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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1300311
審判番号 不服2014-10551  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-04 
確定日 2015-04-30 
事件の表示 特願2010- 83777「燃料電池システム及びその起動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月27日出願公開、特開2011-216347〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件の出願(以下,「本願」という。)は,平成22年3月31日の特許出願であって,平成25年9月12日付け(発送日:同月17日)で通知された拒絶の理由に対して,平成25年11月6日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが,平成26年3月3日付け(発送日:同月11日)で拒絶査定がなされ,これに対し,平成26年6月4日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正書が提出されたものである。

2.平成26年6月4日付け手続補正書による補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成26年6月4日付け手続補正書による補正を却下する。

[理由]
(1)本願補正発明
平成26年6月4日付け手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)により,特許請求の範囲の請求項1は,次のとおりに補正された。

「改質触媒を含んでなる改質器及び前記改質触媒を加熱するバーナを有し、前記バーナによって加熱された前記改質触媒により原燃料ガスを水蒸気改質して改質ガスを生成する改質装置と、
前記改質ガスを用いて発電する燃料電池スタックと、
前記原燃料ガス、前記改質ガス、及び前記燃料電池スタックから導出されるオフガスが流通すると共に、前記改質器への水が流通する流路系と、
前記流路系における流通を制御する制御部と、を備え、
前記バーナは、前記原燃料ガス、前記改質ガス、及び前記オフガスからなる群より選択される少なくとも一種のガスを燃焼するように構成され、
前記制御部は、
前記バーナにおける燃焼開始時に、前記改質器からの導出ガスを前記バーナに導入し、
前記バーナにおける燃焼開始後で且つ前記改質触媒による前記原燃料ガスの改質割合が基準値以上となったときに、前記改質器からの導出ガスを前記燃料電池スタックに導入すると共に、前記オフガスを前記バーナに導入するように制御し、
前記改質触媒の温度が、露点温度以上且つ前記改質割合が前記基準値以上となる温度より低い基準温度となったときに、前記原燃料ガスの改質割合が徐々に増加するように前記流路系を介して前記改質器に前記水を導入するように制御することを特徴とする、燃料電池システム。」

本件補正は,本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記流路系を介して前記改質器に前記水を導入するように制御すること」という事項に,「前記原燃料ガスの改質割合が徐々に増加するように」との限定を付加したことを含むものであって,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)刊行物
原査定の拒絶の理由に示された国際公開2008/126353号(以下,「刊行物」という。)には,図面とともに次の記載がある。

ア.「はじめに、本実施の形態1の燃料電池システム100の構成について簡単に説明する。
図1に示すように、本実施の形態1の燃料電池システム100は、発電部の本体としての燃料電池1と、燃料電池1の燃料ガス用流路1aに水素を含む燃料ガスを供給する燃料ガス生成器2と、燃料電池1の酸化剤ガス用流路1bに酸化剤ガスとしての空気を供給するブロワ3とを備えている。燃料ガスを改質反応によって生成するために、天然ガスなどの原料を燃料ガス生成器2に供給する原料供給器11が設けられている。更に、燃料ガス生成器2には、改質触媒を加熱するための燃焼バーナ2aが設けられており、この燃焼バーナ2aに燃焼に必要となる空気を大気中から供給する燃焼ファン2bが設置されている。」(段落[0038]-[0039])

イ.「次に、燃料電池1と燃料ガス生成器2を接続する経路について説明する。
燃料電池システム100には、燃料ガス生成器2で生成された燃料ガスを、燃料電池1の燃料ガス用流路1aに供給するための燃料ガス供給路22と、燃料電池1の燃料ガス用流路1aから排出されるオフガスを燃焼バーナ2aに供給するためにオフガス経路23が配置されている。又、燃料ガス供給路22から分岐し、燃料電池1をバイパスしてオフガス経路23に合流するバイパス経路24が配置されている。
ここで、図1においてバイパス経路24への分岐部を基準として、燃料ガス供給路22の燃料ガス生成器2側を第1経路R1と呼び、燃料電池1側を第4経路R4と呼ぶ。又、バイパス経路との合流部を基準として、オフガス経路23の燃焼バーナ2a側を第3経路R3と呼び、燃料電池1側を第5経路R5と呼ぶ。更に、バイパス経路24を第2経路R2と呼ぶ。この第4経路R4上に開閉弁9が設けられており、第2経路R2上に開閉弁8が設けられており、第5経路R5上に開閉弁10が設けられている。
上記第1経路R1は第2経路R2と第4経路R4とに分岐しているが、この分岐部をXと呼び、第2経路R2と第5経路R5が合流して第3経路となるが、この合流部をYと呼ぶ。
そして、図1に示すように、第1経路R1と第2経路R2と第3経路R3とによって、第1の燃料ガス経路Aが構成されている。又、図1に示すように、第1経路R1、第4経路R4、燃料ガス用流路1a、第5経路R5及び第3経路R3と、により、第2の燃料ガス経路Bが構成されている。
つまり、本実施の形態1に係る燃料電池システム100は開閉弁7、開閉弁8、開閉弁9及び開閉弁10を開閉することにより、燃料ガス生成器2から排出される燃料ガスを必要に応じて燃料電池1に供給することなく燃焼バーナ2aに直接供給することが可能に構成されている。
更に、この燃料電池システム100は、燃料電池システム100を構成する各構成要素(開閉弁7、8、9、10及び燃料ガス生成器2等)の動作を適宜制御する制御器101を備えている。
更に、本実施の形態の燃料電池システム100の各構成について詳しく説明する。
上述した燃料電池1として、本実施の形態1では、固体高分子電解質型燃料電池が用いられている。この燃料電池1の燃料ガス用流路1aに供給される水素を豊富に含む燃料ガスと、ブロワ3により酸化剤ガス用流路1bに供給される酸化剤ガス(通常、空気)とを用いて、所定の電力を出力するべく発電が行われる。
換言すれば、燃料電池1は、燃料ガス及び酸化剤ガスが有する化学エネルギーを、所定の反応触媒により進行する所定の電気化学反応によって、電気エネルギーに直接変換する。燃料電池1は、かかるエネルギー変換によって得られた電気エネルギーを、燃料電池システム100に接続される負荷に向けて電気エネルギーを供給する。尚、燃料電池1の内部構成に関する詳細な説明については、一般的な固体高分子電解質型燃料電池の内部構成と同様であるため、ここでは省略する。」(段落[0041]-[0050])

ウ.「上述した燃料ガス生成器2は、天然ガス(メタンが主成分)、プロパンガス等の炭化水素系成分、メタノール等のアルコール、或いは、ナフサ成分等に例示される少なくとも炭素及び水素から構成される有機化合物を含む原料(原料)と水とが用いられる水蒸気改質反応を主に進行させ、この水蒸気改質反応により水素を豊富に含む燃料ガスを生成する。この燃料ガス生成器2への原料の供給は、上述した原料供給器11によって行われるが、原料の供給の断続を行うための開閉弁7が設けられている。
ここで、この燃料ガス生成器2は、水蒸気改質反応を進行させるための改質部と、この改質部から排出される燃料ガス中の一酸化炭素を低減するための変成部及び浄化部を備えている(図示せず)。改質部は、水蒸気改質反応を進行させるための改質触媒を有しており、改質触媒が燃焼バーナ2aでの燃料電池1から排出されるオフガス又は燃料ガス等の燃焼によって加熱されて、水蒸気改質反応が促進される。
ここで、燃焼バーナ2aにおいて、燃料電池1から排出されるオフガス、又は燃料ガス生成器2で生成される燃料ガスが燃焼用燃料として燃焼され、改質部の改質触媒を加熱するための熱エネルギーが生成される。
又、変成部は、改質部から排出される燃料ガス中の一酸化炭素濃度を、水との反応によって低減するための変成触媒を備えている。又、浄化部は、変成部から排出される燃料ガス中の一酸化炭素を、酸化反応或いはメタン化反応によって更に低減するためのCO除去触媒を備えている。尚、この変成部及び浄化部は、燃料ガスに含まれる一酸化炭素を効果的に低減するために、各々において進行する化学反応に適した温度条件の下、各々運転される。又、燃料ガス生成器2の内部における上述した燃料ガス生成器及び変成部及び浄化部以外の構成に関する説明については、燃料ガス生成器2の内部構成と一般的な燃料ガス生成器の内部構成とが同様であるため、ここでは省略する。
上述した原料供給器11は、燃料電池システム100の発電運転時等において、天然ガスのインフラストラクチャー等から供給される天然ガス等の原料を、上述した開閉弁7を介して、燃料ガス生成器2の改質部に供給する。尚、この原料供給器11は、流量調整部(図示せず)を備えており、後述する制御器101により、必要に応じて燃料ガス生成器2の改質部に対する原料の供給量を適宜調整することが可能に構成されている。
上述したブロワ3は、大気中から空気を吸入することにより、燃料電池1の酸化剤ガス用流路1bに酸化剤ガスとしての空気を供給する。このブロワ3としてはシロッコファン等が好適に用いられる。
上述した制御器101は、例えば、記憶部、計時部、中央演算処理装置(CPU)等を備えている。尚、燃料電池システム100の各構成要素の動作に関わるプログラムは予め制御器101の記憶部に記憶されており、この記憶部に記憶されているプログラムに基づいて、制御器101が燃料電池システム100の動作を適宜制御する。
尚、本発明の第1の流量制御器の一例は、本実施の形態の開閉弁9に相当し、本発明の第2の流量制御器の一例は、本実施の形態の開閉弁10に相当し、本発明の第3の流量制御器の一例は、本実施の形態の開閉弁8に相当する。又、本発明の原料供給器の一例は、本実施の形態の原料供給器11に相当し、本発明の燃焼器の一例は、燃焼バーナ2aに相当する。」(段落[0052]-[0059])

エ.「次に、本発明の実施の形態1に係る燃料電池システム100の動作について、図面を参照しながら詳細に説明する。
尚、以下の説明では、燃料電池システム100の停止動作時、待機時、又は起動動作時において、燃料電池1の燃料ガス用流路1a及びその周辺部に、置換ガスとして原料(本実施の形態1では、炭素水素ガスである天然ガス)が予め充填されていることを前提とする。この原料としては、本実施の形態1では、炭化水素ガスである天然ガスが用いられているが、少なくとも炭素及び水素から構成される有機化合物を含む原料であればよい。この燃料電池1等への原料の充填は、停止動作時において、燃料ガス生成器1における燃料ガスの生成を停止した後、原料供給器11から燃料ガス生成器1を通して、燃料電池1に向けて原料を供給することにより行われる。なお、この燃料電池1等への原料の充填の後、開閉弁9,10が閉じられる。開閉弁8は開放しても閉じてもよいが、本実施の形態では閉じられる。
又、本実施の形態1では、「起動動作時」とは「制御器101から起動指令が出力されてから燃料電池1の発電制御部(図示せず)により電流が燃料電池1から取り出される迄」をいい、「停止動作時」とは「制御器101から停止指令が出力されてから燃料電池システム100全体の動作が完全に停止する迄」をいう。また、「待機時」とは、停止動作時と起動動作時との間の期間をいう。」(段落[0060]-[0062])

オ.「本実施の形態の燃料電池システム100は、制御器101の制御に従い以下の動作を行う。図2は、本実施の形態の燃料電池システム100の起動動作を示す制御フロー図である。
先ず、図1に示す燃料電池システム100の起動動作時には、燃料電池1の発電運転において必要となる水素を豊富に含む燃料ガスを生成するために、制御器101は燃料ガス生成器2を作動させる。この場合、開閉弁7,8が開放される。
具体的には、水素を生成するための原料の一例である天然ガスが、図1に示す原料供給器11から燃料ガス生成器2の改質部に供給される。又、水蒸気改質反応を進行させるための水蒸気を生成するために、水道等のインフラストラクチャーから燃料ガス生成器2の改質部に水が供給される。又、燃料ガス生成器2の改質部において水蒸気改質反応を進行させるために、改質部に設けられている改質触媒が燃焼バーナ2aにより加熱される。
燃料電池システム100の起動動作の開始当初では、燃料ガス生成器2の改質部における改質触媒温度は、燃焼バーナ2aにより加熱されて穏やかに温度上昇するため、所定の温度にまで到達していない。そのため、改質部における水蒸気改質反応が好適に進行しないので、燃料ガス生成器2から排出される燃料ガスには、発電運転時より高濃度の一酸化炭素が含まれている。この発電運転時より高濃度の一酸化炭素を含む燃料ガスを、一酸化炭素を高濃度に含む燃料ガスという。
そこで、本実施の形態1では、燃料電池システム100の起動動作の開始時、燃料ガス生成器2の改質部における改質触媒が所定の温度に到達し、かつ良質の燃料ガスを生成可能となるまで(所定の運転条件を満足するまで)は、制御器101により燃料ガス経路Aが形成されている。この燃料ガス経路Aは、制御器101が開閉弁8を開放し、開閉弁9,10を閉止することで、第1経路R1と第2経路R2が接続され、第1経路R1と第4経路R4が遮断されて、第1経路R1及び第2経路R2及び第3経路R3により形成される。
そして、この燃料ガス経路Aに、燃料ガス生成器2で生成された、一酸化炭素及び水素を含んだ燃料ガスが供給される。これにより、燃焼バーナ2aに、燃料ガス経路Aを介して、一酸化炭素を高濃度に含む燃料ガスが供給される。すると、燃焼バーナ2aは、その一酸化炭素を高濃度に含む燃料ガスを燃焼して、燃料ガス生成器2の改質部における改質触媒を加熱する。そして、改質触媒が、水蒸気改質反応に適した所定の温度、約650?800℃にまで加熱される。尚、燃焼バーナ2aにおいて燃焼された燃料ガスは、排燃焼ガスとして燃料電池システム100の外部へ放出される。」(段落[0063]-[0068])

カ.「次に、図2に示すように、燃焼バーナ2aにおいて一酸化炭素を高濃度に含む燃料ガスを燃焼することにより発生する熱によって燃料ガス生成器2における改質部の改質触媒の温度が上昇すると、その改質触媒の温度が水蒸気改質反応に好適な所定の温度にまで到達したか否かが、制御器101によって判定される(ステップS1)。
ここで、改質触媒の温度は、例えば、改質触媒に埋設された温度センサ(図示せず)により検出される。この温度センサの出力信号は、制御器101に入力される。そして制御器101において出力信号の解析が行われ、改質触媒の温度が認識される。尚、改質触媒の温度が所定の温度にまで到達していないと判定された場合(ステップS1 でNO)、改質触媒の温度が所定の温度にまで到達したと判定されるまで、燃焼バーナ2aによる改質触媒の加熱が継続される。
一方、ステップS1において、改質触媒の温度が所定の温度まで到達したと制御器101が判定すると(ステップS1でYES)、燃料電池システム100は、後述するステップS2の動作に移行する。
仮に、ステップS2において、従来の燃料電池システムと同様に、制御器101によって開閉弁9及び開閉弁10が開かれ、それと同時に開閉弁8が閉止され、燃料ガス生成器2から排出された燃料ガスの経路が燃料ガス経路Aから燃料ガス経路Bへ完全に切り替えられると、背景技術で述べたように燃焼バーナ2aにおいて不完全燃焼が進行するおそれがある。」(段落[0075]-[0078])

キ.「上記ステップS3で所定の時間が経過したことが制御器101によって判断された後、ステップS4にて燃料ガス経路Aが閉じられ、燃料ガス生成器2から燃料ガス経路Bを介して燃料電池1に燃料ガスが供給されると、燃料電池1は以下のように発電動作を開始する
燃料ガス生成器2から燃料電池1の燃料ガス用流路1aに一酸化炭素の濃度が十分に低減された燃料ガスが供給されると共に、ブロワ3から燃料電池1の酸化剤ガス用流路1bに空気が供給される。そして、燃料電池1では、そのアノード側及びカソード側に供給される燃料ガス及び空気が用いられて、所定の電力を出力するべく発電が行われる。
尚、発電に用いられなかったオフガスは、燃料電池1の燃料ガス用流路1aから排出された後、第5経路R5及び第3経路R3を介して燃焼バーナ2aに供給される。そして、この燃焼バーナ2aにおいて、水蒸気改質反応を進行させる為に燃焼される。又、燃料電池1の酸化剤ガス用流路1bから排出される排空気は、燃料電池システム100の外部に排出される。」(段落[0097]-[0099])

また,図1,並びに,上記「ア.」及び「イ.」の記載から,燃料電池システム100が,原料供給器11から燃料ガス生成器2に天然ガスなどの原料を供給するための,天然ガスなどの原料が流れる経路を有することは,明らかである。
さらに,図1,及び,上記「オ.」の「又、水蒸気改質反応を進行させるための水蒸気を生成するために、水道等のインフラストラクチャーから燃料ガス生成器2の改質部に水が供給される。」という記載から,燃料電池システム100が,改質部への水が流れる経路を有することは明らかである。
加えて,上記「オ.」の記載から,改質部における改質触媒の温度が,所定の温度(約650?800℃)に到達していないときに,水蒸気改質反応が好適に進行しないものの,水蒸気改質反応は進行しているから,改質部における改質触媒の温度が,所定の温度(約650?800℃)に到達していないときに,改質部に水が供給されることは,明らかである。

以上の事項及び図面の記載内容を本願補正発明の表現に倣って方法として整理すると,刊行物には,次の発明(以下,「刊行物に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

「改質触媒を含む改質部及び改質触媒を加熱する燃焼バーナ2aを有し,燃焼バーナ2aによって加熱された改質触媒により天然ガスなどの原料を水蒸気改質して燃料ガスを生成する燃料ガス生成器2と,
燃料ガスを用いて発電する燃料電池1と,
天然ガスなどの原料,燃料ガス,及び燃料電池1から排出されるオフガスが流れる経路や,改質部への水が流れる経路と,
経路における流れを制御する制御器101と,を備え,
燃焼バーナ2aは,燃料ガス生成器2から排出される燃料ガス又は燃料電池1から排出されるオフガスを燃焼するようにされ,
制御器101は,
燃料電池システム100の起動動作の開始当初に,燃料ガス生成器2から排出される燃料ガスを燃焼バーナ2aに供給し,
燃料電池システム100の起動動作の開始後で,改質触媒が水蒸気改質反応に適した所定の温度,約650?800℃に到達したとき,燃料ガス生成器2から排出される燃料ガスを燃料電池1に供給すると共に,燃料電池1から排出されるオフガスを燃焼バーナ2aに供給するように制御し,
改質触媒が水蒸気改質反応に適した所定の温度まで到達していないときに,経路を介して改質部に水が供給されるようにした,燃料電池システム100。」

(3)対比
本願補正発明と上記刊行物に記載された発明とを対比する。
刊行物に記載された発明の「改質部」は,本願補正発明の「改質器」に相当し,以下同様に,「燃焼バーナ2a」は「バーナ」に,「天然ガスなどの原料」は「原燃料ガス」に,「燃料ガス」は「改質ガス」に,「燃料ガス生成器2」は「改質装置」に,「燃料電池1」は「燃料電池スタック」に,「燃料電池1から排出される」態様は「燃料電池スタックから導出される」態様に,「流れる」態様は「流通する」態様に,「制御器101」は「制御部」に,「供給」する態様は「導入」する態様に,それぞれ相当する。

また,本願の明細書の段落【0022】を参酌すると,「流路系」は,ラインや調整弁等によって構成されるものであるから,刊行物に記載された発明の「天然ガスなどの原料,燃料ガス,及び燃料電池1から排出されるオフガスが流れる経路や,改質部への水が流れる経路」は,本願補正発明の「前記原燃料ガス、前記改質ガス、及び前記燃料電池スタックから導出されるオフガスが流通すると共に、前記改質器への水が流通する流路系」に,同様に,「経路における流れを制御する制御器101」は「流路系における流通を制御する制御部」に,「経路を介し」た態様は「流路系を介し」た態様に,それぞれ相当する。

また,上記「(2)オ.」の記載を参酌すると,刊行物に記載された発明の「燃焼バーナ2a」において,燃料電池システム100の起動動作の開始当初は,燃焼ガス生成器2に供給された天然ガス等の原料の改質が十分に行われないため,「燃焼バーナ2a」に供給される,燃焼ガス生成器2から排出されるガスに天然ガス等の原料が含まれることは,明らかであるから,刊行物に記載された発明の「燃焼バーナ2aは,燃料ガス生成器2から排出される燃料ガス又は燃料電池1から排出されるオフガスを燃焼するようにされ」る態様は,本願補正発明の「前記バーナは、前記原燃料ガス、前記改質ガス、及び前記オフガスからなる群より選択される少なくとも一種のガスを燃焼するように構成され」る態様に相当する。
さらに,上記「(2)オ.」の記載を参酌すると,燃料電池システム100は,その起動動作が開始されると,まず,燃焼ガス生成器2から排出される燃料ガスが燃焼バーナ2aに供給されて燃焼が開始されるものであるから,刊行物に記載された発明の「燃料電池システム100の起動動作の開始当初」は,本願補正発明の「前記バーナにおける燃焼開始時」に,同様に,「燃料電池システム100の起動動作の開始後」は「前記バーナにおける燃焼開始後」に,それぞれ相当する。

また,「燃料ガス生成器2から排出される燃料ガス」は,「燃料ガス生成器2」を通過し,「燃料ガス生成器2」から導き出されたガスといえるから,刊行物に記載された発明の「燃料ガス生成器2から排出される燃料ガス」は,本願補正発明の「改質器からの導出ガス」に相当する。

また,本願補正発明の「前記改質触媒による前記原燃料ガスの改質割合が基準値以上」及び「前記改質触媒による前記原燃料ガスの改質割合が基準値以上となる温度」について,本願の明細書の段落【0030】の記載を参酌すると,「前記改質触媒による前記原燃料ガスの改質割合が基準値以上」となるときとは,改質触媒の温度が目標改質温度である,例えば680℃に到達するときであり,また,「前記改質触媒による前記原燃料ガスの改質割合が基準値以上となる温度」とは,目標改質温度である,例えば680℃である,と理解でき,また,この680℃とは,水蒸気改質に適した温度として一般に知られている温度範囲の温度である。
そして,刊行物に記載された発明の「改質触媒」は,燃焼バーナ2aにより加熱されて温度上昇し,所定の温度にまで到達するものであるから,刊行物に記載された発明の「改質触媒が水蒸気改質反応に適した所定の温度,約650?800℃に到達した」という態様は,本願補正発明の「前記改質触媒による前記原燃料ガスの改質割合が基準値以上となったとき」という態様に,同様に,「改質触媒が水蒸気改質反応に適した所定の温度」は「前記改質割合が前記基準値以上となる温度」に,相当する。
さらに,「改質触媒が水蒸気改質反応に適した所定の温度まで到達していないとき」,所定の温度より低い温度であることは明らかであるから,刊行物に記載された発明の「改質触媒が水蒸気改質反応に適した所定の温度まで到達していないとき」と本願補正発明の「前記改質割合が前記基準値以上となる温度より低い基準温度となったとき」とは,「前記改質割合が前記基準値以上となる温度より低い温度のとき」という概念で共通する。

したがって,両者は,

「改質触媒を含んでなる改質器及び前記改質触媒を加熱するバーナを有し,前記バーナによって加熱された前記改質触媒により原燃料ガスを水蒸気改質して改質ガスを生成する改質装置と,
前記改質ガスを用いて発電する燃料電池スタックと,
前記原燃料ガス,前記改質ガス,及び前記燃料電池スタックから導出されるオフガスが流通すると共に,前記改質器への水が流通する流路系と,
前記流路系における流通を制御する制御部と,を備え,
前記バーナは,前記原燃料ガス,前記改質ガス,及び前記オフガスからなる群より選択される少なくとも一種のガスを燃焼するように構成され,
前記制御部は,
前記バーナにおける燃焼開始時に,前記改質器からの導出ガスを前記バーナに導入し,
前記バーナにおける燃焼開始後で且つ前記改質触媒による前記原燃料ガスの改質割合が基準値以上となったときに,前記改質器からの導出ガスを前記燃料電池スタックに導入すると共に,前記オフガスを前記バーナに導入するように制御し,
前記改質触媒の温度が,前記改質割合が前記基準値以上となる温度より低い温度であるときに,前記流路系を介して前記改質器に前記水を導入するように制御する,燃料電池システム。」
の点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1]
改質器に水を導入する際の改質触媒の温度について,本願補正発明では,「露点温度以上且つ前記改質割合が前記基準値以上となる温度より低い基準温度となったとき」であるのに対し,刊行物に記載された発明では,改質割合が基準値以上となる温度より低い温度ではあるものの,露点温度以上であるか明らかでない点。

[相違点2]
改質器に水を導入するに当たり,本願補正発明では,「前記原燃料ガスの改質割合が徐々に増加するように」水を導入しているのに対し,刊行物に記載された発明では,上記構成を有することが,明らかでない点。

(4)判断
まず,上記相違点1について検討する。
水蒸気改質器を有する燃料電池システムにおいて,改質触媒を有する改質器の温度が,露点温度以上で,かつ,水蒸気改質反応に適した温度即ち改質割合が基準値以上となる温度より低い基準温度,となったときに,改質器に水を導入することは,当業者にとって従来周知の技術的事項(例えば,本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された,国際公開第2007/119736号の段落0045-0048,0054,0057,0063-0064,図1-4や,特開2005-158466号公報の段落0012-0014,0019-0022,図1,4を,また,原査定の拒絶の理由に示された,国際公開2009/063616号の段落0058-0061,0068-0075,図3-7や,特開2007-210835号公報の段落0006,0079-0080を参照。)である。
そうしてみると,刊行物に記載された発明において,上記周知の技術的事項を採用し,改質器に水を導入する際の改質触媒の温度を,露点温度以上とすることは,当業者にとって格別の創作能力を要せずになし得たことである。
したがって,刊行物に記載された発明において,上記相違点1に係る本願補正発明の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。

次に,上記相違点2について検討する。
上記「(2)オ.」の記載を参酌すると,「具体的には、水素を生成するための原料の一例である天然ガスが、図1に示す原料供給器11から燃料ガス生成器2の改質部に供給される。又、水蒸気改質反応を進行させるための水蒸気を生成するために、水道等のインフラストラクチャーから燃料ガス生成器2の改質部に水が供給される。又、燃料ガス生成器2の改質部において水蒸気改質反応を進行させるために、改質部に設けられている改質触媒が燃焼バーナ2aにより加熱される。」という記載や,「燃料電池システム100の起動動作の開始当初では、燃料ガス生成器2の改質部における改質触媒温度は、燃焼バーナ2aにより加熱されて穏やかに温度上昇するため、所定の温度にまで到達していない。そのため、改質部における水蒸気改質反応が好適に進行しないので、燃料ガス生成器2から排出される燃料ガスには、発電運転時より高濃度の一酸化炭素が含まれている。」という記載から,刊行物1に記載された「燃料ガス生成器2」は,「水蒸気改質反応を進行させるため」に水が供給されるものであるから,燃料ガス生成器2には,供給される天然ガス等の原料に対して,水蒸気改質反応が十分に行われる程度の水が供給されていると解することは自然なことである。
そして,燃焼バーナの加熱により,燃料ガス生成器2の改質部における改質触媒温度が穏やかに上昇すると,それに伴い,水蒸気改質反応が好適に進行する状態へと近づき,そうなると,当然,燃料ガス生成器2に供給される天然ガス等の原料の改質割合が徐々に高まっていく。
以上を勘案すると,刊行物1に記載された発明は,改質触媒が水蒸気改質反応に適した所定の温度まで到達していないときに,改質部に水が供給されるようにしたことで,天然ガスなどの原料(原燃料ガス)の改質割合が徐々に高まる(増加する)ようにしたものということができる。
したがって,上記相違点2は実質的なものではない。

しかも,本願補正発明の構成により,刊行物に記載された発明及び上記周知の技術的事項から予測される以上の格別顕著な効果が奏されるともいえない。

したがって,本願補正発明は,刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「改質触媒を含んでなる改質器及び前記改質触媒を加熱するバーナを有し、前記バーナによって加熱された前記改質触媒により原燃料ガスを水蒸気改質して改質ガスを生成する改質装置と、
前記改質ガスを用いて発電する燃料電池スタックと、
前記原燃料ガス、前記改質ガス、及び前記燃料電池スタックから導出されるオフガスが流通すると共に、前記改質器への水が流通する流路系と、
前記流路系における流通を制御する制御部と、を備え、
前記バーナは、前記原燃料ガス、前記改質ガス、及び前記オフガスからなる群より選択される少なくとも一種のガスを燃焼するように構成され、
前記制御部は、
前記バーナにおける燃焼開始時に、前記改質器からの導出ガスを前記バーナに導入し、
前記バーナにおける燃焼開始後で且つ前記改質触媒による前記原燃料ガスの改質割合が基準値以上となったときに、前記改質器からの導出ガスを前記燃料電池スタックに導入すると共に、前記オフガスを前記バーナに導入するように制御し、
前記改質触媒の温度が、露点温度以上且つ前記改質割合が前記基準値以上となる温度より低い基準温度となったときに、前記流路系を介して前記改質器に前記水を導入するように制御することを特徴とする、燃料電池システム。」

(2)刊行物
原査定の拒絶の理由に示された刊行物,及びその記載事項は,上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は,上記「2.」で検討した本願補正発明から「前記流路系を介して前記改質器に前記水を導入するように制御することを」の限定事項である「前記原燃料ガスの改質割合が徐々に増加するように」という構成を省いたものである。
そして,結局,本願発明と刊行物に記載された発明とは,本願補正発明と刊行物に記載された発明との相違点以外の相違点はない。

そうすると,相違点についての判断は,上記「2.(4)」に記載したものと同じであり,本願補正発明が,上記「2.(4)」に記載したとおり,刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。

(4)むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

そうすると,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-02 
結審通知日 2015-03-03 
審決日 2015-03-17 
出願番号 特願2010-83777(P2010-83777)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 572- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 康永石 哲也貞光 大樹  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 藤井 昇
関口 哲生
発明の名称 燃料電池システム及びその起動方法  
代理人 城戸 博兒  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 平野 裕之  
代理人 柴山 健一  
代理人 池田 正人  
代理人 黒木 義樹  
代理人 清水 義憲  

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