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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1300974
審判番号 不服2013-25458  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-25 
確定日 2015-05-13 
事件の表示 特願2011- 20410「半導体における周期構造の実時間分析」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月23日出願公開、特開2011-123082〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・原査定の拒絶の理由

本願は、平成14年6月17日(パリ条約による優先権主張、米国、2001年7月16日)に出願した特願2003-514342号の一部を平成23年2月2日に新たな特許出願としたものであって、その経緯は概略、以下のとおりである。

特許出願: 平成23年2月2日
拒絶査定: 平成25年8月19日付け(送達日:同年同月27日)
拒絶査定不服審判の請求: 平成25年12月25日
手続補正: 平成25年12月25日 (以下、「本件補正」という。)

そして、原査定の拒絶の理由は、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし11に係る発明は、本願出願前に国内又は外国において頒布された刊行物である米国特許第5963329号明細書(以下「引用例」という。)に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、本件補正によって補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。

「試料に形成された形体の特性を分析する装置であって、
反射させるために前記形体に向けられた探査用光線と、波長又は入射角のどちらか一方から選択したあらかじめ定めた変数の関数として当該探査用光線の光強度又は偏光状態の変化を計測しこれらに対応する出力信号を発生する検出モジュールとを含む計測システムと、
マスタープロセッサーとデータを並列に処理するよう用意された複数のスレーブプロセッサーとを有するプロセッサーシステムであって、前記プロセッサーシステムは、前記計測システムから発生した出力信号を用いて実時間ベースで前記形体の特性を明らかにするものであり、前記プロセッサーシステムは、前記形体のモデルを有し、前記形体の特性についての初期推定に基づく前記あらかじめ定めた変数についての複数の値に対応する理論データをマクスェル方程式および厳密結合波理論を用いて計算し、当該理論データを前記出力信号から導き出された正規化されたデータと比較し、その後、比較結果に基づき試料の特性についての初期推定を修正して新たな理論データを再計算し、前記計算された理論データと前記正規化されたデータとの差が最小になるまで前記比較と前記再計算とを繰り返すアルゴリズムを用いるものであり、理論データの前記計算は、前記マスタープロセッサーにより前記スレーブプロセッサーに配分され、
各スレーブプロセッサーは、前記あらかじめ定められた変数の相異なる値における計算および再計算を並列して行い、前記マスタープロセッサは前記モデルにおける形体の特性を比較し、修正する
ことを特徴とする、プロセッサーシステムと、
を具備する装置。」(以下、「本願発明」という。)


第3 引用例の記載事項・引用発明
これに対して引用例には、次の事項が図面とともに記載されている。なお、日本語訳は当審による。

(a)
「This invention generally relates to a method of characterizing the size and shape of small periodic features on a substrate. More particularly, it relates to analyzing light reflected from a grating, or transmitted through the grating, to obtain line profile information.」(明細書1欄6?10行)
(日本語訳:この発明は、一般に、基板の小さな周期特性の寸法と形を特徴づける方法に関するものです。より詳しくは、ライン形状情報を得るために、格子から反射されるか、あるいは格子に通じて伝わる光を分析することに関するものです。)

(b)
「The present invention is a method for nondestructively determining the topographical cross-section of lines on a substrate which provides line thickness, line width, and the shape of the line edge (the line profile). While a repeating structure, or grating, is required for the measurement, the method uses broad band illumination, does not involve contact with the substrate and can equally be used for buried planarized gratings. The method takes advantage of available parallel processing computer capabilities for providing rapid line profiles. Diffraction gratings are often displayed with perfectly square, sine wave, sawtooth, triangular, or other ideal edges.」(明細書4欄6?17行)
(日本語訳:この発明は、ラインの厚さ、ライン幅とライン端(ライン形状)を有する基板上のラインの組織分布の横断面を破壊せずに決定する方法です。 繰り返しの構造または格子が測定値として必要される際、広帯域の照明を使って、基板と接触しないで、埋設され平坦化された格子のために同様に使うことができる方法である。ライン形状を素早く提供するためには、並列処理能力のあるコンピュータを利用するのが有利な方法である。回折格子はしばしば、真四角のもの、正弦波のもの、のこぎり歯のもの、三角のもの、あるいは、他の理想的な端部のものでつくられている。)

(c)
「The flow chart of FIG. 1 illustrates the method of the present invention. In the first step (step 100), convergence criteria are established between measured and calculated curves acquired in steps described hereinbelow. Next a substrate having a repeating structure, such as a grating, is illuminated with broad band radiation.Diffracted radiation is collected, measured, normalized to the incident radiation, and recorded as a function of wavelength to provide an intensity versus wavelength curve (step 102). Then, an initial model (or seed model) of the line profile of the grating, a model of the broad band radiation shined on the grating, and a model of the interaction of the radiation shined with the model grating is provided to a data processing machine (step 104). The data processing machine uses Maxwell's equations to calculate a model diffracted intensity versus wavelength curve (step 106), and the measured intensity curve is then compared with this modeled intensity versus wavelength curve (step 108). If agreement between the curves within the convergence criteria of step 100 is not found, the line profile in the model is then adjusted (step 110) and the model intensity curve recalculated to attempt to improve agreement between the measured and calculated intensity curves (steps 106 and 108 repeated). The model is repeatedly adjusted and the intensity recalculated until agreement, within the convergence criteria established in step 100, between the two intensity versus wavelength curves is achieved. The theoretical profile is the actual profile to an accuracy determined by the extent of the prescribed convergence limits, measurement accuracy, and the extent to which the seed, as modified by scale factors, can approximate the actual profile (step 112). 」(明細書4欄28?58行)
(日本語訳:図1のフローチャートは、この発明の方法を示す。第一ステップ(ステップ100)において、収束基準は、以下に記述されるステップにおいて得られた測定値の曲線と計算された曲線の間で確立される。次に、繰り返し構造、例えば格子、がある基板は、広帯域の放射線で照明される。回析された放射線は集められ、測定され、入射光に標準化されて、強度対波長の曲線を提供する波長の関数として記録される。(ステップ102) それから、格子のライン形状の初期モデル(種モデル)、格子上で照射された広帯域の放射線のモデル、そして モデル格子で照射された放射線の干渉モデルは、データ処理機械に送られる。(ステップ104) データ処理機械は波長の曲線に対するモデル化された回析強度を計算するためにマクスウェルの方程式を使用し(ステップ106)、そして、測定された強度の曲線は、このモデル化された強度に対する波長の曲線と比較される。(ステップ108) ステップ100の収束基準の範囲内で曲線が一致しないときには、モデルのライン形状が調整され(ステップ110)、そして、測定された強度の曲線と計算された強度の曲線とが一致するように改善するために、モデルの強度が再計算される。(ステップ106、108が繰り返される。) ステップ100で確立された収束基準の範囲内で、2つの強度対波長の曲線が一致するまで、モデルが繰り返し調整され、強度が再計算される。 理論的な形状は、定められた収束限度の範囲と、測定精度と、スケールの要因で修正することができる種が実際の形状に近似できる範囲とによって決まる精度からなる実際の形状である。(ステップ112))

(d)
「FIG. 2 shows a diffraction grating with idealized vertical edges. The interaction of this grating with broad-band illumination (light having a range of colors) can be modeled using Maxwell's equations, and the reflected intensity as a function of wavelength for the zeroth order (the order near normal to the surface) can be calculated, as shown in FIG. 3. Preferably the grating has at least 5 lines.
FIGS. 4-6 illustrate how changes in the line profile can change the energy so diffracted. In FIG. 4, a grating similar to that of FIG. 1 is used, but with line edges having a slope of about 85 degrees. The intensity versus wavelength curve predicted by Maxwell's equations for the grating of FIG. 4 is shown in FIG. 5. To further illustrate the difference in intensity versus wavelength curves due to the change in line profile, the curves of FIGS. 3 and 5 are superimposed in FIG. 6. The marked difference in intensity versus wavelength demonstrated in FIG. 6 is taken advantage of in this invention to determine line edge profiles.」(明細書5欄9?26行)
(日本語訳:図2は、理想的な垂直端をもつ回折格子を示している。 広帯域の照明(色の範囲を有する光)を有するこの格子の相互作用はマクスウェルの方程式を使用してモデル化されることができ、そして、零次数(表面に非常に近い次数)の波長の関数となる反射強度は、図3で示されるように、計算することができる。・・・図4-6は、ラインの形状の変化がどのように回折されたエネルギーを変えるかを示している。図4では、約85度の傾斜を有するライン端である以外は、図1の格子に類似した格子が使われている。 図4の格子に対応したマックスウェルの方程式によって予測される強度に対する波長の曲線が、図5に示されている。 さらに、ライン形状を変えたことにより強度に対する波長の曲線の異なることを例示するために、第3及び第5図の曲線が図6では重ね合わされている。ライン端の形状を決定するために、図6に示される強度に対する波長の曲線における強度のきわだった違いが、この発明では利用されている。)

(e)
「FIG. 9 shows the apparatus used to measure the actual diffraction vs. wavelength curve of a particular grating. Broadband illumination source 10 is projected on line diffraction grating 12 on substrate 13 through optical apparatus 14, such as partially silvered mirror 16 and optical microscope objective 18. Light incident on grating 12 from objective 18 is diffracted into many diffraction orders, of which orders 0, 1, and 2 are shown for reflected and transmitted diffracted light. The analysis of diffracted energy reflected from absorbing substrates, such as silicon substrates, will be described in detail here. In the present invention, the diffracted light energy associated with one or more of the low orders is collected by microscope objective 18, transmitted through partially silvered mirror 16, polarizer 20, and collected by spectral separator 22a and detector 22b. Polarizer 20 provides a single polarization for the collected light energy to detector 22b, that polarization preferably being either transverse-electric(TE) or transverse-magnetic (TM). 」(明細書7欄60行?8欄11行)
(日本語訳:図9は、特定の格子における実際の回折に対する波長の曲線を測定するのに用いられた装置を示す。広帯域の照明源10は、光学装置14、例えば部分的に銀メッキをされた鏡16と光学顕微鏡対物レンズ18によって、基板13の上のライン回折格子12に照射される。対物レンズ18から格子12に入射された光は、反射され、透過された回折光として、0、1、2の次数のような、多くの回折次数のものを回折する。ここでは、例えばシリコン基板のような、吸収基板から反射された回折エネルギーの分析について、詳述する。この発明では、一つかそれ以上の低い次数に関連した回析された光エネルギーが顕微鏡対物レンズ18で集められ、部分的に銀メッキをされた鏡16、偏光子20を透過し、スペクトルセパレータ22aと検出器22bによって集められる。偏光子20は、収集した光エネルギーのうちの1つの偏光、つまり、望ましくは横向き電界(TE)か、横向き磁界(TM)した偏光を収集した光エネルギーを提供する。)

(f)
「Within spectral separator 22a, the polarized light energy is separated into its spectral components by a monochromator (not shown) and the intensity as a function of wavelength is measured by detector 22b, both of which are well known in the art. The relative reflectivity at each wavelength is then computed from the detected intensity as a function of wavelength. The computation involves a correction for the intensity of the incident light at each wavelength.」(明細書8欄16?23行)
(日本語訳:スペクトルセパレータ22aの中で偏光した光エネルギーはスペクトル成分がモノクロメータにより分離され、波長の関数としての強度が検出器22bで測定され、両者は周知の技術である。 各々の波長の相対的な反射率は、それから波長の関数として検出された強度から計算される。 計算には、各々の波長で入射光線の強度の補正が必要となる。)

(g)
「Incoming light to grating 12 and diffracted light reflected from grating 12 are shown in FIG. 10. The incident light having wavelength λi arrives at an incident angle θi from normal. The diffracted light is reflected at angle θs which is given by
θs =sin^(-1)(sinθi-λm/A)
where m is an integer referred to as the diffraction order and A is the grating period. The diffracted light reflects with a wavelength unchanged by the interaction.
The present inventors have found that choosing an optical path wherein the incident light is normal to the diffraction grating simplifies the calculation of line profile.」(明細書8欄35?50行)
(日本語訳:格子12に入射する光と格子12から反射する回折光が図10に示されている。 波長λiを有する入射光線は、標準から入射角 θiに達する。 回析光はθs =sin^(-1)(sinθi-λm/A)で与えられる角度θs、で反射される。 ここで、mは回折次数と呼ばれる整数であり、Aは回折周期である。 回析された光は、相互作用によっては変化しない波長で反射する。 この発明者は、入射光線が回折格子に法線方向である光路を選ぶことでライン形状の計算が簡単になることを見い出した。)

上記記載(a)ないし(g)、及び図面のFIG1?6,9,10の記載から、引用例には、次の発明が記載されていると認められる。

「基板の小さな周期特性の寸法と形を特徴づける装置であって、
光を基板13上の格子12に照射する広帯域の照明源10と、
格子12から反射され、透過された回折光を、偏光子20、スペクトルセパレータ22a、モノクロメータを介して、波長の関数の強度として測定する検出器22bと、
ライン形状を素早く提供するために、並列処理能力のあるコンピュータとを有し、
前記基板の小さな周期特性の寸法と形を特徴づける装置は、
格子のライン形状の初期モデルから、マクスウェルの方程式を使用して、波長の曲線に対するモデル化された回折強度を計算し、
測定された波長の関数としての強度の曲線が、モデル化された強度に対する波長の曲線と比較され、
収束基準の範囲内で、測定された強度に対する波長の曲線と計算された強度に対する波長の曲線とが一致するまで、繰り返しモデルが調整され、強度が再計算される装置。」(以下、「引用発明」という。)


第4 周知例の記載事項
1 特開平6-290283号公報(以下、「周知例1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、たとえば、制御部からの指令に基づき並列に同一のデータ処理を行なう同一構成のローカルメモリを有する要素プロセッサを複数個具備した並列データ処理装置を使用して、画像処理や行列演算などのアプリケーションを適用させた場合に関するものである。」
「【0020】実施例2.例えば、図3に示すように4個の要素プロセッサを統合させ、マスタプロセッサ11による逐次処理を行った後、この逐次処理の実行結果をスレイブプロセッサの各ローカルメモリにブロードキャストして、再び4個の要素プロセッサを並列処理させたい場合では、従来はマスタプロセッサによる逐次処理の実行結果を各スレイブプロセッサのローカルメモリへ各々データ転送してから、上記4個の要素プロセッサによる並列処理を再開しなければならなかった。
【0021】しかし、図4と図5に示すように、マスタプロセッサ11から統合された各要素プロセッサのローカルメモリに対して、書き込み制御を行なう制御線15に、統合されている全ての要素プロセッサのローカルメモリへの書き込みをイネーブル31にする機能を備え付けることにより、統合されている要素プロセッサ内でのブロードキャスト機能を実現させることができる。・・・」

2 特開平10-124479号公報(以下、「周知例2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
「【0036】このコンピュータシステムは、マスタ-スレイブ方式によってマルチプロセッサ化を図ったコンピュータシステムであり、1つのマスタプロセッサ1と、複数のスレイブプロセッサ2とを備えている。ここで、マスタプロセッサ1と各スレイブプロセッサ2は、共用バスやネットワーク等の回線3によって接続されており、この回線3を介して、マスタプロセッサ1と各スレイブプロセッサ2は双方向にデータ転送が可能となっている。
【0037】また、マスタプロセッサ1には、メモリ1aが接続されており、各スレイブプロセッサ2にも、それぞれメモリ2aが接続されている。そして、スレイブプロセッサ2は、各スレイブプロセッサ毎に独立して計算処理を行うことができるようになっており、マスタプロセッサ1は、これらのスレイブプロセッサ2による計算処理を統括して制御することができるようになっている。」
「【0043】次に、ステップS4において、マスタプロセッサ1は、各セルにおける磁化ベクトルの初期値を設定する。
【0044】次に、ステップS5において、マスタプロセッサ1は、各セルにおける磁化ベクトルを、そのセルにおける磁化分布の計算を担当するスレイブプロセッサ2に、それぞれ転送する。なお、このステップS5の処理が1回目のときは、マスタプロセッサ1は、ステップS4で設定した磁化ベクトルの初期値をスレイブプロセッサ2に転送し、2回目の以降の処理では、後述するステップS6で求められた磁化ベクトルをスレイブプロセッサ2に転送する。」

3 [M. G. Moharam,外2名,Formulation for stable and efficient implementation of the rigorous coupled-wave analysis of binary gratings,Journal of the Optical Society of America A,米国,1995年 5月,Vol. 12, No. 5,p.1068?1076](以下、「周知例3」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。なお、日本語訳は当審による。
「1.INTRODUCTION
Over the past 10 years the rigorous coupled-wave analysis (RCWA) has been the most widely used method for the accurate analysis of the diffraction of electromagnetic waves by periodic structures. It has been used successfully and accurately to analyze both holographic and surface-relief gratig structures. It has been formulated to analyze transmission and reflection planar dielectric-absorption holographic gratings, arbitrary profiled dielectric-metallic surface-relief gratings, multiplexed holographic gratings, two-dimensional surface-relief gratings, and anisotropic gratings for both planar and conical diffraction.
The RCWA is a relatively straightforward technique for obtaining the exact solution of Maxwell's equations for the electromagnetic diffraction by grating structures. It is a noniterative, deterministic technique utilizing a state-variable method that converges to the proper solution without inherent numerical instabilities. The accuracy of the solution obtained depends solely on the number of terms in the field space-harmonic expansion, with conservation of energy always being satisfied.」(1068ページ左欄1?22行)
(日本語訳:1. 序文
過去10年にわたり、厳密結合波解析(RCWA)は、電磁波の周期構造による回折の正確な解析のために最も広く使用される方法となっている。この方法は、ホログラフィック格子構造と表面レリーフ格子構造の両方の解析に成功裏かつ正確に使用されてきた。RCWAは、透過および反射面誘電吸収ホログラフィック格子、任意形状誘電金属表面レリーフ格子、多重ホログラフィック格子、2次元表面レリーフ格子、および異方性格子を、平面回折と円錐回折の両方に関して解析するために定式化された。
RCWAは、格子構造による電磁波回折に関するマクスウェルの方程式の正確な解を得るための比較的直接的な方法である。この方法は、非反復的かつ決定論的な技法で、固有の数値的不安定性なしに、適切な解に収束する状態変数法を利用する。得られる解の正確性は、エネルギーの保存が常に満たされる場の空間高調波展開における項の数に専ら依存する。)

4 [John M. Jarem,A Rigorous Coupled-Wave Analysis and Crossed-Diffraction Grating Analysis of Radiation and Scattering from Three-Dimensional Inhomogeneous Objects,IEEE TRANSACTIONS ON ANTENNAS AND PROPAGATION,米国,1998年 5月,VOL. 46, NO. 5,p.740?741](以下、「周知例4」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。なお、日本語訳は当審による。
「I. SPHERICAL RIGOROUS COUPLED-WAVE ANALYSIS FORMULATION
A very effective method of analyzing [either in single or multilayers(ML)] the electromagnetic(EM) fields that arise from planar diffraction gratings(DG) is a state variable(SV) analysis technique that is called rigorous coupled-wave analysis(RCWA). In this method, the EM fields of the DG system are determined by : 1)expanding all fields in the DG region in a set of Floquet barmonics; 2)casting the Maxwell's equations into a system of SV equations; and 3)matching EM boundary conditions at the DG interfaces to determine all of the unknown expansion coefficients of the system.」(740ページ左欄本文1?11行)
(日本語訳:I. 球状厳密結合波解析の公式化
平面回折格子(DG)からの電磁(EM)場の[単層または多層(ML)]解析に非常に有効な方法は、厳密結合波解析(RCWA)と呼ばれる状態変数(SV)解析法である[l]、[2]。この方法では、DG系のEM場が、1) 一連のフロケ調和におけるEM場の拡張、2) SV方程式の系に対するマクスウェルの方程式の適用、および3) DG界面におけるEM境界条件の整合による系の未知の全膨張係数の算出によって求められる。)


第5 対比
本願発明と引用発明とを、主たる構成要件毎に、順次対比する。

1 引用発明の「基板の小さな周期特性の寸法と形を特徴づける装置」は、その機能・構成からみて本願発明の「試料に形成された形体の特性を分析する装置」に相当する。

2 引用発明の「広帯域の照明源10」から「基板13上の格子12に照射」される「光」が、本願発明の「反射させるために前記形体に向けられた探査用光線」に相当する。また、引用発明の「検出器22b」は、「格子12から反射され、透過された回折光を、偏光子20、スペクトルセパレータ22a、モノクロメータを介して、波長の関数の強度として測定する」ものであるから、本願発明の「波長又は入射角のどちらか一方から選択したあらかじめ定めた変数の関数として当該探査用光線の光強度又は偏光状態の変化を計測しこれらに対応する出力信号を発生する検出モジュール」に対し、「あらかじめ定めた変数の関数として当該探査用光線の光強度の変化を計測しこれらに対応する出力信号を発生する検出モジュール」である点で共通するといえる。
したがって、引用発明の「光を基板13上の格子12に照射する広帯域の照明源10と、格子12から反射され、透過された回折光を、偏光子20、スペクトルセパレータ22a、モノクロメータを介して、波長の関数の強度として測定する検出器22b」と、本願発明の「反射させるために前記形体に向けられた探査用光線と、波長又は入射角のどちらか一方から選択したあらかじめ定めた変数の関数として当該探査用光線の光強度又は偏光状態の変化を計測しこれらに対応する出力信号を発生する検出モジュールとを含む計測システム」とは、「反射させるために前記形体に向けられた探査用光線と、あらかじめ定めた変数の関数として当該探査用光線の光強度の変化を計測しこれらに対応する出力信号を発生する検出モジュールとを含む計測システム」である点で共通する。

3 引用発明の「並列処理能力のあるコンピュータ」と本願発明の「マスタープロセッサーとデータを並列に処理するよう用意された複数のスレーブプロセッサーとを有するプロセッサーシステム」とは、「データを並列に処理するプロセッサーシステム」である点で共通する。 そして、引用発明の「並列処理能力のあるコンピュータ」は、「ライン形状を素早く提供するため」のものであることから、本願発明と同様に、「前記計測システムから発生した出力信号を用いて実時間ベースで前記形体の特性を明らかにするもの」であるといえる。

4 引用発明が「格子のライン形状の初期モデルから、マクスウェルの方程式を使用して、波長の曲線に対するモデル化された回折強度を計算」することと、本願発明が「前記形体のモデルを有し、前記形体の特性についての初期推定に基づく前記あらかじめ定めた変数についての複数の値に対応する理論データをマクスェル方程式および厳密結合波理論を用いて計算」していることとは、「前記形体のモデルを有し、前記形体の特性についての初期推定に基づく前記あらかじめ定めた変数についての複数の値に対応する理論データをマクスェル方程式用いて計算」している点で共通する。

5 測定値とモデル値とを比較する場合に正規化を行うことは当然であるから、引用発明において「測定された波長の関数としての強度の曲線が、モデル化された強度に対する波長の曲線と比較され、収束基準の範囲内で、測定された強度に対する波長の曲線と計算された強度に対する波長の曲線とが一致するまで、繰り返しモデルが調整され、強度が再計算される」ことは、本願発明において「当該理論データを前記出力信号から導き出された正規化されたデータと比較し、その後、比較結果に基づき試料の特性についての初期推定を修正して新たな理論データを再計算し、前記計算された理論データと前記正規化されたデータとの差が最小になるまで前記比較と前記再計算とを繰り返すアルゴリズムを用いる」ことに相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
「試料に形成された形体の特性を分析する装置であって、
反射させるために前記形体に向けられた探査用光線と、あらかじめ定めた変数の関数として当該探査用光線の光強度の変化を計測しこれらに対応する出力信号を発生する検出モジュールとを含む計測システムと、
データを並列に処理するプロセッサーシステムであって、前記プロセッサーシステムは、前記計測システムから発生した出力信号を用いて実時間ベースで前記形体の特性を明らかにするものであり、前記プロセッサーシステムは、前記形体のモデルを有し、前記形体の特性についての初期推定に基づく前記あらかじめ定めた変数についての複数の値に対応する理論データをマクスェル方程式を用いて計算し、当該理論データを前記出力信号から導き出された正規化されたデータと比較し、その後、比較結果に基づき試料の特性についての初期推定を修正して新たな理論データを再計算し、前記計算された理論データと前記正規化されたデータとの差が最小になるまで前記比較と前記再計算とを繰り返すアルゴリズムを用いるものである、ことを特徴とする、プロセッサーシステムと、
を具備する装置。」
である点で一致し、次の相違点1ないし相違点3で相違している。

・相違点1
あらかじめ定めた変数が、本願発1では、「波長又は入射角のどちらか一方から選択したあらかじめ定めた変数」であるのに対して、引用発明では、波長である点。

・相違点2
本願発明では、並列処理を行う処理装置を有する処理システムが、「マスタープロセッサーとデータを並列に処理するよう用意された複数のスレーブプロセッサーとを有するプロセッサーシステム」であり、「理論データの前記計算は、前記マスタープロセッサーにより前記スレーブプロセッサーに配分され、各スレーブプロセッサーは、前記あらかじめ定められた変数の相異なる値における計算および再計算を並列して行い、前記マスタープロセッサは前記モデルにおける形体の特性を比較し、修正する」のに対して、引用発明では、並列処理能力のあるコンピュータによって、波長の曲線に対するモデル化された回折強度を計算し、測定された波長の関数としての強度の曲線が、モデル化された強度に対する波長の曲線と比較され、収束基準の範囲内で、測定された強度に対する波長の曲線と計算された強度に対する波長の曲線とが一致するまで、繰り返しモデルが調整され、強度が再計算されているものの、該コンピュータが「マスタープロセッサーとデータを並列に処理するよう用意された複数のスレーブプロセッサーとを有」しているか否か、また、それらの各処理計算がコンピュータ内でどのように分担されているのかが不明である点。

・相違点3
理論データ(モデル化された回折強度)の計算が、本願発明では、「マクスェル方程式および厳密結合波理論を用いて」いるのに対して、引用発明では、「マクスウェルの方程式を使用」するとされているものの、厳密結合波理論を用いているか否かは不明である点。


第6 判断
上記相違点1ないし相違点3について判断する。
・相違点1について
上記「第3 引用例の記載事項・引用発明」の(g)に示されているように、照明源10からの光が基板13の上に格子12に照射され、格子12から反射され、透過された回折光の回折角度θsは、 照明光源10の波長をλi、入射光の入射角をθiとすると、θs =sin^(-1)(sinθi-λim/A) として得られることから、引用発明の回析光の強度が、波長λと入射角θの関数であることは明らかであり、回折光の測定に際して、波長と同様に入射角を変数とできることも当業者にとって自明といえる。
したがって、入射角を固定し、入射する波長を変えて測定するか、単一波長の光源を用い、入射する入射角を変えて測定するかは、測定する際に、当業者が必要に応じて適宜採用する選択的事項にすぎない。

・相違点2について
周知例1,2にも記載されているように、データを並列処理するためのプロセッサーシステムとして、データを並列処理する複数のスレイブプロセッサーと、これらを統括制御するマスタープロセッサーとからなるものは周知であるから、これを引用発明の並列処理能力のあるコンピュータとして採用することは当業者が容易になし得るものであり、またその際に、各処理計算をシステム内でどのように分担させるかは設計事項といえる。
特に、引用発明の処理計算のうち、「波長の曲線に対するモデル化された回折強度」の計算及び再計算を行う部分については、波長毎に同様な計算処理が行われ、しかも全体としてその処理時間が膨大なものとなることが当業者にとって自明であるから、この部分の処理計算をスレイブプロセッサーに分担させて並列処理し、それ以外の部分をマスタープロセッサーに分担させるようになすことは、当業者が当然に検討すべき範疇のものであるといえる。

・相違点3について
周知例3,4にも記載されているように、回折の解析に関してマクスウェルの方程式の解を得るための手法として、厳密結合波理論(厳密結合波解析)を用いるものは周知であるから、マクスウェルの方程式を使用して回折強度を計算する引用発明に厳密結合波理論を採用することは当業者が容易になし得たものである。

そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明及び周知の技術事項から予測される範囲内のものであり、格別のものではない。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。


第7 むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
以上のとおりであるから、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-05 
結審通知日 2014-12-09 
審決日 2014-12-26 
出願番号 特願2011-20410(P2011-20410)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野寺 麻美子  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 新川 圭二
中塚 直樹
発明の名称 半導体における周期構造の実時間分析  
代理人 山崎 行造  
代理人 赤松 利昭  

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