• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1301181
審判番号 不服2012-6028  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-04 
確定日 2015-05-20 
事件の表示 特願2001-520154「嚥下障害被験者において嚥下を促進する粘性が標準化された構成物」拒絶査定不服審判事件〔平成13年3月8日国際公開、WO01/15743、平成15年3月4日国内公表、特表2003-508452〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年8月17日(パリ条約による優先権主張 1999年8月27日 1999年11月18日 いずれも(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成23年11月30日付けで拒絶査定がされ、平成24年4月4日付けで拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、平成25年8月27日付け審尋に対して、平成26年3月3日付けで回答書が提出され、同年5月22日付けで拒絶理由が通知され、同年11月26日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願発明は、平成24年4月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。
「嚥下障害のヒトの被験者を評価判断するための、個々に粘性が標準化された食用溶液のキットを作製する方法であって、該方法が
(i)23℃において30cp以下の粘性を有する第一の食用構成物と、
(ii)23℃において150cpから350cpの間の既知の粘性を有する第二の食用構成物と、
(iii)23℃において2000cpから4000cpの間の既知の粘性を有する第三の食用構成物と、
を前記キットに提供する段階を含み、
前記第一の食用構成物が、前記被験者が該第一の構成物を嚥下する間と後で、嚥下障害の示唆のために前記被験者の嚥下を評価診断するよう提供され、次に前記第二の食用構成物が、前記被験者が該第二の構成物を嚥下する間と後で、嚥下障害の示唆のために前記被験者の嚥下を評価診断するよう提供され、さらに、前記第三の食用構成物が、前記被験者が該第三の構成物を嚥下する間と後で、嚥下障害の示唆のために前記被験者の嚥下を評価診断するよう提供される、方法。」(以下、この発明を「本願発明」という。)

第3 引用例の記載
1 平成26年5月22日付けの拒絶理由において引用文献Aとして引用した、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会雑誌、1999年6月、第3巻、第1号、34?39頁 (以下、「引用例1」という。)は、「非イオン系造影剤イオパミドールと寒天を使った嚥下機能検査食の試作」という表題の学術論文であり、以下の事項が記載されている。
(1) 「要旨」の項
「寒天を基剤としイオパミドールを含有する嚥下機能の検査食を試作した。イオパミドールを使用することで、従来の消化管造影剤に比べて安全性が向上したと考えられる。またイオパミドールを1/2濃度にしても造影性の低下はわずかで、画像解析に支障は無いことが確認された。さらに本検査食では物性を規格化することが可能である。
今回は付着エネルギーの低い食材で、硬さの異なる6種類の試験食品を試作した。その硬さは検査食1から順にそれぞれ、2.20×10^(2)N/m^(2)、6.53×10^(2)N/m^(2)、2.90×10^(3)N/m^(2)、7.49×10^(3)N/m^(2)、1.09×10^(4)N/m^(2)、1.86×10^(4)N/m^(2)であった。口腔癌患者1例に応用したが、硬さの相違により誤嚥や咽頭部への貯留の程度に明らかな相違が見られた。そのため、本検査食は食物の物性と嚥下機能との関連を検討するために有用であると考えられた。」
(2) 「緒言」の項
「嚥下障害患者では食物の種類によって嚥下困難の程度が異なると訴えることが多い。この点を客観的に評価する試みとして、バリウムパン^(1))・・・などがX線ビデオ透視検査の検査食として開発され、また増粘剤を加えて造影剤の粘性を変えたりする試み^(5))も報告されている。その結果、造影剤単独による検査に比べると詳細な情報が得られるようになり、嚥下障害の評価をより正確に行えるようになってきた。しかし、これらの検査食は一般の食品との関連から体系的に区分され、その代表値として選択されたものではないため、検査結果を食品の選択に役立てるには不十分であった。すなわち、『X線ビデオ透視検査でこのタイプの検査食を安全に摂食できる場合には、日常的に以下の食物を摂食可能です』と指摘できれば、患者の食生活ひいては生活の質(Quality of Life:QOL)の向上に大変役立つと考えるが、従来の検査食はこの点を目指したものではなく、また食物の多様な性質のうちどれが嚥下機能に関連するかについては十分には解明されていなかった。それにはまず食物の性質と嚥下機能との関連を検討する必要がある。
食物の性質としては味、匂い、硬さ、粘性、流動性などさまざまなものが挙げられるが、まず客観的な指標として食物の物性に注目するのが適切と考える。また物性と嚥下機能との関連を検討する場合には、特定の性質のみを変えたときの嚥下機能を評価するのが適切であろう。そのためには検査食を規格化して作製する必要がある。
そこで血管造影剤イオパミドールを使ったX線ビデオ透視検査用の検査食を新たに作製し、さらにその基剤を寒天とすることで硬さの異なる6種類の検査食を規格化する事ができた。今回はその概要と予備的検討の結果を報告する。」(34頁左欄2行?35頁左欄14行)
(3) 「結果」
ア 「1.硬さの異なる検査食の試作」の項
「今回は付着エネルギーの低い食材で、硬さの異なる6種類の試験食品を試作した(写真1)。・・・検査食1-6の硬さと付着エネルギー、形態を表2に示す。」(35頁右欄11?15行)
イ 「2.症例報告」の項
「症例:85歳、男性。
主訴:嚥下障害
現病歴:口蓋腫瘍・・・のため・・・放射線療法と化学療法(動脈内投与法を併用)を受けている。この間に誤嚥性肺炎を併発し、当院内科にて加療を受けた。肺炎が回復したため、再度腫瘍に対する治療を開始したが、食事中にむせるようになったため、嚥下機能の精査を行った。・・・
X線ビデオ透視検査所見:・・・
(1)検査食1の嚥下:・・・
(2)検査食2の嚥下:検査食1で見られた誤嚥は見られず、わずかな喉頭侵入にとどまり、喉頭蓋谷への検査食の貯留もやや減少していた(写真3)。
(3)検査食3の嚥下:喉頭侵入と喉頭蓋谷への貯留が見られたが、気管内侵入や食道入口部(輪状咽頭筋領域)への貯留は認めなかった(写真4)。
(4)検査食4の嚥下:誤嚥は認めないものの、喉頭侵入は見られ、この点は検査食2、3と同様であった。しかし喉頭蓋谷と食道入口部に重度の貯留を認め、さらに梨状陥凹部にも軽度に貯留していた(写真5)
(5)検査食5の嚥下:喉頭侵入と喉頭蓋谷、食道入口部での検査食の貯留が重度に見られ、検査食4に比べると貯留量が多く、貯留時間も長かった。・・・
(6)検査食6の嚥下:検査食4、5の嚥下時と同様に、咽頭部に大量の検査食が長時間貯留した。・・・
したがって本症例では、検査食2、3を嚥下する際には誤嚥も無く、咽頭部への検査食の貯留も軽度であり、比較的安全に嚥下できるものと考えられた。」(35頁右欄19行?37頁左欄8行)
(4) 「考察」、「3.イオパミドール含有寒天検査食の有用性」の項
「今回は付着性を低くして硬さを変えた検査食を試作し、嚥下障害を訴える口腔癌患者に適用したところ、検査食の硬さによって嚥下動態に変化が見られた。したがって検査食の硬さが嚥下動態に変化を与える可能性が示唆された。」(38頁右欄3?7行)
(5) 「まとめ」の項
「寒天を基剤としイオパミドールを含有する嚥下機能検査用の検査食を試作した。本検査食では物性を規格化することが可能であるため、今後食物の物性と嚥下機能との関連を客観的に検討していくために有用であると考えられた。」(38頁右欄9?13行)
(6) 表2


2 平成26年5月22日付けの拒絶理由において引用文献2として引用した、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である 耳鼻と臨床、1996年、第42巻、898?903頁 (以下、「引用例2」という。)は、「食道VTR検査における造影剤の粘性に関する検討」という表題の学術論文であり、以下の事項が記載されている。
(1) 要旨部分
「嚥下動態の評価を目的とした食道VTR検査には、・・・液体造影剤が用いられていた。これらの造影剤の物理的性状は嚥下のしやすさに影響を及ぼすと思われるが、嚥下物の粘性についてはこれまで考慮されていなかった。そこで、われわれはコンドロイチン硫酸ナトリウムを非イオン性血管造影剤に添加することにより粘性を調節し、粘性の嚥下動態に与える影響を検討した。その結果、粘性が高い造影剤は、咽頭クリアランス負荷を増大し下咽頭流入速度を低下させるため下降期型誤嚥の検出に有効とおもわれた。逆に粘性が低い造影剤においては、咽頭クリアランス負荷が減少するものの下咽頭流入速度を速めるため挙上期型誤嚥の検出に有効であると考えられた。」
(2) 「はじめに」の項
「嚥下動態を評価するための食道VTR検査の造影剤には、これまで主に液体が用いられており、症例によつてペースト状や固形状の造影剤が用いられている。これらの異なった性状の造影剤を用いる理由は、嚥下物の粘性(物理的性状)により口腔・咽頭の嚥下機構に与える負荷を変化させることで、種々の嚥下障害を検出することである。造影剤の粘性(物理的性状)の検討は、異なる病態の嚥下障害を評価するうえで重要と思われる。そこで今回われわれは、種々の液体造影剤がもつそれぞれの粘性を定量し、粘性が嚥下動態に与える影響について比較検討した。」(898頁左欄6?17行)
(3) 「結果」、「2.嚥下動態について」の項
ア 「造影剤の粘性による嚥下動態の違いを比較するため、脳血管障害による嚥下障害を生じた1症例において非イオン性血管造影剤、1%コンドロイチン添加非イオン性血管造影剤、5%コンドロイチン添加非イオン性血管造影剤、バリウムの4種類の粘性の異なる造影剤を用い食道VTR検査を施行した。」(900頁右欄21?27行)
イ 「今回嚥下動態を比較した症例に関して造影剤の誤嚥は、非イオン性血管造影剤嚥下時にのみ少量の誤嚥を認めたが、他の3種類の造影剤嚥下時には誤嚥を認めなかった。」(901頁左欄10?14行)
(4) 「考察」の項
「この粘性が高いバリウム製剤または2.5?3%コンドロイチン硫酸ナトリウム添加非イオン性血管造影剤は、咽頭クリアランス負荷を増大し下咽頭流入速度を低下させるため下降期型誤嚥の検出に有効であり、それとは逆にこの粘性が低い非イオン性血管造影剤は、咽頭クリアランス負荷が減少するものの下咽頭流入速度を速めるため挙上期型誤嚥の検出に有効であると考えられた。」(902頁右欄12?19行)

第4 当審の判断
1 引用例1に記載された発明
引用例1には、嚥下機能検査の結果を食品の選択に役立てるために検査食の規格化が必要であるという認識のもと、硬さが規格化された6種類の嚥下機能の検査食が記載されており(第3の1(2))、その硬さは最も柔らかい検査食1から順にそれぞれ、2.20×10^(2)N/m^(2)、6.53×10^(2)N/m^(2)、2.90×10^(3)N/m^(2)、7.49×10^(3)N/m^(2)、1.09×10^(4)N/m^(2)、1.86×10^(4)N/m^(2)であって(第3の1、(1)及び(6))、検査食1はゾル状で日常の食品では七部粥ミキサーに匹敵する硬さを有すること、検査食2はゾル状で日常の食品ではヨーグルトに匹敵する硬さを有すること、検査食3はゲル状で日常の食品では茶碗蒸しに匹敵する硬さを有すること、検査食4はゲル状で日常の食品では絹豆腐に匹敵する硬さを有すること、検査食5はゲル状で日常の食品ではオムレツに匹敵する硬さを有すること、検査食6はゲル状で日常の食品ではスクランブルエッグに匹敵する硬さを有することも記載されている(第3の1(6))。また、引用例1には、これらの検査食を嚥下障害を訴える口腔癌患者に適用し、検査食の硬さによって嚥下動態に変化がみられたことも記載されている(第3の1、(1)及び(4))ところ、これら検査食の患者への適用の順序については、前記第3の1(3)イにおける「(1)検査食1の嚥下」ないし「(6)検査食6の嚥下」の記載より、検査食1から順に患者に提供したと理解できる。
そうしてみると、引用例1には、
「嚥下障害のヒトの被験者を評価判断するための、個々に硬さが規格化された検査食のキットを作製する方法であって、該方法が
(i)硬さが2.20×10^(2)N/m^(2)のゾル状で七部粥ミキサーに匹敵する硬さを有する第一の検査食と、
(ii)硬さが6.53×10^(2)N/m^(2)のゾル状でヨーグルトに匹敵する硬さを有する第二の検査食と、
(iii)硬さが2.90×10^(3)N/m^(2)のゲル状で茶碗蒸しに匹敵する硬さを有する第三の検査食と、
(iv)硬さが7.49×10^(3)N/m^(2)のゲル状で絹豆腐に匹敵する硬さを有する第四の検査食と、
(v)硬さが1.09×10^(4)N/m^(2)のゲル状でオムレツに匹敵する硬さを有する第五の検査食と、
(vi)硬さが1.86×10^(4)N/m^(2)のゲル状でスクランブルエッグに匹敵する硬さを有する第六の検査食と、
を前記キットに提供する段階を含み、
前記第一の検査食が、前記被験者が該第一の検査食を嚥下する間と後で、嚥下障害の示唆のために前記被験者の嚥下を評価診断するよう提供され、次に前記第二の検査食が、前記被験者が該第二の検査食を嚥下する間と後で、嚥下障害の示唆のために前記被験者の嚥下を評価診断するよう提供され、さらに、前記第三の検査食が、前記被験者が該第三の検査食を嚥下する間と後で、嚥下障害の示唆のために前記被験者の嚥下を評価診断するよう提供され、続いて、前記第四の検査食が、前記被験者が該第四の検査食を嚥下する間と後で、嚥下障害の示唆のために前記被験者の嚥下を評価診断するよう提供され、続いて、前記第五の検査食が、前記被験者が該第五の検査食を嚥下する間と後で、嚥下障害の示唆のために前記被験者の嚥下を評価診断するよう提供され、続いて、前記第六の検査食が、前記被験者が該第六の検査食を嚥下する間と後で、嚥下障害の示唆のために前記被験者の嚥下を評価診断するよう提供される、方法。」についての発明(以下、この発明を「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

2 本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比する。
本願発明における「食用溶液」及び「食用構成物」、引用発明における「検査食」は、いずれも、嚥下機能の検査において被験者が摂取する検査用模擬食品である。また、本願発明の「粘性が標準化された食用溶液」における標準化とは、本願の発明の詳細な説明に「本発明の第一実施態様は、嚥下障害の存在におけるヒトの被験者を評価判断するための食用溶液の標準化された組み合わせを導く。溶液は標準で既知の粘性を有するため、嚥下疾患の系統的な研究且つ処置を促進する。」(段落【0013】)と記載されていることから、嚥下を評価診断するために使用する食用溶液の粘性が既知であってあるの範囲の値を有するという意味である。一方、引用発明の「硬さが規格化された検査食」における規格化とは、嚥下検査の結果を食品の選択に役立てるために行うものなので、嚥下を評価診断するために使用する検査食の硬さが既知であってある値を有するということであり、これは、検査用模擬食品の特定の物性が既知である(範囲の)値を有するという点で本願発明における標準化と同内容の事項である。そうしてみると、両者は、
「嚥下障害のヒトの被験者を評価判断するための、個々にその物性が標準化された検査用模擬食品のキットを作製する方法であって、該方法が、検査用模擬食品の特定の物性が既知でそれぞれ異なる検査用模擬食品をキットとして提供する段階を含み、これら検査用模擬食品の前記物性値の小さい順に、前記被験者が検査用模擬食品を嚥下する間と後で、嚥下障害の示唆のために前記被験者の嚥下を評価診断するよう提供される、方法。」である点において一致し、
上記検査用模擬食品が、本願発明では、「(i)23℃において30cp以下の粘性を有する第一の検査用模擬食品と、(ii)23℃において150cpから350cpの間の既知の粘性を有する第二の検査用模擬食品と、(iii)23℃において2000cpから4000cpの間の既知の粘性を有する第三の検査用模擬食品」であるのに対し、引用発明では、「(i)硬さが2.20×10^(2)N/m^(2)のゾル状で七部粥ミキサーに匹敵する硬さを有する第一の検査用模擬食品と、(ii)硬さが6.53×10^(2)N/m^(2)のゾル状でヨーグルトに匹敵する硬さを有する第二の検査用模擬食品と、(iii)硬さが2.90×10^(3)N/m^(2)のゲル状で茶碗蒸しに匹敵する硬さを有する第三の検査用模擬食品と、(iv)硬さが7.49×10^(3)N/m^(2)のゲル状で絹豆腐に匹敵する硬さを有する第四の検査用模擬食品と、(v)硬さが1.09×10^(4)N/m^(2)のゲル状でオムレツに匹敵する硬さを有する第五の検査用模擬食品と、(vi)硬さが1.86×10^(4)N/m^(2)のゲル状でスクランブルエッグに匹敵する硬さを有する第六の検査用模擬食品」である点において相違する。

3 相違点に対する判断
引用例1には、食物の物性と嚥下機能との関連の検討では、検査用模擬食品の特定の物性のみを変化させたときの嚥下機能を評価するのが適切である旨が記載されている(前記第3の1(2))ところ、引用例1の当該記載箇所には、食物の物性として硬さの他に粘性も示されている。一方、引用例2には、嚥下動態の評価において使用する検査用模擬食品(引用例2では、検査用模擬食品のことを造影剤と表記している。)の粘性に着目する旨が記載されており(前記第3の2(2))、その結果は、粘性が高い検査用模擬食品は下降期型誤嚥の検出に、粘性が低い検査用模擬食品は挙上期型誤嚥の検出にそれぞれ有効であると考えられた旨が記載されている(前記第3の2(1)及び(4))ことから、検査用模擬食品の粘性を変化させることにより被験者の嚥下障害を評価判断することは公知の事項である。
そうしてみると、嚥下障害のヒトの被験者を評価判断するための検査用模擬食品における規格化すべき物性について、引用発明における硬さに代えて、引用例1に例示され、また、引用例2において具体的にその値が異なる検査用模擬食品を使用して検討している粘性を選択することに格別の創意を要する事項ということはできない。
また、その際に、検査用模擬食品のキットに含まれる模擬食品の数を設定することやその粘性を特定の範囲のものにすることは当業者が適宜行う事項であって、本願発明において特定された検査用模擬食品の数や粘性の範囲に格別の技術的意義をみいだすことはできない。
なお、本願の発明の詳細な説明の記載(段落【0013】)によれば、本願発明のキットを構成する検査用模擬食品は、「標準で既知の粘性を有する」ため、本願発明のキットを使用する嚥下障害のヒトの被験者を評価判断において、「嚥下疾患の系統的な研究且つ処置を促進する」という効果を有するものである。しかし、斯かる効果は、引用例1の記載から予測される範囲内のものであり、本願発明がその効果の点において格別に優れているということはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-15 
結審通知日 2014-12-16 
審決日 2015-01-05 
出願番号 特願2001-520154(P2001-520154)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小松 邦光  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 川口 裕美子
大宅 郁治
発明の名称 嚥下障害被験者において嚥下を促進する粘性が標準化された構成物  
代理人 伊東 忠重  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ