ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
---|---|
管理番号 | 1300442 |
審判番号 | 不服2013-10393 |
総通号数 | 186 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-06-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-06-05 |
確定日 | 2015-05-07 |
事件の表示 | 特願2010-503488「水中油型エマルジョンインフルエンザワクチン」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月30日国際公開、WO2008/128939、平成22年 7月22日国内公表、特表2010-524883〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2008年4月16日(パリ条約による優先権主張 2007年4月20日、同年6月12日、同年6月21日、同年12月18日 (GB)グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国、同年10月10日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成24年6月13日付けで手続補正がなされ、平成25年1月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年6月5日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。 2.平成25年6月5日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成25年6月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] (1)本件補正の内容 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 補正前の 「【請求項1】 インフルエンザウイルス抗原又はインフルエンザウイルス抗原調製物と水中油型エマルジョンアジュバントとを組み合わせて含む、ヒトの使用のための用量体積のインフルエンザ免疫原性組成物であって、該アジュバントが、(i)ヒト1用量当たり5?6mgのスクアレン、2?3mgの乳化剤、及び5?7mgのトコールから成るアジュバント;(ii)ヒト1用量当たり2?3mgのスクアレン、1?1.5mgの乳化剤、及び2.5?3.5mgのトコールから成るアジュバント;(iii)ヒト1用量当たり0.5?1.5mgのスクアレン、0.25?0.75mgの乳化剤、及び0.5?1.5mgのトコールから成るアジュバントから成る群より選択される、前記インフルエンザ免疫原性組成物。」 から、 補正後の 「【請求項1】 インフルエンザウイルス抗原又はインフルエンザウイルス抗原調製物と水中油型エマルジョンアジュバントとを組み合わせて含む、ヒトの使用のための用量体積のインフルエンザ免疫原性組成物であって、該アジュバントが、(i)ヒト1用量当たり5?6mgのスクアレン、2?3mgの乳化剤、及び5?7mgのトコールから成るアジュバント;(ii)ヒト1用量当たり2?3mgのスクアレン、1?1.5mgの乳化剤、及び2.5?3.5mgのトコールから成るアジュバントから成る群より選択される、前記インフルエンザ免疫原性組成物。」 へ補正された。 そこで、本件補正前後の請求項1を対比すると、本件補正は、本件補正前の請求項1における発明を特定するために必要な事項である 「(iii)ヒト1用量当たり0.5?1.5mgのスクアレン、0.25?0.75mgの乳化剤、及び0.5?1.5mgのトコールから成るアジュバント」を削除するものである。 (2)本件補正の適否 (2-1)本件補正の目的について 本件補正は、請求項1については、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である水中油型エマルジョンアジュバントの選択肢を 「(i)・・・(ii)・・・(iii)・・・から成る群」 から 「(i)・・・(ii)・・・から成る群」 に限定するものということができるものであり、かつ、本件補正後の請求項1に記載された発明と本件補正前の請求項1に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、請求項1については、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2-2)独立特許要件違反について そこで進んで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か、について検討する。 (2-2-1)引用例に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2006/100109号(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(引用例1は英語で記載されているので、訳文で示す。) (ア)「1. ヒトにおける、インフルエンザウイルスまたはその抗原性組成物に対するi)改善されたCD4 T細胞免疫応答、またはii)改善された記憶B細胞応答、の少なくとも1つを誘導するための免疫原性組成物の製造における、(a)インフルエンザウイルスまたはその抗原性調製物、ならびに(b)水中油型エマルジョンアジュバントの使用であって、前記水中油型エマルジョンが代謝可能なオイル、ステロール、および乳化剤を含んでなる前記使用。 ・・・ 8. 前記ステロールがα-トコフェロールである、請求項1?7のいずれか1項に記載の使用。 ・・・ 11. 前記代謝可能なオイルがスクアレンである、請求項1?10のいずれか1項に記載の使用。 12. 前記代謝可能なオイルが、前記免疫原性組成物の全体積の0.5%?20%の量として存在する、請求項1?11のいずれか1項に記載の使用。 ・・・ 18. 前記乳化剤がTween 80である、請求項1?17のいずれか1項に記載の使用。 19. 前記乳化剤が、前記免疫原性組成物の0.01?5.0重量%(w/w)の量として存在する、請求項18に記載の使用。」(請求の範囲の欄) (イ)「特定の実施形態において、免疫原性組成物は、アジュバント添加されていない抗原または抗原性組成物により得られる応答と比較して、改善されたCD4 T細胞免疫応答および改善された記憶B細胞応答の両方を誘導する能力を有する。 本発明の第2の態様においては、免疫低下したヒト個体または集団、例えば・・・高齢者のインフルエンザに対するワクチン接種用の免疫原性組成物の製造における、(a)インフルエンザウイルスまたはその抗原性調製物、および(b)水中油型エマルジョンアジュバントの使用であって、前記水中油型エマルジョンが代謝可能なオイル、ステロール、および乳化剤を含んでなる前記使用を提供する。 ・・・ 本発明の第3の態様においては、以前に、代謝可能なオイル、ステロール、適切にはα-トコフェロールおよび乳化剤を含んでなる水中油型エマルジョンアジュバントを配合されたインフルエンザウイルスまたはその抗原性調製物を用いてワクチン接種されたヒトの再ワクチン接種用の免疫原性組成物の製造における、インフルエンザウイルスまたはその抗原性調製物の使用を提供する。」(4ページ11?31行) (ウ)「好ましくは、α-トコフェロールは、免疫原性組成物の全体積の0.2%から5.0%(v/v)の間の量・・・で存在する。」(15ページ13?16行) (エ)「ワクチン接種レジメン、投薬およびさらなる効力基準 ・・・好適には、ワクチン用量は0.5mlから1mlの間であり、特に0.5mlまたは0.7mlの標準的なワクチン用量である。・・・ 好適には、前記免疫原性組成物は、低用量のHA抗原を、例えば各インフルエンザ株につき1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14μgのいずれかのHAを含む。・・・ 有利には、本発明によるワクチンの用量、特に低用量ワクチンは、一般に1用量につき約0.5、0.7または1mlである従来の注射式スプリットインフルエンザワクチンよりも、少ない体積で提供することができる。本発明による低体積用量は、1用量につき好ましくは500μl未満、より好ましくは300μl未満、最も好ましくは約200μl以下である。 したがって、本発明の一態様による好ましい低体積ワクチン用量は、低体積の低抗原用量、例えば約200μlの体積のうち約15μgもしくは約7.5μgのHAまたは約3.0μgのHA(株につき)を有する用量である。 本発明のインフルエンザ医薬は、好ましくはワクチンの一定の国際基準を満たす。」(31ページ12行?32ページ6行) (オ)「実施例III スプリットインフルエンザ抗原調製物およびAS03アジュバントを含有するワクチンを用いた65歳以上の高齢者集団における臨床試験(Explo-Flu-001) ・・・ III.2.1 ワクチンの調製 AS03アジュバント添加インフルエンザワクチン ・・・ 再構成されたAS03アジュバント添加インフルエンザワクチンの1回分用量は、0.5mlに相当し、登録されたFluarix(商標)/α-Rix(登録商標)ワクチンの場合と同様に各インフルエンザウイルス株のHAを15μg含有し、スクアレンを10.68mg、DL-α-トコフェロールを11.86mg、およびポリソルベート80(Tween80)を4.85mg含有する。 調製 AS03アジュバント添加インフルエンザワクチンの製造は、3つの主なステップからなる。 1)・・・濃縮したリン酸緩衝生理食塩水と、・・・のプレミックスとを、注射用蒸留水で希釈する。次いで3つの濃縮モノバルク・・・を、得られたリン酸緩衝生理食塩水・・・中に連続的に希釈して、最終的に、・・・の濃度になるようにする。・・・ 2)SB62エマルジョン滅菌バルクの調製、およびアジュバント容器への充填 ・水相:撹拌しながら、Tween80 902mlをPBS-mod緩衝液・・・44105mlと混合する。 ・油相:撹拌しながら、スクアレン2550mlをα-トコフェロール2550mlに添加する。 ・水相と油相の混合:・・・ ・乳化:・・・ ・・・PBSの密度は、1に等しいと考えられる。 ・・・ III.2.2. ワクチンの組成(表6)および投与 ・・・ III.6. 全体的な結論 III.6.1. 反応原性および安全性の結果 ・・・この研究は、(1)水中油型エマルジョン、すなわちAS03でアジュバント添加されたインフルエンザワクチンの、健康な高齢者における安全性および反応原性と、(2)抗体および細胞媒介性免疫応答を評価するように設計された。反応原性のデータは、AS03がアジュバント添加されたインフルエンザワクチンが、他の2種のワクチンよりも多くの局所および全身症状を誘発することを示している。しかし、求められない有害事象に関しては、これら3種のワクチンの間で差が観察されなかった。これらの結果から、候補ワクチンの反応原性および安全性のプロファイルが満足のいくものであり、臨床上許容されると結論付けることができる。 III.6.2. 免疫原性の結果 免疫応答に関し、3種のワクチンは、スプリットビリオンインフルエンザワクチンの毎年の登録に関する欧州当局の要件("Note for Guidance on Harmonisation of Requirements for influenza Vaccines" for the immunological assessment of the annual strain changes-CPMP/BWP/214/96)を上回っていた。この研究で試験がなされた3種のインフルエンザワクチンは、健康な高齢者において免疫原性であり、インフルエンザ赤血球凝集素および中和抗原に対して良好な抗体応答を示した(表21)。 ・・・」(51ページ29行?72ページ31行) (2-2-2)引用発明 引用例1の記載事項(ア)によれば、引用例1には、ヒトにおける、インフルエンザウイルスまたはその抗原性組成物に対する改善された免疫応答を誘導するための免疫原性組成物が記載され、該組成物は、(a)インフルエンザウイルスまたはその抗原性調製物、ならびに(b)水中油型エマルジョンアジュバントとを組み合わせて含むものであって、該水中油型エマルジョンが代謝可能なオイル、ステロール、および乳化剤を含んでいるものであることが記載され、上記ステロールがα-トコフェロールであり、上記代謝可能なオイルがスクアレンであり、上記代謝可能なオイルが、上記免疫原性組成物の全体積の0.5%?20%の量として存在し、上記乳化剤であるTween 80が、上記免疫原性組成物の0.01?5.0重量%(w/w)の量として存在するものであることも記載されている。また、記載事項(ウ)によれば、上記α-トコフェロールは、免疫原性組成物の全体積の0.2%から5.0%(v/v)の間の量で存在することが記載されている。また、記載事項(イ)によれば、上記免疫原性組成物は、アジュバント添加されていない抗原または抗原性組成物により得られる応答と比較して、改善された免疫応答を誘導し、例えば高齢者のインフルエンザに対するワクチン接種用のものとなることや、ヒトの再ワクチン接種用のものとなることが記載され、記載事項(オ)によれば、上記免疫原性組成物の実施例とされるワクチンが、65歳以上の高齢者集団における臨床試験の結果、反応原性および安全性のプロファイルが満足のいくもので臨床上許容されるとともに、欧州当局の要件を上回り、健康な高齢者において免疫原性であると結論付けられたことが記載されている。 そうすると、これら引用例1の記載からみて、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「インフルエンザウイルスまたはその抗原性調製物と水中油型エマルジョンアジュバントとを組み合わせて含む、例えば高齢者において免疫原性でありワクチン接種用のものとなる免疫原性組成物であって、該水中油型エマルジョンがスクアレン、α-トコフェロール、および乳化剤を含んでいるものであり、上記スクアレンが、上記免疫原性組成物の全体積の0.5%?20%の量として存在し、上記乳化剤が、上記免疫原性組成物の0.01?5.0重量%(w/w)の量として存在し、上記α-トコフェロールが、上記免疫原性組成物の全体積の0.2%から5.0%(v/v)の間の量で存在する、上記免疫原性組成物。」 (2-2-3)対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 まず、引用発明にいう「インフルエンザウイルスまたはその抗原性調製物」及び「免疫原性組成物」は、各々、本願補正発明にいう「インフルエンザウイルス抗原又はインフルエンザウイルス抗原調製物」及び「インフルエンザ免疫原性組成物」に該当するものである。また、本願補正発明にいう「トコール」は、本願明細書【0049】の記載などからみてα-トコフェロールを含むものとされているから、引用発明にいう「α-トコフェロール」は、本願補正発明にいう「トコール」に該当するものである。そして、引用発明にいう「免疫原性組成物」は、「例えば高齢者において免疫原性でありワクチン接種用のものとなる」のであるから、ヒトに使用するものであり、かつ、ヒトに投与するのに適した用量の体積を有することは自明のことであり、また、引用発明におけるスクアレン、乳化剤、及び、α-トコフェロールの量の%は、本願補正発明にいう「ヒト1用量当たり」における%のことといえる。 してみれば、両者は、 「インフルエンザウイルス抗原又はインフルエンザウイルス抗原調製物と水中油型エマルジョンアジュバントとを組み合わせて含む、ヒトの使用のための用量体積のインフルエンザ免疫原性組成物であって、該アジュバントが、スクアレン、乳化剤、及びトコールから成るアジュバントである、前記インフルエンザ免疫原性組成物。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 ・スクアレン、乳化剤、及び、α-トコフェロールすなわちトコールのヒト1用量当たりの量が、引用発明では、 「スクアレンが、上記免疫原性組成物の全体積の0.5%?20%の量として存在し、上記乳化剤が、上記免疫原性組成物の0.01?5.0重量%(w/w)の量として存在し、上記α-トコフェロールが、上記免疫原性組成物の全体積の0.2%から5.0%(v/v)の間の量で存在する」 であるのに対し、本願補正発明では、 「(i)ヒト1用量当たり5?6mgのスクアレン、2?3mgの乳化剤、及び5?7mgのトコールから成るアジュバント;(ii)ヒト1用量当たり2?3mgのスクアレン、1?1.5mgの乳化剤、及び2.5?3.5mgのトコールから成るアジュバントから成る群より選択される、」 である点(以下「相違点」という。)。 (2-2-4)判断 上記相違点について検討する。 まず、引用発明のスクアレン、乳化剤、及び、α-トコフェロールすなわちトコールの量が、ヒト1用量当たり何mgになるのか算出する。その際、乳化剤及びトコールについては、各々、引用例1の実施例のワクチンで用いられているポリソルベート80及びDL-α-トコフェロールであるとして計算する。 まずスクアレンは、免疫原性組成物の全体積の0.5%?20%とされている。また、引用例1の記載事項(エ)によれば、引用発明によるワクチンのヒト1用量は、好適には、0.5mlから1mlの間であるとともに、低用量ワクチンの場合、最も好ましくは約200μlすなわち約0.2ml以下であるとされているから、結局、引用発明によるワクチンのヒト1用量は、0.2?1mlの間の範囲を取り得ることが記載されているといえる。そうすると、ヒト1用量中のスクアレンの体積は、0.2?1ml×0.5%?20%÷100=0.001?0.2mlとなり、これに、自体周知のスクアレンの密度である0.8584(必要なら、例えば、Susan Budavariほか編、「THE MERCK INDEX」THIRTEENTH EDITION、2001年、MERCK & CO.,INC.発行、Page1564の「8847.Squalene.」の欄参照。)をかけると、ヒト1用量中のスクアレンの質量は、0.001?0.2ml×0.8584×1000=0.8584?171.68mgとなる。同様に、トコールであるDL-α-トコフェロールのヒト1用量中の質量は、自体周知のDL-α-トコフェロールの密度である0.950(必要なら、例えば、上記「THE MERCK INDEX」Page1693の「9571.α-Tocopherol.」の欄参照。)を用いて、0.2?1ml×0.2%?5.0%÷100=0.0004?0.05ml、0.0004?0.05ml×0.950×1000=0.380?47.5mgとなる。一方、乳化剤は、免疫原性組成物の0.01?5.0重量%(w/w)とされている。ここで、引用例1の記載事項(オ)によれば、引用例1の実施例のワクチンの主たる溶媒は水であるから、引用発明の免疫原性組成物の密度を1とすると、引用発明によるワクチンのヒト1用量の質量は0.2?1ml×1=0.2?1gとなるので、その中の乳化剤であるポリソルベート80の質量は、0.2?1g×0.01?5.0重量%(w/w)÷100×1000=0.02?50mgとなる。以上をまとめると、引用発明のスクアレン、乳化剤、及び、α-トコフェロールすなわちトコールの量は、ヒト1用量当たり、各々、0.8584?171.68mg、0.02?50mg、及び、0.380?47.5mgになる。 そうすると、かかる引用発明に接した当業者ならば、引用発明のスクアレン、乳化剤、及び、α-トコフェロールすなわちトコールの量について検討し、上記0.8584?171.68mg、0.02?50mg、及び、0.380?47.5mgの範囲内の量である、(i)ヒト1用量当たり5?6mgのスクアレン、2?3mgの乳化剤、及び5?7mgのトコールから成るアジュバント;(ii)ヒト1用量当たり2?3mgのスクアレン、1?1.5mgの乳化剤、及び2.5?3.5mgのトコールから成るアジュバントから成る群より選択される、という本願発明の量とすることに、格別の創意を要したものとはいえない。しかも、引用例1の記載事項(オ)によれば、引用例1の実施例のワクチンに含まれるスクアレン、乳化剤であるポリソルベート80、及び、トコールであるDL-α-トコフェロールの量は、各々、10.68mg、4.85mg、及び、11.86mgであり、これらは、引用発明のスクアレン、乳化剤、及び、トコールの0.8584?171.68mg、0.02?50mg、及び0.380?47.5mgの範囲の中では、それらの下限値に近いものである。そうすると、上記当業者がこの実施例のワクチンの組成を見れば、引用発明の上記範囲の中でも、それらの下限値に近い量といえる、上記本願発明の量とすることに、なおのこと格別の創意を要したものとはいえない。さらには、引用例1の記載事項(オ)によれば、引用例1の実施例のワクチンの反応原性のデータは、「AS03がアジュバント添加されたインフルエンザワクチンが、他の2種のワクチンよりも多くの局所および全身症状を誘発することを示している。」とされているから、上記当業者がこの実施例のワクチンの反応原性についての記載を見れば、AS03すなわちスクアレン、乳化剤であるポリソルベート80、及び、トコールであるDL-α-トコフェロールを添加することにより、ワクチンに上記反応原性がもたらされるという示唆を受けるものといえる。してみれば、かかる示唆を受けた上記当業者ならば、反応原性の低下を図るべく、引用発明の上記範囲の中で、かつ、その下限値に近い量の中でも、引用例1の実施例のワクチンに含まれるスクアレン等の量より少ない量である、上記本願発明の量とすることに、ますます格別の創意を要したものとはいえない。 また、本願補正発明の効果について検討するに、本願明細書の【0023】、【0024】の記載や審判請求人の主張からみて、本願補正発明は、インフルエンザ抗原が少量でよいこと、全ての年齢群の十分な防御を付与すること、免疫原性組成物内のアジュバントの個々の成分が以前に有用と考えられていたレベルよりも低いレベルであっても、抗原に対する免疫原性のレベルを維持し、また、非アジュバント化組成物と比較して良好な免疫原性を示す一方、宿主レシピエントにおける反応原性が低減されているという利点を有すること、という効果を有するものとされている。 しかしながら、インフルエンザ抗原が少量でよいことは、引用例1の記載事項(エ)における「好適には、前記免疫原性組成物は、低用量のHA抗原を、例えば各インフルエンザ株につき1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14μgのいずれかのHAを含む。」なる記載から当業者が予測し得たことである。また、全ての年齢群の十分な防御を付与することは、引用例1の記載事項(オ)における65歳以上の高齢者集団における臨床試験の結果の記載から当業者が予測し得たことである。また、免疫原性組成物内のアジュバントの個々の成分が以前に有用と考えられていたレベルよりも低いレベルであっても、抗原に対する免疫原性のレベルを維持し、また、非アジュバント化組成物と比較して良好な免疫原性を示すこととは、要するに、引用例1の記載事項(オ)のAS03アジュバント添加インフルエンザワクチンにおける、スクアレン10.68mg、DL-α-トコフェロール11.86mg、ポリソルベート80 4.85mg、よりも低いレベルである本願補正発明におけるこれら3成分の量であっても、抗原に対する免疫原性のレベルを維持し、また、非アジュバント化組成物と比較して良好な免疫原性を示すことを指していると解されるが、本願補正発明におけるスクアレン、乳化剤、及び、トコールの量は、引用例1におけるこれら3成分の量の範囲に含まれているのであるから、本願補正発明の上記免疫原性は、引用例1の記載事項(イ)や(オ)から当業者が予測し得たことである。また、この点に関し、本願明細書の実施例のデータを検討すると、AS03を半用量などに減らして配合したワクチンが、全用量配合したワクチンに比較して優れた、あるいは、同等の免疫原性を示したデータも見られるものの、全用量配合したワクチンに比較して劣る免疫原性を示したデータも多数見られることから、これらのデータからも、本願補正発明が、免疫原性のレベルの点で、引用例1の記載から当業者が予想できない優れた効果を奏し得たとすることはできない。最後に、宿主レシピエントにおける反応原性が低減されているという利点を有することについては、先に説示したように、引用例1の記載事項(オ)の実施例のワクチンの反応原性についての記載を当業者が見れば、AS03によりワクチンに上記反応原性がもたらされるという示唆を受けるものといえるから、AS03を減らすことにより当業者が予測し得たことである。 したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 (2-3)むすび よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成24年6月13日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?63に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「【請求項1】 インフルエンザウイルス抗原又はインフルエンザウイルス抗原調製物と水中油型エマルジョンアジュバントとを組み合わせて含む、ヒトの使用のための用量体積のインフルエンザ免疫原性組成物であって、該アジュバントが、(i)ヒト1用量当たり5?6mgのスクアレン、2?3mgの乳化剤、及び5?7mgのトコールから成るアジュバント;(ii)ヒト1用量当たり2?3mgのスクアレン、1?1.5mgの乳化剤、及び2.5?3.5mgのトコールから成るアジュバント;(iii)ヒト1用量当たり0.5?1.5mgのスクアレン、0.25?0.75mgの乳化剤、及び0.5?1.5mgのトコールから成るアジュバントから成る群より選択される、前記インフルエンザ免疫原性組成物。」 4.引用例に記載された事項 引用例1に記載された事項は、上記2.の(2-2-1)に記載したとおりであり、引用例1から認定される引用発明は、上記2.の(2-2-2)に記載したとおりである。 5.対比・判断 本願発明は、本願補正発明における、水中油型エマルジョンアジュバントの選択肢を増やしたインフルエンザ免疫原性組成物の発明であるから、本願補正発明を包含するものである。 そうすると、本願補正発明が、上記2.の(2-2-4)にて説示したとおり、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該本願補正発明を包含する本願発明も、同様に、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-11-19 |
結審通知日 | 2014-11-25 |
審決日 | 2014-12-08 |
出願番号 | 特願2010-503488(P2010-503488) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 宮坂 隆、瀬下 浩一 |
特許庁審判長 |
内藤 伸一 |
特許庁審判官 |
田村 明照 齋藤 恵 |
発明の名称 | 水中油型エマルジョンインフルエンザワクチン |
代理人 | 藤田 節 |
代理人 | 平木 祐輔 |
代理人 | 田中 夏夫 |
代理人 | 新井 栄一 |