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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1301056
審判番号 不服2013-24579  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-13 
確定日 2015-05-21 
事件の表示 特願2012-157607「電池用セパレータおよびこれを用いた電池」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月18日出願公開、特開2012-199252〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年7月7日に出願した特願2005-198856号(以下、「原出願」という。)の一部を平成24年7月13日に新たな特許出願としたものであって、平成24年7月17日付けで手続補正書が提出され、平成25年6月18日付けで拒絶理由が通知され、同年8月23日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月13日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。
その後、平成26年8月15日付けで当審から拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年10月20日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月7日付けで当審から審尋がなされ、平成27年1月8日付けで回答書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成26年10月20日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
リチウムイオン二次電池用セパレータであって、
空孔率の異なる2つのセパレータ層が積層されてなり、
リチウムイオン二次電池における負極活物質層側の前記セパレータ層の空孔率が、リチウムイオン二次電池における正極活物質層側の前記セパレータ層の空孔率よりも大きく、
この際、負極活物質層側の前記セパレータ層の空孔率が60?95%であり、正極活物質層側の前記セパレータ層の空孔率が40?80%であり、かつ、
負極活物質層側の前記セパレータ層の厚さが3?10μmであり、正極活物質層側の前記セパレータ層の厚さが3?10μmであり、
セパレータ全体の厚さが6?20μmである、リチウムイオン二次電池用セパレータ。」

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の一つは、本願発明1は、原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


・刊行物2:特開平10-74502号公報

第4 刊行物の記載事項
当審の拒絶理由通知において引用され、原出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物2には、「非水電解液二次電池」(発明の名称)について、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。)。

1 「【0008】
【発明が解決しようとする課題】ところで、この積層電極体のセパレータとしては、ポリプロピレンあるいはポリエチレン等よりなる微多孔質高分子フィルムが用いられる。この微多孔質高分子フィルムでは、負極/正極間の絶縁を確実に保つとともに電解質塩の透過性を考慮して厚さや空孔率が設定され、たとえば厚さが50μm、空孔率が30?50%程度とされるのが通常である。
【0009】しかしながら、このような厚さ及び空孔率となされたセパレータは、電池が何らかの外力によって圧縮された場合に、破断を生じ易く、内部ショートを生じさせる可能性が高いといった問題がある。
【0010】そこで、本発明はこのような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、電池が圧縮された場合に、セパレータの破断が防止され、内部ショートが回避される非水電解液二次電池を提供することを目的とする。」

2 「【0011】
【課題を解決するための手段】上述の目的を達成するために、本発明の非水電解液二次電池は、帯状負極と帯状正極とがセパレータを介して積層されてなる積層電極体を備えた非水電解液二次電池であって、上記セパレータは、空孔率が30%以上50%未満の第1のセパレータと空孔率が50%以上90%以下の第2のセパレータを積層してなることを特徴とするものである。
【0012】空孔率が30%以上50%未満の第1のセパレータと空孔率が50%以上90%以下の第2のセパレータよりなる積層セパレータでは、電池が外力によって圧縮されたときに、先ず、空孔率の高い第2のセパレータが先に圧縮されるので、それによって緩和され、第1のセパレータの方にはほとんど圧縮力がかからない。したがって、第1のセパレータが全面的な破断に至ることがなく、負極と正極の絶縁が保たれ、内部ショートが回避される。」

3 「【0019】この積層セパレータの全厚は、単層セパレータの場合と同様に、負極/正極間の絶縁を充分に図りながら、電極充填密度を損なわない範囲に選択され、具体的には10?100μmとするのが適当である。」

4 「【0020】一方、第1のセパレータと第2のセパレータのそれぞれの厚さは、電池圧縮時に第1のセパレータの破断を確実に防止する点から、第1のセパレータの厚さよりも第2のセパレータの厚さの方が厚いことが望ましい。」

5 「【0028】実施例1
まず、負極を次のようにして作製した。
【0029】出発原料として石油ピッチを用い、これを焼成することで粗粒状のピッチコークスを得た。この粗粒状のピッチコークスを粉砕して平均粒径20μmの粉末とした。そして、このピッチコークスの粉末を、不活性ガス中、温度1000℃で焼成することによって不純物を除去し、コークス材料粉末を生成した。
【0030】このようにして生成したコークス材料粉末を負極活物質担持体とし、このコークス材料粉末90重量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)10重量部とを混合して負極合剤を調製し、溶剤であるN-メチルピロリドンに分散させてスラリーとした。続いて、この負極合剤スラリーを、負極集電体となる厚さ10μmの帯状銅箔に塗布、乾燥した後、ローラプレス機により圧縮成形することで帯状負極(厚さ:190μm、幅:55.6mm、長さ:551.5mm)を作製した。
【0031】続いて、正極を次のようにして作製した。
【0032】炭酸リチウム0.5モルと炭酸コバルト1モルを混合し、空気中、温度900℃で5時間焼成することによってLiCoO_(2)を生成した。
【0033】このようにして生成したLiCoO_(2)を正極活物質とし、このLiCoO_(2)91重量部、導電剤としてグラファイト6重量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3重量部を混合して正極合剤を調製し、N-メチルピロリドンに分散させてスラリーとした。続いて、この正極合剤スラリーを、正極集電体となる厚さ20μmの帯状のアルミニウム箔の両面に塗布、乾燥した後、ローラープレス機により圧縮成形することで帯状正極(厚み:160μm、幅:53.6mm,長さ:523.5mm)を作製した。
【0034】次に、第1のセパレータとして空孔率が40%のポリプロピレン製の多孔質フィルム(厚さ:25μm)を用意するとともに、第2のセパレータを次のようにして作製した。
【0035】すなわち、第2のセパレータを作製するには、アルミナ短繊維とポリオレフィン系合成パルプを75重量%:25重量%の混合比でパルパー中に投入し、これらの3%スラリー分散液を調製する。そして、このスラリーをチェストに貯留し、暫時、抄紙機の供給する。抄紙機は、すき網部、プレス部、乾燥部によって構成されている、スラリーは、始めにすき網部で脱水され、湿紙が形成される。この湿紙は、プレス部で機械的に圧搾脱水された後、乾燥部で加熱乾燥されて不織布が作製される。
【0036】このようにして作製された不織布に、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)10重量部を含有するN-メチルピロリドン溶液を含浸させ、乾燥させた。その後、所定の寸法に裁断することによって空孔率が80%の第2のセパレータ(厚さ:25μm、幅:58.1mm、長さ:555mm)を作製した。
【0037】次に、この第2のセパレータと、先に用意しておいた第1のセパレータを積層して積層セパレータとし、帯状負極と帯状正極及び積層セパレータを、負極、積層セパレータ、正極、積層セパレータなる順序で積層した。そして、この積層体を、負極を内側にした状態で長さ方向に沿って多数回巻き回し、最外周セパレータの最終端部をテープで固定することによって渦巻式電極体を作製した。
【0038】このようにして作製した渦巻式電極体を、ニッケルメッキを施した鉄製の電池缶に収納し、電極体の上下両面に絶縁体を配置した。続いて、負極及び正極からの集電を行うために、アルミニウム製正極リードを正極集電体から導出して電池蓋に溶接し、ニッケル製負極リードを負極集電体から導出して電池缶に溶接した。
【0039】その後、電池缶の中に、プロピレンカーボネートとジエチルカーボネートとの等量混合溶媒にLiPF_(6)を1mol/lなる濃度で溶解した非水電解液を5.0g注入し、渦巻式電極体に含浸させた。
【0040】続いて、アスファルトで表面を塗布した絶縁封口ガスケットを介して電池缶をかしめることによって電池蓋を固定し、電池内の気密性を保持させることで直径18mm,高さ65mmの円筒型非水電解液二次電池を作製した。」

第5 当審の判断
1 引用発明
(1) 刊行物2の上記第4 5の【0030】の記載事項によれば、コークス材料粉末からなる負極活物質担持体を含む負極合剤スラリーを、負極集電体となる帯状銅箔に塗布、乾燥した後、ローラプレス機により圧縮成形することで帯状負極を作製しているから、帯状銅箔には、コークス材料粉末からなる負極活物質を含む層が形成されているといえ、また、帯状負極は、この負極活物質を含む層と負極集電体となる帯状銅箔とからなっているといえる。
また、同【0033】の記載事項によれば、LiCoO_(2)からなる正極活物質を含む正極合剤スラリーを、正極集電体となる帯状のアルミニウム箔の両面に塗布、乾燥した後、ローラープレス機により圧縮成形することで帯状正極を作製しているから、帯状のアルミニウム箔の両面には、LiCoO_(2)からなる正極活物質を含む層が形成されているといえ、また、帯状正極は、この正極活物質を含む層と正極集電体となる帯状のアルミニウム箔とからなっているといえる。
さらに、同【0034】ないし【0040】の記載事項によれば、第1のセパレータは、空孔率が40%、厚さが25μm、第2のセパレータは空孔率が80%、厚さが25μmであって、第1のセパレータ及び第2のセパレータを積層した積層セパレータは、非水電解液二次電池用のセパレータであり、かつ、帯状負極と帯状正極との間に、全体の厚さが50μmである積層セパレータが積層されているといえる。

(2) ここで、第1のセパレータ(空孔率40%)と第2のセパレータ(空孔率80%)とは、空孔率が異なっており、第2のセパレータの空孔率が、第1のセパレータの空孔率より大きいことは明らかである。
そして、第1のセパレータ及び第2のセパレータを積層した積層セパレータは、コークス材料粉末からなる負極活物質を含む層と負極集電体となる帯状銅箔とからなる帯状負極と、LiCoO_(2)からなる正極活物質を含む層と正極集電体となる帯状のアルミニウム箔とからなる帯状正極との間に積層されており、積層セパレータの第1のセパレータ側及び第2のセパレータ側が、それぞれ負極活物質を含む層と正極活物質を含む層のどちらの側に積層されているかは不明ではあるものの、コークス材料粉末からなる負極活物質を含む層と、LiCoO_(2)からなる正極活物質を含む層のいずれか一方を、一方の活物質を含む層といい、他方を、他方の活物質を含む層ということとすれば、一方の活物質を含む層側の第2のセパレータの空孔率は、他方の活物質を含む層側の第1のセパレータの空孔率よりも大きいといえる。

(3) 以上の検討事項を、本願発明の記載ぶりに則して整理すると、刊行物2には、「非水電解液二次電池用積層セパレータであって、
空孔率の異なる第1のセパレータと第2のセパレータが積層されてなり、
コークス材料粉末からなる負極活物質を含む層と、LiCoO_(2)からなる正極活物質を含む層のいずれか一方を、一方の活物質を含む層といい、他方を、他方の活物質層というところ、
非水電解液二次電池における一方の活物質を含む層側の前記第2のセパレータの空孔率が、非水電解液二次電池における他方の活物質を含む層側の前記第1のセパレータの空孔率よりも大きく、
この際、一方の活物質を含む層側の前記第2のセパレータの空孔率が80%であり、他方の活物質を含む層側の前記第1のセパレータの空孔率が40%であり、かつ、
一方の活物質を含む層側の前記第2のセパレータの厚さが25μmであり、他方の活物質を含む層側の前記第1のセパレータの厚さが25μmであり、
積層セパレータ全体の厚さが50μmである、非水電解液二次電池用セパレータ。」との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1) コークス材料粉末からなる負極活物質を含む層と、LiCoO_(2)からなる正極活物質を含む層とを備える引用発明の「非水電解液二次電池」は、本願発明の「リチウムイオン二次電池」に相当する。

(2) 引用発明の「コークス材料粉末からなる負極活物質を含む層」及び「LiCoO_(2)からなる正極活物質を含む層」は、それぞれ、本願発明の「負極活物質層」及び「正極活物質層」に相当する。

(3) 引用発明の「積層セパレータ」、「第1のセパレータ及び第2のセパレータ」は、それぞれ、本願発明の「セパレータ」、「2つのセパレータ層」に相当する。

(4) 引用発明は、「コークス材料粉末からなる負極活物質を含む層と、LiCoO_(2)からなる正極活物質を含む層のいずれか一方を、一方の活物質を含む層といい、他方を、他方の活物質層というところ、
非水電解液二次電池における一方の活物質を含む層側の前記第2のセパレータの空孔率が、非水電解液二次電池における他方の活物質を含む層側の前記第1のセパレータの空孔率よりも大きく、
この際、一方の活物質を含む層側の前記第2のセパレータの空孔率が80%であり、他方の活物質を含む層側の前記第1のセパレータの空孔率が40%であ」る一方、本願発明は、「リチウムイオン二次電池における負極活物質層側の前記セパレータ層の空孔率が、リチウムイオン二次電池における正極活物質層側の前記セパレータ層の空孔率よりも大きく、
この際、負極活物質層側の前記セパレータ層の空孔率が60?95%であり、正極活物質層側の前記セパレータ層の空孔率が40?80%であ」ることからすると、両者は、「二次電池における一方の活物質層側のセパレータ層の空孔率が、二次電池における他方の活物質層側のセパレータ層の空孔率よりも大きく、
この際、一方の活物質層側のセパレータの空孔率が60?95%であり、他方の活物質層側のセパレータの空孔率が40?80%であ」る点で一致している。

(5) 以上から、本願発明と引用発明とは、「リチウムイオン二次電池用セパレータであって、
空孔率の異なる2つのセパレータ層が積層されてなり、
リチウムイオン二次電池における一方の活物質層側の前記セパレータ層の空孔率が、リチウムイオン二次電池における他方の活物質層側の前記セパレータ層の空孔率よりも大きく、
この際、一方の活物質層側の前記セパレータ層の空孔率が60?95%であり、他方の活物質層側の前記セパレータ層の空孔率が40?80%である、リチウムイオン二次電池用セパレータ。」の点で一致し、

ア 本願発明は、「リチウムイオン二次電池における負極活物質層側の前記セパレータ層の空孔率が、リチウムイオン二次電池における正極活物質層側の前記セパレータ層の空孔率よりも大きく、
この際、負極活物質層側の前記セパレータ層の空孔率が60?95%であり、正極活物質層側の前記セパレータ層の空孔率が40?80%であ」るのに対し、引用発明は、「コークス材料粉末からなる負極活物質を含む層と、LiCoO_(2)からなる正極活物質を含む層のいずれか一方を、一方の活物質を含む層といい、他方を、他方の活物質層というところ、
非水電解液二次電池における一方の活物質を含む層側の前記第2のセパレータの空孔率が、非水電解液二次電池における他方の活物質を含む層側の前記第1のセパレータの空孔率よりも大きく、
この際、一方の活物質を含む層側の前記第2のセパレータの空孔率が80%であり、他方の活物質を含む層側の前記第1のセパレータの空孔率が40%であ」るものの、負極活物質を含む層側と正極活物質を含む層側のどちら側のセパレータの空孔率が大きいのか特定されていない点(以下、「相違点1」という。)、

イ 本願発明は、「負極活物質層側の前記セパレータ層の厚さが3?10μmであり、正極活物質層側の前記セパレータ層の厚さが3?10μmであり、セパレータ全体の厚さが6?20μmである」のに対し、引用発明は、「一方の活物質を含む層側の前記第2のセパレータの厚さが25μmであり、他方の活物質を含む層側の前記第1のセパレータの厚さが25μmであり、
積層セパレータ全体の厚さが50μmである」点(以下、「相違点2」という。)、
の2点で相違する。

3 相違点についての判断
(1) 相違点1及び相違点2
相違点1及び2は、いずれも「2つのセパレータ層」についての相違点であるから、一緒に検討する。
ア 刊行物2の上記第4 1の記載事項によれば、引用発明の解決すべき課題は、「電池が圧縮された場合に、セパレータの破断が防止され、内部ショートが回避される非水電解液二次電池を提供すること」であるところ、刊行物2の上記第4 2の【課題を解決するための手段】には、「空孔率が30%以上50%未満の第1のセパレータと空孔率が50%以上90%以下の第2のセパレータよりなる積層セパレータでは、電池が外力によって圧縮されたときに、先ず、空孔率の高い第2のセパレータが先に圧縮されるので、それによって緩和され、第1のセパレータの方にはほとんど圧縮力がかからない。したがって、第1のセパレータが全面的な破断に至ることがなく、負極と正極の絶縁が保たれ、内部ショートが回避される。」(【0012】)と記載されていることからすると、第1及び第2のセパレータが、負極活物質を含む層と正極活物質を含む層のどちら側にあっても、上記課題は解決されるものということができる。
そうすると、引用発明において、第1のセパレータを、正極活物質を含む層側とし、第2のセパレータを、負極活物質を含む層側とする、すなわち、リチウムイオン二次電池における負極活物質を含む層側の第2のセパレータの空孔率を、リチウムイオン二次電池における正極物質を含む層側の第1のセパレータの空孔率よりも大きくするか、若しくは、第1のセパレータを負極活物質を含む層側とし、第2のセパレータを正極活物質を含む層側とする、すなわち、リチウムイオン二次電池における正極物質を含む層側の第2のセパレータの空孔率を、リチウムイオン二次電池における負極物質を含む層側の第1のセパレータの空孔率よりも大きくするかは、二者択一の事項にすぎず、当業者であれば適宜選択し得た事項であるといえる。

イ 刊行物2の上記第4 3には、積層セパレータの全厚は、負極/正極間の絶縁を充分に図りながら、電極充填密度を損なわない範囲に選択され、具体的には10?100μmとするのが適当であることが記載されているから、積層セパレータ全体の厚さを10μmにすることが示唆されているといえる。
そして、引用発明においては、第1のセパレータの厚さと第2のセパレータの厚さは、いずれも25μmと同じ厚さであって、両者を同じ厚さとする技術思想が示唆されているといえるから、積層セパレータ全体の厚さを10μmとする際にも、第1のセパレータと第2のセパレータとを同じ厚さ(5μm)にするのが自然である。

ウ 以上から、引用発明において、リチウムイオン二次電池における負極活物質を含む層側の第2のセパレータの空孔率を、リチウムイオン二次電池における正極活物質を含む層側の第1のセパレータの空孔率よりも大きくするとともに、第2のセパレータの膜厚を5μm、第1のセパレータの膜厚を5μm、積層セパレータ全体の厚さを10μmとすること、すなわち、相違点1及び2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得るものである。

エ なお、刊行物2の上記第4 4には、「一方、第1のセパレータと第2のセパレータのそれぞれの厚さは、電池圧縮時に第1のセパレータの破断を確実に防止する点から、第1のセパレータの厚さよりも第2のセパレータの厚さの方が厚いことが望ましい。」と記載されているところ、ここでの記載は、引用発明を認定した記載箇所とは異なる記載箇所に示されている技術思想であって、第1のセパレータと第2のセパレータとを同じ厚さにするという引用発明の技術思想と必ずしも一致するものではないが、仮に、引用発明において、積層セパレータ全体の厚さを10μmとする際に、上記記載の技術思想に基づいて検討したとしても、上記「電池圧縮時に第1のセパレータの破断を確実に防止する」点、及び、セパレータとして製造し得る膜厚及び機能し得る膜厚とすべきであることを考慮して、例えば、第2のセパレータの厚さを5μmより大きく7μm以下とし、第1のセパレータの厚さを5μm未満3μm以上とすることは、当業者であれば、適宜設定し得たものである。
そうすると、引用発明において、リチウムイオン二次電池における負極活物質を含む層側の第2のセパレータの空孔率を、リチウムイオン二次電池における正極活物質を含む層側の第1のセパレータの空孔率よりも大きくするとともに、第2のセパレータの厚さを5μmより大きく7μm以下とし、第1のセパレータの厚さを5μm未満3μm以上とし、かつ、積層セパレータ全体の厚さを10μmとすること、すなわち、相違点1及び2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得るものである。

(2) 本願発明の効果について
ア 平成26年10月20日付け意見書において、請求人は、「本願の現請求項1に係る発明によれば、負極活物質層側の空孔率が大きくなるように、空孔率のより小さいセパレータ層がリチウムイオン二次電池の正極活物質層と向き合い、空孔率のより大きいセパレータ層が負極活物質層と向き合うように配置されて用いられることで、充電性能に優れるという効果が奏されます。このことは、当初明細書の実施例2の評価結果として、高出力条件下(300mA)における充電容量が有意に高い値(26.3mAh)を示していることからも裏付けられます。一方、本願の現請求項1に規定されている2つのセパレータ層の配置の向きが逆にすると、このような優れた充電性能は発揮されなくなります(本願明細書の実施例3)。つまり、「本願発明1による効果は、空孔率の異なる2つのセパレータ層のそれぞれが、正極活物質層と負極活物質層のどちらに向き合うように積層されるかによらない」との上記ご認定は正しくないのであります。」と主張している。

イ しかし、本願発明において、負極活物質層側のセパレータ層の空孔率は60?95%、また、正極活物質層側のセパレータ層の空孔率は40?80%であるところ、本願明細書の実施例2(【0123】?【0126】)における、負極活物質層側のセパレータ層の空孔率は55%、また、正極活物質層側のセパレータ層の空孔率は35%であるから、いずれの空孔率も、本願発明における2つの空孔率の数値範囲から外れている。
そうすると、本願明細書の実施例2は、本願発明の実施例とまではいえないから、請求人の上記主張は、本願発明の効果の主張ではない。

ウ また、平成27年1月8日付けの回答書の「(2)ご指摘事項2について」における、請求人の「本願の当初明細書に記載の実施例における充放電試験では、段落『0137』に記載されているように、短絡を生じないセルを選別する目的で、まずそれぞれの試験用セルに対して低レート(30mA)の定電流で10回ずつの充放電試験を行っております。そして、短絡を生じなかったセルを選別したうえで、高レート(300mA)の定電流で充放電試験を行い、その際に測定された充電容量および放電容量が表1(段落『0138』)に記載されております。このような場合、低レートでの充放電試験の終了時に負極活物質中にリチウムイオンが吸蔵された状態で高レートでの充放電試験が行われると、高レートでの充放電試験の放電時に、『予め負極活物質中に吸蔵されていたリチウムイオン』および『高レートでの充放電試験の充電時に負極活物質中に吸蔵されたリチウムイオン』が合わせて負極活物質から放出されることがあります。そうしますと、『高レートでの充放電試験の充電時に負極活物質中に吸蔵されたリチウムイオン』(すなわち、300mA充電容量)よりも『高レートでの充放電試験の充電時に負極活物質から放出されたリチウムイオン』(すなわち、300mA放電容量)の方が大きくなる可能性があり、本願の当初明細書に記載の実施例3はこのような場合に相当していると考えられます。」との主張からすると、実施例3の実質的な300mA充電容量は、300mA放電容量(26.1mAh)以上であるといえるから、実施例3の実質的な300mA充電容量と比較して実施例2の300mA充電容量(26.3mAh)方が、有意に高い値になるとはいえない。
したがって、実施例3と比較して実施例2の方が、優れた充電性能が発揮されているとはいえない。

エ よって、請求人の上記主張は採用できない。

(3) まとめ
本願発明は、刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、上記当審拒絶理由は妥当である。
したがって、本願は、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この拒絶理由によって拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-18 
結審通知日 2015-03-24 
審決日 2015-04-06 
出願番号 特願2012-157607(P2012-157607)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 政克  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 河本 充雄
小川 進
発明の名称 電池用セパレータおよびこれを用いた電池  
代理人 八田国際特許業務法人  

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