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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1301464
審判番号 不服2013-21506  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-05 
確定日 2015-06-03 
事件の表示 特願2011- 26986「マイクロ光学セキュリティ及び画像表示システム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月 1日出願公開、特開2011-170351〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2004年11月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年11月21日、米国、2004年1月22日、米国、2004年11月12日、米国)を国際出願日とする特願2006-541650号の一部を平成23年2月10日に新たな特許出願としたものであって、平成25年5月20日に手続補正書が提出され、平成25年6月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月5日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成25年11月5日提出の手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成25年11月5日提出の手続補正書による手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成25年11月5日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、そのうち請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1(平成25年5月20日に提出された手続補正書による補正後のもの)に、

「非円柱レンズの規則正しい二次元アレイを利用してマイクロ画像を拡大し、複数の個別のレンズ/アイコン画像システムの統合された性能により合成拡大された画像を形成するフィルム材料であって、
前記フィルム材料は、パターン化された裏面コーティングが組み合わされ、
前記レンズが50ミクロン未満の直径を有する、フィルム材料。」とあったものを、

「非円柱レンズの規則正しい二次元アレイを利用してマイクロ画像を拡大し、複数の個別のレンズ/アイコン画像システムの統合された性能により合成拡大された画像を形成するフィルム材料であって、
前記フィルム材料は、パターン化された裏面コーティングが組み合わされ、
前記裏面コーティングは、密封層又は覆い隠す層であり、
前記密封層又は覆い隠す層は、焦点を合わせる要素のアレイに反対の複数の画像アイコンの平らなアレイの側に適用され、
前記密封層又は覆い隠す層は、半透明、薄い色が付き、有色素で、染色され、不透明、金属性、磁気、光学的に可変、又は、これらの組合せであり、
前記密封層又は覆い隠す層は、前記画像のアイコンのコントラスト及び可視性を向上させるために、提供され、
前記密封層又は覆い隠す層は、粘着性を含む、
前記レンズが50ミクロン未満の直径を有する、フィルム材料。」とする補正である(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(2)本件補正後の請求項1に係る上記(1)の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「裏面コーティング」が、(a)「密封層又は覆い隠す層」であり、該「密封層又は覆い隠す層」が、(b-1)「焦点を合わせる要素のアレイに反対の複数の画像アイコンの平らなアレイの側に適用され」、(b-2)「半透明、薄い色が付き、有色素で、染色され、不透明、金属性、磁気、光学的に可変、又は、これらの組合せであり」、(b-3)「前記画像のアイコンのコントラスト及び可視性を向上させるために、提供され」、(b-4)「粘着性を含む」ことを限定するものである。

2 新規事項の追加及び本件補正の目的
(1)新規事項の追加
ア 上記1(2)の(a)の点は、本願の願書に最初に添付された明細書(以下、願書に最初に添付された明細書を「当初明細書」といい、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面をあわせて「当初明細書等」という。)の【0030】、【0112】?【0118】、【0150】、図1a、図12a等に記載されており、上記1(2)の(b-1)の点は当初明細書の【0030】、図1a、図12a等に記載されており、上記1(2)の(b-2)の点は当初明細書の【0030】に記載されており、上記1(2)の(b-3)の点は、当初明細書の【0107】に記載されている。
イ 上記1(2)の(b-4)の点について検討する。
(ア)本願の当初明細書等のどこにも、「粘着性」又は「粘着」という用語は記載されていない。なお、原出願である特願2006-541650号の当初明細書等にも、「粘着性」又は「粘着」という用語はどこにも記載されていない。
(イ)上記(ア)のとおり、本願の当初明細書等において、「粘着性」又は「粘着」という用語の記載はないが、類語である「接着」という用語は記載されており、当該「接着」の記載箇所をすべて摘記すると、次のaないしiのとおりである。
a 「前記フィルム材料が少なくとも部分的に透明であり、接着剤により繊維質又は非繊維質基板に接着されるされること、
前記フィルム材料の上層のレンズ表面に印刷要素が直接付与され、前記印刷要素は前記フィルム材料を越えて伸張するより大きなパターンの一部であること、及び
前記フィルム材料が繊維質又は非繊維質基板の上に予め付与された印刷要素の上に積層されること、
の少なくとも1つを特徴とする、請求項10又は11に記載の基板。」(【請求項12】)
b 「 図16fは、この相界面334微細構造に視覚的な定義を与えるために、空気、ガス、または液体体積336を使用する、透明な浅浮き彫り微細構造アイコン335のさらに別の実施形態333を開示する。オプションとしての密封層340は、空気、ガス、または液体体積336を捕捉するためのオプションとしての接着剤338を使用して、または使用せずに追加されてよい。」(【0089】)
c 「図17aは、印刷物347上で積層品として使用されているユニゾンの実施形態を描いている。アイコン層に少なくとも何らかの光透明性を有する材料348は、積層接着剤350を用いて紙または紙の代替物等の繊維質の基板354に積層され、繊維質基板354に予め付与された印刷要素352をカバーする、または部分的にカバーする。」(【0090】)
d 「図17bは、高分子フィルム等の非繊維質基板358に付与される印刷要素352上の積層品として使用されるシステム材料の実施形態を示す。図17aにおいてのように、アイコン層内で少なくともなんらかの光透明性を有する材料348は、積層接着剤350を用いてポリマー、金属、ガラス、またはセラミック代替物等の非繊維質基板358に積層され、非繊維質基板354に予め付与された印刷要素352をカバーするまたは部分的にカバーする。」(【0091】)
e 「図18aは、接着剤要素366で繊維質または非繊維質の基板368に付着される一個の少なくとも部分的に透明なシステム材料364を描いている。」(【0095】)
f 「スレッド508は、画像コントラストを増加するため、及び/または導電率、磁気特性、核磁気共鳴検出と認証等の追加のセキュリティ機能と認証機能を提供するために、あるいは基板の裏側(ユニゾン合成画像及びスレッド508と繊維質の基板510の間の接合を強化するための接着層517を提示する側面の反対側)から見られたときに反射照明での表示から材料を隠すために、オプションとして有色素の、染色された、充填された、あるいはコーティングされた密封層516を組み込んでよい。」(【0107】)
g 「金属化された層をユニゾン材料に追加するのは、蒸着、スパッタリング、化学蒸着、または他の適切な手段による、ユニオン(審決注:「ユニゾン」の誤記と認められる。)材料のアイコンまたは密封層の直接的な金属化、あるいはユニオン(同前)材料のアイコンまたは密封層の第二のポリマーフィルムの金属化された面への積層を含む多くの方法で達成できる。フィルムを金属化し、このフィルムをパターン金属化解除(pattern demetallizing)することによって、金属化された領域の狭い『リボン』を残し、第二のポリマーフィルムに金属化された表面を積層し、次に金属リボンが積層接着剤によってスリットスレッドの端縁から隔離されるように積層された材料を細長く切り、それによってスレッドの端縁で薬品による損傷から金属を保護することによって、貨幣セキュリティスレッドを作成するのは一般的な慣用手法である。」(【0123】)
h 「例示的な製造方法としては、75ゲージ接着促進PETフィルム等のベースフィルムに対して成型される放射線硬化性液体ポリマーの中の間隙としてアイコンを形成し、次にベースフィルムの反対面に、アイコンに対して正しい位置合わせまたはねじれを持って、放射線硬化性ポリマーからレンズを形成し、次にアイコン間隙を、フィルム表面に対するグラビア状ドクターローラーブレーディング(doctor blading)によってサブミクロン粒子有色色材料で充填し、該充填を適切な手段(例えば、溶剤除去、放射線硬化、または化学反応等)によって凝固させ、最終的に、透明、染色された、有色素性、あるいは秘密のセキュリティ材料を含む、オプションとしての密封層を適用することである。」(【0147】)
i 「合成倍率マイクロ光学システムは、アイコン充填材料、裏面コーティング、上塗り、レンズへのパターン化及び非パターン化の両方がなされた充填または組み込み、光学スペーサ、または、積層品またはコーティングインクとしてのアイコン材料、及び/または、水性、溶剤性又は放射線硬化性を含む接着剤、光学的に透明、半透明または不透明、ポジティブのまたはネガティブな材料の形状を取る有色素性または染色されたしるし、コーティング、または、インク、金属、蛍光体、または磁性材料、X線、赤外線または紫外線を吸収する又は放出する物質、アルミニウム、ニッケル、クロム、銀、金を含む磁性または非磁性の金属等を含むがこれらに限定されない印刷物;検出または情報記憶のための磁気コーティング及び磁性粒子、コーティング及び粒子としての蛍光染料と顔料;IR蛍光コーティング、充填、染料、または粒子;UV蛍光コーティング、充填、染料または粒子;コーティング及び粒子としての燐光染料と顔料、プランシェット、DNA、RNA,または他のマクロ分子タガント、2色性ファイバ、ラジオアイソトープ、印刷物受容コーティング、サイジング、またはプライマ、化学的に反応する材料、マイクロカプセル化成分、分野に影響される材料、金属性と非金属性両方の電導性粒子とコーティング、マイクロ穿孔された穴、着色されたスレッドまたはファイバ、文書、ラベル、または製造中に紙に接着するためにキャリヤとして紙またはポリマーに接合される材料の表面に埋め込まれているユニゾンのパッチ、蛍光2色性スレッドまたは粒子、ラマン散乱コーティングまたは粒子、カラーシフトコーティングまたは粒子、紙、板紙、ボール紙、プラスチック、セラミック、ファブリックまたは金属基板に積層されるユニゾン、スレッド、パッチ、ラベル、オーバラップ、ホットスタンプ箔、または開封テープとしてのユニゾン、ホログラフィック、回折、回折kinegram、等値線、写真または屈折性の光学素子、液晶材料、アップコンバージョン材料とダウンコンバージョン材料としての実施形態を、単一の要素として、又はこれらの多様な組み合わせで含むが、これらに限定されない追加機能と結み合わせることができる。」(【0150】)
(ウ)「密封層」と「接着」との関わりについては、上記(イ)a?gに記載があると認められるが、そのうち、a及びc?fには、「密封層」を含む(あるいは含むと推測される)「フィルム材料」、「材料」、「システム材料」又は「スレッド」が、接着剤を用いて基板に付着されることが記載されており、他方、bには、「密封層」自体が接着剤を用いて浅浮き彫り微細構造アイコンに付着されることが記載されていると認められる。
(エ)上記(ウ)からみて、当初明細書等には、「密封層」が接着剤を用いて何らかの対象物に付着されることが記載されているとは認められるものの、「密封層」自体が「接着性を含む」ことについては記載も示唆もされておらず、ましてや、「密封層」が「粘着性を含む」ことについては、何らの記載も示唆もない。また、「密封層」が「粘着性を含む」ことが、上記(イ)a?iの摘記箇所を含む当初明細書等の記載から自明な事項であるということもできない。
ウ 上記ア及びイからみて、本件補正は、当初明細書等の記載との関係において、新たな事項を追加しないものであるとはいえないから、本願の当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされた補正であるとはいえず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(2)本件補正の目的
上記1(1)の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、本件補正の前後で請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であると認められるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

3 小括
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし16に係る発明は、平成25年5月20日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年5月20日提出の手続補正書によって補正された、上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特表2003-506761号公報(以下「引用例1」という。)には、「光学表示複合体」(発明の名称)に関し、図とともに次の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 マーク同定用に使用する認識可能な三次元イメーシを形成する少なくとも一つのレンズアレイと少なくとも一つの記録イメージからなる光学表示複合体。
【請求項2】 レンズアレイは規則的に配列された複数の隣接レンズからなる請求項1記載の光学表示複合体。
【請求項3】 前記イメージは多くの比較的小さいイメージからなる多重イメージである請求項1または2記載の光学表示複合体。
【請求項4】 前記イメージは互いの表面に重ね印刷された(overprinted)または積層された(overlaid)一連の層からなる多重イメージである先行するいずれかの請求項記載の光学表示複合体。
【請求項5】 前記イメージは半透明のイメージング媒体中に記録されるかイメージング媒体上に印刷される先行するいづれかの請求項記載の光学表示複合体。
【請求項6】 複合体は複数の層からなる複合体はレンズアレイが規則的に配列された複数の隣接レンズからなる先行するいづれかの請求項記載の光学表示複合体。
【請求項7】 個々の層は屈折率を変えることで定義される請求項6記載の光学表示複合体。
【請求項8】 レンズアレイは光学表示複合体の層または前記層の一部を形成し、記録イメージはレンズアレイの層の一部としてその上に印刷されるかまたは形成される請求項6または7記載の光学表示複合体。
【請求項9】 レンズアレイと記録イメージは光学表示体の異なる層に設けられた請求項6または7記載の光学表示複合体。
・・・(中略)・・・
【請求項22】 レンズアレイは50?1000μmのオーダのピッチを有する先行するいずれかの請求項記載の光学表示複合体。
・・・(中略)・・・
【請求項26】 レンズアレイと記録イメージが見る方向に実質的に平行から実質的に重なっている先行するいずれかの請求項記載の光学表示複合体。
・・・(中略)・・・
【請求項32】 パッケイジングの改ざん防止用ラベルとしての先行するいずれかの請求項記載の光学表示複合体の使用。
【請求項33】 自動車または他の窓の安全マークとしての先行するいずれかの請求項記載の光学表示複合体の使用。
・・・(略)・・・」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は光学表示複合体、その使用及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
本発明は可視で認識可能なイメージが要求されるいかなる場合でも応用できるので、例えば、セキュリティー、同定情報又は審美的効果に関する表示(display)が求められる多くの分野で使用できる。このような分野は家財装飾(household decoration)、貴重品・クレジットカード・スマートカード・パッケージングのセキュリティーと改ざん防止用マーク、自動車・他の非固定物・建物をマークし、同定することを含んでいる。特に、当該発明は自動車の窓や他の透明パネルの安全マーク及びパッケージングや他の場所にある改ざん防止用ラベルに応用できる。」

ウ 「【0018】
再生レンズアレイを記録されたイメージに合わせて正確に配列することがイメージを正しく再構築するために必要である。また、異なる再生レンズ配列が記録レンズアレイから使用される場合(where a defferent repaly lens array is used from the recording lens)であっても、(a)記録レンズアレイのピッチと再生レンズアレイのピッチの割合と、(b)再生されたときのイメージの大きさに対する記録されたイメージの大きさの割合がそろわなければならない。これらの割合が同じでないと、又は再生レンズアレイと記録されたイメージが正確に配列されていないと、イメージが正確に再生されず、一連の黒い帯(モアレフリンジ(Moire fringes)という)が見られる。これらの特性のために光学表示複合体の複製はとても難しい。」

エ 「【0037】
レンズアレイは高分子の熱可塑性、硬化(cured)樹脂やガラスなどの技術で知られる光学的に適当な通信可能な(transmissive)材料でもよい。好ましくは、レンズアレイは、例えばシロキサン、スチレン、イミド、アクリレート、メタクリレート、フォトカチオンエポキシ樹脂、ケイ酸の満たされた光線硬化性樹脂及び紫外線硬化性液晶樹脂のような光線硬化性付着物によって形成される。
・・・(略)・・・
【0040】
レンズアレイはリプレイレンズアレイ(replay lenns array)であり、記録イメージの光学的特質と調和し、レンズの形のような記録アレイと関係する特質を持ち、対象が見えたときの3次元イメージの正確な再構築ができる。観察する方向(direction of viewing)はレンズアレイを通って記録イメージの上に向かう。レンズアレイは高さと幅の割合が適切であれはどんな好適な形状あるいはどんな好適な形状の変形のレンズからなっても良い。
【0041】
例えば、レンズはピラミッド型、円錐形、円錐台(frusto-conical)、あるいは半球体あるいは球形の他の部分の形状(球面レンズとして知られている)あるいは円柱の半分の形または円柱の他の部分の形(円柱形レンズとして知られている)あるいはコーン形状である。選択的に、レンズは前述した内のどれか一つの形状のレンズとして作用するように、屈折率を変化させる性質を有する物質から作られる。
【0042】
レンズは同一のまたは異なる形状のレンズの繰り返しセクションからなる。好ましくは、それぞれのレンズまたは繰り返しの屈折率の変化の効果は球形の、または円柱の部分の蓋の形状で実質的に決まり、また実質的に大きさが同一である。
【0043】
レンズアレイはさらに適切なレンズピッチを持ち、それは球形の、または円柱状のレンズにおいて、その直径とほぼ等しいか、又はほんの少し大きい。好ましくはレンズのピッチ(つまり直径)は約50?1000μm、更に好ましくは125?500μmである。」

オ 「【0056】
記録イメージはレンズアレイの後ろ(背面)に直接印刷されるか任意のプラスチックフィルム層の表面上に印刷される。
・・・(略)・・・
【0059】
任意に、記録イメージの背面はグラフィック(graphic)のみが反射内で見えるように金属化(be metallised)されている。任意に記録イメージの背面側の層の一つは同様の効果をもたらすように金属化されている。任意に金属層は反射及び透過においてもイメージが見えるように半透明となっている。」

カ 「【0090】
図8はこのデザインの変形例であり、エアギャップ(air gap)がプラスチックシート9よりも低い屈折率の塗料(coating)に変更している。これには、光を層9の中に閉じこめるという、エアギャップ(air gap)の時と同様の効果がある。低屈折率の塗料(coating)はまた粘着剤としても作用する。それから積層は、レンズアレイ4の片側表面に制御された薄さのガラスシート1、任意のプラスチックフィルム層7、任意の透明粘着層2、透明プラスチックシート層3から成っている。
【0091】
記録イメージ5は、レンズアレイ4、任意のプラスチックフィルム層7、低屈折率の塗料(coating)12、プラスチックシート層9、低屈折率の塗料(coating)11、ガラスシート10の反対側の層3の後ろ側に設けられている。記録イメージとレンズアレイの表面4は、記録イメージが正確に再現できるように一列に並べられている。」

キ 図8は次のものであり、該図8から、記録イメージ5の背面が任意のプラスチックフィルム層7で覆われていることがみてとれる。
【図8】

ク 上記アないしキから、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。
「マーク同定用に使用する認識可能な三次元イメーシを形成する少なくとも一つのレンズアレイと少なくとも一つの記録イメージからなる光学表示複合体であって、
前記レンズアレイは規則的に配列された複数の隣接レンズからなり、
前記記録イメージは多くの比較的小さい記録イメージからなる多重イメージであり、
前記レンズアレイは、高分子の熱可塑性又は熱硬化性樹脂材料で形成され、光学表示複合体の層を形成し、
前記記録イメージは、光学表示複合体の前記レンズアレイと異なるプラスチックフィルム層の表面上に印刷されて設けられ、
前記レンズアレイは高さと幅の割合が適切であれはどんな好適な形状のレンズからなってもよく、
例えば、レンズは、ピラミッド型、円錐形、円錐台、半球体、球面レンズとして知られている球形の他の部分の形状、円柱の半分の形または円柱形レンズとして知られている円柱の他の部分の形、コーン形状であり、
前記レンズアレイは、好ましくは約50?1000μmのピッチ(つまり直径)を有し、
前記レンズアレイと前記記録イメージは見る方向に実質的に平行から実質的に重なっており、
一つの例においては、前記記録イメージの背面はグラフィックのみが反射内で見えるように金属化されており、
他の例においては、前記記録イメージの背面は、任意のプラスチックフィルム層で覆われており、
前記レンズアレイを前記記録イメージに合わせて正確に配列することによりイメージが正しく再構築され、
セキュリティー、同定情報又は審美的効果に関する表示が求められる多くの分野で使用でき、
例えば、パッケージングの改ざん防止用ラベルとして、又は、自動車若しくは他の窓の安全マークとして用いることができる、
光学表示複合体。」(以下「引用発明」という。)

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-165289号公報(以下「引用例2」という。)には、「マイクロパターンを有する印刷物」(発明の名称)に関し、図とともに次ア及びイの事項が記載されている。

ア 「【0022】ところで、マイクロパターンを有する印刷物10は、マイクロパターン2の集合により本発明のようにベタ部分を構成する場合、従来技術のように線部分を構成する場合のいずれの場合でも、複写された印刷物のマイクロパターン2部分をルーペ等により拡大してその形状を調べれば、複製された印刷物であるか否かが判る仕組みとなっているが、このマイクロパターン2の形状を真似て偽造される可能性もある。そこで、真偽判定をさらに容易かつ確実するために、モアレ現象を利用して拡大点描画模様を得る装飾手段(特開2001-55000号公報参照)をマイクロパターンに対して用いることが考えられる。具体的には、少なくとも1つのマイクロパターン集合領域1において、マイクロパターン2が同一形状で一定の微細なピッチで規則正しく網目状に配列されている部分を有するようにするのである(図1参照)。この場合の真偽判定は、透明基板7の表面に上記網目状に配列されたマイクロパターン2と同配列状態に凸状集光素8を設けた透明シート(以下、レンズシートという)を用いて上記一定配列の凸状集光素8を印刷物の一定配列のマイクロパターンに対して交差角をずらせて配置する(図4参照)ことにより、マイクロパターン2の拡大された虚像11を現出させ(図5参照)、この虚像の発生で複製された印刷物であるか否かの判定を行なう。したがって、マイクロパターンの形状を真似るだけでは虚像を発生させることはできないため、偽造がより困難となる。」

イ 「【0026】
【実施例】1.3mm厚の白色カード基材4の外周に、黒色の『M』『I』『C』『R』『O』の文字からなるマイクロパターン2を各々6列12行づつ、列のピッチを順に18、22、18、22、18μmの間隔で配列して印刷した。このマイクロパターン2を有する印刷物は、図2に示すように『M』のマイクロパターン集合領域1が濃く、『I』のマイクロパターン集合領域1が極端に薄い5個の異なる四角いベタ部分で形成されているように見えてしまう。」

ウ 上記ア及びイから、引用例2には次の技術的事項(以下「引用例2に記載の技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。
「透明基板の表面に網目状に配列されたマイクロパターンと同配列状態に凸状集光素を設けたレンズシートにおいて、前記マイクロパターンが、列のピッチを順に18、22、18、22、18μmの間隔で配列して印刷されている、レンズシート。」

3 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「レンズ」、「レンズアレイ」、「比較的小さい記録イメージ」、「少なくとも一つのレンズアレイと少なくとも一つの記録イメージからなる光学表示複合体」及び「『高分子の熱可塑性又は熱硬化性樹脂材料で形成され』た『レンズアレイ』の『層』と『記録イメージ』が『表面上に印刷され』た『プラスチックフィルム層』」は、それぞれ、本願発明の「レンズ」、「二次元アレイ」、「マイクロ画像」、「レンズ/アイコン画像システム」及び「フィルム材料」に相当する。

(2)引用発明の「フィルム材料(高分子の熱可塑性又は熱硬化性樹脂材料で形成されたレンズアレイの層と記録イメージが表面上に印刷されたプラスチックフィルム層)」は、「二次元アレイ(レンズアレイ)」の「レンズ(レンズ)」が、例えば、ピラミッド型、円錐形、円錐台、半球体、球面レンズとして知られている球形の他の部分の形状又はコーン形状(すなわち、非円柱レンズ)であり、規則的に配列された複数の隣接レンズからなる「二次元アレイ(レンズアレイ)」を前記「マイクロ画像(記録イメージ)」に合わせて正確に配列することにより、イメージを正しく再構築するものである。ここで、正しく再構築されたイメージとは、マイクロレンズにより拡大されたイメージであることは明らかであるから、引用発明の「フィルム材料」と本願発明の「フィルム材料」とは、「非円柱レンズの規則正しい二次元アレイを利用してマイクロ画像を拡大」する点で一致する。

(3)引用発明の「レンズ/アイコン画像システム(少なくとも一つのレンズアレイと少なくとも一つの記録イメージからなる光学表示複合体)」において、レンズアレイは規則的に配列された複数の隣接レンズからなり、記録イメージは多くの比較的小さい記録イメージからなる多重イメージであり、前記レンズアレイと前記記録イメージは見る方向に実質的に平行から実質的に重なっており、前記レンズアレイを前記記録イメージに合わせて正確に配列することによりイメージが正しく再構築されるものである。ここで、レンズアレイを記録イメージに合わせて正確に配列することにより、複数の「マイクロ画像(比較的小さい記録イメージ)」が合成拡大されたイメージとして観察されることは明らかであるから、引用発明の「フィルム材料」と本願発明の「フィルム材料」とは、「複数の個別のレンズ/アイコン画像システムの統合された性能により合成拡大された画像を形成」する点で一致する。

(4)引用発明において、記録イメージの背面は、一つの例においては、グラフィックのみが反射内で見えるように金属化されており、また、他の例においては、任意のプラスチックフィルム層で覆われているから、引用発明の「フィルム材料」は、本願発明の「フィルム材料」と、「裏面コーティングが組み合わされ」た点で一致する。

(5)上記(1)ないし(4)から、本願発明と引用発明とは、
「非円柱レンズの規則正しい二次元アレイを利用してマイクロ画像を拡大し、複数の個別のレンズ/アイコン画像システムの統合された性能により合成拡大された画像を形成するフィルム材料であって、
前記フィルム材料は、裏面コーティングが組み合わされた、
、フィルム材料。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記「裏面コーティング」が、
本願発明では、「パターン化され」ているのに対して、
引用発明では、パターン化されているか否か不明である点。

相違点2:
前記「レンズ」の「直径」が、
本願発明では、「50ミクロン未満」であるのに対して、
引用発明では、好ましくは約50?1000μmである点。

4 判断
(1)相違点1について検討する。
ア 引用発明の一つの例において、「裏面コーティング」に相当する記録イメージの背面の金属化は、グラフィックのみが反射内で見えるようにするためになされるものであるから、グラフィックが存在する部分のみその背面を金属化すれば足りる、すなわち、背面の金属化する部分をグラフィックが存在する部分に合わせてパターニングすれば足りることは明らかである。
イ 引用発明の他の例において、「裏面コーティング」に相当する任意のプラスチックフィルム層は、記録イメージの背面のみに存在している。
ウ 本願の当初明細書等において、裏面コーティングのパターン化に関する記載としては、上記「第2〔理由〕2(1)イ(イ)g」に摘記した【0123】の記載及び上記「第2〔理由〕2(1)イ(イ)i」に摘記した【0150】の記載があるが、このうち、【0150】の記載を参酌しても、裏面コーティングをパターン化することにどのような技術上の意義があるのかは何ら明らかではない。また、【0123】には、密封層を直接的に金属化するか又は密封層を金属化された面へ積層することにより裏面コーティングすること(審決注:これは引用発明の一つの例と同様である。)、その際、金属化された領域にパターンを形成することが記載されているが、該パターンとマイクロ画像又はアイコンとの関係は不明であり、やはりパターン化の技術上の意義は明らかではない。
エ 上記アないしウからみて、引用発明でも、裏面コーティングが本願発明と同様にパターン化されており、従って相違点1は実質的な相違点ではないといえるか、そうとまではいえないとしても、引用発明において、裏面コーティングをパターン化することは、当業者が適宜なし得た程度のことであるといわざるを得ない。

(2)相違点2について検討する。
ア 引用発明において、レンズのピッチ(つまり直径)は、好ましくは約50?1000μmであるが、この範囲はあくまで好ましい範囲であって、この範囲内にあることが必須であるのではなく、逆に、レンズアレイは高さと幅の割合が適切であれはどんな好適な形状のレンズからなってもよいとされていることに照らせば、適切な場合には、レンズの直径を上記範囲外の大きさにすることも許容されていることは明らかである。
イ 引用例2に記載の技術的事項である「透明基板の表面に網目状に配列されたマイクロパターンと同配列状態に凸状集光素を設けたレンズシートにおいて、前記マイクロパターンが、列のピッチを順に18、22、18、22、18μmの間隔で配列して印刷されている、レンズシート。」からは、当該レンズシートの個々のレンズの直径が、列のピッチである18?22μmとほぼ等しいことが把握される。
ウ 上記ア及びイからみて、引用発明において、レンズの直径を50ミクロン未満、例えば、18?22μmとすることは、当業者が引用例2の記載に基づいて容易になし得たことであるといわざるを得ない。

(3)効果について
本願発明の奏する効果は、当業者が引用発明の奏する効果及び引用例2に記載の技術的事項の奏する効果から予測することができた程度のものである。

(4)まとめ
したがって、本願発明は、当業者が引用発明及び引用例2に記載の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。
本願発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2に記載の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

5 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2に記載の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-18 
結審通知日 2015-01-06 
審決日 2015-01-20 
出願番号 特願2011-26986(P2011-26986)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 信  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 西村 仁志
鉄 豊郎
発明の名称 マイクロ光学セキュリティ及び画像表示システム  
代理人 西元 勝一  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  

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