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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B08B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B08B
管理番号 1301192
審判番号 不服2013-7569  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-24 
確定日 2015-05-20 
事件の表示 特願2007-310231号「ビール産業における酸洗浄のための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年6月4日出願公開、特開2009-119445号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年11月30日(パリ条約による優先権主張 2007年11月15日 (FR)フランス共和国)の出願であって、平成24年12月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成25年4月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。
そして、平成25年8月8日付けで、請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、平成26年2月12日に回答書が提出された。
その後、当審において平成26年4月25日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、平成26年10月28日に意見書が提出されるとともに、同日に手続補正がなされた。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明は、平成26年10月28日の手続補正により補正された特許請求の範囲1?8の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項8に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「ビールの調製および/または貯蔵/保存に使用される設備において少なくともメタンスルホン酸を含む配合物を循環させることによる、ビールの調製および/または貯蔵/保存の間に形成されるビール石および酵母リングを除去するための、少なくともメタンスルホン酸を含む配合物の使用方法。」

第3 引用文献
これに対して、当審において通知した平成26年4月25日付けで拒絶理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物である、
1.特開2001-207190号公報(以下「引用文献1」という。)
2.特開昭63-165496号公報(以下「引用文献2」という。)
には、それぞれ以下の事項が記載されている。

[引用文献1について]
(1a)「【請求項1】 リン酸を主成分とする酸性洗浄剤であって、(a)リン酸、(b)有機酸、及び(c)界面活性剤を有効成分として含有することを特徴とするビール醸造設備用酸性洗浄剤。
【請求項2】 (b)有機酸が、乳酸、クエン酸又はコハク酸から選択された少なくとも1種の有機酸である請求項1記載のビール醸造設備用酸性洗浄剤。」
(1b)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ビール醸造設備の洗浄に使用する酸性洗浄剤、詳しくは、リン酸を主成分とし、さらに有機酸及び界面活性剤を有効成分として含有する新規なビール醸造設備用酸性洗浄剤に関するものである。
【0002】
【背景技術】ビール醸造設備の洗浄は、洗浄するタンクの近傍に設置された洗浄剤タンクから洗浄剤が醗酵タンク、貯酒タンク、充填タンクの各上部に順次送られ、タンク内に設置された上部ノズルからスプレイする循環洗浄方法によって行われ、この洗浄方法を定置洗浄法(Cleaning In Place、以下、CIP洗浄法と略記する)と呼んでいる。CIP洗浄法には、苛性アルカリとキレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)との混合物を主成分とするアルカリ洗浄剤が広く使用されており、このアルカリ洗浄によってビール醸造設備内の主たる汚れの成分である蓚酸カルシウム及び蛋白を除去した後、中和、殺菌、水洗等を行って洗浄を終了する。」
(1c)「【0004】アルカリ洗浄おける問題を回避する手段として、酸性洗浄剤の使用が考えられるが、酸性洗浄剤は、アルカリ洗浄剤に比べると、ビール醸造時に生成する蛋白汚れに対しては洗浄力が劣り、また実用レベルにも達していないため、ビール醸造用設備の洗浄にはほとんど用いられていない。したがって、当業界においては、蛋白質等の汚れに対する洗浄性に優れた酸性洗浄剤の開発が期待されている。」
(1d)「【0010】本発明にかかるビール醸造設備用酸性洗浄剤における(a)成分のリン酸は、当該洗浄剤の主成分であり、洗浄能を奏する必須成分である。他の無機酸である塩酸及び硫酸はいずれもステンレス材質への侵食の問題があり使用できない。また、硝酸はステンレス材質への侵食はないものの、蛋白に対する洗浄性能がリン酸に比べて劣っているため不適である。他方、有機酸は、蓚酸カルシウム及び蛋白除去性が低くビール醸造設備用の酸性洗浄剤の主成分とはなり得ない。
【0011】また(b)成分の有機酸は、リン酸との併用効果により洗浄性を高めるもので、クエン酸、乳酸及びコハク酸による併用効果が顕著である。特に乳酸が併用効果に優れており、さらに環境問題を考えた場合、生分解性が高く廃水処理をし易いL-乳酸が最も適している。また、乳酸は、リン酸及び界面活性剤と混合して高濃度の洗浄液として調製することができるという利点も有している。」
(1e)「【0015】
【実施例】ビール醸造設備の内表面に付着している代表的な汚れ成分として、蓚酸カルシウム及び蛋白汚れとして酵母からなる2種の汚れ板を作製し、これを試験片として洗浄能を評価した。」
(1f)「【0022】比較例1?7の結果から明らかなように、リン酸に比べ、硝酸は酵母汚れの洗浄性に劣り、また、その他の酸は、蓚酸カルシウム及び酵母汚れの双方の洗浄性が劣る。さらにリン酸に界面活性剤を併用してもやはり洗浄性の大きい向上は認められない。他方、実施例1?9の結果から明らかなように、リン酸に乳酸等の有機酸及び式(1)?式(3)の界面活性剤を併用すると、蓚酸カルシウム及び酵母の各人工汚れ板に対する洗浄性は著しく向上した。さらに、実施例1-5を見ると、リン酸濃度を低くしても、その洗浄性は同等以上であった。」
(1g)「【0023】
【発明の効果】以上詳細な説明から明らかなように、本発明にかかる酸性洗浄剤は、リン酸、有機酸及び界面活性剤の併用により蓚酸カルシウム及び蛋白に対する高い洗浄効果が得られ、現在使われているアルカリ洗浄剤に変わるCIP洗浄用の酸性洗浄剤として極めて有用のものである。加えて、本発明にかかるビール醸造設備用酸性洗浄剤は以下の特性を備えている。
(1)(当審注:原文においては丸で囲まれた数字(1)、以下同様。)有機酸及び界面活性剤の併用により洗浄性が高められる結果、栄養付加の要因となるリン酸の使用量を削減することができる。
(2)さらに、有機酸及び界面活性剤は生分解性が高いので、環境に与える影響が少ない。
(3)特に、L-乳酸とリン酸及び界面活性剤との系は濃縮型の液剤に調製することができるので輸送する場合に有利となる。」

上記記載事項(1b)には、ビール醸造設備の洗浄を循環洗浄方法であるCIP洗浄法で行うこと、及び、CIP洗浄法には、ビール醸造設備内の主たる汚れの成分である蓚酸カルシウム及び蛋白の除去、中和、殺菌、水洗等が含まれることが示されている。
また、上記記載事項(1c)には、アルカリ洗浄剤に代えて、ビール醸造用設備の洗浄に用い得る、蛋白質等の汚れに対する洗浄性に優れた酸性洗浄剤の開発が期待されているという課題が示され、かかる課題に対し、上記記載事項(1a)には、リン酸を主成分とする酸性洗浄剤であって、(a)リン酸、(b)有機酸、及び(c)界面活性剤を有効成分として含有するビール醸造設備用酸性洗浄剤が示されている。
また、上記記載事項(1e)には、ビール醸造設備の内表面に付着している代表的な汚れ成分が、蓚酸カルシウム及び酵母からなる蛋白汚れであることが示されている。なお、蓚酸カルシウムがビール石の主成分であること、及び、酵母からなる蛋白汚れとしてよく知られた例が酵母リング(酵母からなる蛋白汚れが発酵タンクの気相/液相の境界に付着してできたもの)であることは、一般によく知られた事項である。
そして、上記記載事項(1f)、(1g)には、リン酸、有機酸及び界面活性剤を併用する酸性洗浄剤を使用することにより、蓚酸カルシウム及び酵母による蛋白汚れに対する洗浄性が著しく向上し、高い洗浄効果が得られることが示されている。

そうしてみると、引用文献1には、「ビール醸造設備の洗浄を循環洗浄方法であるCIP洗浄法で行い、ビール醸造設備の内表面に付着している蓚酸カルシウム及び酵母からなる蛋白汚れを除去するために、リン酸を主成分とし、リン酸、有機酸及び界面活性剤を併用する酸性洗浄剤を使用する方法。」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

[引用文献2について]
(2a)「2.特許請求の範囲
1.炭素原子を1?4個有する短鎖アルカンスルホン酸またはその混合物を含有する清浄製剤および/または消毒剤。
2.アルカンスルホン酸としてメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸またはブタンスルホン酸を含有する第1項記載の清浄製剤および/または消毒剤。」(第1頁左欄第5?12行)
(2b)「[産業上の利用分野]
本発明は、とりわけ食品工業において使用する清浄製剤および/または消毒剤におけるアルカンスルホン酸の用途に関する。」(第1頁右欄第8?11行)
(2c)「[従来技術]
清浄および消毒の分野においては、酸性製剤を使用する場合には、硝酸、硫酸およびリン酸系の製品が現在使用されている。これらの酸の混合物が使用されることもある。」(第1頁右欄第12?16行)
(2d)「酸性清浄製剤および/または消毒剤用の主成分として、リン酸およびその酸性塩がやはり主に用いられている。リン酸またはその塩を、界面活性剤、抑泡剤、腐食防止剤および要すれば溶液促進剤(solutionpromoter)、並びにリン酸系中で安定かつ活性な消毒成分、例えば4級アンモニウム化合物、元素状ヨウ素、過酸化水素およびパー化合物と混合する。
これらの組み合わせを、特定の食品工業に伴うタンパク質、脂肪および無機汚れを除去するために、5?85℃の温度で使用する。」(第2頁左上欄第8?19行)
(2e)「近年、環境汚染の問題により、硝酸塩含有製品、通例窒素含有製品、およびとりわけリン酸含有製品中の酸を他の酸に代えることが望まれつつある」(第2頁右上欄第4?6行)
(2f)「[発明の目的]
本発明の目的は、環境汚染を防止する観点から窒素およびリンをほとんどまたは全く含有せず、食品工業において炭水化物、タンパク質、脂肪、無機成分などのような汚れの除去に特に適当な、改良された清浄製剤および/または消毒剤提供することである。同時に、本発明の清浄製剤および/または消毒剤は、約85℃までの高温において、クロム-ニッケルスチール、アルミニウムおよび銅表面を腐食しないことが意図されている。」(第2頁左下欄第14行?同頁右下欄第3行)
(2g)「[発明の構成]
驚くべきことに、清浄製剤および/または消毒剤中に特定のアルカンスルホン酸を用いると、前記のような汚れの除去に有利であることがわかった。
炭素原子を1?4個有するアルカンスルホン酸は、有機汚れに対して有効であるだけでなく、酸性度が高い故に無機汚れをも除去し得ることがわかった。更に、硫酸とは異なり、高温でもクロム-ニッケルスチールに腐食を起こさないこともわかった。」(第2頁右下欄第4?14行)
(2h)「本発明によると、炭素原子数1?4の短鎖アルカンスルホン酸を使用することが可能である。従って、本発明においては、アルカンスルホン酸としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、n-およびイソ-プロパンスルホン酸並びにn-、イソ-およびt-ブタンスルホン酸が挙げられる。メタンスルホン酸、エタンスルホン酸および/またはブタンスルホン酸を使用することが好ましい。本発明によると、アルカンスルホン酸は、清浄製剤および/または消毒剤中で、単独で使用しても、混合物として使用してもよい。
本発明のアルカンスルホン酸は、本発明の清浄製剤および消毒剤中で、0.5?100%、好ましくは5?95%の濃度で使用し得る。
従って、窒素(ナイトレート)およびリン(ホスフェート)を含有せず、その上クロム-ニッケルスチールを腐食しない、短鎖スルホン酸を含有する清浄製剤および消毒剤も、本発明の範囲内に含まれる。リンをわずかに要する場合、酸性清浄製剤および消毒剤は、アルカンスルホン酸に加えてリン酸または硫酸および要すれば有機酸を混合酸基剤として含有し得る。この場合、アルカンスルホン酸に加えて、硫酸30?40%および/またはリン酸20?30%が存在することが有利である。
アルカンスルホン酸含有清浄製剤は、前記酸に加えて、例えばウルマン・エンチクロペディー・デァ・テヒニッシェン・ヘミ-、第4版、第20巻、153頁以降に記載されているような、他の汚れ分解化合物、錯化剤、界面活性剤、腐食防止剤、抑泡剤および香料をも要すれば含有し得る。」(第2頁右下欄第18行?第3頁右上欄第8行)
(2i)「実施例6
リン酸とC_(12)-C_(14)脂肪酸のエトキシ化物および抑泡剤との組み合わせを含んで成る生成物を用いて6℃において約1時間発酵タンクを作動させ、良好な結果を得た。タンクは、清浄製剤および/または消毒剤を供給した混合器のスプレーヘッドから清浄した。リン酸生成物の代わりに、同様のエトキシ化物および抑泡添加剤を含有するブタンおよびメタンスルホン酸の混合物を使用した。清浄結果は、前記方法よりも明らかに良好であった。清浄時間は、45分間に短縮された。」(第4頁左下欄第19行?同頁右下欄第9行)

第4 対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「ビール醸造設備」は、本願発明の「ビールの調製および/または貯蔵/保存に使用される設備」に相当する。
また、引用発明1の「リン酸、有機酸及び界面活性剤を併用する酸性洗浄剤」と、本願発明の「少なくともメタンスルホン酸を含む配合物」とは、その用途と成分からみて、「酸性洗浄剤」である点で共通する。よって、引用発明1の「リン酸、有機酸及び界面活性剤を併用する酸性洗浄剤を使用」して「ビール醸造設備の洗浄を循環洗浄方法であるCIP洗浄法で行」うことと、本願発明の「ビールの調製および/または貯蔵/保存に使用される設備において少なくともメタンスルホン酸を含む配合物を循環させること」とは、「ビールの調製および/または貯蔵/保存に使用される設備において酸性洗浄剤を循環させること」において共通する。
そして、引用発明1の「ビール醸造設備の内表面に付着している蓚酸カルシウム及び酵母からなる蛋白汚れ」は、ビール醸造設備に付着している汚れであって、蓚酸カルシウムはビール石の主成分であること、及び、酵母からなる蛋白汚れとしてよく知られた例が酵母リング(酵母からなる蛋白汚れが発酵タンクの気相/液相の境界に付着してできたもの)であることが一般によく知られていることから、本願発明の「ビールの調製および/または貯蔵/保存の間に形成されるビール石および酵母リング」に相当する。

よって、両者は、「ビールの調製および/または貯蔵/保存に使用される設備において酸性洗浄剤を循環させることによる、ビールの調製および/または貯蔵/保存の間に形成されるビール石および酵母リングを除去するための、酸性洗浄剤の使用方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
酸性洗浄剤に関して、本願発明においては、少なくともメタンスルホン酸を含む配合物であるのに対して、引用発明においては、リン酸を主成分とし、リン酸、有機酸及び界面活性剤を併用する酸性洗浄剤である点。

第5 判断
1 上記相違点について検討する。
引用文献2に記載されたものは、食品工業において使用する清浄製剤におけるアルカンスルホン酸の用途に関するものであり(上記記載事項(2b))、環境汚染を防止する観点から窒素およびリンをほとんどまたは全く含有せず、食品工業において炭水化物、タンパク質、脂肪、無機成分などのような汚れの除去に特に適当な、改良された清浄製剤および/または消毒剤を提供することを目的としている(上記記載事項(2f))。
そして、引用文献2には、従来、清浄製剤として酸性製剤を使用する場合には、硝酸、硫酸およびリン酸系の製品が使用され、清浄製剤の主成分としては、リン酸およびその酸性塩が主に用いられているが(上記記載事項(2c)、(2d))、近年、環境汚染の問題により、硝酸塩含有製品、通例窒素含有製品、およびとりわけリン酸含有製品中の酸を他の酸に代えることが望まれつつある(上記記載事項(2e))という課題が示され、環境汚染を防止する観点から窒素およびリンをほとんどまたは全く含有せず、食品工業において炭水化物、タンパク質、脂肪、無機成分などのような汚れの除去に特に適当な、改良された清浄製剤として、清浄製剤に特定のアルカンスルホン酸を用いると、前記のような汚れの除去に有利であることを見出し、また、炭素原子を1?4個有するアルカンスルホン酸は、有機汚れに対して有効であるだけでなく、酸性度が高い故に無機汚れをも除去し得ることが示されている(上記記載事項(2f)(2g))。
そして、炭素原子数1?4の短鎖アルカンスルホン酸として、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、n-およびイソ-プロパンスルホン酸並びにn-、イソ-およびt-ブタンスルホン酸を挙げ、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸および/またはブタンスルホン酸を使用することが好ましいことが示されている(上記記載事項(2a)、(2h))。
さらに、実施例6には、発酵タンクの清浄に関して、リン酸系の清浄製剤でも良好な結果は得られるが、ブタン及びメタンスルホン酸の混合物を使用するとさらに良好な結果が得られたことが示されている(上記記載事項(2i))。

引用発明1は、ビール醸造設備のような食品工業設備に用いる酸性洗浄剤を改良し、蓚酸カルシウム及び蛋白に対する高い洗浄効果が得られるようにしたものであり、当該酸性洗浄剤はリン酸を主成分とするものである。一方で、引用文献1には、栄養付加の要因となるリン酸の使用量を削減することができ、併用する有機酸及び界面活性剤は生分解性が高く、環境に与える影響が少ないものであるとの特性を備えていることが記載されているから(上記記載事項(1g))、引用文献1には、環境汚染の防止を目的に、リン酸の使用量を少なくする方向に酸性洗浄剤を改良することが示唆されている。よって、この示唆に従えば、引用発明1のリン酸を主成分とする酸性洗浄剤に代えて、リン酸の使用量がより少ない酸性洗浄剤あるいはリン酸の代替物による酸性洗浄剤を適用しようとすることには十分な動機づけが存在する。同様に、リン酸の全体的使用量を削減可能な、引用発明1の酸性洗浄剤の一部の成分に代えて、リン酸の使用量がより少ない酸性洗浄剤あるいはリン酸の代替物による酸性洗浄剤を適用する場合、又は、引用発明1の酸性洗浄剤とともにリン酸の使用量がより少ない酸性洗浄剤あるいはリン酸の代替物による酸性洗浄剤を適用する場合についても、十分な動機づけは存在する。
そして、引用文献2には、上記のとおり、環境汚染を防止する観点からリンをほとんどまたは全く含有せず、食品工業において炭水化物、タンパク質、脂肪、無機成分などのような汚れの除去に特に適当な清浄製剤として、メタンスルホン酸を含む酸性清浄製剤を使用することが記載されているから、引用発明1のリン酸を主成分とする酸性洗浄剤に代えて、引用文献2に記載されたメタンスルホン酸を含む酸性清浄製剤を使用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
同様に、引用発明1の酸性洗浄剤の一部の成分に代えて、引用文献2に記載されたメタンスルホン酸を含む酸性清浄製剤を使用すること、及び、引用発明1の酸性洗浄剤とともに引用文献2に記載されたメタンスルホン酸を含む酸性清浄製剤を使用することも、当業者が容易に想到し得ることである。
よって、本願発明の上記相違点に係る構成を得ることは、当業者が容易に想到し得ることである。

2 そして、引用文献1に、リン酸系の酸性清浄製剤が無機汚れである蓚酸カルシウム(ビール石)及び有機汚れである酵母からなる蛋白汚れ(酵母リング)を効果的に除去することが記載されているところ(上記記載事項(1e)?(1g))、引用文献2には、同様のリン酸系の酸性清浄製剤が、食品工業に伴うタンパク質、脂肪および無機汚れを除去していること、同様の汚れを除去するものとして、当該リン酸系の酸性清浄製剤に代えて、メタンスルホン酸を含む酸性洗浄剤を使用することが記載されており(上記記載事項(2d))、特に、炭素原子を1個有するアルカンスルホン酸であるメタンスルホン酸について、有機汚れに対して有効であるだけでなく、酸性度が高い故に無機汚れをも除去し得るということが記載されている(上記記載事項(2f)、(2g))。
そうすると、引用文献2に記載された、有機汚れに対して有効であるだけでなく、酸性度が高い故に無機汚れをも除去し得るメタンスルホン酸が、無機汚れであるビール石及び有機汚れである酵母リングに対しても作用効果を奏するであろうことは当業者の予測し得る範囲のものである。
よって、本願発明の奏する作用効果は、引用文献1、2に記載された事項から当業者の予測し得る範囲のものであって、格別顕著なものということはできない。

3 したがって、本願発明は、引用発明1及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 なお、請求人は、平成26年10月28日付け意見書において、
「(2)引用文献との対比
引用文献1は最も近い従来技術として認定されている。本願発明とこの引用文献記載の発明との相違点は、本願発明では酸性洗浄剤がメタンスルホン酸(MSA)を含む配合物なのに対し、引用文献1の酸性洗浄剤は主成分としてリン酸を含み、さらに活性成分として有機酸と界面活性剤を含むことである。
この相違点の第1の効果はMSAはビール石と酵母リングの両方の組み合わされた除去を有することを可能にすることである。本願発明では、醸造設備の表面に適用するためのただ一つの清浄化酸活性成分があり、複数の清浄化配合物や複数の連続した洗浄操作、また、複数の中間すすぎの使用を回避する(本願明細書段落低級0016および0017)。
当業者の客観的課題はビール石と酵母リングの両方を同時に除去する一つの洗浄剤を見出すことである。引用文献1および他の引用文献を考慮すると、これらはMSA単独を使用するよう当業者を明確には導かない。」と主張する。
しかしながら、本願発明は「少なくともメタンスルホン酸を含む配合物」であるから、配合物にはメタンスルホン酸以外の清浄化成分、例えば硫酸、リン酸、硝酸、クエン酸等を含むことを排除していない。このことは、本願の請求項1を引用する請求項5に「前記配合物が、1種またはそれ以上の、レオロジー添加剤、溶媒、殺生物剤ならびに他の質感剤[この質感剤は溶媒および共溶媒、有機酸または無機酸、増粘剤、界面活性剤、発泡剤および消泡剤から選択される。]をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。」と記載し、当該構成に対応する明細書の段落【0035】には「アルカンスルホン酸に加えて、清浄化配合物は、当業者に周知のように、場合により、1種またはそれ以上の、レオロジー添加剤、溶媒、殺生物剤ならびに他の質感剤[この質感剤は溶媒および共溶媒、有機酸または無機酸(例えば、硫酸、リン酸、硝酸、スルファミン酸、クエン酸)、増粘剤、界面活性剤、発泡剤、消泡剤および同種物から選択される。]を含み得る。」と記載されていることからも明らかである。
よって、請求人の上記主張は請求項の記載に基づくものではなく、採用することはできない。

また、請求人は、「引用文献2のどこにもビール石と酵母リングの両方を洗浄することを教示も示唆もしていない。」、「また、引用文献2の実施例6では、リン酸を含む配合物の洗浄効果がブタンおよびメタンスルホン酸の混合物を含む配合物の洗浄効果より劣ることが記載されている。すなわち、引用文献2の[実施例]に基づくと、引用文献2は硫酸およびリン酸はミルク汚れに対し全く有効性を示さないか、少なくとも弱い有効性しか示さないことを教示する。つまり、ミルク汚れは被洗浄性の点で本願発明のビール石汚れとも酵母リングとも全く異なる。よって、引用文献2はどこにもメタンスルホン酸がビール石および酵母リングの両方を効果的に洗浄するのに使用できることを教示も示唆もしない。従って、ミルク汚れを洗浄する配合物でビール汚れを洗浄する配合物を置き換えることは自明ではない。」と主張する。
しかしながら、引用文献1に、リン酸系の酸性清浄製剤が無機汚れである蓚酸カルシウム(ビール石)及び有機汚れである酵母からなる蛋白汚れ(酵母リング)を効果的に除去することが記載されているところ、引用文献2には、同様のリン酸系の酸性清浄製剤が、食品工業に伴うタンパク質、脂肪および無機汚れを除去していること、同様の汚れを除去するものとして、当該リン酸系の酸性清浄製剤に代えて、メタンスルホン酸を含む酸性洗浄剤を使用することが記載されており(上記記載事項(2d))、特に、炭素原子を1個有するアルカンスルホン酸であるメタンスルホン酸について、有機汚れに対して有効であるだけでなく、酸性度が高い故に無機汚れをも除去し得るということが記載されている(上記記載事項(2f)、(2g))。
そうすると、引用文献2に、ビール石と酵母リングの両方を洗浄することの明記がないにしても、有機汚れに対して有効であるだけでなく、酸性度が高い故に無機汚れをも除去し得るメタンスルホン酸が、無機汚れであるビール石及び有機汚れである酵母リングに対しても作用効果を奏するであろうことは当業者の予測し得る範囲のものである。
また、実施例6は、発酵タンクの清浄に関して、リン酸系の清浄製剤でも良好な結果は得られており、ブタン及びメタンスルホン酸の混合物を使用するとさらに良好な結果が得られたことを示すものである。よって、効果に若干の差こそあれ、両者とも発酵タンクの清浄に適した清浄製剤であるから、リン酸系の酸性清浄製剤代えてメタンスルホン酸を含む酸性清浄製剤を使用することについて、実施例6の開示によって何ら阻害されるものではない。
よって、請求人の上記主張は当を得たものではなく、採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-17 
結審通知日 2014-12-22 
審決日 2015-01-06 
出願番号 特願2007-310231(P2007-310231)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B08B)
P 1 8・ 537- WZ (B08B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石川 貴志  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 山崎 勝司
千壽 哲郎
発明の名称 ビール産業における酸洗浄のための方法  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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