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審決分類 審判 判定 権利でないもの 属さない(申立て不成立) C03C
管理番号 1299383
判定請求番号 判定2015-600005  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2015-05-29 
種別 判定 
判定請求日 2015-02-04 
確定日 2015-03-26 
事件の表示 特許第4141739号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号物件説明書及び図面に示す「非球面マイクロレンズアレイ」は、特許第4141739号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、イ号物件説明書及び図面に示す非球面マイクロレンズアレイ(以下、「イ号物件」という。)は、特許第4141739号発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。
なお、本件判定請求は、本件請求人が実施するイ号物件は本件請求人が特許権者である特許第4141739号発明の技術的範囲に属するとの判定を求めるものであって、被請求人が存在しない。

第2 本件特許発明
特許第4141739号の特許請求の範囲には、請求項1及び2が記載されているところ、請求人は請求の趣旨においていずれの請求項に係る発明を対象として判定を求めるものか明示していないが、判定請求書「(3)本件特許発明の説明」において、「本件特許発明の「精密プレス成形用光学ガラス」は、特許明細書、図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下に示すとおりのものである。」と記載していることから、判定の対象とすべき本件特許発明は、特許第4141739号の請求項1に係る発明(以下、「特許発明」という。)とするのが請求人の意思であると認める。
そして、特許発明は以下のとおりのものである。

【特許発明】
「SiO_(2) 0.5?5重量%、B_(2)O_(3) 16?22重量%、La_(2)O_(3) 13?30重量%、Gd_(2)O_(3) 6?20重量%、ただしLa_(2)O_(3)とGd_(2)O_(3) の合計量が23?40重量%、Ta_(2)O_(5) 3?15重量%、Li_(2)O 0.5?4重量%、ZnO14?32重量%、ZrO_(2) 0?6重量%、WO_(3) 5.5?12重量%、Nb_(2)O_(5) 0?6重量%の組成からなり、屈折率(Nd)が1.78?1.82、アッベ数(νd)が40.0?42.0である高屈折率低分散の精密プレス成形用光学ガラス。」

そして、特許発明の特許明細書【0021】に「本発明によれば・・・精密プレス成形が可能な・・・精密プレス成形用光学ガラスを提供することができる。」と記載されることから、特許発明は「精密プレス成形」して製品を製造するための「精密プレス成形用光学ガラス」を提供するという目的を有するものである。

第3 イ号物件
イ号物件の構成は、判定請求書、同書に添付されたイ号物件説明書及び図面に基づき、次のとおりのものと特定する。

【イ号物件】
「SiO_(2) 2重量%、B_(2)O_(3) 20重量%、La_(2)O_(3) 26重量%、Gd_(2)O_(3) 9重量%、La_(2)O_(3)とGd_(2)O_(3) の合計量が35重量%、Ta_(2)O_(5) 8重量%、Li_(2)O 2重量%、ZnO 20重量%、ZrO_(2) 4重量%、WO_(3) 7重量%、Nb_(2)O_(5) 2重量%の組成からなり、屈折率(Nd)が1.807、アッベ数(νd)が41.0である非球面マイクロレンズアレイ。」

第4 対比・判断
特許発明とイ号物件とを対比する。
ここで、イ号物件の「非球面マイクロレンズアレイ」が上記組成のガラスでなることは明らかだから、以下、イ号物件における「ガラス」と記した場合には、上記組成のガラスを意味することとする。

(1)イ号物件における「ガラス」と、特許発明の「精密プレス成形用光学ガラス」の組成、屈折率及びアッベ数とを比較すると、以下のようになる。



上記のように、イ号物件における「ガラス」の組成、屈折率及びアッベ数は、特許発明の「精密プレス成形用光学ガラス」の組成、屈折率及びアッベ数に含まれるから、イ号物件における「ガラス」の組成、屈折率及びアッベ数の構成は、特許発明の「精密プレス成形用光学ガラス」の組成、屈折率及びアッベ数の構成要件を充足する。

(2)次に、イ号物件の「非球面マイクロレンズアレイ」は、特許発明の「精密プレス成形用光学ガラス」という構成要件を充足するかについて検討する。
特許発明の特許明細書【0021】には「本発明によれば・・・低温度で精密プレス成形が可能な量産性の優れた高屈折低分散の精密プレス成形用光学ガラスを提供することができる。」と記載されていることから、特許発明の「精密プレス成形用光学ガラス」は、「精密プレス成形」が可能な「光学ガラス」という材料であるということができ、その「光学ガラス」という材料は、「精密プレス成形」を行う前のガラスを意味するのであって、「精密プレス成形」を行った後の「成形品」を含むものとはいえない。
そして、イ号物件は、上記の【イ号物件】の特定事項からみて、「ガラス」を「モールドプレス成形」した後の「非球面マイクロレンズアレイ」という成形品であり、「ガラス」という材料ではない。
ここで、イ号物件の「非球面マイクロレンズアレイ」をプリフォームに再成形してプレス成形して別のアレイとすることも考えられる。
しかしながら、「精密プレス成形用光学ガラス」とは、該ガラスを溶融してプリフォームを成形し、プリフォームに対して、ガラスを溶融する温度よりも低く、軟化点付近の温度に加熱して、所望の形状となるまで成形型内で圧力を加えてプレス成形することで、所望の形状のガラス製品を製造するために用いられるガラスであることは、技術常識である。(例えば特開2002-249337号公報【0013】【0015】【0040】【0042】等を参照。)
なお、イ号物件説明書にも、イ号物件における「ガラス」を「白金坩堝」を用いて溶融してインゴットを成形後、切断、研磨して「プレス用のプリフォームを作製し、プリフォームを金型内に充填し、真空雰囲気にて、ガラスの軟化点付近まで加熱、レンズ形状が形成されるまで圧力を印加してモールドプレス成形を行い室温まで徐冷を行う。」という同様の記載がある。
ところで、別のアレイを製造するためには、プリフォームの重量を目的のアレイに合わせるために、別のアレイの重量に応じて、複数の「非球面マイクロレンズアレイ」を溶融して重量を調整し、または一つの「非球面マイクロレンズアレイ」を溶融して重量を調整する必要がある。
そして、「非球面マイクロレンズアレイ」を、その溶融する温度よりも低く、軟化点以上の温度に加熱して所定の形状にプレス成形する程度のことは可能だとしても、ガラスを再溶融して冷却すると、結晶化が起きたり、失透して、品質が低下することは技術常識であるから、該「非球面マイクロレンズアレイ」を、「精密プレス成形用光学ガラス」として用いて、溶融する温度まで加熱することで再溶融して、さらにプリフォームを成形することは通常は行われるものではない。
したがって、イ号物件の「非球面マイクロレンズアレイ」をプリフォームに再成形して「精密プレス成形用光学ガラス」として用いることは想定されることではない。
よって、イ号物件の「非球面マイクロレンズアレイ」は特許発明の「精密プレス成形用光学ガラス」の構成要件を充足しない。

(3)また、イ号物件の「非球面マイクロレンズアレイ」は、特許発明の「精密プレス成形用光学ガラス」の均等物といえるかについて、均等論の適用を考察する。
「ボールスプライン事件」(平成6年(オ)第1083号 平成10年2月24日 最高裁第三小法廷判決)で判示された均等成立の要件は以下のとおりである。

<均等成立の要件>
特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、
(要件1)右部分が特許発明の本質的部分ではなく、
(要件2)右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
(要件3)右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、
(要件4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、
(要件5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、
右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。

<均等論の適用>
上記均等成立の要件に照らして、イ号物件の「非球面マイクロレンズアレイ」が特許発明の「精密プレス成形用光学ガラス」の構成要件と均等なものといえるか検討すると、次のとおり要件2を満たさないので、他の要件について検討するまでもなく、イ号物件は特許発明と均等なものとはいえず、特許発明の技術的範囲に属するとはいえない。

(要件2について)特許発明の「精密プレス成形用光学ガラス」は「光学ガラス」という材料であり、イ号物件の「非球面マイクロレンズアレイ」は通常はガラスをモールドプレス成形して製造された成形品であり、両者は材料と成形品という点で差違があり、「精密プレス成形用光学ガラス」という材料を「非球面マイクロレンズアレイ」という成形品で置き換えても、「非球面マイクロレンズアレイ」が材料として「精密プレス成形」され得るものではない。
また、上記(2)でみたように、「非球面マイクロレンズアレイ」という成形品を溶融して「光学ガラス」という材料に戻して再度「モールドプレス成形」に用いるということは通常は行われるものではない。
すると、特許発明の「精密プレス成形用光学ガラス」をイ号物件の「非球面マイクロレンズアレイ」で置き換えても、「非球面マイクロレンズアレイ」は「精密プレス成形」の材料とはならないから、「精密プレス成形」して製品を製造するための「精密プレス成形用光学ガラス」を提供するという上記「第2」でみた特許発明の目的を達することができず、同一の作用効果を奏することはできない。
よって、要件2は満たされない。

(4)請求人の主張について検討する。
請求人の主張について
請求人は、判定請求書の「(4)イ号物件の説明 (d)について」で、「イ号物件に係る「非球面マイクロレンズアレイ」は、精密プレス成形による光学部品の一形態であり、「精密プレス成形用光学ガラス」に含まれるものであると解せられる。」とし、イ号物件は特許発明の技術的範囲に属する旨主張している。

しかしながら、以下のとおり請求人の主張は採用できない。
「イ号物件説明書」の「3 イ号物件の説明」には、「非球面マイクロレンズアレイ」の製造条件の一例として、「プレス用のプリフォーム」を作製して「金型内に充填し、真空雰囲気にて、ガラスの軟化点付近まで加熱、レンズ形状が形成されるまで圧力を印加しモールドプレス成形を行い室温まで徐冷を行う。」と記載されている。
同記載から、「非球面マイクロレンズアレイ」は「プレス用のプリフォーム」である「ガラス」に対して「モールドプレス成形」を行って製造される成形品であり、「プレス用のプリフォーム」である「ガラス」という材料をいうものでないことは明らかである。
そして、上記(2)でみたように、「非球面マイクロレンズアレイ」という成形品は、材料であるガラスとして用いられるものではない。
よって、イ号物件の「非球面マイクロレンズアレイ」は、特許発明の「精密プレス成形用光学ガラス」を材料とするものだとしても、特許発明の「精密プレス成形用光学ガラス」に含まれるものと解することはできない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、イ号物件は、特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2015-03-17 
出願番号 特願2002-147779(P2002-147779)
審決分類 P 1 2・ 082- ZB (C03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 末松 佳記  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 河原 英雄
中澤 登
登録日 2008-06-20 
登録番号 特許第4141739号(P4141739)
発明の名称 精密プレス成形用光学ガラス  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 吉田 憲悟  
代理人 杉村 憲司  

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