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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1301570
審判番号 不服2013-2031  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-04 
確定日 2015-06-03 
事件の表示 特願2006-529437「T細胞受容体V/D/J遺伝子内の反復配列によるクローン細胞の同定」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月25日国際公開、WO2004/101815、平成19年 6月14日国内公表、特表2007-515154〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年(2004年)5月13日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2003年5月13日 オーストラリア)とする出願であって、その請求項1、4、及び8に係る発明は、平成25年2月4日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1、4、及び8に記載された、以下のとおりのものである。

「【請求項1】再編成された免疫グロブリンまたはT細胞受容体可変領域遺伝子の解析方法であって、前記再編成された遺伝子はクローン細胞集団に特有であり、前記再編成された遺伝子のV、DまたはJ遺伝子断片を
(i)1以上の増幅反応であって、その各々は、1対のプライマーを利用し、上流プライマーおよび下流プライマーの1つまたはその両方は1つの個々のV、DまたはJ遺伝子断片に特異的である前記増幅反応;あるいは
(ii)1つの個々のV、DまたはJ遺伝子断片に特異的であるハイブリダイゼーションプローブ
を利用して同定するステップを含む前記方法。」
「【請求項4】前記クローン細胞集団が免疫細胞集団である、請求項1または2に記載の方法。」
「【請求項8】同定される前記遺伝子断片がVおよびJ遺伝子断片である、請求項4に記載の方法。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献7として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるLeukemia(1999)Vol.13,p.110-118(以下、「引用例」という。)には、
(i)「微小残存病変(MRD)の検出が急性白血病の予後に有用であることは、今や広く受け入れられている。しかしながら、臨床的なMRDの研究は、標準化された技術を必要する。それゆえ、複数の欧州の研究室が、MRD技術の最適化と標準化を成し遂げるために、彼らの目標を揃え、比較研究を行ってきた。これは、BIOMED-1協調活動 “急性白血病における微小残存病変の調査:国際的標準化と臨床的評価”によって完成された。この報告は、抗体やT細胞受容体遺伝子のクローン特異的な再編成接合領域及びTAL1欠損をPCRの標的とした、急性リンパ芽球性白血病(ALL)におけるMRDの検出のためのPCRプライマー及びプロトコルの開発について述べる。総計54のプライマーが開発され、それは、(1)TAL1欠損だけでなく、TCRD、TCRG、IGK(Kde)遺伝子の再編成を増幅するため、(2)接合領域及び区切り点(ブレイクポイント)融合領域の配列決定のため、及び(3)ALL患者の継続管理期間中の骨髄又は末梢血試料におけるMRDの検出を行うため、であった。適切な陽性及び陰性対照を用いて、患者当たり25のPCR反応を行うことによって診断時にPCR標的を同定するためのプロトコルが確立された。PCR標的の単一の増幅と、その後の患者特異的な接合領域に一致するプローブを用いるドットブロットハイブリダイゼーションによる、標準化されたプロトコルが、MRDのモニタリングのために開発された。加えて、少なくとも10^(-4)の標的感度が得られなかった場合には、代替法が設計された。MRD-PCR技術のここで述べる標準化は、MRD研究を臨床診療に移すためのプロセスとして必須である。」(第110頁左欄要旨全文:下線は当審で付与した。以下同様。)、
(ii)「急性リンパ芽球性白血病(ALL)におけるMRDを検出するためには、Ig遺伝子及びTCR遺伝子再編成の接合領域が適切なPCR標的である。なぜなら、それらは、再編成プロセス中のヌクレオチドの欠損及びランダム挿入のために特有の配列を含むからである。ALLは、単一の癌化されたリンパ系前駆細胞に由来するから、全ての親ALL細胞は、白血病特異的フィンガープリントとみなすことのできる特定の接合領域配列をもつ、同じIg遺伝子及びTCR遺伝子再編成を原理的には有している。」(第110頁右欄第22行?第30行)、
(iii)「Ig遺伝子及びTCR遺伝子の再編成はクローン特異的であるが、それらは癌の進行プロセスとは直接には結びつかない。診断時におけるIg及びTCR遺伝子再編成のオリゴクローナル状態は、比較的頻繁な現象である。そのうえ、疾患の過程を通した継続的な再編成及び二次的な再編成は、診断時に同定された当初の接合領域の消失をもたらすかもしれない。それゆえ、継続管理期間中の偽陰性の結果を避けるために、全ての患者を、2又はより多くの独立したPCR標的を用いてモニターすることが重要であると思われる。実質的に全てのALL患者をカバーするため、及び偽陰性の結果を避けるために、本研究ではPCRプライマーは複数の標的に対して設計された。すなわち、TCRデルタ(TCRD)とTCRガンマ(TCRG)遺伝子再編成、Igカッパー(IGK)欠損再編成、及び、いわゆるTAL1遺伝子欠損に対してである。」(第111頁左欄第7行?第21行)、
(iv)「PCRプライマーの設計
プライマーは多重的な方法で設計された。例えば上流プライマーは全ての下流プライマーに対して及び逆の場合も、ロバストPCRを生じるべきである。しかし、反応は、別々のチューブで行われた。 ・・・(途中省略)・・・
プライマーは、ALLにおけるTCRD及びTCRG遺伝子の再編成に高頻度で関与していることが知られている全てのV-, D-, 及びJ-遺伝子断片に対して開発された。」(第111頁右欄第11行?第26行)、と記載されている。

さらに、ALLにおけるTCRD、TCRG、IGK遺伝子の再編成を増幅するためのプライマー及びPCRについて、
(v)「診断時のPCR結果
MRD検出に利用できるPCR標的を同定するために、総計25のPCR反応が診断時に行われた。これら反応のためのプライマーの組合わせが、PCR産物の大凡のサイズとポジティブコントロールとともに、表2に示されている。AmpliTaq Goldポリメラーゼが用いられたときは、全てのプライマーの組合せは、ロバストPCRとなった。」(第113頁右欄第18行?第24行)、
(vi)「プライマーは、継続管理試料中の同定されたIg/TCR遺伝子再編成とTAL1欠損の増幅に、高感度で成功した。424の試験されたPCR標的のうち、91%が10^(-4)以下の感度であった。すなわち、PCR標的の57%が10^(-4)、27%が10^(-5)、7%が10^(-6)(表4)であった。」(第115頁右欄第12行?第16行)、と記載されている。
そして、第115頁の「診断時のPCR標的の同定のためのプライマーの組合せ及びポジティブコントロール」という表題の表2には、25対のプライマーが記載され、そのうち、ALLにおけるTCRD遺伝子の再編成を増幅するためのプライマー対としては、6対のプライマーが記載され、そのうちの3対は、
「遺伝子 順方向プライマー 逆方向プライマー PCR産物のbpサイズ
TCRD Vδ1-5' Jδ1-3' 452
Vδ2-5' Jδ1-3' 443
Vδ3-5' Jδ1-3' 440 」
であると示されている。
また、第112頁の、「図1 遺伝子再編成、及び診断と継続管理試料のPCR解析のために開発された(外側の)プライマーの概略図」との脚注のある図1中の、「完全TCRD遺伝子再編成、T-ALLにおけるMRD検出に適したPCR標的を表す」との説明がある図1(a)には、再編成されたTCRD遺伝子の5′端から3′端がバーで示され、そのうちの黒塗りの部分は、5′側からVδ領域-接合領域-Jδであることが示され、Vδ領域の下方には、Vδ-5′プライマーとして、Vδ1-5'、Vδ2-5'、Vδ3-5'の3本が記載され、Jδ領域の下方にはJδ-3′プライマーとしてJδ1-3'が記載されており、これらは上記表2に記載された3対のプライマー対であり、それらの配列と位置が図1(a)に示されている。

上記表2に示された、TCRD遺伝子の再編成を増幅するための3対のプライマーは、ALLにおけるTCRD遺伝子の再編成を増幅するためのものであり、これら領域が「T細胞受容体遺伝子のクローン特異的な再編成接合領域」を含むことは、上記引用例記載事項(i)に記載されており、上記引用例記載事項(iii)にも記載のように、上記ALLにおけるTCRD遺伝子の再編成された遺伝子は、クローン細胞集団に特有なものである。また、上記3対のプライマーはどれも、順方向プライマーがV遺伝子断片に特異的であり、逆方向プライマーがJ遺伝子断片に特異的であり、増幅されたPCR産物はV及びJ遺伝子断片である。

そうすると、引用例には、以下の発明が記載されていると認められる。
「再編成されたTCRD遺伝子の遺伝子再編成を同定するための方法であって、前記再編成された遺伝子はクローン細胞集団に特有であり、前記再編成された遺伝子のVおよびJ遺伝子断片を、3つの増幅反応であって、その各々は、1対のプライマーを利用し、順方向プライマー及び逆方向プライマーの両方は1つの個々のV遺伝子断片及びJ遺伝子断片に特異的である前記増幅反応を利用して同定するステップを含む前記方法。」(以下、「引用発明」という。)

3.対比・判断
本願発明は、引用する請求項1及び4の記載を読み込むと、
「再編成された免疫グロブリンまたはT細胞受容体可変領域遺伝子の解析方法であって、前記再編成された遺伝子は免疫細胞集団であるクローン細胞集団に特有であり、前記再編成された遺伝子のV、D、またはJ遺伝子断片を
(i)1以上の増幅反応であって、その各々は、1対のプライマーを利用し、上流プライマーおよび下流プライマーの1つまたはその両方は1つの個々のV、DまたはJ遺伝子断片に特異的である前記増幅反応;あるいは
(ii)1つの個々のV、DまたはJ遺伝子断片に特異的であるハイブリダイゼーションプローブ
を利用して同定するステップを含み、同定される遺伝子断片がVおよびJ遺伝子断片である、前記方法。」に係るものである。

本願発明のうち、択一的に記載されている、「免疫グロブリンまたはT細胞受容体」のうち、T細胞受容体を選択し、発明特定事項(i)と(ii)のうち、(i)を選択した態様の本願発明は、
「再編成されたT細胞受容体可変領域遺伝子の解析方法であって、前記再編成された遺伝子は免疫細胞集団であるクローン細胞集団に特有であり、前記再編成された遺伝子のV、D、またはJ遺伝子断片を、1以上の増幅反応であって、その各々は、1対のプライマーを利用し、上流プライマーおよび下流プライマーの1つまたはその両方は1つの個々のV、DまたはJ遺伝子断片に特異的である前記増幅反応を利用して同定するステップを含み、同定される遺伝子断片がVおよびJ遺伝子断片である、前記方法。」であり、以下、この態様の本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「TCRD」は、本願発明の「T細胞受容体」であり、引用発明の「V遺伝子断片及びJ遺伝子断片」は本願発明の「可変領域遺伝子」に相当し、さらに、引用発明の「順方向プライマー及び逆方向プライマー」は、本願発明の「上流プライマーおよび下流プライマー」に相当する。また、引用発明の「再編成されたTCRD遺伝子の遺伝子再編成を同定するための方法」とは、増幅反応による増幅産物を解析して遺伝子再編成を同定する方法であるから、本願発明の「再編成されたT細胞受容体可変領域遺伝子の解析方法」に他ならない。

そうすると、本願発明と引用発明とは、「再編成されたT細胞受容体可変領域遺伝子の解析方法であって、前記再編成された遺伝子は免疫細胞集団であるクローン細胞集団に特有であり、前記再編成された遺伝子の可変領域遺伝子断片を、1以上の増幅反応であって、その各々は、1対のプライマーを利用し、上流プライマーおよび下流プライマーの1つまたはその両方は1つの個々のVまたはJ遺伝子断片に特異的である前記増幅反応を利用して同定するステップを含み、同定される遺伝子断片がVおよびJ遺伝子断片である、前記方法」である点で一致する。
一方、両者は、可変領域遺伝子断片が、本願発明では、「V、D、またはJ遺伝子断片」であるのに対して、引用発明では、「VおよびJ遺伝子断片」である点で、一応相違する。

しかしながら、本願発明も引用発明と同じく、「同定される遺伝子断片がVおよびJ遺伝子断片である」から、プライマー対により増幅される可変領域遺伝子断片は、本願発明においても、VおよびJ遺伝子断片であることは明らかであり、上記相違点は実質的な相違ではなく、本願発明は引用発明と同一である。
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

4.審判請求人の主張
審判請求人は、平成26年11月13日付回答書中で、
「引用文献7は、免疫グロブリン及びT細胞受容体遺伝子再編成の分析に基づく、急性リンパ性白血病における微小残存病変を検出する標準化された手段の開発に関します。しかしながら、この方法は、対象とする特定のV、D又はJ遺伝子断片の同定に関しません。むしろ、引用文献7は、V、D又はJ遺伝子断片が結びつく点である接合部を分析しています。一度、これらの領域が増幅されると、接合部が配列決定され、それにより、その接合部の性質に関する情報が得られます。個々の遺伝子断片に関する情報が引用文献7の著者らにとって関心を示さないという事実は、この方法に使用されるプライマーが、個々の遺伝子断片自体というよりはむしろ遺伝子断片ファミリーに指向されるという事実に反映されています。したがって、共通プライマーと多重反応の使用の組合せを用いて、プライマーに対して内部である接合部を増幅し、単離します。個々の遺伝子断片に指向されるプライマーは、この方法のどの時点でも使用されていません。同様に、単離においてこれらのプライマーを使用していません。」と主張している。
しかしながら、上記2.の引用例記載事項(v)には、「MRD検出に利用できるPCR標的を特定するために、総計25のPCR反応が診断時に行われた。これら反応のためのプライマーの組合わせが、PCR産物の大凡のサイズとポジティブコントロールとともに、表2に示されている。」と記載され、表2には、25対のプライマーがPCR増幅産物のサイズとともに示されており、これらにより、個々の遺伝子断片を増幅しており、共通プライマーと多重反応の使用の組合せを用いるものではないから、審判請求人の上記主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項8に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-16 
結審通知日 2015-01-06 
審決日 2015-01-19 
出願番号 特願2006-529437(P2006-529437)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三原 健治高堀 栄二  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 ▲高▼ 美葉子
中島 庸子
発明の名称 T細胞受容体V/D/J遺伝子内の反復配列によるクローン細胞の同定  
代理人 石田 敬  
代理人 武居 良太郎  
代理人 福本 積  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 中島 勝  

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