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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01R
管理番号 1301025
審判番号 不服2014-20820  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-15 
確定日 2015-06-02 
事件の表示 特願2010-191051号「実装体の製造方法、接続方法及び異方性導電膜」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月 2日出願公開、特開2010-272546号、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年8月27日の出願であって、平成26年7月7日付け(発送日:同年7月15日)で拒絶査定がされ、これに対し、平成26年10月15日に拒絶査定不服審判が請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?16に係る発明は、平成26年6月23日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
異方性導電膜を介して配線板に電子部材を実装する実装体の製造方法において、
前記配線板上に前記異方性導電膜を配置する第1の配置工程と、
前記配線板上に配置された前記異方性導電膜を加圧しながら該異方性導電膜が熱硬化しない温度で加熱して前記配線板上に前記異方性導電膜を固定する仮圧着工程と、
前記仮圧着工程にて前記配線板上に固定された前記異方性導電膜の固定位置にずれが生じている場合には、該配線板から該異方性導電膜を剥離し、該異方性導電膜が剥離された該配線板を前記第1の配置工程へ戻すリペア工程と、
前記異方性導電膜上に前記電子部材を配置する第2の配置工程と、
前記異方性導電膜上に配置された電子部材を加圧しながら加熱して前記異方性導電膜を硬化させ、硬化された該異方性導電膜を介して前記配線板と前記電子部材とを圧着させる本圧着工程とを有し、
前記異方性導電膜として、熱硬化性樹脂成分と、熱可塑性樹脂成分と、ゴム系ポリマー成分と、導電性粒子とを含有し、且つ、前記熱可塑性樹脂成分が、前記仮圧着工程での加熱における加熱温度よりも低いガラス転移温度を有する低ガラス転移温度熱可塑性樹脂と、前記仮圧着工程での加熱における加熱温度よりも高いガラス転移温度を有する高ガラス転移温度熱可塑性樹脂とを含有する異方性導電膜を用いる実装体の製造方法。
【請求項2】
前記仮圧着工程では、加熱温度を70℃?100℃とし、前記低ガラス転移温度熱可塑性樹脂が、ガラス転移温度が70℃未満の熱可塑性樹脂であるとともに、前記高ガラス転移温度熱可塑性樹脂が、ガラス転移温度が140℃以上の熱可塑性樹脂である請求項1記載の実装体の製造方法。
【請求項3】
前記異方性導電膜を構成する組成物全体の質量を100質量部とした場合に、該組成物中に前記高ガラス転移温度熱可塑性樹脂が5?20質量部で含有されていることを特徴とする請求項2記載の実装体の製造方法。
【請求項4】
前記高ガラス転移温度熱可塑性樹脂は、フルオレン骨格を有するフェノキシ樹脂である請求項2又は請求項3記載の実装体の製造方法。
【請求項5】
前記仮圧着工程では、加熱温度を70℃?100℃とし、前記低ガラス転移温度熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度が70℃未満の熱可塑性樹脂であり、前記高ガラス転移温度熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度が90℃の熱可塑性樹脂とガラス転移温度が150℃の熱可塑性樹脂とからなる請求項1記載の実装体の製造方法。
【請求項6】
前記低ガラス転移温度熱可塑性樹脂と前記高ガラス転移温度熱可塑性樹脂とは、同種の熱可塑性樹脂である請求項1乃至請求項5の何れか1項記載の実装体の製造方法。
【請求項7】
前記低ガラス転移温度熱可塑性樹脂と前記高ガラス転移温度熱可塑性樹脂とが共にフェノキシ樹脂である請求項6記載の実装体の製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂成分は、前記低ガラス転移温度熱可塑性樹脂と前記高ガラス転移温度熱可塑性樹脂とが10:20?25:10の質量割合で配合されている請求項1乃至請求項7の何れか1項記載の実装体の製造方法。
【請求項9】
前記熱硬化性樹脂成分は、ビスフェノールA型樹脂又はビスフェノールF型樹脂である請求項1乃至8の何れか1項記載の実装体の製造方法。
【請求項10】
前記異方性導電膜は、イミダゾール系潜在性硬化剤からなる熱硬化剤を更に含有する請求項9記載の実装体の製造方法。
【請求項11】
前記熱硬化性樹脂成分は、エポキシ(メタ)アクリレート及びウレタン変性(メタ)アクリレートである請求項1乃至8の何れか1項記載の実装体の製造方法。
【請求項12】
前記異方性導電膜は、過酸化物からなる熱硬化剤を更に含有する請求項11記載の実装体の製造方法。
【請求項13】
前記異方性導電膜を構成する組成物全体の質量を100質量部とした場合に、該組成物中に前記熱硬化性樹脂成分を5?20質量部含み、前記熱可塑性樹脂成分を30?50質量部含むことを特徴とする請求項1から12の何れか1項記載の実装体の製造方法。
【請求項14】
前記配線板は、ガラス基板である請求項1乃至13の何れか1項記載の実装体の製造方法。
【請求項15】
異方性導電膜を介して配線板と電子部材とを接続する接続方法において、
前記配線板上に前記異方性導電膜を配置する第1の配置工程と、
前記配線板上に配置された前記異方性導電膜を加圧しながら該異方性導電膜が熱硬化しない温度で加熱して前記配線板上に前記異方性導電膜を固定する仮圧着工程と、
前記仮圧着工程にて前記配線板上に固定された前記異方性導電膜の固定位置にずれが生じている場合には、該配線板から該異方性導電膜を剥離し、該異方性導電膜が剥離された該配線板を前記第1の配置工程へ戻すリペア工程と、
前記異方性導電膜上に前記電子部材を配置する第2の配置工程と、
前記異方性導電膜上に配置された電子部材を加圧しながら加熱して前記異方性導電膜を硬化させ、硬化された該異方性導電膜を介して前記配線板と前記電子部材とを圧着させる本圧着工程とを有し、
前記異方性導電膜として、熱硬化性樹脂成分と、熱可塑性樹脂成分と、ゴム系ポリマー成分と、導電性粒子とを含有し、且つ、前記熱可塑性樹脂成分が、前記仮圧着工程での加熱における加熱温度よりも低いガラス転移温度を有する低ガラス転移温度熱可塑性樹脂と、前記仮圧着工程での加熱における加熱温度よりも高いガラス転移温度を有する高ガラス転移温度熱可塑性樹脂とを含有する異方性導電膜を用いる接続方法。
【請求項16】
請求項1乃至14の何れか1項記載の実装体の製造方法において、配線板と電子部材との間に介在されて該配線板と該電子部材とを接続する異方性導電膜であって、
熱硬化性樹脂成分と、
熱可塑性樹脂成分と、
ゴム系ポリマー成分と、
導電性粒子とを含有し、
前記熱可塑性樹脂成分が、前記配線板上に配置した該異方性導電膜を加圧しながら該異方性導電膜が熱硬化しない温度で加熱して前記配線板上に該異方性導電膜を固定する仮圧着工程での加熱における加熱温度よりも低いガラス転移温度を有する低ガラス転移温度熱可塑性樹脂と、該仮圧着工程での加熱における加熱温度よりも高いガラス転移温度を有する高ガラス転移温度熱可塑性樹脂とを含有する異方性導電膜。」
(以下「本願発明1」?「本願発明16」という。)

第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定における拒絶の理由の概要は、以下のとおりのものである。
「この出願の請求項1?16に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開平6-203642号公報
2.特開2010-102859号公報
周知文献.特開2008-133411号公報」


第4 当審の判断
1 引用文献及びその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由において刊行物2として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2010-102859号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(以下「引用文献1記載の事項」という。)

ア 「【請求項1】
熱硬化性樹脂を主成分とし、分子量30000以上のフェノキシ樹脂、潜在性硬化剤、ポリビニルブチラール樹脂、及び導電性粒子を含有する異方導電性フィルムにおいて、
前記ポリビニルブチラール樹脂として、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂とガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂とを含有することを特徴とする異方導電性フィルム。」

イ 「【請求項6】
該異方導電性フィルムを電極間に挟み込んだ後硬化させることにより前記電極同士を接着し、再び前記電極同士を剥離した場合における剥離面に残留した該異方導電性フィルムの残留物が、ケトン系溶剤を20%以上含む混合溶剤により剥離面から除去可能であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の異方導電性フィルム。」

ウ 「【0006】
ここで、一度接続した電極間の破損または損傷を生じることなく剥離して、接着剤を溶剤等で除去した後、再度、接着剤を用いて、電極間を接続すること(以下、「リペア」という。)を容易に行うとの観点から、 ・・・(後略) 」

エ 「【0027】
より具体的には、図1に示すように、ガラス基板やガラスエポキシ基板等の回路基板1上に、例えば、エポキシ樹脂等の絶縁性の熱硬化性樹脂を主成分とする電極接続用接着剤30と、当該電極接続用接着剤30に含有される導電性粒子6を有する異方導電性フィルム2を載置し、当該異方導電性フィルム2を所定の温度に加熱した状態で、リジッド基板1の方向へ所定の圧力で加圧し、異方導電性フィルム2を回路基板1上に仮接着する。次いで、フレキシブルプリント配線板3を下向きにした状態で、回路基板1の表面に形成された配線電極4と、フレキシブルプリント配線板3の表面に形成された金属電極5との位置合わせをしながら、フレキシブルプリント配線板3を異方導電性フィルム2上に載置することにより、回路基板1とフレキシブルプリント配線板3との間に異方導電性フィルム2を介在させる。次いで、異方導電性フィルム2が所定の温度になるように、適切な温度に加熱された圧着部材であるプレスヘッド(不図示)を、フレキシブルプリント配線板3の上方に設置し、当該プレスヘッドを回路基板1の方向に移動させて、異方導電性フィルム2を所定の温度に加熱した状態で、フレキシブルプリント配線板3を介して、当該異方導電性フィルム2を回路1の方向へ所定の圧力で加圧することにより、異方導電性フィルム2を加熱溶融させる。なお、上述のごとく、異方導電性フィルム2は、熱硬化性樹脂を主成分としているため、当該異方導電性フィルム2は、上述の温度にて加熱をすると、電極接続用接着剤30を構成する熱硬化性樹脂が流動して、一旦、軟化するが、当該加熱を継続することにより、硬化することになる。そして、予め設定した異方導電性フィルム2の硬化時間が経過すると、異方導電性フィルム2の硬化温度の維持状態、および加圧状態を開放し、冷却を開始することにより、異方導電性フィルム2を介して、配線電極4と金属電極5を接続し、フレキシブルプリント配線板3を回路基板1上に実装する。」

オ 「【0057】
なお、上記実施形態は以下のように変更しても良い。
・上記実施形態においては、異方導電性フィルム2を介して、フレキシブルプリント配線板3の金属電極5を回路基板1の配線電極4に接続する構成としたが、本発明の異方導電性フィルム2を、例えば、ICチップ等の電子部品の突起電極(または、バンプ)とフレキシブルプリント配線板3の金属電極5、或いは回路基板1の配線電極4との接続に使用する構成としても良い。」

カ 「【0062】
(リペア性評価) ・・・(中略)・・・ 次いで、このフレキシブルプリント配線板とガラスエポキシ基板の間に作製した異方導電性フィルムを挟み、200℃に加熱しながら、4MPaの圧力で15秒間加圧して接着させ、フレキシブルプリント配線板とガラスエポキシ基板の接合体を得た。次いで、当該接合体を200℃に加熱した状態で、ガラスエポキシ基板からフレキシブルプリント配線板を剥離し、剥離面であるガラスエポキシ基板の銅電極上に残留した該異方導電性フィルムの残留物を、メチルエチルケトンとエタノールの混合溶媒(混合比率は70/30)を浸漬させた綿棒で拭き取り除去した。 ・・・(後略) 」

上記の各記載事項及び図1の記載を総合すると、引用文献1には、異方導電性フィルム2を、電子部品の突起電極と回路基板1の配線電極4との接続に使用する構成の実施形態(前記「オ」を参照。)として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「回路基板1上に、異方導電性フィルム2を載置し、当該異方導電性フィルム2を所定の温度(以下「仮接着での所定の温度」という。)に加熱した状態で、回路基板1の方向へ所定の圧力で加圧し、異方導電性フィルム2を回路基板1上に仮接着し、
次いで、回路基板1の表面に形成された配線電極4と、電子部品の突起電極との位置合わせをしながら、電子部品を異方導電性フィルム2上に載置し、
次いで、異方導電性フィルム2を所定の温度に加熱した状態で、電子部品を介して、当該異方導電性フィルム2を回路基板1の方向へ所定の圧力で加圧することにより、異方導電性フィルム2を加熱溶融させ、
そして、予め設定した異方導電性フィルム2の硬化時間が経過すると、異方導電性フィルム2の硬化温度の維持状態、および加圧状態を開放し、冷却を開始することにより、異方導電性フィルム2を介して、配線電極4と電子部品の突起電極を接続し、電子部品の突起電極を回路基板1上に実装するもので、
異方導電性フィルム2は、
熱硬化性樹脂を主成分とし、フェノキシ樹脂、潜在性硬化剤、ポリビニルブチラール樹脂、及び導電性粒子を含有し、
前記ポリビニルブチラール樹脂として、ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂とガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂とを含有するもので、
異方導電性フィルムを用いて、電子部品の突起電極を回路基板1上に実装したものを製造する方法。」

(2)原査定の拒絶の理由において刊行物1として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平6-203642号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(以下「引用文献2記載の事項」という。)

ア 「【0018】図1は、本発明の一実施例における異方導電性フィルムを斜視図により表したものである。この異方導電性フィルム11は、異方性導電膜12の両側に防湿層13を設けた構成となっている。ここで、異方性導電膜12は、上記従来例において説明したと同様、微少な導電粒子を所定のバインダ中に混入して成形した薄膜であり、約25μm程度の厚さを有している。バインダとしては、ポリビニルブチラール等の熱可塑性樹脂や、エポキシ、ウレタン、アクリル等の熱硬化性樹脂が用いられ、また、導電粒子としては、カーボン、またはニッケル、半田、銀等の金属、またはスチレン等のプラスチックに金メッキしたもの等が用いられる。また、防湿層13としては、例えばトリ3弗化塩化エチレン等の防湿性の高い材料が用いられ、異方性導電膜12と一体に成形されている。」

イ 「【0029】以上の実施例においては、ITOパターンと異方導電性フィルムとTABを同時に重ね合わせて熱圧着するものとして説明したが、これに限るものではなく、例えば図12に示すように、圧着の工程を二つに分けて行うようにしても良い。すなわち、図12(A)に示すように、第一の工程として、まず配線パターン電極32と異方導電性フイルム12との仮圧着を行う。この場合、図に示すような順で、配線パターン32と異方導電性フィルム12を受台53上に配置し、熱圧着ヘッド51により熱圧力を印加して接続を行う。次に、第二の工程として、剥離紙52を剥離して、同図(B)に示すように上下を反転し、これを、受台53上に配置したガラス基板23のITOパターン24に対向させて配置し、上方より熱圧着ヘッド51により熱圧着する。なお、上記第一の工程における仮圧着は70?80°Cの温度で行い、第二の工程における本圧着は150?180°C、20?40kg/cm^(2)で20?30秒で行うのが好適である。」

(3)原査定の拒絶査定時において周知の技術的手段を示す文献として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2008-133411号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(以下「引用文献3記載の事項」という。)

ア 「【0006】
引き出された接着フィルムは、まず一方の被着体に接着層を仮圧着され、その後、接着層から剥離性フィルムが剥離除去される。次いで、もう一方の被着体を位置合わせし、続いてそれらの積層方向に本圧着して、接着層を被着体で挟んだ積層体が得られる。 ・・・(後略) 」

イ 「【0007】
上述の仮圧着後速やかに剥離性フィルムを接着層から剥離除去しようとすると、剥離性フィルムや接着層がまだ高温状態にあるため、剥離性フィルムと接着層との密着力が増大してしまう。こうなると、剥離除去の際に剥離性フィルムに接着層の一部が同伴して仮圧着不良となったり、剥離作業に手間取って工程が長期化したりする。そこで、上記剥離性フィルムの剥離除去は、仮圧着後即座には行われず、しばらく時間をおいて剥離性フィルム及び接着層の温度が低下してから行われる。
【0008】
ところが、特に近年では更なる工程の短縮化が求められており、そうなると、仮圧着後速やかな剥離性フィルムの剥離除去が必要となる。
【0009】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、仮圧着後速やかに剥離性フィルムを接着層から剥離除去した場合でも、仮圧着不良が十分に抑制され、しかも工程の短縮化が十分に可能となる電気接続用接着フィルムを提供することを目的とする。
・・・(中略)・・・
【0011】
本発明によると、剥離性フィルムが両主面を粗化処理されていないため、剥離性フィルムと、その一主面(以下、「第1主面」という。」に密着した接着層との密着性が、その第1主面が粗化処理されている場合よりも低くなっている。その結果、仮圧着後速やかに剥離性フィルムを接着層から剥離除去した場合でも、仮圧着不良が十分に抑制される。これにより、工程の短縮化が十分に可能となる。また、仮圧着不良が十分に抑制されると、仮圧着不良が発生した際に必要となるリペア作業も低減できるため、工程の短縮化・高効率化が可能となる。」

2 対比・判断
(1)本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「異方導電性フィルム2」は、本願発明1の「異方性導電膜」に相当する。
以下同様に、「回路基板1」は「配線板」に、
「電子部品」は「電子部材」に、
「仮接着での所定の温度」は仮圧着工程での「異方性導電膜が熱硬化しない温度」に、
「熱硬化性樹脂」は「熱硬化性樹脂成分」に、
「フェノキシ樹脂」、「ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂」、及び「ガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂」は「熱可塑性樹脂成分」に、
「導電性粒子」は「導電性粒子」に、
「異方導電性フィルムを用いて、電子部品の突起電極を回路基板1上に実装したものを製造する方法」は「異方性導電膜を用いる実装体の製造方法」に、それぞれ相当する。

引用発明では、「異方導電性フィルム2を介して、配線電極4と電子部品の突起電極を接続し、電子部品の突起電極を回路基板1上に実装」するものであるから、引用発明は本願発明1の「異方性導電膜を介して配線板に電子部材を実装する」ことに相当する構成を備える。

引用発明では、「回路基板1上に、異方導電性フィルム2を載置」しているから、引用発明は本願発明1の「配線板上に前記異方性導電膜を配置する第1の配置工程」に相当する構成を備える。

引用発明では、「当該異方導電性フィルム2を仮接着での所定の温度に加熱した状態で、回路基板1の方向へ所定の圧力で加圧し、異方導電性フィルム2を回路基板1上に仮接着」しているから、引用発明は本願発明1の「配線板上に配置された前記異方性導電膜を加圧しながら該異方性導電膜が熱硬化しない温度で加熱して前記配線板上に前記異方性導電膜を固定する仮圧着工程」に相当する構成を備える。

引用発明では、「回路基板1の表面に形成された配線電極4と、電子部品の突起電極との位置合わせをしながら、電子部品を異方導電性フィルム2上に載置し」ているから、引用発明は本願発明1の「異方性導電膜上に前記電子部材を配置する第2の配置工程」に相当する構成を備える。

引用発明では、「異方導電性フィルム2を所定の温度に加熱した状態で、電子部品を介して、当該異方導電性フィルム2を回路基板1の方向へ所定の圧力で加圧することにより、異方導電性フィルム2を加熱溶融させ、そして、予め設定した異方導電性フィルム2の硬化時間が経過すると、異方導電性フィルム2の硬化温度の維持状態、および加圧状態を開放し、冷却を開始することにより、異方導電性フィルム2を介して、配線電極4と電子部品の突起電極を接続し、電子部品の突起電極を回路基板1上に実装する」ものであるから、引用発明は本願発明1の「異方性導電膜上に配置された電子部材を加圧しながら加熱して前記異方性導電膜を硬化させ、硬化された該異方性導電膜を介して前記配線板と前記電子部材とを圧着させる本圧着工程」に相当する構成を備える。

以上のことから、本願発明1と引用発明とは次の点で一致する。
「異方性導電膜を介して配線板に電子部材を実装する実装体の製造方法において、
前記配線板上に前記異方性導電膜を配置する第1の配置工程と、
前記配線板上に配置された前記異方性導電膜を加圧しながら該異方性導電膜が熱硬化しない温度で加熱して前記配線板上に前記異方性導電膜を固定する仮圧着工程と、
前記異方性導電膜上に前記電子部材を配置する第2の配置工程と、
前記異方性導電膜上に配置された電子部材を加圧しながら加熱して前記異方性導電膜を硬化させ、硬化された該異方性導電膜を介して前記配線板と前記電子部材とを圧着させる本圧着工程とを有し、
前記異方性導電膜として、熱硬化性樹脂成分と、熱可塑性樹脂成分と、導電性粒子とを含有する異方性導電膜を用いる実装体の製造方法。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
本願発明1では、「仮圧着工程にて前記配線板上に固定された前記異方性導電膜の固定位置にずれが生じている場合には、該配線板から該異方性導電膜を剥離し、該異方性導電膜が剥離された該配線板を前記第1の配置工程へ戻すリペア工程」を備えているのに対して、
引用発明では、かかるリペア工程を備えていない点。

[相違点2]
「異方性導電膜」に関して、本願発明1では、「ゴム系ポリマー成分を含有し」、更に、「熱可塑性樹脂成分が、前記仮圧着工程での加熱における加熱温度よりも低いガラス転移温度を有する低ガラス転移温度熱可塑性樹脂と、前記仮圧着工程での加熱における加熱温度よりも高いガラス転移温度を有する高ガラス転移温度熱可塑性樹脂とを含有する」のに対して、
引用発明では、「ゴム系ポリマー成分」を含有しているかどうか明らかでなく、更に、引用文献1には「仮接着での所定の温度」に関して具体的に記載されていないから、「フェノキシ樹脂」、「ガラス転移温度が100℃以上であるポリビニルブチラール樹脂」、及び「ガラス転移温度が90℃以下であるポリビニルブチラール樹脂」、すなわち「熱可塑性樹脂成分」が、「仮圧着工程での加熱における加熱温度よりも低いガラス転移温度を有する低ガラス転移温度熱可塑性樹脂と、前記仮圧着工程での加熱における加熱温度よりも高いガラス転移温度を有する高ガラス転移温度熱可塑性樹脂とを含有する」ものかどうか、明らかでない点。

上記相違点1について検討する。

ア 引用文献1記載の事項について
引用文献1記載の事項には、「異方導電性フィルムを電極間に挟み込んだ後硬化させることにより前記電極同士を接着し、再び前記電極同士を剥離した場合」(前記「1(1)イ」を参照。)と記載されている。
しかし、上記記載における「後硬化」させ、再び「剥離」したことは、本願発明1でいう「本圧着工程」の、その後の剥離に相当するものであって、上記相違点1に係る構成のように、「仮圧着工程にて前記配線板上に固定された前記異方性導電膜の固定位置にずれが生じている場合」に剥離して行う「リペア工程」に関するものではない。

同じく引用文献1記載の事項には、「一度接続した電極間の破損または損傷を生じることなく剥離して、接着剤を溶剤等で除去した後、再度、接着剤を用いて、電極間を接続すること(以下、「リペア」という。)を容易に行うとの観点から」(前記「1(1)ウ」を参照。)と記載されている。
しかし、上記記載における「リペア」は、一度接続した電極間を剥離するものであるから、本願発明1でいう「本圧着工程」の、その後の剥離に相当するものであって、上記相違点1に係る構成のように、「仮圧着工程にて前記配線板上に固定された前記異方性導電膜の固定位置にずれが生じている場合」に剥離して行う「リペア工程」に関するものではない。

同じく引用文献1記載の事項には、「200℃に加熱しながら、4MPaの圧力で15秒間加圧して接着させ、フレキシブルプリント配線板とガラスエポキシ基板の接合体を得た。次いで、当該接合体を200℃に加熱した状態で、ガラスエポキシ基板からフレキシブルプリント配線板を剥離し」(前記「1(1)カ」を参照。)と記載されている。
しかし、上記記載における「200℃に加熱しながら、4MPaの圧力で15秒間加圧して接着させ」、「ガラスエポキシ基板からフレキシブルプリント配線板を剥離」することは、本願発明1でいう「本圧着工程」の、その後の剥離に相当するものであって、上記相違点1に係る構成のように、「仮圧着工程にて前記配線板上に固定された前記異方性導電膜の固定位置にずれが生じている場合」に剥離して行う「リペア工程」に関するものではない。

以上のように、引用文献1記載の事項に、本願発明1の上記相違点1に係る構成について記載または示唆があるものではない。

イ 引用文献2記載の事項について
引用文献2記載の事項には、第一の工程(本願発明1の「仮圧着工程」に相当。)として、配線パターン電極32(本願発明1の「電子部材」に相当。)と、異方性導電フィルム(本願発明1の「異方性導電膜」に相当。)とを仮圧着し、第二の工程(本願発明1の「本圧着工程」に相当。)として、ガラス基板23(本願発明1の「配線板」に相当。)に熱圧着することが記載されている。(前記「1(2)」を参照。)
しかし、引用文献2記載の事項に、「仮圧着工程にて前記配線板上に固定された前記異方性導電膜の固定位置にずれが生じている場合」に剥離して行う「リペア工程」に関する記載があるものでもない。

以上のように、引用文献2記載の事項に、本願発明1の上記相違点1に係る構成について記載または示唆があるものではない。

ウ 引用文献3記載の事項について
引用文献3記載の事項には、接着フィルム(本願発明1の「異方性導電膜」に相当。)の接着層を、一方の被着体(本願発明1の「配線板」または「電子部品」の、一方側に相当。)に仮圧着し、接着層から剥離性フィルムを剥離除去し、次いで、もう一方の被着体(本願発明1の前記「配線板」または前記「電子部品」の、他方側に相当。)を位置合わせし、それらの積層方向に本圧着することが記載されている。(前記「1(3)」を参照。)
しかし、上記記載における「剥離除去」する対象は、接着層の剥離性フィルムであって、接着フィルム(本願発明1の「異方性導電膜」に相当。)ではない。

同じく引用文献3記載の事項には、仮圧着不良が発生した際に必要となるリペア作業も低減できるため、工程の短縮化・高効率化が可能となることが記載されている。(前記「1(3)イ」の段落【0011】を参照。)
しかし、上記記載における「リペア作業」は、一方の被着体に接着フィルムの接着層を仮圧着する際の圧着不良に対するリペア作業にすぎず、仮圧着不良の際に一方の被着体から接着フィルムを剥離して再度仮圧着すること、すなわち「仮圧着工程にて前記配線板上に固定された前記異方性導電膜の固定位置にずれが生じている場合」に剥離して行う「リペア工程」に関するものではない。

以上のように、引用文献3記載の事項に、本願発明1の上記相違点1に係る構成について記載または示唆があるものではない。

エ 相違点1についての小括
以上のように、引用文献1?3記載の事項に本願発明1の上記相違点1に係る構成についての記載または示唆があるものではないから、たとえ引用発明に引用文献1?3記載の事項を適用したとしても、本願発明1の上記相違点1に係る構成に至るものではない。
したがって、当業者が引用発明に引用文献1?3記載の事項を組み合わせて、本願発明1の上記相違点1に係る構成に至るのが容易であるとはいえない。

オ 本願発明1についてのまとめ
このように、本願発明の上記相違点1に係る構成に至ることが容易であるとはいえないから、上記相違点2について検討するまでもなく、上記相違点1に係る構成を具備する本願発明1は、引用発明及び引用文献1?3記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本願発明2?14について
本願発明2?14は、本願発明1を引用し、本願発明1にさらに限定を付加するものであるので、本願発明1と同様に、引用発明及び引用文献1?3記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本願発明15について
本願発明15は、「接続方法」であるが、本願発明1と同一のリペア工程を有するものである。
したがって、本願発明15は、本願発明1と同様に、引用発明及び引用文献1?3記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)本願発明16について
本願発明16は、本願発明1を引用し、本願発明1にさらに限定を付加するものであるので、本願発明1と同様に、引用発明及び引用文献1?3記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明1?16は、引用発明及び引用文献1?3記載の事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2015-05-21 
出願番号 特願2010-191051(P2010-191051)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 前田 仁  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 内田 博之
小関 峰夫
発明の名称 実装体の製造方法、接続方法及び異方性導電膜  
代理人 伊賀 誠司  
代理人 小池 晃  

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