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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16G
管理番号 1299256
審判番号 不服2014-9930  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-28 
確定日 2015-04-02 
事件の表示 特願2009-214921「伝動ベルト」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月31日出願公開、特開2011- 64257〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年9月16日の出願であって、平成25年4月3日付けの拒絶理由通知に対して、同年4月26日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月1日付けの拒絶理由通知に対して、同年10月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年3月6日付け(発送日:同年3月11日)で拒絶査定がされ、これに対して、同年5月28日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成25年10月28日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「【請求項1】
心線がベルト長さ方向に延びるように埋設されたゴム層を備えた伝動ベルトであって、
上記ゴム層は、繊維径1μm以下の極細繊維がベルト長さ方向に配向するように含有されたゴム組成物で形成されており、
上記心線は、上記ゴム層の厚さ方向の中間部に埋設されている伝動ベルト。」

第3 刊行物に記載された事項
1.原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された特開2007-198485号公報(以下、「刊行物」という。)には、「Vリブドベルト」に関し、図面(特に、【図4】参照)とともに、次の事項が記載されている。
以下、下線は当審で付与するものである。

ア.段落【0006】ないし段落【0009】
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のベルトにおいては、長手方向の亀裂を防止することはできるが、ベルトの横剛性又は縦剛性を充分に高められるわけではなく、スパン振動やミスアライメントノイズを適切に防止できるわけではない。また、モノフィラメントを接着ゴム層に並列させて埋設させることは通常のベルト製造工程においては困難で、特許文献1に記載のVリブドベルトを量産化することは困難である。
【0007】
そこで本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、通常の製造工程において生産可能なVリブドベルトであって、高負荷耐久性能を有し、かつミスアライメントノイズやスパン振動を有効に防止することができるVリブドベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るVリブドベルトは、心線がベルトの長手方向に埋設された接着ゴム層と、接着ゴム層の上面に貼付される帆布と、接着ゴム層の下面に接着ゴム層と一体に形成され、長手方向に延びる複数のリブが形成された下ゴム層とを備え、接着ゴム層には短繊維が混入されていることを特徴とする。ここで、短繊維は、ベルトの長手方向または幅方向のいずれかに配向されることが好ましく、短繊維は例えばアラミド短繊維が使用される。
【0009】
短繊維は接着ゴム層の一部に混入されることが好ましく、接着ゴム層が、心線を境に上側を構成する上部層と、下側を構成する下部層から形成される場合、短繊維は下部層に混入された方が良い。Vリブドベルトにおいては、リブの応力が心線と下ゴム層の間に位置する下部層に集中するので、その応力が集中する部分に短繊維を混入させることにより、耐久性能を効率的に向上させることができる。」

イ.段落【0015】
「【0015】
接着ゴム層12は、心線11を境に接着ゴム層12の上側を構成する上部層12Aと、下側を構成する下部層12Bから構成される。下部層12Bには、無数の第1の短繊維21が略均等に混入され、第1の短繊維21はベルトの幅方向に配向される。上部層12Aには短繊維が混入されていない。下ゴム層14には無数の第2の短繊維22が略均等に混入され、第2の短繊維22も第1の短繊維21と同様にベルトの幅方向に配向される。
【0016】
上部層12A、下部層12B、及び下ゴム層14は、例えばEPDM(エチレン-プロピレン-ジエン共重合体)、クロロプレンゴム、EPM(エチレン-プロピレン共重合体)、H-NBR(水素添加ニトリルゴム)などをゴム成分として形成されるが、好ましくはEPDMが使用される。ゴム成分としてEPDMを使用することにより、ベルトの耐熱性・耐久性を向上させることができる。また、下部層12BにEPDMを使用した場合、下部層12Bに短繊維を混入させても、下部層12Bと心線11との高い接着性を維持することが可能である。各ゴム層のゴム成分は互いに、異なっていても良いし同一であっても良い。」

ウ.段落【0018】
「【0018】
第1及び第2の短繊維21、22には、アラミド短繊維、ポリアミド短繊維(ナイロン短繊維)等が使用される。アラミド短繊維としては、例えばメタ系アラミド短繊維、パラ系アラミド短繊維が使用される。メタ系アラミド短繊維としては、例えばコーネックス(商品名.帝人(株)製)が、パラ系アラミド短繊維としてはテクノーラ(商品名.帝人(株)製)が用いられる。ナイロン短繊維としては、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10等の短繊維が用いられる。下部層12Bに混入される第1の短繊維21は、下ゴム層14に混入される第2の短繊維22よりもモジュラスが高い短繊維であることが好ましい。したがって、第1の短繊維21には例えばアラミド繊維が使用され、第2の短繊維22には例えばナイロン短繊維が使用される。このように、第1の短繊維21にモジュラスが高いアラミド短繊維を使用することにより、下部層12Bの幅方向のモジュラスを、下ゴム層14の幅方向のモジュラスよりも高くすることができる。下部層12Bのモジュラスが高くなると、下部層12Bの剛性が高められるため、ベルトの耐久性能が高められるとともに、ミスアライメントノイズの発生をより有効に防止することができる。」

エ.段落【0031】?段落【0039】
「【0031】
次に第2の実施形態について図4を用いて説明する。第2の実施形態において、第1の実施形態と相違する点は、第1の短繊維21がベルトの長手方向に沿って配向させられている点のみである。
【0032】
第2の実施形態において、特に限定されるわけでないが、第1の短繊維21にはアラミド短繊維が、第2の短繊維22にはナイロン短繊維が例えば使用され、これにより、下部層12Bの長手方向のモジュラスを向上させることができ、例えば下ゴム層14の幅方向のモジュラスより高くすることができる。その他のベルトの構成は、第1の実施形態と同様であるので説明は省略する。なお製造工程において、第1のゴムシート12B’は、第1の短繊維21の配向方向が円筒形ドラム41の周方向に向くように、巻き付けられる。その他の構成は第1の実施形態と同様である。
【0033】
第2の実施形態において、第1の短繊維21を下部層12Bに混入させるとともに、長手方向に配向させることにより、ベルトの長手方向の剛性を高め、ベルトの長手方向の振動を防止することができる。したがって、いわゆるスパン振動の発生が防止でき、スパン振動に基づくベルトの騒音を低減することができる。また、ベルトの剛性が高められるため、ベルトの耐久性能を向上させることができる。
【0034】
次に、第3の実施形態について図5を用いて説明する。第3の実施形態において、第1の実施形態と相違する点は、下部層12Bに混入される第1の短繊維21の構成のみである。第3の実施形態においては、第1の短繊維21は所定の方向に配向されておらず、ランダムに混入させられている。第3の実施形態の第1の短繊維21としては、例えば変成ナイロンミクロファイバーが使用される。
【0035】
変成ナイロンミクロファイバーは、ナイロン繊維にポリオレフィンをグラフト共重合した共重合体から成る。ナイロン繊維としては微細径のナイロン6が好適に用いられるが、この他にナイロン6,6あるいはナイロン6,10等を用いても良い。また、ポリオレフィンとしてはポリエチレンが好適に用いられるが、ポリエチレンに限定されず、ポリプロピレン等が用いられても良い。
【0036】
変成ナイロンミクロファイバーは、その繊維長さL_(F)が約4000μm以下であり、繊維径D_(F)が1.5μm以下であり、繊維径D_(F)に対する繊維長さL_(F)の比の値(L_(F)/D_(F))は10以上であるが、好ましくは、繊維長さL_(F)は約1000μm以下であり、繊維径D_(F)は1.0μm以下であり、かつ比の値(L_(F)/D_(F))は500以上1500以下の範囲内にある。また、変成ナイロンミクロファイバーの混入量は、例えば下部層12Bのゴム成分100重量部に対して10乃至30重量部である。
【0037】
第3の実施形態に係る第1のゴムシート12B’は、以下のように製造される。すなわち、まず未加硫ゴム成分(例えばEPDM)にナイロン(例えば、ナイロン6)およびポリオレフィンを配合させた後、撹拌等することにより、ポリオレフィンにナイロンをグラフト重合させる。次に、未加硫ゴム成分(例えばEPDM)をさらに加えるとともに加硫剤等他の添加剤を配合させた後、練り合わせを行う。この練り合わせにより、グラフト重合が細分化され、上述した繊維長さと繊維径を有する変成ナイロンミクロファイバーが得られる。変成ナイロンミクロファイバーは、第1のゴムシート12B’において、いずれの方向にも配向されずにランダムに分布させられる。
【0038】
第3の実施形態においては、第1の短繊維21を配向方向を定めることなく下部層12Bに混入させることにより、ベルトの幅方向、長手方向の剛性を高めることができ、ベルトの耐久性能を向上させることができる。
【0039】
なお、第1乃至第3の実施形態では、接着ゴム層12において、下部層12Bのみに短繊維が混入され、上部層12Aには短繊維が混入されていないが、上部層12Aに短繊維が混入されていても良い。この場合、短繊維は長手方向または幅方向に配向されても良いし、配向方向が定められてなくても良い。下部層12Bと配向方向が同一であっても良いし、異なっていても良い。また、上部層12Aに混入される短繊維は、下部層12Bに混入される短繊維と同一の短繊維でも良いが、異なる種類の短繊維であっても良い。」
上記記載事項から次の事項が理解できる。

オ.上記記載事項イ及びエから、接着ゴム層12は、心線11を境に接着ゴム層12の上側を構成する上部層12Aと、下側を構成する下部層12Bから構成されるから、心線11は、接着ゴム層12の厚さ方向の中間部に埋設されており、下部層12Bには、第1の短繊維21がベルトの長手方向に配向され、上部層12Aには短繊維が混入されていない。

カ.上記記載事項ア及び【図4】から、心線がベルト長手方向に延びるように埋設された接着ゴム層12を備えている。

これら記載事項、図示内容及び上記認定事項を総合して、本願発明に則って整理すると、刊行物には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「心線がベルト長手方向に延びるように埋設された接着ゴム層12を備えたVリブドベルトであって、
上記接着ゴム層12は、上部層12Aと下部層12Bから構成され、前記下部層12Bは、短繊維21がベルト長手方向に配向するように含有されたゴム組成物で形成されており、
上記心線11は、接着ゴム層12の厚さ方向の中間部に埋設されているVリブドベルト。」

第4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「長手方向」、「Vリブドベルト」、「接着ゴム層12」は、その機能、構造及び製造方法からみて、本願発明の「長さ方向」、「伝動ベルト」、「ゴム層」に相当する。

以上の点からみて、本願発明と引用発明とは、

[一致点]
「心線がベルト長さ方向に延びるように埋設されたゴム層を備えた伝動ベルトであって、
上記ゴム層の下層部は、繊維がベルト長さ方向に配向するように含有されたゴム組成物で形成されており、
上記心線は、上記ゴム層の厚さ方向の中間部に埋設されている伝動ベルト。」
である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点]
本願発明では、ゴム層全体に含有される繊維が繊維径1μm以下の極細繊維であるのに対して、引用発明では、接着ゴム層12の下部層12Bに短繊維21が含有されるものの、その径が不明であり、接着ゴム層12の上部層12Aに短繊維21が含有されていない点。

第5 判断

上記相違点について検討する。
刊行物に記載された「第2の実施形態」において、下部層12Bのみならず、上部層12Aにも短繊維21を長手方向に含有させてもよく(上記記載事項エ)、また、「第3の実施形態」についてではあるものの、短繊維21の例として開示されている変成ナイロンミクロファイバーの繊維径は1.0μm以下であって(上記記載事項エ)、「第2の実施形態」において採用し得る繊維として、ナイロン短繊維も開示されているから(上記記載事項ウ)、「第2の実施形態」における繊維として1.0μm以下の変成ナイロンミクロファイバーを採用することは設計事項にとどまる。
そうすると、引用発明において、下部層12Bのみならず、上部層12Aにも短繊維21を長手方向に含有させ、その際、短繊維21の径を1μm以下とすることは、当業者が容易になし得たことである。

3.作用効果について
そして、本願発明による効果も、引用発明から当業者が予測し得た程度のものである。

4.まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-02 
結審通知日 2015-02-03 
審決日 2015-02-16 
出願番号 特願2009-214921(P2009-214921)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16G)
P 1 8・ 121- Z (F16G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 広瀬 功次  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 小柳 健悟
稲葉 大紀
発明の名称 伝動ベルト  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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