3)↑」

(オ)引用文献7:化学装置・機器の基礎知識,オーム社,1991年
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献7」には、次の記載がある。

摘記7a:第52頁の図9




摘記7b:第53頁左欄第34行?右欄第28行
「抽出操作の分類
抽出操作を操作方法で分類すれば,段階的抽出操作と連続的抽出操作に分けることができる.段階的抽出操作にはつぎの3種類がある.
(1)1回抽出
抽料および抽剤の全量を1回に混合して,静置後分離するやり方である(図9(a)).
(2)多回抽出(並流多回抽出)
抽剤を数回に分けて使用し,抽残液を新しい抽剤と数回接触させ抽出効率を上げる方法である(図9(b)).
(3)向流多段抽出
抽料と抽剤とを向流接触させるやり方で,数個の抽出槽を連結する(図9(C)).
また,連続的抽出操作では,向流塔式が用いられる(図9(d)).
液液抽出装置の種類と構造
液液抽出装置には種々の形式のものが現在用いられている.このうち代表的なものについて説明する.
(1)槽型抽出装置(mixer-settler型)
図1のように,攪拌槽と分液タンクからなっている.抽料と抽剤を攪拌槽ではげしく混合し,一段の抽出を行ったのち分液タンクで両相の比重差により分離する簡単なものである.したがって,固定費が安く,また操作条件や抽料,抽剤などの種類も相当広くとることができる利点がある.しかし欠点としては,処理量あたりの床面積が大きい.また,これを数組用いることにより,並流多回抽出や向流多段抽出を行うこともできる.
(2)スプレー塔(spray column)…
(3)多孔板塔(perforated plate column)…
(4)邪魔板塔…
(5)充填塔…
(6)脈動塔」

イ.引用発明、並びに引用発明及び補正発明の分説
(ア)引用文献2に記載された発明
摘記2aの記載からみて、引用文献2には、その請求項1に記載されるとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(イ)引用発明の分説
摘記2c?2eの符合に関する記載、及び摘記2fの図1(本願の図1と一致する内容のもの)の記載を参酌するに、引用発明は次のように分説できる。
『(A)メタノールから酢酸生成物へのカルボニル化において形成される過マンガン酸塩還元化合物(PRC)及びC_(2-12)アルキルヨウ化物化合物を減少及び/又は除去するための方法であって、
(X1)該メタノールはVIII族金属触媒、有機ヨウ化物及びヨウ化物塩触媒促進剤を含む好適な液相反応媒体中でカルボニル化し;該カルボニル化の生成物は生成物を含む揮発性相とVIII族金属触媒、酢酸、及びヨウ化物触媒促進剤を含む揮発性に劣る相とに分離し;
(B1)該生成物相〔26〕は
(B2)蒸留塔〔14〕において蒸留して精製生成物〔17〕並びに
(B3)有機ヨウ化物、酢酸メチル、水、酢酸、及び未反応メタノールを含むオーバーヘッド〔28〕を得、
(C1)該オーバーヘッド〔28〕の少なくとも一部はオーバーヘッド受容器デカンター〔16〕に導き、
(C2)該オーバーヘッド受容器デカンター〔16〕は該オーバーヘッドを酢酸及び水を含む軽質相〔32〕と酢酸メチル及び有機ヨウ化物を含む重質相〔34〕とに分離し;
(X2)かつ、該重質相をカルボニル化反応器に再循環させる方法であって、
以下を含む改善:
(C3)(a)酢酸及び水を含む軽質相〔32〕を蒸留器〔18〕に導き、該蒸留器〔18〕は該混合物を、水及び酢酸を含む残滓流〔38〕並びにヨウ化メチル、酢酸メチル、メタノール、C_(2-12)アルキルヨウ化物、及びPRCを含むオーバーヘッド流〔36〕の2つの流れに分離するものであり;
(X4)(b)工程(a)の流れ〔38〕を該反応器に戻し、及び工程(a)の流れ〔36〕を第2蒸留器〔22〕に導き、該第2蒸留器〔22〕はPRCを該混合物から除去〔44〕する役目を果たすものであり;
(D1)(c)工程(b)のPRCを除去した混合物〔52〕を抽出器〔27〕に導いてそこから有機ヨウ化物化合物を除去してもよく;かつ
(D3)(d)濃縮したPRCを廃棄のために分別し〔64〕 、
(D2)(e)の有機ヨウ化物相〔66〕を、
(F)PRC及びC_(2-12)アルキルヨウ化物の割合が低い流れ〔66〕としてカルボニル化反応器に戻す、
を特徴とする方法。』

ウ.補正発明の分説
本願明細書の発明の詳細な説明の記載、及び本願の図2の「

」との記載を参酌するに、補正発明は次のように分説できる。
『(A)メタノール、酢酸メチル、及びそれらの混合物からなる群から選ばれるカルボニル化可能な反応物の酢酸生成物へのカルボニル化において形成される過マンガン酸還元性化合物(PRC)、C_(3-8)カルボン酸及びヨウ化C_(2-12)アルキル化合物を削減及び/又は除去するための改良された方法であって、
(B1)前記カルボニル化による生成物〔26〕は、
(B2)蒸留して精製酢酸生成物を得るための揮発性相〔17〕と、
(B3)ヨウ化メチル、水及び少なくとも一つのPRCを含む第一のオーバーヘッド〔28〕
とを含み、該改良法は、
(C1)(a)前記第一のオーバーヘッド〔28〕を凝縮し、
(C2)該第一のオーバーヘッドを二相的に分離〔16〕して、第一の重質液相〔34〕と第一の軽質液相〔32〕とを形成させ、
(C3)さらに該第一の軽質液相〔32〕の少なくとも一部を蒸留〔18及び/又は22〕して、ヨウ化メチル、ジメチルエーテル、及び前記少なくとも一つのPRCを含む第二のオーバーヘッドストリーム〔36及び/又は52〕
を製造するステップと;
(D1)(b)前記第二のオーバーヘッド〔36及び/又は52〕を水で抽出して、
(D2)第一のラフィネート〔66〕と、
(D3)前記少なくとも一つのPRCを含有する第一の水性抽出物ストリーム〔64〕
とを形成するステップ〔27〕と;そして
(E1)(c)前記第一のラフィネート〔66〕を水で抽出して、
(E2)第二のラフィネート〔72〕と、
(E3)前記少なくとも一つのPRCを含有する第二の水性抽出物ストリーム〔70〕
とを形成するステップとを含み、
(F)第二のラフィネート〔72〕の少なくとも一部を直接又は間接的に反応媒質に導入することをさらに含み、
(G)抽出ステップ(b)及び(c)のうちの一つに使用するための水が、水性抽出物ストリームのうちの一つの少なくとも一部を含む
方法。』

エ.対比
補正発明と引用発明とを対比する。
上記(A)の構成要素について、引用発明の「メタノールから酢酸生成物へのカルボニル化」との構成要素における「メタノール」は、当該「メタノール」が酢酸にカルボニル化される「カルボニル化可能な反応物」に相当することが明らかであって、摘記2d?2eの「22の残滓、流れ44は塔の底部から流出し、カルボニル化プロセスに再循環される。…ヨウ化メチル、メタノール、酢酸メチル、メタノール及び水を含む流れ44が22の底部から流出する。この流れは流れ66と組み合わせて反応器に導く。」との記載及び摘記4aの「副反応として,種々の平衡反応が考えられる。…しかし,これらの副反応は平衡反応であるので,究極的にはこれら中間体は酢酸に変わる事になる。」との記載を参酌するに、引用発明においては未反応の「メタノール」やその後の平衡反応により生じた「酢酸メチル」などの反応生成物がカルボニル化プロセスに再循環される場合を含むから、補正発明の「メタノール、酢酸メチル、及びそれらの混合物からなる群から選ばれるカルボニル化可能な反応物」に相当する。
引用発明の「酢酸生成物へのカルボニル化において形成される過マンガン酸塩還元化合物(PRC)及びC_(2-12)アルキルヨウ化物化合物」は、摘記2bの「過マンガン酸塩還元化合物(PRC)、例えば、アセトアルデヒドの除去に向けられている。他のPRCとしてはアルキルヨウ化物、例えば、ヨウ化エチル、…等が挙げられる。さらに別のPRCとしてはプロピオン酸、この酢酸プロセスの副生物、が挙げられる。」との記載からみて、当該「過マンガン酸塩還元化合物(PRC)」の範疇には、プロピオン酸(C_(3)カルボン酸)やヨウ化エチル(ヨウ化C_(2)アルキル化合物)などの副生物が含まれていることから、補正発明の「メタノール、酢酸メチル、及びそれらの混合物からなる群から選ばれるカルボニル化可能な反応物の酢酸生成物へのカルボニル化において形成される過マンガン酸還元性化合物(PRC)、C_(3-8)カルボン酸及びヨウ化C_(2-12)アルキル化合物」に相当する。
引用発明の「減少及び/又は除去するための方法」は、補正発明の「削減及び/又は除去するための改良された方法」に相当する。
したがって、上記(A)の構成要素についてみると、補正発明と引用発明は「メタノール、酢酸メチル、及びそれらの混合物からなる群から選ばれるカルボニル化可能な反応物の酢酸生成物へのカルボニル化において形成される過マンガン酸還元性化合物(PRC)、C_(3-8)カルボン酸及びヨウ化C_(2-12)アルキル化合物を削減及び/又は除去するための改良された方法であって、」という点において一致する。

上記(B1)?(B3)の構成要素について、引用発明の「該メタノールはVIII族金属触媒、有機ヨウ化物及びヨウ化物塩触媒促進剤を含む好適な液相反応媒体中でカルボニル化し;該カルボニル化の生成物は生成物を含む揮発性相とVIII族金属触媒、酢酸、及びヨウ化物触媒促進剤を含む揮発性に劣る相とに分離し;該生成物相は」との構成要素における『カルボニル化の生成物を含む揮発性相』である「該生成物相」は、メタノールを触媒等の存在下にカルボニル化して得られる「カルボニル化の生成物」を含む相であるから、補正発明の「前記カルボニル化による生成物」に相当する。
引用発明の「蒸留塔において蒸留して精製生成物並びに有機ヨウ化物、酢酸メチル、水、酢酸、及び未反応メタノールを含むオーバーヘッドを得」との構成要素における「蒸留塔において蒸留」して得られる「精製生成物」は、摘記2cの「ヨウ化メチル酢酸軽留カラム14を具備し、このカラムは酢酸側流17を有し、この側流はさらなる精製に進む。」との記載における『さらなる精製に進む酢酸側流17』の酢酸生成物を意味していることが明らかであって、当該「酢酸側流17」は『カルボニル化の生成物を含む揮発性相』である生成物相の流れ26を蒸留塔(軽留カラム14)で蒸留して得られるものであるから、補正発明の「蒸留して精製酢酸生成物を得るための揮発性相」に相当する。
引用発明の「蒸留塔において蒸留して精製生成物並びに有機ヨウ化物、酢酸メチル、水、酢酸、及び未反応メタノールを含むオーバーヘッドを得」との構成要素における「有機ヨウ化物、酢酸メチル、水、酢酸、及び未反応メタノールを含むオーバーヘッド」は、摘記2dの「流れ28…濃縮して濃縮可能なヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒド及び他のカルボニル成分と水とを2層に分離する」との記載からみて、ヨウ化メチルを含むとともに、アセトアルデヒド等のPRC成分をも含むことが明らかなので、補正発明の「ヨウ化メチル、水及び少なくとも一つのPRCを含む第一のオーバーヘッド」に相当する。
したがって、上記(B1)?(B3)の構成要素についてみると、補正発明と引用発明は「前記カルボニル化による生成物は、蒸留して精製酢酸生成物を得るための揮発性相と、ヨウ化メチル、水及び少なくとも一つのPRCを含む第一のオーバーヘッドとを含み、」という点において一致する。

上記(C1)?(C3)の構成要素〔補正発明の(a)の構成要素〕について、引用発明の「該オーバーヘッドの少なくとも一部はオーバーヘッド受容器デカンターに導き、該オーバーヘッド受容器デカンターは該オーバーヘッドを酢酸及び水を含む軽質相と酢酸メチル及び有機ヨウ化物を含む重質相とに分離し;」は、摘記2dの「流れ28を…16に導く。…2層に分離するのに十分な温度に冷却する。軽質相を蒸留カラム18に導く。…重質相は反応器に再循環される。」との記載を参酌するに、引用発明の「オーバーヘッドの少なくとも一部」が摘記2fの図の「流れ28」に該当するものであって、補正発明の「前記第一のオーバーヘッド」に相当し、引用発明の「オーバーヘッド受容器デカンター」が摘記2fの図の「デカンター16」に該当するものであって、摘記2dに記載されるとおりの「2層に分離するのに十分な温度に冷却」すること(流れ28を凝縮すること)で引用発明の「軽質相」と「重質相」の2相に分離する機能を果たしていることから、補正発明の「前記第一のオーバーヘッドを凝縮し、該第一のオーバーヘッドを二相的に分離して、第一の重質液相と第一の軽質液相とを形成させ、」に相当する。
引用発明の「酢酸及び水を含む軽質相を蒸留器に導き、」は、当該「蒸留器」に導入された「酢酸及び水を含む軽質相」の蒸留がなされることが明らかであるから、補正発明の「さらに該第一の軽質液相の少なくとも一部を蒸留して、」に相当する。
引用発明の「該蒸留器は該混合物を、水及び酢酸を含む残滓流(1)並びにヨウ化メチル、酢酸メチル、メタノール、C_(2-12)アルキルヨウ化物、及びPRCを含むオーバーヘッド流2)の2つの流れに分離する」との構成要素における「ヨウ化メチル、酢酸メチル、メタノール、C_(2-12)アルキルヨウ化物、及びPRCを含むオーバーヘッド流2)」の「分離」は、補正発明の「ヨウ化メチル、ジメチルエーテル、及び前記少なくとも一つのPRCを含む第二のオーバーヘッドストリームを製造する」に対応する(ただし、引用発明の「オーバーヘッド流2)」に含まれる成分として「ジメチルエーテル」は明記されていない。)。
したがって、上記(C1)?(C3)の構成要素〔補正発明の(a)の構成要素〕についてみると、補正発明と引用発明は「(a)前記第一のオーバーヘッドを凝縮し、該第一のオーバーヘッドを二相的に分離して、第一の重質液相と第一の軽質液相とを形成させ、さらに該第一の軽質液相の少なくとも一部を蒸留して、ヨウ化メチル、及び前記少なくとも一つのPRCを含む第二のオーバーヘッドストリームを製造するステップと;」という点において一致し、第二のオーバーヘッドストリームを構成する成分として、補正発明は「ジメチルエーテル」を含むのに対して、引用発明は「ジメチルエーテル」を含むことが特定されていない点において一応相違する。

上記(D1)?(D3)の構成要素〔補正発明の(b)の構成要素〕について、引用発明の「(b)工程(a)の流れ(1)を該反応器に戻し、及び工程(a)の流れ(2)を第2蒸留器に導き、該第2蒸留器はPRCを該混合物から除去する役目を果たすものであり;(c)工程(b)のPRCを除去した混合物を抽出器に導いてそこから有機ヨウ化物化合物を除去してもよく;」との構成要素における「工程(b)のPRCを除去した混合物」は、摘記2fの図の流れ36に対応する「工程(a)の流れ(2)」を蒸留器22において蒸留し、PRCを除去した上で、摘記2fの図の流れ52のオーバーヘッドとして抽出器27に供するものであることから、補正発明の「前記第二のオーバーヘッド」に相当する。
引用発明の「(c)工程(b)のPRCを除去した混合物を抽出器に導いてそこから有機ヨウ化物化合物を除去してもよく;」との構成要素における「混合物を抽出器に導いてそこから有機ヨウ化物化合物を除去」は、摘記2eの「流れ52は…オーバーヘッド受容器24…。流れ54が24から流出する。…24から流出したら直ちに、流れ54/58を濃縮器/冷却器を通して(既に流れ62)抽出器27に送り、…抽出器27においては、PRC及びアルキルヨウ化物を水で、好ましくは、反応系内の水量バランスが維持されるように内部流からの水で抽出する。この抽出の結果として、ヨウ化メチルが水性RPC及びアルキルヨウ化物相から分離する。」との記載にあるように、好ましくは「内部流からの水」で「アルキルヨウ化物」を抽出するものであって、この抽出の結果として、補正発明の「第一のラフィネート」に相当する「ヨウ化メチル」と、補正発明の「少なくとも一つのPRCを含有する第一の水性抽出物ストリーム」に相当する「水性RPC及びアルキルヨウ化物相」とに分離するものであるから、補正発明の「(b)前記第二のオーバーヘッドを水で抽出して、第一のラフィネートと、前記少なくとも一つのPRCを含有する第一の水性抽出物ストリームとを形成するステップと;」に相当する。
したがって、上記(D1)?(D3)の構成要素〔補正発明の(b)の構成要素〕についてみると、補正発明と引用発明は「(b)前記第二のオーバーヘッドを水で抽出して、第一のラフィネートと、前記少なくとも一つのPRCを含有する第一の水性抽出物ストリームとを形成するステップと;」を有するという点において一致する。

上記(E1)?(E3)の構成要素〔補正発明の(c)の構成要素〕について、水による抽出工程が、引用発明においては抽出器27の一段のみであるのに対して、補正発明においては抽出器27及び抽出器25の少なくとも二段からなっている。
したがって、上記(E1)?(E3)の構成要素〔補正発明の(c)の構成要素〕についてみると、補正発明においては「(c)前記第一のラフィネートを水で抽出して、第二のラフィネートと、前記少なくとも一つのPRCを含有する第二の水性抽出物ストリームとを形成するステップ」を有するのに対して、引用発明においては「(c)前記第一のラフィネートを水で抽出して、第二のラフィネートと、前記少なくとも一つのPRCを含有する第二の水性抽出物ストリームとを形成するステップ」を有していない点において相違する。

上記(F)の構成要素について、引用発明の「(d)濃縮したPRCを廃棄のために分別し、(e)の有機ヨウ化物相を、PRC及びC_(2-12)アルキルヨウ化物の割合が低い流れとしてカルボニル化反応器に戻す、」との構成要素における「(e)の有機ヨウ化物相を、PRC及びC_(2-12)アルキルヨウ化物の割合が低い流れとしてカルボニル化反応器に戻す、」は、補正発明の「第二のラフィネート」ではなく、補正発明の「第一のラフィネート」の少なくとも一部を「直接又は間接的に反応媒質に導入することをさらに含み」に相当する。
したがって、上記(F)の構成要素についてみると、補正発明と引用発明は「ラフィネートの少なくとも一部を直接又は間接的に反応媒質に導入することをさらに含み、」という点において一致する。

上記(G)の構成要素について、引用発明においては、抽出器27において使用される水の由来が特定されていない。
したがって、上記(G)の構成要素についてみると、補正発明においては「抽出ステップ(b)及び(c)のうちの一つに使用するための水が、水性抽出物ストリームのうちの一つの少なくとも一部を含む」のに対して、引用発明においては「抽出ステップ(b)及び(c)のうちの一つに使用するための水が、水性抽出物ストリームのうちの一つの少なくとも一部を含む」ものに特定されていない点において相違する。

以上総括するに、補正発明と引用発明は『メタノール、酢酸メチル、及びそれらの混合物からなる群から選ばれるカルボニル化可能な反応物の酢酸生成物へのカルボニル化において形成される過マンガン酸還元性化合物(PRC)、C_(3-8)カルボン酸及びヨウ化C_(2-12)アルキル化合物を削減及び/又は除去するための改良された方法であって、前記カルボニル化による生成物は、蒸留して精製酢酸生成物を得るための揮発性相と、ヨウ化メチル、水及び少なくとも一つのPRCを含む第一のオーバーヘッドとを含み、該改良法は、
(a)前記第一のオーバーヘッドを凝縮し、該第一のオーバーヘッドを二相的に分離して、第一の重質液相と第一の軽質液相とを形成させ、さらに該第一の軽質液相の少なくとも一部を蒸留して、ヨウ化メチル、及び前記少なくとも一つのPRCを含む第二のオーバーヘッドストリームを製造するステップと;
(b)前記第二のオーバーヘッドを水で抽出して、第一のラフィネートと、前記少なくとも一つのPRCを含有する第一の水性抽出物ストリームとを形成するステップ;を含み、ラフィネートの少なくとも一部を直接又は間接的に反応媒質に導入することをさらに含む方法。』に関するものである点において一致し、
(α)第一の軽質液相の少なくとも一部を蒸留して製造される第二のオーバーヘッドストリームが、補正発明においては「ジメチルエーテル」を含むものとして特定されているのに対して、引用発明においては「ジメチルエーテル」を含むものとして特定されていない点、
(β)水による抽出工程が、補正発明においては「(b)前記第二のオーバーヘッドを水で抽出して、第一のラフィネートと、前記少なくとも一つのPRCを含有する第一の水性抽出物ストリームとを形成するステップ」という第1の抽出ステップ(b)に加え「(c)前記第一のラフィネートを水で抽出して、第二のラフィネートと、前記少なくとも一つのPRCを含有する第二の水性抽出物ストリームとを形成するステップ」という第2の抽出ステップ(c)を更に含むのに対して、引用発明においては「工程(b)のPRCを除去した混合物を抽出器に導いてそこから有機ヨウ化物化合物を除去してもよく」という抽出ステップのみからなる点、
(γ)抽出ステップ(b)及び(c)のうちの一つに使用するための水が、補正発明においては「水性抽出物ストリームのうちの一つの少なくとも一部を含む」のに対して、引用発明においては「水性抽出物ストリームのうちの一つの少なくとも一部を含む」ものに特定されていない点、
の3つの点において一応相違する。

オ.判断
上記(α)?(γ)の相違点について検討する。
上記(α)の点について、摘記4aの「副反応として,種々の平衡反応が考えられる。2CH_(3)OH⇔CH_(3)OCH_(3)+H_(2)O(2)」との記載、及び摘記6dの「下記式で表される副反応が生じる…CH_(3)I+CH_(3)OH⇒HI+CH_(3)OCH_(3)↑」との記載にあるように、メタノールと一酸化炭素から酢酸を製造する方法(モンサント法)において、ジメチルエーテル(CH_(3)OCH_(3))が副生することは、当業者において普通に知られている。
このため、引用発明においても、副反応として「ジメチルエーテル」が副生し、系内(流れ28など)に存在しているものと認められる。
そして、補正発明の「さらに該第一の軽質液相の少なくとも一部を蒸留して、ヨウ化メチル、ジメチルエーテル、及び前記少なくとも一つのPRCを含む第二のオーバーヘッドストリームを製造するステップ」は、第一の軽質液相〔32〕の少なくとも一部を蒸留塔〔18及び/又は22〕において蒸留して、ジメチルエーテル(並びにヨウ化メチル及び少なくとも一つのPRC)を含む第二のオーバーヘッドストリームを「製造」するものである。
また、引用発明の「酢酸及び水を含む軽質相を蒸留器に導き、該蒸留器は該混合物を、水及び酢酸を含む残滓流(1)並びにヨウ化メチル、酢酸メチル、メタノール、C_(2-12)アルキルヨウ化物、及びPRCを含むオーバーヘッド流2)の2つの流れに分離する」というステップも、蒸留塔18において「酢酸及び水を含む軽質相」を蒸留して、酢酸メチル、メタノール(並びにヨウ化メチル及びPRC)を含むオーバーヘッド流を「分離」しているものである。
してみると、補正発明の「オーバーヘッドストリーム」の「製造」に関する一連の工程も、引用発明の「オーバーヘッド流」の「分離」に関する一連の工程も、用語こそ「製造」と「分離」で異なるものの、メタノールと一酸化炭素から酢酸を製造する方法において得られた「軽質相」を蒸留塔において蒸留して、オーバーヘッドストリーム(オーバーヘッド流)を得ているという点において全く同じであるから、引用発明の「オーバーヘッド流」を構成する成分には、補正発明と同様に副生成物である「ジメチルエーテル」が必然的に含まれているものと認められる。
したがって、上記(α)の相違点について、補正発明と引用発明の両者に実質的な差異があるとは認められない。

上記(β)の相違点について、引用文献6には、メタノールと一酸化炭素を反応させて酢酸を製造する方法において「カルボニル化合物を含む不純物を水と接触させることにより、沃化アルキルを含む有機相とカルボニル化合物を含む水相に分離する第4工程」を具備することを特徴とした発明であって(摘記6a)、第4工程における不純物(カルボニル化合物)と水の接触を好ましくは35?50℃の範囲で行うことにより「アセトアルデヒド等のカルボニル化合物の抽出率を高く維持すると共に、沃化メチル等の沃化アルキルが水相中に混入することを抑制し、さらに沃化アルキルを反応工程に返送して再利用することにより、原料の有効利用と廃液中に混入する沃化アルキルによる環境への悪影響を防止できる。」という作用効果が得られる発明が記載されているところ(摘記6b)、その「実施例1」として、抽出部25となる充填塔を理論段数1.6(例えば、特開平7-2819号公報の段落0012の「理論段1段は通常、実段2?3に相当する。」との記載からみて、実段数3?5に相当するものと解される。)とした具体例が記載されている(摘記6c)。
また、引用文献1には、メタノールと一酸化炭素を反応させて酢酸を製造する方法において「オーバーヘッドあるいはそのカルボニル不純物濃縮液を水と接触させ、酢酸メチルとヨウ化メチルを含む有機相とカルボニル不純物を含む水相とに分離し、該有機相を反応器に再循環すること」を特徴とする発明であって(摘記1a)、アセトアルデヒド等のようなカルボニル不純物を水相に抽出することによって、製品酢酸中の不純物が減少し、酢酸の精製が容易になるという発明が記載されているところ(摘記1b)、その「実施例1」として、塔頂抜取液と抽剤(水)との重量比を1とし、理論段2段で抽出を行った具体例が記載されている(摘記1c)。
そして、引用文献1及び6に記載された理論段2若しくは1.6の多段抽出は、本願明細書の段落0045の「本明細書中に記載の多段階抽出は、個別のステージを有する装置の代わりに適切な数の理論的ステージを有する充填ベッド(連続接触)抽出器を用いて達成できることも明白であろう。」との記載にある多段階抽出〔適切な数の理論的ステージを有する充填ベッド連続接触抽出器による抽出〕に相当する。
さらに、引用文献7には、槽型抽出装置を「数組用いることにより、並流多回抽出や向流多段抽出を行う」ことができ、多回抽出により「抽出効率」が上がることが記載されている(摘記7b)。
以上に示したように、多段抽出(適切な数の理論段を有する抽出器による抽出)により、アセトアルデヒド等の不純物の水相への抽出効率を高めて製品酢酸中の不純物を減少させるとともに、沃化メチル等の有機相への抽出効率を高めて原料の有効利用と環境への悪影響を防止することは、引用文献1及び6に記載されるように普通に知られており、多段抽出の手法は、本願優先日前の技術水準において当業者(発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとって「通常の知識」の範囲内の技術常識になっていたものと認められる。
してみると、引用発明は「過マンガン酸塩還元化合物(PRC)及びC_(2-12)アルキルヨウ化物化合物を減少及び/又は除去するための方法」に関するものであるところ、その過マンガン酸塩還元化合物(アセトアルデヒド等の不純物)を抽出して減少及び/又は除去するという引用発明の課題の解決のために、引用文献1、6及び7に記載された抽出効率を高めるための「多段抽出」の抽出ステップを採用してみる、即ち「(c)前記第一のラフィネートを水で抽出して、第二のラフィネートと、前記少なくとも一つのPRCを含有する第二の水性抽出物ストリームとを形成するステップ」という第2の抽出ステップを追加してみることは、当業者にとって適宜設計変更可能な事項にすぎないものと認められる。
したがって、上記(β)の相違点について、当業者にとって格別の創意工夫を要したとは認められない。

上記(γ)の相違点について、引用文献2には、抽出器27においては、内部流からの水で抽出するのが好ましいことが記載されており(摘記2e)、引用文献1には、カルボニル不純物を抽出した水相流を、蒸留塔に送り、カルボニル不純物を水から分離し、水を抽出器に再循環させることが記載されているところ(摘記1b)、抽出ステップで使用した水を抽出器に再循環して再利用することは、引用文献1などに記載されるように普通に知られている。
してみると、引用発明の抽出ステップに使用するための水を、抽出器で用いた内部流からの水を再循環させて「水性抽出物ストリームのうちの一つの少なくとも一部を含む」ようにしてみることは、引用文献2の示唆に基づき、その具体的な手段である引用文献1の手法を採用したにすぎず、当業者が容易に設計変更可能なことでしかないものと認められる。
したがって、上記(γ)の相違点について、当業者にとって格別の創意工夫を要したとは認められない。

次に、補正発明の効果について検討する。
先ず、本願明細書の段落0045の「塔22からのアセトアルデヒドに富むオーバーヘッドから回収されるヨウ化メチルのフラクションをさらに増加させるために、所望に応じて追加の抽出段階を加えてもよいことはすぐに分かるであろう。」との記載における『オーバーヘッドから回収されるヨウ化メチルのフラクションの増加』という効果について検討する。
摘記2eの「抽出器27…この抽出の結果として、ヨウ化メチルが水性RPC及びアルキルヨウ化物相から分離する。」との記載、及び
摘記6cの「塔頂抜取液…を抽出部25となる充填塔…に送り、…水と接触させ、水相と有機相に分離した。…実施例1及び2は、アセトアルデヒドを除去すると共に、沃化メチルを反応器に返送して再利用するため、廃液中における沃化メチル濃度を減少できた。」との記載にあるように、
抽出部においてオーバーヘッド流(塔頂抜取液)を水と接触させ、アセトアルデヒド等を含む水相を分離して、沃化メチルに富む有機相を回収して再利用に供せることは、引用文献2及び6に記載されるように知られており、その抽出を多段にすれば、その沃化メチルの回収率が増加することも自明であるから、上記『オーバーヘッドから回収されるヨウ化メチルのフラクションの増加』という効果については、当業者が容易に予測可能な効果でしかない。
次に、本願明細書の段落0046の「本出願人らは、抽出器27への供給流にジメチルエーテル(DME)を添加すると、抽出ステップにおけるヨウ化メチルの損失が抑制されることを発見した。…DMEを抽出器27の上流のプロセス、例えばストリーム62に注入し、水性抽出物ストリーム64及び70中へのヨウ化メチルの喪失を削減するステップを含む。ストリーム62に必要な量のDMEは、水を塔22、例えば供給流40又は還流50に添加することによって得ることができる。」との記載における「抽出ステップにおけるヨウ化メチルの損失が抑制される」という効果について検討する。
補正発明は例えば『ストリーム62(若しくは抽出器27の上流のプロセス)に必要な量のDMEを注入すること』を発明特定事項として明確に具備するものではなく、そのような効果を得るための「具体的な運転条件」も明らかにされていないので、抽出器27への供給流にジメチルエーテルを添加した場合の効果については、補正発明の効果として参酌できない。
なお、平成26年7月23日付けの回答書の第7頁第15?18行において、請求人は『具体的には、DMEを含むストリーム68が蒸留塔22に導入されて、そこで新たに生成するDMEと合わさって酢酸回収系を循環するから、上記「好ましい効果」を奏するだけの量でDMEが酢酸回収系に蓄積される。』との主張をしているが、本願明細書の発明の詳細な説明には、当該「ストリーム68」の役割についての説明が皆無であり、しかも補正発明は当該『ストリーム68を蒸留塔22に導入する点』を発明特定事項として具備するものではないので、ストリーム68を備えた場合に得られる効果については、補正発明の効果として参酌できない。
また、同回答書の第3頁第4?9行において、請求人は『一方、「DMEが存在する運転条件」は、請求項1に規定しているように、第二のラフィネートの少なくとも一部を直接又は間接的に反応媒質に導入すること、即ち、逆説的に第二のラフィネートの他方の一部をカルボニル反応器にリサイクルしないことであり、その他方の一部は、本願明細書に添付した図2を参照すればストリーム68のことにほかならないから、結局、第二のラフィネートの一部を、第二の蒸留塔に導入することである。』との主張をしているが、補正後(及び補正前)の請求項1に記載された「第二のラフィネートの少なくとも一部を直接又は間接的に反応媒質に導入すること」という発明特定事項は、第二のラフィネート〔72〕の一部又は全部が反応媒質に導入されることを意味しているにすぎず、「第2のラフィネートの一部を、第2の蒸留塔に導入すること」が示されているとはいえないし、しかもかかる発明特定事項の技術的意義は一義的に明確に理解できるため、発明の詳細な説明の記載は参酌すべきものでもないので、これが「ストリーム68のことにほかならない」と解すべき余地はないから、当該主張は参酌できない。
以上総括するに、補正発明に当業者にとって格別予想外の顕著な効果があるとは認められない。

したがって、補正発明は、引用文献2に記載された発明、並びに引用文献1、4、6及び7に記載された若しくは技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(3)実施可能要件について
ア.はじめに
上記「(2)進歩性について」の項においては、補正発明の「(a)…さらに該第一の軽質液相の少なくとも一部を蒸留して、ヨウ化メチル、ジメチルエーテル、及び前記少なくとも一つのPRCを含む第二のオーバーヘッドストリームを製造するステップ」における「蒸留して…ジメチルエーテル…を製造する」の意味が、ジメチルエーテルを「分離」することを意味していると解して検討したが、仮に当該「蒸留して…ジメチルエーテル…を製造する」の意味が、蒸留塔において新たに「ジメチルエーテル」を「合成」することを意味していると解した場合について、その実施可能要件を検討する。

イ.原査定の指摘について
平成23年9月9日付けの拒絶理由通知書においては、理由II(実施可能要件)及び理由III(サポート要件)の記載不備について「1)本願の請求項1?7には、オーバーヘッドストリームがジメチルエーテルを含むことが記載されており、また、本願明細書には、抽出器27への供給流にジメチルエーテルを添加すると、抽出ステップにおけるヨウ化メチルの損失が抑制されること、及び塔22においてジメチルエーテルが反応により形成されることが記載されているが、本願明細書には、上記供給流に添加するジメチルエーテルの具体量は記載されておらず、ヨウ化メチルの損失量との関係を理解できるような具体的なデータは記載されていない。さらに、ヨウ化メチルの損失量を所望の範囲に調整するためには、具体的にどのような観点で反応条件や供給流への添加量を調整し、オーバーヘッドストリームに含まれるジメチルエーテルの濃度を具体的にどのように調整すればよいのかについても、当業者が理解できるように記載されていない。よって、本願の発明の詳細な説明は当業者が請求項1?7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、また、ジメチルエーテルの含有量や具体的な調整条件について特段特定されていない本願の請求項1?7は、ヨウ化メチルの損失量について好ましい効果を奏するものと解することができないから、発明の詳細な説明に実質的に記載したものとすることができない。」との指摘がなされている。

ウ.請求人の主張
平成24年12月3日付けの審判請求書の請求の理由においては『平成23年9月9日起案、平成23年9月22日発送拒絶理由通知書に対して平成24年4月3日付け(審決註:当該日付については「平成24年3月22日付け」の誤記と思われる。)で提出した意見書において述べたように、本願発明は、特許請求の範囲請求項1に記載したとおり、「…」であり、本願発明が引用文献1?7とは全く相違するものであり、引用文献1?7から何ら示唆を受けたものに該当しない。よって、本願発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものには該当しない。また、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号規定の要件を満たす。』との主張がなされ、
平成24年3月22日付けの意見書においては『(4)理由II、IIIについて 本意見書と同日付けで提出した手続補正書により、理由は解消したものと確信する。よって、本願の明細書の記載は特許法第36条第4項第1号規定の要件を満たし、また本願の明細書の記載は特許法第36条第6項第1号規定の要件を満たす。』との主張がなされている。

エ.平成26年1月22日付けの審尋に対する回答
(ア)抽出器27への供給流(ストリーム62)に添加するDMEの量
a.審尋事項
原査定の記載不備に関する上記指摘に関連して、平成26年1月22日付けの審尋において、審尋事項(あ)として『上記「DMEが存在しない場合」と「DMEが存在する場合」の『具体的な運転条件』を明らかにして、本願明細書に記載された『ストリーム64中のヨウ化メチル濃度が約1.8%から約0.5%に降下する』という数値的に明示された効果を奏する発明を当業者が実施するための具体的な条件、すなわち、その『抽出器27への供給流に添加するジメチルエーテルの具体量』及び『ジメチルエーテルの濃度の具体的な調整方法』を明らかにしてください。』との審尋をした。

b.回答
これに対して、平成26年7月23日付けの回答書において、請求人は「審尋事項には具体的な運転条件の開示を求めるものがあるが、出願人は、営業上過剰な開示とならない範囲で回答する。」とした上で、審尋事項(あ)について「ストリーム62中のDME濃度の調整は、蒸留塔22内でのDMEの生成量を変動させること、及び/又はストリーム68の量を変動させることで行える。第二のラフィネートの残りの部分は、図2でストリーム68と分岐した後のストリーム72としてカルボニル化反応器に流れ込んで酢酸製造に消費される。こうしたことは、具体的な条件やDMEの濃度を示さなくても、引用文献1及び2の図1並びに本願明細書に添付した図2に示された流れの機械的追跡だけで理解できる。」と回答している。

c.判断
しかしながら、補正発明の「(b)前記第二のオーバーヘッドを水で抽出して、第一のラフィネートと、前記少なくとも一つのPRCを含有する第一の水性抽出物ストリームとを形成するステップ」という「抽出ステップ(b)」への供給流(ストリーム62)中のDME濃度の調整方法について、DMEを形成するために必要な量の触媒(例えばHI)を本願明細書に添付された図2の製造工程においてどのように供給し、メタノールの「脱水」縮合によるDMEの形成に必要な反応条件を「加水」の条件下でどのように実現できるのかは、当業者といえども化学的なプロセスの実現条件を具体的に明らかにされなければ理解できない性質のものであって、上記「引用文献1及び2の図1並びに本願明細書に添付した図2に示された流れの機械的追跡だけで理解できる」とは認められない。
また、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記「蒸留塔22内でのDMEの生成量を変動させること」及び「ストリーム68の量を変動させること」についての具体的な実現方法が記載されていない。
このため、上記回答書の回答を参酌しても、原査定の「具体的にどのような観点で反応条件や供給流への添加量を調整し、オーバーヘッドストリームに含まれるジメチルエーテルの濃度を具体的にどのように調整すればよいのかについても、当業者が理解できるように記載されていない」という記載不備についての拒絶の理由が解消されているとは認められない。

(イ)塔22におけるDMEを含むオーバーヘッドストリームの製造条件
a.審尋事項
原査定の記載不備に関する上記指摘に関連して、平成26年1月22日付けの審尋において、審尋事項(う)として「上記『この水が塔22でメタノールを形成し、これが脱水されてジメチルエーテル(DME)を生成する』ための具体的な条件を明らかにし、本願発明が本願明細書の発明の詳細な説明の記載のとおりに実施可能であることを説明してください。」との審尋をした。

b.回答
これに対して、平成26年7月23日付けの回答書において、請求人は「審尋事項には具体的な運転条件の開示を求めるものがあるが、出願人は、営業上過剰な開示とならない範囲で回答する。」とした上で、審尋事項(う)について「そのヨウ化メチルを主成分とするストリーム40を収容する本願の図2の塔22に水が加えられると、ヨウ化メチルが加水分解されてメタノールと強酸性のヨウ化水素になる。なお、モンサント法による酢酸の製造において、反応液から酢酸を蒸留により分離する際、その揮発成分にヨウ化水素が存在することが、本願の後願であるが、WO2012/081418の段落0003に記載されている。添付書類1の記載から、酢酸メチルはこの強酸性下で加水分解してメタノールと酢酸になる。こうして塔22の内部は、ストリーム40に元から含有されるメタノールと、ヨウ化メチルと酢酸メチルの両方が加水分解して生成したメタノールと、ヨウ化水素とが豊富となり、添付書類2に記載のように、そのメタノールがヨウ化水素の存在下でDMEになることが分かる。」と回答している。

c.判断
しかしながら、上記「塔22」は、本願明細書の段落0037において「第二の蒸留塔22」として位置づけられている蒸留装置であって、補正発明の「該第一の軽質液相の少なくとも一部を蒸留して、ヨウ化メチル、ジメチルエーテル、及び前記少なくとも一つのPRCを含む第二のオーバーヘッドストリームを製造するステップ」における「蒸留」を行うための蒸留装置に相当するものである。
そして、このような蒸留を行うための温度及び圧力条件で操作される塔22において、ヨウ化メチルを加水分解して有意の量のメタノールとヨウ化水素(HI)を形成し、酢酸メチルを加水分解して有意の量のメタノールと酢酸を形成し、メタノールをヨウ化水素(HI)の存在下で「脱水」縮合して本願所定の効果を奏するに足る有意の量のDMEを製造することが、その「具体的な条件」を明らかにせずとも当業者において実施可能であるとすべき技術常識は見当たらない。加えて、水が塔22に添加された場合には、化学平衡の観点からみて通常の条件では「脱水」反応が進行しないものと思料されるので、このような観点からも、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たし得る程度に補正発明の開示をしているとは認められない。
このため、上記回答書の回答を参酌しても、原査定の「具体的にどのような観点で反応条件や供給流への添加量を調整し、オーバーヘッドストリームに含まれるジメチルエーテルの濃度を具体的にどのように調整すればよいのかについても、当業者が理解できるように記載されていない」という記載不備についての拒絶の理由が解消されているとは認められない。

オ.実施可能要件についてのまとめ
以上総括するに、上記『ウ.請求人の主張』及び『エ.平成26年1月22日付けの審尋に対する回答』に示した請求人の主張ないし回答を参酌しても、本願明細書の発明の詳細な説明に「オーバーヘッドストリームに含まれるジメチルエーテルの濃度を具体的にどのように調整すればよいのか」について実施可能要件を満たし得る程度の記載があるとは認められない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が補正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3.まとめ
以上総括するに、上記請求項1についての補正は、独立特許要件違反があるという点において平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、第4回目の手続補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、〔補正の却下の決定の結論〕のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
第4回目の手続補正(及び第3回目の手続補正)は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は第2回目の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は「この出願については、平成23年9月9日付け拒絶理由通知書に記載した理由I?IIIによって、拒絶をすべきものです。」というものである。
そして、平成23年9月9日付け拒絶理由通知書には、
その理由Iとして「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?7に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」との理由と、
その理由IIとして「この出願は、明細書の記載が下記1)の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」との理由が示されるとともに、
その「記」には『理由Iについて…(2)請求項1、2、4、7 引用文献2、1、7を参照。 [備考]引用文献2には、…を特徴とする方法が記載されている(請求項1)。引用文献2には、第2の水抽出ステップは記載されていないが、引用文献1には、同様の酢酸製造方法において、塔頂抜取液の水抽出を理論段2段(引用文献7の記載を参酌すると、実質的に2回抽出又は2ユニットの抽出装置を用いた抽出と同義である。)で行うことが記載されているから(引用文献1の【0024】)、引用文献2に記載された発明において、引用文献1に記載されたような2段の水抽出を行うようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。そして、再循環ステップを組み合わせたことによる効果は、引用文献2及び1において自ずから達成されていた程度のものと認められる。』との指摘と、理由IIについて上記『第2 2.(3)ア.』に示したとおりの指摘がなされている。

3.理由I(進歩性)について
(1)引用文献及びその記載事項並びに引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1?2及び7、並びにその記載事項は、前記『第2 2.(2)ア.』に示したとおりである。また、引用文献2には、上記『第2 2.(2)イ.(ア)』に示したように、引用文献2の請求項1に記載されるとおりの「引用発明」が記載されている。

(2)対比
本願請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、補正発明の発明特定事項のうち「抽出ステップ(b)及び(c)のうちの一つに使用するための水が、水性抽出物ストリームのうちの一つの少なくとも一部を含む」という発明特定事項を削除したものであるから、本願発明は補正発明を包含するものである。
そして、上記『第2 2.(2)エ.』に示したのと同様の理由により、本願発明と引用発明とは、
(α)第一の軽質液相の少なくとも一部を蒸留して製造される第二のオーバーヘッドストリームが、補正発明においては「ジメチルエーテル」を含むものとして特定されているのに対して、引用発明においては「ジメチルエーテル」を含むものとして特定されていない点、
(β)水による抽出工程が、補正発明においては「(b)前記第二のオーバーヘッドを水で抽出して、第一のラフィネートと、前記少なくとも一つのPRCを含有する第一の水性抽出物ストリームとを形成するステップ」という第1の抽出ステップ(b)に加え「(c)前記第一のラフィネートを水で抽出して、第二のラフィネートと、前記少なくとも一つのPRCを含有する第二の水性抽出物ストリームとを形成するステップ」という第2の抽出ステップ(c)を更に含むのに対して、引用発明においては「工程(b)のPRCを除去した混合物を抽出器に導いてそこから有機ヨウ化物化合物を除去してもよく」という抽出ステップのみからなる点、
の2つの点においてのみ一応相違する。

(3)判断
上記(α)及び(β)の相違点について検討する。
先ず、上記(α)の点については、上記『第2 2.(2)オ.』に示したのと同様に、本願発明と引用発明の両者に実質的な差異があるとは認められない。
次に、上記(β)の点については、上記『第2 2.(2)オ.』に示したのと同様に、抽出ステップを多段抽出として抽出効率を高めることは、引用文献1及び7に記載されるように普通に知られているから、抽出効率を上げるために引用発明において、その『ヨウ化メチルを水性PRC及びアルキルヨウ化物相から分離する』ための抽出ステップを多段抽出にしてみることは、当業者にとって適宜設計変更可能な事項にすぎないものと認められる。
そして、上記『第2 2.(2)オ.』に示したのと同様に、本願発明に当業者にとって格別予想外の顕著な効果があるとは認められない。
したがって、本願発明は、引用文献1?2及び7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.理由II(実施可能要件)について
上述のとおり本願発明は補正発明を包含するものであるところ、上記『第2 2.(3)』に示したのと同様の理由により、本願明細書の発明の詳細な説明には「オーバーヘッドストリームに含まれるジメチルエーテルの濃度を具体的にどのように調整すればよいのか」について実施可能要件を満たし得る程度の記載が認められない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が補正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、その余の請求項及びその余の事項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-15 
結審通知日 2014-10-16 
審決日 2014-10-28 
出願番号 特願2007-501855(P2007-501855)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
P 1 8・ 536- Z (C07C)
P 1 8・ 575- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 宏樹田名部 拓也  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 唐木 以知良
木村 敏康
発明の名称 メタノールのカルボニル化工程のストリームからの過マンガン酸還元性化合物の除去  
代理人 小野 新次郎  
代理人 沖本 一暁  
代理人 富田 博行  
代理人 小林 泰  
代理人 星野 修  

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