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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1301384
審判番号 不服2014-1009  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-21 
確定日 2015-05-28 
事件の表示 特願2010-544181「検体の前処理方法、および生体関連物質の測定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月 1日国際公開、WO2010/074265〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年12月25日(優先権主張:平成20年12月25日、平成21年7月28日 日本)を国際出願日として出願された日本語特許出願であって、平成25年4月5日付けで拒絶理由が通知され、同年6月10日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月8日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年9月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月18日付けで同手続補正書による補正について補正の却下の決定がなされるとともに同日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年1月21日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年1月21日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年1月21日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を次のとおりに補正(下線は補正箇所を示す。)する補正事項をその一部に含むものである。

「【請求項1】
検体中の生体関連物質の測定システムであって、
検体に含まれる夾雑物に対して親和性を有する物質、該夾雑物を不活性化する物質、または検体中の生体関連物質に対して親和性を有する物質が固定された第1担体と、
生体関連物質の検出用試薬が固定された担体、および生体関連物質の検出用試薬を固相化してなる担体から選ばれる第2担体と、
前記検体が収容される検体収容部と、
前記第1担体が収容される第1収容部と、
前記第2担体が収容される第2収容部とを備え、前記検体収容部、前記第1収容部、前記第2収容部が、前記検体及び前記生体関連物質の処理内容に応じた順序でライン状に配列され、前記第1担体が磁性粒子であり、
前記測定システムが、さらに、分注チップを装着した分注ノズルと、前記分注チップの位置を制御するチップ位置制御部と、前記分注チップ内に前記磁性粒子を固定する磁石と、前記磁石の配置を管理して前記分注チップに付与する磁場の強さを制御する磁場制御部とを備え、前記分注ノズルが、前記ラインに対して垂直方向に移動し、かつ前記ラインに対して平行な水平方向に移動すると共に、前記磁石が、前記ラインに対して平行な前記水平方向に移動し、
前記分注ノズル及び前記磁石が、前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記ラインの一端側から前記ラインの他端側へ移動すると共に、前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記他端側から前記一端側へ移動する、前記測定システム。」

上記請求項1についての補正事項は、補正前の前記分注ノズル及び前記磁石の水平方向の移動について、(i)補正前の「前記磁石が、前記ラインに対して平行な水平方向に移動」を「前記磁石が、前記ラインに対して平行な前記水平方向に移動」と補正し、(ii)「前記分注ノズル及び前記磁石が、前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記ラインの一端側から前記ラインの他端側へ移動すると共に、前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記他端側から前記一端側へ移動する」とさらに限定するものであるから、本件補正の請求項1についての補正事項は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

2 独立特許要件についての検討
(1)引用刊行物及びその記載事項
ア 刊行物1(国際公開第97/44671号)
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物1には、分注機による磁性体粒子の制御方法及びその装置について、次の事項が図面とともに記載されている。
(ア)「技術分野
この発明は、目的物質を結合させた磁性体粒子を、磁力を利用して液から分離し、または、液に懸濁させる分注機による磁性体粒子の制御方法およびその装置に関する。

技術的背景
近年、バイオテクノロジー分野において、磁性体粒子を利用して、溶液中から対象とする目的物質のみを分離する方法が利用されるようになり、免疫アッセイ、DNAハイブリダイセーション、PCR、細胞の分離、タンパク質の分離或は洗浄等に広く応用されている。」(第1頁4行?14行)

(イ)「発明の開示
上記目的を達成させるため、請求の範囲1に記載された分注機による磁性体粒子の制御方法は、先端部と貯留部とを結ぶ液通路内に磁場作用が及ぼされる分離領域部を有し液の吸引又は吐出をするピペット部の該分離領域部に磁性体粒子を懸濁させた液を通過させる際に、液通路の外側面から前記分離領域部に磁場作用を及ぼし、液通路の内側面に磁性体粒子を吸着させることにより、液から磁性体粒子を分離可能とする過程を含むことを特徴とするものである。
ここで、「先端部」とは、液が流入し、流出する部分をいい、ピペット部の先端の口の部分のみ、又は、それに付随して先端に向けて先細りとなっている部分があればそれを含めても良い。
「貯溜部」とは、吸引した液を貯溜する容器部分をいう。
また、「液通路」とは、先端部と貯溜部との間を結ぶ(連通する)部分であって、この部分は、主として液の通過に用いられる部分であり、この部分では、少なくとも、吸引された液又は貯溜部から流出する液の下面が通過するように制御される領域が含まれる部分である。
「液通路」内に分離領域部を設けるようにしたのは、第1に、液通路は、前述したように先端部から吸引された液又は貯溜部から流出する液の下面が通過するように制御される領域を含むので、当該部分に分離領域部を設ければ、液の全てを通過させて液中に懸濁する全磁性体粒子を漏れなく捕らえることが可能だからである。
第2に、液通路は、貯溜部のように液を貯溜するための領域でないので、ピペット部の下方に設けた容器の液量を維持する程度以上の容積をもたせたり、ピペット部を支持する構造を形成する等の形状の制限が少ないので、液通路内に磁場作用を十分に及ぼすように細く形成できる。
分離領域部では、前記先端部から吸引された液又は貯溜部から流出する液の下面が通過するように制御すれば、全磁性体粒子を捕獲することができる。」(第3頁10行?第4頁10行)

(ウ)「「磁性体粒子」には、例えば、目的物質を吸着、又は反応によって結合させる物質をコーティングすることによって目的物質を結合させたものを用いる。」(第5頁20行?22行)

(エ)「請求の範囲8に記載された方法は、請求の範囲1乃至請求の範囲7のいずれかの方法によって捕集された磁性体粒子を、ピペット部の液通路内面に吸着させたまま、これを他の位置へと移送し、該位置で、該位置に用意された液との反応や撹拌や洗浄等の目的物質に対する必要な処理作業を行なうように構成したことを特徴とするものである。
この方法によれば、磁性体粒子と検体との懸濁液から目的物質が結合した磁性体粒子のみをピペット部の液通路内面に吸着させたまま他の位置まで移送することが可能となり、それぞれの位置において、試薬の混合も、容器内面に吸着させた場合と比較して、最小限の条件にて、分離、攪拌、洗浄作業を効率的に行うことができる。」(第7頁20行?第8頁1行)

(オ)「以下、添付図面に示す実施の形態例に基づき詳細に説明する。
図3には、本発明の処理の基本的な概要を示す。
ここで、符号1は容器で、容器1の液を容する各液収納部1A?1Hが直列やループ状或はジグザグ状等の列状にされて一体に形成されたカートリッジ容器Cを形成させており、その上部を前記ノズルに装着されたピペットチップPが移動して、各液収納部1A?1H毎に必要な液の吸引或は吐出を実施し、適宜に前記磁場源に相当する磁石MがピペットチップPの液通路に近接して液から磁性体粒子2を分離領域部で捕集して、分離し、また、離間して液に磁性体粒子2を懸濁させる。
そして、液収納部1Aには検体が予め粗分注され、また、液収納部1Bには所要量の反応不溶磁性体が含有された反応不溶磁性体液3が予め収容され、液収納部1Cと1Dには所要量の洗浄液5が予め収容され、液収容部1Eには所要量の標識液が予め収容され、液収容部1Fと1Gには所要量の洗浄液5が予め収容され、さらに、液収納部1Hには基質液が分注されており、分析に必要な準備作業がすべて実行できるように必要量の各液が用意されている。」(第18頁23行?第19頁10行)

(カ)「本発明に係る免疫化学検査法の分析手段として光学測定装置により発光量測定を行なう場合について説明する。
先ず、液収納部1Aに粗分注された検体を、ピペットチップPで所定量吸引して定量を行なう。
次に、この検体が吸引されたピペットチップPを移送して液収納部1B内の反応不溶磁性体液3に吸引された検体を全量吐出した後、この検体と反応不溶磁性体液3との混合液を、ピペットチップPで繰り返し吸引・吐出させて(以下、液の吸引・吐出という。)、磁性体粒子2の均一な撹拌混合状態を生成し、所要時間経過後、インキュベイションされた混合液を上記ピペットチップPで全量或は所要量吸引する。
このとき、ピペットチップPに吸引された混合液中に懸濁する磁性体粒子2は、図4に示すピペットチップPの液通路11内に設けられた分離領域部11aを通過するときに、該ピペットチップPの外側に配設された磁石Mの磁力によって液通路11の分離領域部11aのある内壁面に捕集される。また、混合液の吸引高さは、図4に示すように、全ての混合液が吸引されたときに、その下面が液通路11の分離領域部11aの下端域以上、、即ち、磁石Mの下端付近かそれ以上のレベルとなるように、上記ピペットチップPに吸引され、磁性体粒子2が完全に捕集されるように配慮されている。
このようにして磁性体粒子2が捕集された後、この磁性体粒子2を除く混合液は、液収納部1Bに吐出されて排液され、磁性体粒子2のみがピペットチップPに残る。このとき、磁性体粒子2は濡れているので、混合液が排出されても、ピペットチップPの分離領域部11aの液通路11の内面に吸着したまま保持され、ピペットチップPを例えば移送したとしても、みだりに脱落しない。
次に、ピペットチップPは、磁性体粒子2を捕集したまま次の液収納部1Cへと送られ、液収納部1C内の洗浄液5を吸引する。このとき、磁石Mは、ピペットチップPから離れる方向に移動して前記分離領域部11aから遠ざかり磁性体粒子2の吸着状態を解除し、従って、この洗浄液5を吸引・吐出させることで、再懸濁状態を作り、洗浄液による粒子の洗浄を十分に効率的に行うことができる。
吸引の際には、液の一部を残す。これは空気吸引による泡の発生を防止するためである。いずれの場合も、洗浄すべき前の溶液の水位以上に洗浄液の水位・量を制御することも重要である。
そして、液の吸引・吐出が終了した後、ピペットチップPは、液収納部1C内の洗浄液5をゆっくりと全て吸引する。このとき、磁石Mは、再びピペットチップPに接近し、吸引された洗浄液5中に懸濁する磁性体粒子2を全て捕集し、この磁性体粒子2を除く洗浄液5は、液収納部1Cに吐出されて排液され磁性体粒子2のみがピペットチップPに残る。
次に、ピペットチップPは、磁性体粒子2を捕集したまま次の液収納部1Dへと送られ、該液収納部1D内の洗浄液5を吸引し、液収納部1Cで行なわれた手順と同じ手順で磁性体粒子2の洗浄作業および捕集作業が行なわれる。
次に、ピペットチップPは、洗浄された磁性体粒子2を捕集したまま次の液収納部1Eへと送られ、この液収納部1E内の標識液6を吸引する。このとき、磁石Mは、ピペットチップPから離れる方向に移動して磁性体粒子2の吸着状態を解除し、従って、この標識液6を吸引・吐出させることで、全磁性体粒子2と標識液6との反応を均一化させることができる。
そして、液の吸引・吐出が終了した後、所定時間経過後、ピペットチップPは、液収納部1E内の標識液6をゆっくりと全て吸引する。このとき、磁石Mは、再びピペットチップPに接近し、吸引された標識液6中に懸濁する磁性体粒子2を全て捕集し、この磁性体粒子2を除く標識液6は、液収納部1Eに吐出されて排液され磁性体粒子2のみが上記ピペットチップPに残る。
この後、ピペットチップPは、磁性体粒子2を捕集したまま次の液収納部1Fへと送られ、この液収納部1F内の洗浄液5を吸引し、液収納部1C,1Dと同一の手順で磁性体粒子2の洗浄・捕集を行なう。一度捕獲してペレット状になった磁性体粒子を充分に懸濁させるため、溶液を高速に平均10?15回吸引・吐出し、攪拌させる。その後、次の液収納部1Gの洗浄液5を、液収納部1Fの洗浄液吸引手順と同じ手順で吸引し、磁性体粒子2の洗浄・捕集が行なわれる。
この後、ピペットチップPは、液収納部1Hへと移送され、例えば、CLEIA検査のように、基質液との混合後、発光が継続し、発光量が安定するために一定時間を必要とする測定法の場合には、この液収納部1H内に予め収容された基質液7を吸引する。このとき、磁石Mは、ピペットチップPから離れる方向に移動して磁性体粒子2の吸着状態を解除し、従って、この基質液7を液の吸引・吐出させることで、全磁性体粒子2と基質液7との反応を均一化させることができる。
そして、液の吸引・吐出が終了し、所定時間経過後、その発光量が測定される。」(第19頁16行?第22頁4行)

(キ)「Nは分注ユニットのノズルであり、分注ユニット(図示せず)の先端部に形成して先端をピペットチップPの貯溜部12に設けた開口に着脱自在に挿入することができるように形成し、ノズルNを介して分注ユニットの吸気または排気に従ってピペットチップPの内部を負圧または加圧する。
Mは磁石であり、ピペットチップPの分離領域部11aにある液通路11の外側面に接触させ、或は、外側面から約数ミリメートルの範囲まで近接させ、液に懸濁されている磁性体粒子を分離領域部11aのある液通路の内面に捕集させる。
分注ユニット(多連の場合はノズルユニットという、図6参照)29は、制御部からの制御信号によりステッピングモータ(図示せず)を回転させ、その回転軸の回転量を往復動に変換してピストン29bを動作させ、ノズルNを介してピペットチップPに給気あるいはピペットチップPから排気する。また、分注ユニット29は反応容器(図示せず)から容器1Aに分注チップ(図示せず)を用いて検体を分注し、さらに各容器1B?1Hの真上に移動してそれぞれ吸引あるいは吐出するため、自由に上下動または平行移動乃至平面移動することができるように構成する。」(第22頁26行?第23頁14行)

(ク)「以下では、上記ピペットチップPを使用したシステムにつき、添付図面に示す形態例に基づき詳細に説明する。
第1形態例
図5には、この発明を化学発光法に基づく免疫検査に好適な装置(システム)の一構成例が示されている。
この装置は、処理機構及び装置に内蔵されたコンピュータにより装置の各機構を制御する制御装置34を有する本体装置21、本体装置に対して種々の指示を入力するキーボード31及び情報を表示する表示装置30からなっている。
本体装置21は、種々の容器類が載置され装置に対して前後方向に移動可能なステージ32と、このステージ32の上方に設けられ装置に対して左右の方向及び上下の方向に移動可能な分注ユニット29と、同様にステージの上方に設けられる光学測定ユニット28と、からなっている。
上記分注ユニット29は、図6に示すように所定の間隔をおいて4連のノズルNが直線上に配置されており、これら4連のノズルNの同時駆動が可能である。各ノズルNの先端にはピペットチップPが着脱自在に装着でき、分注ユニット29内部には各ノズルNに応じてシリンダ29aが設けられており、これら各シリンダ29a内のピストン29bは4連からなりこれらピストン29bは同時に空気の吸引、吐出動作を行う。
特に、本形態例で用いた分注ユニット29は簡素化、コストダウンを考慮して、各シリンダ内のピストンは駆動に独立性をもたせてなく、4連が同一に駆動する構成としている。」(第23頁15行?第24頁9行)

(ケ)「図7と図8は、図6に示すシリンダで液の処理を行なうときに、磁場源Mと挟持体Vとを駆動制御する場合に好適な磁石駆動装置を示しており、この例では、櫛歯状に形成された磁石部M_(1),M_(2),M_(3),M_(4)を有する磁場源Mと、これも櫛歯状に形成された挟持部V_(1),V_(2),V_(3),V_(4)を有する挟持体Vとを開閉自在に昇降機構Oに軸支し、該昇降機構Oを昇降させることで、昇降機構OのローラR_(A),R_(B)が、図8に示すように閉じて、磁場源Mと挟持体Vが図7で示すスプリングO_(S)によりチップ挟持方向に閉作動し、その結果、該4本のピペットチップP_(1),P_(2),P_(3),P_(4)に対して、同時に磁場源Mを当接させ、或は、挟持体Vと磁場源Mとで同時に挟持することができるように構成されている。
このように磁場源Mと挟持体Vとを構成することで、液処理ラインが隔壁で画成されている場合であって、磁場源Mと挟持体Vが隔壁と衝突することなく、4本の液処理ラインにおける磁性体粒子2の吸着や撹拌混合或は液の吸引・吐出作業を同じタイミングで同時に処理することができ、より簡単な構成で処理効率を大幅に向上させることができる。勿論、この発明では、磁場源Mと挟持体Vとを上記形態例のように4連構成で形成する場合に限定されるものではなく、ニーズに対応させて2連以上で形成してもよい。」(第25頁7行?25行)

(コ)「また、ピペット制御部43には、前記磁石の駆動を制御する部分、挟持体の駆動を制御する部分、吸引・吐出の駆動を制御する部分、X,Y,Z軸に沿った移動を制御する部分等を有する。」(第32頁15行?17行)

(サ)「産業上の利用可能性
このように構成された本発明の好適な適用分野としては、例えば、磁性体と磁性体を含まない液間に発生する反応或は液内に存在する物質、磁性体への物理的・化学的吸着等の対象となるものに有効であり、この物質としては、抗原、抗体、タンパク質、酵素、DNA、ベクターDNA、RNA、m-RNAまたはプラスミド等の免疫学的物質や生物学的物質または分子学的物質、或は、その定性・定量に必要なアイソトープ、酵素、化学発光、蛍光発光、電気化学発光等に用いられる標識物質を対象とする検査法或は臨床検査装置に適用できる。そして具体的には、免疫検査、化学物質反応検査、DNAの抽出・回収・単離装置等にも適用できる。」(53頁5行?15行)

(シ)第3図


(ス)第4図


(セ)第5図


イ 刊行物2(特表平5-506930号公報)
同じく、原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物2には、被検体のアッセイを妨害する物質の存在下における生体液中の被検体の測定方法について、次の事項が図面の記載とともに記載されている。
(ア)「本発明は、一つの具体的態様において、生物液体試料中の被検体を、かかる被検体のアッセイを妨害するような物質の存在下で、免疫分離法を利用して検出する方法を提供する。本発明においては、抗体を使用して被検体又は被検体のアッセイを妨害する物質の選択的免疫反応を起こし、次いで免疫反応体又は非反応体のいずれか一方のアッセイによて被検体を検出する。本発明の一つの具体的態様においては、上記の免疫反応-分離を迅速かつ安値に実施するために、ある反応器具が用いられる。上記免疫反応に用いられる抗体は凍結乾燥してもよいし、適当な担体上の標品として使用してもよい。この目的に適した様々な担体及び分離法が利用できる。従って、抗体は、免疫反応体の非反応体からの分離を容易にするような量、密度、表面積又は電荷の不溶性担体の表面に結合させてもよい。不溶性担体の例としては、マイクロポーラス(microporous)ビーズ、ラテックス粒子、磁性粒子、制御孔径ガラス(controlled pore glass)、架橋デキストランや架橋多糖類や架橋アクリルアミドから得られるゲルマトリックス、マイクロポーラスフィルター又はマイクロポーラスメンプランがある。その他の適当な不溶性担体としては、コイル状ストリップや反応器具自体の内壁が挙げられる。」(第7頁右上欄4行?末行)

(イ)「実施例3
本発明に従う反応器具の別の具体的態様を図11?図15の符号(110)で図示する。図11は、器具(110)のドッキング部材(116)を示したものであり、ここではドッキング部材(116)に当該器具の反応ピペット(114)が格納されている。ドッキング部材はその底部にフィルター(118)を有している。反応ピペット(114)は、例えばビーズ又はコイル状ストリップ上に(図13)或いは図8について説明したような手段によって固定化された抗体の事前包装標品を含んでいる。反応ピペット(114)は、一片のプラスチックその他の適切な材料を二次加工したものでよく、図12に示す通り、上部に可撓性バルブ部分(121)、反応部分(122)、固定部分(126)及び開口部(123)を含んでいる。バルブ部分(121)を押込んだり離したりすることによって、反応部分(122)に正圧又は負圧の差圧を与えることができ、液体を開口部(123)を介して反応部分(122)に交互に吸込んだり、排出したりすることができる。ここでは可撓性バルブを正圧又は負圧の差圧の供給源として示したが、他の適当な供給源を用いてもよい。反応ピペット(114)は、バルブ部分(121)を使って血清又は血漿又は血液の試料を吸込むことによって、使用する(図12及び図14)。ドッキング部材(116)(これはピペットチップを改造したものであってもよい)は、免疫反応時に回収-反応ピペット(114)を保持するために用いられる(図12及び図15)。反応ピペット(114)の固定位置(126)を確保するため、ドッキング部材(116)はその内部表面(151)に図15に部材の上縁リップの回りのバンドとして示したような弾性材料の内輪を含んでいる。ただし、弾性材料は内部表面のもっと広い部分を覆っていてもよく、内部表面の全長又は適当な部分に拡がっていてもよい。ドッキング部材(116)の基底部には(図15)、細胞や粗残渣を保持するための適当なフィルター材料(118)を製造時又は製造後に設置する。
操作上、反応ピペット(114)は、可撓性バルブ部分(121)(図14)の制御された圧縮によって、ある体積の液体試料が吸引されるように設計する。吸引された試料はこうして反応ピペット(114)内の固定化抗体(112)と接触するようになる。次に、反応ピペット(114)をドッキング部材(116)(図12及び図15)の中に設置して、固定部分(126)を内輪(151)とかみ合わせる。混合が起こり、器具(110)を作業台(160)(図16)に設置して適当な時間インキュベートする。
インキュベーション終了時に、作業台(160)から器具(110)を取り外して、可撓性バルブ部分(121)の圧縮によって、回収反応ピペット(114)の未反応内容物をドッキング部材(116)の下の別の試料容器に排出する。」(第11頁左上欄2行?右上欄22行)

ウ 刊行物3(特開平8-262024号公報)
同じく、原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物3には、免疫測定方法について、次の事項が図面の記載とともに記載されている。
(ア)「【請求項3】抗原-抗体反応による生体内物質を測定する免疫測定方法であって、(1)測定対象物質と免疫学的に結合する物質を担持させた不溶性磁性粒子を含む溶液、および測定対象物質を担持させた特定波長吸収領域を有する不溶性非磁性粒子を含む溶液を、任意の順序で検体と混合して混合液とし、(2)前記混合液に磁場を付与して、前記混合液中で生成した前記磁性粒子と測定対象物質とが形成した免疫複合体、および未結合の磁性粒子を集磁し、(3)残留する前記非磁性粒子の濃度を吸光度によって測定することを特徴とする生体内物質を測定する免疫測定方法。
【請求項4】前記混合液中に検体中の測定妨害物質と免疫学的に結合する物質を担持させた不溶性磁性粒子をさらに加え、前記磁性粒子と測定妨害物質とが形成した免疫複合体をさらに集磁することを特徴とする請求項3記載の生体内物質の免疫測定方法。」(第2頁【特許請求の範囲】)

(イ)「さらに、このような測定に用いる検体は、測定対象物質以外にも多くの生体内物質を含み、これらのうちのいくつかは測定妨害物質として作用するため、測定前に検体からこのような測定妨害物質を除去しておかなければ、測定精度の低下が生じるなどといった問題点があり、信頼性に欠ける場合があった。」(第3頁左欄2行?8行)

(2)刊行物1発明
ア 刊行物1の第3図?第5図には、光学測定装置により発光量測定を行う免疫化学検査のための測定システムが示されており、これらの図面の記載及び上記(1)ア(オ)?(カ)、(ク)の記載によれば、該測定システムにおいては、各液収納部1A?1Hが直列の列状、すなわちライン状に一体形成されたカートリッジ容器Cを備えていること、液収納部1Aには、予め粗分注された検体が収納されていること、液収納部1Bには反応不溶磁性体粒子2が含有された反応不溶磁性体液3が予め収容されていること、液収納部1Cと1Dには所要量の洗浄液5が予め収容され、液収容部1Eには所要量の標識液が予め収容され、液収容部1Fと1Gには所要量の洗浄液5が予め収容され、さらに、液収納部1Hには基質液が分注されているものであること、そして、所定の免疫反応、磁性粒子の洗浄、基質液と反応を経て発光量が測定されるものであることが記載されている。

イ そして、分注ユニットのノズル、すなわち分注ノズルNにその上部を装着されたピペットチップPが、前記各液収納部1A?1Hの上方を移動して、各液収納部毎に必要な液の吸引或いは吐出を行うこと(上記(1)ア(キ)、(オ)参照)が、該ピペットチップPは、先端部と貯留部とを結ぶ液通路11内に磁場作用が及ぼされる分離領域部11aを有するものであり、該分離領域部に磁性体粒子2を懸濁させた液を通過させる際に、前記分離領域部にピペットチップの外側に配設された磁石Mの磁力を及ぼすと、液通路11の分離領域部11aのある内壁面に磁性体粒子2が吸着、捕集されて液から磁性体粒子が分離可能とされ、そして磁石MがピペットチップPから離れる方向に移動して前記分離領域部11aから遠ざかると、磁性体粒子2の吸着状態が解除され、ピペットチップPの吸引・吐出する液に再懸濁することができる構成であることが、それぞれ記載されている(上記(1)ア(イ)、(カ)、(キ)参照)。

ウ 免疫化学検査法の分析手順と免疫化学検査における技術常識に照らせば、上記(1)ア(ウ)に「「磁性体粒子」には、例えば、目的物質を吸着、又は反応によって結合させる物質をコーティングすることによって目的物質を結合させたものを用いる。」と記載されていることから、ここでの「磁性体粒子」には、検体中の測定対象物質に対して免疫反応を生じる親和性を有する物質が結合されているものと解される。

エ 上記(1)ア(キ)、(ク)には、分注ユニットの移動、すなわち分注ノズルN及びその先端に装着されたピペットチップPの移動については、ライン状に配列された各液収納部1A?1Hに対して左右方向及び上下方向に移動可能であることが記載されているし、第3図の各液収納部に収納された液面との関係からからみて、該ラインに平行な水平方向に移動し、かつ該ラインに対して垂直方向に移動するものであることが読み取れる。

オ 上記(1)ア(エ)に「捕集された磁性体粒子を、ピペット部の液通路内面に吸着させたまま、これを他の位置へと移送し、該位置で、該位置に用意された液との反応や撹拌や洗浄等の目的物質に対する必要な処理作業を行なうように構成」する点について記載され、同(カ)においてより詳細に、「ピペットチップPに吸引された混合液中に懸濁する磁性体粒子2」を吸着させたまま他の位置に移送することが記載されているところ、このように、目的物質が結合した磁性体粒子のみを分注ノズルのピペットチップの液通路内面に吸着させたままで、ある位置から他の位置まで移送することを実現可能とするためには、刊行物1に記載の分注ユニットの「ピペットチップP」、すなわち先端にピペットチップPを装着した分注ユニットが、ある液収納部上から次の液収納部上へ水平方向移動するのと同じように「磁石M」も前記水平方向へ移動するように構成する必要があることは、自明のことというべきである。
また、上記(1)ア(ケ)の記載及び同(コ)には、磁場源(磁石)Mと挟持体Vとを有する磁石駆動装置の具体例について記載されており、当該記載から分注ノズルのピペットチップの移動と磁石の移動との関連性が裏付けられる。

カ 上記(1)ア(サ)の記載によれば、刊行物1に記載のものの「磁性体粒子」に結合される測定対象物質に「生体関連物質」が含まれることは明らかである。

キ 上記アないしキを前提に、刊行物1の記載事項を補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「検体中の生体関連物質の免疫測定システムであって、
検体中の生体関連物質に対して親和性を有する物質が結合された磁性体粒子と、
前記検体が収納される検体収納部と、
前記磁性体粒子が収容される磁性体粒子収納部と、
生体関連物質の検出用試薬である標識試薬液が収容される標識試薬収納部とを備え、前記検体収納部、前記磁性体粒子収納部、前記標識試薬収納部が、前記検体及び前記生体関連物質の処理内容に応じた順序でライン状に配列され、
前記測定システムが、さらに、ピペットチップを装着した分注ノズルと、前記ピペットチップの位置を制御するチップ位置制御部と、前記ピペットチップ内に前記磁性体粒子を捕集、吸着する磁石と、前記磁石の配置を管理して前記ピペットチップに付与する磁場の強さを制御する磁場制御部とを備え、前記分注ノズルが、前記ラインに対して垂直方向に移動し、かつ前記ラインに対して平行な水平方向に移動すると共に、前記磁石が、前記ラインに対して平行な前記水平方向に移動する、前記測定システム。」(以下、「刊行物1発明」という。)

(3)補正発明が独立特許要件を具備しないとする理由1
補正発明の「第1担体」が「検体中の生体関連物質に対して親和性を有する物質が固定された第1担体」である場合の刊行物1発明に基づく進歩性欠如について

ア 補正発明と刊行物1発明との対比
(ア)刊行物1発明の「検体中の生体関連物質に対して親和性を有する物質が結合された磁性体粒子」は、補正発明の「検体中の生体関連物質に対して親和性を有する物質が固定された第1担体」であって、「磁性粒子である第1担体」に相当する。
(イ)刊行物1発明の「前記磁性体粒子が収容される磁性体粒子収納部」は、補正発明の「前記第1担体が収容される第1収容部」に相当する。
(ウ)刊行物1発明の「検体が収納される検体収納部」、「ピペットチップ」は、補正発明の「検体が収容される検体収容部」、「分注チップ」にそれぞれ相当する。
(エ)刊行物1発明の「生体関連物質の検出用試薬である標識試薬液が収容される標識試薬収納部」と、補正発明の「生体関連物質の検出用試薬が固定された担体、および生体関連物質の検出用試薬を固相化してなる担体から選ばれる第2担体」が収容される「第2収容部」とは、共に「生体関連物質の検出用試薬」を収容した「収容部」である点で共通し、両者はともに「磁性体粒子」を収容する「収容部」とは異なるものであるから、その意味において「第2収容部」と呼び得るものである点で共通するものといえる。
(オ)以上のことを総合すると、補正発明と刊行物1発明とは、次の一致点1で一致し、各相違点において相違する。

<一致点1>
「検体中の生体関連物質の測定システムであって、
検体中の生体関連物質に対して親和性を有する物質が固定された第1担体と、
前記検体が収容される検体収容部と、
前記第1担体が収容される第1収容部と、
生体関連物質の検出用試薬である標識試薬が収容される第2収容部とを備え、前記検体収容部、前記第1収容部、前記第2収容部が、前記検体及び前記生体関連物質の処理内容に応じた順序でライン状に配列され、
前記測定システムが、さらに、分注チップを装着した分注ノズルと、前記分注チップの位置を制御するチップ位置制御部と、前記分注チップ内に前記磁性粒子を固定する磁石と、前記磁石の配置を管理して前記分注チップに付与する磁場の強さを制御する磁場制御部とを備え、前記分注ノズルが、前記ラインに対して垂直方向に移動し、かつ前記ラインに対して平行な水平方向に移動すると共に、前記磁石が、前記ラインに対して平行な前記水平方向に移動する、前記測定システム。」

<相違点1>
第2収容部に収容される生体関連物質の検出用試薬である標識試薬が、補正発明は「生体関連物質の検出用試薬が固定された担体、および生体関連物質の検出用試薬を固相化してなる担体から選ばれる第2担体」という形態であるのに対し、刊行物1発明は、生体関連物質の検出用試薬である標識試薬液の形態であって、生体関連物質の検出用試薬が固定された担体、および生体関連物質の検出用試薬を固相化してなる担体から選ばれる第2担体という形態ではない点。

<相違点2>
前記分注ノズル及び前記磁石に関し、補正発明は「前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記ラインの一端側から前記ラインの他端側へ移動すると共に、前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記他端側から前記一端側へ移動する」ものであるのに対し、刊行物1発明は、前記分注ノズル及び前記磁石が、前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記ラインの一端側から前記ラインの他端側へ移動すると共に、前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記他端側から前記一端側へ移動することについて明記されていない点。

イ 相違点についての検討
(ア)相違点1について
相違点1について検討する。
補正発明の「生体関連物質の検出用試薬が固定された担体、および生体関連物質の検出用試薬を固相化してなる担体から選ばれる第2担体」の技術的意義について検討するに、本件補正後の特許請求の範囲の請求項7には「前記生体関連物質の検出用試薬が、前記生体関連物質に対する標識抗原若しくは標識抗体、また・・・を含むものである請求項1?6項のいずれか1項に記載のシステム。」と、同請求項8には「前記固相化が凍結乾燥により行われたものである請求項1?7項のいずれか1項に記載のシステム。」とそれぞれ記載されており、当該記載によれば、補正発明の「生体関連物質の検出用試薬を固相化してなる担体」である「第2担体」には、「生体関連物質に対する標識抗原若しくは標識抗体である免疫測定における標識試薬が凍結乾燥により固相化されたもの」が含まれるものと解される。
以上を前提にして、相違点1の想到容易性について検討する。
免疫測定等を行う際に、標識試薬等の検出用試薬を凍結乾燥して固相化してなる形態で試薬収容部に収容して測定装置に備えておき、測定反応時に適当な液体で溶液化してして用いることは、本願優先権主張日前の周知技術である(必要ならば、例えば、特開平3-181853号公報[特に、特許請求の範囲の請求項1,2、第3頁右下欄第2行?第4頁左上欄下から第3行参照]、特開平10-319023号公報[特に第3頁の段落【0012】参照]等参照。)。
してみると、刊行物1発明の「生体関連物質の検出用試薬である標識試薬液が収容される標識試薬収納部」に収容されている「標識試薬液」を、「凍結乾燥により固相化された標識試薬」を用いるようにすることにより、上記相違点1に係る補正発明の「第2担体」のように構成することは、当業者が必要に応じて適宜設計変更する範囲内の事項である。

(イ)相違点2について
相違点2について検討する。
上記(2)オにおいて摘示したが、刊行物1発明における磁石Mの移動と分注ノズルとの移動との関係については、目的物質が結合した磁性体粒子のみを分注ノズルのピペットチップの液通路内面に吸着させたままで、ある位置から他の位置まで移送することを実現可能とするためには、刊行物1に記載の分注ユニットの「ピペットチップP」、すなわち先端にピペットチップPを装着した分注ユニットが、ある液収納部上から次の液収納部上へ水平方向移動するのと同じように「磁石M」も前記水平方向へ移動するように構成する必要があることは、明らかである。
そして、刊行物1発明における「分注ノズル」は、上記(1)ア(ク)の「装置に対して左右方向及び上下方向に移動可能な分注ユニット29」との記載、及び、該「分注ユニット29」に対して、往復移動が可能なことを示すものと解される図5中の両方向矢印の記載からみて、刊行物1発明の「分注ノズル」が前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記ラインの一端側から前記ラインの他端側へ移動すると共に、前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記他端側から前記一端側へ移動するものであることも、また明らかであるから、前記ラインに対して分注ノズルと同じ水平移動をする刊行物1発明における磁石についても、分注ノズルと同様に、前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記ラインの一端側から前記ラインの他端側へ移動すると共に、前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記他端側から前記一端側へ移動するものであることも明らかであるといえる。
してみると、相違点2は、実質的な相違点ではないし、仮にそうでないとしても、刊行物1の上記(1)ア(エ)及び(カ)に記載された事項に基づいて、刊行物1発明を相違点2に係る補正発明の構成のように構成することは当業者が容易に想到し得ることにすぎない。

(ウ)補正発明の効果について
そして、補正発明の効果も、刊行物1の記載事項及び周知技術から、当業者が予測される範囲内のものにすぎず、格別なものとは認められない。

ウ 小活
以上のとおり、補正発明は、刊行物1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)補正発明が独立特許要件を具備しないとする理由2
補正発明の「第1担体」が「検体に含まれる夾雑物に対して親和性を有する物質が固定された第1担体」である場合の刊行物1発明に基づく進歩性欠如について

ア 補正発明と刊行物1発明との対比
(ア)刊行物1発明の「検体中の生体関連物質に対して親和性を有する物質が結合された磁性体粒子」は、検体中の生体関連物質を免疫反応により検出するための検出用試薬が固定された担体といえるものであるから、補正発明の「生体関連物質の検出用試薬が固定された担体、および生体関連物質の検出用試薬を固相化してなる担体から選ばれる第2担体」とは、「生体関連物質の検出用試薬が固定された担体」である点で共通する。
また、刊行物1発明の「前記磁性体粒子が収容される磁性体粒子収納部」と、補正発明の「前記第2担体が収容される第2収容部」とは、「生体関連物質の検出用試薬が固定された担体が収容される担体収容部」である点で共通する。
(イ)刊行物1発明の「検体が収納される検体収納部」、「ピペットチップ」は、補正発明の「検体が収容される検体収容部」、「分注チップ」にそれぞれ相当する。
(ウ)刊行物1発明の「前記検体収納部、前記磁性体粒子収納部、前記標識試薬収納部が、前記検体及び前記生体関連物質の処理内容に応じた順序でライン状に配列される」ことと、補正発明の「前記検体収容部、前記第1収容部、前記第2収容部が前記検体及び前記生体関連物質の処理内容に応じた順序でライン状に配列される」こととは、「前記検体収容部、前記生体関連物質の検出用試薬が固定された担体が収容される担体収容部が、前記検体及び前記生体関連物質の処理内容に応じた順序でライン状に配列される」ものである限りにおいて共通する。
(エ)刊行物1発明の「前記測定システムが、さらに、ピペットチップを装着した分注ノズルと、前記ピペットチップの位置を制御するチップ位置制御部と、前記ピペットチップ内に前記磁性体粒子を捕集、吸着する磁石と、前記磁石の配置を管理して前記ピペットチップに付与する磁場の強さを制御する磁場制御部とを備え、前記分注ノズルが、前記ラインに対して垂直方向に移動し、かつ前記ラインに対して平行な水平方向に移動すると共に、前記磁石が、前記ラインに対して平行な前記水平方向に移動する」ことと、補正発明の「前記測定システムが、さらに、分注チップを装着した分注ノズルと、前記分注チップの位置を制御するチップ位置制御部と、前記分注チップ内に前記磁性粒子を固定する磁石と、前記磁石の配置を管理して前記分注チップに付与する磁場の強さを制御する磁場制御部とを備え、前記分注ノズルが、前記ラインに対して垂直方向に移動し、かつ前記ラインに対して平行な水平方向に移動すると共に、前記磁石が、前記ラインに対して平行な前記水平方向に移動」することとは、「前記測定システムが、さらに、分注チップを装着した分注ノズルと、前記分注チップの位置を制御するチップ位置制御部と、前記分注チップ内に前記磁性粒子を固定する磁石と、前記磁石の配置を管理して前記分注チップに付与する磁場の強さを制御する磁場制御部とを備え、前記分注ノズルが」、「前記検体収容部、前記生体関連物質の検出用試薬が固定された担体が収容される担体収容部が、前記検体及び前記生態関連物質の処理内容に応じた順序で配列されるライン」「に対して垂直方向に移動し、かつ前記ラインに対して平行な水平方向に移動すると共に、前記磁石が、前記ラインに対して平行な前記水平方向に移動」するものである限りにおいて共通する。

(オ)したがって、補正発明と刊行物1発明とは、次の一致点2で一致し、各相違点において相違する。

<一致点2>
「検体中の生体関連物質の測定システムであって、
生体関連物質の検出用試薬が固定された担体と、
前記検体が収容される検体収容部と、
生体関連物質の検出用試薬が固定された担体が収容される担体収容部とを備え、前記検体収容部、前記生体関連物質の検出用試薬が固定された担体が収容される担体収容部が、前記検体及び前記生体関連物質の処理内容に応じた順序でライン状に配列され、
前記測定システムが、さらに、分注チップを装着した分注ノズルと、前記分注チップの位置を制御するチップ位置制御部と、前記分注チップ内に前記磁性粒子を固定する磁石と、前記磁石の配置を管理して前記分注チップに付与する磁場の強さを制御する磁場制御部とを備え、前記分注ノズルが、前記検体収容部、前記生体関連物質の検出用試薬が固定された担体が収容される担体収容部が、前記検体及び前記生体関連物質の処理内容に応じた順序で配列されるラインに対して垂直方向に移動し、かつ前記ラインに対して平行な水平方向に移動すると共に、前記磁石が、前記ラインに対して平行な前記水平方向に移動する、前記測定システム。」

<相違点3>
補正発明が「検体に含まれる夾雑物に対して親和性を有する物質が固定された第1担体」と「前記第1担体が収容される第1収容部とを備え」、「前記第1担体が磁性粒子であ」り、「前記検体収容部、前記第1収容部、前記第2収容部が、前記検体及び前記生体関連物質の処理内容に応じた順序でライン状に配列され」るのに対し、刊行物1発明は、「前記検体収納部、前記生体関連物質の検出用試薬が固定された担体が収容される担体収容部が、前記検体及び前記生体関連物質の処理内容に応じた順序でライン状に配列されている」ものであるものの、「検体に含まれる夾雑物に対して親和性を有する物質が固定された第1担体であって、磁性粒子である第1担体と、前記第1担体が収容される第1収容部」を備えていない点。

<相違点4>
補正発明の「前記分注ノズル」が、「前記検体収容部、前記第1収容部、前記第2収容部が、前記検体及び前記生体関連物質の処理内容に応じた順序でライン状に配列され」た「ラインに対して垂直方向に移動し、かつ前記ラインに対して平行な水平方向に移動すると共に、前記磁石が、前記ラインに対して平行な前記水平方向に移動」するものであるのに対して、刊行物1発明では、「前記分注ノズル」が、「前記検体収納部、前記生体関連物質の検出用試薬が固定された担体が収容される担体収容部が、前記検体及び前記生体関連物質の処理内容に応じた順序でライン状に配列され」た「前記ラインに対して垂直方向に移動し、かつ前記ラインに対して平行な水平方向に移動すると共に、前記磁石が、前記ラインに対して平行な前記水平方向に移動する」ものである点

<相違点5>
前記分注ノズル及び前記磁石の移動に関し、補正発明は「前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記ラインの一端側から前記ラインの他端側へ移動すると共に、前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記他端側から前記一端側へ移動する」ものであるのに対し、刊行物1発明は、前記分注ノズル及び前記磁石が、前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記ラインの一端側から前記ラインの他端側へ移動すると共に、前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記他端側から前記一端側へ移動することについて明記されていない点。

イ 相違点についての検討
(ア)相違点3について
相違点3について検討する。
a 刊行物1には、バイオテクノロジー分野において、目的物質を結合させた磁性体粒子、すなわち磁性粒子を磁力を利用して溶液から分離する、分注機による磁性粒子の制御方法が記載されており、磁性粒子を溶液中の対象とする目的物質のみの分離に利用することについて記載されている(上記(1)ア(ア)、(イ))。

b また、検体中の生体関連物質を測定しようとする際に検体中に測定反応等を妨害する物質が含まれている場合、測定反応に先立って検体中からそのような夾雑物を分離する前処理を行うことは、免疫測定に限らず、分析測定分野一般における慣用手法にすぎず、そのような目的のために、夾雑物に対して免疫学的に親和性を有する抗体等の物質が固定された磁性粒子等の担体を用いて、該夾雑物を検体から分離し、該夾雑物の影響のない状態で生体関連物質の検出用試薬との反応を行うようにすることは、上記刊行物2及び3に記載されている(上記(1)イ、ウ参照)ように周知の技術事項である。

c してみると、刊行物1発明において、分析測定分野一般における慣用手段である検体中の夾雑物を分離する前処理を採用することは当業者が容易に想到し得ることであるといえるし、その具体的手段として、刊行物1に記載の示唆や上記周知の技術事項に基づいて、検体に含まれる夾雑物に対して親和性を有する物質が固定された磁性粒子を用いることも適宜なし得ることである。
そして、測定のための反応である「生体関連物質の検出用試薬が固定された磁性粒子と検体とを反応させる」前に検体から検体中に含まれる夾雑物を分離する前処理を行うことを目的として、検体に含まれる夾雑物に対して親和性を有する物質が固定された磁性粒子を「第1担体」として用いるために、当該「第1担体が収容される第1収容部」を「検体収容部」と前記「生体関連物質の検出用試薬が固定された担体が収容される担体収容部」との間に備えるようにし、前記検体収容部、前記第1収容部、前記「生体関連物質の検出用試薬が固定された担体が収容される担体収容部」が、前記検体及び前記生体関連物質の処理内容に応じた順序でライン状に配列するようにすることは、刊行物1発明の各収容部の配置から当然採用すべき配置であるといえる。

d 以上のとおりであるから、刊行物1発明に周知技術を適用して、上記相違点3に係る補正発明の構成のようにすることは、当業者が容易に想到し得ることというべきである。

(イ)相違点4について
a 上記相違点3の検討において検討したように、刊行物1発明において、「生体関連物質の検出用試薬が固定された磁性粒子と検体とを反応させる」前に、検体から検体中に含まれる夾雑物を分離する前処理が行えるように、検体に含まれる夾雑物に対して親和性を有する物質が固定された磁性粒子を「第1担体」とし、前記第1担体が収容される第1収容部を検体収容部と前記第2収容部との間に備えるようにした場合において、そのような磁性粒子を用いた夾雑物分離処理を、刊行物1に記載されている「検体と検体中の生体関連物質に対して親和性を有する物質が結合された磁性体粒子との免疫反応処理」と同様に行なうようにすれば良いことは当業者にとって自明のことであるから、刊行物1発明において、「夾雑物分離処理」を行うようにする場合に、当該「夾雑物分離処理」をピペットノズルを装着した分注ノズルと磁石とを利用するよう構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

b また、そのようにした場合には、刊行物1発明の分注ノズルが、「前記検体収容部、前記第1収容部、前記生体関連物質の検出用試薬が固定された担体が収容される担体収容部が、前記検体及び前記生体関連物質の処理内容に応じた順序でライン状に配列」された「ライン」に対して垂直方向に移動し、かつその「ライン」に対して平行な水平方向に移動すると共に、前記磁石が、その「ライン」に対して平行な前記水平方向に移動するようになることは、技術的に明らかである。
なお、刊行物1発明において、「夾雑物分離処理」を行なって、磁性粒子に検体中に含まれる夾雑物を結合させた場合、それに続いて、該夾雑物が除去処理された検体を、刊行物1発明の「生体関連物質の検出用試薬が固定された担体」である「(第2の)磁性粒子」と反応させるために、ピペットノズル中に夾雑物の結合した第1担体を「(第2の)磁性粒子」の担体収容部、すなわち刊行物1発明の「生体関連物質の検出用試薬が固定された担体の収容される担体収容部」に落下させないように、「第1担体」を磁石で完全に捕集した状態で夾雑物の除去された検体と共に移動させた後、「生体関連物質の検出用試薬が固定された担体の収容される担体収容部」へ、検体だけを排出、供給させる必要性があるが、「検体中の磁性粒子を磁石により全て捕集し検体のみを吐出するようにすること」が可能であることは、刊行物1の上記(1)ア(カ)の記載から自明のことである。

c 上記(2)オにおいて摘示したが、刊行物1発明における磁石Mの移動と分注ノズルとの移動との関係について検討するに、目的物質が結合した磁性体粒子のみを分注ノズルのピペットチップの液通路内面に吸着させたままで、ある位置から他の位置まで移送することを実現可能とするためには、刊行物1に記載の分注ユニットの「ピペットチップP」、すなわち先端にピペットチップPを装着した分注ユニットが、ある液収納部上から次の液収納部上へ水平方向移動するのと同じように「磁石M」も前記水平方向へ移動するように構成する必要があることは、自明のことというべきである。

d 以上のとおりであるから、上記相違点4は、刊行物1発明に周知技術を適用して、補正発明の上記相違点3に係る構成のようにするにあたり当然採用される技術的事項といえるから、当業者が容易に想到し得ることというべきである。

(ウ)相違点5について
刊行物1の上記(1)ア(ク)の「装置に対して左右方向及び上下方向に移動可能な分注ユニット29」との記載、及び、該「分注ユニット29」に対して、往復移動が可能なことを示すものと解される図5中の両方向矢印の記載からみて、刊行物1発明の「分注ノズル」が前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記ラインの一端側から前記ラインの他端側へ移動すると共に、前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記他端側から前記一端側へ移動するものであることは明らかであるから、前記ラインに対して分注ノズルと同じ水平移動をする刊行物1発明における磁石についても、分注ノズルと同様に、前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記ラインの一端側から前記ラインの他端側へ移動すると共に、前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記他端側から前記一端側へ移動するものであることは自明のことである。
してみると、相違点5は、実質的な相違点ではないし、仮にそうでないとしても、刊行物1の上記(1)ア(エ)および(カ)に記載された事項に基づいて、刊行物1発明を相違点5に係る補正発明の構成のように構成することは当業者が容易に想到し得ることにすぎない。

(エ)補正発明の効果について
そして、補正発明の効果も、刊行物1の記載事項及び周知技術から、当業者が予測される範囲内のものにすぎず、格別なものとは認められない。

ウ 小活
したがって、補正発明は、刊行物1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし27に係る発明は、平成25年6月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし27に記載された事項により特定されるものであって、そのうち請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)
「【請求項1】
検体中の生体関連物質の測定システムであって、
検体に含まれる夾雑物に対して親和性を有する物質、該夾雑物を不活性化する物質、または検体中の生体関連物質に対して親和性を有する物質が固定された第1担体と、
生体関連物質の検出用試薬が固定された担体、および生体関連物質の検出用試薬を固相化してなる担体から選ばれる第2担体と、
前記検体が収容される検体収容部と、
前記第1担体が収容される第1収容部と、
前記第2担体が収容される第2収容部とを備え、前記検体収容部、前記第1収容部、前記第2収容部が、前記検体及び前記生体関連物質の処理内容に応じた順序でライン状に配列され、前記第1担体が磁性粒子であり、
前記測定システムが、さらに、分注チップを装着した分注ノズルと、前記分注チップの位置を制御するチップ位置制御部と、前記分注チップ内に前記磁性粒子を固定する磁石と、前記磁石の配置を管理して前記分注チップに付与する磁場の強さを制御する磁場制御部とを備え、前記分注ノズルが、前記ラインに対して垂直方向に移動し、かつ前記ラインに対して平行な水平方向に移動すると共に、前記磁石が、前記ラインに対して平行な水平方向に移動する、前記測定システム。」

2 引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1ないし3とその記載事項は、前記第2の2(1)に記載したとおりである。

3 本願発明と刊行物1発明との対比・判断
上記第2の2で検討した補正発明は、本願発明の分注ノズル及び磁石の水平方向の移動について、(i)「前記磁石が、前記ラインに対して平行な水平方向に移動」を「前記磁石が、前記ラインに対して平行な前記水平方向に移動」と補正し、(ii)「前記分注ノズル及び前記磁石が、前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記ラインの一端側から前記ラインの他端側へ移動すると共に、前記ラインの上で前記水平方向に沿って前記他端側から前記一端側へ移動する」とさらに限定したものであるから、本願発明は、補正発明を包含するものである。
そうすると、本願発明は、補正発明と同様に、上記補正発明が独立特許要件を具備しないとする理由1及び同理由2と同様の理由により、刊行物1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、本願優先権主張日前に頒布された上記刊行物1に記載された発明及び周知事実に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない 。
したがって、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-26 
結審通知日 2015-03-31 
審決日 2015-04-15 
出願番号 特願2010-544181(P2010-544181)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 廣田 健介  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 渡戸 正義
三崎 仁
発明の名称 検体の前処理方法、および生体関連物質の測定方法  
代理人 小林 浩  
代理人 阿久津 勝久  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 大森 規雄  

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