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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
管理番号 1300450
審判番号 不服2013-14436  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-26 
確定日 2015-05-07 
事件の表示 特願2011-252621「公平にアクセスをユーザーに提供しながらスループットを最大にするためにマルチユーザーダイバーシティを用いた送信機志向符号分割多元接続システム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月10日出願公開、特開2012- 90290〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成16年2月2日(パリ条約に基づく優先権主張 2003年1月31日 米国)を国際出願日とする国際出願である特願2006-503258号の一部を平成21年8月7日に特願2009-184246号として新たな特許出願とし、さらに、その一部を平成23年11月18日に特願2011-252621号として新たな特許出願としたものであって、
平成24年11月27日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成25年3月1日に手続補正がなされ、平成25年3月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成25年7月6日に拒絶査定不服審判が請求され、平成26年7月7日付けで当審から拒絶理由が通知され、これに対して平成26年10月2日に意見書が提出されるとともに、手続補正がなされたものである。


第2.本願発明
平成26年10月2日付けの手続補正は、特許請求の範囲を補正していないから、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年3月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次の事項により特定されるものである。

「【請求項1】
複数の通信チャネルに関連する通信リンク品質リポートを送信することと、ここにおいて、前記各通信チャネルは、送信周波数、送信時間および送信アンテナの少なくとも1つにより特徴づけられる、
受信側が前記通信リンク品質リポートに基づいてスケジューリングメトリックを前記複数の通信チャネルに割り当てることと、ここにおいて前記通信リンク品質リポートは複数のユーザのうちの一人に割り当てられた1セットのチャネルリポートを含む、ここにおいて、前記スケジューリングメトリックは前記通信リンク品質とユーザデータスループットの比に一部基づく、
瞬時通信リンク品質と平均ユーザデータスループットの比に基づいて前記スケジューリングメトリックを決定することと、
前記受信側が前記割り当てられたスケジューリングメトリックに基づいて、より大きなスケジューリングメトリックの順番に、前記通信に関する受信のために前記複数の通信チャネルの中から多数のチャネルを選択することと、
共通送信時間フレームに対して選択された数の前記複数の通信チャネルを介してデータを受信することと、
を備えた通信のための方法。」


第3.当審拒絶理由通知の概要
「(A)この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



(1)明細書の多数箇所に「スケジューリングメトリック」という用語が記載されているが、そもそも「スケジューリングメトリック」の定義が不明である。

(2)(省略)

(3)請求項1に「受信側が前記通信リンク品質リポートに基づいてスケジューリングメトリックを前記複数の通信チャネルに割り当てること」と記載されている。通信リンク品質リポートは、リンク毎に存在する。また、スケジューリングメトリックを前記複数の通信チャネルに割り当てるから、スケジューリングメトリックは通信チャネル毎に定義される。
発明の詳細な説明は、リンク毎の通信リンク品質リポートから、どのようにして、通信チャネル毎のスケジューリングメトリックを作成するのか、実施できる程度に記載されていない。

(4)請求項1に「受信側が前記通信リンク品質リポートに基づいてスケジューリングメトリックを前記複数の通信チャネルに割り当てること」と記載されている。スケジューリングメトリックを前記複数の通信チャネルに割り当てるから、スケジューリングメトリックは通信チャネル毎に定義される。
また、請求項1に「瞬時通信リンク品質と平均ユーザデータスループットの比に基づいて前記スケジューリングメトリックを決定する」と記載されている。瞬時通信リンク品質と平均ユーザデータスループットの比は、リンク毎に定義される。
発明の詳細な説明は、リンク毎に定義される、瞬時通信リンク品質と平均ユーザデータスループットの比から、どのようにして、通信チャネル毎に定義されるスケジューリングメトリックを決定するのか、実施できる程度に記載されていない。

(5)(省略)

(6)段落番号【0028】-【0029】には「より大きなスケジューリングメトリックの順番に、」「多数のチャネルを選択すること」が記載されていないから、請求項1-8に係る発明を直接的にサポートする箇所ではないかもしれない。しかし、段落番号【0028】-【0029】には、「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する最大比」に基づく処理が記載されているから、請求項1-8に係る発明の基礎となる事項が記載されている箇所であることは間違いない。
段落番号【0029】に「すなわち、そのリンクが現在のリンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザーにチャネルを介して送信することにより、チャネルの各リンクは、その最良の状態で使用してもよい。その最良の状態にある場合のみ、リンクがそれぞれ使用されれば、システムの全面的なスループットが増加されるかもしれない。」と記載されている。
「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザー」は、現在のリンク状態を測定した後に決まる。現在のリンク状態を測定した後には、もう既にリンク状態が変わっているかもしれない。よって、現在のリンク状態を測定した後には、前記ユーザーは、もう既に「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザー」ではなくなっており、「過去のリンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザー」になっている可能性がある。
したがって、測定により「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザー」を決定して、該ユーザーにリンクを使用させても、リンクを、その最良の状態で使用することは不可能であると認められる。
よって、どのようにして、各リンクをその最良の状態で使用することを可能とするのか、実施できる程度に記載されていない。

(7)図2Aにおいて、ライン201が一定の区間であって、且つ左からi番目の区間を「T(i)」で表すことにする。ライン201については、区間T(3)においてユーザー2が、「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザー」になっている。しかし、そのことに基づいて、区間T(4)においてユーザー2にチャネルを介して送信しても、区間T(4)では、ユーザー1が、「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザー」であり、ユーザー2は、もはや「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザー」ではなくなっている。
したがって、段落番号【0029】の「チャネルの各リンクは、その最良の状態で使用してもよい。その最良の状態にある場合のみ、リンクがそれぞれ使用されれば、」は、実行することが不可能である。
よって、どのようにして、その最良の状態にある場合のみ、リンクがそれぞれ使用されることを可能とするのか、実施できる程度に記載されていない。

(8)(省略)

(9)(省略)

(10)段落番号【0029】に「平均リンク状態に関する比較的高い瞬時のリンク品質を持っているリンクに関連したユーザー104に送信する」と記載されている。
これは、例えば、リンク106Aよりもリンク106Bの方が、「平均リンク状態に関する比較的高い瞬時のリンク品質を持っているリンク」である場合に、リンク106A及びリンク106Bについて、何をどうすることを意味しているのか不明である。

(11)段落番号【0029】に「そのリンクが現在のリンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザーにチャネルを介して送信する」と記載されている。
これは、例えば、リンク106Aの「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する比」よりもリンク106Bの「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する比」が大きい場合には、「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザー」は、ユーザー2ということになるが、そのときに何をどうすることを意味しているのか不明である。また、この「チャネル」は、どういうチャネルなのかも不明である。

(12)段落番号【0029】に「チャネルの各リンクは、その最良の状態で使用してもよい。」と記載されている。
これは、例えば、リンク106Aの「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する比」よりもリンク106Bの「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する比」が大きい場合には、「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザー」は、ユーザー2ということになるが、そのときにリンク106Aとリンク106Bをそれぞれどうすることを意味しているのか不明である。

(13)(省略)

(14)段落番号【0081】に「スケジューリングメトリックを複数のチャネルに割り当てることは、少なくとも複数のユーザーから受信した少なくともリンク品質リポートに基づいているかもしれない。」と記載されている。
スケジューリングメトリックを複数のチャネルに割り当てるから、スケジューリングメトリックは、チャネル毎に存在する。他方、リンク品質リポートは、リンク毎に存在する。したがって、リンク毎に存在するリンク品質リポートから、チャネル毎のスケジューリングメトリックをどのようにして作成するのか不明である。

(15)(省略)

よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。


(B)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



(1)請求項1の「受信側が前記通信リンク品質リポートに基づいてスケジューリングメトリックを前記複数の通信チャネルに割り当てる」は、発明の詳細な説明のどこでどのようにサポートされているのか不明である。

(2)請求項1「ここにおいて、前記スケジューリングメトリックは前記通信リンク品質とユーザデータスループットの比に一部基づく」は、発明の詳細な説明のどこでどのようにサポートされているのか不明である。

(3)請求項1「瞬時通信リンク品質と平均ユーザデータスループットの比に基づいて前記スケジューリングメトリックを決定する」は、発明の詳細な説明のどこでどのようにサポートされているのか不明である。

(4)請求項1の「前記受信側が前記割り当てられたスケジューリングメトリックに基づいて、より大きなスケジューリングメトリックの順番に、前記通信に関する受信のために前記複数の通信チャネルの中から多数のチャネルを選択する」は、発明の詳細な説明のどこでどのようにサポートされているのか不明である。

(5)上記(1)-(4)は、請求項2-8についても同様である。

よって、請求項1-8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。


(C) この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)請求項1に「受信側が前記通信リンク品質リポートに基づいてスケジューリングメトリックを前記複数の通信チャネルに割り当てること」と記載されている。通信リンク品質リポートは、リンク毎に存在する。また、スケジューリングメトリックを前記複数の通信チャネルに割り当てるから、スケジューリングメトリックは通信チャネル毎に定義される。
リンク毎の通信リンク品質リポートから、どのようにして、通信チャネル毎のスケジューリングメトリックを作成するのか不明確である。

(2)請求項1に「受信側が前記通信リンク品質リポートに基づいてスケジューリングメトリックを前記複数の通信チャネルに割り当てること」と記載されている。スケジューリングメトリックを前記複数の通信チャネルに割り当てるから、スケジューリングメトリックは通信チャネル毎に定義される。
また、請求項1に「瞬時通信リンク品質と平均ユーザデータスループットの比に基づいて前記スケジューリングメトリックを決定する」と記載されている。瞬時通信リンク品質と平均ユーザデータスループットの比は、リンク毎に定義される。
リンク毎に定義される、瞬時通信リンク品質と平均ユーザデータスループットの比から、どのようにして、通信チャネル毎に定義されるスケジューリングメトリックを決定するのか不明確である。

(3)(省略)

(4)(省略)

よって、請求項1-8に係る発明は明確でない。

(D)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(以下、省略)」


第4.当審の判断
以下の記載における下線は、当審が付加したものである。

1.理由(A)の(1)について
ア.審判請求人は平成26年10月2日付けの意見書において、以下のように説明している。
「しかしながら、例えば、本願の明細書の段落[0018]には、以下のように記載されています。
[0018]
「スケジューラー基準(scheduler metric)は、ユーザーに、他のユーザーのためにアクセスを許可する望ましさに関連のあるアクセスを与えるための望ましさのものさしである。・・・最も大きなスケジューラー基準を有するユーザーは、発明の1つ以上の観点に従って、チャネルへのアクセスを提供される。」
さらに、発明の詳細な説明には、スケジューリングメトリックが決定されうる方法も多く説明されています。例えば、本願の明細書の段落[0029]に「・・・データが各スロットで送信されるリンクの選択は、チャネルの平均データスループットに対する瞬時のリンク品質の機能に基づく。」と記載されているように、スケジューリングメトリックは、瞬時の通信リンク品質と平均ユーザーデータスループットとの比に基づいて決定されます。
したがって、「スケジューリングメトリック」の定義は、発明の詳細な説明の記載から十分に明確であると思料いたします。」

イ.しかし、正確には、本願の明細書の段落番号【0018】には、「スケジューラー基準は、ユーザーに、」と記載されているのであって、「スケジューラー基準(scheduler metric)は、ユーザーに、」と記載されているわけではない。したがって、仮に、本願の明細書の段落番号【0018】において、定義が与えられているとしても、それは「スケジューラー基準」の定義であって、「スケジューリングメトリック」の定義でない。
次に、「他のユーザーのためにアクセスを許可する望ましさに関連のあるアクセス」という文言は意味が不明りょうであるから、明確に定義されているとは言えない。
更に、「Aは、Bである。」という文は、一般的には、Aの属性の一つを述べているだけであって、Aの定義を与えない。このことは、「正三角形は、二等辺三角形である。」という文は、真ではあるが、正三角形の定義を与えていないという例からも明らかである。
また、確かに、発明の詳細な説明には、スケジューリングメトリックが決定されうる方法も多く説明されているが、スケジューリングメトリックを決定する方法も多く説明することと、「スケジューリングメトリック」を明確に定義することとは、別である。スケジューリングメトリックを決定する方法も多く説明することによって、「スケジューリングメトリック」が明確に定義されるわけではない。
したがって、本願の明細書には、「スケジューリングメトリック」を明確に定義した箇所が無いと言わざるを得ない。

2.理由(A)の(3)について
ア.審判請求人は平成26年10月2日付けの意見書において、以下のように説明している。
「しかしながら、本願の明細書の段落[0029]には、「・・・データが各スロットで送信されるリンクの選択は、チャネルの平均データスループットに対する瞬時のリンク品質の機能に基づく。」と記載されています。該記載から、当業者が「瞬時のリンク品質」と「平均データスループット」を容易に理解できるものと思料いたします。さらに、明細書の段落[0055]および[0056]には、「スケジューラーメトリック計算機403aは、最も最近に受信した瞬時のリンク品質インジケーターをフィルター出力値により除算し、スケジューラーメトリックAMを計算する。・・・スケジューラーメトリックの値が瞬時のリンク品質に正比例することがわかる。」と記載されています。また、明細書の段落[0044]には、「この発明の種々の観点に従って、フィルター出力値は平均データスループットである。」と記載されています。
したがって、発明の詳細な説明は、通信チャネル毎のスケジューリングメトリックがどのように作成されるかについての少なくとも1つの例を明確に開示しており、その他の例についても明細書の記載によってサポートしていると思料いたします。」

イ.審判請求人が指摘した段落番号【0029】の記載における「チャネルの平均データスループットに対する瞬時のリンク品質」は、リンク毎に決まるから、言わば「リンク毎のメトリック」と言うことができる。そして、審判請求人が指摘した段落番号【0029】の記載の内容は、「データが各スロットで送信されるリンクの選択は、リンク毎のメトリックの機能に基づく。」と言うことができる。ここには、「通信チャネルにスケジューリングメトリックを割り当てる。」という内容は何ら含まれていない。
本願の明細書の段落番号【0013】には、「そのため、チャネルは、チャネルを共有する各ユーザーに送信器を接続する通信リンクのコレクションかもしれない。」と記載されている。この段落番号【0013】の記載は、一つのチャネルが、複数の通信リンクに対応しているということであるから、一つのチャネルに、複数のリンク毎のメトリックが対応していることになる。この状態から、どのようにして、通信チャネルにスケジューリングメトリックを割り当てるのかは、明らかでない。
加えて、審判請求人は、平成26年10月2日付けの意見書において、当審拒絶理由(D)に対して、「しかしながら、本願の明細書の段落[0014]には、以下のように、所与のチャネルの特定のユーザーのリンク品質が同一チャネルの他のユーザーについてのリンク品質とどのように異なるか、およびリンク品質とチャネル品質とが実際は相関していないことが説明されています。」と主張している。
審判請求人が主張するように、チャネル品質がリンク品質と相関していないのであれば、一つのチャネルが複数の通信リンクに対応している状態において、複数のリンク毎のメトリックから、どのようにして、通信チャネルにスケジューリングメトリックを割り当てるのかは、一層、明らかでない。

審判請求人が指摘した段落番号【0055】、【0056】の「最も最近に受信した瞬時のリンク品質インジケーターをフィルター出力値により除算し、スケジューラーメトリックAMを計算」すれば、スケジューラーメトリックAMは、リンク毎に定まる。このようにして得られたリンク毎の複数のAMから、複数の通信リンクに対応する一つのチャネルに、どのようにしてスケジューリングメトリックを割り当てるのかは、明らかでない。審判請求人が主張するように、チャネル品質がリンク品質と相関していないのであれば、なおさらである。

審判請求人が指摘した段落番号【0044】の直前の段落番号【0043】の式2中には、「C_(k)」とあるから、段落番号【0044】の「フィルター出力値は平均データスループットである。」とはk番目のリンクについての記載である。フィルター出力値は、複数のリンクそれぞれについて算出されるから、それを用いて算出されるメトリックも複数のリンクそれぞれについて算出される。したがって、複数のリンクそれぞれについてのメトリックから、どのようにして、複数の通信リンクに対応する一つのチャネルに、スケジューリングメトリックを割り当てるのかは、明らかでない。審判請求人が主張するように、チャネル品質がリンク品質と相関していないのであれば、なおさらである。

3.理由(A)の(4)について
ア.審判請求人は平成26年10月2日付けの意見書において、以下のように説明している。
「しかしながら、上記(3)において述べたように、本願の明細書の段落[0055]および[0056]には、通信チャネル毎のスケジューリングメトリックがどのように作成されるかに関する1つの例が明確に開示されており、該引用段落の数式5は、そのような値の比を開示しています。
よって、これらの発明の詳細な説明の記載から、当業者が、2つの値を集め、集めた2つの値の比を計算し、その比を同様に計算された他の比と比較することを容易にできるものと思料いたします。」

イ.本願の明細書の段落番号【0055】,【0056】で得られるスケジューラーメトリックAMは、リンク毎に定まる。リンク毎の複数のAMから、複数の通信リンクに対応する一つのチャネルに、どのようにしてスケジューリングメトリックを割り当てるのかは、明らかでない。審判請求人が主張するように、チャネル品質がリンク品質と相関していないのであれば、なおさらである。

4.理由(A)の(6)について
ア.審判請求人は平成26年10月2日付けの意見書において、以下のように説明している。
「審判長殿は、本願の明細書の段落[0028]および[0029]が、独立請求項1に記載の「より大きなスケジューリングメトリックの順番に、」「多数のチャネルを選択すること」をサポートしていないと指摘されました。
独立請求項1の上記内容の根拠は、明細書の記載全体にわたり見受けられますが、特に明細書の段落[0077]および[0078]には、以下のように記載されています。
[0077]
「・・・そのユーザーがスケジューラーメトリックAiを有するNの選択されたユーザーの場合、各ユーザーは、合計の利用可能な電力の以下の一部分を与えられることができる。共通の送信所102は5つの最も大きいスケジューラーメトリック値を有する5つのABRユーザーに送信することができる。・・・」
[0078]
「電力は、各ユーザーに関連するスケジューラーメトリックに比例してユーザーの中で分割される。」
上記例では、合計平均電力は5つの最も大きいスケジューリングメトリック値を有する5人のユーザーの中で分割されます。
したがって、該段落の記載は、独立請求項1の「より大きなスケジューリングメトリックの順番に、・・・多数のチャネルを選択すること」という記載を十分にサポートしていると思料いたします。」

イ.理由(A)の(6)は、読めば分かるように、請求項1の「より大きなスケジューリングメトリックの順番に、・・・多数のチャネルを選択すること」がサポートされていないことを指摘したものではない。したがって、審判請求人の説明は、理由(A)の(6)に対応したものでなく、的外れである。
理由(A)の(6)は、段落番号【0029】の「すなわち、そのリンクが現在のリンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザーにチャネルを介して送信することにより、チャネルの各リンクは、その最良の状態で使用してもよい。その最良の状態にある場合のみ、リンクがそれぞれ使用されれば、システムの全面的なスループットが増加されるかもしれない。」が実施できるように記載されていないことを指摘したものである。
「そのリンクが現在のリンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザー」は、現在のリンク状態を測定しなければ求まらない。その測定時刻と、求まった該ユーザーにチャネルを介して送信する送信時刻との間には時間差があるから、送信時刻においては、該ユーザは、「そのリンクが過去の(すなわち、測定時刻の)リンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザー」であって、もはや「そのリンクが現在の(すなわち、送信時刻の)リンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザー」ではないことを指摘したものである。
このことは、段落番号【0056】の「次に、チャネル106のどのリンクが次のスロットにおける送信に対して選択されることになっているか決めるために、チャネル106に含まれるリンクのすべてのスケジューラーメトリックは、リンク選択プロセッサー405によって直接比較される。」という記載からも確認できる。つまり、リンクのすべてのスケジューラーメトリックを比較するのは、今のスロットであって、送信するのは次のスロットである。今のスロットにおいて、スケジューラーメトリックが最大であるリンクが、次のスロットにおいては、スケジューラーメトリックが最大ではなくなる可能性があるのは当然である。本願の図2Aにおいて、左から3番目のスロットでは、実線の番号201のメトリックが大きいが、左から4番目のスロットでは、点線の番号203のメトリックの方が大きくなっていることが、このことの正しさを示している。
したがって、理由(A)の(6)が、依然として解消していない。

5.理由(A)の(7)について
ア.審判請求人は平成26年10月2日付けの意見書において、以下のように説明している。
「審判長殿は、図2Aについて、区間T(4)においてユーザー2にチャネルを介してリンクが送信されると判断されました。
しかしながら、出願人は、該判断が正当なものではないと考えます。具体的には、(審判長殿が定義された)「ユーザー2」ではなく、「ユーザー1」が「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザー」であると思料いたします。明細書の段落[0028]および[0029]に明確に記載されているように、「リンク106A」(203)の瞬時のリンク状態(拒絶理由通知書の「ユーザー1」に対応)は、高い比をもたらす「リンク106A」(205)の平均リンク状態に関して高く、対照的に、「リンク106B」(201)の瞬時のリンク状態(拒絶理由通知書の「ユーザー2」に対応)は、低い比をもたらす「リンク106B」(207)の平均リンク状態に関して低いです。明細書の段落[0029]に「・・・データが各スロットで送信されるリンクの選択は、チャネルの平均データスループットに対する瞬時のリンク品質の機能に基づく。」と記載されています。区間T(4)では、「ユーザー1」に対応する「リンク106A」は、平均リンク品質(205)に関してより高い比の瞬時のリンク品質(203)を有しています。したがって、「ユーザー2」に関連したリンクではなく、「ユーザー1」に関連したリンクが選択されます。
よって、上記ご判断は誤りであると思料いたします。」

イ.審判請求人の説明は、リンク状態の測定時刻と、送信時刻との間に時間差が発生することを無視した説明である。段落番号【0056】の「次に、チャネル106のどのリンクが次のスロットにおける送信に対して選択されることになっているか決めるために、チャネル106に含まれるリンクのすべてのスケジューラーメトリックは、リンク選択プロセッサー405によって直接比較される。」という記載からも、測定時刻と送信時刻との間に1スロット以上の時間差があることは明らかであるから、審判請求人の説明は、理解できる説明ではない。

6.理由(A)の(10)について
ア.審判請求人は平成26年10月2日付けの意見書において、以下のように説明している。
「しかしながら、上記(7)において述べたように、明細書の段落[0028]、[0029]、および図2は、「リンク106A」および「リンク106B」を明確に開示および説明しています。特に、明細書の段落[0028]には、図2Aの特定の例の具体的な状態が記載され、「リンク106Aを介して送信機からの信号を受信するユーザー104Aは、リンク106Bを介して送信機と通信するユーザー104Bより共通の送信所102から遠い。」と記載されています。
したがって、これらの記載から、当業者は明確に「リンク106A」および「リンク106B」について理解できるものと思料いたします。」

イ.明細書の段落番号【0028】の「リンク106Aを介して送信機からの信号を受信するユーザー104Aは、リンク106Bを介して送信機と通信するユーザー104Bより共通の送信所102から遠い。」という記載を参照しても、例えば、リンク106Aよりもリンク106Bの方が、「平均リンク状態に関する比較的高い瞬時のリンク品質を持っているリンク」である場合に、段落番号【0029】の「平均リンク状態に関する比較的高い瞬時のリンク品質を持っているリンクに関連したユーザー104に送信する」とは、リンク106A及びリンク106Bについて、何をどうすることを意味しているのか不明である。
したがって、理由(A)の(10)が、依然として解消していない。

7.理由(A)の(11)について
ア.審判請求人は平成26年10月2日付けの意見書において、以下のように説明している。
「しかしながら、上記(7)において述べたように、「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザー」がユーザー2であるとのご判断は誤りであると思料いたします。」

イ.読めば分かるように、理由(A)の(11)は、理由(A)の(7)の記載を前提としたものではない。図2Aにおいてリンク106Aのメトリックとリンク106Bのメトリックを比較すれば、リンク106Aのメトリックの方が大きい時刻もあれば、リンク106Bのメトリックの方が大きい時刻もあることが明らかである。したがって、理由(A)の(11)の前提である、「例えば、リンク106Aの「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する比」よりもリンク106Bの「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する比」が大きい場合には、」が、あり得ない不適切な前提というわけではない。
よって、理由(A)の(11)が、依然として解消していない。

8.理由(A)の(12)について
ア.審判請求人は平成26年10月2日付けの意見書において、以下のように説明している。
「しかしながら、上記(7)において述べたように、「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザー」がユーザー2であるとのご判断は誤りであると思料いたします。」

イ.読めば分かるように、理由(A)の(11)は、理由(A)の(7)の記載を前提としたものではない。理由(A)の(12)の前提である、「例えば、リンク106Aの「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する比」よりもリンク106Bの「現在のリンク状態対平均リンク状態に対する比」が大きい場合には、」が、あり得ない不適切な前提というわけではない。
よって、理由(A)の(12)が、依然として解消していない。

9.理由(A)の(14)について
ア.審判請求人は平成26年10月2日付けの意見書において、以下のように説明している。
「しかしながら、上記(8)において述べたように、明細書の段落[0023]には、「ユーザーとの通信リンクの各々は1つ以上のチャネルあるいは多重チャネルかもしれない」と記載されています。該記載から、ユーザーとの通信リンクの各々は1つ以上のチャネルあるいは多重チャネルかもしれないため、スケジューリングメトリックが通信リンク品質リポートに基づいて複数のチャネルに割り当てられうることを、当業者が容易に理解できると思料いたします。」

イ.審判請求人は、平成26年10月2日付けの意見書において、当審拒絶理由(D)に対して、「しかしながら、本願の明細書の段落[0014]には、以下のように、所与のチャネルの特定のユーザーのリンク品質が同一チャネルの他のユーザーについてのリンク品質とどのように異なるか、およびリンク品質とチャネル品質とが実際は相関していないことが説明されています。」と主張している。
この主張のチャネル品質がリンク品質と相関していないことを考慮すれば、1つの通信リンクが、複数のチャネルに対応していたとしても、通信リンク品質リポートに基づいてスケジューリングメトリックを複数のチャネルに割り当てることは、適切でないといえる。
よって、理由(A)の(14)が、依然として解消していない。

10.理由(B)の(1)について
ア.審判請求人は平成26年10月2日付けの意見書において、以下のように説明している。
「しかしながら、本願の明細書の段落[0081]には、「スケジューリングメトリックを複数のチャネルに割り当てることは、少なくとも複数のユーザーから受信した少なくともリンク品質リポートに基づいているかもしれない。」と記載されています。さらに、明細書の段落[0023]には「ユーザーとの通信リンクの各々は1つ以上のチャネルあるいは多重チャネルかもしれない。」と記載されています。」

イ.本願の明細書の段落番号【0081】の記載は、請求項1のコピーに過ぎないから、このようなコピーによってサポートされているとは認められない。また、本願の明細書の段落番号【0013】の「そのため、チャネルは、チャネルを共有する各ユーザーに送信器を接続する通信リンクのコレクションかもしれない。」のような、1つのチャネルが、複数のリンクに対応している場合に、リンク毎のリンク品質リポートから、どのようにしてチャネルにスケジューリングメトリックを割り当てるかについては、明細書のどこにもサポートされていない。

11.理由(B)の(2)について
ア.審判請求人は平成26年10月2日付けの意見書において、以下のように説明している。
「しかしながら、明細書の段落[0029]には、「データが各スロットで送信されるリンクの選択は、チャネルの平均データスループットに対する瞬時のリンク品質の機能に基づく。」と記載されています。また、該段落には「そのリンクが現在のリンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザーにチャネルを介して送信することにより、チャネルの各リンクは、その最良の状態で使用してもよい。」と記載されています。」

イ.本願の明細書の段落番号【0029】の「チャネルの平均データスループットに対する瞬時のリンク品質」は、リンク毎のメトリックであって、チャネル毎のメトリックではない。したがって、請求項1の「複数の通信チャネルに割り当て」られる「前記スケジューリングメトリックは前記通信リンク品質とユーザデータスループットの比に一部基づく」ことは、明細書に開示されていない。

12.理由(B)の(3)について
ア.審判請求人は平成26年10月2日付けの意見書において、以下のように説明している。
「しかしながら、明細書の段落[0029]には、「データが各スロットで送信されるリンクの選択は、チャネルの平均データスループットに対する瞬時のリンク品質の機能に基づく。」と記載されています。また、該段落には「そのリンクが現在のリンク状態対平均リンク状態に対する最大比を有するユーザーにチャネルを介して送信することにより、チャネルの各リンクは、その最良の状態で使用してもよい。」と記載されています。」

イ.本願の明細書の段落番号【0029】の「チャネルの平均データスループットに対する瞬時のリンク品質」は、リンク毎のメトリックであって、チャネル毎のメトリックではない。したがって、請求項1の「瞬時通信リンク品質と平均ユーザデータスループットの比に基づいて」「複数の通信チャネルに割り当て」られる「前記スケジューリングメトリックを決定すること」は、明細書に開示されていない。

13.理由(B)の(4)について
ア.審判請求人は平成26年10月2日付けの意見書において、以下のように説明している。
「しかしながら、明細書の段落[0077]-[0078]には、「5つの最も大きいスケジューラーメトリック値を有する5つのABRユーザーに送信することができる。・・・電力は、各ユーザーに関連するスケジューラーメトリックに比例してユーザーの中で分割される。」と記載されています。」

イ.明細書の段落番号【0077】には、「例えば、そのユーザーがスケジューラーメトリックAiを有するNの選択されたユーザーの場合、各ユーザーは、合計の利用可能な電力の以下の一部分を与えられることができる。共通の送信所102は5つの最も大きいスケジューラーメトリック値を有する5つのABRユーザーに送信することができる。」と記載されている。段落番号【0077】では、共通の送信所102は、5つの最も大きいスケジューラーメトリック値を有する5つのABRユーザーを選んでいるから、このスケジューラーメトリック値は、ABRユーザーに割り当てられたものであって、通信チャネルに割り当てられたものではない。また共通の送信所102が選んでいるのは、ABRユーザーであって、チャネルではない。
したがって、段落番号【0077】には、請求項1の「複数の通信チャネルに」「割り当てられたスケジューリングメトリックに基づいて、より大きなスケジューリングメトリックの順番に、前記通信に関する受信のために前記複数の通信チャネルの中から多数のチャネルを選択すること」は、開示されていない。

14.理由(C)の(1)について
ア.審判請求人は平成26年10月2日付けの意見書において、以下のように説明している。
「明細書の段落[0023]には「ユーザーとの通信リンクの各々は1つ以上のチャネルあるいは多重チャネルかもしれない。」と記載されています。
したがって、上記記載から、スケジューリングメトリックが、リンクと関連したチャネルの各々のために決定されることを、当業者が容易に理解できるものと思料いたします。」

イ.審判請求人は、平成26年10月2日付けの意見書において、当審拒絶理由(D)に対して、「しかしながら、本願の明細書の段落[0014]には、以下のように、所与のチャネルの特定のユーザーのリンク品質が同一チャネルの他のユーザーについてのリンク品質とどのように異なるか、およびリンク品質とチャネル品質とが実際は相関していないことが説明されています。」と主張している。
このチャネル品質がリンク品質と実際は相関していないことを考慮すれば、段落番号【0023】のように、1つの通信リンクが複数のチャネルに対応しているとしても、リンク毎の通信リンク品質リポートから、どのようにして、通信チャネル毎のスケジューリングメトリックを作成するのか不明確である。
また、段落番号【0013】の「チャネルは、チャネルを共有する各ユーザーに送信器を接続する通信リンクのコレクションかもしれない。」のように、1つのチャネルが複数の通信リンクに対応している場合に、リンク毎の通信リンク品質リポートから、どのようにして、通信チャネル毎のスケジューリングメトリックを作成するのか不明確である。

15.理由(C)の(2)について
ア.審判請求人は平成26年10月2日付けの意見書において、以下のように説明している。
「しかしながら、スケジューリングメトリックが、リンクと関連したチャネルの各々のために決定されることを当業者が容易に理解できるものと思料いたします。」

イ.上記「14.理由(C)の(1)について」と同じ理由により、理由(C)の(2)が依然として解消していない。


第5.むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-25 
結審通知日 2014-12-02 
審決日 2014-12-15 
出願番号 特願2011-252621(P2011-252621)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H04W)
P 1 8・ 536- WZ (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 米倉 明日香  
特許庁審判長 近藤 聡
特許庁審判官 佐藤 聡史
江口 能弘
発明の名称 公平にアクセスをユーザーに提供しながらスループットを最大にするためにマルチユーザーダイバーシティを用いた送信機志向符号分割多元接続システム  
代理人 中村 誠  
代理人 峰 隆司  
代理人 井上 正  
代理人 井関 守三  
代理人 赤穂 隆雄  
代理人 堀内 美保子  
代理人 河野 直樹  
代理人 野河 信久  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 福原 淑弘  
代理人 佐藤 立志  
代理人 砂川 克  
代理人 岡田 貴志  

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