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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
管理番号 1298781
審判番号 不服2013-7285  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-19 
確定日 2015-03-18 
事件の表示 特願2008-536610「乗物上でのオンライン認証を用いる準リアルタイム支払カード処理」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 5月 3日国際公開、WO2007/050604、平成21年 3月26日国内公表、特表2009-512938〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2006年10月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年10月24日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成21年10月21日付けで手続補正がなされ,平成24年6月1日付けの拒絶理由通知に対して平成24年9月11日付けで意見書が提出されたが,平成24年12月18日付けで拒絶査定がなされ,これに対して平成25年4月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ,平成25年7月23日付けの審尋に対して平成25年10月16日付けで回答書が提出され,平成26年5月21日付けの当審の最後の拒絶理由通知に対して平成26年9月17日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成26年9月17日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成26年9月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により補正された特許請求の範囲の記載は次のとおりである。(下線は,補正の個所を示すものとして審判請求人が付したものである。)

「 【請求項1】
航空機上での準リアルタイム支払カード処理を行なうためのシステムであって,
飛行中に,旅程情報の自動的な伝搬を受入れ,ソフトウェアデータベースからの商品情報を提示し,1つ以上の取引のために支払カード情報を送信し,各取引のためのカード支払の承認および否認のうちの1つを受取りかつ表示するよう構成される1つ以上のインターフェイス装置と,
飛行中に,各送信された支払カード情報に基づいて準リアルタイムでカード支払の承認および否認のうちの1つを提供するよう構成される地上取引プロセッサと,
前記1つ以上のインターフェイス装置と前記地上取引プロセッサとの間でデータを少なくとも伝送するよう構成されるネットワーク構造とを含み,
データを伝送するよう構成される前記ネットワーク構造は,客室ファイルサーバ,1つ以上の航空機データサービスユニット,1つ以上の地上データサービスユニット,および地上サーバを含み,前記1つ以上のインターフェイス装置と前記客室ファイルサーバは客室無線LANでリンクされ,前記客室ファイルサーバは前記1つ以上の航空機データサービスユニットと前記1つ以上の地上データサービスユニットとを介して飛行中に前記地上サーバと空対地リンクされ,前記地上サーバと前記地上取引プロセッサがリンクされ,
前記ネットワーク構造は,航空機における飛行に必須な機能をサポートする,飛行に必須なネットワーク構造とは異なる,システム。
【請求項2】
前記1つ以上のインターフェイス装置の各々は,手持ち式インターフェイス装置および客室に搭載されるインターフェイス装置のうちの1つである,請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記客室ファイルサーバは自動的に前記1つ以上のインターフェイス装置の各々の中に旅程情報を入力するよう構成される,請求項1または2に記載のシステム。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。

「 【請求項1】
航空機上での準リアルタイム支払カード処理を行なうためのシステムであって,
旅程情報の自動的な伝搬を受入れ,ソフトウェアデータベースからの商品情報を提示し,1つ以上の取引のために支払カード情報を送信し,各取引のためのカード支払の承認および否認のうちの1つを受取りかつ表示するよう構成される1つ以上のインターフェイス装置と,
各送信された支払カード情報に基づいて準リアルタイムでカード支払の承認および否認のうちの1つを提供するよう構成される地上取引プロセッサと,
前記1つ以上のインターフェイス装置と前記地上取引プロセッサとの間でデータを少なくとも伝送するよう構成されるネットワーク構造とを含み,
データを伝送するよう構成される前記ネットワーク構造は,客室ファイルサーバ,1つ以上の航空機データサービスユニット,1つ以上の地上データサービスユニット,および地上サーバを含み,前記1つ以上のインターフェイス装置と前記客室ファイルサーバは客室無線LANでリンクされ,前記客室ファイルサーバは前記1つ以上の航空機データサービスユニットと前記1つ以上の地上データサービスユニットとを介して前記地上サーバと空対地リンクされ,前記地上サーバと前記地上取引プロセッサがリンクされる,
システム。
【請求項2】
前記1つ以上のインターフェイス装置の各々は,手持ち式インターフェイス装置および客室に搭載されるインターフェイス装置のうちの1つである,請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記客室ファイルサーバは自動的に前記1つ以上のインターフェイス装置の各々の中に旅程情報を入力するよう構成される,請求項1または2に記載のシステム。」

(3)補正の目的について
本件補正は,補正前の請求項1の「旅程情報の自動的な伝搬を受入れ,ソフトウェアデータベースからの商品情報を提示し,1つ以上の取引のために支払カード情報を送信し,各取引のためのカード支払の承認および否認のうちの1つを受取りかつ表示する」処理が「飛行中」に実行される処理であることを限定し,補正前の請求項1の「各送信された支払カード情報に基づいて準リアルタイムでカード支払の承認および否認のうちの1つを提供する」処理が「飛行中」に実行される処理であることを限定し,補正前の請求項1の「前記客室ファイルサーバは前記1つ以上の航空機データサービスユニットと前記1つ以上の地上データサービスユニットとを介して前記地上サーバと空対地リンクされ」る処理が「飛行中」に実行される処理であることを限定するものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定される「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また,本件補正は,補正前の請求項1の「ネットワーク構造」について,「前記ネットワーク構造は,航空機における飛行に必須な機能をサポートする,飛行に必須なネットワーク構造とは異なる」と限定するものであるから,改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定される「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

2.補正の適否について
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本件補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2-1 本件補正発明
本件補正発明は,上記「第2[理由]1.(1)」の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2-2 引用例
(1)引用例1
平成26年5月21日付けの当審の最後の拒絶理由通知に引用された特表2001-519571号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の(ア)?(オ)の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。以下,同様である。)

(ア)「発明の分野
本発明は,大型移動旅客輸送機関内における情報提供,金融取引の実行やその他のサービスを行うためのシステムに関するものであり,特に,大型移動旅客輸送機関において金融情報の提供,金融取引の実行及びその他電子的にサービスを提供するための衛星を利用するか,又はその他無線でつながれた端末を利用したシステムに関する。」(第11頁11?16行)

(イ)「【0016】
本発明は,電子的に配送された広範囲の金融,情報,及び他のサービスを,衛星又は他の無線でリンクされた端末を利用して,飛行機,クルーズ船,フェリー,ツアーバス,列車及び他の大型移動旅客輸送機関の乗客に提供する方法とシステムから成る。本発明が乗客に可能ならしめるサービスには,次のものを含む。(1)例えば,クレジットカード,デビットカードやスマートカードを利用して買い物や外貨の両替をするために,デビット/クレジット/トラベル及び娯楽或いは他のこれに類する電子カード製品を介して資金を電子送金する。(2)インターネットにアクセスして情報を入手し,電子商取引を行う。(3)メディアサービス(例:CNN)から情報を入手する。(4)視聴毎支払いの契約をするために,衛星テレビ放送プログラムを入手する。
【0017】
本発明の実施例において,交通輸送機関に搭載されたサーバを利用して,乗客は,例えば,クレジットカード,デビットカード,又はスマートカードを使って買い物をする,長距離電話をかけるといった機能を実行できる。映画,ツアーバス等の切符を購入することができる。入手したポイントはこのシステムを使って現金化して償還される。例えば,スマートカードや電子財布を使って,異なった種類の通貨でもアクセスできる。」

(ウ)「【0028】
例えば,カード読み取り器,スクリーン,キーパッド,情報/サービス選択キー等のように,1つあるいは1つ以上の特徴を持ち,顧客の座席に置かれた手持ち式無線ユニットの如き無線ユーザインターフェースデバイスにより,情報とサービスが供給可能である。本発明の実施例と共に使用できるユーザインターフェースデバイスの他の例としては,大型移動旅客輸送機関内の中央に或いは固定式に設置された端末,移動端末デバイス,及び各座席に設置されたユーザインターフェーススクリーンが挙げられる。」

(エ)「【0033】
電子通信は,また,旅客が,自分の座席から旅行の電子チケットを注文し,自分の座席や輸送機関内の他の場所で,搭載キャビンファイルサーバを介して金融サービス機関が提供する私有財産の金融/情報サービスにアクセスすることを可能にするが,これは衛星又は他の無線通信リンクを介して更新され得る動的データ(例:投資及びローンの利率,株式相場)を含んでいる。本発明は,また,旅客が,例えば,搭載ファイルサーバの電子カタログ或いはインターネットを介して電子ショッピングを可能ならしめ,注文の代価は旅客の座席からオンライン認定されるカードにより支払うことができ,旅客は配達情報をクーリエによる配達注文と共にダウンロードでき,旅客は,ショッピングや情報の購買等の行為に対してインターネットを通じてSET方式による取引や他の安全な取引の形態を利用できる。」

(オ)「【0036】
大型移動旅客輸送機関における無線通信を利用した本発明の実施例によるシステムの一例は,図1Aに示されている。図1Aにおいて,大型移動旅客輸送機関1(LMPC)は,例えば,衛星又は他の無線通信リンクと共に使用される無線送信機/受信機1bに接続されたサーバ1aを含む。サーバ1b(当審注:「サーバ1b」は,「サーバ1a」の誤記である。)は,様々な端末/インターフェース1c,1d,及び1cとも接続されている。加えて,無線通信デバイス1fを介してサーバ1aに有効に接続されている無線ユーザインターフェース1gは,大型移動旅客輸送機関1内において使用することもできる。本発明の実施例において,ユーザインターフェース1c,1d,1e,1gにてアクセスできるいくつかの乗客サービスは,搭載サーバ1aによって提供される。
【0037】
本発明の実施例において,LMPC1は,衛星リンク又は他の無線通信によってアースステーション又はコミュニケーションフロントエンド3に接続されているダイレクト無線サービス2に有効に接続されている。前記コミュニケーションフロントエンド3は,例えば,例としてATM/CATネットワークを含み得る金融機関ホストコンピューター4,インターネット及び他のネットワークへの接続を可能にするネットワークサービスプロバイダ5,標準スイッチネットワーク6,及びプライベートネットワーク7に順に接続される。コミュニケーションフロントエンドへのこれらの接続の組み合わせは,LMPC1において提供されるサービスによって変わることがある。コミュニケーションフロントエンド/スイッチ3は,取引決済,金銭の移動,例外処理,外国為替,及び経営情報システムの機能を含み,ルーティングその他の通信の促進以外の広範な機能を含み得る。
(途中省略)
【0039】
図1Bは,本発明の実施例の様々な構成要素を提示した,衛星リンクと共に使用する一つの実施例を示している。図1Bに示されているように,この実施例において,例えば,航空機の如き大型移動旅客輸送機関8は,衛星8aへの無線リンクを介して大型移動旅客輸送機関の顧客に情報とサービスを提供する。衛星8aは,本発明の実施例においては,約10,500bpsでデータを送受信しているのであるが,地上ベースのアースステーション8bに順に無線でリンクされている。前記アースステーション8bは,例えば,地上通信線によってコミュニケーションフロントエンド9にリンクされており,そのため,例えば,金融機関ホストコンピューター,ATM/CATネットワークや他のインターネットの如きネットワークへの接続を可能にしているネットワークサービスプロバイダ,標準スイッチネットワーク,プライベートネットワーク,及び他のネットワーク接続9aへの通信を可能にしている。
(以下省略)」

上記摘記事項(ア)?(オ)の記載及び図面の記載を総合すると,引用例1には,次のとおりの発明(以下,「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

「飛行機などの大型移動旅客輸送機関の乗客が,クレジットカードを利用して買い物をすることができるシステムであって,
当該システムにおいて,大型移動旅客輸送機関1(LMPC)は,衛星又は他の無線通信リンクと共に使用される無線送信機/受信機1bに接続されたサーバ1aを含み,サーバ1aは,様々な端末/インターフェース1c,1d,及び1eと接続され,加えて,無線通信デバイス1fを介してサーバ1aに有効に接続されている無線ユーザインターフェース1gは,大型移動旅客輸送機関1内において使用することができ,ユーザインターフェース1c,1d,1e,1gにてアクセスできるいくつかの乗客サービスは,搭載サーバ1aによって提供されるものであり,LMPC1は,衛星リンク又は他の無線通信によってアースステーション又はコミュニケーションフロントエンド3に接続されているダイレクト無線サービス2に有効に接続されており,前記コミュニケーションフロントエンド3は,例えば,ATM/CATネットワークを含み得る金融機関ホストコンピューター4,及び,インターネット及び他のネットワークへの接続を可能にするネットワークサービスプロバイダ5に接続され,コミュニケーションフロントエンド/スイッチ3は,取引決済,金銭の移動,例外処理,外国為替,及び経営情報システムの機能を含み,ルーティングその他の通信の促進以外の広範な機能を含み得るものであり,
例えば,カード読み取り器,スクリーン,キーパッド,情報/サービス選択キー等を持ち,顧客の座席に置かれた手持ち式無線ユニットの如き無線ユーザインターフェースデバイスにより,情報とサービスが供給可能であり,
旅客は,例えば,搭載ファイルサーバの電子カタログ或いはインターネットを介して電子ショッピングが可能であり,注文の代価は旅客の座席からオンライン認定されるカードにより支払うことができる,
システム。」

(2)引用例2
平成26年5月21日付けの当審の最後の拒絶理由通知に引用された米国特許出願公開第2004/0186760号明細書(以下,「引用例2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

(カ)「ABSTRACT
Systems and methods are provided for transacting credit card payments, and reconciling inventory and cash transactions on moving vehicles, such as, in one embodiment, a passenger aircraft in-flight.・・・」
(当審仮訳:概要
クレジットカードの支払いを処理し,一実施形態では,飛行中の旅客機のような移動する乗り物上の在庫と現金取引とを一致させるためのシステムと方法が提供される。・・・)

(キ)「[0030] ・・・ In flight, the flight attendants complete sales transactions with consumers (i.e., passengers) with the one or more devices 222 in step 220 . ・・・ The sales transactions may be completed with the devices 222 by accepting cash, credit card, debit card, smart card, coupons, frequent flier awards, comps (i.e., complimentary items given to passengers at the flight attendant's discretion), or other known form of payment. The devices 222 account for the sales transactions including the quantities of items sold and payments. The flight attendants may swipe a card, such as a credit card, for example, as payment, capture an authorization signature, and print a receipt. ・・・」
(当審仮訳:[0030]・・・ 飛行中に,客室乗務員は,ステップ220において,一つ以上の装置222を用いて,消費者(すなわち,乗客)との売買取引を完了する。・・・販売取引は,現金,クレジットカード,デビットカード,スマートカード,クーポン,マイレージサービス報奨,カンプ(すなわち,客室乗務員の判断で乗客に与えられた無料のアイテム)又は他の知られた支払い形態を受け取ることによって,装置222で完了させることができる。装置222は,販売された商品や支払いの量を含む販売取引を勘定する。客室乗務員は,支払いとして,例えば,クレジットカードなどのカードを通し,認証の署名を獲得し,レシートを印刷することができる。・・・)

(ク)「[0033] Referring now to FIG. 3 , an exemplary portable terminal device 222 is illustrated. As shown, the portable terminal device includes a touch screen user interface, a printer such as a thermal printer, and a magnetic strip card reader for swiping a credit card, flight attendant ID card, frequent flier card, or the like. ・・・」
(当審仮訳:[0033]図3を参照すると,例示的な携帯端末装置222が図示されている。示されているように,携帯端末装置は,タッチスクリーンユーザインターフェイス,サーマルプリンタのようなプリンタ,クレジットカードや客室乗務員IDカード,マイレージカード等を通すための磁気ストリップカードリーダを含む。・・・)

(ケ)「[0045] By pressing the tools button 480 of FIG. 4A , the attendant may perform actions such as reprint a transaction receipt 482 ,・・・. The receipt produced by the device contains information about the flight such as, for example, one or more of the following or any combination thereof including: flight number, originating airport, departure time and date, destination airport, arrival time and date, supplying caterer, the POS device identification (ID) number, attendant identification number, transaction number, and a selectable logo image. ・・・」
(当審仮訳:[0045]図4Aのツールボタン480を押すことによって,乗務員は,販売のレシートを再印刷する(482)・・・などのアクションを実行することができる。装置によって生成されるレシートは,例えば,以下のような,一つ以上の飛行についての情報,またはそれらの任意の組み合わせを含む:フライト番号,出発地空港,出発日時,目的地空港,到着日時,仕出し屋,POS装置の識別(ID)番号,乗務員の識別番号,取引番号,および選択可能なロゴ画像。・・・)

上記摘記事項(カ)?(ケ)によれば,引用例2には,次の事項(以下,「引用例2記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「飛行中の旅客機のような移動する乗り物上でクレジットカードの支払いを処理するシステムにおいて,客室乗務員が使用する携帯端末装置は,フライト番号,出発地空港,目的地空港のような飛行についての情報を含むレシートを作成する」

(3)引用例3
平成26年5月21日付けの当審の最後の拒絶理由通知に引用された「福田 崇男,航空機内や電車内でもネット接続-2004年に始まる高速通信サービス ルーター切り替えにあの手この手-,日経Internet Solutions,日経BP社,2003年12月22日,第78号,p64?66」(以下,「引用例3」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

(コ)「航空機内から最高20メガで接続
独ルフトハンザ航空,スウェーデンのスカンジナビア航空,JAL,ANAなどは,米ボーイングの「Connexion by Boeing」を利用したインターネット接続サービスを2004年内に始める。
Connexion by Boeingは,通信衛星を介してインターネットに接続するサービス(図1)。乗客は,あらかじめボーイングのWebサイトなどで利用を申し込む。機内では,無線LANかイーサネットを使って機内LANに接続。機内に設置されたルーター経由で,インターネットに接続する。
利用料金は1回のフライト当たり,3000円弱になる予定。地上からの下り方向が最高20Mビット/秒,航空機からの上り方向が最高1Mビット/秒とADSL並み。この帯域をボーイングと契約している航空会社が共有する。」

(サ)図1には,「航空機の機内で,乗客のPCとルータやサーバとが,無線LANを使って接続されること」が記載されている。

上記摘記事項(コ)(サ)によれば,引用例3には,次の事項(以下,「引用例3記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「航空機の機内で,乗客のPCを無線LANを使って機内LANに接続し,機内に設置されたルーターから通信衛星を介してインターネットに接続する」

(4)引用例4
平成26年5月21日付けの当審の最後の拒絶理由通知に引用された国際公開第00/63806号(以下,「引用例4」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

(シ)「Network Overview
A network of computers for providing products and services to passengers and crew on a transport vehicle is shown in Figure 1, generally at reference numeral 10. Network 12(当審注:「Network 12」は「Network 10」の誤記と認められる。) is shown in an exemplary fashion for a commercial aircraft comprising: 1) three member computers 11a through 11c called Passenger Laptops that are used by the passengers onboard a transport vehicle 15 to request and receive services, 2) a member computer 12, called a Flight Crew Module, that is used by the operator crew to request and receive services, 3) two member handheld computers 13a through 13b called Handheld Modules that are used by cabin attendants to manage the delivery of products and services to the passengers, 4) a computer server 14 for the vehicle-based domain called a Cabin Server, storing data, performing calculations, and acting as a communications gateway to other members in the network, 5) a communications link 16, 6) a ground router 17 for access to the Internet, 7) a computer server 18 for the ground- based domain called the Inventory & Services Server, managing product inventory and customer orders, 8) a computer for recording inventory 19 called an Inventory Client, and 9) two computer kiosks at departure and arrival ports called Gate Kiosks for passenger ordering.
・・・
The computers onboard the aircraft 15 are members of a Local Area Network (LAN) 21 and in the preferred form of the invention, the communications medium is a wireless Ethernet (RF Ethernet). 」(第6頁15行?第7頁7行)
(当審仮訳:ネットワークの概要
輸送乗り物上の乗客および乗組員に商品やサービスを提供するためのコンピュータのネットワークは,一般的に参照番号10で,図1に示されている。
以下のものを含む民間航空機のためのネットワーク10が例示的に示されている:1)サービスを要求したり受信したりする輸送乗り物上の乗客によって使用される,乗客ラップトップと呼ばれる3つのメンバーコンピュータ11a?11c,2)フライトクルーモジュールと呼ばれる,オペレータクルーによってサービスの要求と受信のために使用されるメンバーコンピュータ12,3)乗客への製品やサービスの配達を管理するために,客室乗務員によって利用される,ハンドヘルドモジュールと呼ばれる2つのメンバーハンドヘルドコンピュータ13a?13b,4)データを格納し,計算を実行し,ネットワーク内の他のメンバーへの通信ゲートウェイとして動作する,機内サーバと呼ばれる,乗り物ベースのドメインのためのコンピュータサーバ14,5)通信リンク16,6)インターネットへのアクセスのため地上ルータ17,7)製品在庫と顧客の注文を管理する,在庫-サービスサーバと呼ばれる,地上ベースのドメインのためのコンピュータサーバ18,8)在庫クライアントと呼ばれる,在庫を記録するためのコンピュータ19,9)乗客発注のための,ゲートキオスクと呼ばれる,出発空港と到着空港の2つのコンピュータキオスク。
・・・
航空機15に搭載されるコンピュータは,ローカルエリアネットワーク(LAN)21のメンバーであり,本発明の好ましい形態において,通信媒体は,無線イーサネット(RFイーサネット)である。)

上記摘記事項(シ)によれば,引用例4には,次の事項(以下,「引用例4記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「乗客によって使用される乗客ラップトップ,オペレータクルーによって使用されるメンバーコンピュータ,客室乗務員によって利用されるハンドヘルドコンピュータ及び機内サーバなどの航空機に搭載されるコンピュータは,ローカルエリアネットワーク(LAN)のメンバーであり,通信媒体は,無線イーサネット(RFイーサネット)である」

(5)周知例
本願の優先日前である2003年12月15日に頒布された「青山 幹雄,情報技術と航空の共進化:グローバルな航空ITネットワークの形成,情報処理,社団法人情報処理学会,2003年12月15日,第44巻,第12号,p1253?1259」には,図面とともに,次の事項が記載されている。

(ス)「航空へのITの導入
航空機は,列車や自動車と異なり,空という3次元空間を目に見えない航空路に沿って飛行する必要がある.現在の航空運輸の主流であるジェット旅客機では時速1,000kmの高速で,夜間や悪天候などの視界の悪い場合も安全に飛行する義務がある.この要求を満たすために,ITが不可欠となっている.」(第1253頁右欄7?13行)

(セ)「航空におけるITの特質
航空における情報通信システムはきわめて厳しい要求を満たす必要がある.たとえば,航空機の情報通信システムは,温度や電磁波などの過酷な環境下で1飛行時間当たり10^(-9)未満の故障率という高信頼性が求められる.」(第1254頁左欄8?13行)

(ソ)「航空機の情報通信システムの構成
航空機の情報通信システムの構成を図-2に示す.次のようなシステムからなる.
(1)飛行制御システム:方向舵(ラダー)などの制御翼とエンジンの推力を制御し,機体を安定に飛行させる.(途中省略)
(2)飛行管理システム(FMS:Flight Management System):パイロットに代わり航空機を操縦するシステムである.(途中省略)
(3)コクピットシステム:(途中省略)
(4)センサシステム:速度,高度など航空機を取り巻く環境を測定する.(途中省略)
(5)機上整備コンピュータシステム(CMCS:Central Maintenance Computer System):機内の各機器にはセンサや組み込み型故障検出装置が装備され,飛行中も常時監視されている.CMCSは,これらのセンサや検出装置からの情報を収集・保存し,異常があればパイロットに通知し,原因調査を支援する.後述する対地通信システムを介してこの情報を航空会社の整備部門などに送信する.
(6)安全性を高めるシステム:地表や他の航空機との異常な接近や衝突の可能性を検出し,パイロットに警告する.この中には,次のようなシステムがある.
(a)衝突防止システム(途中省略)
(b)対地接近警報システム(途中省略)
(7)客室システム:乗客がオフィスや居間と同等なサービスが利用できるようにITを用いたシステムが開発されている.音楽,ビデオなどをオンデマンドで利用できる娯楽システムに加え,インターネットの利用も予定されている.」(第1254頁左欄下から6行?第1255頁右欄15行)

(タ)「通信システム
航空機の通信システムには,機内の通信と対地,あるいは他の航空機との間の通信の2種類ある.
(1)機内通信システム:音声とデータの2種類ある.音声では,乗務員間の連絡に用いるインターホンと乗客へ案内を行う放送システムが装備されている.一方,機内の各情報システムが高度化するに従ってシステム間で交換するデータ量も増大している.そのため,機内のコンピュータシステム間でデータ通信を行う機内LANが装備され,ディジタルデータバスと呼ばれている.ボーイング777では,10Mbpsと100Mbpsの機内LANが導入されている.
(2)対地通信システム:図-4に示すように,パイロットと管制官,あるいは,航空会社の運航管理センターなどとの音声通信に加え,CMCSと航空会社のコンピュータシステムが直接データ交換を行うACARS(Aircraft Communication,Addressing and Reporting System)が導入されている.これを利用して,航空会社のフライトオペレーションセンターでは自社のすべての航空機の運行状況を常時リアルタイムで監視している.
(3)インターネットの利用:通信衛星を介して航空機からインターネットを利用するサービスが2003年から試行されている.地上からは20Mbps,地上へは1Mbpsのデータ通信を提供する.客室で有線もしくは無線LANを用いて電子メールの送受信,Webページの閲覧などができる.我が国の航空会社も2004年から運用を予定している.これを用いて,機内の急病人の遠隔診断や機内の状況を地上からモニタする方法も研究されている.」(第1255頁右欄16行?第1256頁左欄10行)

(チ)「安全で安心できるフライトを支援するIT
安全性が第一の課題
航空機の情報通信システムの障害は人命にかかわるリスクがある.また,管制情報処理システムの障害は広い地域にわたって大きな影響を及ぼすリスクがある.安全性は航空におけるITの最重要課題である.このため,ハードウェアとソフトウェアの両面で最高の技術が開発されてきた.
安全性を確保するためには,一般に,システムに障害が発生するリスクを分散し,必要であればシステムを再構成する方法がとられる.しかし,実現方法は要求される信頼度やシステム構成により異なる.
航空機の安全性
安全性の中核となる飛行制御システムは最も高信頼性が要求されるため,高度な冗長構成をとる.たとえば,ボーイング777では3台の異機種コンピュータを用いて同一の処理を並行して行い,その結果を照合し,多数決する異種冗長構成をとる.さらに,図-9に示すように,3重化システムを3系統持つ9重化構成をとる.
信頼性はシステム全体で考える必要があるため,センサ,通信システムなどの各サブシステムも冗長構成をとる.これらのシステムを駆動する電源装置は重要なサブシステムであり,ボーイング777ではジェットエンジンの発電機に加えて3段階の異なるバックアップ機構を備えている.」(第1258頁左欄18行?同頁右欄15行)

上記摘記事項(ス)?(チ)によれば,周知例には,次の事項(以下,「周知例記載事項A」及び「周知例記載事項B]という。)が記載されていると認められる。

・周知例記載事項A
「航空機の情報通信システムには,方向舵(ラダー)などの制御翼とエンジンの推力を制御し,機体を安定に飛行させる飛行制御システム,パイロットに代わり航空機を操縦する飛行管理システム,コクピットシステム,速度,高度など航空機を取り巻く環境を測定するセンサシステム,センサや検出装置からの情報を収集・保存し,異常があればパイロットに通知し,原因調査を支援する機上整備コンピュータシステム,衝突防止システムや対地接近警報システムなど安全性を高めるシステム,客室システムなどが含まれている」

・周知例記載事項B
「ジェット旅客機では,時速1,000kmの高速で,夜間や悪天候などの視界の悪い場合も安全に飛行する義務があり,そこで用いられる情報通信システムの障害は人命にかかわるリスクがあるため,高信頼性が求められるものであり,中でも,安全性の中核となる飛行制御システムは最も高信頼性が要求されるため,例えば3重化システムを3系統持つ9重化構成というような高度な冗長構成をとっている」

2-3 対比
本件補正発明と引用例1発明とを対比する。

(a)
(a-1)引用例1発明の「飛行機などの大型移動旅客輸送機関の乗客が,クレジットカードを利用して買い物をすることができるシステム」は,旅客が,「搭載ファイルサーバの電子カタログ或いはインターネットを介して電子ショッピングが可能であり,注文の代価は旅客の座席からオンライン認定されるカードにより支払うことができる」システムである。
ここで,引用例1発明の「飛行機などの大型移動旅客輸送機関」が本件補正発明の「航空機」に相当し,また,引用例1発明では,「注文の代価は旅客の座席からオンライン認定されるカードにより支払うことができる」ことから,引用例1発明のシステムが,「航空機上で」「カードによる支払いのための処理(支払カード処理)」を行っていることは明らかである。
してみれば,引用例1発明の「システム」と本件補正発明の「システム」とは,「航空機上での支払カード処理を行なうためのシステム」である点で共通している。
(a-2)本件補正発明の「準リアルタイム支払カード処理」における「準リアルタイム」とは,本願明細書【0001】段落の「この発明は・・・乗物上で準リアルタイム(near real time)で支払カードを処理するためのシステム・・・に関する。」との記載からすれば,「near real time」,すなわち,「ほぼリアルタイム」との事項を意味するものであり,「準リアルタイム支払カード処理を行なう」とは,「ほぼリアルタイムで支払カード処理を行なう」ことを意味しているものと認められる。
また,本願明細書【0016】段落の「客室ファイルサーバ314は,ネットワークを介して航空機環境部302と地上環境部304との間でデータを双方向に記憶,転送,および伝送するよう準リアルタイムで動作するハードウェアおよびソフトウェアアプリケーションを含むということが理解されるであろう。」との記載からすれば,「サーバ」を介して通信を行うことで,「準リアルタイム」の処理になると認められる。
これに対して,引用例1発明における「オンライン認定」は,オンライン接続された通信ネットワークを介してカードの認定処理を行うものであるから,当該認定処理が,「ほぼリアルタイム」で実行されるものであることは明らかであり,その結果,「オンライン認定されるカードによる支払い処理」も「ほぼリアルタイム」で実行されるものである。
また,引用例1発明では,「ユーザインターフェース1c,1d,1e,1g」が,「搭載サーバ1a」を介して「アースステーション」と接続されていることから,引用例1発明と本件補正発明とは,「サーバ」を介して通信を行うことで,「準リアルタイム」の処理になるという点においても共通している。
してみれば,引用例1発明と本件補正発明とは,「支払カード処理」が,「準リアルタイム(ほぼリアルタイム)」で実行されるものである点で共通している。
(a-3)上記(a-1),(a-2)のことから,引用例1発明の「飛行機などの大型移動旅客輸送機関の乗客が,クレジットカードを利用して買い物をすることができるシステム」であって,「旅客が,搭載ファイルサーバの電子カタログ或いはインターネットを介して電子ショッピングが可能であり,注文の代価は旅客の座席からオンライン認定されるカードにより支払うことができるシステム」が,本件補正発明の「航空機上での準リアルタイム支払カード処理を行なうためのシステム」に相当する。

(b)引用例1発明のシステムでは,「カード読み取り器,スクリーン,キーパッド,情報/サービス選択キー等を持ち,顧客の座席に置かれた手持ち式無線ユニットの如き無線ユーザインターフェースデバイスにより,情報とサービスが供給可能であり」,旅客は,この「無線ユーザインターフェースデバイス」を利用することにより,「搭載ファイルサーバの電子カタログ或いはインターネットを介して電子ショッピングが可能であり,注文の代価は旅客の座席からオンライン認定されるカードにより支払うことができる」ものであるから,引用例1発明の「無線ユーザインターフェースデバイス」が,「商品情報を提示」する機能,「1つ以上の取引のために支払カード情報を送信」する機能,「各取引のためのカード支払の承認および否認のうちの1つを受取りかつ表示する」機能を有する「インターフェイス装置」であることは明らかである。
また,引用例1発明の大型移動旅客輸送機関1(LMPC)は,「無線送信機/受信機1b」を通じて,地上の「ダイレクト無線サービス2」と「無線通信リンク」で接続されており,旅客は,「注文の代価」を「旅客の座席からオンライン認定されるカードにより支払うことができる」ことから,「インターフェイス装置」が,「商品情報を提示する処理」,「1つ以上の取引のために支払カード情報を送信する処理」,「各取引のためのカード支払の承認および否認のうちの1つを受取りかつ表示する処理」の各処理が,「飛行中」に実行されることは明らかである。
してみれば,引用例1発明と本件補正発明とは,後記する点で相違するものの,「飛行中に,商品情報を提示し,1つ以上の取引のために支払カード情報を送信し,各取引のためのカード支払の承認および否認のうちの1つを受取りかつ表示するよう構成される1つ以上のインターフェイス装置」を含む点で共通している。

(c)引用例1発明のシステムにおいて,「ATM/CATネットワークを含み得る金融機関ホストコンピューター4」が,「オンライン認定されるカード」の「承認および否認のうちの1つを提供する」ことは自明のことであるから,引用例1発明の「ATM/CATネットワークを含み得る金融機関ホストコンピューター4」が本件補正発明の「送信された支払カード情報に基づいて準リアルタイムでカード支払の承認および否認のうちの1つを提供するよう構成される地上取引プロセッサ」に相当する。
また,引用例1発明の大型移動旅客輸送機関1(LMPC)は,「無線送信機/受信機1b」を通じて,地上の「ダイレクト無線サービス2」と「無線通信リンク」で接続されており,旅客は,「注文の代価」を「旅客の座席からオンライン認定されるカードにより支払うことができる」ことからみて,引用例1発明の金融機関ホストコンピューター4(地上取引プロセッサ)が,「オンライン認定されるカード」の「承認および否認のうちの1つを提供する」処理が,「飛行中」に実行されることは明らかである。
してみれば,引用例1発明と本件補正発明とは,「飛行中に,各送信された支払カード情報に基づいて準リアルタイムでカード支払の承認および否認のうちの1つを提供するよう構成される地上取引プロセッサ」を含む点で一致している。

(d)引用例1発明の「無線ユーザインターフェース1g,又は,無線ユーザインターフェースデバイス」「金融機関ホストコンピューター4」「搭載サーバ1a」「無線送信機/受信機1b」「ダイレクト無線サービス2」が本件補正発明の「インターフェイス装置」「地上取引プロセッサ」「客室ファイルサーバ」「航空機データサービスユニット」「地上データサービスユニット」にそれぞれ相当し,また,引用例1発明の「コミュニケーションフロントエンド3」と本件補正発明の「地上サーバ」とは,共に「地上のコンピュータ」である点で共通する。
そして,引用例1発明の「無線ユーザインターフェース1g」と「搭載サーバ1a」は,無線通信デバイス1fを介して接続され,「搭載サーバ1a」は,「無線送信機/受信機1b」,「衛星又は他の無線通信リンク」,及び「ダイレクト無線サービス2」を介して,「飛行中」に,「コミュニケーションフロントエンド3(地上のコンピュータ)」に接続され,「コミュニケーションフロントエンド3(地上のコンピュータ)」は,「金融機関ホストコンピューター4」に接続されている。
してみれば,引用例1発明と本件補正発明とは,後記する点で相違するものの,「1つ以上のインターフェイス装置と地上取引プロセッサとの間でデータを少なくとも伝送するよう構成されるネットワーク構造を含み,データを伝送するよう構成される前記ネットワーク構造は,客室ファイルサーバ,1つ以上の航空機データサービスユニット,1つ以上の地上データサービスユニット,および地上のコンピュータを含み,前記1つ以上のインターフェイス装置と前記客室ファイルサーバは無線でリンクされ,前記客室ファイルサーバは前記1つ以上の航空機データサービスユニットと前記1つ以上の地上データサービスユニットとを介して飛行中に前記地上のコンピュータと空対地リンクされ,前記地上のコンピュータと前記地上取引プロセッサがリンクされる」点で共通している。

そうすると,本件補正発明と引用例1発明とは,

「航空機上での準リアルタイム支払カード処理を行なうためのシステムであって,
飛行中に,商品情報を提示し,1つ以上の取引のために支払カード情報を送信し,各取引のためのカード支払の承認および否認のうちの1つを受取りかつ表示するよう構成される1つ以上のインターフェイス装置と,
飛行中に,各送信された支払カード情報に基づいて準リアルタイムでカード支払の承認および否認のうちの1つを提供するよう構成される地上取引プロセッサと,
前記1つ以上のインターフェイス装置と前記地上取引プロセッサとの間でデータを少なくとも伝送するよう構成されるネットワーク構造とを含み,
データを伝送するよう構成される前記ネットワーク構造は,客室ファイルサーバ,1つ以上の航空機データサービスユニット,1つ以上の地上データサービスユニット,および地上のコンピュータを含み,前記1つ以上のインターフェイス装置と前記客室ファイルサーバは無線でリンクされ,前記客室ファイルサーバは前記1つ以上の航空機データサービスユニットと前記1つ以上の地上データサービスユニットとを介して飛行中に前記地上のコンピュータと空対地リンクされ,前記地上のコンピュータと前記地上取引プロセッサがリンクされる,
システム。」

の点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1]
本件補正発明では,インターフェイス装置が,「飛行中に,旅程情報の自動的な伝搬を受入れ」ているのに対して,引用例1発明はそのようになっていない点。

[相違点2]
インターフェイス装置が提示する商品情報が,本件補正発明では,「ソフトウェアデータベースからの」商品情報であるのに対して,引用例1発明では,商品情報がどこからのものであるのかが特定されていない点。

[相違点3]
地上のコンピュータが,本件補正発明では,「地上サーバ」であるのに対して,引用例1発明は,「地上サーバ」ではない点。

[相違点4]
インターフェイス装置と客室ファイルサーバとのリンクが,本件補正発明は,「無線LAN」であるのに対して,引用例1発明は,「無線LAN」であるとは特定されていない点。

[相違点5]
本件補正発明は,ネットワーク構造が,「航空機における飛行に必須な機能をサポートする,飛行に必須なネットワーク構造とは異なる」のに対して,引用例1発明は,そのような特定がなされていない点。

2-4 当審の判断
上記各相違点について検討する。

[相違点1]について
引用例2には,「飛行中の旅客機のような移動する乗り物上でクレジットカードの支払いを処理するシステムにおいて,客室乗務員が使用する携帯端末装置は,フライト番号,出発地空港,目的地空港のような飛行についての情報を含むレシートを作成する」(引用例2記載事項)との事項が記載されている。
この記載からみて,航空機の機内で商品の販売に利用される端末装置にフライト番号,出発地空港,目的地空港などの「旅程情報」を記憶させておくことは,例えば,マーケティング等の観点から普通に行われていることと認められる。
また,「旅程情報」の「記憶(受入れ)」をどのようなタイミングで実行させるかは,当業者が適宜なしうる設計的事項であり,旅程情報の記憶(受入れ)を「飛行中に」実行するように構成することも,適宜なしうることである。
してみれば,引用例1発明の「無線ユーザインターフェースデバイス(インターフェイス装置)」が,「飛行中に,旅程情報の自動的な伝搬を受入れ」るように構成することは当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点2]について
引用例1発明において,「旅客は,搭載ファイルサーバの電子カタログで電子ショッピングが可能」であることから,当該電子カタログを記憶しておくための商品データベースを備えている。そして,商品情報をどこのデータベースから提示するかは任意であるから,インターフェイス装置が提示する商品情報を「ソフトウェアデータベースからの」商品情報とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点3]について
引用例1発明の「コミュニケーションフロントエンド/スイッチ3」は,「取引決済,金銭の移動,例外処理,外国為替,及び経営情報システムの機能を含み,ルーティングその他の通信の促進以外の広範な機能を含み得るものであり」,このような広範な機能を実行するために「サーバ」を用いるようにすることには何ら困難性がないから,引用例1発明の「コミュニケーションフロントエンド/スイッチ3」を「地上サーバ」とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点4]について
航空機の機内で使用する端末を,無線LANで接続することは周知技術である。
例えば,引用例3には,次の事項が記載されている。
「航空機の機内で,乗客のPCを無線LANを使って機内LANに接続し,機内に設置されたルーターから通信衛星を介してインターネットに接続する」(引用例3記載事項)
例えば,引用例4には,次の事項が記載されている。
「乗客によって使用される乗客ラップトップ,オペレータクルーによって使用されるメンバーコンピュータ,客室乗務員によって利用されるハンドヘルドコンピュータ及び機内サーバなどの航空機に搭載されるコンピュータは,ローカルエリアネットワーク(LAN)のメンバーであり,通信媒体は,無線イーサネット(RFイーサネット)である」(引用例4記載事項)
そして,上記周知技術は,引用例1発明と同様に,航空機の機内で使用する端末を無線通信接続するための技術であるから,引用例1発明に上記周知技術を適用して,機内で使用する端末を「無線LAN」で接続するように構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点5]について
周知例記載事項Aの「航空機の情報通信システムには,方向舵(ラダー)などの制御翼とエンジンの推力を制御し,機体を安定に飛行させる飛行制御システム,パイロットに代わり航空機を操縦する飛行管理システム,コクピットシステム,速度,高度など航空機を取り巻く環境を測定するセンサシステム,センサや検出装置からの情報を収集・保存し,異常があればパイロットに通知し,原因調査を支援する機上整備コンピュータシステム,衝突防止システムや対地接近警報システムなど安全性を高めるシステム,客室システムなどが含まれている」との記載によれば,本件補正発明における「航空機における飛行に必須な機能」とは,飛行制御システム,飛行管理システム,コクピットシステム,センサシステム,機上整備コンピュータシステム,安全性を高めるシステム(衝突防止システム,対地接近警報システム)など,航空機の飛行に必須なシステム(以下,「飛行システム」という。)を指すものと認められ,また,「飛行に必須なネットワーク構造」とは,それらのシステムに使用される「ネットワーク構造」であると認められる。
引用文献1には,そのような「飛行システム」やそれらのシステムに使用される「ネットワーク構造」について具体的な記載はないものの,引用例1発明の「飛行機などの大型移動旅客輸送機関」が,上記したような「飛行システム」や「ネットワーク構造」を備えていることは自明である。
ここで,引用文献1には,引用例1発明の「飛行機などの大型移動旅客輸送機関の乗客が,クレジットカードを利用して買い物をすることができるシステム」(以下,「買物システム」という。)と「飛行システム」との間で相互に接続して情報交換することについて何ら記載されていないことからして,そのような「接続」を想定していないことは明らかである。
また,周知例記載事項Bの「ジェット旅客機では,時速1,000kmの高速で,夜間や悪天候などの視界の悪い場合も安全に飛行する義務があり,そこで用いられる情報通信システムの障害は人命にかかわるリスクがあるため,高信頼性が求められるものであり,中でも,安全性の中核となる飛行制御システムは最も高信頼性が要求されるため,例えば3重化システムを3系統持つ9重化構成というような高度な冗長構成をとっている」との記載によれば,「飛行システム」の故障は,人命にかかわる重大なことであり,「飛行システム」には,高い信頼性が要求され,そのために例えば9重化構成というような高度な冗長構成が採用されているものであると認められるところ,このような高い信頼性が要求される「飛行システム」に,そもそも独立した別のシステムである「買物システム」のネットワークを接続することは,常識的にみてもありえないことであり,また,「飛行システム」に「買物システム」のネットワークを接続することは,外部から「飛行システム」への侵入ルートを作ることになり,「飛行システム」の信頼性が損なわれてしまうことから,そのような接続を許容しないようにすることが技術常識である。
してみれば,「飛行システム」の信頼性が損なわれないようにするために,引用例1発明の「買物システム」のネットワーク構造を,「飛行システム」と相互に接続できないようにすること,すなわち,引用例1発明のネットワーク構造を,「航空機における飛行に必須な機能をサポートする,飛行に必須なネットワーク構造とは異なる」ように構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,本件補正発明の作用効果も,引用例1発明,引用例2記載事項,周知例記載事項及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

よって,本件補正発明は,引用例1発明,引用例2記載事項,周知例記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-5 むすび
したがって,本件補正は,改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成26年9月17日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成25年4月19日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下,「本願発明」という。)

「 【請求項1】
航空機上での準リアルタイム支払カード処理を行なうためのシステムであって,
旅程情報の自動的な伝搬を受入れ,ソフトウェアデータベースからの商品情報を提示し,1つ以上の取引のために支払カード情報を送信し,各取引のためのカード支払の承認および否認のうちの1つを受取りかつ表示するよう構成される1つ以上のインターフェイス装置と,
各送信された支払カード情報に基づいて準リアルタイムでカード支払の承認および否認のうちの1つを提供するよう構成される地上取引プロセッサと,
前記1つ以上のインターフェイス装置と前記地上取引プロセッサとの間でデータを少なくとも伝送するよう構成されるネットワーク構造とを含み,
データを伝送するよう構成される前記ネットワーク構造は,客室ファイルサーバ,1つ以上の航空機データサービスユニット,1つ以上の地上データサービスユニット,および地上サーバを含み,前記1つ以上のインターフェイス装置と前記客室ファイルサーバは客室無線LANでリンクされ,前記客室ファイルサーバは前記1つ以上の航空機データサービスユニットと前記1つ以上の地上データサービスユニットとを介して前記地上サーバと空対地リンクされ,前記地上サーバと前記地上取引プロセッサがリンクされる,
システム。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1?4には,上記「第2[理由]2-2」に記載したとおりの事項が記載されている。

3.対比・判断
本願発明は,上記「第2[理由]」で検討した本件補正発明から,上記「第2[理由]1.(3)補正の目的について」に記載した限定事項を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成要件を全て含み,更に他の要件を付加したものに相当する本件補正発明が前記「第2[理由]2-4」に記載したとおり,引用例1発明,引用例2記載事項,周知例記載事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用例1発明,引用例2記載事項,及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例1発明,引用例2記載事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は他の請求項について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-20 
結審通知日 2014-10-21 
審決日 2014-11-05 
出願番号 特願2008-536610(P2008-536610)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (G06Q)
P 1 8・ 121- WZ (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡北 有平  
特許庁審判長 金子 幸一
特許庁審判官 須田 勝巳
石川 正二
発明の名称 乗物上でのオンライン認証を用いる準リアルタイム支払カード処理  
代理人 小林 義教  
代理人 園田 吉隆  

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