• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1300879
審判番号 不服2012-22757  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-19 
確定日 2015-05-27 
事件の表示 特願2002-515280「心血管の機能を向上する為の組成物及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月 7日国際公開、WO02/09727、平成16年 2月19日国内公表、特表2004-505056〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2001年7月27日(パリ条約による優先権主張 2000年 7月28日 (US)米国、2000年10月3日 (US)米国、2001年 6月29日 (US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年 3月27日付けで手続補正がなされ、平成24年7月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年11月19日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?10に係る発明は、平成24年 3月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】 2?8グラムのD-リボースを含んで成る、低下した心血管機能を有する患者の心血管機能改善剤であって、3週間以上にわたり毎日1?4回該患者に投与されることを特徴とする剤。」

3.引用刊行物記載の発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、「国際公開第99/65476号」(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(なお、引用文献1は英語で記載されているため、翻訳文として、引用文献1に対応する特表2002-518321号公報の対応箇所の記載を記す。)

(ア)「実施例4:運動により誘発される狭心症の緩和
冠状動脈疾患の履歴、ポストトリプル状態冠状動脈バイパスを有する68歳の男性患者は、運動誘発性狭心症の経験があった。当人の現在の適用薬物は、エナプリル(アンジオテンシン変換酵素阻害剤)、カルベジルオール(βブロッカー)、ニトログリセリンパッチ及び、必要な場合ニトログリセリン舌下錠である。最近の冠状動脈血管造影から、バイパスグラフトの1本の完全な閉塞を伴う冠状動脈疾患の進行が判明した。当患者は、2回の負荷検査をほとんど行えなかった。当人の運動態様は毎日の散歩であった。
狭心症の進行のために、当患者は毎日多くて1.61kmしか歩行できず、その地点で当人はニトログリセリン舌下錠を摂取した。当患者に、約250mlの水に溶解したD-リボースを経口投与した。6ヶ月間にわたり、当患者は1日に5?10gのD-リボースを間欠的に摂取した。リボース投与後に、当患者は、ニトログリセリン経口剤の補給無しに1日3.22kmまで運動許容度を増加させることができた。リボースを中止した場合、リボース投与前の狭心症を誘発する運動状態が再発し、しかもニトログリセリン経口剤の補給を必要とした。リボースの経口投与の再開により、狭心症及びニトログリセリン補給無しに1日に3.22km歩行することができた。このリボース治療に対する当人の主観的な評価は、「狭心症の痛みが大いに減少した。気分がより良く、よりエネルギー感があり、そしてより活動的になれ、しかも痛みが無く、丸薬(ニトログリセリン)も必要でない」ということである。」(引用文献1第12頁第10行?28行(特表2002-518321号公報の段落0042?0043))、
(イ)「本発明の組成物及び方法は、細胞機能を支持するために、ATP利用度が最適未満である哺乳動物においてATP合成を刺激することによって作用する。」(引用文献1第3頁第29?31行(特表2002-518321号公報の段落0015))、
(ウ)「また本発明の方法が有益である個体の群中には、加齢、外傷、敗血症、又はうっ血性心不全及びその他の慢性疾患などの病症状を有する哺乳動物が含まれる。」(引用文献1第4頁第17?19行(特表2002-518321号公報の段落0018))、
(エ)「好ましいペントースはリボース又はキシリトールである。好ましい投与量は、0.1?100gペントース/日、好ましくは1?20gペントース/日である。平均的な成人では、本発明の効果を享受するために十分な量は4?8gペントース/日であろう。投与の上限量は、対象個体の味の好みのみによって制限されるが、非常に多量の投与量では、個体は下痢を起こすかもしれない。この投与量を、1日に1回単位投与形で投与し得るが、好ましくは1日に2又は3回、最も都合良くは食事中又は食後に投与する。」(引用文献1第6頁第5行?11行(特表2002-518321号公報の段落0023))および
(オ)「リボースの自己投与が有益であった明白な疾患が無い者の例は、55歳の男性である。当人は、全身性細菌感染に罹るまで、人生の大部分において欠かさず毎週運動していたが、この感染により1ヶ月間の集中治療及び更に1ヶ月間のリハビリテーションのために入院を必要とした。当人の心臓血管系及び肺系は、病気中及び病気後に大きく影響を受け、1年後、その機能は以前のレベル、又は当人が満足するレベルまで回復しなかった。
回復後、当人は、1週間に4日のトレッドミルによるランニング及び1週間に2日の重量上げから成る運動を再開しようと試みた。このランニングは短時間に制限された。日々の運動後、当人は、絶えず消耗するまでの疲労を有し、そして頻繁な昼寝を必要とした。当患者は、1日に2回、1回に4?5gの割合でD-リボースを自分で経口投与した。7日以内に、当人は、気力及び運動許容性が増加したことを表明した。疾患後始めて、当人はトレッドミルで30分ほどの長い間ランニングすることができた。当人は依然としてある程度の疲労を有したが、運動後の昼寝を中止できた。当人は、規則的な運動と供にリボースの経口投与を毎日継続し、そしてリボース投与の4週間後にエネルギーレベルの継続的な向上を感じた。当人は、リボースによる悪影響を受けなかった。」(引用文献1第14頁第11?28行(特表2002-518321号公報の段落0048?0049))
上記記載事項(ア)?(ウ)から、引用文献1には「D-リボースを約250mlの水に溶解した、バイパスグラフトの1本の完全な閉塞を伴う冠状動脈疾患及び狭心症の進行を有する患者の運動許容度を増加させ狭心症の痛みを減少させる剤であって、1日5?10gのD-リボースを間欠的に経口投与される剤。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
まず、引用発明にいう「バイパスグラフトの1本の完全な閉塞を伴う冠状動脈疾患及び狭心症の進行を有する患者」が本願発明にいう「低下した心血管機能を有する患者」に相当することは明らかである。
また、本願明細書の発明の詳細な説明の段落0019に「本発明において、用語「心血管の機能」が用いられている時、体力の向上及び生活の質の向上を含むものと解される。」とあることから、引用発明にいう「運動許容度を増加させ狭心症の痛みを減少させる剤」は本願発明にいう「心血管機能改善剤」に相当するといえる。
さらに、本願発明及び引用発明の属する技術分野において「間欠的投与」とは、「連続投与」に対比して用いられる語であって、1日中に有効成分の血中濃度を下げる時間帯の生じる投与量および分服回数を意味する用語である(必要であれば、北山耕司 他「陳旧性心筋梗塞に対する硝酸薬間欠投与の安全性」近畿大学医学雑誌(Med J Kinki Univ)第24巻2号(1999)pp.331?337、RICHARD LUKE et al, "Transdermal Nitroglycerin in Angina Pectoris: Efficacy of Intermittent Application", Journal of the American College of Cardiology, Vol.10, No.3(1987), pp.642-646 を参照のこと)。
そうすると、両者は、
「D-リボースを含んで成る、低下した心血管機能を有する患者の心血管機能改善剤であって、該患者に投与されることを特徴とする剤」
である点で一致し、(1)剤に含まれるD-リボースの量が、本願発明では「2?8グラム」であることが定められているのに対し、引用発明では明記されていない点、及び(2)剤の投与期間が、本願発明では「3週間以上にわたり毎日」であることが定められているのに対し、引用発明では投与期間が定められていない点で、相違する。

5.当審の判断
上記相違点(1)及び(2)について検討する。
引用文献1の記載事項(エ)には、好ましいペントースとしてリボースが挙げられ、平均的な成人で本発明の効果を享受するために十分なペントースの量が4?8g/日であること、および投与頻度は1日1回でも良いが、好ましくは1日2または3回であることが示されている。
また、引用文献1の記載事項(ア)には、6ヶ月間にわたりリボースを間欠的に経口投与したこと、リボースを一旦中止した場合に、リボース投与前の狭心症を誘発する運動状態が再発し、リボースの経口投与の再開により、症状が改善したことが示されている。
してみると、引用文献1には、剤の投与頻度を、投与しない日を設けることのない毎日1?3回にするとともに、剤の投与量を1日当たり4?8gとすることが記載されているといえる。
そうすると、引用発明において、剤の投与期間を6ヶ月間中断することのない毎日とするとともに、剤の投与頻度を毎日1?3回にして剤の投与量をその投与頻度に応じたものとすることにより(1)剤に含まれるD-リボースの量を2g?8gの範囲にすること、及び(2)剤の投与期間を「3週間以上にわたり毎日」とすることは、引用文献1の記載に接した当業者が格別の創意を要さずなし得たことといえる。

また、本願発明の効果について検討するに、本願明細書の記載からみて、本願発明の効果は、低下した心血管機能を有する患者の心血管機能改善にあると認められるが、上記4.に記したとおり、この点は引用発明においても達成されている。したがって、本願発明が、引用例1の記載から当業者の予想し得ない優れた効果を奏し得たものとはいえない。

なお、審判請求人は、平成25年1月17日付け手続補正書による補正後の審判請求書において、
「すなわち、本発明は、2?8グラムのD-リボースを3週間以上にわたり1日につき1?4回投与することにより、「低下した心血管機能」、「末梢血管疾患」及び/又は「高血圧」の治療に有用であるという驚くべき知見に基づくものである。そして、高用量のD-リボースの投与は、患者に様々な副作用を与えることが知られており、D-リボースの投与におけるかかる副作用を回避することもまた極めて重要な課題である。例えば、本願明細書の段落40に詳しく議論されているとおり、15gのD-リボースを1日に4回(60グラムの1日量)のD-リボースを僅か3日間投与しただけで、目まい、吐き気及び発汗を同時に伴う低血糖症をもたらし得る。
これに対して、本発明においては、D-リボースの投与量を、1回あたり2?8グラムを1日に1?4回(2?32グラムの1日量)とすることにより、上記の副作用無しに、3週間以上にわたって投与することが可能となり、かつ同時に、上述の疾患(すなわち、「低下した心血管機能」、「末梢血管疾患」及び/又は「高血圧」)の治療効果も奏することができる。しかしながら、引用文献1には、かかる知見について、何ら記載も示唆もされていない。」および
「しかしながら、実施例4においては、D-リボースは「間欠的」に摂取されており、実施例5においては、「40gの1日用量」のD-リボースが「3日間」のみ投与されており、実施例7においても、「3日間」のD-リボースの投与が意図されているに過ぎない。したがって、これらの記載から、D-リボースの投与量を、1回あたり2?8グラムを1日に1?4回(2?32グラムの1日量)とすることには全く想到し得ないことは明らかである。
また、原審査官殿におかれては、実施例4では、D-リボースの用量として、1日に5?10gが挙げられている、とのことであるが、上述のとおり、該用量において、Dリボースは「間欠的」に摂取されていることが明示されており、これは、1回あたり2?8グラムを1日に1?4回、3週間以上にわたって「連続」投与される本発明とは明確に異なる。また、引用文献1には、該引用発明の効果、すなわち、「低下したエネルギー率を有する、あるいは高レベルのエネルギーを消費する哺乳類に利用可能なエネルギーを増加させるため」に十分な量として、4?8gペントース/日であろうことが記載されているが、これは、単にペントースの用量を列挙しただけであり、かかる用量のD-リボースによって、「低下した心血管機能」、「末梢血管疾患」及び/又は「高血圧」を治療し得ることについては、何ら予測できないことは明らかである。」などと主張する。
しかし、上述のとおり、引用発明においても低下した心血管機能を有する患者の心血管機能改善は達成されており、副作用があったことは引用文献1の実施例4についての記載には見当たらない。(上記3.(1)に示した記載事項(ア)において「このリボース治療に対する当人の主観的な評価は、「狭心症の痛みが大いに減少した。気分がより良く、よりエネルギー感があり、そしてより活動的になれ、しかも痛みが無く、丸薬(ニトログリセリン)も必要でない」ということである。」とされている。)
また、上記3.(1)に示した記載事項(オ)において、1日に2回、1回に4?5gの割合でD-リボースを自分で毎日経口投与した55歳の男性について「当人は、リボースによる悪影響を受けなかった。」とされていることから、引用文献1には、本願発明の投薬スキームではD-リボースによる副作用がなかったことが示されていると言える。
さらに、上記4.に記したとおり、「間欠的に摂取」とは1日中に有効成分の血中濃度を下げる時間帯のあることを意味する用語である上に、上記のとおり、引用文献1の記載事項(ア)には、リボースを一旦中止した場合に、リボース投与前の狭心症を誘発する運動状態が再発し、リボースの経口投与の再開により、症状が改善したことが示されているのであるから、引用発明において、(1)剤に含まれるD-リボースの量を2g?8gの範囲にすること、及び(2)剤の投与期間を「3週間以上にわたり毎日」とすることは、引用文献1の記載に接した当業者が格別の創意を要さずなし得たこととした当審の判断が覆るものではない。
よって、審判請求人の主張は受け入れられない。

6.むすび
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-20 
結審通知日 2014-02-25 
審決日 2014-03-11 
出願番号 特願2002-515280(P2002-515280)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 基章福井 悟  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 大宅 郁治
天野 貴子
発明の名称 心血管の機能を向上する為の組成物及び方法  
代理人 池田 達則  
代理人 中島 勝  
代理人 古賀 哲次  
代理人 古賀 哲次  
代理人 福本 積  
代理人 青木 篤  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 池田 達則  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 石田 敬  
代理人 石田 敬  
代理人 中島 勝  
代理人 福本 積  
代理人 青木 篤  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ