• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60C
管理番号 1298962
審判番号 不服2014-3344  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-24 
確定日 2015-03-17 
事件の表示 特願2010-530528号「装置のための支持体を構成する部材及びかかる部材を有するタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月 7日国際公開,WO2009/056740,平成23年 1月 6日国内公表,特表2011-500442〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2008年10月23日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2007年10月23日,フランス(FR))を国際出願日とする出願であって,平成25年1月21日付けで拒絶理由が通知され,同年4月23日に意見書及び手続補正書が提出され,同年10月18日付けで拒絶査定がされ,平成26年2月24日に拒絶査定不服審判が請求され,同年4月2日に審判請求書を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は,平成25年4月23日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「装置(14)のための支持体を構成する部材(10)であって,タイヤ(12)に連結可能な連結部分(20)と,前記装置(14)を支持する支持部分(18)とを有し,前記連結部分(20)が,前記タイヤに連結可能な連結面(26)と,上面(42)と,周縁部(40)とを有する,部材において,前記周縁部(40)は,互いに反対側に位置する前記上面(42)と前記連結面(26)との間に位置する接合部分(41,47)によって境界づけられ,前記表面(42,26)は,これらの接合部分(41,47)に向かって9°?15°の角度(α)で収斂している,部材(10)。」
(審決注:「接合面(41)によって境界づけられ」との記載は,「接合部分(41,47)によって境界づけられ」の誤記と認められるので,上記のとおり認定した。)

第3 原査定の理由
原査定の理由は,平成25年1月21日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由Aであり,その概要は,この出願の請求項1?3,7に係る発明は,その出願前に頒布された引用文献1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
そして,その引用文献1は,特開2005-178761号公報(以下「刊行物1」という。)であり,引用文献2は,特開2007-182142号公報(以下「刊行物2」という。)である。

第4 当審の判断
当審は,原査定の拒絶の理由のとおり,本願発明は,刊行物1,2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は,以下のとおりである。

1 刊行物の記載事項
ア 刊行物1
(1a)「【請求項1】
タイヤ内部に装置を取り付けるためのタイヤパッチであって,
上部と,タイヤのインナーライナーに取り付けられるように構成された下部とを有する基部と,
下部と,装置取付面として形成された実質的に平らな上部とを有するプラットホーム部分と,
上部と下部を有するピラー部分とを具備しており,前記ピラー部分の前記上部が,前記プラットホーム部分の前記下部に結合されており,前記ピラー部分の前記下部が,前記基部の前記上部に結合されており,当該タイヤパッチが,前記プラットホーム部分の前記上部に取り付けられる装置に対する,選択したタイヤ関連現象の伝播を遮断するよう構成されているタイヤパッチ。
・・・
【請求項4】
前記基部の周縁部は,前記基部の上部から,先端に行くに従い薄くなるように形成されている,請求項1に記載のタイヤパッチ。」(特許請求の範囲の欄,請求項1,4)
(1b)「【0001】
本発明は,一般的に言うと,タイヤ内に電気的及び電子的な部品及び組立体を取り付けるためのシステム,方法及び装置に関するものである。本発明は,タイヤ内のいわゆる「パッチ」要素に電源,回路板,及び他の電子装置を取り付けるための取り付け用パッチ及び技術に関するものである。」
(1c)「【0015】
上述した従来例のタイヤ監視用電子装置とパッチとの組合せ体と同様なタイヤ監視用電子装置とパッチとの組合せ体に係る第一の関心事は,タイヤに組合せ体をしっかり取り付けることである。・・・
・・・
【0017】
上述した従来例のタイヤ監視用電子装置とパッチとの組合せ体に係る更に別の関心事は,組合せ体の内のパッチ又は取付部分が,使用中のタイヤの回転運動に適応するために可撓性でなければならないことである。・・・
【0018】
上述した問題に鑑み,本発明は,タイヤ内部に電子部品のような装置を取り付ける改良した装置と方法を提供せんとするものである。」
(1d)「【0026】
本発明のその他の目的及び効果は,以下の詳細な説明において述べると共に,以下の詳細な説明から当業者には明らかになる筈である。更に,以下に詳細に説明し図解する本発明の特徴や工程に対する変更や修正は,本発明の精神から離れることなく,本発明の様々な実施例や使用方法において実現可能であることも理解される筈である。・・・」
(1e)「【0029】
図1と図2とを参照するならば,本発明によるタイヤパッチ1の第1実施例の側面図と平面図が示されている。・・・タイヤパッチ1は,3つの主要構成部分,すなわち,タイヤのインナーライナーに取り付けるための基部3と,様々な選択した電子構成部品を支持するプラットホーム7と,基部3をプラットホーム7に結合するピラー5とを具備している。このピラー7は,タイヤパッチ1に支持された電子装置に悪影響を与える可能性がある「道路やタイヤから伝播又は誘導される状態又は挙動(振動やストレスや熱など)」のようなタイヤ関連現象の,プラットホーム7に取付られる電子装置への伝播を少なくとも部分的に遮断又は分離する。」
(1f)「【0030】
これら3つの主要構成部分以外のタイヤパッチ1の他の特徴も重要である。基部3のエッジ部分9は,基部の周縁へのストレス集中を防止するように,先端に行くに従い薄くなるように形成することができる。更に図2に示すように,基部3は全体が長円形であることにより,ストレス集中を防止することに役立っている。・・・」

イ 刊行物2
(2a)「【0001】
本発明は,空気入りタイヤ,及び例えばトランスポンダ,タイヤ内圧監視装置等の電子装置を前記空気入りタイヤにおけるインナーライナー側に取付けるための取付パッチ構造に関する。」
(2b)「【0034】
図1(a)は,トランスポンダを取付けた状態の第1実施形態に係るパッチ取付構造を示す図,図1(b)は,図1(a)を上からみた図・・・である。」
(2c)「【0047】
更に,第1パッチ接着部29及び第2パッチ接着部31の表面は,縁側に向かってそれぞれ徐々に薄くなるようになっており,より具体的には,インナーライナー17の表面を基準として,第1パッチ接着部29及び第2パッチ接着部31の表面における縁側部分の角度は,30度以下になっている。ここで,第1パッチ接着部29及び第2パッチ接着部31の表面における縁側部分の角度を30度以下としたのは,第1パッチ接着部29及び第2パッチ接着部31の表面における縁側部分の角度が30度を越えると,空気入りタイヤ1の走行中におけるインナーライナー17のタイヤ周方向Cの伸縮動作に対する第1パッチ接着部29及び第2パッチ接着部31の縁側部分の追従性を高めることができないからであ(審決注:「できないからであ」は,「できないからである。」の誤記と認める。)・・・」

2 刊行物1に記載された発明
刊行物1の「【請求項1】
タイヤ内部に装置を取り付けるためのタイヤパッチであって,
上部と,タイヤのインナーライナーに取り付けられるように構成された下部とを有する基部と,
下部と,装置取付面として形成された実質的に平らな上部とを有するプラットホーム部分と,
上部と下部を有するピラー部分とを具備しており,前記ピラー部分の前記上部が,前記プラットホーム部分の前記下部に結合されており,前記ピラー部分の前記下部が,前記基部の前記上部に結合されており,当該タイヤパッチが,前記プラットホーム部分の前記上部に取り付けられる装置に対する,選択したタイヤ関連現象の伝播を遮断するよう構成されているタイヤパッチ。
・・・
【請求項4】
前記基部の周縁部は,前記基部の上部から,先端に行くに従い薄くなるように形成されている,請求項1に記載のタイヤパッチ。」(摘示(1a))との記載によれば,刊行物1には,
「タイヤ内部に装置を取り付けるためのタイヤパッチであって,
上部と,タイヤのインナーライナーに取り付けられるように構成された下部とを有する基部と,
下部と,装置取付面として形成された実質的に平らな上部とを有するプラットホーム部分と,
上部と下部を有するピラー部分とを具備しており,前記ピラー部分の前記上部が,前記プラットホーム部分の前記下部に結合されており,前記ピラー部分の前記下部が,前記基部の前記上部に結合されており,当該タイヤパッチが,前記プラットホーム部分の前記上部に取り付けられる装置に対する,選択したタイヤ関連現象の伝播を遮断するよう構成され,
前記基部の周縁部は,前記基部の上部から,先端に行くに従い薄くなるように形成されている,タイヤパッチ。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「装置」は,その技術的意義において,本願発明の「装置(14)」に相当する。
引用発明の「タイヤ内部に装置を取り付けるためのタイヤパッチ」は,装置を支持する支持部分をなすことが明らかであるから(摘示(1e)),本願発明の「装置(14)のための支持体を構成する部材(10)」に相当する。
引用発明の「基部」は,「タイヤのインナーライナーに取り付けられるように構成された下部」を有するから,本願発明の「タイヤ(12)に連結可能な連結部分(20)」に相当する。
引用発明の基部を構成する「タイヤのインナーライナーに取り付けられるように構成された下部」及び「周縁部」は,その形状,構造に照らして,本願発明の連結部分(20)を構成する「タイヤに連結可能な連結面(26)」及び「周縁部(40)」にそれぞれ相当する。
引用発明の基部は,図1,2の記載に照らして,「上面」を有すること,かかる「上面」と「インナーライナーに取り付けられるように構成された下部」との間に「接合部分」が存在すること,さらに「周縁部」は「互いに反対側に位置する前記上面と前記下部との間に位置する接合部分によって境界づけられる」ことが明らかであるから,引用発明の「基部」と本願発明の「連結部分」とは,「前記連結部分(20)が,前記タイヤに連結可能な連結面(26)と,上面(42)と,周縁部(40)とを有する」こと,及び,「前記周縁部(40)は,互いに反対側に位置する前記上面(42)と前記連結面(26)との間に位置する接合部分(41,47)によって境界づけられ」る点で共通したものといえる。

したがって,本願発明と引用発明とは,
「装置のための支持体を構成する部材であって,タイヤに連結可能な連結部分と,前記装置を支持する支持部分とを有し,前記連結部分が,前記タイヤに連結可能な連結面と,上面と,周縁部とを有する,部材において,前記周縁部は,互いに反対側に位置する前記上面と前記連結面との間に位置する接合部分によって境界づけられた,部材。」である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)
本願発明は,「前記表面は,これらの接合部分に向かって9°?15°の角度(α)で収斂」しているのに対し,引用発明は「前記基部の周縁部は,前記基部の上部から,先端に行くに従い薄くなるように形成」されているものの,上記周縁部の具体的な角度について特定されていない点。

4 検討
(1)相違点について
(ア)本願明細書の記載によれば,本願発明は,「自動車用のタイヤの技術分野に関する」(段落【0001】)ものであって,「タイヤの表面へのこの部材の組み付けの良好な耐久性を可能にする部材を提案する」(段落【0006】)という課題を解決するために,少なくとも,「前記表面(42,26)は,これらの接合部分(41,47)に向かって9°?15°の角度(α)で収斂している」という事項を発明特定事項として特定したものと解される。
また,本願明細書の段落【0009】には,上記角度(α)について,
(i)角度が9°未満である場合,部材の周縁部を正確に平べったくすることが困難なので折り目が部材の境界部に見える場合があること,及び,
(ii)角度が15°を超える場合,部材の周縁部は剛性が高くなりすぎ,その結果,かかる周縁部は,タイヤの表面に対して大きすぎる応力を生じさせると共に走行中に亀裂又は剥離を生じさせるようになること,が指摘されている。
(イ)他方,刊行物1の記載によれば,引用発明は,タイヤ内に電気的及び電子的な部品を取り付けるための装置に関するものであって(摘示(1b)),少なくとも,タイヤに組合せ体をしっかり取り付けることができ,また,組合せ体の内のパッチ又は取付部分が,使用中のタイヤの回転運動にも適応した,タイヤ内部に電子部品のような装置を取り付ける改良した装置を提供することを課題とするものと解されるから(摘示(1c)),本願発明と引用発明とは,技術分野及び課題について共通したものといえる。
さらに,刊行物1の「基部3のエッジ部分9は,基部の周縁へのストレス集中を防止するように,先端に行くに従い薄くなるように形成することができる。」(摘示(1f))との記載によれば,引用発明の「前記基部の周縁部は,前記基部の上部から,先端に行くに従い薄くなるように形成されている」との事項は,周縁部(エッジ部分9)の表面をなす連結面と上面を,これらの接合部分に向かって,ストレス集中(応力集中)を防止するような角度で収斂させたものということができる。
したがって,本願発明と引用発明とは,技術分野及び課題が共通するばかりでなく,その課題解決手段も多分に共通したものということができる。
(ウ)そして,そもそも一定の課題を解決するために,実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは,当業者の通常の創作能力の発揮において行い得ることと解されるから,引用発明において,ストレス集中(応力集中)を防止するという明確な指針に基づいて,上記周縁部の角度を実験的に好適な範囲として求めることは困難なことではなく,したがって,上記(ア)で述べた上記(ii)の点は引用発明においても当然想定の範囲ということができる。
さらに,刊行物1には,「本発明の特徴や工程に対する変更や修正は,本発明の精神から離れることなく,本発明の様々な実施例や使用方法において実現可能であることも理解される筈である。」(摘示(1d))とも記載されているように,一般の部品設計において,その製造性等をも考慮して部品の設計がなされることは技術常識であるから,上記周縁部の角度についても,その製造が困難とならない範囲で角度の下限値が設定し得るものといえ,したがって,上記(ア)で述べた上記(i)の点も当業者には想定の範囲ということができる。
してみると,引用発明において,周縁部の形状を「9°?15°」の角度で収斂させることは,そもそも想定の範囲ということができる。
(エ)そして,刊行物2には,引用発明と同様な「取付パッチ構造」を前提として(摘示(2a)),取付パッチ構造の周縁部をなす第1パッチ接着部29及び第2パッチ接着部31の縁側部分の角度を「30度以下」に構成することが開示されているから(摘示(2b)(2c)),周縁部を「9°?15°」の角度で収斂させることは,刊行物2の記載に照らして実施の範囲ということもでき,技術的に困難なこととはいえない。
(オ)ところで審判請求人は,平成26年4月2日付けの手続補正書(審判請求書の請求の理由に関する補正)で,「引用文献1,2には,周縁部の角度の下限値を示唆するような記載は一切存在しない。・・・引用文献1には,その角度を調整することにより,その効果を最適化できることは開示も示唆もされていない。当然のことながら,当業者であっても角度とその効果の関係が明らかではない場合には,具体的な数値範囲を想到することはできない。」(3.(3)(4))旨主張する。
しかし,上記(ウ)で述べたとおり,そもそも一定の課題を解決するために,実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎず,引用発明においても,ストレス集中(応力集中)を防止するという明確な指針が存在し,さらに,一般の部品設計において,その製造性等をも考慮して部品の設計がなされることは技術常識であるから,引用発明における周縁部の角度範囲は,当業者が実験等により最適化・好適化として設定し得たものといえる。
さらに,本願明細書を参酌しても,周縁部の角度の上限値を「15°」とし,また下限値を「9°」とすることに,格別な技術的・臨界的意義を確認することはできない。
したがって,審判請求人の主張は採用できない。
(カ)してみると,上記相違点に係る本願発明の構成は,引用発明及び上記刊行物2の記載をも参考の上,当業者が容易に想到し得たものといえる。

(2)発明の効果について
本願発明が奏する作用効果は,引用発明及び上記刊行物2の記載の事項から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

5 まとめ
したがって,本願発明は,刊行物1,2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許を受けることができないものであるから,その余について検討するまでもなく,この出願は,拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-20 
結審通知日 2014-10-22 
審決日 2014-11-05 
出願番号 特願2010-530528(P2010-530528)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹村 秀康  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 氏原 康宏
大熊 雄治
発明の名称 装置のための支持体を構成する部材及びかかる部材を有するタイヤ  
代理人 井野 砂里  
代理人 辻居 幸一  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 松下 満  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 弟子丸 健  
代理人 辻居 幸一  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 弟子丸 健  
代理人 松下 満  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 井野 砂里  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ