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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S
管理番号 1301855
審判番号 不服2014-3294  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-21 
確定日 2015-06-10 
事件の表示 特願2010-134536「GNSS衛星軌道延長情報の利用方法及びGNSS衛星軌道延長情報の利用装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年3月10日出願公開,特開2011-47922〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件出願は,平成22年 6月11日(パリ条約による優先権 平成21年8月25日 アメリカ合衆国)の出願であって,その後の手続の経緯は,以下のとおりである。
平成24年 8月30日:拒絶理由通知(同年9月4日発送)
平成24年12月28日:意見書
平成25年10月18日:拒絶査定(同年同月24日送達)
平成26年 2月21日:審判請求

2 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの,以下のものである(以下「本願発明」という。)。
「 モバイル装置に用いられる衛星軌道延長情報の利用方法であって,
一つの衛星の少なくとも一つの衛星航法メッセージを取得するステップと,
取得された前記衛星航法メッセージに基づいて計算条件を確定するステップと,
前記計算条件に基づいて衛星軌道予測モデルの複数のパラメータを概算して,概算された衛星軌道予測モデルを確立するステップと,
前記概算された衛星軌道予測モデルによって,一組の衛星軌道延長情報を計算するステップと,
前記一組の衛星軌道延長情報に基づいて取得補助情報を計算するステップと,
前記取得補助情報によって,前記衛星の信号を取得するステップとを含むことを特徴とする衛星軌道延長情報の利用方法。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,この出願の請求項1に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の引用例に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用例1:特開2008-191158号公報
引用例2:米国特許第5909381号明細書
引用例3:特表2004-529032号公報

4 引用例1の記載及び引用発明
(1) 引用例1の記載
引用例1には,以下の事項が記載されている。なお,下線は当審が付したものである。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
GNSS受信機における衛星エフェメリスデータの使用方法であって,
合成エフェメリスデータセットを取得する工程と,
この合成エフェメリスデータセットをその他のデータと組み合わせて使用して,GNSS受信機の位置を計算する工程と,
この合成エフェメリスデータセットの取得後の一定の時点において,放送エフェメリスデータから取得した情報を使用して,この合成エフェメリスデータセットを更新する工程と,
を有する方法。
【請求項2】
当該の合成エフェメリスデータセットを更新する工程が,クロック補正パラメータの改善値を提供する工程を有する請求項1に記載の方法。」

イ 「【背景技術】
【0002】
全地球的航法衛星システム(GNSS)は,現在広く商業的に使用されている。そのようなシステムには,全地球的測位システム(GPS),ガリレオ,コンパス,GLONASS,DORIS及びIRNSSが含まれるか,或いは含まれると見込まれる。
【0003】
GNSS受信機は,システム内の衛星の現在及び将来の位置及び/又は速度に関するデータを保存することによって動作する。そのようなデータは,多くの場合衛星エフェメリスデータと呼ばれている。衛星エフェメリスデータは,GNS衛星自体によって(「放送エフェメリス」),或いは無線ネットワークやインターネットなどのその他の通信リンクを介して,受信機に伝送される。将来の時間に関するエフェメリスデータは,精度が時間の経過と共に劣化する予測値である。そのため,新しいエフェメリスデータによりGNSS受信機を周期的に更新する必要が有る。
【0004】
GNSS受信機がGNSS衛星又はその他の通信システムからエフェメリスデータを受信するのが難しい場合が有る。それは,例えば,GNSS受信機が無線ネットワークにアクセスできず,ビルやその他の障害物によって衛星からの受信を遮断されている場合に起こる。そのような状況では,エフェメリスデータの劣化を遅らせて,データを更新する間の,受信機がデータを使用することが可能な期間を長くすることが有効である。
【0005】
従って,現在GNSS業界において,エフェメリスを延長する技術に対するニーズが存在する。その考えられる利点は,位置を計算する前に放送エフェメリスを待つ必要が無いことである。最良の条件での放送エフェメリスの受信時間は,信号強度が高い場合で30秒であり,そのような時間は,室内環境での最悪の条件では決して起こり得ない。
【0006】
従来技術では,現在精度が3?7日の間十分有効なエフェメリスを予測することが可能である。予測値が使用可能である限界を向上させてエンドユーザーが容易に使えるようにするとともに,予測サーバーへのアクセス回数を低減させるというインセンティブが存在する。
【0007】
一つの難しさは,エフェメリスを延長した時の精度が予測寿命の増大と共に劣化することである。予測は,一般的に衛星位置の予測とクロックの予測の二つの要素から構成される。
【0008】
衛星位置の予測誤差は,通常衛星軌道に対応するローカル基準座標系に関する半径誤差,トラックに沿っての(ダウントラック)誤差及びクロストラック誤差の誤差に関する三つのサブカテゴリーに便宜上分けられる。これらの誤差の各々は,予測寿命に対して異なる挙動を示すとともに,ユーザーの位置に対して異なる影響を与える。
【0009】
力学モデルによる予測アルゴリズムに関して,誤差の挙動は,典型的には,(1)トラックに沿っての/ダウントラック誤差は,予測寿命に対して二乗法則により増大する,(2)半径誤差は,予測寿命に対して線形的に増大する,(3)クロストラック誤差は,予測寿命に対して線形的に増大する,(4)クロック誤差は,予測寿命の二乗に従って増大するというものである。
【0010】
従って,誤差の主要な原因は,予測期間が7日に到達した直後にはクロック誤差となる。力学モデルは非常に優れており,(複雑ではあるが)周知の物理モデルに準拠しているので,衛星位置の誤差は,大きな問題とはならない。衛星位置の誤差は,或る程度までは力学モデルの複雑さを増すことによって,より長い予測期間に渡って綿密に制御することが可能である。
【0011】
それに対して,クロック誤差は,オフセット及びドリフトの一般的な傾向によるモデルに合わない,上手くモデル化することができない真にランダムな現象に近いので,クロックモデルは,非常に未発達である。特に,ランダムウォーク効果及びフリッカー効果は,予測することができない。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0013】
ここに開示する実施形態によって,衛星クロックの補正値と衛星位置の誤差を組み合わせた,より新しいデータにもとづき,エフェメリスの予測値を補正することが可能となる。本発明の好ましい実施形態によって,衛星位置の予測値が正確であると仮定して,全ての誤差がクロックを原因とする場合における位置の更新が可能となる。
【0014】
軌道要素は,それら自身の間では調和しているが,異なる曲線近似に対しては調和しないので,本発明の追加実施形態は,実現するのがより難しい位置データの更新について記載している。その難しさの一つは,ここに参照して組み込む特許文献1に開示されているような様々な要素タイプ予測ファイルの単一の軌道要素(OE)を放送エフェメリスの等価なOEによって置き換えることができないことであり,その理由は,これらの軌道要素が,同じ曲線近似操作に由来するものではなく,そのため互換性が無いためである。実現可能な唯一の位置更新方法は,衛星位置に逆変換して,曲線近似をやり直し,クライアント(GNSS受信機)コードに再圧縮することである。クライアントコードは,通常サイズと演算能力を制限されており,曲線近似を行って,古い予測値と新しい予測値を混合させるのに十分精巧に作ることができるようになっていない。」

エ 「【0015】
この明細書では,GNSS衛星から受信するエフェメリスデータを「放送」エフェメリスデータと呼び,GNSS衛星からナビゲーションメッセージの一部として放送されない予測するエフェメリスデータを「合成」エフェメリスデータ又は予測データと呼ぶこととする。「延長した」という用語は,精度が有効な期間を延長した合成エフェメリスデータを参照するためにも使用する。」

オ 「【0016】
本発明による更新方法の実施形態は,次に記載した通り,四つの工程で完了する。
【0017】
(1)補正すべき衛星の情報収集
(2)予測値の検証と更新が必要か否かの決定
(3)(場合によっては別の衛星の情報を用いた)クロック補正値と場合によってはクロックのドリフトの推定
(4)更新したクロック補正値と延長した予測情報の組合せ
【0018】
工程1
補正形式に応じて,収集する情報は,放送エフェメリス,一つ以上の擬似距離測定値,遅延距離測定値又はそれらの組合せとすることができる。
【0019】
補正すべき衛星の捕捉を速めるためには,エフェメリスに対して従来の手法で行っていたことと同様に,先験的な情報として,前に計算した予測値を使用することができること以外に,衛星に関する測定値を取得する特別な方法は無い。予測の寿命とそのため精度に応じて,コードオフセット/ドップラー検索ドメインを拡大しなければならない。
【0020】
工程2
合成による予測の合間の或る時点において,合成による予測対象の全ての衛星又は一部の衛星に関して,放送エフェメリスが使用可能となった場合,位置及びクロック予測値を検証することが可能である。一つの再検証方法は,放送エフェメリスと合成エフェメリス間におけるクロック及び位置の偏差の統計的な分析を行って,それらの偏差が所定の許容範囲を満たすか否かを確かめることである。この統計的な分析には,仮説試験,正常性試験,分布近似などの技術が含まれるが,それらに限定されるものではない。これらの分析の中の一つ以上の結果がエフェメリスを更新する必要が有ることを示した場合,この明細書の次の工程で概略を述べる手法を実行することができる。
【0021】
工程3
工程3は,ここで手法A?Cと称する幾つかの異なる手法を用いて実行することができる。
【0022】
手法A
衛星Nに関する一つの放送エフェメリスデータセットを衛星Nに関する一つの合成エフェメリスデータセットと組み合わせて,衛星Nに関する一つの更新した延長データセットを生成する。ここで衛星Nとは,特定のGNSシステムの衛星配置における任意の衛星を表す。
【0023】
ICD200内で定義されるtoc,af0及びaf1の項は,放送エフェメリスデータから「取り出されて」,工程3の「現在」の項として使用される。
【0024】
補正すべき衛星が放送エフェメリスデータ全体を伝送エラー無しで取得するのに十分に良く見えれば,位置の計算に十分な衛星が見えなくても,この手法を使用することができる。」

カ 「【0045】
工程4
補正情報は,幾つかの手法でクライアント(受信機)側に保存することができる。」

キ 「【0046】
オプション1
合成エフェメリスファイルの構成を修正するために,新たに収集した情報を使用する。それは,NVRAMコードを最小化するとともに,クライアントコードが,この圧縮動作を同時に行うのに十分精巧に構成されていることを意味する。
【0047】
オプション2
別の手法は,(合成エフェメリスファイルの保存エリアの他に)NVRAMの一つのセクションを予約して置いて,そこに合成エフェメリスファイル内に有る幾つかのデータの「補正値」又は置換値を保存することである。合成エフェメリスファイルの圧縮解除時に,合成エフェメリス近似値の先頭に追加情報を加える。それは,既に合成エフェメリスファイル内に有る情報の先頭に加えられる補正テーブル又は追加的な近似値の形式を取ることができる。この第二の手法は,好ましいものである。」

ク 「【0053】
システム動作
ここで,この明細書に記載した手法を採用したシステムの動作工程を例示により説明する。
【0054】
(1)合成エフェメリスのダウンロード。ユーザーは,(ドッキング時にインターネットを介した,或いは無線接続による)ダウンロード時に最も新しい合成エフェメリスファイルをサーバーからダウンロードする。
【0055】
(2)合成エフェメリスファイルの使用。合成エフェメリスファイルの有効期間の間,測位を試みる。
【0056】
(3)放送エフェメリスのダウンロード。受信状態は,測位時に最新の幾つかの放送エフェメリスデータセットを収集するのに十分である。場合によっては,最初の30秒間は合成エフェメリスデータだけを用いて,次に(放送データが使用可能でない場合の測定値のための)合成エフェメリス予測データと(使用可能な場合には,常に優先順位が合成エフェメリスよりも高い)放送データとを混合したものを用いて,測位点を計算する。
【0057】
(4)合成エフェメリスの更新フェーズ。本発明の実施形態にもとづき,測位セッションの間又はその直後に,クライアントは,放送データからの追加情報を使用して,合成エフェメリスファイル情報を更新する。
【0058】
(5)合成エフェメリス更新データの使用。次の測位セッションでは,合成エフェメリスデータは,「更新」されており,合成エフェメリスの品質(即ち,精度)は,測位点だけ及び測位点の混合によって改善されていることとなる。」

ケ 「【0059】
合成エフェメリス予測ファイルを生成するための計算プラットフォームとして動作する,或いはそのプラットフォームと通信するサーバーを用いたシステムを実現することができる。それらのファイルは,従来技術で周知の衛星追跡システムからの情報をベースとすることができる。予測ファイルは,無線及び陸線ベースのインターネットチャネルを含む様々な通信リンクによって,ユーザーのGNSS受信機に放送することができる。ユーザーのGNSS受信機は,ここで開示したアルゴリズムを実行することが可能なハードワイヤードロジック又はプログラミング可能な回路を備えた処理装置の組合せ又は単一の処理装置とすることができる。」

(2) 引用発明
これら記載事項からみて,引用例1には,「実現するのがより難しい」(段落【0014】)としつつも,追加実施形態(オプション)として,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。また,引用発明の認定に際して参考にした引用例の記載箇所を段落番号で付記する。)。
「 【0054】ダウンロード時に最も新しい合成エフェメリスファイルをサーバーからダウンロードする動作工程,
【0055】合成エフェメリスファイルの有効期間の間,測位を試みる動作工程,
【0056】受信状態は,測位時に最新の幾つかの放送エフェメリスデータセットを収集するのに十分であり,場合によっては,最初の30秒間は合成エフェメリスデータだけを用いて,次に(放送データが使用可能でない場合の測定値のための)合成エフェメリス予測データと(使用可能な場合には,常に優先順位が合成エフェメリスよりも高い)放送データとを混合したものを用いて,測位点を計算する動作工程,
【0057】測位セッションの間又はその直後に,放送データからの追加情報を使用して,合成エフェメリスファイル情報を更新する動作工程,
【0058】次の測位セッションでは,合成エフェメリスデータは,「更新」されており,合成エフェメリスの品質(即ち,精度)は,測位点だけ及び測位点の混合によって改善されていることとなる動作工程からなる,
【0053】システム動作において,
【0014】追加実施形態は,実現するのがより難しい位置データの更新について,【0046】合成エフェメリスファイルの構成を修正するために,新たに収集した情報を使用し,それは,NVRAMコードを最小化するとともに,クライアントコードが,この圧縮動作を同時に行うのに十分精巧に構成されていることを意味する方法。」

5 対比及び判断
(1) 対比
ア 衛星航法メッセージを取得するステップ
引用発明は,「受信状態は,測位時に最新の幾つかの放送エフェメリスデータセットを収集するのに十分であり,場合によっては,最初の30秒間は合成エフェメリスデータだけを用いて,次に(放送データが使用可能でない場合の測定値のための)合成エフェメリス予測データと(使用可能な場合には,常に優先順位が合成エフェメリスよりも高い)放送データとを混合したものを用いて,測位点を計算する動作工程」を具備するところ,引用発明の「放送エフェメリスデータセット」は,本願発明の「衛星航法メッセージ」に相当するから,引用発明の「測位点を計算する動作工程」(のうち受信により放送エフェメリスデータセットを収集する工程)は,本願発明の「一つの衛星の少なくとも一つの衛星航法メッセージを取得するステップ」に相当する。

イ 衛星の信号を取得するステップ
引用発明は,「次の測位セッションでは,合成エフェメリスデータは,「更新」されており,合成エフェメリスの品質(即ち,精度)は,測位点だけ及び測位点の混合によって改善されていることとなる動作工程」を具備するから,引用発明の「次の測位セッション」と本願発明の「前記取得補助情報によって,前記衛星の信号を取得するステップ」は,「前記衛星の信号を取得するステップ」の点で共通する。

ウ 衛星軌道情報の利用方法
引用発明について,引用例1の段落【0004】には,「GNSS受信機がGNSS衛星又はその他の通信システムからエフェメリスデータを受信するのが難しい場合が有る。それは,例えば,GNSS受信機が無線ネットワークにアクセスできず,ビルやその他の障害物によって衛星からの受信を遮断されている場合に起こる。そのような状況では,エフェメリスデータの劣化を遅らせて,データを更新する間の,受信機がデータを使用することが可能な期間を長くすることが有効である。」と記載されているから,引用発明が前提とするGNSS受信機はモバイル装置である(モバイル装置であるから,「ビルやその他の障害物によって衛星からの受信を遮断されている場合」がある。)。また,引用例1の段落【0015】には,「この明細書では,GNSS衛星から受信するエフェメリスデータを「放送」エフェメリスデータと呼び,GNSS衛星からナビゲーションメッセージの一部として放送されない予測するエフェメリスデータを「合成」エフェメリスデータ又は予測データと呼ぶこととする。「延長した」という用語は,精度が有効な期間を延長した合成エフェメリスデータを参照するためにも使用する。」と記載されているから,引用発明は,合成エフェメリスファイルの更新により合成エフェメリスデータの精度が有効な期間を延長することを目的とする方法である。
そうしてみると,引用発明の(更新後の)「合成エフェメリスファイル情報」は,本願発明の「衛星軌道延長情報」に相当し,また,引用発明は,「モバイル装置に用いられる衛星軌道延長情報の利用方法」といえる。

(2) 一致点及び相違点
したがって,本願発明と引用発明の一致点及び(一応の)相違点は,以下のとおりである。
ア 一致点
「 モバイル装置に用いられる衛星軌道延長情報の利用方法であって,
一つの衛星の少なくとも一つの衛星航法メッセージを取得するステップと,
前記衛星の信号を取得するステップとを含むことを特徴とする衛星軌道延長情報の利用方法。」

イ 相違点
(相違点1)
本願発明は「取得された前記衛星航法メッセージに基づいて計算条件を確定するステップと,前記計算条件に基づいて衛星軌道予測モデルの複数のパラメータを概算して,概算された衛星軌道予測モデルを確立するステップと,前記概算された衛星軌道予測モデルによって,一組の衛星軌道延長情報を計算するステップと,前記一組の衛星軌道延長情報に基づいて取得補助情報を計算するステップ」を具備するのに対し,引用発明は,一応,これが明らかではない点。

(相違点2)
本願発明の「前記衛星の信号を取得するステップ」は,「前記取得補助情報によって」前記衛星の信号を取得するステップであるのに対し,引用発明は,一応,これが明らかではない点。

(3) 判断
(相違点1及び2について)
引用発明の追加実施形態に関して,引用例1の段落【0014】には,「実現可能な唯一の位置更新方法は,衛星位置に逆変換して,曲線近似をやり直し,クライアント(GNSS受信機)コードに再圧縮することである。」と記載されている。
そうしてみると,引用発明の位置データの更新において,例えば,引用例2(特に,Fig.2及び3欄50行ないし5欄57行を参照。),引用例3(特に,図2及び4,並びに,段落【0012】ないし【0028】を参照。),特表2008-513738号公報(以下「周知例1」という。特に,段落【0018】ないし【0041】を参照。),国際公開第2009-059429号(以下「周知例2」という。特に,図6及び12頁17行ないし13頁末行を参照。)に記載されているような衛星軌道を予測するモデルを採用して曲線近似をやり直し,再圧縮して更新された合成エフェメリスデータを得るように引用発明を具体化することは,当業者が容易にできたことである。すなわち,例えば,引用例3に記載の,(A)衛星測定値を収集し(ステップ202),測定値を用いて衛星軌道と時計のオフセットを計算し(ステップ204),衛星軌道や時計オフセット値を伝播して将来のものとし(ステップ206),長期間有効な衛星追跡データを作成(ステップ208)することによって,「取得された前記衛星航法メッセージに基づいて計算条件を確定」し,(B)最小2乗法を利用して,衛星追跡データ(のうち軌道データ)に合致するように軌道モデルパラメータを調整してモデル軌道データを作成(図4)することによって,「前記計算条件に基づいて衛星軌道予測モデルの複数のパラメータを概算して,概算された衛星軌道予測モデルを確立」し,(C)曲線近似の結果をクライアントコードに再圧縮して更新された合成エフェメリスデータを得ることによって,「前記概算された衛星軌道予測モデルによって,一組の衛星軌道延長情報を計算する」ことは,引用発明を具体化するに際し,当業者が容易できたことである。
また,GPS衛星の信号を取得するに際し,衛星補足情報を計算することは当然のことである(必要ならば,周知例1の段落【0029】,特開2008-136054号公報(以下「周知例3」という。)の段落【0006】,特開2003-43127号公報(以下「周知例4」という。)の段落【0037】ないし【0041】を参照。)から,「前記一組の衛星軌道延長情報に基づいて取得補助情報を計算するステップ」及び「前記取得補助情報によって,前記衛星の信号を取得するステップ」は,引用発明が具備する(引用例1に記載されているに等しい)構成であり,少なくとも,引用発明の測位セッションにおいて,当業者が容易に採用する構成である。

また,本願発明が奏する効果は,引用発明から予測可能な効果であり,少なくとも,顕著なものとはいえない。

(4) 請求人の主張について
請求人は,意見書において,概略,(1)引用例1は,クロック誤差を校正することを課題としている,(2)本願発明は,オープンスカイサーチを実行しなくとも取得補助情報を計算することができ,モバイル装置に対する計算能力の要求を下げることができる,と主張している。
しかしながら,引用例1には,「実現するのがより難しい」としつつも,位置データの更新の追加実施形態が開示されている。また,引用発明は,「場合によっては,最初の30秒間は合成エフェメリスデータだけを用いて,次に(放送データが使用可能でない場合の測定値のための)合成エフェメリス予測データと(使用可能な場合には,常に優先順位が合成エフェメリスよりも高い)放送データとを混合したものを用いて,測位点を計算する動作工程」を具備するから,引用発明は,オープンスカイサーチを実行しなくとも取得補助情報を計算できる。

請求人は,審判請求書において,概略,(1)補充資料が装置本体が計算して得られたものである,(2)補充資料がそのまま衛星軌道延長情報になると主張している。
しかしながら,請求人が主張するような事項は特許請求の範囲には記載されていない。また,本件出願の明細書の発明の詳細な説明の段落【0015】及び【0016】には,モバイル装置が起動データベースサーバ50等からデータを取得して衛星軌道の延長部分を予測する態様が開示されるとともに,段落【0034】には,衛星軌道予測モデルを確立し,衛星軌道予測モデルによって衛星軌道延長情報を計算し,さらに等価であるデータ群を得る態様が開示されているから,請求人の主張は発明の詳細な説明の記載とも整合しない。

6 まとめ
本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,他の請求項に係る発明ついて審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-09 
結審通知日 2015-01-13 
審決日 2015-01-26 
出願番号 特願2010-134536(P2010-134536)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山下 雅人  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 新川 圭二
樋口 信宏
発明の名称 GNSS衛星軌道延長情報の利用方法及びGNSS衛星軌道延長情報の利用装置  
代理人 伊藤 寛之  
代理人 SK特許業務法人  
代理人 奥野 彰彦  

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