• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1300087
審判番号 不服2014-419  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-09 
確定日 2015-04-24 
事件の表示 特願2007- 99025「非接触メンタルストレス診断システム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月23日出願公開、特開2008-253538〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年4月5日の出願であって、平成23年12月16日付けで拒絶理由が通知され、平成24年2月17日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年12月27日付けで拒絶理由が通知され、平成25年3月7日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年10月3日付けで拒絶査定がなされたのに対し、平成26年1月9日に拒絶査定不服審判が請求され、それと同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年1月9日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年1月9日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(下線は補正箇所を示す。)。

「被検体にマイクロ波を放射するマイクロ波放射手段と、
前記被検体からの反射波を受信して前記被検体の微小変位を非接触で計測するマイクロ波受信手段と、
前記反射波のピーク間隔から心拍変動指標を解析する解析手段と、
前記解析手段の解析した前記心拍変動指標から前記被検体の自律神経の緊張状態を評価する評価手段と、
を備え、
前記解析手段によって解析される心拍変動指標は、前記反射波を周波数領域の低周波数成分LFと高周波数成分HFに分離し、低周波数成分と高周波数成分の比(LF/HF)を交感神経活動の指標、高周波数成分HFを副交感神経活動の指標としたもののみとし、
前記被検体の背部上方に非接触で前記マイクロ波放射手段及び前記マイクロ波受信手段を備える
ことを特徴とする非接触メンタルストレス診断システム。」

2 本件補正の目的
本件補正は、補正前の請求項1における「非接触メンタルストレス診断システム」について、「前記被検体の背部上方に非接触で前記マイクロ波放射手段及び前記マイクロ波受信手段を備える」構成を追加して限定するものである。
したかって、本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的するものに該当するものといえる。

3 独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか、すなわち、本件の特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(1)刊行物の記載事項
本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-237569号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面の図示と共に、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

ア 「【0058】
図2に示すマイクロ波ドップラーセンサ10aの送信部11aが、利用者Pa(図1参照)に向けてマイクロ波を送信する。ここで、送信部11aが、利用者Pa(図1参照)の心臓付近に向けてマイクロ波を送信する。なお、マイクロ波は、利用者Pa(図1参照)の衣服の材料である木綿やナイロンなどを透過し、体表面や金属などで反射する性質を持っている。受信部12aが、反射波を受信する。ここで、反射波が、利用者Pa(図1参照)の心臓付近の体表面でマイクロ波が反射したものである。
【0059】
増幅部15aが、マイクロ波の信号を、送信部11aから受け取る。増幅部15aが、反射波の信号を、受信部12aから受け取る。増幅部15aが、マイクロ波の信号及び反射波の信号を増幅する。演算部16aが、マイクロ波に関する信号を、処理部13a経由で増幅部15aから受け取る。ここで、マイクロ波に関する信号は、マイクロ波の信号を増幅した信号である。演算部16aが、反射波に関する信号を、処理部13a経由で増幅部15aから受け取る。ここで、反射波に関する信号は、反射波の信号を増幅した信号である。演算部16aが、変化情報(図7参照)を演算する。変化情報(図7参照)が、マイクロ波に関する信号に対する反射波に関する信号の変化に関する情報である。抽出部14aが、変化情報(図7参照)を、処理部13a経由で演算部16aから受け取る。抽出部14aが、変化情報(図7参照)に基づいて、帯域情報を抽出する。帯域情報は、所定の周波数帯域(図7のP1?P4参照)の情報である。分析部17aが、帯域情報(図7のP1?P4参照)を、処理部13a経由で抽出部14aから受け取る。分析部17aが、帯域情報(図7のP1?P4参照)に基づいて、利用者Pa(図1参照)の心拍による微弱な体動を分析する。これにより、分析部17aが、帯域情報(図7のP1?P4参照)に基づいて、心拍情報(図8参照)を分析する。ここで、心拍情報(図8参照)は、ストレス度に関する情報である。」

イ 「【0065】
<心拍情報の構成>
図2に示す分析部17a,・・・で分析される心拍情報は、帯域情報(図7のP1?P4参照)に基づいて分析された情報であり、ストレス度に関する情報である。分析部17a,・・・が、帯域情報(図7のP1?P4参照)に基づいて、利用者Pa,・・・(図1参照)の心拍による微弱な体動を分析する。利用者Pa,・・・(図1参照)の心拍による微弱な体動の時間的な推移の情報は、利用者Pa,・・・(図1参照)の心臓付近の体表面に電極を装着して測定された心電波形(図示せず)と同様の情報である。ここで、心電波形とは、利用者Pa,・・・(図1参照)の心臓の電位の時間的な変化を、利用者Pa,・・・(図1参照)に接触して計測したものである。分析部17a,・・・が、利用者Pa,・・・(図1参照)の微弱な体動の波形(時間的な推移の情報)において鋭いピークを示すR波(図7に示すピークP1?P4)を検知する。分析部17a,・・・が、R波の間隔の時間的な変化を周波数解析して、R波の間隔の変動のスペクトル92(図8参照)すなわち心拍情報を分析する。
【0066】
図8に示すスペクトル92、すなわち心拍情報は、利用者Pa,・・・(図1参照)のストレス度に関する情報である。図8に示すスペクトル92、すなわち心拍情報において、縦軸はPSD(Power Spectre Density;パワースペクトル密度)であり、横軸は周波数である。図8に示すスペクトル92、すなわち心拍情報において、0.1Hz前後のピークがMWSA(Mayer Wave related Sinus Arrhythmia;血圧性変動)と一般に呼ばれ、そのPSD強度が交感神経と副交感神経との活動レベルの大きさを示す。また、0.3Hz前後のピークがRSA(Respiratory related Sinus Arrhythmia;呼吸性変動)と一般に呼ばれ、そのPSD強度が副交感神経の活動レベルの大きさを示す。MWSAのPSD強度がRSAのPSD強度に比べて強ければ、利用者Pa,・・・(図1参照)のストレス度が高いことが分かり、MWSAのPSD強度がRSAのPSD強度に比べて弱ければ、利用者Pa,・・・(図1参照)のストレス度が低いことが分かる。」

ウ 「【0109】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態に係る健康管理システム200の概念図を図17に示す。また、本発明の第3実施形態に係る健康管理システム200の各構成要素の構成図を図18に示す。図17,図18において、図1,図2の健康管理システム1の構成要素と同様の構成要素は同じ番号で示してある。図17に示す健康管理システム200は、主として携帯型測定機器群250(250a,250b,・・・)を携帯する利用者群P(Pa,Pb,・・・)の健康を管理するためのシステムである。
【0110】
この健康管理システム200は、図17,図18に示すように、基本的な構造は第1実施形態と同様であり各構成要素は図2と同様であるが、図17に示す携帯型測定機器250a,250b,・・・の構成と、読み出し機器280がさらに備えられている点と、で第1実施形態と異なる。すなわち、図18に示すように、記憶装置240a,・・・には、心拍情報242a,・・・がさらに記憶されている。出力装置220a,・・・の出力部221a,・・・が、読み出し機器280からデータ読み出しの指令を受けて、データ読み出しの指令をマイクロ波ドップラーセンサ210a,・・・の処理部213a,・・・へ渡す。処理部213a,・・・は、記憶装置240a,・・・を参照して、識別情報41a,・・・と心拍情報242a,・・・とを記憶装置240a,・・・から受け取り、識別情報41a,・・・と心拍情報242a,・・・とを出力装置220a,・・・の出力部221a,・・・へ渡す。出力部221aが、識別情報41a,・・・と心拍情報242a,・・・とを、無線回線経由で読み出し機器280へ送信する。読み出し機器280は、識別情報41a,・・・と心拍情報242a,・・・とを、管理センタ260へ渡す。これらの点で第1実施形態と異なる。
【0111】
また、図17に示す健康管理システム200が携帯型測定機器群250(250a,250b,・・・)を携帯する利用者群P(Pa,Pb,・・・)の健康を管理する処理の流れが、次の点で第1実施形態と異なる。なお、健康管理システム200が携帯型測定機器250aを携帯する利用者Paの健康を管理する場合について説明するが、健康管理システム200が携帯型測定機器250b,・・・を携帯する利用者Pb,・・・の健康を管理する場合も同様である。図19,図20において、図3,図4に示す第1実施形態と同様の処理は、同じ番号で示してある。
【0112】
図19に示すステップS21では、携帯型測定機器が携帯される。すなわち、利用者Pa(図17参照)の左胸ポケットに携帯型測定機器250aが入れられる。このようにして、利用者Pa(図17参照)により携帯型測定機器250aが携帯される。(図19で示す(1))。
図20に示すステップS22では、利用者に異常があるか否かが判断される。すなわち、図18に示す携帯型測定機器250aのマイクロ波ドップラーセンサ210aの判定部18aにより、心拍情報(図8参照)が、処理部13a経由で分析部17aから受け取られる。判定部18aにより、心拍情報(図8参照)に基づいて、利用者Pa(図1参照)の異常が判定される。利用者に異常があると判定された場合、ステップS23へ進められ、利用者に異常がないと判定された場合、ステップS24へ進められる。」

エ 「【0115】
体動情報を図17に示す利用者Pa,・・・に非接触で測定するので、利用者Pa,・・・の左胸ポケットに携帯型測定機器250a,・・・を入れて利用者Pa,・・・の心拍による微弱な体動を測定することにより、心拍情報(図8参照)を利用者Pa,・・・に非接触で測定して心拍情報(図8参照)を出力することが可能である点は、第1実施形態と同様である。したがって、このような健康管理システム200によっても、利用者Pa,・・・の生体情報を測定するための装置を利用者Pa,・・・に装着せずに利用者Pa,・・・の健康を管理することが可能である。」

上記の記載事項ア?エから、刊行物には、以下の発明が記載されていると認められる。

「携帯型測定機器250aを携帯する利用者Paの健康を管理するためのシステムであり、
携帯型測定機器250aのマイクロ波ドップラーセンサ210aにおいて、
送信部11aが、利用者Paの心臓付近に向けてマイクロ波を送信し、
受信部12aが、利用者Paの心臓付近の体表面でマイクロ波が反射した反射波を受信し、
演算部16aが、マイクロ波に関する信号に対する反射波に関する信号の変化に関する情報である変化情報を演算し、
抽出部14aが、変化情報に基づいて、所定の周波数帯域の情報である帯域情報を抽出し、
分析部17aが、帯域情報に基づいて、利用者Paの心拍による微弱な体動を分析し、これにより、帯域情報に基づいて、ストレス度に関する情報である心拍情報を分析するものであって、利用者Paの微弱な体動の波形(時間的な推移の情報)において鋭いピークを示すR波を検知し、R波の間隔の時間的な変化を周波数解析して、R波の間隔の変動のスペクトル92すなわち心拍情報を分析するものであり、
判定部18aが、心拍情報に基づいて、利用者Paの異常を判定するものであり、
スペクトル92、すなわち心拍情報において、0.1Hz前後のピークであるMWSA(血圧性変動)のPSD強度が交感神経と副交感神経との活動レベルの大きさを示し、また、0.3Hz前後のピークであるRSA(呼吸性変動)のPSD強度が副交感神経の活動レベルの大きさを示し、MWSAのPSD強度がRSAのPSD強度に比べて強ければ、利用者Paのストレス度が高いことが分かり、MWSAのPSD強度がRSAのPSD強度に比べて弱ければ、利用者Paのストレス度が低いことが分かるものであり、
利用者Paの左胸ポケットに携帯型測定機器250aを入れて利用者Paの心拍による微弱な体動を測定することにより、心拍情報を利用者Paに非接触で測定して心拍情報を出力する健康管理システム200。」(以下「引用発明」という。)

(2)補正発明と引用発明との対比
ア 引用発明の「利用者Pa」、「微弱な体動」、「『スペクトル92』すなわち『心拍情報』」、「判定部18a」、「MWSA」及び「RSA」は、それぞれ、補正発明の「被検体」、「微小変位」、「心拍変動指標」、「評価手段」、「低周波数成分LF」及び「高周波数成分HF」に相当する。

イ 引用発明の「利用者Paの心臓付近に向けてマイクロ波を送信」する「送信部11a」は、補正発明の「被検体にマイクロ波を放射するマイクロ波放射手段」に相当する。

ウ 引用発明の「利用者Paの心臓付近の体表面でマイクロ波が反射した反射波を受信」する「受信部12a」と、「マイクロ波に関する信号に対する反射波に関する信号の変化に関する情報である変化情報を演算」する「演算部16a」と、「変化情報に基づいて、所定の周波数帯域の情報である帯域情報を抽出」する「抽出部14a」と、「帯域情報に基づいて、利用者Paの心拍による微弱な体動を分析」する「分析部17a」とからなるものは、「利用者Paの左胸ポケットに携帯型測定機器250aを入れて利用者Paの心拍による微弱な体動を測定することにより、心拍情報を利用者Paに非接触で測定して心拍情報を出力する」ものであるから、補正発明の「前記被検体からの反射波を受信して前記被検体の微小変位を非接触で計測するマイクロ波受信手段」に相当する。

エ 引用発明の「利用者Paの微弱な体動の波形(時間的な推移の情報)において鋭いピークを示すR波を検知し、R波の間隔の時間的な変化を周波数解析して、R波の間隔の変動のスペクトル92すなわち心拍情報を分析する」「分析部17a」は、補正発明の「前記反射波のピーク間隔から心拍変動指標を解析する解析手段」に相当する。

オ 引用発明の「ストレス度に関する情報である」「心拍情報に基づいて、利用者Paの異常を判定する」「判定部18a」は、補正発明の「前記解析手段の解析した前記心拍変動指標から前記被検体の自律神経の緊張状態を評価する評価手段」に相当する。

カ 引用発明の「分析部17a」によって「分析」される「スペクトル92、すなわち心拍情報において、0.1Hz前後のピークであるMWSA(血圧性変動)のPSD強度が交感神経と副交感神経との活動レベルの大きさを示し、また、0.3Hz前後のピークであるRSA(呼吸性変動)のPSD強度が副交感神経の活動レベルの大きさを示し、MWSAのPSD強度がRSAのPSD強度に比べて強ければ、利用者Paのストレス度が高いことが分かり、MWSAのPSD強度がRSAのPSD強度に比べて弱ければ、利用者Paのストレス度が低いことが分かる」ことと、補正発明の「前記解析手段によって解析される心拍変動指標は、前記反射波を周波数領域の低周波数成分LFと高周波数成分HFに分離し、低周波数成分と高周波数成分の比(LF/HF)を交感神経活動の指標、高周波数成分HFを副交感神経活動の指標としたもののみと」することとは、「前記解析手段によって解析される心拍変動指標は、前記反射波を周波数領域の低周波数成分LFと高周波数成分HFに分離し、高周波数成分HFを副交感神経活動の指標としたもの」とする点で共通する。

キ 引用発明の「利用者Paの心臓付近に向けてマイクロ波を送信」する「送信部11a」と、「利用者Paの心臓付近の体表面でマイクロ波が反射した反射波を受信」する「受信部12a」と、「マイクロ波に関する信号に対する反射波に関する信号の変化に関する情報である変化情報を演算」する「演算部16a」と、「変化情報に基づいて、所定の周波数帯域の情報である帯域情報を抽出」する「抽出部14a」と、「帯域情報に基づいて、利用者Paの心拍による微弱な体動を分析」する「分析部17a」とからなるものは、「利用者Paの左胸ポケットに携帯型測定機器250aを入れて利用者Paの心拍による微弱な体動を測定することにより、心拍情報を利用者Paに非接触で測定して心拍情報を出力する」ものであるから、補正発明の「前記被検体の背部上方に非接触で前記マイクロ波放射手段及び前記マイクロ波受信手段を備える」とは、「前記被検体に非接触で前記マイクロ波放射手段及び前記マイクロ波受信手段を備える」点で共通する。

ク 引用発明の「心拍情報を利用者Paに非接触で測定して」「ストレス度に関する情報である」「心拍情報に基づいて、利用者Paの異常を判定する」「健康管理システム200」は、補正発明の「非接触メンタルストレス診断システム」に相当する。

そうすると、両者は
「被検体にマイクロ波を放射するマイクロ波放射手段と、
前記被検体からの反射波を受信して前記被検体の微小変位を非接触で計測するマイクロ波受信手段と、
前記反射波のピーク間隔から心拍変動指標を解析する解析手段と、
前記解析手段の解析した前記心拍変動指標から前記被検体の自律神経の緊張状態を評価する評価手段と、
を備え、
前記解析手段によって解析される心拍変動指標は、前記反射波を周波数領域の低周波数成分LFと高周波数成分HFに分離し、高周波数成分HFを副交感神経活動の指標としたものとし、
前記被検体に非接触で前記マイクロ波放射手段及び前記マイクロ波受信手段を備える
非接触メンタルストレス診断システム。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
補正発明では「低周波数成分と高周波数成分の比(LF/HF)を交感神経活動の指標」とし、「心拍変動指標」をそれと「高周波数成分HFを副交感神経活動の指標としたもののみとし」ているのに対し、引用発明ではそのようなものではない点。

(相違点2)
「前記被検体に非接触で前記マイクロ波放射手段及び前記マイクロ波受信手段を備える」点について、補正発明では「前記被検体の背部上方」に備えるのに対し、引用発明では「利用者Paの左胸ポケットに」「入れて」「測定する」ものである点。

(3)相違点についての検討・判断
(相違点1について)
引用発明の「MWSAのPSD強度がRSAのPSD強度に比べて強ければ、利用者Paのストレス度が高いことが分かり、MWSAのPSD強度がRSAのPSD強度に比べて弱ければ、利用者Paのストレス度が低いことが分かるもの」は、ストレス度が高い時は交感神経が活動し、ストレスが度が低い時は副交感神経が活動することが技術常識であることに鑑みると、MWSAのPSD強度/RSAのPSD強度、すなわち、低周波成分LF/高周波成分HFの値を交感神経活動の指標とすることを示唆しているものといえる。
また、低周波成分と高周波成分の比(LF/HF)が交感神経活動の指標となることは、例えば、
ア 原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-271897号公報
(【0050】「ストレス値」は前に述べた自律神経指標値LF、HFを日中も連続して計測し、LF/HFの積分値をストレス値とする。HFの積分値をリラックス度として取得してもよい。)
イ 原査定時にLF/HFを交感神経活動の指標とすることが周知の事項であるとして例示された特開2004-242720号公報
(【0009】…副交感神経活動量の指標となる高周波スペクトル値(HF値)、及び交感神経活動量の指標であるLF/HF比…)
ウ 特開2003-275317号公報
(【0031】…高周波成分HFは副交感神経活動を、低周波成分LFは交感神経と副交感神経の双方の活動に関与する指標とされ、LF/HFの値は交感神経活動を反映する指標とされている。)
に開示されているように周知技術である。
したがって、引用発明において、MWSAのPSD強度/RSAのPSD強度、すなわち、低周波成分LF/高周波成分HFの値を交感神経活動の指標とすることに格別の困難性はない。
また、交感神経活動の指標と副交感神経活動の指標さえあればストレス度の高低が分かることは技術常識であるから、ストレス度だけを知りたいのであればそれら2つの指標のみを分析対象として補正発明の如く構成することは当業者が容易になし得たというべきである。

(相違点2について)
被検体に非接触でマイクロ波等の電波を用いて心拍情報を得る際に、被検体の背部にマイクロ波等の電波放射・受診手段を備えることは、例えば、
エ 原査定の拒絶理由に引用された特開2002-58659号公報
(【0001】…本発明は、被検者の脈拍あるいは呼吸及又は微動を非接触で検知するマイクロ波による微動センサーに関する…【0016】…反射面26は被検者の胸部付近の凹凸のある反射面であり被検者の体位変化で様々に変化する。…【0028】図7はマイクロ波微動センサーの設置例である。天井2の材質によっては天井裏に設置が可能である。…あるいはベッド材質がマイクロ波を透過する材質の場合にベッド下に設置できる。)
オ 請求人による刊行物である、氏川 翔 他,”マイクロ波レーダーとサーモグラフィーを用いた検疫のためのスクリーニングシステムの開発”,2006年度 日本人間工学会・関東支部第36回大会 卒業研究発表会 講演集,2006年12月 2日,17?18頁
(「心拍アンテナは背部から5cmの距離に設置し・・・」17頁右欄5?6行、「マイクロ波レーダーによる非接触計測の結果と、マルチテレメータシステムを用いた計測結果を比較検討したところ、相関係数も非常に高く(r=0.98、p=2.9344E-10)、非接触計測の有効性が認められた。」18頁左欄12?16行)
カ 特開2006-55406号公報
(【0001】本発明は、心拍検出装置、特に非接触により検出するセンサを用いて心拍検出を行う心拍検出装置に関するものである。…【0009】…体表面動作検出センサは、例えば、電波式ドップラーセンサ…を用いることができる。…【0024】図2及び図3に示すように、心拍検出装置は、ドップラーセンサ1と、ECU2とから構成される。ドップラーセンサ(体表面動作検出センサ)1は、車両のシートの背もたれ部位に配置されており、電波を発信すると共に発信した電波を受信する。そして、ドップラーセンサ1は、車両のシートに着座した乗員の体表面の動作を検出することができる。具体的には、ドップラーセンサ1は、乗員の背中表面の動作を検出することができる。この乗員の背中表面の動作には、心拍の他、呼吸による振動、体動による振動、車両などの外部の振動が含まれている。)
に記載されているように周知技術であり、一般に行われていたものというべきである。
したがって、引用発明の「利用者Paの左胸ポケットに」「入れて」「測定する」ものに代えて、上記周知技術を適用して被検体の背部から測定することとすることは当業者が容易になし得たというべきである。
そして、補正発明の「背部上方」とは、発明の詳細な説明の段落【0018】の記載によれば「背部でも腰部より上方の方」と解されるところ、被検体の背部から測定する場合に単純に背中付近を選択して「背部上方」とすることに格別の困難性はなく、当業者が容易になし得たというべきである。

そして、補正発明の効果も、当業者であれば引用発明及び周知技術から予測し得る範囲内のものであり、格別顕著なものとはいえない。

(4)小括
以上のとおり、補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 まとめ
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明に対する判断
1 本願発明の認定
平成26年1月9日付けの手続補正は、上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1に係る発明は、平成25年3月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであると認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「被検体にマイクロ波を放射するマイクロ波放射手段と、
前記被検体からの反射波を受信して前記被検体の微小変位を非接触で計測するマイクロ波受信手段と、
前記反射波のピーク間隔から心拍変動指標を解析する解析手段と、
前記解析手段の解析した前記心拍変動指標から前記被検体の自律神経の緊張状態を評価する評価手段と、
を備え、
前記解析手段によって解析される心拍変動指標は、前記反射波を周波数領域の低周波数成分LFと高周波数成分HFに分離し、低周波数成分と高周波数成分の比(LF/HF)を交感神経活動の指標、高周波数成分HFを副交感神経活動の指標としたもののみとすることを特徴とする非接触メンタルストレス診断システム。」

2 刊行物
原査定の拒絶理由で引用された刊行物、及び、その記載事項は、前記「第2」の「3」の「(1)」に記載したとおりである。

3 判断
本願発明は、前記「第2」の「2」で検討した補正発明における「非接触メンタルストレス診断システム」について、「前記被検体の背部上方に非接触で前記マイクロ波放射手段及び前記マイクロ波受信手段を備える」という構成を省いたものである。
そうすると、本願発明と引用発明を比較すると、前記「第2」の「3」の「(2)補正発明と引用発明との対比」において述べたように、両者は、補正発明と同様に相違点1にて相違するが、その余の点では一致するといえる。
そして、相違点1については、前記「第2」の「3」の「(3)」の「(相違点1について)」において述べたとおりであるから、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-24 
結審通知日 2015-02-25 
審決日 2015-03-10 
出願番号 特願2007-99025(P2007-99025)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 孝徳  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 平田 佳規
藤田 年彦
発明の名称 非接触メンタルストレス診断システム  
代理人 小山 卓志  
代理人 田中 貞嗣  
代理人 阿部 龍吉  
代理人 青木 健二  
代理人 米澤 明  
代理人 韮澤 弘  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ