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審決分類 審判 全部無効 特39条先願  A23L
審判 全部無効 発明同一  A23L
管理番号 1301083
審判番号 無効2012-800213  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-12-27 
確定日 2015-06-09 
事件の表示 上記当事者間の特許第4111382号発明「餅」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由
第1 手続の経緯

本件特許第4111382号についての手続の経緯の概要は以下のとおりである。

平成14年10月31日 出願
平成20年 4月18日 特許権の設定登録
平成24年12月27日 審判請求書および甲第1ないし2号証提出
平成25年 1月24日 請求人手続補正書
平成25年 4月 2日 答弁書および乙第1-1ないし2号証提出
平成25年 7月23日 請求人口頭審理陳述要領書
および甲第3ないし12号証提出
平成25年 7月23日 被請求人口頭審理陳述要領書
および乙第3号証提出
平成25年 8月 6日 口頭審理


第2 本件特許請求の範囲の記載

本件特許請求の範囲の請求項1及び2(以下、それぞれの請求項に係る発明を「本件発明1」及び「本件発明2」といい、これらを併せて「本件発明」という。)は、次のとおりである。
なお、請求人が審判請求書に付した、AないしHの構成要件の分説を付記した。

【請求項1】
A 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の
B 載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、
C この切り込み部又は溝部は、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として、
D 焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成した
E ことを特徴とする餅。

【請求項2】
F 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の
G 載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状の切り込み部又は溝部を設けた
H ことを特徴とする請求項1記載の餅。


第3 請求人の主張の概要

請求人は、「特許第4111382号発明の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は披請求人の負担とする。」との審決を求め、甲第1及び2号証を添付して審判請求書を提出し、甲第3ないし12号証を添付して平成25年7月23日口頭審理陳述要領書を提出し、以下の無効理由1及び2により、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものであると主張している。

(無効理由1)
本件発明は、その特許出願の日と同日付けにて出願された分割発明(甲第1号証)と同一であって、特許法39条2項の規定により特許を受けることができないものである。

(無効理由2)
本件発明は、その特許出願の目前の他の特許出願であって、その特許出願後に出願公開されたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明(甲第2号証参照)と同一であるから、特許法29条の2の規定により特許を受けることができないものである。

そして、請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。

(甲第1号証)特許第4636616号公報
(甲第2号証)特開2004-97063号公報
(特願2002-261947)
(甲第3号証)本件特許に係る無効2012-800072号の審決
(甲第4号証)本件特許の出願に係る拒絶査定(平成18年1月24日付け)
(甲第5号証の1)本件特許の出願の審判請求書に係る手続補正書(平成18年3月29日付け)
(甲第5号証の2)本件特許の出願に係る手続補正書(平成18年3月29日付け)
(甲第6号証)特開昭62-91146号公報
(甲第7号証)昭和12年実用新案出願公告第16915号
(甲第8号証)昭和13年実用新案出願公告第12408号
(甲第9号証)特開昭50-145558号公報
(甲第10号証)特開昭63-222666号公報
(甲第11号証)特開2003-219822号公報
(甲第12号証)実開昭63-143182号公報


第4 被請求人の主張の概要

被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、乙第1-1ないし2号証を添付して答弁書を提出し、乙第3号証を添付して平成25年7月23日付け口頭審理陳述要領書を提出して、請求人の主張する無効理由及び証拠によっては本件発明を無効とすることはできないと主張している。

被請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。

(乙第1号証の1)甲第1号証に係る平成22年3月23日付け拒絶理由通知書
(乙第1号証の2)甲第1号証に係る平成22年5月14日付け意見書
(乙第1号証の3)甲第1号証に係る平成22年5月14日付け手続補正書
(乙第2号証)甲第1号証に係る平成22年11月4日付け審決
(乙第3号証)甲第1号証に係る訂正2013-390084号の平成25年7月2日付け審決


第5 証拠の記載事項

請求人の提出した甲第1号証および甲第2号証には、それぞれ以下の事項が記載されている。下線は当審で加えたものである。

1 甲第1号証(特許第4636616号公報)
甲第1号証は、本件特許の出願日と同日付けにて出願された分割発明に係る特許公報であって、その特許請求の範囲には請求項1及び2が記載されている。
しかしながら、訂正審判2013-390084の平成25年7月2日付け審決(乙第3号証)において、「訂正前の特許請求の範囲の請求項1を削除する。」および「訂正前の明細書の段落【0010】を削除する。」との訂正が認められ、平成25年7月11日に確定している。
よって、以下に記載する請求項2のみが無効理由1の審理の対象である。
なお、下記(1a)においては、請求人が審判請求書に付した、fないしjの構成要件の分説を付記した。

(1a)「【請求項2】
f 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅であって、この焼き網に載置する際に、最も面積の大きい対向する広大面の一方を載置底面他方を上面とする高さ寸法が幅寸法及び奥行き寸法より短い薄平板状の偏平方形体の切餅の、
g 前記上下の広大面間の立直側面に、この上下の広大面間の立直側面に沿う周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、
h この切り込み部又は溝部は、この立直側面に沿う周方向で且つ前記広大面と平行な直線状であって、四辺の前記立直側面のうちの対向二側面である長辺部の立直側面の双方に夫々長さいっぱいに形成した切り込み部又は溝部であり、刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成した切り込み部又は溝部として、
i 焼き上げるに際し、前記立直側面の周方向に形成した前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成した
j ことを特徴とする餅。」(訂正後の特許請求の範囲)

(1b)「【0031】
従って、例えば図3に示すように対向二側面である長辺部の立直側面2Aの双方に刃板5によって切り込み3を形成することで、(前後の短辺部の立直側面2Aに切り込み3を殆ど形成せず環状に切り込み3を形成しないが)四面全てに連続させて形成して四角環状とする場合に比して十分ではないが持ち上がり現象は生じ、前記作用・効果は十分に発揮される。
【0032】
即ち、刃板5に対して小片餅体1を長辺部長さ方向に相対移動するだけで小片餅体1の両側の長辺部の立直側面2Aに周方向に十分な長さを有する切り込み3を簡単に形成でき、前記作用・効果が十分に発揮されると共に、量産性に一層秀れる。」

(1c)「【図3】




2 甲第2号証(特開2004-97063号公報)
甲第2号証は、本件特許の出願日前に出願され、本件特許の出願後に出願公開された公開特許公報である。

(2a)「【請求項1】無菌包装された切餅であって、前記切餅の厚みの40?60%を残すように前記切餅の上下面から切込みを入れたことを特徴とする切餅。」(特許請求の範囲)

(2b)「【0009】【課題を解決するための手段】本発明の請求項1記載の切餅によれば、無菌包装された切餅であって、前記切餅の厚みの40?60%を残すように前記切餅の上下面から切込みを入れたので、1個ずつ新鮮な状態で消費することができるとともに、流通時に割れる虞のない、切込みの入った切餅を提供する」

(2c)「【0011】【発明の実施態様】以下、本発明の餅の第1実施例について、図1?3を参照しながら説明する。図1において、1は切餅であって、1個ずつ個別に、気密性を有する樹脂フイルム2によって無菌包装されている。」

(2d)「【0013】また、この切餅1には、上下両面から切込み3が縦方向と横方向にそれぞれ1本ずつ、切餅1を四等分するように設けられている。」

(2e)「【0016】つぎに、作用について説明する。まず、樹脂フイルム2から、切餅1を取出す。なお、切餅1は樹脂フイルム2によって無菌包装されているので、取出されるまではほぼ製造時の新鮮な状態に保たれている。調理前に分割する割合は、刃物を使用することなく、簡便に切餅1を小分けにすることができる。この分割の様子を図2に示すが、分割する切込み3を選択することによって、図2(A)のように細長く2つに分割したり、図2(B)のように短く2つに分割したり、図2(C)のように4つに分割することができる。なお、切込み3の上面から見た形状は、本実施例では縦横方向に1本ずつの十字型としたが、これに限らず、斜めであっても、丸や曲線、キャラクターの形状であってもよく、また、本数も何本であってもよい。」

(2f)「【0017】本実施例の切餅は、焼き調理時に極めて優れた効果を奏する。はじめに、比較のために、従来の切餅の焼き調理時の様子を図4に基づき説明する。従来の切餅をオーブントースター等を用いて焼き調理すると、内部の蒸気の抜け場がなく、凝集して不特定の場所から一気に膨らみ、局部的に盛り上がり、図4(A)に示すように立方体の形が崩れてしまう。そして、局部的に盛り上がった部分だけが先に焦げてしまい、一部だけが極端に焦げた状態になってしまう。
【0018】これに対し、本実施例の切餅1では、切込み3から断続的に内部の蒸気が抜けやすいので、図3(A)に示すように、ほぼ立方体の形に保持されたまま膨れる。そして、切餅1の上面をほぼ水平に保つたまま膨れるので、全面にわたって均等に焦げ目が付く。このように、本実施例の切餅1は、焼き調理した場合、形状、焦げ目などの外観が非常に優れた状態に仕上げることができる。」

(2g)「【0022】上記の構成によれば、1個ずつ新鮮な状態で消費することができるとともに、流通時に割れる虞のない、切込みの入った切餅を提供することができる。また、焼き調理した場合、切込み3から断続的に内部の蒸気が抜けやすいので、ほぼ立方体の形に保持されたまま膨れる。そして、切餅1の上面をほぼ水平に保つたまま膨れるので、全面にわたって均等に焦げ目が付く。したがって、形状、焦げ目などの外観が非常に優れた状態に仕上げることができる。さらに、焼いた後であっても切込み3から簡単に分割でき、子供や女性にとっても食べやすい焼餅に調理することができる。」

(2h)「【0034】【発明の効果】本発明の請求項1記載の切餅によれば、無菌包装された切餅であって、切餅の厚みの40?60%を残すように切餅の上下面から切込みを入れたものであるので、1個ずつ新鮮な状態で消費することができるとともに、流通時に割れる虞のない、切込みの入った切餅を提供することができる。また、焼き調理した場合、形状、焦げ目などの外観が非常に優れた状態に仕上げることができ、焼いた後であっても切込みから簡単に分割でき、子供や女性にとっても食べやすい焼餅に調理することができる。」

(2i)「【図1】



【図2】



【図3】




第6 当審の判断

1 無効理由1(特許法39条2項)について

(1)本件発明1について

(1-1)本件発明1と分割発明の対比
訂正審判2013-390084の平成25年7月2日付け審決(乙第3号証)により訂正された特許第4636616号(甲第1号証)の特許請求の範囲には、請求項2(摘記1a)に記載された発明(以下、「分割発明」という。)のみが存在している。

そこで、本件発明1と分割発明を対比すると、
本件発明1の構成要件Aである「焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の」は、
分割発明の構成要件fである「焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅であって、この焼き網に載置する際に、最も面積の大きい対向する広大面の一方を載置底面他方を上面とする高さ寸法が幅寸法及び奥行き寸法より短い薄平板状の偏平方形体の切餅の、」に対応し、

本件発明1の構成要件Bである「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、」は、
分割発明の構成要件gである「前記上下の広大面間の立直側面に、この上下の広大面間の立直側面に沿う周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、」に対応し、

本件発明1の構成要件Cである「この切り込み部又は溝部は、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として、」は、
分割発明の構成要件hである「この切り込み部又は溝部は、この立直側面に沿う周方向で且つ前記広大面と平行な直線状であって、四辺の前記立直側面のうちの対向二側面である長辺部の立直側面の双方に夫々長さいっぱいに形成した切り込み部又は溝部であり、刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成した切り込み部又は溝部として、」に対応し、

本件発明1の構成要件Dである「焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成した」は、
分割発明の構成要件iである「焼き上げるに際し、前記立直側面の周方向に形成した前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成した」に対応し、

本件発明1の構成要件Eである「ことを特徴とする餅。」は、
分割発明の構成要件jである「ことを特徴とする餅。」に対応している。

(1-2)構成要件Cと構成要件hの対比判断
本件発明1の構成要件Cと分割発明の構成要件hを更に詳細に対比すると、以下の点で一応相違する。

(相違点1)
分割発明の切り込み部又は溝部が立直側面に沿う周方向で且つ広大面と平行な直線状であるのに対して、本件発明1ではそのような特定がない点

(相違点2)
分割発明が四辺の立直側面のうちの対向二側面である長辺部の立直側面の双方に夫々長さいっぱいに形成しているのに対して、本件発明1では切り込み又は溝部が立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成している点

(相違点3)
分割発明の切り込み部又は溝部が刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成しているのに対して、本件発明1では切り込み部又は溝部の形成方法が特定されていない点

相違点相互の関連性から相違点1ないし3をまとめて検討する。
分割発明の構成要件hにおいて、「切り込み部又は溝部」は、広大面と平行な「直線状であ」って、四辺の立直側面のうちの「対向二側面である長辺部の立直側面の双方に夫々長さいっぱいに」形成し、「切り込み部又は溝部が刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成」されることが特定されている。すなわち、これらの相違点1ないし3は相互に協働しあって、例えば、回転する刃部を用いて簡易かつ迅速に「切り込み部又は溝部」を形成するのに適した構成になっている。

これに対して、本件発明1の「切り込み部又は溝部」については、「立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成」することが記載されるものの、その形成方法について特定がない。本件特許の明細書の段落【0031】には、「例えば、切り込み3は先鋭なカッターや回転する刃部5などによって形成したが、凹条部を押圧形成し、切り込み3に代えて溝部としても良い。」と記載されており、本件発明1の「切り込み部又は溝部」の形成方法には、「押圧形成」することが含まれていると理解できる。

してみると、分割発明は、本件発明1における各種の「切り込み部又は溝部」の形成方法の中から、相違点1ないし3に記載される形成方法に限定するものである。そして、これらの相違点1ないし3が協働して作用することによって、「刃板5に対して小片餅体1を長辺部長さ方向に相対移動するだけで小片餅体1の両側の長辺部の立直側面2Aに周方向に十分な長さを有する切り込み3を簡単に形成でき、前記作用・効果が十分に発揮されると共に、量産性に一層秀れる」(摘記1b)という、形成方法に限定のない本件発明1では得られない新たな効果を奏しているのである。したがって、構成要件Cと構成要件hが実質的に同一であるとは言えない。

なお、請求人は、口頭審理陳述要領書15?16頁において、「本件発明lでは、「切り込み部又は溝部を設け」るとされているが、「切り込み部又は溝部を設け」るとは、「切り込みを入れる動作」を行うことにほかならず、「刃板」を「小片餅体」に相対的移動することは、かかる動作の典型例であり、実質的に同一である。要するに、「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで形成」したとの記載は、「切り込み部又は溝部を設け」ることを別の表現で述べているにすぎず、また、「切り込み部又は溝部を設け」ることと何ら上位概念、下位概念の関係にあるものでもない。」と主張している。
しかしながら、分割発明は、上述したように、相違点1ないし3に特定される構成が相互に協働することによって、「刃板に対して前記小片餅体を前記長辺部長さ方向に相対移動することで」「切り込み部又は溝部」を形成するのに適した構成となっており、「別の表現で述べているにすぎ」ないとする請求人の主張には理由がない。

よって、構成要件Cと構成要件hとが実質的に同一であるとは言えないことから、他の構成要件の対比を行うまでもなく、本件発明1と分割発明は同一とは言えない。

(2)本件発明2と分割発明の対比判断
本件発明2は、本件発明1を引用する発明であって、その構成要件中に構成要件Cを含むものであるから、上記(1-2)に記載したとおり、他の構成要件の対比を行うまでもなく、本件発明2と分割発明は同一とは言えない。

(3)まとめ
よって、本件発明は、その特許出願と同日に出願された分割発明と同一であって、特許法39条2項の規定により特許を受けることができない、とすることはできない。

2 無効理由2について

(1)甲第2号証に係る特願2002-261947に記載された発明(以下、「先願発明」という。)

甲第2号証に係る特願2002-261947の特許請求の範囲には、「無菌包装された切餅であって、前記切餅の厚みの40?60%を残すように前記切餅の上下面から切込みを入れたことを特徴とする切餅。」(摘記2a)に係る発明が記載されており、「調理前に分割する割合は、刃物を使用することなく、簡便に切餅1を小分けにすることができ」(摘記2e)、「本実施例の切餅1では、切込み3から断続的に内部の蒸気が抜けやすいので、図3(A)に示すように、ほぼ立方体の形に保持されたまま膨れる。そして、切餅1の上面をほぼ水平に保つたまま膨れるので、全面にわたって均等に焦げ目が付く。このように、本実施例の切餅1は、焼き調理した場合、形状、焦げ目などの外観が非常に優れた状態に仕上げることができる。」(摘記2f、2i)という作用効果を奏することが記載されている。
そして、図1ないし3(摘記2i)を参酌すると、上記「切餅」は、輪郭形状が方形の小片餅体であって、切込みを入れるのは表面積の最も大きい上下面であることが直ちに理解できる。

してみると、甲第2号証に係る特願2002-261947には、以下の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
a’:焼き網に載置して焼き上げて食する輪廓形状が方形の小片餅体である切餅の
b’:立直側面ではなくこの小片餅体の上側表面部及び下側表面部に切り込み部を設け、
c’:この切り込み部は、上側表面部及び下側表面部の対向二面に形成した切り込み部として、
d’:焼き上げるに際して前記切り込み部から断続的に内部の蒸気が抜けることにより、ほぼ立方体の形に保持されたまま膨れるように構成した
e’:ことを特徴とする切餅。

なお、請求人は、審判請求書において上述した当審の認定とは異なる先願発明の認定を行っているが、請求人の認定には請求人の主張に係るものも一部含まれているから、そのまま採用することはできないと判断されたため、甲第2号証に具体的に記載された事項のみに基づいて、上述したように認定することとした。しかしながら、請求人の主張に係るものについては、以下に当審の判断を別途示すこととする。

(2)本件発明1について

本願発明1と先願発明を対比すると、前者が「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に」「切り込み部又は溝部を設け」(構成要件B)ているのに対して、後者は「立直側面ではなくこの小片餅体の上側表面部及び下側表面部に切り込み部を設け」(構成要件b’)ている点で少なくとも相違する。

この相違点について、請求人は、「理論上は、方形の小片餅体である切餅においては、方形のどの面も載置底面とすることができるものであり、しかも、本件発明1では切餅の形状が「方形」であるから、直方体のみならず立方体も含むものであり、実質的に「側周表面」と「上側表面部及び下側表面部」の区別ができない。」(請求書26頁)と主張している。

しかしながら、本件特許請求の範囲には、「焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の」(構成要件A)と記載され、「載置」は、焼き網上に載置することであるから、「載置底面」は、餅の面の内、焼き網に接する面といえる。また、本件明細書には、「本発明は、例えば個包装されるなどして販売される角形の切餅に関するものである。」(段落【0001】)と記載されており、通常、切り餅を焼く際には、面積の広い面を焼き網に載せることから、「載置底面」は、この面積の広い面とするのが相当であって、「平坦上面」が「載置底面」の対向面であることも明らかである。さらに、「立直側面である側周表面」は、図1の2Aで示される、「載置底面」及び「平坦上面」以外の面であるといえるから、「載置底面又は平坦上面」、「立直側面である側周表面」が自ずと特定される。そして、本件発明1は、「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に」「切り込み部又は溝部を設け」(構成要件B)ている。

一方、先願発明は、「厚みの40?60%を残すように前記切餅の上下面から切込みを入れたことを特徴とする切餅」(摘記2a)であって、「切込み3から断続的に内部の蒸気が抜けやすいので、図3(A)に示すように、ほぼ立方体の形に保持されたまま膨れ」(摘記2f、2i)、「形状、焦げ目などの外観が非常に優れた状態に仕上げることができ、焼いた後であっても切込みから簡単に分割でき」(摘記2h)ることが記載されている。

してみると、本件発明1において「切り込み部又は溝部」を「立直側面である側周表面」に設けたのに対して、先願発明では「切り込み部」を本件発明1の「平坦上面」に相当する「上側表面部」および「載置底面」に相当する「下側表面部」に設けている。そのような構成要件Bおよび構成要件b’における構成の相違に基づいて、前者が「焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように」(構成要件D)作用するのに対して、後者は「焼き上げるに際して前記切り込み部から断続的に内部の蒸気が抜けることにより、ほぼ立方体の形に保持されたまま膨れるように」(構成要件d’、摘記2f、2i)作用しており、両者の間には作用効果において明らかな相違が生じている。

したがって、構成要件Dおよび構成要件d’における相違を考慮しつつ、構成要件Bおよび構成要件b’における相違の有無を判断すれば、請求人が主張するように当該相違が「表現上の違いにすぎない」と判断することはできない。

よって、他の構成要件を検討するまでもなく、本件発明1は、先願発明と同一とはいえない。

(3)本件発明2について

本件発明2は、本件発明1を引用する発明であって、その構成要件中に構成要件BおよびDを含むものであるから、上記(2)に記載したとおり、他の構成要件を検討するまでもなく、本件発明2は、先願発明と同一とは言えない。

(4)他の審判決との整合性

請求人は、平成25年7月23日口頭審理陳述要領書21?22頁において、「別件審決(当審注:甲第3号証に係る無効2012-800072号の審決)は、切餅には、審査官が指摘したように「切餅の側面を載置底面とするという」焼き方が想定でき、これを排除して、「側面が載置底面にならないことを明りょうにし」、切り込みを設けるべき「所定位置」を「特定するために、構成Dを付加したというのである。この判断による限り、別件審決は、「載置底面」が一義的に定まっておらず。「側面を載置底面」とする場合もあり得ること、つまり、以下の3通りの載置態様があり得ることを当然の前提とするものと解さざるを得ない。



そうすると、別件審決の上記判断を正当なものとするのであれば、本件において載置方法が上記載置態様1に限定されると判断することは、別件審決と矛盾する判断をすることにほかならず、不当である。」と主張しているので、念のため以下に検討する。

ここで、無効2012-800072号の審決には、
「構成Dの付加により、側面が載置底面にならないことを明りょうにしたこと、所定位置、つまり載置底面とならない側面の切り込みによって、側面を載置底面とした場合には生じない焼き上がりを特定したと解すのが相当である。以上のとおり、構成Dは、これにより先願との差別化を積極的に図るための特異な構成ではなく、審査官が指摘した切餅の側面を載置底面とするという、通常でない焼き方をすることを排除しようとして付加した構成であるといえる。」(第5の1(3)エ)、および、
「本件特許請求の範囲には、「焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅」と記載され、「載置」は、焼き網上に載置することであるから、「載置底面」は、餅の面の内、焼き網に接する面といえる。・・・通常、切り餅を焼く際には、面積の広い面を焼き網に載せることから、「載置底面」は、この面積の広い面とするのが相当である。そして、「平坦上面」が、「載置底面」の対向面であることは明らかである。また、「立直側面である側周表面」は、図1の2Aで示される、「載置底面」及び「平坦上面」以外の面であるといえるから、「載置底面又は平坦上面」、「立直側面である側周表面」が不明確とはいえない。」(第5の1(5))と判示されている。
すなわち、構成要件Dは「先願との差別化を積極的に図るための特異な構成ではな」いものの、構成要件Dの存在によって「平坦上面」「載置底面」「立直側面である側周表面」が一義的に決定されるから不明確とはいえない、というのが当該審決の本意である。
したがって、本件発明は、構成要件Dを考慮すれば、結果的に先願発明と同一とはいえないとする、上記(2)の当審の判断は、当該審決と整合している。

なお、本件と同じ当事者に係る特許権侵害差止等請求控訴事件(平成23年(ネ)第10002号)の中間判決(知財高裁において平成23年9月7日判決言渡)では、甲第2号証に係る「被告特許1」について、「被告は、平成14年9月6日、切餅及び丸餅の「上下面から切り込みを入れたこと」との構成が特許請求の範囲に記載された特許出願(被告特許1)をして、次いで同年10月21日、こんがりうまカットを販売したこと、また、その翌年である平成15年7月17日、「上面、下面、及び側面に切り込みを入れたことを特徴とする切り餅」との構成が特許請求の範囲に記載された特許出願(被告特許2)をして、次いで、同年9月1日、切餅の上下面及び側面の長辺部に2本の切り込みをいれた「パリッとスリット」を販売したことが認められる。しかるに、被告特許1に係る明細書(甲20)においては、切餅の側面の切り込みについては、何らの説明もない。仮に、平成14年10月21日に発売された「こんがりうまカット」に、上下面のみならず側面にも切り込みが施されていたならば、被告は、被告特許2に係る発明について、特許出願前に自ら公然実施をしていながら、その事実を秘匿して特許出願に至ったということになる。むしろ、上記出願に係る事実経緯を総合するならば、平成14年10月21日に発売された「こんがりうまカット」には、上下面に切り込みが施されていたものの、側面には切り込みが施されていなかったと推認される。」(第3の2(1)イ(イ))と判示されている。
したがって、先願発明である「被告特許1に係る明細書(甲20)においては、切餅の側面の切り込みについては、何らの説明もない」とする、知財高裁の判決とも上記(2)の当審の判断は整合している。

よって、請求人の主張には理由がない。


第7 むすび

以上のとおりであるから、本件発明1および2は、甲第1号証に係る分割発明と同一であるから特許法39条2項の規定により特許を受けることができないとも、甲第2号証に係る先願発明と同一であるから特許法29条の2の規定により特許を受けることができないともいえず、ほかに無効とすべき理由もない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-21 
結審通知日 2013-08-23 
審決日 2013-09-11 
出願番号 特願2002-318601(P2002-318601)
審決分類 P 1 113・ 4- Y (A23L)
P 1 113・ 161- Y (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村上 騎見高  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 齊藤 真由美
郡山 順
登録日 2008-04-18 
登録番号 特許第4111382号(P4111382)
発明の名称 餅  
代理人 花田 吉秋  
代理人 矢嶋 雅子  
代理人 中島 淳  
代理人 岩瀬 ひとみ  
代理人 早川 皓太郎  
代理人 小田 富士雄  
代理人 吉井 雅栄  
代理人 宍戸 充  
代理人 高橋 元弘  
代理人 坂手 英博  
代理人 ▲高▼木 楓子  
代理人 清武 史郎  
代理人 紋谷 崇俊  
代理人 末吉 亙  

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