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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1301396
審判番号 不服2014-9744  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-26 
確定日 2015-05-28 
事件の表示 特願2010- 46545「円筒型非水電解質電池」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月15日出願公開、特開2011-181441〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年3月3日の出願であって、平成25年8月26日付けの拒絶理由通知に対して、同年10月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年2月19日付けで拒絶査定がなされた。
そして、同年5月26日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出された。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年5月26日に提出された手続補正書による手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成26年5月26日に提出された手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成25年10月17日に提出された手続補正書により補正された本件補正前の特許請求の範囲の請求項1?9を補正して、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?9とするものであり、そのうち、本件補正前の請求項1及び本件補正後の請求項1については、以下のとおりである。

(本件補正前)
「【請求項1】
正極集電体上に正極活物質層が形成された帯状の正極と、負極集電体上に負極活物質層が形成された帯状の負極とがセパレータを介して積層された積層電極体が巻回された巻回電極体と、
上記巻回電極体の巻回外周側に位置する上記積層電極体の巻回終端部を覆うように設けられた接着部材と、
上記巻回電極体を収容する電池缶とを備え、
上記接着部材が、基材と、該基材の一方の面の全体もしくは少なくとも一部に設けられた接着層とからなり、
上記接着層は、基材に対する剥離強度が0.1N/mm以上であり、
上記基材は、電解液に対して耐性を備えると共に、膨潤度がプロピレンカーボネート浸漬後において5%以上である樹脂材料と、融点が60℃以上を有する樹脂材料とを混合してなる円筒型非水電解質二次電池。」

(本件補正後)
「【請求項1】
正極集電体上に正極活物質層が形成された帯状の正極と、負極集電体上に負極活物質層が形成された帯状の負極とがセパレータを介して積層された積層電極体が巻回された巻回電極体と、
上記巻回電極体の巻回外周側に位置する上記積層電極体の巻回終端部を覆うように設けられた接着部材と、
上記巻回電極体を収容する電池缶とを備え、
上記接着部材が、基材と、該基材の一方の面の全体もしくは少なくとも一部に設けられた接着層とからなり、
上記接着層は、基材に対する剥離強度が0.1N/mm以上であり、
上記基材は、電解液に対して耐性を備えると共に、膨潤度がプロピレンカーボネート浸漬後において11%以上である樹脂材料と、融点が60℃以上を有する樹脂材料とを混合してなる円筒型非水電解質二次電池。」

2 補正事項の整理
本件補正後の請求項1に係る補正事項を整理すると、次のとおりである。

〈補正事項a〉
本件補正前の請求項1に記載された「上記基材は、電解液に対して耐性を備えると共に、膨潤度がプロピレンカーボネート浸漬後において5%以上である樹脂材料と、融点が60℃以上を有する樹脂材料とを混合してなる」を、本件補正後の請求項1に記載された「上記基材は、電解液に対して耐性を備えると共に、膨潤度がプロピレンカーボネート浸漬後において11%以上である樹脂材料と、融点が60℃以上を有する樹脂材料とを混合してなる」と補正する。

3 新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否についての検討
新規事項の追加の有無について
本願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。また、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を「当初明細書等」という。)の段落【0021】には、「具体的に、高膨潤性樹脂材料の膨潤度は、プロピレンカーボネート(PC)に対して5%以上、好ましくは11%以上である。」と記載され、段落【0104】の表1には、実施例1?7の「基材膨潤度[%]」として14、20、22、25、27としたものが記載されている。
すると、補正事項aは、当初明細書の段落【0021】及び【0104】に記載されており、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、補正事項aは、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。

イ 補正の目的について
補正事項aは、「プロピレンカーボネート浸漬後」の「樹脂材料」の「膨潤度」について、本件補正前の請求項1で「5%以上」と特定されていたものを、本件補正後の請求項1で「11%以上」と補正することにより、上記「膨潤度」をより狭い範囲に限定しようとするものであり、また、補正の前後で産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、補正事項aは特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしている。

新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否についての検討のむすび
以上検討したとおり、上記補正事項aは、特許法第17条の2第3項及び第5項に規定する要件を満たしている。

そして、本件補正は、上記イで検討したように、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件を満たすか)否かを、更に検討する。

4 独立特許要件を満たすか否かの検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記「1 本件補正の内容」において本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、再掲すると次のとおりである。

「【請求項1】
正極集電体上に正極活物質層が形成された帯状の正極と、負極集電体上に負極活物質層が形成された帯状の負極とがセパレータを介して積層された積層電極体が巻回された巻回電極体と、
上記巻回電極体の巻回外周側に位置する上記積層電極体の巻回終端部を覆うように設けられた接着部材と、
上記巻回電極体を収容する電池缶とを備え、
上記接着部材が、基材と、該基材の一方の面の全体もしくは少なくとも一部に設けられた接着層とからなり、
上記接着層は、基材に対する剥離強度が0.1N/mm以上であり、
上記基材は、電解液に対して耐性を備えると共に、膨潤度がプロピレンカーボネート浸漬後において11%以上である樹脂材料と、融点が60℃以上を有する樹脂材料とを混合してなる円筒型非水電解質二次電池。」

(2)引用例の記載及び引用例に記載された発明
(2-1)引用例1の記載
本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった平成25年8月26日付けの拒絶の理由において引用文献1として引用された刊行物である、国際公開2009/139388号(以下「引用例1」という。)には、「リチウムイオン電池及びリチウムイオン電池用電極巻回体」(発明の名称)に関して、図1、2、3、7とともに、次の記載がある(ここにおいて、下線は当合議体が付加したものである。)。

1ア 「背景技術
[0002] 帯状の負極と帯状の正極とを帯状のセパレータを介して積層巻回してなる巻回電極体をその巻戻りを防止しつつ非水電解液とともに電池缶内に封入してなるリチウムイオン電池において、巻回電極体の巻戻り防止手段としては、一般にポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンからなる巻戻り防止用テープを、巻回電極体の回りに巻回し付着させたものが用いられている。形成された電極巻回体は、ほぼぴったり嵌挿される内径の電池缶中に挿入され、次いで注入された非水電解液とともに電池缶中に封入される。ここでポリエチレン等のポリオレフィンは、非水電解液に対する親和力が小さく、電極巻回体の嵌挿後の電池缶に非水電解液を注入し、電解液を巻回電極体中に含浸させる作業性を著しく悪化させる。また、電極巻回体をその外径と近接した内径を有する電池缶に嵌挿すること自体の作業性をも損なう。(・・・省略・・・)
[0003] 他方、非水電解液との親和性の良好なフッ化ビニリデン樹脂自体からなる巻戻り防止用テープを用いることも既に提案されている(特許文献2)。これにより、形成された電極巻回体を用いると、嵌挿後に注入された非水電解液が速やかに巻回電極体に含浸されるほか、非水電解液の含浸により巻戻り防止用テープが膨潤して厚みを増すため、電池缶への電極巻回体の嵌挿時には両者間に若干大きな間隙が許容されるため、電池缶への電極巻回体の嵌挿の作業が著しく容易となる利点も生ずる。
[0004] しかしながら、フッ化ビニリデン樹脂製の巻戻り防止用テープを用いる電極巻回体を嵌挿したリチウムイオン電池にも一つの欠点が見出された。すなわち、リチウムイオン電池の性能向上に対する要求は広汎であり、単位時間当りに大なる出力を要求される電動工具等の電源としての利用も行われているところ、このような大出力リチウムイオン電池においては使用時の電極温度も90℃程度まで上昇するため、巻戻り防止用テープが非水電解液に膨潤するのみでなく、溶解して電池性能の著しい低下が生ずる欠点が見出された。(・・・省略・・・)」

1イ 「[0005]発明の開示
従って、本発明の主要な目的は、大出力用途におけるように高温の使用条件下においても安定した巻戻り防止作用を発揮する巻戻り防止用テープを周囲に付着させて形成された電極巻回体を嵌挿してなるリチウムイオン電池、ならびにこのようなリチウムイオン電池用電極巻回体を提供することにある。
[0006] 本発明者らは、上述の目的で、特にポリオレフィン等とは異なりフッ化ビニリデン樹脂に対して良好な親和性ないし混和性を有する熱可塑性樹脂を求めて各種樹脂を試験した結果、芳香族ポリエステル樹脂がこのような目的に最適であり、かくして得られるフッ化ビニリデン樹脂と芳香族ポリエステル樹脂の複合材料(混和物あるいは積層体)からなる巻戻り防止用テープを用いることが、上記本発明の目的の達成に極めて有効であることが見出された。(・・・省略・・・)」

1ウ 「図面の簡単な説明
[0007]
[図1]本発明のリチウムイオン電池の一例の模式部分分解斜視図。
[図2]本発明の電極巻回体の一例の模式斜視図。
[図3]本発明で用いる巻戻り防止用テープの一例の厚み方向模式断面図。
(・・・省略・・・)
[図7]本発明で用いる巻戻り防止用テープの一例の厚み方向模式断面図。
(・・・省略・・・)」

1エ「発明を実施するための最良の形態
[0008] 以下、図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施形態について、より詳細に説明する。
[0009] 本発明で形成するリチウムイオン電池の全体構造は、従来の電極巻回体を挿入したリチウムイオン電池のそれとほぼ類似するものである。図1は、その部分分解斜視図である。すなわち、このリチウムイオン電池は、基本的にはいずれも帯状である正極1、ポリエチレン等の高分子物質の微多孔性膜からなるセパレータ2、負極3およびセパレータ4をこの順序で積層したものを渦巻き状に巻き回してなる巻回電極体(発電素子)14の周囲に巻戻り防止用テープ5を付着してなる電極巻回体15を、負極端子6aとして機能する底部(その上には、あらかじめ絶縁板(図示せず)を配置する)を有する電池缶6中に収容した構造を有する。このリチウムイオン電池において、更に負極3は、上記の底部に配置した絶縁板(図示せず)を挿通して延長する負極リード(図2の3a)を介して負極端子(電池缶底部)6aに電気的に接続され、頂部においてはスペーサ(絶縁板)7a、ガスケット7bおよび安全弁8を配置した後、正極リード1aを介して前記正極1と電気的に接続された凸部において正極端子9aを構成する頂部プレート(電池蓋)9を配置し、電池缶6の頂部リム6bをかしめて全体を封止した構造を有する。通常は、途中、電極巻回体15を電池缶6中に嵌挿した段階で、頂部構造を完成する前に、電池缶6中に、非水電解液が注入され、主としてセパレータ2,4および電極1、3を含浸する状態で電池缶6中に収容される。
[0010] 正極1および負極3は、それぞれ鉄、ステンレス鋼、鋼、銅、アルミニウム、ニッケル等の金属箔あるいは金属網等からなり、厚さが5?100μm、好ましくは5?20μmとなる集電体の少なくとも一面に、活物質および必要に応じて加えられるカーボンブラック等の導電助剤をフッ化ビニリデン樹脂等のバインダー溶液あるいはSBR等のゴム系バインダーエマルジョンととともに混合して得られた合剤スラリーを塗布し、例えば50?170℃で乾燥して厚さが10?1000μmの電極合剤層を形成したものである。
(・・・省略・・・)
[0014] 本発明に従い、このような電極1,3とセパレータ2,4の交互積層巻回体からなる巻回電極体(発電素子)14の周囲に、フッ化ビニリデン樹脂と芳香族ポリエステル樹脂の複合材料からなる巻戻り防止用テープ5を付着して電極巻回体15を構成する。図2は、このようにして形成される電極巻回体15の1例の模式斜視図であり、正極1の集電体の延長部からなる正極リード1aおよび負極3の集電体の延長部からなる負極リード3aを併せて示している。巻戻り防止用テープ5には、例えばニードルパンチ等により微細透孔(特に図示せず)を形成して、非水電解液の浸透を促進してもよい。本発明においては、フッ化ビニリデン樹脂と芳香族ポリエステル樹脂の非水電解液による膨潤性を利用するため、3巻き程されていた従来のポリオレフィン系巻戻り防止用テープとは異なり、1?2巻き、特に1巻きであっても電池缶収容-非水電解液の注入後の膨潤による厚み増大作用を通じて巻回電極体14の巻き戻し防止作用が効果的に発現する。
[0015] なお上記においては、円筒型電池の例を示したが、電極巻回型である限りにおいて本発明のリチウムイオン電池の全体形状は、角型とすることもできる。」

1オ 「[0016] 以下、本発明で用いる巻戻り防止用テープの層構造のいくつかを、その厚さ方向分模式断面図を参照して説明する。
[0017] 本発明に従い、上記電極巻回体15の巻戻り防止用テープ5は、フッ化ビニリデン樹脂と芳香族ポリエステル樹脂の複合材料により構成される。複合の態様には、主として混和と積層がある。従って本発明で用いる巻戻り防止用テープ5の最も簡単な構成は、図3に示すように、混和物の単層51からなるものであり、積層における最も簡単な構成は、図4に示すように、フッ化ビニリデン樹脂の1層52と芳香族ポリエステル樹脂の1層53との積層体である。(・・・省略・・・)但し、本発明でフッ化ビニリデン樹脂に加えて芳香族ポリエステル樹脂を用いて複合材料化する理由は、非水電解液との接触下におけるフッ化ビニリデン樹脂単独での耐熱性不足を補うためであるため、積層態様において、巻回電極体14に近接する層が芳香族ポリエステル樹脂層である方がより好ましい。
[0018] ここで、巻戻り防止用テープを構成する複合材料の成分であるフッ化ビニリデン樹脂と芳香族ポリエステル樹脂について説明する。
[0019] 本発明で使用するフッ化ビニリデン樹脂は、フッ化ビニリデンの単独重合体あるいは共重合体のいずれでもよい。フッ化ビニリデン共重合体には、フッ化ビニリデンと、これと共重合可能な他の単量体、例えばエチレン、プロピレン等の炭化水素系単量体、またはフッ化ビニル・トリフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フルオロアルキルビニルエーテル等のフッ化ビニリデン以外の含フッ素単量体との共重合体が含まれるが、共重合体の場合、フッ化ビニリデン単位を90モル%以上、特に95モル%以上の範囲で含むことが好ましい。
(・・・省略・・・)
[0023] 上記フッ化ビニリデン樹脂とともに複合材料を構成する芳香族ポリエステル樹脂は、ポリエステルを構成するジオールとジカルボン酸の少なくとも一方、好ましくはジカルボン酸が芳香族であるものをいう。好ましい芳香族ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。またフッ化ビニリデン樹脂との親和性を改善するために、ジオールの一部を1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)等の他のジオール成分で置き換えたり、カルボン酸の一部、例えばテレフタル酸の一部をイソフタル酸に置き換える等により、結晶性を低下させることも好ましい。(・・・省略・・・)
[0024] 本発明の巻戻り防止用テープを構成するフッ化ビニリデン樹脂と芳香族ポリエステル樹脂の複合態様には、前述したように大別して混和(ブレンド)と積層とがある。このうち、積層の場合には両樹脂の複合比は比較的任意であるが、混和の場合には、両樹脂の相溶性にはある程度の制約があり、フッ化ビニリデン樹脂:芳香族ポリエステル樹脂の質量比が40:60?60:40の範囲は避けるべきである。他方複合の効果を発揮するためにはフッ化ビニリデン樹脂:芳香族ポリエステル樹脂の質量比が95:5?5:95の範囲であることが好ましい。結局、混和と積層の両態様を含めて、耐熱性を維持する範囲内でフッ化ビニリデン樹脂の膨潤による厚み増大効果をより良く享受するために、フッ化ビニリデン樹脂:芳香族ポリエステル樹脂の質量比が95:5?60:40の範囲が好ましく、95:5?70:30の範囲が最も好ましい。」

1カ 「[0027] 本発明の巻戻り防止用テープ5は、巻回電極体14の最外層であるセパレータ4に付着する形態で配置される。従ってセパレータ4を構成するポリオレフィン等のシール性を利用して、ヒートシールあるいは超音波シールにより、巻戻り防止用テープ5を巻回電極体14の周囲に付着させて、巻回電極体14の巻き戻り防止を達成することができる。しかし、より簡便には、巻戻り防止用テープ5の巻回電極体14との付着面側(積層の場合には、好ましくは芳香族ポリエステル樹脂層53または芳香族ポリエステル樹脂リッチ混和物層側)に接着剤を塗布して粘着型の巻戻り防止用テープを形成することが好ましい。図7?図9は、図3?図5の巻戻り防止用テープの巻回電極体14との付着面側(図では下側)にそれぞれ粘着剤層55を設けた粘着型巻戻り防止用テープの厚さ方向模式断面図である。
[0028] 粘着剤層55は、セパレータ層に密着すれば、その種類に制限はなく、例えば、ポリイソプレン系粘着剤、スチレン-ブタジエンランダム共重合体系粘着剤、スチレン-イソプレンブロック共重合体系粘着剤、ブチルゴム粘着剤、ポリイソブチレン粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤等の各種粘着剤を使用できる。これらの粘着剤は市販品として容易に入手できる。粘着強度はセパレータの材質によって選択すれば良い。」

1キ 「[0033]<<製造例・比較例>>
[混和型(単層)]
(製造例1)
フッ化ビニリデン樹脂としてインヘレント粘度(ηinh)=1.0dl/gのポリ弗化ビニリデン(株式会社クレハ製「KF#1000」)90質量%と、芳香族ポリエステル樹脂としてポリブチレンテレフタレート(ウィンテックポリマー株式会社製「700FP」)10質量%とをペレットブレンドし、Tダイを備えた口径40mmφの単軸押出機を用いてダイ温度280℃で押出し、幅250mm、厚み50μmの帯状フィルムを作製した。
[0034]
(・・・省略・・・)
[0036](製造例5)
ポリフッ化ビニリデン(ηinh=1.0dl/g)90質量%と芳香族ポリエチレンテレフタレート(PET:イーストマンケミカル(株)製「A12」)10質量%を用いた以外は、製造例1に準じて幅250mm、厚さ40μmの単層フィルムを作成した。」

1ク 「[0042][評価]
上記例で製造した巻戻り防止用テープ(フィルム)については、以下のように、耐熱性(目視外観観察)、厚み、厚み増加率および重量増加率の測定を行った。すなわち、上記例で製造したフィルムの各々を、横2cm、縦4cmの矩形にカットし、厚み及び重量を測定した。その後電池缶内における非水電解液との接触状況と近似させるために、スライドガラスで挟んでオートクレーブに入れ、電解液(エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、およびジメチルカーボネート(DMC)の混合溶液(組成比=16/8/76体積%)に、電解質としてLiPF_(6)を1.0mol/L混合したもの)を注入し封入した。このオートクレーブを90℃のオーブン中で16時間保持し、室温まで冷却後取り出した。オートクレーブからサンプルを取り出し付着した電解液を拭き取って、目視観察ならびに厚みおよび重量増加率の測定を行った。
[0043] 厚み測定は平型の測定子(8.5mmφ)を用い、測定力1.5Nで行った。目視観察結果の評価基準としては、亀裂が発生したものや大きく白化したものを×とし、亀裂が無く、また白化も少ないものを○とした。
[0044] 上記製造例、比較例で得られたフィルムの概要および評価結果の概容をまとめて次表1に示す。



[0045] 結果を補足説明すると製造例1?8で得られたフィルムは目視観察で外観に劣化は見られないが、充分に膨潤していることが確認された。なお、重量増加率に比べて厚み増加率が大なる理由は、フィルムの変形が一様な厚み増加ではなく褶曲状の変形であるためであるが、このような褶曲変形で電極巻回体と電池缶内壁間の空隙が満たされ巻回電極体の巻き戻し防止効果が発現することが確認されている。」

1ケ 「[0047](製造例9)
製造例1で得られたフィルムに市販のアクリル系粘着剤(東洋インキ製造株式会社製「BPS1109」)を乾燥後の厚みが20μmとなるように固形分濃度をトルエンで希釈して調整し、メイヤーバーによって塗布後、70℃の乾燥機中で30分間乾燥させ粘着剤層付フィルムを得た。このフィルムを市販のポリエチレン製セパレータ(厚さ22μm;旭化成株式会社製「ハイポアS6722」)に粘着させたものの非水電解液に対する耐熱性を上記評価方法により、目視評価した。その結果、外観の劣化は認められなかった。目視評価では、フィルムの膨潤も確認されたが、セパレータと粘着剤の寄与の除外が極めて困難であるため、数値的評価は割愛した。」

1コ 「[0048][積層型(二層)]
(製造例10)
(・・・省略・・・)
[0056] 上記表2の結果を補足説明すると、製造例10?17で得られた二層フィルムは、いずれも膨潤性が充分であり、目視での劣化は非常に少なかった。非膨潤性であるPETの厚み構成比が50%である製造例18の二層フィルムは膨潤性が低いが、許容範囲であった。芳香族ポリエステル樹脂の代りにポリメチルメタクリレート(PMMA)を用いた比較例4の二層フィルムは非水電解液に対する膨潤性は示すものの、大きく白化し、かつ亀裂も存在しており、フッ化ビニリデン樹脂単層フィルム(比較例1)に対する耐熱性改善効果は得られなかった。また芳香族ポリエステル樹脂の代りにポリプロピレン(PP)を用いた比較例5では、PVDFとの界面での接着が得られないか、極めて弱いため、テープの作製時及びその後のハンドリング時(切断、貼り合せ工程)に層間剥離を起こし、非常に作業性が悪く、工業的用途には不適であることが明らかとなった。」

1サ 「[0057]<<電極巻回体およびリチウムイオン電池の作製・評価>>
(実施例1)
以下のようにして、図2および図1に概容を示すような単層の巻戻り防止用テープを含む電極巻回体およびリチウムイオン電池を作製した。
[0058]
(・・・省略・・・)
[0061]
[巻回電極体の作成] 上記で形成した帯状の負極3、帯状の正極1及びそれぞれ厚さ15μm、幅60mm、長さ900mmの微多孔性ポリプロピレンフィルムよりなる一対のセパレータ2,4を負極3、セパレータ2、正極1、セパレータ4の順に積層してから、この積層体を渦巻状に多数回巻き回すことによって、渦巻式巻回電極体14を作成した。この巻回電極体における中心部の中空部分(巻芯を引き抜いた跡)の内径は3.5mm、外径は17mmであった。
[0062][電極の固定] この巻回電極体の最外周全体に、厚さ50μm、幅60mm、長さ65mmの製造例1と同様にして形成したフィルムに製造例4と同様に厚さ20μmのアクリル系粘着剤層を有する粘着型巻戻り防止用テープを約1周分巻き付け付着させた。
[0063][電解液の注入] 上記のようにして得られた電極巻回体を、ニッケルメッキを施した鉄製の電池缶6内に収納した。上記巻回電極体の上下両面には絶縁板を配設し、負極集電体から導出した負極リード3aを電池缶の底部6aに溶接すると共に、正極集電体から導出した正極リード1aを金属製の安全弁8の突起部に溶接した。次いでプロピレンカーボネートの溶媒中にLiPF_(6)を1mol/Lの割合で溶解した非水電解液をこの電池缶内に注入した。注入して1時間後には、粘着テープは既に充分に膨潤していた。
[0064] この後電池缶、互いに外周を密着させている安全弁8及び金属製の電池蓋9のそれぞれを、表面にアスファルトを塗布した絶縁封口ガスケット7bを介してかしめることによって、電池缶6を封口した。以上のようにして、直径18mm、高さ65mmの円筒型非水電解質リチウム二次電池を作成した。」

1シ 摘記した上記段落[0007]、[0009]、[0014]、[0015]、[0057]、[0061]及び[0062]の記載を参照すると、リチウムイオン電池の一例の模式部分分解斜視図である図1及び電極巻回体の一例の模式斜視図である図2から、いずれも帯状の正極1、セパレータ2、負極3及びセパレータ4をこの順序で積層したものを巻回することにより巻回電極体14が形成され、さらに当該巻回電極体の周囲に巻戻り防止用テープ5を約1周分巻き付けて付着することにより電極巻回体15が形成され、当該電極巻回体15が円筒型の電池缶6中に収容されることにより、円筒型のリチウムイオン電池が形成されることが見て取れる。

(2-2)引用例1に記載された発明
上記(2-1)の摘記事項について検討する。
ア 上記1シの図1及び図2についての視認事項から、引用例1には、いずれも帯状の正極1、セパレータ2、負極3及びセパレータ4をこの順序で積層したものを巻回することにより形成した巻回電極体14と、巻回電極体14の周囲に付着させた巻戻り防止用テープ5と、上記巻回電極体14を収容する電池缶6とを備えた、円筒型のリチウムイオン電池が記載されているといえる。

イ 上記1エで摘記した段落[0009]の記載「通常は、途中、電極巻回体15を電池缶6中に嵌挿した段階で、頂部構造を完成する前に、電池缶6中に、非水電解液が注入され、主としてセパレータ2,4および電極1、3を含浸する状態で電池缶6中に収容される。」から、電池缶6には非水電解液が注入されているので、上記アにおいて図1及び図2に関する視認事項に基づいて認定されたリチウムイオン電池(以下「図1のリチウムイオン電池」という。)は、非水電解質リチウムイオン電池であるということができる。

ウ 上記1エで摘記した段落[0010]の記載「正極1および負極3は、・・・集電体の少なくとも一面に、活物質および必要に応じて加えられるカーボンブラック等の導電助剤をフッ化ビニリデン樹脂等のバインダー溶液あるいはSBR等のゴム系バインダーエマルジョンととともに混合して得られた合剤スラリーを塗布し、例えば50?170℃で乾燥して厚さが10?1000μmの電極合剤層を形成したものである。」から、図1のリチウムイオン電池の巻回電極体14を構成する正極1および負極3は、いずれも、集電体の少なくとも一面に、活物質を含有する電極合剤層が形成されたものであり、上記1エの段落[0009]に「基本的にはいずれも帯状である正極1、ポリエチレン等の高分子物質の微多孔性膜からなるセパレータ2、負極3およびセパレータ4」と記載されているように、その形状はいずれも帯状である。

エ 上記1オの段落[0016]の記載「巻戻り防止用テープの層構造のいくつかを、その厚さ方向分模式断面図を参照して説明する。」と、段落[0017]の記載「巻戻り防止用テープ5は、フッ化ビニリデン樹脂と芳香族ポリエステル樹脂の複合材料により構成される。複合の態様には、主として混和と積層がある。従って本発明で用いる巻戻り防止用テープ5の最も簡単な構成は、図3に示すように、混和物の単層51からなるものであり」によれば、巻戻り防止用テープの層構造の最も簡単な構成は、「フッ化ビニリデン樹脂と芳香族ポリエステル樹脂」の「混和物の単層51」からなるものである。
さらに、上記1カの段落[0027]の記載「発明の巻戻り防止用テープ5は、巻回電極体14の最外層であるセパレータ4に付着する形態で配置される。・・・より簡便には、巻戻り防止用テープ5の巻回電極体14との付着面側・・・に接着剤を塗布して粘着型の巻戻り防止用テープを形成することが好ましい。図7?図9は、図3?図5の巻戻り防止用テープの巻回電極体14との付着面側(図では下側)にそれぞれ粘着剤層55を設けた粘着型巻戻り防止用テープの厚さ方向模式断面図である。」によれば、巻戻り防止用テープ5は巻回電極体14の最外周に付着させる必要があり、簡便に付着させるための構成として、上記「混和物の単層51」の付着面側に「粘着剤層55」を設けることが好ましいと記載されている。

オ 上記エで検討した、「単層51」を構成する「フッ化ビニリデン樹脂と芳香族ポリエステル樹脂の混和物」に関して、「フッ化ビニリデン樹脂」については、上記1オの段落[0019]に「本発明で使用するフッ化ビニリデン樹脂は、フッ化ビニリデンの単独重合体あるいは共重合体のいずれでもよい。」と記載されており、「芳香族ポリエステル樹脂」については、同段落[0023]に「好ましい芳香族ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート・・・が挙げられる。」と記載されている。

カ 上記1キの段落[0033]には、製造例1の混和型(単層)の帯状フィルムの作成方法として、フッ化ビニリデン樹脂と芳香族ポリエステル樹脂をペレットブレンドし、短軸押出機を用いて形成することが記載されており、同段落[0036]には、製造例5の単層フィルムとして、90質量%のポリフッ化ビニリデン及び10質量%の芳香族ポリエチレンテレフタレートから、製造例1に準じて作成したものが記載されている。したがって、製造例5の単層フィルムは、90質量%のポリフッ化ビニリデンと10質量%芳香族ポリエチレンテレフタレートをペレットブレンディングによって混和したものをフィルムに形成したものである。

キ 上記1ケの段落[0047]には、製造例9として、製造例1で得られたフィルムにアクリル系粘着剤層を形成して粘着剤層付きフィルムを得ることが記載されている。一方、製造例5で得られたフィルムに粘着剤層を形成することは引用例1に明記されていないが、製造例1及び製造例5はいずれも巻戻り防止用テープを形成するためのフィルムであること、製造例5は製造例1に準じて作成されるものであるからその使用形態も製造例1と同様であると推定されること、及び上記エで検討したように、巻戻り防止用テープを簡便に付着させるための構成として「混和物の単層51」の付着面側に「粘着剤層55」を設けることが好ましいと記載されていることを勘案すると、製造例5のフィルムを巻戻り防止用テープとして使用する際にも、製造例9と同様に、粘着剤層が形成されるものと認められる。

ク 上記1クの表1には、製造例5の単層フィルムについて、上記1クの段落[0042]の測定方法で測定した場合の「重量増加率」が25%となることが記載されている。そして、上記測定方法とは、「エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、およびジメチルカーボネート(DMC)の混合溶液」からなる電解液に浸漬させる前のフィルムの重量を測定し、さらに、電解液に浸漬した後の当該フィルムの「重量増加率」を測定する方法である。なお、上記「重量増加率」は浸漬前に測定したフィルムの重量と、浸漬後に測定したフィルムの重量から、算出しているものと認められる。

以上、上記1ア?1サの記載事項及び上記1シの視認事項を、上記ア?クの検討事項に基づき、巻戻り防止用テープ5として、製造例5のフィルムを採用した図1のリチウムイオン電池に注目して、本願補正発明の記載ぶりに則して整理すると、引用例1には以下に示すリチウムイオン電池の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「集電体上に活物質を含有する電極合剤層が形成された帯状の正極1と、セパレータ2と、集電体上に活物質を含有する電極合剤層が形成された帯状の負極3と、セパレータ4をこの順序で積層したものを巻回することにより形成した巻回電極体14と、
上記巻回電極体14の周囲に約1周分巻き付けて付着させた巻戻り防止用テープ5と、
上記巻回電極体14を収容する電池缶6とを備え
上記巻戻り防止用テープ5が、混和物の単層51と、当該単層51の付着面側に設けられた粘着剤層55からなり、
上記混和物の単層51は、90質量%のポリフッ化ビニリデンと10質量%の芳香族ポリエチレンテレフタレートをペレットブレンディングによって混和したものであり、
上記混和物の単層51は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、およびジメチルカーボネート(DMC)の混合溶液からなる電解液に浸漬後の重量増加率が25%である、円筒型の非水電解質リチウムイオン電池。」

(3)対比
(3-1)次に、本願補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「活物質を含有する電極合剤層」は、本願補正発明の「活物質層」に相当するから、引用発明の「集電体上に活物質を含有する電極合剤層が形成された帯状の正極1」及び「集電体上に活物質を含有する電極合剤層が形成された帯状の負極3」はそれぞれ、本願補正発明の「正極集電体上に正極活物質層が形成された帯状の正極」及び「負極集電体上に負極活物質層が形成された帯状の負極」に相当する。

イ 本願補正発明の「巻回電極体」の作成方法について、本願明細書の段落【0072】に「上述のようにして作製された正極11および負極12を、正極11、セパレータ13、負極12、セパレータ13の順に積層し巻回する。」と記載されていることから、上記アの検討事項も勘案すると、引用発明の「集電体上に活物質を含有する電極合剤層が形成された帯状の正極1と、セパレータ2と、集電体上に活物質を含有する電極合剤層が形成された帯状の負極3と、セパレータ4をこの順序で積層したものを巻回することにより形成した巻回電極体14」は、本願補正発明の「正極集電体上に正極活物質層が形成された帯状の正極と、負極集電体上に負極活物質層が形成された帯状の負極とがセパレータを介して積層された積層電極体が巻回された巻回電極体」に相当する。

ウ 引用発明の「巻戻り防止用テープ5」は、「巻回電極体14」に対して、「大出力用途におけるように高温の使用条件下においても安定した巻戻り防止作用を発揮する」ものであり(上記1イの段落[0005]参照)、一方、本願補正発明の「接着部材」は、「高い膨張性および耐熱性を備え、巻回電極体のゆるみ防止効果と電池缶内での固定効果を備える」ためのものである(本願明細書の段落【0009】参照)から、引用発明の「巻戻り防止用テープ5」と本願補正発明の「接着部材」はいずれも、電池が高温になるときにも、巻回電極体のゆるみを防止するための部材である。したがって、引用発明の「巻戻り防止用テープ5」は、本願補正発明の「接着部材」に相当する。
また、引用発明の「巻戻り防止用テープ5」は、正極と負極とセパレータを積層して巻回した「巻回電極体14の周囲に約1周分巻き付けて付着させ」ることにより、巻戻りを防止するものであるから、「巻戻り防止用テープ5」が「巻回電極体14」の終端部を覆うように「付着」していることは明らかである。したがって、引用発明の「巻戻り防止用テープ5」も、本願補正発明の「接着部材」と同様に「上記巻回電極体の巻回外周側に位置する上記積層電極体の巻回終端部を覆うように設けられた」ものであるということができる。

エ 上記1カの段落[0027]に「巻戻り防止用テープ5の巻回電極体14との付着面側・・・に接着剤を塗布して粘着型の巻戻り防止用テープを形成することが好ましい。図7?図9は、図3?図5の巻戻り防止用テープの巻回電極体14との付着面側(図では下側)にそれぞれ粘着剤層55を設けた粘着型巻戻り防止用テープの厚さ方向模式断面図である。」と記載されていることから、引用発明の「粘着剤層55」とは接着剤を塗布して形成される層であるということができる。したがって、引用発明において、「巻戻り防止用テープ5」を構成する「混和物の単層51」及び「粘着剤層55」は、それぞれ、本願補正発明において、「接着部材」を構成する「基材」及び「接着層」に相当する。また、引用発明において、「粘着剤層55」が「単層51の付着面側に設けられ」ることは、本願補正発明の「接着層」が「基材の一方の面の全体もしくは少なくとも一部に設けられ」ることに相当する。

オ 引用発明において、「ポリフッ化ビニリデン」と「芳香族ポリエチレンテレフタレート」からなる2つの樹脂材料を混和して「混和物の単層51」を形成するにあたり、混和する一方の樹脂材料である「ポリフッ化ビニリデン」は、上記1アの段落[0003]に記載されているように、「嵌挿後に注入された非水電解液が速やかに巻回電極体に含浸されるほか、非水電解液の含浸により巻戻り防止用テープが膨潤して厚みを増す」ような特性を有する樹脂である。
一方、本願明細書の段落【0020】?【0021】に「接着部材17の基材17Aは、高い膨潤性を有する樹脂材料(以下、高膨潤性樹脂材料と適宜称する)と、高い融点を有する樹脂材料(以下、高融点樹脂材料と適宜称する)とを混合してなる。具体的に、高膨潤性樹脂材料の膨潤度は、プロピレンカーボネート(PC)に対して5%以上、好ましくは11%以上である。」と記載されていることから、本願発明において、「膨潤度がプロピレンカーボネート浸漬後において11%以上である樹脂材料」とは、2つの樹脂材料を混合して「基材」を形成するにあたり、混合する一方の樹脂材料であって、高い膨潤性の樹脂材料であるとともに、当該膨潤性の程度が、プロピレンカーボネート浸漬後の膨潤度が11%以上であるものである。
したがって、引用発明の「ポリフッ化ビニリデン」と本願補正発明の「膨潤度がプロピレンカーボネート浸漬後において11%以上である樹脂材料」はいずれも、膨潤性の樹脂材料である点で共通している。

カ 引用発明において、2つの樹脂材料を混和して「混和物の単層51」を形成するにあたり、混和する他方の樹脂材料である「芳香族ポリエチレンテレフタレート」は、上記1オの段落[0017]に記載されているように、「非水電解液との接触下におけるフッ化ビニリデン樹脂単独での耐熱性不足を補う」ための樹脂、すなわち単層51に耐熱性を付与するための樹脂である。
また、上記1オの段落[0023]には「上記フッ化ビニリデン樹脂とともに複合材料を構成する芳香族ポリエステル樹脂は、ポリエステルを構成するジオールとジカルボン酸の少なくとも一方、好ましくはジカルボン酸が芳香族であるものをいう。好ましい芳香族ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート・・・等が挙げられる。」と記載されていることから、技術常識も勘案すると、「芳香族ポリエステル樹脂」とは、少なくとも一方が芳香族である、ジオール(R(OH)_(2))とジカルボン酸(R’(COOH)_(2)))が重縮合して得られる樹脂のことであり、「ポリエチレンテレフタレート」は、ジオールがエチレングリコール(C_(2)H_(4)(OH)_(2))であり、ジカルボン酸が芳香族であるテレフタル酸(C_(6)H_(4)(COOH)_(2))である場合の「芳香族ポリエステル樹脂」の具体例に相当するものということができる。
したがって、「芳香族ポリエチレンテレフタレート」とは、「ポリエチレンテレフタレート」が、芳香族であるテレフタル酸から重縮合して得られる化合物であることを明示的に示しているものであって、「ポリエチレンテレフタレート」と同一の化合物と認められる。
そして、ポリエチレンテレフタレートの融点については、「化学大辞典8」(共立出版株式会社 1997年9月20日縮刷板第36刷発行)の「ポリエチレンテレフタラート」の項目に「融点256°」と記載されている。なお、「ポリエチレンテレフタレート」は「ポリエチレンテレフタラート」とも記述され、両者は同一の化合物である。
一方、本願発明において、「融点が60℃以上を有する樹脂材料」は、本願明細書の段落【0019】?【0020】に記載されているように、膨潤性と耐熱性とを兼ね備えた基材とするために、高い膨潤性を有する樹脂材料と混合される、高い融点を有する樹脂材料のことを表している。
したがって、引用発明の「芳香族ポリエチレンテレフタレート」は、本願補正発明の「融点が60℃以上を有する樹脂材料」に相当する。

キ 引用文献1の、上記1アの段落[0004]と上記1イの段落[0005]に記載されているように、引用発明の目的は、「大出力リチウムイオン電池においては使用時の電極温度も90℃程度まで上昇するため、巻戻り防止用テープが非水電解液に膨潤するのみでなく、溶解して電池性能の著しい低下が生ずる欠点が見出された」との従来の巻き戻り防止用テープの問題点を解決して、「大出力用途におけるように高温の使用条件下においても安定した巻戻り防止作用を発揮する巻戻り防止用テープを周囲に付着させて形成された電極巻回体を嵌挿してなるリチウムイオン電池」「を提供すること」である。また、製造例5で得られるフィルムに対して、上記1クの段落[0042]に記載のように、「エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、およびジメチルカーボネート(DMC)の混合溶液」に浸漬し、90℃で16時間保持した後に目視検査をすると、同表1の「目視観察結果」に「○」と記載されているとおり、同段落[0043]の記載を参照すると、亀裂が無く、また白化も少ないものであり、また、同段落[0045]に記載のように、「外観に劣化は見られないが、充分に膨潤していることが確認され」るものである。
つまり、引用発明の「90質量%のポリフッ化ビニリデンと10質量%芳香族ポリエチレンテレフタレートをペレットブレンディングによって混和した」「混和物の単層51」は、高温の使用条件下でも非水電解液中で十分に膨潤するとともに外観に劣化が見られず、安定に巻戻り防止作用を発揮するものであるということができる。そして、引用発明の「混和物の単層51」が、高温の非水電解液中においても外観に変化がなく安定しているということは、非水電解液に対して耐腐食性を有しているというができる。
一方、本願補正発明における「基材」が「電解液に対して耐性を備える」とは、本願明細書の段落【0023】の記載「電解液に対して耐性(耐腐食性など)のある材料が用いられる。」を参照すると、電解液に対して耐腐食性等を有することを意味する。
したがって、非水電解液に対して耐腐食性を有している、引用発明の「混和物の単層51」は、本願補正発明の「基材」と同様に、「電解液に対して耐性を備える」ものであるということができる。

ク 引用発明の「混和」とは、2つの樹脂材料を「ペレットブレンディングによって混和」することである。そして、「混和」については、「化学大辞典3」(共立出版株式会社 1997年9月20日縮刷板第36刷発行)の「混和[^(英)blending]」の項目に「高分子材料の成形に適するように種々な添加物を均一に混合することをいう。広義の混練り^(*)と全く同一にもちいられる・・・」と記載されており、同「混練り」の項目に「合成樹脂、ゴムのような高分子材料に可塑剤、安定剤、充テン剤、着色剤などを熱と機械的作用により均一に練り合わせることをいう。」と記載されている。したがって、引用発明の「混和」とは、ペレットからなる2つの樹脂をブレンディングすること、すなわち、熱と機械的作用により均一に練り合わせることであり、共重合とは異なる操作であるといえる。
一方、本願補正発明の「混合」については、本願明細書の段落【0068】に「高膨潤性樹脂材料と高融点樹脂材料とを共重合させて基材を形成する方法と比較して、高膨潤性樹脂材料と高融点樹脂材料とを混合して基材を形成するこの発明の方法は以下のような利点がある。」と記載され、同段落【0081】に「高膨潤性樹脂材料としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)90重量%と、高融点樹脂材料としてポリエチレンテレフタレート(PET)10重量%とを溶融混練し、シート状に形成して乾燥することにより、厚さ40μmの基材を得た。」と記載されている。つまり、本願補正発明の「混合」とは、共重合とは別の操作であって、2つの樹脂材料を溶融混練することである。
したがって、引用発明の「混和」と、本願補正発明の「混合」は同義であるといえる。

ケ リチウムイオン電池が充放電可能な二次電池であることは技術常識であるから、引用発明の「円筒型の非水電解質リチウムイオン電池」は、本願補正発明の「円筒型非水電解質二次電池」に相当する。

(3-2)そうすると、本願補正発明と引用発明の一致点と相違点は次のとおりとなる。

《一致点》
「正極集電体上に正極活物質層が形成された帯状の正極と、負極集電体上に負極活物質層が形成された帯状の負極とがセパレータを介して積層された積層電極体が巻回された巻回電極体と、
上記巻回電極体の巻回外周側に位置する上記積層電極体の巻回終端部を覆うように設けられた接着部材と、
上記巻回電極体を収容する電池缶とを備え、
上記接着部材が、基材と、該基材の一方の面の全体もしくは少なくとも一部に設けられた接着層とからなり、
上記基材は、電解液に対して耐性を備えると共に、膨潤性の樹脂材料と、融点が60℃以上を有する樹脂材料とを混合してなる円筒型非水電解質二次電池。」

《相違点》
《相違点1》
本願補正発明の「接着層」が「基材に対する剥離強度が0.1N/mm以上であ」るのに対して、引用発明の「粘着剤層55」については、本願補正発明の「基材」に相当する「混和物の単層51」に対する剥離強度がどの程度であるか不明である点。
《相違点2》
「膨潤性の樹脂材料」の膨潤性の程度につき、本願補正発明においては、「膨潤度がプロピレンカーボネート浸漬後において11%以上である」のに対して、引用発明は「エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、およびジメチルカーボネート(DMC)の混合溶液からなる電解液に浸漬後の重量増加率が25%である」点。


(4)当審の判断
(4-1)相違点1についての第1の判断
ア まず、本願補正発明において、「接着層」が「基材に対する剥離強度が0.1N/mm以上であ」ることの技術的意義について、本願明細書の記載に基づいて検討する。

イ 本願明細書の段落【0030】には「接着層17Bは、基材17Aに対する剥離強度が0.1N/mm以上であることが好ましい。基材17Aと接着層17Bとが剥離しにくくなるためである。一般的に、接着部材17は巻回されて接着層17B面が、内周側の接着部材17の基材17A外周面に貼着され、接着部材17ロールとされるか、もしくは剥離用紙等に貼着されている。電池製造工程では、基材17Aを接着部材17ロールか剥離用紙から剥がす工程を備えているため、基材17Aと接着層17Bとの間の剥離強度が弱く、剥離が起こる場合には電池生産性が低下してしまうため好ましくない。」と記載され、また、同段落【0110】?【0112】に「表1より明らかなように高膨潤性樹脂材料と高融点樹脂材料とを混合して基材とした実施例1?実施例7、比較例1および比較例5では、剥離強度が1.0N/10mm以上と大きくなり、ハンドリング性が高いことが分かった。なお、基材として高膨潤性樹脂材料もしくは高融点樹脂材料の一方のみを用いた比較例2および比較例3についても同様に、高い剥離強度が得られた。
これに対して、高膨潤性樹脂材料と高融点樹脂材料とを積層して基材とした比較例4では、剥離強度が0.07N/10mmと顕著に低くハンドリング性が低くなることが分かった。また、比較例4のように剥離強度が低い接着部材は、耐電解液性も低く、電解液中で層間剥離が生じる可能性が高いため、接着部材としての機能を保ち得ないことが分かった。
これは、高膨潤性樹脂材料と高融点樹脂材料とを積層する場合、層間で化学的結合が起こらず物理的結合のみで積層基材が形成されるため、粘着層の接着力>層間の接着力となると、剥離を起こしやすくなると考えられる。そして、最終的には剥離部分に電解液が浸入し、基材と接着層との完全な分離に至っているものと想定される。」と記載されている。
以上の記載から、「接着層」が「基材に対する剥離強度が0.1N/mm以上であ」ることの技術的意義は、(a)上記の剥離強度を有していなければ、基材17Aと接着層17Bとの間に剥離が起こるので、電池生産性が低下してしまうため好ましくないということと、(b)2つの樹脂材料を積層して基材とした比較例4のように、2つの樹脂層の間の接着力が弱く、層間で剥離する接着部材は、ハンドリング性が低くなるとともに、耐電解液性も低く、電解液中で層間剥離が生じる可能性が高いため、接着部材としての機能を保ち得ないということである。
つまり、「接着層」が「基材に対する剥離強度が0.1N/mm以上であ」るとは、電池生産性やハンドリング性が低下せず、接着部材としての機能を保つために、基材と接着層の間の「剥離強度」が「0.1N/mm以上」であるとともに、2つの樹脂が積層している基材の場合には、層間における「剥離強度」が「0.1N/mm以上」であることも意味するものと認められる。

ウ 一方、引用例1の段落[0056]には、2つの樹脂(ポリ弗化ビニリデン(PVDF)とポリプロピレン(PP))を積層した二層フィルムについて、「PVDFとの界面での接着が得られないか、極めて弱いため、テープの作製時及びその後のハンドリング時(切断、貼り合せ工程)に層間剥離を起こし、非常に作業性が悪く、工業的用途には不適である」と記載されており、接着力が弱く層間剥離を起こす場合には、テープ作成時やハンドリング時の作業性が悪くなるという問題があることが示されている。つまり、引用例1には、テープ作成時やハンドリング時の作業性の観点から、テープには簡単に剥離しない程度の接着強度が必要であることが示されているものと認められる。
そして、引用例1の上記の記載に接した当業者であれば、引用発明のように、「戻り防止用テープ5」が「混和物の単層51」と「粘着剤層55」からなる場合においても、「戻り防止用テープ5」の作成時や、「戻り防止用テープ5」を「巻回電極体14」に付着する工程において、「混和物の単層51」と「粘着剤層55」が層間剥離したり、「粘着剤層55」と「巻回電極体14」が簡単に剥離したりしない程度の接着強度が必要であることを、当然認識するといえる。
また、引用発明の「巻戻り防止用テープ5」は、上記(3-1)のウ、キで検討したように、「巻回電極体14」に付着することによって、高温の使用条件下においても非水電解液中で安定した巻戻り防止作用を発揮するものであり、安定した巻戻り防止作用とは、「巻回電極体14」が巻き戻らない程度の強さの接着強度で、「巻戻り防止用テープ5」が「巻回電極体14」に付着することを意味するものと認められる。

エ そうすると、引用発明の「巻戻り防止用テープ5」は、テープ作成時及びハンドリング時の操作性の観点や、安定した巻戻り防止作用を発揮させる観点から、「混和物の単層51」と「粘着剤層55」が簡単に剥離しない程度の接着強度を必要とするものであることは明らかであるから、そのような接着強度の目安として、引用発明において、「混和物の単層51」と「粘着剤層55」との剥離強度を0.1N/mm以上とすること、すなわち、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得る設計的な事項であるといえる。
また、接着層と基材との剥離強度を0.1N/mm以上とすることについては、本願明細書を見ても、格別な効果が認められない。
ここで、引用発明において、接着層と基材との剥離強度を0.1N/mm以上とすることが容易であることについては、次の(4-2)のように判断することもできる。

(4-2)相違点1についての第2の判断
ア 本願明細書の段落【0081】には、実施例1として、高膨潤性樹脂材料であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)と高融点樹脂材料であるポリエチレンテレフタレート(PET)を、混合重量比90:10で溶融混練して得た基材に、アクリル酸エステル共重合体を溶融し、基材の一方の面に塗布して厚さ10μmの接着層を形成して、接着部材を得ることが記載されている。そして、段落【0104】の表1には、上記実施例1として得られた接着部材の剥離強度が「1.5N/10mm」であることが記載されている。

イ 一方、引用発明の「巻戻り防止用テープ5」を構成する「混和物の単層51」は「90質量%のポリフッ化ビニリデンと10質量%芳香族ポリエチレンテレフタレートをペレットブレンディングによって混和したもの」である。また、引用発明の「巻戻り防止用テープ5」を構成する「粘着剤層55」については、上記1カの段落[0028]に「粘着剤層55は、セパレータ層に密着すれば、その種類に制限はなく」と記載されているものの、実施例として記載されているのはアクリル系粘着剤のみであり、その具体例として、上記1ケの段落[0047]に、「市販のアクリル系粘着剤(東洋インキ製造株式会社製「BPS1109」)を乾燥後の厚みが20μmとなるように固形分濃度をトルエンで希釈して調整し、メイヤーバーによって塗布後、70℃の乾燥機中で30分間乾燥させ粘着剤層付フィルム」とすることが記載されている。ここで、上記「BPS1109」とは、例えば、特開2008-274156号公報の段落【0038】に「アクリル酸エステル共重合体の粘着剤としては、東洋インキ製造株式会社製のオリバイン BPS5789、オリバイン BPS3841、オリバイン BPS3180-3A、オリバイン BPS1109、オリバイン BPS5700、オリバイン BPS5727が挙げられる。」と記載されているように、アクリル酸エステル共重合体の粘着剤である。

ウ 上記イの検討から、引用発明の「巻戻り防止用テープ5」において「粘着剤層55」を、引用例1における実施例の教示に従い、アクリル酸エステル共重合体の粘着剤から形成することは当業者が容易になし得ることである。そして、このようにしてアクリル系粘着剤から形成された「粘着剤層55」を有する「巻戻り防止用テープ5」と、本願明細書に記載された実施例1の「接着部材」とは、上記ア、イの検討事項を参照すれば、基材の材料及び接着層の材料が同じであるから、接着層の製造方法が異なることを考慮しても、「粘着剤層55」としてアクリル系粘着剤を用いた「巻戻り防止用テープ5」は、上記実施例1と同程度、すなわち、「1.5N/10mm」程度の剥離強度を有しているものと推認できる。

エ したがって、引用発明の「巻戻り防止用テープ5」において「粘着剤層55」として、アクリル酸エステル共重合体の粘着剤を採用することによって、剥離強度を0.1N/mm以上とすること、すなわち、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(4-3)相違点2についての判断
ア 本願補正発明における「膨潤度」について検討する。
まず、「膨潤度」の測定法について検討する。本願明細書の段落【0020】?【0021】に記載されているように、「膨潤度」の測定は、基材17A材料片をプロピレンカーボネート(PC)からなる浸漬溶媒に浸漬した場合の質量変化率を測定することにより行うものである。
次に、「膨潤度」の測定対象について検討する。本願明細書の段落【0021】には、「基材17A材料片を浸漬した場合の質量変化率」と記載されており、また、同段落【0104】の表1にも「基材膨潤度」と記載されていることから、本願補正発明における「膨潤度」とは、「膨潤性の樹脂材料」のみからなる材料片について測定した膨潤度ではなく、「膨潤性の樹脂材料」を「融点が60℃以上を有する樹脂材料」と混合して得られた「基材」の材料片について測定した「膨潤度」であるものと認められる。
つまり、本願補正発明の「膨潤度がプロピレンカーボネート浸漬後において11%以上である樹脂材料」なる特定事項は、「樹脂材料」が「融点が60℃以上を有する樹脂材料」と混合して得られた基材について、プロピレンカーボネートに浸漬する前と後に測定される質量から算出される質量変化率が11%以上であることを意味するものと認められる。

イ 一方、引用発明における「混和物の単層51」については、「エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、およびジメチルカーボネート(DMC)の混合溶液からなる電解液に浸漬後の重量増加率が25%」のように特定され、本願補正発明の「膨潤度」と同様に、電池に使用される溶媒に浸漬する前と後の重量の増加率を特定するものではあるが、そのような「混和物の単層51」を「プロピレンカーボネート」に浸漬した場合に「膨潤度」がどのような値になるかは、一般的には不明であるといえる。

ウ しかしながら、上記(4-2)のア、イで検討したように、引用発明の「混和物の単層51」と、本願明細書に実施例1として記載された「基材」とは、いずれも、ポリフッ化ビニリデンとポリエチレンテレフタレートを、混合重量比90:10で混合した、同じ材料からなるものである。しかも、本願明細書の段落【0104】の表1には、上記実施例1の基材膨潤度が25%であると記載されているから、引用発明の「混和物の単層51」を、本願明細書の段落【0021】に記載の方法によって、プロピレンカーボネートに浸漬して「膨潤度」を測定すれば、上記実施例1と同じ25%になるといえる。

エ したがって、引用発明の「混和物の単層51」を、本願明細書の段落【0021】に記載の方法によって、プロピレンカーボネートに浸漬して「膨潤度」を測定すれば、その「膨潤度」は11%以上であるといえるから、相違点2については、本願補正発明と引用発明の実質的な相違点であるとはいえない。

(4-4)判断についてのまとめ
以上、検討したとおり、本願補正発明は、引用発明と引用例1の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定によって、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)独立特許要件についてのまとめ
したがって、本件補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しない。

5 補正の却下の決定のむすび
以上の次第で、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正(平成26年5月26日に提出された手続補正書による補正)は却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、平成25年10月17日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1において本件補正前の請求項1として記載されたものであり、再掲すると、次のとおりである。

「【請求項1】
正極集電体上に正極活物質層が形成された帯状の正極と、負極集電体上に負極活物質層が形成された帯状の負極とがセパレータを介して積層された積層電極体が巻回された巻回電極体と、
上記巻回電極体の巻回外周側に位置する上記積層電極体の巻回終端部を覆うように設けられた接着部材と、
上記巻回電極体を収容する電池缶とを備え、
上記接着部材が、基材と、該基材の一方の面の全体もしくは少なくとも一部に設けられた接着層とからなり、
上記接着層は、基材に対する剥離強度が0.1N/mm以上であり、
上記基材は、電解液に対して耐性を備えると共に、膨潤度がプロピレンカーボネート浸漬後において5%以上である樹脂材料と、融点が60℃以上を有する樹脂材料とを混合してなる円筒型非水電解質二次電池。」

2 引用例の記載及び引用発明
原査定の根拠となった拒絶の理由に引用された引用例1の記載事項と引用発明については、前記第2の4の(2)において、摘記及び認定したとおりである。

3 対比・判断
前記第2の2、3で検討したように、本願補正発明は、本願発明の「膨潤度」について、本件補正前の請求項1で「5%以上」と記載されていたものを、本件補正後の請求項1で「11%以上」と限定したものである。逆に言えば、本願発明は、本願補正発明から、上記の限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、これをより限定したものである本願補正発明が、前記第2の4の(1)?(4)において検討したとおり、引用発明と引用例1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明と引用例1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 結言
以上のとおり、本願発明は、引用発明と引用例1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-25 
結審通知日 2015-03-31 
審決日 2015-04-15 
出願番号 特願2010-46545(P2010-46545)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 安子  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 池渕 立
河本 充雄
発明の名称 円筒型非水電解質電池  
代理人 杉浦 拓真  
代理人 杉浦 正知  

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