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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
管理番号 1299369
審判番号 不服2013-3439  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-22 
確定日 2015-03-30 
事件の表示 特願2006- 90761「重合性液晶組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月11日出願公開、特開2007-262288〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、平成18年3月29日に出願された特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成24年 3月15日付け 拒絶理由通知
平成24年 5月21日 意見書・手続補正書
平成24年 9月 5日付け 拒絶理由通知(最後)
平成24年11月 8日 意見書・手続補正書
平成24年11月29日付け 補正の却下の決定
同日付け 拒絶査定
平成25年 2月22日 本件審判請求
同日 手続補正書
平成25年 3月 4日付け 前置審査移管
平成25年 3月22日付け 前置報告書
平成25年 3月29日付け 前置審査解除
平成25年 8月29日付け 審尋
平成25年10月31日 回答書
平成26年 3月17日付け 拒絶理由通知
平成26年 5月19日 意見書・手続補正書

第2 平成26年3月17日付け拒絶理由通知について
当審は、平成26年3月17日付けで拒絶理由を通知したが、その拒絶理由通知書の内容の概略は以下のとおりのものである。

「第3 拒絶理由
しかるに、本願は以下の拒絶理由を有するものである。

理由1:本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であるから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
理由2:本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



1.理由1について
特許法第36条第6項第1号の規定(いわゆる明細書のサポート要件)に対する適否について以下検討する。

(1)本願発明の解決課題について
本願発明の解決しようとする課題は、明細書の発明の詳細な説明の記載(特に【0006】)からみて、「高温下において位相差の変化が少ない光学異方体を作製することが可能な重合性液晶組成物」の提供にあるものと認められる。
・・(中略)・・
したがって、上記実施例(比較例)に係る記載を含む本願明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、たとえその技術常識に照らしても、本願の請求項に記載された事項で特定されるすべての場合について、上記本願発明の解決課題を解決することができるものと認識することができるとはいえない。
よって、本願請求項1及び同項を引用する請求項2ないし8に記載された事項で特定される発明が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができない(平成17年(行ケ)10042号判決参照)。
結局、本願の各請求項の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

2.理由2について
なお、理由2につき検討するにあたり、上記1.で検討したとおり、本願の特許請求の範囲には記載不備があるが、本願発明については、請求項1ないし8に記載されたとおりの事項で特定されるものであるとして以下検討を行う。

引用刊行物:
1.特開2005-272561号公報(原審における「引用文献8」)
2.特開2003-193053号公報(原審における「引用文献9」)
3.国際公開2006/001444号(原審における「引用文献4」)
4.特開2002-256267号公報(原審における「引用文献5」)
5.特開平 9-291282号公報(原審における「引用文献6」)
6.特開平 6-172265号公報(原審における「引用文献7」)
7.「便覧 ゴム・プラスチック配合薬品」2003年12月2日、株式会社ポリマーダイジェスト社発行、p.91?97
(以下、上記「1.」及び「2.」の各文献を「引用例1」及び「引用例2」といい、「3.」ないし「7.」の各文献を「周知例1」ないし「周知例5」という。)
・・(中略)・・
(7)対比・検討のまとめ
以上のとおりであるから、本願発明1ないし6及び8は、引用例1又は2に記載された発明(及び当業者の周知技術)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
・・(後略)」

第3 当審の判断
当審の上記拒絶理由通知に対して、指定期間内に意見書及び手続補正書が提出されたので、その補正された本願につき上記「第2」の「第3 拒絶理由」で示した各理由と同様の理由が存するか否か再度検討を行う。

I.本願の請求項1に記載された事項
上記平成26年5月19日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1には、以下の事項が記載されている。
「式(I-1)、(I-3)又は(I-5)
【化1】


で表される酸化防止剤を0.1?1質量%含有し、一般式(II)
【化2】


(式中、mは0又は1を表し、W^(1)及びW^(2)はそれぞれ独立的に単結合、-O-、-COO-又は-OCO-を表し、Y^(1)及びY^(2)はそれぞれ独立的に-COO-又は-OCO-を表し、r及びsはそれぞれ独立的に2?18の整数を表すが、式中に存在する1,4-フェニレン基は炭素原子数1?7のアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、シアノ基、又はハロゲン原子で一つ以上置換されていても良い。)で表される重合性液晶化合物からなる重合性液晶組成物を含有する重合性液晶組成物。」
(以下の検討において、上記請求項1に記載された事項で特定される発明を「本願発明」ということがある。)

II.各理由についての検討

1.上記「理由1」(特許法第36条第6項に係る理由)について
特許法第36条第6項第1号(いわゆる「明細書のサポート要件」)について検討する。

(1)本願発明の解決課題について
本願発明の解決しようとする課題は、明細書の発明の詳細な説明の記載(特に【0006】)からみて、「高温下において位相差の変化が少ない光学異方体を作製することが可能な重合性液晶組成物」の提供にあるものと認められる。

(2)検討
本願明細書(平成24年5月21日付け手続補正後のもの。以下「本願明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載を検討すると、「種々の重合性液晶と酸化防止剤の組み合わせを鋭意検討した結果、本願発明の重合性液晶組成物に最適な酸化防止剤とその分子量の範囲を明らかにすることに成功し本願発明の完成に至った」とし、「本願発明は、少なくとも1つ以上の水素原子がtert-ブチル基で置換されているフェノール骨格を有する分子量300以上の酸化防止剤を含有することを特徴とする重合性液晶組成物を提供し、併せて当該重合性液晶組成物の硬化物である光学異方体を提供する」とされており(【0007】参照)、その効果として、「本願発明の重合性液晶組成物は、光学異方体を構成した場合において高温に曝されても位相差は減少しにくいことから、光学異方体の材料、特に液晶セル内部に組み込む光学異方体の材料として好適である」としている(【0008】参照)。
そして、上記本願明細書の発明の詳細な説明には、上記「重合性液晶(化合物)」として使用できるものにつき、【0013】ないし【0045】において、多種多岐のものが例示記載されており、それらのうち「一般式(III)」(請求項1における「一般式(II)」と同一である。以下統一して「一般式(II)」という。)で表される化合物を用いると機械的強度や耐熱性に優れた光学異方体が得られるので好ましい旨記載されている。
また、本願明細書における実施例(比較例)に係る記載(【0046】?【0060】)を検討しても、一般式(II)で表される重合性液晶化合物の2種のみを含有する組成物に対して特定の高分子量フェノール系酸化防止剤を添加使用した実施例1?3、9及び10並びに参考例1?5の場合につき、酸化防止剤を添加使用しない比較例1及び低分子量のフェノール系酸化防止剤を添加使用した比較例2の場合に比して、製造した光学異方体の高温保持による位相差減少率が小さい、すなわち劣化が防止され耐熱性が高いことは、理解できるものの、他の重合性液晶(化合物)を併用した場合にいかなる程度の耐熱性を有するものかは不明である。
してみると、以上の明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、耐熱性に優れた光学異方体を形成することができるという一般式(II)で表される重合性液晶化合物のみを使用して、特定の高分子量フェノール系酸化防止剤を添加使用した場合については、上記解決課題に対応する効果(耐熱性など)を奏するものとは、当業者が認識することができるものの、上記一般式(II)の重合性液晶化合物と耐熱性等を有するものとはされていない他の重合性液晶化合物とを併用した組成物に対して特定の高分子量フェノール系酸化防止剤を添加使用した場合に、上記解決課題に対応する効果(耐熱性など)を奏するか否かは当業者といえども不明であって、当該効果を奏し得るものと当業者が認識することができるものとは認められない。
また、請求人が提示した平成25年10月31日付け回答書における追加実験の結果を検討すると、他の重合性液晶化合物のみを使用した「追加比較例2?4」の場合、特定の高分子量フェノール系酸化防止剤を使用しても極端に位相差減少率が増加しており、すなわち耐熱性等が低下しているのであるから、他の重合性液晶化合物を併用した場合、上記効果が奏されるであろうと認識することはできない。
なお、本願発明に係る「酸化防止剤を・・含有し、一般式(II)・・で表される重合性液晶化合物からなる重合性液晶組成物を含有する重合性液晶組成物」(下線は当審が付与した。)なる(文末の)重合性液晶組成物が、一般式(II)で表される重合性液晶化合物以外の重合性液晶化合物を含有する態様をも包含することは、文脈上明らかである。
したがって、上記実施例(比較例)に係る記載を含む本願明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、たとえその技術常識に照らしても、本願の請求項1に記載された事項で特定されるすべての場合について、上記本願発明の解決課題を解決することができるものと認識することができるとはいえない。
よって、本願請求項1に記載された事項で特定される本願発明が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができない(平成17年(行ケ)10042号判決参照)。
結局、補正された本願請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本願は、依然として特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

(3)請求人の主張について
請求人は、平成26年5月19日付け意見書において、
「上記の補正により、本願の重合性液晶組成物につき、実施例と同等の一般式(II)で表される重合性液晶化合物からなる重合性液晶組成物としたことから、本願発明は本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものとなりました。」
と主張しているが、上記(2)のなお書きで説示したとおり、本願発明に係る「重合性液晶組成物」は、「実施例と同等の一般式(II)で表される重合性液晶化合物からなる重合性液晶組成物」を「含有する」組成物であるから、請求人の意見書における上記主張は、その根拠を欠くものであり、採用することができず、上記(2)の検討結果を左右するものではない。

(4)理由1のまとめ
以上のとおり、本願の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではないから、本願は、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしているものではない。

2.上記「理由2」(特許法第29条に係る理由)について

引用刊行物:
1.特開2005-272561号公報
3.国際公開2006/001444号
4.特開2002-256267号公報
5.特開平 9-291282号公報
6.特開平 6-172265号公報
7.「便覧 ゴム・プラスチック配合薬品」2003年12月2日、株式会社ポリマーダイジェスト社発行、p.91?97
(以下、上記「1.」の文献を「引用例」といい、「3.」ないし「7.」の各文献を「周知例1」ないし「周知例5」という。)

(1)引用例及び周知例の記載事項

ア.引用例
上記引用例には、以下の事項が記載されている。

(1a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】


(式中、W^(1)及びW^(2)はそれぞれ独立的に単結合、-O-、-COO-又は-OCO-を表し、Y^(1)及びY^(2)はそれぞれ独立的に-COO-又は-OCO-を表し、p及びqはそれぞれ独立的に2?18の整数を表し、式中に存在する3種の1,4-フェニレン基の水素原子はそれぞれ独立的に、炭素原子数1?7のアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、シアノ基又はハロゲン原子で一つ以上置換されていても良い。)で表される2官能液晶性アクリレート化合物を50から95%含有し、一般式(II-1)から一般式(II-4)
【化2】


(式中、rは2?18の整数を表す。)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の単官能液晶性アクリレート化合物を5から50%含有し、室温でスメクチックA相を呈することを特徴とする重合性液晶組成物。
【請求項2】
一般式(I)において、p及びqがそれぞれ独立的に3から6の整数を表す請求項1記載の重合性液晶組成物。
【請求項3】
一般式(I)において、W^(1)及びW^(2)が-O-を表し、Y^(1)が-COO-を表し、Y^(2)が-OCO-を表す請求項1又は2記載の重合性液晶組成物。
【請求項4】
一般式(II-1)で表される化合物を含有する請求項1から3の何れかに記載の重合性液晶組成物。
・・(後略)」

(1b)
「【技術分野】
【0001】
本発明は位相差フィルム等の光学異方体を製造するのに有用な重合性液晶組成物、及びこれを用いた重合体に関する。」

(1c)
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、室温でスメクチックA相を呈する重合性液晶組成物において、窒素置換することなく光重合可能な重合性液晶材料を提供することにある。」

(1d)
「【発明の効果】
【0011】
本発明の重合性液晶組成物により、スメクチックの層構造を有する光学異方体を、光重合時に窒素置換することなく製造することが可能になる。得られる光学異方体は均一性に優れており、非常に有用である。」

(1e)
「【0014】
本発明の重合性液晶組成物は、室温でスメクチックA相を呈するように設計する必要がある。具体的には35℃以下、このましくは30℃以下、さらに好ましくは25℃以下でもスメクチックA相を呈することが必要である。また、スメクチックA相を示す温度より高い温度域においてネマチック相を呈するように設計するのが好ましい。このようにするとネマチック相状態で配向させた後に、スメクチックA相に転移させることによって良好な配向状態を容易に得ることが可能になる。スメクチックA-ネマチック相転移温度は35?60℃、好ましくは38?58℃、さらに好ましくは40?55℃に設定すると、良好な均一性と熱重合の抑止を両立可能である。またネマチック-等方性液体相転移温度は41?90℃、好ましくは43?80℃、さらに好ましくは45?75℃に設定するのが好ましい。
【0015】
一般式(I)において、本発明の目的から、p及びqはそれぞれ独立的に3以上に設定するのが好ましい。
一般式(I)で表される化合物は具体的には、一般式(I-1)?一般式(I-8)で表される化合物を挙げることができる。
【0016】
【化3】


【0017】
(式中のp及びqは一般式(I)における意味と同じ)
一般式(I)で表される化合物は、本発明の組成物が安定に液晶相を発現させる目的と結晶相の析出を避ける目的から、2種以上含有させることが好ましい。これはp、qが異なる化合物でも良いし、W^(1)、W^(2)が異なる化合物でも良いし、1,4-フェニレン基の置換様態が異なる化合物でもよい。
一般式(I)において、W^(1)及びW^(2)が-O-を表し、Y^(1)が-COO-を表し、Y^(2)が-OCO-を表し、p及びqはそれぞれ独立的に3?12の整数を表す化合物を2種以上混合させることが特に好ましい。例えば、p=q=6、p=q=3の化合物の混合を例示することができる。
【0018】
この他にも、2官能液晶性アクリレートとしては、一般式(a-1)?一般式(a-10)で表される化合物を含有させることができる。
【0019】
【化4】


【0020】
(式中、u及びvはそれぞれ独立的に2?18の整数を表す)
u及びvは3より小さいとスメクチックA相を得るのが難しくなる傾向があり、12より大きいと光重合して得られる重合体の耐熱性が劣化する傾向がある。そのため、u及びvはそれぞれ独立的に3?18を表すことが好ましく、4?16がより好ましく、6?12が特に好ましい。」

(1f)
「【0029】
また、本発明の重合性液晶組成物を偏光フィルムや配向膜の原料、又は印刷インキ及び塗料、保護膜等の用途に利用する場合には、その目的に応じて金属、金属錯体、染料、顔料、色素、蛍光材料、燐光材料、界面活性剤、レベリング剤、チキソ剤、ゲル化剤、多糖類、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、抗酸化剤、イオン交換樹脂、酸化チタン等の金属酸化物等を添加することもできる。
【0030】
次に本発明の重合体について説明する。本発明の重合性液晶化合物または重合性液晶組成物を重合させることによって製造される重合体は種々の用途に利用できる。例えば、本発明の重合性液晶組成物を、配向させない状態で重合させた場合、光散乱板、偏光解消板、モアレ縞防止板として利用可能である。また、本発明の重合性液晶化合物または重合性液晶組成物を配向させた状態において、重合させることにより製造された重合体は、物理的性質に異方性を有しており、有用である。このような重合体は、例えば、本発明の重合性液晶化合物又は重合性液晶組成物表面を、布等でラビング処理した基板、もしくは有機薄膜を形成した基板表面を布等でラビング処理した基板、あるいはSiO_(2)を斜方蒸着した配向膜を有する基板上に担持させるか、基板間に挟持させた後、本発明の液晶を重合させることによって製造することができる。」

(1g)
「【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
(実施例1)
化合物(I-1-a) 40%
【0041】
【化6】


化合物(I-1-b) 40%
【0042】
【化7】


化合物(II-a) 20%
【0043】
【化8】


からなる本発明の組成物(A)を調製した。本発明の組成物は、一度、等方性液体相まで加熱してから冷却すると、72℃でネマチック相に相転移し、51℃でスメクチックA相に相転移した。このスメクチックA相は室温においても保たれた。組成物(A)99%に光重合開始剤イルガキュアー651(チバスペシャリティケミカルズ製)1%添加して、組成物(A’)を調製した。」

(1h)
「【0047】
(実施例3)
実施例1で調製した組成物(A’)を濃度が30%となるようにキシレンに溶解させた。ラビングしたポリイミド配向膜付きガラス基板(2×3センチ角)に、組成物(A’)キシレン溶液を滴下してスピンコーター(3000回転/分で30秒回転)で塗布した。塗布厚は約1μmであった。塗布後、60℃に加熱した後、室温まで冷却することにより、ガラス基板上に塗布された組成物(A’)がスメクチックA相を呈する状態にした。この状態で、高圧水銀ランプを光源とする40mW/cm^(2)の強度の紫外線を2分間照射すると、組成物(A’)は硬化してポリマー化した。ポリマー中にはスメクチックA相の構造が固定化されているのが顕微鏡で確認できた。また均一性も優れていた。
実施例3の重合性液晶組成物は空気中で光重合を行うことができた。」

イ.周知例1
上記周知例1には、以下の事項が記載されている。

(2a)
「請求の範囲
[1] 一対の対向する透明基板間に液晶組成物の層を挟持してなる、波長500nm以下のレーザー光を変調する液晶光変調素子であって、
前記一対の透明基板には、互いの対向面側の表面に電極およびポリイミドからなる配向膜を含み、前記配向膜と前記液晶組成物とが接しており、
前記液晶組成物が酸化防止剤を含むことを特徴とする液晶光変調素子。
・・(中略)・・
[4] 一対の対向する透明基板間に液晶組成物の層を挟持してなる、波長500nm以下のレーザー光を変調する液晶光変調素子であって、
前記一対の透明基板には、互いの対向面側の表面に電極およびポリイミドからなる配向膜を含み、前記配向膜と前記液晶組成物とが接しており、
前記液晶組成物がヒンダードフェノール系化合物を含むことを特徴とする液晶光変調素子。
[5] 一対の対向する透明基板間に液晶組成物の層を挟持してなる、波長500nm以下のレーザー光を変調する液晶光変調素子であって、
前記一対の透明基板には、互いの対向面側の表面に電極およびポリイミドからなる配向膜を含み、前記配向膜と前記液晶組成物とが接しており、
前記液晶組成物がヒンダードアミン系化合物およびヒンダードフェノール系化合物を含むことを特徴とする液晶光変調素子。
・・(中略)・・
[9] 前記ヒンダードフェノール系化合物の量が前記液晶組成物の全体量に対して0.01?5質量%である、請求項4、5、6のいずれかに記載の液晶光変調素子」
(22頁「請求の範囲」)

(2b)
「発明の効果
[0020] 本発明によれば、青色レーザー光を変調する液晶光変調素子において、液晶の配向状態の変化を抑制でき、光変調特性を良好に維持できる。」
(4頁「発明の効果」)

(2c)
「[0050] 本発明における液晶組成物は酸化防止剤を含む。本発明における酸化防止剤とは、ラジカル反応において、(1)連鎖開始反応の禁止、(2)連鎖成長反応の禁止、および(3)過酸化物の分解、のいずれかに有効な化合物であれば特に限定されない。このような酸化防止剤としては、ヒンダードアミン系化合物およびヒンダードフェノール系化合物が好ましい。これらは単独で用いてもよく、それぞれ2種以上を併用してもよい。また、ヒンダードアミン系化合物とヒンダードフェノール系化合物とを併用してもよい。」
(11頁)

(2d)
「[0060] 本発明におけるヒンダードフェノール系化合物としては、フェノール性水酸基の2位および6位の少なくともいずれか1箇所に置換基を有する化合物であることが好ましい。置換基としては、メチル基またはt-ブチル基が好ましい。ヒンダードフェノール系化合物としては、モノフェノール類、ビスフェノール類、およびポリフェノール類のいずれであってもよく、フェノール系酸化防止剤として市販されている化合物から適宜選択して使用することができる。
[0061] ヒンダードフェノール系化合物としては、たとえば以下に示す化合物が挙げられる。
[0062][化9]


[0063] 本発明において、ヒンダードアミン系化合物およびヒンダードフェノール系化合物等の酸化防止剤は液晶組成物に添加して用いられ、液晶組成物のほか、ポリイミド配向膜に添加しても差し支えない。また、ヒンダードアミン系化合物およびヒンダードフェノール系化合物は、それぞれ、1種を用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。
・・(中略)・・
[0065] ヒンダードフェノール系化合物の量は、その量が少ないと光変調素子の特性劣化を防止する効果が小さく、該量が多いと液晶組成物の示す液晶温度範囲が狭くなるため、液晶組成物に対して0.01?5質量%が好ましく、0.1?2質量%が特に好ましい。」
(13頁?14頁)

ウ.周知例2
上記周知例2には、以下の事項が記載されている。

(3a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 一般式(I)・・(中略)・・の化合物群から1種もしくは2種以上の化合物を少なくとも質量5%含有し、さらに以下に記載する酸化防止剤の少なくとも1種を0.0001?5質量%含有する液晶組成物。
酸化防止剤1 下記一般式(VI)と(VII)の構造を部分構造として有するフェノール系酸化防止剤。
【化2】


(式中t-Bu-は(CH_(3))_(3)C-を表す。)
酸化防止剤2 一般式(VIII)、一般式(IX)の部分構造を持ったイオウ系酸化防止剤
【化3】(式は省略)
(式中、R7はアルキル基を表す。)
【化4】(式は省略)
(式中、R8はアルキル基を表す。)
酸化防止剤3 一般式(X)から一般式(XIV)で表されるホスファイト系もしくはホスフォナイト系酸化防止剤。
【化5】(式は省略)
(式中、R9は置換されていてもよいアルキル基又はアリール基を表す。)
【化6】(式は省略)
(式中、R10は置換されていてもよいアルキル基又はアリール基を表わす。)
【化7】(式は省略)
(式中R11、R12及びR13は、各々独立に、水素原子又は炭素原子数1?8のアルキル基を表し、R14はフッ素原子又はアルキル基を表し、X10は単結合、酸素原子又は窒素原子を表す。)
【化8】(式は省略)
(式中、R15及びR16は、各々独立に、水素原子又はアルキル基を表す。)
【化9】(式は省略)
(式中、R17は水素原子又はアルキル基を表す。)
酸化防止剤4 一般式(XV)の部分構造を有するヒンダードアミン系酸化防止剤。
【化10】(式は省略)
(式中、R18はアルキル基を表す。)
酸化防止剤5 一般式(XVI)の部分構造を有するトリアゾール系酸化防止剤。
【化11】(式は省略)
・・(中略)・・
【請求項8】 一般式(VI)及び/もしくは一般式(VII)の部分構造を有するフェノール系酸化防止剤を含有することを特徴とする請求項1?7の何れかに記載の液晶組成物。
・・(中略)・・
【請求項13】 酸化防止剤の分子量が400以上であることを特徴とする請求項1?12の何れかに記載の液晶組成物。
・・(中略)・・
【請求項16】 150℃で1時間加熱後、80℃におけるフレームタイム200msの電圧保持率(VHR)が88%以上であるところの請求項1?15の何れかに記載の液晶組成物。
・・(後略)」

(3b)
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、低温安定性に優れ、広いネマティック温度範囲を有しまたその加熱安定性に優れた液晶組成物を提供し、これを用いた、高温度での高い電圧保持率、低い閾値電圧、適切な誘電率異方性、屈折率異方性を有し、使用温度範囲が広く、高速応答性に優れ、これらの諸特性の経時変化の少ない液晶表示素子を提供する、若しくは従来より上記の欠点を改善した液晶組成物及び液晶表示素子(TN、STN、AM-LCD)を提供することにある。」

(3c)
「【0040】上述した酸化防止剤の中でも特に一般式(VI)、一般式(VII)で表されるヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、さらに酸化防止剤の分子量が400以上であれば液晶素子の製造プロセスにおける加熱、脱気過程において酸化防止剤の揮発がなく安定した組成を維持できるため最も好ましい。ただし、酸化防止剤の分子量があまりに大きくなりすぎると液晶組成物への相溶性が低下するので、分子量2000以下が好ましい。また、酸化防止剤分子中の一般式(VI)、一般式(VII)で表されるヒンダードフェノール部位の割合が多いほど酸化防止効果が高まるので、その他の特性を損なわない範囲内でこの割合を増やすことが好ましい。酸化防止剤の分子量600当たりヒンダードフェノール部位が一つ以上存在することが好ましい。具体例としては、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、・・(中略)・・1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9’-ビス[2-{3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5・5]ウンデカン・・(中略)・・等が挙げられる。また、これら酸化防止剤の添加量は、0.0001?5%であるが、添加量が少なすぎると加熱時の特性が悪化し、添加量が多すぎると液晶表示素子としての諸特性に影響が出ることから、0.0005%?1%が好ましく、0.001%?0.5%がより好ましく、0.01%?0.1%が特に好ましい。」

(3d)
「【0052】(実施例4)実施例1と同様にして液晶組成物(A)を調製し、これに酸化防止剤として式(VI-2)に示すペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
【化47】(式は省略)
を0.2%添加し液晶組成物を調整した。」

エ.周知例3
上記周知例3には、以下の事項が記載されている。

(4a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】下記一般式(1)
【化1】(式及びその説明は省略)
で示される化合物又はそれらを少なくとも1種含む組成物と、酸化防止剤を少なくとも1種及び/又は光安定剤を少なくとも1種を混合することを特徴とする液晶材料の安定化方法。
【請求項2】酸化防止剤及び/又は光安定剤の含有率が0.001?5重量%である請求項1記載の方法。
【請求項3】酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤、、ホスファイト系酸化防止剤、ホスフォイト系酸化防止剤又はイオウ系酸化防止剤である請求項1記載の方法。
・・(中略)・・
【請求項5】請求項1乃至4記載の方法により安定化された液晶材料。
【請求項6】請求項5記載の液晶材料を一対の電極板間に挟持してなる液晶素子。」

(4b)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、TN(捩れネマティック)型液晶素子、STN(超捩れネマティック)型液晶素子、FLCD(強誘電性液晶ディスプレイ)、PDLC(ポリマー分散型液晶)型液晶素子に代表される表示素子に用いられる液晶材料の安定化法、及び該安定化法を用いることにより、安定化された液晶材料並びにこれらの液晶材料を用いた液晶素子に関する。
【0002】
【従来の技術】・・(中略)・・また、液晶組成物は有機化合物から構成されている。これが精密な電気製品に組み込まれていることは液晶組成物に次のことを要求する。液晶組成物は、液晶ディスプレイの製造工程の苛酷な条件に耐え得ることが出来る安定性を有し、また、製造された液晶ディスプレイが長期にわたってその優れた性能を安定に示すためには、液晶組成物もその使用期間に於て物性が変化しない長期安定性を有することが必要である。即ち、液晶組成物は、液晶ディスプレイの製造工程にある100℃以上の熱に数時間耐えなければならず、さらに数千時間から数万時間に及ぶ使用期間にわたって安定である必要がある。この条件は、有機化合物である液晶組成物にとって非常に苛酷であり、優れた特性を有していてもこの安定性の条件を満足できないために、実際に液晶ディスプレイに使用することの出来る液晶化合物は限られたものになっている。・・(中略)・・
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、液晶表示素子の高性能化に伴う各種の液晶化合物又はそれらの混合物の安定化法については、これ迄に有効な方法は見い出されていない。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、屈折率異方性に優れた液晶材料に適した液晶化合物又はそれらの混合物の安定化法について鋭意検討した結果、酸化防止剤及び/又は光安定剤が有効であることを見い出し、本発明を完成するに至った。・・(後略)」

(4c)
「【0017】本発明においてフェノール系酸化防止剤としては、・・(中略)・・好ましい具体例としては、・・(中略)・・3,9’-ビス[2-{3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5・5]ウンデカン、・・(中略)・・テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、・・(中略)・・1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-トリメチルベンゼン等が挙げられる。」

(4d)
「【0042】
【実施例】次に本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例1? は、液晶化合物に、酸化防止剤を2重量%添加し、空気中、暗所で耐熱試験(150℃、2時間)を行った後、液体クロマトグラフィー(カラムSUMIPAX QSDA-212 6mmπX15cm,254nm,MeCNelution)を用いて化合物の純度を定量した。
【0043】実施例1
4-(4-ペンチルシクロヘキシル)ベンズニトリル(5PCH)50mgに、フェノール系酸化防止剤であるテトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンを2重量%添加し、空気中、暗所で耐熱試験(150℃、2時間)を行い、液体クロマトグラフィーによって回収率を求めた。比較として酸化防止剤を添加せずに同様の試験を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】




オ.周知例4
上記周知例4には、以下の事項が記載されている。

(5a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 式
【化1】(式は省略)
により表されるペンタエリスリトールエステル化合物。
・・(中略)・・
【請求項3】 請求項1のペンタエリスリトールエステル化合物と式
【化2】


により表される化合物および(または)式
【化3】(式は省略)
により表される化合物を含有することを特徴とする有機材料組成物。」

(5b)
「【0002】
【従来の技術】天然高分子、合成高分子、油脂、潤滑油等有機材料は酸化を受けて有用性を減じるので、種々の酸化防止剤が工夫されて、これら有機材料中に添加されている。特に、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂は、熱、光、酸素等の影響により、次第に劣化し着色や変色、亀裂の発生、強度の低下等の現象を起こし、そのもののもつ特性、機能を失ってくることは周知の事実である。このような劣化を防止するために、これまで数多くの酸化防止剤が単独あるいは種々組み合わせることにより用いられてきた。なかでも、フェノール系酸化防止剤は、効力が低下しにくく、さらに着色しにくいという点で一般的に使用されているものであるが、成型加工品の耐熱寿命の延長または加工時の熱安定性の向上、着色防止等の目的から、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤または他のフェノール系酸化防止剤を併用し、問題解決に当たっているのが現状である。フェノール系酸化防止剤のうち、テトラキス〔3-(3,5-ジ第3級ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル〕メタン、n-オクタデシル3-(3,5-ジ第3級ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ第3級ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5-ジ第3級ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、トリス〔β-(3,5-ジ第3級ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕イソシアヌレート等の高分子量化合物は熱に対して揮散が少なく、高温で長期有効な耐熱性酸化防止剤として有効であり、広く使用されているが、いずれも単独では加工時、特に初期加工時の安定性が悪いと言われている。したがって、ポリプロピレンやポリエチレン等は上記高分子量酸化防止剤に低分子量フェノール化合物である2,6-ジ第3級ブチル-4-メチルフェノールやリン系酸化防止剤のトリス(2,4-ジ第3級ブチルフェニル)ホスファイト等を併用して、加工時および使用時の熱安定性を保持しているのが現状である(特開昭51-109050号公報等)。」

カ.周知例5
上記周知例5には、以下の事項が記載されている。

(6a)
「プラスチックの劣化は熱,光,機械的せん断力,金属イオン等と酸素との作用により生ずる酸化劣化であり,その劣化機構は生成したラジカルが空気中の酸素と関与して連鎖的に進行する自動酸化機構で理解できる。いずれのプラスチックの酸化劣化防止においても重要なのは,劣化の初期段階でラジカル連鎖反応を停止し,自動酸化を停止することである。そのために自動酸化のスキームに関与する要因を,一つ,望ましくは複数個,除去することが必要。すなわちラジカルの発生の抑制,ラジカル捕捉,ヒドロペルオキシドのイオン的な分解などの自動酸化サイクルの各工程で,連鎖を停止する酸化防止剤を組み合わせて配合することが望ましい。
・・(中略)・・
フェノール系酸化防止剤は加工時の安定化,耐熱寿命向上効果に優れ,ほとんどのプラスチックに0.05%?0.5%程度配合される。近年,成形効率向上に伴う高温加工や用途の拡大により,フェノール系酸化防止剤は揮散性の少ない高分子量型の使用率が高まっている。」
(91頁3行?17行)

(6b)
「◆(5)3,9-ビス[2-{3-(3-第三ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2,4-8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン・・(中略)・・
〔作用〕無着色性の耐蒸散性にすぐれた酸化防止剤で,ポリオレフィン,スチレン系樹脂,ポリウレタン弾性繊維,エンジニアリングプラスチック等に用いられる。・・(後略)」
(93頁8行?18行)

(6c)
「◆(8)テトラキス-〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-第三-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン・・(中略)・・
〔作用〕ポリオレフィンの長期にわたる老化抑制,工程安定化に卓効を有し,特に耐抽出性が要求される場合や,高温で使用される製品に適する。さらに,塩ビ樹脂,ポリウレタン,ポリスチレン,ポリアセタール,合成ゴム,接着剤にも好結果を期待できる。無着色性で,イオン系二次酸化防止剤との併用で相乗効果が得られる。」
(94頁9行?24行)

(6d)
「◆(10)1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-第三-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン・・(中略)・・
〔作用〕高耐熱性で,耐抽出性,特に熱水抽出にすぐれた高分子量ヒンダード・フェノールで,ポリエチレン,ポリプロピレン,合成ゴムのほか,改質スチレンモノマーなどに使用される。高温加工時および屋外ばくろ時における酸化劣化からの保護効果が大きい。FDA合格,JHPL-PL。」
(94頁35行?95頁15行)

(2)引用例に記載された発明
上記引用例には、一般式(I)
【化1】


(式中、W^(1)及びW^(2)はそれぞれ独立的に単結合、-O-、-COO-又は-OCO-を表し、Y^(1)及びY^(2)はそれぞれ独立的に-COO-又は-OCO-を表し、p及びqはそれぞれ独立的に2?18の整数を表し、式中に存在する3種の1,4-フェニレン基の水素原子はそれぞれ独立的に、炭素原子数1?7のアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、シアノ基又はハロゲン原子で一つ以上置換されていても良い。)で表される2官能液晶性アクリレート化合物を50から95%含有する重合性液晶組成物が記載されており(摘示(1a)【請求項1】参照)、当該組成物を、偏光フィルムや配向膜の原料、又は印刷インキ及び塗料、保護膜等の用途に利用する場合に、その目的に応じて抗酸化剤等を添加することもできることも記載されている(摘示(1f)【0029】参照)。
してみると、上記引用例には、
「一般式(I)
【化1】


(式中、W^(1)及びW^(2)はそれぞれ独立的に単結合、-O-、-COO-又は-OCO-を表し、Y^(1)及びY^(2)はそれぞれ独立的に-COO-又は-OCO-を表し、p及びqはそれぞれ独立的に2?18の整数を表し、式中に存在する3種の1,4-フェニレン基の水素原子はそれぞれ独立的に、炭素原子数1?7のアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、シアノ基又はハロゲン原子で一つ以上置換されていても良い。)で表される2官能液晶性アクリレート化合物及び抗酸化剤を含有する重合性液晶組成物」
に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものといえる。

(3)検討

ア.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「一般式(I)・・で表される2官能液晶性アクリレート化合物」は、本願発明の「一般式(II)・・で表される重合性液晶化合物」における「m=1」の場合に相当する。
また、本願発明における「式(I-1)、(I-3)又は(I-5)・・で表される酸化防止剤を0.1?1質量%含有し、一般式(II)・・で表される重合性液晶化合物からなる重合性液晶組成物を含有する重合性液晶組成物」は、上記1.(2)で説示したとおり、一般式(II)で表されるもの以外の重合性液晶化合物などの他の成分を包含する態様を除外するものではないが、当該他の成分の含否を問わず、「一般式(II)・・で表される重合性液晶化合物」を含有することが明らかであるから、引用発明の「2官能液晶性アクリレート化合物・・を含有する重合性液晶組成物」は、本願発明における「一般式(II)・・で表される重合性液晶化合物・・を含有する重合性液晶組成物」に相当するものといえる。
してみると、両者は、
「一般式(II)
【化2】


(式中、mは1を表し、W^(1)及びW^(2)はそれぞれ独立的に単結合、-O-、-COO-又は-OCO-を表し、Y^(1)及びY^(2)はそれぞれ独立的に-COO-又は-OCO-を表し、r及びsはそれぞれ独立的に2?18の整数を表すが、式中に存在する1,4-フェニレン基は炭素原子数1?7のアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、シアノ基、又はハロゲン原子で一つ以上置換されていても良い。)で表される重合性液晶化合物を含有する重合性液晶組成物」
の点で一致し、以下の点で一応相違している。

相違点:本願発明では、「式(I-1)、(I-3)又は(I-5)・・(式省略)・・で表される酸化防止剤を0.1?1質量%含有し」ているのに対して、引用発明では、「抗酸化剤」を含有する点

イ.相違点に係る検討
上記相違点につき検討すると、本願発明でいう「酸化防止剤」と引用発明1-1でいう「抗酸化剤」とは、実質的に同義であることが当業者に自明である。
そして、上記周知例1ないし3にもそれぞれ記載されている(摘示(2d)[0065]、摘示(3c)及び摘示(4a)【請求項2】をそれぞれ参照)とおり、液晶組成物において、加熱された場合における光学特性の変化を低減化し安定性を付与するために、式(I-1)又は(I-3)などのフェノール系酸化防止剤を、安定性を付与し液晶素子の光学特性を悪化させない量である0.01?5重量%程度の量比、特にその範囲の中でも低減化された量比で添加使用することは、当業者の周知技術である。
また、上記周知例4及び5にもそれぞれ記載されている(摘示(5b)、摘示(6b)、摘示(6c)及び摘示(6d)参照)とおり、重合体(プラスチック)などの合成高分子において、高耐熱性などを付与することにより、特に高温となるような加熱を行う場合の合成高分子の劣化を防止するための酸化防止剤として、上記式(I-1)、(I-3)又は(I-5)で表される化合物は、いずれも当業者に周知のものであって、更にその使用量比についても、上記周知例5に記載されている(摘示(6a)参照)とおり、0.05%?0.5%であることが当業者に周知である。
してみると、上記引用発明における抗酸化剤として、高度の耐熱性を付与し、光学異方体の光学特性の変化を低減化するために、上記当業者の周知技術に基づき、上記式(I-1)、(I-3)又は(I-5)で表される化合物を0.1?1質量%の量比で使用することは、当業者が適宜なし得ることである。

ウ.本願発明の効果について
本願発明の効果につき、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき検討すると、一応、酸化防止剤を使用しなかった場合(比較例1)又は低分子量の酸化防止剤を使用した場合(比較例2)に比して、本願発明の場合に位相差減少率が低減化できるという効果を奏しているものとは認められるところ、他の比較的高分子量の酸化防止剤(式(I-2)の化合物又は式(I-4)の化合物など)を使用した場合に比して、特段の効果を奏しているものとは認めることができない。
そして、上記イ.で示したとおり、上記式(I-1)、(I-3)又は(I-5)で表される化合物は、高耐熱性などを付与することにより、特に高温となるような加熱を行う場合の合成高分子の劣化を防止するための酸化防止剤として、いずれも当業者に周知のものなのであるから、当該酸化防止剤を適量添加使用した場合に、200℃以上等の高温下における光学異方体の光学特性の変化の低減化が図られるであろうことは、当業者が予期し得ることであって、本願発明が当業者が予期し得ない程度の特段の効果を奏しているものと認めることはできない。

エ.小括
したがって、本願発明は、引用発明及び当業者の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)請求人の主張
請求人は、平成26年5月19日付け意見書において、上記「理由2」につき、
(a)「本願請求項1記載の発明は、式(I-1)、(I-3)又は(I-5)で表される酸化防止剤を0.1?1質量%含有する重合性液晶組成物であるところ、引用例1及び2記載の発明には、式(I-1)、(I-3)又は(I-5)で表される酸化防止剤を使用することも、含有量として0.1?1質量%にて使用することも記載されていない点で相違します。また、一般式(II)で表される重合性液晶化合物からなる重合性液晶組成物ではない点でも相違します。」(意見書「(3-8)本願請求項1記載の発明と引用例1?2記載の発明の対比」の欄)
と主張し、更に、
(b)「酸化防止剤は、その含有量が多ければ効果が高まりますが、光学異方体とした場合にその光学特性に悪影響を及ぼします。このようななか、本願請求項1記載の発明は、一般式(II)で表される重合性液晶化合物からなる重合性液晶組成物と組み合わせることで、式(I-1)、(I-3)又は(I-5)で表される酸化防止剤の含有量を0.1?1質量%と少なくすることができ、光学異方体とした場合の光学特性の悪化を抑制しつつ、位相差変化の少なくすることができるものであり、これは本願が有する有利な効果であると思量します。」(「(3-9)本願請求項1記載の発明が有する有利な効果」の欄)
とも主張している。
そこで、上記(a)及び(b)の各主張につき検討する。

ア.上記(a)の主張について
上記(a)の主張につき検討すると、上記(a)の主張のうち、「式(I-1)、(I-3)又は(I-5)で表される酸化防止剤を使用することも、含有量として0.1?1質量%にて使用することも記載されていない」との前段部については、上記(3)で説示したとおり、相違点として検討しているものであり、当業者の周知技術に基づいて適宜なし得るものと認められる事項である。
また、上記(a)の主張のうち、「一般式(II)で表される重合性液晶化合物からなる重合性液晶組成物ではない」との後段部については、上記1.(2)で説示したとおり、本願発明に係る「重合性液晶組成物」が、本願明細書及び特許請求の範囲請求項1の記載からみて、他の重合性液晶化合物を含有する態様をも包含することが文脈上明らかなのであるから、当該主張は、本願明細書及び特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
してみると、請求人の上記(a)の主張は、いずれも当を得ないものである。

イ.上記(b)の主張について
上記(b)の主張につき検討すると、酸化防止剤の種別については、上記(3)ウ.で説示したとおり、本願明細書の実施例及び参考例又は比較例の結果からみて、式(I-1)、(I-3)又は(I-5)で表される酸化防止剤を選択したことに基づいて、本願発明の効果につき格別顕著なものと客観的に認識することはできない。
また、酸化防止剤の使用量につき本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、「該酸化防止剤は、重合性液晶組成物中に0.1?5質量%含有することが好ましく、さらには0.2?2質量%含有することが好ましく、0.3?1質量%含有することが特に好ましい。」(【0009】)とは記載されているものの、「一般式(II)で表される重合性液晶化合物からなる重合性液晶組成物と組み合わせることで、式(I-1)、(I-3)又は(I-5)で表される酸化防止剤の含有量を0.1?1質量%と少なくすることができ」た、との因果関係を客観的に認識することができる記載はなく、当該因果関係が、当業者の技術常識に照らして、当業者に自明であるともいえない。
なお、請求人は、平成25年10月31日付け回答書において、重合性液晶組成物として他のもの及び式(I-1)、(I-3)又は(I-5)で表される酸化防止剤を併用した実験例(追加比較例2ないし4)を提示し、加熱後の位相差減少率が大きいとの結果を提示してはいる。
しかるに、当該実験例は、単官能の重合性液晶化合物を含有することなどの点で、本願発明における「一般式(II)で表される重合性液晶化合物からなる重合性液晶組成物」と大きく異なる重合性液晶組成物を使用した場合に係るものであるから、本願発明に係る「一般式(II)で表される重合性液晶化合物からなる重合性液晶組成物と式(I-1)、(I-3)又は(I-5)で表される酸化防止剤とを組み合わせること」による固有の効果を実施例の結果との対比で認識することはできず、「一般式(II)で表される重合性液晶化合物からなる重合性液晶組成物」を使用したことにより、酸化防止剤の使用量を低減化できたことを認識することができるものではない。
してみると、上記(b)の主張は、いずれも当を得ないものである。

ウ.小括
以上のとおりであるから、請求人の上記意見書における主張は、いずれも当を得ないものであり、採用することができず、当審の上記(3)における検討の結果を左右するものではない。

(5)理由2のまとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び当業者の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

III.当審の判断のまとめ
以上の検討をまとめると、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしているものではないから、同法第49条第4号の規定に該当するとともに、本願の請求項1に係る発明につき特許法第29条第2項の規定により特許をすることができるものではないから、他の請求項に係る発明につき検討するまでもなく、本願は、同法第49条第2号の規定に該当する。

第4 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第49条第2号又は同法同条第4号の規定に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-30 
結審通知日 2015-02-03 
審決日 2015-02-16 
出願番号 特願2006-90761(P2006-90761)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09K)
P 1 8・ 537- WZ (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 宏樹江間 正起  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 橋本 栄和
日比野 隆治
発明の名称 重合性液晶組成物  
代理人 河野 通洋  

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