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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1298789
審判番号 不服2013-17808  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-13 
確定日 2015-03-18 
事件の表示 特願2007-145393「心臓の表示方法および磁気共鳴装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月13日出願公開、特開2007-319689〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年5月31日(パリ条約による優先権主張,2006年6月2日,独国)とする出願であって,平成24年12月3日付けで拒絶理由が通知され,平成25年3月8日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが,同年5月10日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年9月13日付けで拒絶査定を不服とする審判請求がなされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は,平成25年3月8日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものであると認める。(以下「本願発明」という。)
「核磁気共鳴による磁気共鳴装置内の心臓の表示方法において,
心臓の複数の磁気共鳴概観画像が撮影され,概観画像のために磁気共鳴装置に対して相対的に予め定められた姿勢を有する画像平面が選択され,磁気共鳴概観画像のための画像平面の予め定められた姿勢は心臓の任意に予め設定された短軸断面であり,
撮影された磁気共鳴概観画像が表示され,
表示された磁気共鳴概観画像上において複数のマーキング点が決定され,
決定されたマーキング点により心臓を表示するための他の画像平面が自動的に算出され,大動脈の根元,左心房,右心室の底部および左心室の底部,および心尖部のマーキング点から自動的に心臓長軸が算出され,
算出された画像平面において他の磁気共鳴画像が撮影される
ことを特徴とする心臓の表示方法。」


第3 引用例の記載
原査定の拒絶の理由で引用された,本願の優先権主張の日前に公開された特表2001-509066号公報(以下「引用例」という。)には,次の事項が記載されている。なお,後に引用例に記載された発明の認定に直接的に利用する箇所に当審が下線を付した。

1 5頁2行目?6頁17行目
「 磁気共鳴によって対象を撮像する方法及び装置
本発明は、安定した磁場の中に配置された人間又は動物の体の一部を撮像するための、MR画像を再構成するためのMR信号の測定のために撮像パルスシーケンスを使用し、楕円面によって体の一部を近似し、楕円面の短軸を含む部分の撮像面を撮像することを含み、上記短軸は上記楕円面の長軸から導出され、
上記長軸を推定するために、
(a)体の共通軸を横切って延びる体の一部の第1及び第2の撮像面を用いて、上記第1の撮像面の第1のMR画像及び上記第2の撮像面の第2のMR画像を形成する段階と、
(b)上記第1のMR画像から第1の参照点を、上記第2のMR画像から第2の参照点を決定する段階と、
(c)上記第1の参照点及び上記第2の参照点に夫々対応する2つの点を通る接続線から上記楕円面の長軸の第1の推定値を決定する段階とを含む磁気共鳴(MR)撮像方法に関する。また、本発明はかかる方法を実施するMR装置に関する。撮像装置はここではMR画像が形成される体の中のスライスを意味すると理解されるべきである。
この種類の方法は、米国特許第5,107,838号より既知である。既知の方法は、体の一部、例えば人間又は動物の体の心臓の機能分析のためのMR画像を形成するために使用される。これは従って、心臓の灌流MR画像又は心臓の周囲の管状動脈系のMR画像を形成されるために使用される。既知の方法によれば、楕円面は、例えば心臓の左心室のモデル記述として使用される。更に、灌流MR画像又は心臓の冠状動脈のMR画像の形成のためには、楕円面の短軸を含む心臓の撮像面が再生されることが重要である。夫々の体において、心臓は体の共通軸、例えば頭足軸に対して異なった向きとされているため、楕円面の短軸を含む撮像面のMR画像を形成するには、楕円面の長軸及び短軸は頭足軸を横切る軸に対して決定されねばならない。既知の方法は、長軸の向きを決定するために2つのMR画像を使用し、操作者は目視推定によって第1のMR画像から第1の参照点を決定し、第2のMR画像から第2の参照点を決定する。第1の参照点としては、例えば心臓の弁の縁の点に対応する第1のMR画像の中の点が選択される。第2の参照点としては、例えば左心室の先端付近の点に対応する第2のMR画像の中の点が選択される。長軸は続いて上記の点の間の接続線によって決定される。短軸は続いて、実験的に決定された人間の心臓の長軸対短軸の比率によって長軸から決定される。既知の方法の欠点は、長軸の推定値が不正確であり、実際の短軸を含む体の撮像面から逸脱した体の撮像面のMR画像を生成することである。
本発明による方法は、MR画像によって再生された撮像面と短軸の実際の位置を含む撮像面との間の逸脱を減少することを目的とする。これを達成するために、本発明による方法は、上記第1及び第2の参照点は同一の特性によって決定されることを特徴とする。本発明は、第1及び第2の参照点を決定するために同一の特性を使用することは、操作者がよりよい目視推定を行なうことを可能とし、楕円面の幾何特性及び第1及び第2の参照点を使用することは楕円面の長軸のより正確な推定値を提供し、MR画像によって再生された撮像面と短軸の実際の位置を含む撮像面との間の逸脱が減少されるよう短軸のより正確な推定値を生成することの認識に基づく。」

2 9頁12行目?10頁6行目
「図1は、安定した磁場を発生するための第1の磁石系2と、安定した磁場の上に重ね合わされ、座標系X,Y,Zの3つの夫々の直交方向に安定した磁場の中に傾斜を生ずる追加的な磁場を発生するための様々な傾斜コイル3とを含む磁気共鳴撮像装置を示す図である。概して、第1の方向の傾斜磁場は読取り傾斜磁場と称され、第2の方向の傾斜磁場は位相符号化傾斜磁場と称され、第3の方向の傾斜磁場は選択傾斜磁場と称される。図示される座標系のZ方向は慣習により磁石系2の中の安定した磁場の方向に対応する。使用されるべき測定座標系x,y,zは、図1に示されるX,Y,Z座標系から独立に選択されうる。傾斜コイル3は電源ユニット4によって電源供給される。MR撮像装置はまたRF送信器コイル5を含む。RF送信器コイル5はRF磁場を発生するために作用し、RF送信器及び変調器6に接続される。受信器コイルは、例えば人間又は動物といった生体内で検査されるべき対象7、又は対象7の一部の中でRF磁場によって発生されるMR信号を受信するために使用される。受信器コイルはRF送信器コイル5と同じコイルでありうる。磁石系2はまた検査されるべき体7の一部を収容するのに充分に大きな検査空間を包囲しうる。RF送信器コイル5は検査空間中の体7の一部の回り又は上に配置される。RF送信器コイル5は、送信/受信回路9を通じて信号増幅及び復調ユニット10に接続される。制御ユニット11はRFパルス及び傾斜磁場を含む特殊撮像パルスシーケンスを発生するよう、RF送信器及び変調器6及び電源ユニット4を制御する。復調ユニット10から得られる位相及び振幅は、処理ユニット12へ印加される。処理ユニット12は、MR画像を形成するために、例えば2次元フーリエ変換によって、表わされた信号値を処理する。画像は、モニタ14を通じて画像処理ユニット13によって視覚化される。」

3 10頁18?21行目
「図2は励起RFパルス及び傾斜磁場を含むEPIパルスシーケンス20を示す図である。EPIパルスシーケンスは、フリップ角aを有する励起RFパルス100、及び測定領域、例えば体7を通るx,y平面の中の撮像面の核スピンの励起のための選択傾斜磁場110によって開始する。」

4 11頁8行目?12頁下から3行目
「心臓の左心室を近似する楕円面の長軸を横切って延び、上記楕円面の短軸を含む撮像面のMR画像を決定するために、楕円面の長軸及び短軸が推定されねばならない。このため、本発明の方法の第1の変形例によれば、心臓の第1の撮像面の第1のMR画像及び心臓の第2の撮像面の第2のMR画像は第1の段階の間に形成され、第1及び第2の撮像面は、平行に延在し、心臓の中で体の共通軸、例えば頭足軸に略垂直であるよう選択され、頭足軸に対する心臓の位置は当業者によって使用される方法で慣習通り推定される。左心室を近似する長軸の第1の推定値を形成するために、続いて第1のMR画像から第1の参照点が決定され、第2の参照点は第2のMR画像から決定され、第1及び第2の参照点は心臓の夫々の撮像面の中の同一の特性に対応する。かかる特性の一例は、心筋と左心室の中に存在する血液との間の遷移を表わすMR画像の中の円形領域の中心である。楕円面の長軸は、続いて第1の参照点及び第2の参照点に夫々対応する安定した磁場の中の2つの点を通る接続線に基づいて推定される。以下、図3を参照して長軸の第1の推定値を決定するために上記特性を使用することについて詳述する。
図3は、楕円形30及び2つの平行線31及び32を含む撮像面及び楕円面の第1の断面を示す図である。楕円形30は、長軸の方向に心臓の左心室の断面を示す。z軸は左心室の長軸を示し、t軸は左心室の短軸又は横軸を示す。楕円形30は、tを短軸の方向の軸に沿ったパラメータとし、zは楕円形の長軸の方向の軸に沿ったパラメータを示し、a及びbは夫々長軸及び短軸の長さを表わす2つの定数とすると、以下の式、

によって説明される。平行線31,32は、夫々第1及び第2のMR画像の短軸を含む左心室の撮像面を表わす。平行線31,32は、α_(a)を方向係数、β_(i)を定数とすると、式z=α_(a)t+β_(i)によって説明される。第1の平行線31及び楕円形30の交点は、続いて、

によって決定される。座標t_(M,i),z_(M,i)を有し、第1の平行線31と楕円形30との第1及び第2の交点33,34の間に配置される第1の中心35は、

によって決定される。同様に、第2の平行線32と楕円形30との間の第3及び第4の交点36,37の間の第2の中心38が決定される。長軸の第1の推定値を構成する第1の接続線L1は、以下の式、

によって与えられる。長軸に対する推定値を使用して、左心室の第3の撮像面を再生し、長軸の第1の推定値L1に対して横切って向けられる第3のMR画像が形成されうる。」

5 FIG.1(図1)




6 FIG.3(図3)




7 上記5の図1は,上記2に記載されているように磁気共鳴撮像装置を示す図であり,この図1から,モニタ14が磁気共鳴撮像装置内に含まれる様子が読み取れる。

8 上記4に「心臓の左心室を近似する楕円面の長軸を横切って延び、上記楕円面の短軸を含む撮像面のMR画像を決定するために、楕円面の長軸及び短軸が推定されねばならない。このため、本発明の方法の第1の変形例によれば、心臓の第1の撮像面の第1のMR画像及び心臓の第2の撮像面の第2のMR画像は第1の段階の間に形成され、第1及び第2の撮像面は、平行に延在し、心臓の中で体の共通軸、例えば頭足軸に略垂直であるよう選択され、頭足軸に対する心臓の位置は当業者によって使用される方法で慣習通り推定される。・・・図3は、楕円形30及び2つの平行線31及び32を含む撮像面及び楕円面の第1の断面を示す図である。・・・平行線31,32は、夫々第1及び第2のMR画像の短軸を含む左心室の撮像面を表わす。」と記載されている。
ここに記載された「第1の段階の間に形成される」「心臓の第1の撮像面の第1のMR画像及び心臓の第2の撮像面の第2のMR画像」は,心臓における正確な長軸及び短軸が不明な段階で得られるものであるから,その「第1の撮像面」及び「第2の撮像面」は,心臓の大体の有様を知るための撮像面である。
その撮像面について,上記4にも「平行線31,32は、夫々第1及び第2のMR画像の短軸を含む左心室の撮像面を表わす」と記載されているが,「第1及び第2の撮像面」は,心臓の大体の有様を知るための撮像面としてみれば,その記載どおり,左心室の短軸断面であるといえる。
そして,左心室の短軸方向が,心臓の短軸方向と平行であることは技術常識から明らかである。
したがって,上記4に記載された「第1及び第2の撮像面」は,心臓の短軸断面である。

9 上記2より,「座標系X,Y,Z」は,傾斜磁場に関連した座標系であるから,磁気共鳴撮像装置の座標系であるといえる。
そして,上記5の図1から,上記4の「頭足軸」が,磁気共鳴撮像装置のZ方向の軸,すなわちZ軸である様子が読み取れる。

10 技術常識を勘案して,以上の記載事項を総合すれば,引用例には,次の発明(以下「引用発明」が記載されていると認められる。
「核スピンの励起を伴うパルスシーケンスを用いて,磁気共鳴によって対象を撮像する方法において,
心臓の第1の撮像面の第1のMR画像及び心臓の第2の撮像面の第2のMR画像は第1の段階の間に形成され,第1及び第2の撮像面は,平行に延在し,磁気共鳴撮像装置のZ軸に略垂直な,心臓の短軸断面であるよう選択され,Z軸に対する心臓の位置は当業者によって使用される方法で慣習通り推定され,
操作者が目視推定を行うことにより,第1のMR画像から第1の参照点が決定され,第2のMR画像から第2の参照点が決定され,これらの参照点から長軸の第1の推定値を決定し,長軸に対する推定値を使用して,左心室の第3の撮像面を再生し,長軸の第1の推定値L1に対して横切って向けられる第3のMR画像が形成され,磁気共鳴撮像装置内に含まれるモニタを通じて視覚化される方法。」


第4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
1 引用発明の「磁気共鳴によって対象を撮像する方法」は,「核スピンの励起を伴うパルスシーケンスを用い」るのであるから,その「磁気共鳴」はいわゆる核磁気共鳴である。
そして,引用発明における「第3のMR画像」は,心臓を対象とした画像である。
また,引用発明において「第3のMR画像が形成され,磁気共鳴撮像装置内に含まれるモニタを通じて視覚化される」ということは,「第3のMR画像」が「磁気共鳴撮像装置内に含まれるモニタ」に表示されることを意味するのは明らかである。
よって,引用発明の「核スピンの励起を伴うパルスシーケンスを用いて,磁気共鳴によって対象を撮像する方法において,」「第3のMR画像が形成され,磁気共鳴撮像装置内に含まれるモニタを通じて視覚化される方法」は,本願発明の「核磁気共鳴による磁気共鳴装置内の心臓の表示方法」に相当する。

2 引用発明における「心臓の第1の撮像面の第1のMR画像及び心臓の第2の撮像面の第2のMR画像」は,上記第3の8でも述べたように,心臓における正確な長軸及び短軸が不明な「第1の段階の間に形成され」る。よって,その「第1のMR画像」及び「第2のMR画像」は,心臓の大体の有様,すなわち概観を表す「MR画像」であるといえる。
そして,引用発明の「MR画像」は磁気共鳴画像を意味する。
したがって,引用発明の「心臓の第1の撮像面の第1のMR画像及び心臓の第2の撮像面の第2のMR画像」は,本願発明の「心臓の複数の磁気共鳴概観画像」に相当する。
よって,引用発明の「心臓の第1の撮像面の第1のMR画像及び心臓の第2の撮像面の第2のMR画像」が「形成され」ることは,本願発明の「心臓の複数の磁気共鳴概観画像が撮影され」ることに相当する。

3 引用発明においては,「第1及び第2の撮像面は,平行に延在し,磁気共鳴撮像装置のZ軸に略垂直な,心臓の短軸断面であるよう選択され」る。その「第1及び第2の撮像面」は,上記2に述べたとおり本願発明の「磁気共鳴概観画像」に相当する「第1のMR画像」及び「第2のMR画像」を得るための撮像面である。
よって,引用発明において「第1及び第2の撮像面は,平行に延在し,磁気共鳴撮像装置のZ軸に略垂直な,心臓の短軸断面であるよう選択され」ることは,本願発明の「概観画像のために磁気共鳴装置に対して相対的に予め定められた姿勢を有する画像平面が選択され」ることに相当する。
そして,引用発明において「磁気共鳴撮像装置のZ軸に略垂直な,心臓の短軸断面であるよう選択され」る「第1及び第2の撮像面」は,本願発明の「磁気共鳴概観画像のための画像平面の予め定められた姿勢は心臓の任意に予め設定された短軸断面」に相当する。

4 引用発明においては「操作者が目視推定を行うことにより,第1のMR画像から第1の参照点が決定され,第2のMR画像から第2の参照点が決定され」る。
まず,「操作者が目視推定を行う」のであるから,この「目視推定」が行われる前に「第1のMR画像」及び「第2のMR画像」が表示されるのは明らかである。
そして,引用発明の「参照点」は,本願発明の「マーキング点」に相当する。
よって,引用発明において「操作者が目視推定を行うことにより,第1のMR画像から第1の参照点が決定され,第2のMR画像から第2の参照点が決定され」ることは,本願発明において「撮影された磁気共鳴概観画像が表示され,表示された磁気共鳴概観画像上において複数のマーキング点が決定され」ることに相当する。

5 引用発明の「参照点」は,「心臓」の「MR画像」上において決定されるから,心臓における点であることは明らかである。
してみれば,引用発明において「これらの参照点から長軸の第1の推定値を決定し,長軸に対する推定値を使用して,左心室の第3の撮像面を再生」することと,本願発明において「決定されたマーキング点により心臓を表示するための他の画像平面が自動的に算出され,大動脈の根元,左心房,右心室の底部および左心室の底部,および心尖部のマーキング点から自動的に心臓長軸が算出され,算出された画像平面において他の磁気共鳴画像が撮影される」ることとは,「決定されたマーキング点により心臓を表示するための他の画像平面が自動的に算出され,心臓において決定された複数のマーキング点から自動的に心臓長軸が算出される」点で共通する。

6 以上を総合すると,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
「一致点」
「核磁気共鳴による磁気共鳴装置内の心臓の表示方法において,
心臓の複数の磁気共鳴概観画像が撮影され,概観画像のために磁気共鳴装置に対して相対的に予め定められた姿勢を有する画像平面が選択され,磁気共鳴概観画像のための画像平面の予め定められた姿勢は心臓の任意に予め設定された短軸断面であり,
撮影された磁気共鳴概観画像が表示され,
表示された磁気共鳴概観画像上において複数のマーキング点が決定され,
決定されたマーキング点により心臓を表示するための他の画像平面が自動的に算出され,心臓において決定された複数のマーキング点から自動的に心臓長軸が算出される,
心臓の表示方法。」

「相違点1」
本願発明では,「複数のマーキング点」の位置が「大動脈の根元,左心房,右心室の底部および左心室の底部,および心尖部」であるのに対し,引用発明では,心臓における点ではあるものの,「大動脈の根元,左心房,右心室の底部および左心室の底部,および心尖部」ではない点。

「相違点2」
本願発明では「算出された画像平面において他の磁気共鳴画像が撮影される」のに対し,引用発明では「第3の撮像面を再生し」,「第3のMR画像が形成され」るのみで,これを「撮影」するのか否か定かでない点。


第5 相違点についての判断
1 「相違点1」について
(1)心臓の診断をするときに利用される標準的な断面として
心尖部,左右心室,左右心房を視野に入れた心尖部四腔像,
心尖部,左心室,左心房,大動脈を視野に入れた心尖部三腔像
心尖部,左心室,左心房を視野に入れた心尖部二腔像
を撮像することは,例えば国際公開第2005/099579号(明細書1頁15?25行目)に記載されているように周知技術であり,それを得るために心尖部,左右心室,左右心房,大動脈のうち各断面に必要なものが視野に入るように撮像面を設定するのは自明である。
したがって,心臓を診断する画像を得ることに関する引用発明においても,それら標準的な断面を「第3のMR画像」として得るため,心尖部,左心房,それから面の設定精度を上げるため左右の心室のうち心尖部から遠い底部,そして大動脈のうち心臓との結合点である根元を参照点として決定することにより,上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(2)なお,この「相違点1」に関連して,請求人は審判請求書の請求の理由において,「本願発明によれば、長軸断面の異なる平面を発生するために5個のマーキング点で十分である。これは、互いに平行ではない3つの異なる平面を定めることができる最少の数である。従って、本願発明によれば、診断上重要である心臓長軸に沿った画像を発生するために、ユーザは磁気共鳴装置の取扱いが容易になる。予め設定された短軸断面つまり擬似短軸断面は、この短軸断面において複数の平行な画像を発生するために使用される。操作者は、擬似短軸の発生された画像において、容易に識別することができるそれらの5個の点を決定することができる。」と主張している。
しかし,次のア?ウに鑑みるに,「大動脈の根元,左心房,右心室の底部および左心室の底部,および心尖部」の「5点」をマーキング点として選定することに,格別な技術的意義は認められない。

ア 請求項2に「左心室の底部、心尖部、右心室の底部、左心房、大動脈、右心室および左心室の交差点、のうちの少なくとも1つがマーキングされる」と特定されており,このとき,必ずしも上記の「5点」を過不足なくマーキングするわけではないし,マーキング対象の候補に上記の「5点」とは異なる「右心室および左心室の交差点」が含まれ,大動脈も根元に限定されない。

イ 明細書【0020】に二腔断面の方位を算出するため交差点f,gを用いることが記載されており,これは上記の「5点」とは異なるマーキング対象である。

ウ 5点から画像平面を算出することに関して,明細書【0020】に「これらのマーキングされた点a?eから、図6に示されているように、長軸の種々の姿勢が算出される。例えばマーキング点d,e,cを用いて、すなわち左心室の底部、心尖部および右心室の底部を用いて、画像61に示されているように、四腔断面の画像平面を算出することができる。左心室dの底部および心尖部eのマーキング点を用いて、画像62に示されているように、二腔断面の位置を算出し、交差点f,gを用いて二腔断面の方位を算出することができる。大動脈根元a、心尖部eおよび左心房bのマーキング点により、画像63に示されている三腔断面のための画像平面を算出することができる。」と記載されている程度であり,左右心室の「底部」とは空間3次元的に存在する左右心室のどの点なのか,大動脈根元とは,やはり空間3次元的に存在する大動脈のどの点なのか,また,それらの点から具体的にどう演算して各画像平面を算出するのか何ら説明されていない。
そうした説明は本願の明細書になされていないものの,心臓における特徴点から所望の断面を算出することは,上記引用例の他,特開2006-55641号公報にも記載されているように周知技術に過ぎない。これに鑑みるに,本願発明の「決定されたマーキング点により心臓を表示するための他の画像平面が自動的に算出され,大動脈の根元,左心房,右心室の底部および左心室の底部,および心尖部のマーキング点から自動的に心臓長軸が算出され」るという程度のことは,上記の明細書【0020】程度の記載からも実施が可能と認められ,したがって,心臓における解剖学的な特徴点として大動脈の根元,左心房,右心室の底部および左心室の底部,および心尖部の「5点」を選定することに,格別な技術的意義は認められない。

2 「相違点2」について
磁気共鳴によって対象を撮像する方法において,位置決めのために取得した画像に基づいて所望の断面位置が設定されたとき,その設定された断面位置を撮像して詳細な画像を得ることは,例えば特開平9-220210号公報に記載されているように周知技術である。
この周知技術を引用発明に採用することに,格別な技術的困難性も,特段の阻害要因もない。
よって,上記周知技術に基づき,磁気共鳴によって対象を撮像する方法に関する引用発明においても,第1のMR画像及び第2のMR画像に基づいて設定された第3のMR画像を撮像して詳細な画像を得ることにより,相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

3 そして,上記「相違点1」及び「相違点2」を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び上記周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものに過ぎず,格別顕著なものということはできない。

4 したがって,本願発明は,引用発明及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-16 
結審通知日 2014-10-21 
審決日 2014-11-04 
出願番号 特願2007-145393(P2007-145393)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹内 あや乃  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 三崎 仁
右▲高▼ 孝幸
発明の名称 心臓の表示方法および磁気共鳴装置  
代理人 山口 巖  
代理人 山本 浩  

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