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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1299992
審判番号 不服2014-3109  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-19 
確定日 2015-04-23 
事件の表示 特願2008- 25106「有機ELディスプレイ」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月20日出願公開、特開2009-186657〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成20年2月5日の出願であって、平成24年6月15日付けで手続補正がなされ、平成25年11月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成26年2月19日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成24年6月15日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。

「透明基材と、該透明基材上に所定のパターンで設けられた赤色着色層、緑色着色層及び青色着色層とを有し、前記赤色着色層及び前記緑色着色層が顔料色素を含み、前記青色着色層が染料色素を含む染料顔料複合型カラーフィルタと、
少なくとも赤色発光層、緑色発光層及び青色発光層を有する有機EL発光体と、を貼り合わせてなる有機ELディスプレイであって、
前記有機EL発光体が3色塗り分け方式で作製されたものであることを特徴とする有機ELディスプレイ。」(以下「本願発明」という。)

3 刊行物の記載事項
(1)本願の出願前に頒布され原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された刊行物である特開2006-127986号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が図とともに記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法、およびその有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の多様化に伴い、一般に使用されているCRT(陰極線管)に比べて消費電力が少ない平面表示素子に対するニーズが高まってきている。このような平面表示素子の一つとして、高効率・薄型・軽量・低視野角依存性等の特徴を有する有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと略記する)素子が注目されている。

・・・略・・・

【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の有機エレクトロルミネッセント素子においては、駆動電圧を低下させるためには金属のドーピング濃度を調整する必要がある。しかしながら、金属のドーピング濃度を正確に制御することは困難である。そのため、駆動電圧の低い有機EL素子を再現性良く製造することができない。
【0008】
本発明の目的は、再現性良く製造できる駆動電圧の低い有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法、およびその有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置を提供することである。【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、ホール注入電極と、光を発生する発光層と、有機材料からなる第1の電子輸送層と、金属からなる金属層と、有機材料からなる第2の電子輸送層と、電子注入電極とを順に備えたものである。
【0010】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子においては、金属層は有機材料からなる第1の電子輸送層と第2の電子輸送層との間に形成されている。この場合、金属層は外部雰囲気の影響を受けにくくなるので、金属層の酸化が防止される。それにより、駆動電圧を低く抑制しつつ有機エレクトロルミネッセンス素子の劣化を防止することができる。また、金属層の厚さを制御することにより金属の量を容易に調整することができる。これらの結果、長寿命かつ低駆動電圧の有機エレクトロルミネッセンス素子を再現性良く製造することが可能となる。」

イ 「【0073】
(第3の実施の形態)
図3は、本発明の第3の実施の形態に係る有機EL装置を示す模式的な断面図である。

・・・略・・・

【0078】
第2の層間絶縁膜17上に、赤色カラーフィルタ層CFR、緑色カラーフィルタ層CFGおよび青色カラーフィルタ層CFBがそれぞれ形成される。赤色カラーフィルタ層CFRは、赤色の波長領域の光を通過させ、緑色カラーフィルタ層CFGは、緑色の波長領域の光を通過させ、青色カラーフィルタ層CFBは、青色の波長領域の光を通過させる。

・・・略・・・

【0082】
各有機EL素子100R,100G,100Bは、図1の有機EL素子100と同様の構造を有する。有機EL素子100Rは図1の発光層4として赤色に発光する赤色発光層4Rを有し、有機EL素子100Gは図1の発光層4として緑色に発光する緑色発光層4Gを有し、有機EL素子100Bは図1の発光層4として青色に発光する青色発光層4Bを有する。なお、赤色発光層4B、緑色発光層4Gおよび青色発光層4Bとしては、第1の実施の形態において説明した材料を用いることができる。

・・・略・・・

【0090】
(第4の実施の形態)
図4は、本発明の第4の実施の形態に係る有機EL装置を示す模式的な断面図である。図4の有機EL装置は以下の点で図3の有機EL装置と構造が異なる。
【0091】
図4の有機EL装置においては、図3の有機EL装置と同様に、基板1上に積層膜11、TFT20、第1の層間絶縁膜16、第2の層間絶縁膜17、第1の平坦化層18、第2の平坦化層19および各有機EL素子100R,100G,100Bが形成される。
【0092】
その後、各有機EL素子100R,100G,100B上に、透明の接着剤層23を介してオーバーコート層22、各カラーフィルタ層CFR,CFG,CFBおよび透明の透明の封止基板21が順に積層された積層体が接着される。これにより、トップエミッション構造の有機EL装置が完成する。
【0093】
各有機EL素子100R,100G,100Bから出射された光は、各カラーフィルタ層CFR,CFG,CFBおよび透明の封止基板21を通じて外部に取り出される。
【0094】
なお、図4の有機EL装置においては、基板1は半導体基板およびフレキシブル基板等の不透明な材料により形成されてもよい。また、各有機EL素子100R,100G,100Bのホール注入電極2は、例えば、インジウム-スズ酸化物(ITO)またはインジウム-亜鉛酸化物(IZO)等の透明導電膜とクロム、銀、白金またはアルミニウム等からなる反射層とを積層することにより形成される。この場合、ホール注入電極2は、赤色発光層4R、緑色発光層4Gおよび青色発光層4Bにより発生された光を封止基板21側へ反射する。
【0095】
電子注入電極8は、例えば、インジウム-スズ酸化物(ITO)またはインジウム-亜鉛酸化物(IZO)等の透明導電膜からなる。オーバーコート層22は、例えばアクリル樹脂等からなる。封止基板21としては、例えば、ガラスおよび酸化シリコンからなる層または窒化シリコンからなる層を用いることができる。
【0096】
本実施の形態の有機EL装置においては、トップエミッション構造であることによりTFT20上の領域も画素領域として用いることができる。すなわち、図4の有機EL装置では、図3の各カラーフィルタ層CFR,CFG,CFBよりも大きいカラーフィルタ層CFR,CFG,CFBを用いることができる。それにより、より広い領域を画素領域として用いることができるので、有機EL装置の輝度が向上する。
【0097】
なお、図3および図4の有機EL装置においては、第2の平坦化層19上にホール注入電極2、ホール輸送層3、発光層(赤色発光層4R、緑色発光層4Gまたは青色発光層4B)、第一電子輸送層5、金属層6、第二電子輸送層7および電子注入電極8が順に形成されているが、第2の平坦化層19上に電子注入電極8、第二電子輸送層7、金属層6、第一電子輸送層5、発光層(赤色発光層4R、緑色発光層4Gまたは青色発光層4B)、ホール輸送層3およびホール注入電極2を順に形成してもよい。
【0098】
また、図3および図4の有機EL装置においては、各有機EL素子100R,100G,100Bから出射される光の色純度を高めるために、カラーフィルタ層CFR,CFG,CFBを設けているが、カラーフィルタ層CFR,CFG,CFBを設けなくてもよい。」

ウ 上記イでは、図4で示される「第4の実施の形態」において、有機EL素子100R,100G,100Bは、発光層を有することが明記されていないが、図4に示されている有機EL素子100R,100G,100Bを構成している各4R、4G、4Bの各層は、いずれも図3で示される「第3の実施の形態」の有機EL素子の構造と同様であり、上記イの【0082】には「有機EL素子100Rは図1の発光層4として赤色に発光する赤色発光層4Rを有し、有機EL素子100Gは図1の発光層4として緑色に発光する緑色発光層4Gを有し、有機EL素子100Bは図1の発光層4として青色に発光する青色発光層4Bを有する。」と記載されているから、「第4の実施の形態」においても、有機EL素子100Rは赤色に発光する赤色発光層4Rを有し、有機EL素子100Gは緑色に発光する緑色発光層4Gを有し、有機EL素子100Bは青色に発光する青色発光層4Bを有するものである。また、上記イからみて、「第4の実施の形態」の各カラーフィルタ層CFR,CFG,CFBは、それぞれ赤色カラーフィルタ層CFR、緑色カラーフィルタ層CFGおよび青色カラーフィルタ層CFBである。

エ 第4の実施の形態に係る有機EL装置を示す模式的な断面図である図4の記載より、透明の封止基板21に各カラーフィルタ層CFR,CFG,CFBが平面的に配置され積層されていること、及び、赤色発光層4R、緑色発光層4G及び青色発光層4Bが平面的に区分けして配置されていることが見て取れる。

オ 上記アないしエからみて、引用例1には、
「基板1上に積層膜11、TFT20、第1の層間絶縁膜16、第2の層間絶縁膜17、第1の平坦化層18、第2の平坦化層19、赤色に発光する赤色発光層4Rを有する有機EL素子100R、緑色に発光する緑色発光層4Gを有する有機EL素子100Gはおよび青色に発光する青色発光層4Bを有する有機EL素子100Bが形成され、各有機EL素子100R,100G,100B上に、透明の接着剤層23を介してオーバーコート層22、赤色カラーフィルタ層CFR、緑色カラーフィルタ層CFG、青色カラーフィルタ層CFBおよび透明の封止基板21が順に積層された積層体が接着されているトップエミッション構造の有機EL装置であって、
前記赤色発光層4R、前記緑色発光層4G及び前記青色発光層4Bは平面的に区分けして配置され、
前記赤色カラーフィルタ層CFR、前記緑色カラーフィルタ層CFGおよび前記青色カラーフィルタ層CFBは透明の封止基板21に平面的に配置され積層され、
各有機EL素子100R,100G,100Bから出射された光は、出射される光の色純度を高めるための各カラーフィルタ層CFR,CFG,CFBおよび透明の封止基板21を通じて外部に取り出される、有機EL装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)本願の出願前に頒布され原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された刊行物である特開2003-5362号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が図とともに記載されている

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子ディスプレイ並びにカラー表示用イメージセンサー等の分野で用いられるカラーフィルター製造用の着色組成物(以下単に着色レジストという)であって、青染料を着色材料として用いた透過の高い着色レジスト、及び該着色レジストを用いたカラーフィルターに関する。特に、本発明は、携帯用液晶ディスプレイに最適な高輝度型カラーフィルター製造用の着色レジストであって、青染料を着色材料として用いた透過の高い着色レジスト、及び該着色レジストを用いたカラーフィルターに関する。」

イ 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】近年、携帯電話、携帯端末等のモバイル機器の発展が著しく、小型で、高輝度で視認性がよく、長時間充電不要な省エネルギー型であることが求められている。
【0006】現在、これらのモバイル機器に備えられる液晶ディスプレイ用のカラーフィルターは、主として、顔料分散法により得られたものである。しかしながら、顔料を使用したカラーフィルターの透過を上げるために粒径をできるだけ小さくした顔料を用いても、凝集が起こりやすくなるため、十分な透過を発揮させる安定な微粒子分散を行わせることは困難である。従って、顔料分散法により得られたカラーフィルターを用いた液晶ディスプレイの視認性を良くするために、輝度の高いバックライトを組み合わせて用いることが一般に行われているが、輝度を高くしたバックライトは大きな電力を必要とし、省エネルギーにはならない。
【0007】一方、従来の染色法により得られたカラーフィルターは、染料を溶解した溶液状態では透過が高いものの、着色塗膜とした場合には、膜表面に結晶が生じ、溶液状態と同様の透過を再現することは困難である。従って、染色法によるカラーフィルターを用いた液晶ディスプレイにおいても、同様に高い輝度を有するバックライトと組み合わせることが行われている。
【0008】そこで本発明は、従来のカラーフィルターよりも高い輝度(White-Y値)を有するカラーフィルターを染料を用いて実現し、且つ、従来の水溶性染料を用いたカラーフィルターよりも耐溶剤性、耐久性を有するカラーフィルター用の青色の着色レジストを提供すること、及び該着色レジストを用いたカラーフィルターを提供することを目的とする。」

ウ 「【0014】本発明の青色レジスト組成物は、塗膜としたときにF10光源測色でy座標0.1440におけるY値15以上であるので、透過の高い青色塗膜を形成することができる。また、本発明の青色レジスト組成物による青色パターンと、他の三原色の染料又は顔料を含む赤色パターンと緑色パターンを組み合わせてなるカラーフィルターは、それらの色(Y,x,y)の重心であるホワイト-ポイントの白輝度(White-Y)の値が高いものとなる。」

エ 「【0027】
【実施例】青色レジスト組成物の調製
溶剤に高溶解性であり、高透過染料として、前記式(1)で表される化合物を用いて、図1のグラフに関して上記説明の青染料を含有する青色レジスト組成物を用い作成した膜の製造方法と全く同じ方法により青色レジスト液を調製した。
【0028】青色塗膜の形成
得られた青色レジスト液をスピンコーティングにより塗布、乾燥、100mJ/cm^(2 )の光量で露光した後、塗膜を完全に硬化させ且つ残存する溶剤を揮発させる目的で180℃、30分間ポストキュアを行って厚み約1.5μmの青色塗膜を形成した。
【0029】比較のため、汎用の青顔料(C.I.Pigment Blue15:6)分散液を作成し、同様の条件により膜厚約1.5μmの青色塗膜を作成した。
【0030】それぞれの塗膜について、分光透過率測定を行い、両塗膜の比較を行うために、色度yを一定にする(即ち、青を一定にする)シュミレーションにより色補正をかけて得た、色度(x,y)と輝度(Y)を下記の表1に示す。

・・・略・・・

【0032】表1によれば、本発明の溶剤可溶性青染料を溶解してなる青色レジスト組成物を用いて作成した青色塗膜は、顔料分散系の青色レジスト組成物を用いたものよりも輝度が2.659も上昇し、顔料分散系よりも遥かに高い輝度を示しており、即ち、本発明の青色塗膜は高透過であることが分かる。
【0033】白輝度(White-Y)の測定
前記工程で得られた高透明青染料を含有する青色塗膜と、汎用の緑顔料を用いて形成した緑色塗膜と、汎用の青顔料を用いて形成した青色塗膜について、それぞれR、G、B色再現域(三原色三角形)を求め、その重心(White-point)の白輝度(White-Y)を算出した。その結果を下記の表2に示す。また、赤色塗膜、緑色塗膜、青色塗膜についてそれぞれ汎用の赤顔料、緑顔料、青顔料を用いて形成した場合についても、前記と同様にその重心(White-point)の白輝度(White-Y)を算出し、その値を下記表2に示す。また、実施例記載の青色塗膜作製方法の、青顔料(C.I.PigmentBlue 15)の代わりに、赤顔料(C.I.Pigment Red 254)、調色緑顔料(C.I.Pigment Green 36 + C.I.Pigment Yellow 138)を用いて同様に、それぞれ赤色塗膜、緑色塗膜を形成した。前記青色塗膜と、これらの緑色塗膜、青色塗膜について三原色三角形を求めその重心(White-point)の白輝度(White-Y)を算出し、その値を下記表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】表2に示すように、高透過の溶剤可溶性青染料を用いた方が、汎用の青顔料を用いたものよりも、高い白輝度となることが分かる。なお、NTSC比は45%に統一した。ところで、NTSC比とは、National Television System Cmmmitteeで設定されたR、G、Bの三原色の色度点より形成される色再現面積に対する面積比である。」

オ 上記エの【0033】には「・・・・高透明青染料を含有する青色塗膜と、汎用の緑顔料を用いて形成した緑色塗膜と、汎用の青顔料を用いて形成した青色塗膜について、それぞれR、G、B色再現域(三原色三角形)を求め、その重心(White-point)の白輝度(White-Y)を算出した。その結果を下記の表2に示す。」と記載されているが、表2の記載からみて、赤色塗膜、緑色塗膜、青色塗膜について算出した「汎用青顔料」は、その重心(White-point)の白輝度(White-Y)が「39.6」であり、それに対して、赤色塗膜を有さないとされる「高透過青染料」の白輝度が「39.9」となっているが、両者とも白輝度は同等であり、このような白輝度は三原色のうちの「赤色」を用いないと再現することが困難であるから、前記「青顔料を用いて形成した青色塗膜」は「赤顔料を用いて形成した赤色塗膜」の誤記であると認められる。

カ 上記アないしオからみて、引用例2には、
「電子ディスプレイの分野で用いられるカラーフィルターにおいて、
従来、顔料を使用したカラーフィルターの透過を上げるために粒径をできるだけ小さくした顔料を用いても、凝集が起こりやすくなるため、十分な透過を発揮させる安定な微粒子分散を行わせることは困難であるため、顔料分散法により得られたカラーフィルターを用いた液晶ディスプレイの視認性を良くするために、輝度の高いバックライトを組み合わせて用いることが一般に行われているが、輝度を高くしたバックライトは大きな電力を必要とし、省エネルギーにはならず、一方、染色法により得られたカラーフィルターは、染料を溶解した溶液状態では透過が高いものの、着色塗膜とした場合には、膜表面に結晶が生じ、溶液状態と同様の透過を再現することは困難であるため、染色法によるカラーフィルターを用いた液晶ディスプレイにおいても、同様に高い輝度を有するバックライトと組み合わせることが行われていたため、
従来のカラーフィルターよりも高い輝度(White-Y値)を有するカラーフィルターを染料を用いて実現し、且つ、従来の水溶性染料を用いたカラーフィルターよりも耐溶剤性、耐久性を有するカラーフィルター用の青色の着色レジストを提供すること、及び該着色レジストを用いたカラーフィルターを提供することを目的として、
青染料を着色材料として用いた透過の高い着色レジスト、及び該着色レジストを用いることにより、該着色レジストによる青色パターンと、他の三原色の染料又は顔料を含む赤色パターンと緑色パターンを組み合わせ、それらの色(Y,x,y)の重心であるホワイト-ポイントの白輝度(White-Y)の値が高いものとし、従来の水溶性染料を用いたカラーフィルターよりも耐溶剤性、耐久性を有するものとしたカラーフィルターであって、
高透過青染料を含有する青色塗膜と、汎用の緑顔料を用いて形成した緑色塗膜と、汎用の赤顔料を用いて形成した赤色塗膜について、それぞれR、G、B色再現域(三原色三角形)を求め、その重心(White-point)の白輝度(White-Y)を算出するともに、赤色塗膜、緑色塗膜、青色塗膜についてそれぞれ汎用の赤顔料、緑顔料、青顔料を用いて形成した場合についても同様にその重心(White-point)の白輝度(White-Y)を算出した結果、高透過の溶剤可溶性青染料を用いた方が、汎用の青顔料を用いたものよりも、高い白輝度となること。」(以下「引用例2の記載事項」という。)が記載されているものと認められる。

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「透明の封止基板」、「赤色カラーフィルタ層」、「緑色カラーフィルタ層」、「青色カラーフィルタ層」、「赤色発光層4R」、「緑色発光層4G」、「青色発光層4B」、「有機EL素子100R,100G,100B」及び「接着」は、それぞれ、本願発明の「透明基材」、「赤色着色層」、「緑色着色層」、「青色着色層」、「赤色発光層」、「緑色発光層」、「青色発光層」、「有機EL発光体」及び「貼り合わせ」に相当する。

(2)引用発明の「有機EL装置」は、「有機EL発光体(有機EL素子100R,100G,100B)」上に、透明の接着剤層23を介してオーバーコート層22、「赤色着色層(赤色カラーフィルタ層)」、「緑色着色層(緑色カラーフィルタ層)」及び「青色着色層(青色カラーフィルタ層)」と「透明基材(透明の封止基板)」とが積層された積層体が「貼り合わせ(接着)」られているから、本願発明の「カラーフィルタ」と「有機EL発光体」とを「貼り合わせ」た「有機ELディスプレイ」に相当する。

(3)引用発明は、「赤色着色層(赤色カラーフィルタ層)」、「緑色着色層(緑色カラーフィルタ層)」及び「青色着色層(青色カラーフィルタ層)」が「透明基材(透明の封止基板)」に平面的に配置され積層されている、すなわち「赤色着色層」、「緑色着色層」及び「青色着色層」が「透明基材」表面上に所定のパターンで設けられているから、引用発明の「有機ELディスプレイ(有機EL装置)」と、本願発明の「有機ELディスプレイ」とは、「透明基材と、該透明基材上に所定のパターンで設けられた赤色着色層、緑色着色層及び青色着色層とを有するカラーフィルタ」を有する点で一致する。

(4)引用発明において、各「有機EL発光体(有機EL素子100R,100G,100B)」は、それぞれ、赤色に発光する「赤色発光層(赤色発光層4R)」、緑色に発光する「緑色発光層(緑色発光層4G)」、青色に発光する「青色発光層(青色発光層4B)」を有するのであるから、引用発明の「有機EL発光体(有機EL素子100R,100G,100B)」と、本願発明の「有機EL発光体」とは、「少なくとも赤色発光層、緑色発光層及び青色発光層を有する」点で一致する。

(5)ア 本願明細書に「【0004】 有機EL素子におけるカラー表示の方式としては、(1)青色、赤色、緑色等の各色の発光材料を成膜する3色塗り分け方式、・・・」、「【0078】 <有機EL発光体の作製>・・・ 次いで、ポジレジストからなる隔壁24を各発光層23の区分けのために形成し、引き続き、所定パターンからなる各色の発光層23(23R,23G,23B)を順に形成した後、さらに、MgAgからなる厚さ10nmの半透明な陰極25と、SiONからなる厚さ100nmの保護膜26とをその順番にベタ製膜して積層し、3色塗り分けタイプの発光層23を備えた有機EL発光体を作製した。」と記載されていることからみて、本願発明の「3色塗り分け方式で作製されたもの」である「有機EL発光体」は、実際に組成物の液体を塗布して3色の有機EL発光体が作製されたものに限られず、成膜により3色の有機EL発光体が作製されたものも含み、3色の「有機EL発光体」が平面的に区分けして配置されたものであると解される。
イ してみると、引用発明の「有機EL発光体(有機EL素子100R,100G,100B)」は、平面的に区分けして配置された「赤色発光層(赤色発光層4R)」、「緑色発光層(緑色発光層4G)」及び「青色発光層(青色発光層4B)」の3色を備えているから、本願発明の「有機EL発光体」と「3色塗り分け方式で作製されたものである」点で一致する。

(6)上記(1)ないし(5)から、本願発明と引用発明とは、
「透明基材と、該透明基材上に所定のパターンで設けられた赤色着色層、緑色着色層及び青色着色層とを有するカラーフィルタと、
少なくとも赤色発光層、緑色発光層及び青色発光層を有する有機EL発光体と、を貼り合わせてなる有機ELディスプレイであって、
前記有機EL発光体が3色塗り分け方式で作製されたものである有機ELディスプレイ。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
前記「カラーフィルタ」が、
本願発明では、「赤色着色層及び緑色着色層が顔料色素を含み、青色着色層が染料色素を含む染料顔料複合型」であるのに対して、
引用発明では、各着色層が顔料色素を含むのか染料色素を含むのか特定がなく、染料顔料複合型であるかどうかが明らかでない点。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)引用例1(上記3(1)ア参照。)に記載されているように、一般的に有機EL素子は、消費電力が少ない平面表示素子の1つとして、高効率等の特徴を有するものであり、駆動電圧が低いものが期待されているものであるところ、引用発明においても、消費電力が少なく高効率とすることは当業者に自明な課題である。

(2)引用例2の記載事項(上記3(2)オ参照。)は、電子ディスプレイの分野で用いられるカラーフィルターであって、青染料を着色材料として用いた透過の高い着色レジスト、及び該着色レジストを用いることにより、該着色レジストによる青色パターンと、他の三原色の染料又は顔料を含む赤色パターンと緑色パターンを組み合わせ、それらの色(Y,x,y)の重心であるホワイト-ポイントの白輝度(White-Y)の値が高いものとし、耐溶剤性、耐久性を有するものとしたものであり、液晶ディスプレイに用いた場合において、バックライトの輝度を高くする必要がないため、大きな電力も必要とせず、省エネルギーに寄与するものである。

(3)上記(1)のように、引用発明において、消費電力が少なく高効率とするためには、有機EL素子とカラーフィルターのいずれか又は両方を低消費電力及び高効率の仕様とすることが考えられ、実際に引用例1(上記3(1)ア参照。)では、金属層が有機材料からなる第1の電子輸送層と第2の電子輸送層との間に形成されていることにより外部雰囲気の影響を受けにくくなるので、当該金属層の酸化が防止され、それにより、駆動電圧を低く抑制しつつ有機エレクトロルミネッセンス素子の劣化を防止しており、更に高効率化しようとする場合にカラーフィルターにおける輝度等の改良を試みることは当業者であれば容易に想到することである。

(4)そして、上記(3)のように、引用発明において、カラーフィルターの輝度等の改良を試みる際に、上記(2)からみて、引用例2の記載事項に基づいて、青色着色層が染料色素を含むとともに、赤色着色層及び緑色着色層が顔料色素を含むようになすこと、すなわち、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易になし得たことである。

(5)本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び引用例2の記載事項の奏する効果から当業者が予測することができた程度のものである。

(6)したがって、本願発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-19 
結審通知日 2015-02-24 
審決日 2015-03-09 
出願番号 特願2008-25106(P2008-25106)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 本田 博幸  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 鉄 豊郎
西村 仁志
発明の名称 有機ELディスプレイ  
代理人 吉村 俊一  

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