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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A01H
管理番号 1301976
審判番号 不服2013-12521  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-02 
確定日 2015-06-12 
事件の表示 特願2009-500612「多価不飽和脂肪酸を含む植物種子油」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月20日国際公開、WO2007/106904、平成21年 8月27日国内公表、特表2009-529891〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年3月15日(パリ条約による優先権主張 平成18年3月15日(2006.3.15) 米国(US),平成18年3月21日(2006.3.21) 米国(US))を国際出願日とする出願であって,平成25年2月27日付けで拒絶査定がなされ,これに対して同年7月2日に拒絶査定不服審判が請求され,同日付で手続補正がなされたものである。

第2 平成25年7月2日付け手続補正についての補正却下の決定
[結論]
平成25年7月2日付け手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正事項
本件補正は,補正前に
「【請求項1】
植物または植物の部分における総脂肪酸プロフィールが,少なくとも20個の炭素および4つまたはそれ以上の炭素-炭素二重結合を有する少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸(PUFA)を少なくとも約0.5重量%含み,植物または植物の部分における総脂肪酸プロフィールが,以下:γ-リノレン酸(GLA;18:3,n-6),18個の炭素および4つの炭素-炭素二重結合を有するPUFA,20個の炭素および3つの炭素-炭素二重結合を有するPUFA,ならびに22個の炭素および2つまたは3つの炭素-炭素二重結合を有するPUFA
のすべてのPUFAを合計で5%未満含む,植物または植物の部分。」
とあったのを,
「【請求項1】
植物の種子における総脂肪酸プロフィールが,少なくとも20個の炭素および4つまたはそれ以上の炭素-炭素二重結合を有する少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸(PUFA)を少なくとも約0.5重量%含み,植物の種子における総脂肪酸プロフィールが,以下:γ-リノレン酸(GLA;18:3,n-6),18個の炭素および4つの炭素-炭素二重結合を有するPUFA,20個の炭素および3つの炭素-炭素二重結合を有するPUFA,ならびに22個の炭素および2つまたは3つの炭素-炭素二重結合を有するPUFA
のすべてのPUFAを合計で5%未満含む,植物の種子から得られた油。」(下線は,補正箇所を示す。)
と補正する事項を含むものである。

補正前の「植物の部分」を「植物の種子」と限定することは,補正前の特定事項を限定するものであることは明らかである。また,補正前の「植物の部分」を「植物の種子から得られた油」と限定することは,油が種子に含まれていることを勘案すると広い意味では植物の部分であるから補正前の特定事項を限定するものといえる。
そして,前記補正事項は,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 独立特許要件について
(1)引用刊行物記載の事項
現査定の拒絶理由で引用され,本願優先日前に頒布された刊行物である米国特許出願公開第2005/0100995号明細書(以下,「刊行物1」という。)には,次の事項が記載されている。
なお,翻訳は当審によるものであり,下線は当審にて付記したものである。
(刊1-1)「79.細菌性PUFA PKS系が反復および非反復の両酵素反応を触媒し,細菌性PUFA PKS系が少なくとも約25℃の温度でPUFAを産生し,かつ細菌性PUFA PKS系が,
a) 少なくとも1つのエノイルACP-レダクターゼ(ER)ドメイン;
b) 少なくとも6つのアシルキャリヤータンパク質(ACP)ドメイン;
c) 少なくとも2つのβ-ケト・アシル-ACPシンターゼ(KS)ドメイン;
d) 少なくとも1つのアシルトランスフェラーゼ(AT)ドメイン;
e) 少なくとも1つのケトレダクターゼ(KR)ドメイン;
f) 少なくとも2つのFabA様β-ヒドロキシ・アシル-ACPデヒドラーゼ(DH)ドメイン;
g) 少なくとも1つの鎖伸長因子(CLF)ドメイン;
h) 少なくとも1つのマロニル-CoA:ACPアシルトランスフェラーゼ(MAT)ドメイン; および
i) 少なくとも1つの4'-ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(PPTase)ドメインを含み,ならびに
遺伝的改変がPUFA PKS系の活性に影響を及ぼす,
細菌の多価不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系の少なくとも1つのタンパク質またはドメインを含む遺伝的に改変された生物。」(174頁 請求項79)

(刊1-2)「[0057] 本発明の別の態様は,細菌性PUFA PKS系が反復および非反復の両酵素反応を触媒し,細菌性PUFA PKS系が少なくとも約25℃の温度でPUFAを産生し,かつ細菌性PUFA PKS系が,(a) 少なくとも1つのエノイルACP-レダクターゼ(ER)ドメイン; (b) 少なくとも6つのアシルキャリヤータンパク質(ACP)ドメイン; (c) 少なくとも2つのβ-ケト・アシル-ACPシンターゼ(KS)ドメイン; (d) 少なくとも1つのアシルトランスフェラーゼ(AT)ドメイン; (e) 少なくとも1つのケトレダクターゼ(KR)ドメイン; (f) 少なくとも2つのFabA様β-ヒドロキシ・アシル-ACPデヒドラーゼ(DH)ドメイン; (g) 少なくとも1つの鎖伸長因子(CLF)ドメイン; (h) 少なくとも1つのマロニル-CoA:ACPアシルトランスフェラーゼ(MAT)ドメイン; および(i) 少なくとも1つの4'-ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(PPTase)ドメインを含む,細菌の多価不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系の少なくとも1つのタンパク質またはドメインを含む遺伝的に改変された生物に関する。遺伝的改変はPUFA PKS系の活性に影響を及ぼす。1つの局面では,生物は,細菌性PUFA PKS系の少なくとも1つのタンパク質またはドメインで組換えによって発現するよう改変されている。別の局面では,生物は,細菌性PUFA PKS系を組換えによって発現するよう改変されている。生物は植物または微生物を含むことができる。1つの局面では,細菌性PUFA PKS系は,シュワネラ・ジャポニカおよびシュワネラ・オレヤナからなる群より選択される海洋細菌由来のPUFA PKS系である。別の局面では,生物は,第二の異なるPKS系由来の少なくとも1つのさらなるタンパク質またはドメインを発現する。」

(刊1-3)「[0195] 本明細書で使用される,遺伝的に改変された植物は,高等植物,特に,任意の消費可能な植物または本発明の所望の生物活性分子を産生するための有用な植物を含む任意の遺伝的に改変された植物を含むことができる。本明細書で使用する「植物部分」は,種子,花粉,胚,花,果物,芽,葉,根,茎,外植体などを含むがそれに限定されず,植物のどんなも部分を含む。・・・」

(刊1-4)「[0044] もう1つの発明の態様としては,遺伝的に改変された植物又は植物の部分に関し,該植物は,多価不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系の少なくとも一つの生物学的に活性な蛋白質又はそのドメインからなるPKS系を組換え的に発現するように遺伝的な改変がなされており,該蛋白質又はドメインは,上記核酸分子のいずれかによりコードされている。1つの局面において,遺伝的に改変された植物又は植物の部分は,遺伝子組換えの結果として,次からなる群から選択される一つ又はそれ以上の多価不飽和脂肪酸を産生する:DHA (ドコサヘキサエン酸(C22 :6,ω - 3)),ARA (エイコサテトラエン酸 又はアラキドン酸(C20:4,n-6)), DPA(ドコサペンタエン酸(C22:5,ω-6又はω-3)),及び/又はEPA(エイコサペンタエン酸(C20:5,ω-3)。特に望ましい態様では,植物及び植物の部分が DHA ,EPA,EPA及びDHA ,ARA及びDHA ,又は,ARA 及びEPAを産生する。遺伝的に改変された植物は,作物,及びあらゆる双子葉植物又は単子葉植物を含み得る。好ましい植物は,限定されるものではないが,キャノーラ,大豆,菜種,亜麻,トウモロコシ,ベニバナ,ヒマワリ及びタバコを含む。
[0045] 本発明の別の態様は遺伝的に改変された微生物であって,上記の単離核酸分子のいずれかを組換えによって発現するよう遺伝的に改変された微生物に関する。1つの局面では,微生物は遺伝的改変の結果として,DHA (ドコサヘキサエン酸(C22:6,ω-3)),ARA (エイコサテトラエン酸もしくはアラキドン酸(C20:4,n-6)),DPA (ドコサペンタエン酸(C22:5,ω-6もしくはω-3)),および/またはEPA (エイコサペンタエン酸(C20:5,ω-3)からなる群より選択される多価不飽和脂肪酸を産生する。特に好ましい態様では,微生物は遺伝的改変の結果として,DHA,EPA,EPAおよびDHA,ARAおよびDHAまたはARAおよびEPAを産生する。1つの局面では,微生物はシゾキトリウムおよびスラウストキトリウムを含むが,これらに限定されない,スラウストキトリドである。1つの局面では,微生物は細菌である。」

(刊1-5)「発明の分野
[0003] 本発明は,細菌性微生物由来の多価不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系に関する。より詳細には,本発明は,PUFA PKS系をコードする核酸に関し,PUFA PKS系を含むそのタンパク質およびドメインに関し,このようなPUFA PKS系を含む遺伝的に改変された生物に関し,ならびに本明細書において開示されるPUFA PKS系を作出するおよび使用する方法に関する。本発明は同様に,PUFAポリケチドシンターゼ(PKS)系の操作によって種々の多価不飽和脂肪酸(PUFA)に富む脂質を効率的に産生するための遺伝的に改変された植物および微生物ならびに方法に関する。」

(刊1-6)「[0211] シゾキトリウムOrfAの完全なヌクレオチド配列は,本明細書においてSEQ ID NO:13として表されている。OrfAは8730ヌクレオチドの配列(終止コドンを含んでいない)であり,これは本明細書においてSEQ ID NO:14として表される2910アミノ酸の配列をコードする。OrfAの中には12個のドメインがある: (a) 1個のβ-ケトアシル-ACPシンターゼ(KS)ドメイン(SEQ ID NO:14の約1位から約500位により表される); (b) 1個のマロニル-CoA:ACPアシルトランスフェラーゼ(MAT)ドメイン(SEQ ID NO:14の約575位から約1000位により表される); (c) 9個のアシルキャリヤータンパク質(ACP)ドメイン(SEQ ID NO:14の約1095位から約2096位により表され; および9個のACPドメインの各々に対する活性部位セリン残基(すなわち,パンテテイン結合部位)の位置は,SEQ ID NO:14のアミノ酸配列に関して,次の通りである: ACP1 = S_(1157); ACP2 = S_(1266); ACP3 = S_(1377); ACP4 = S_(1488); ACP5 = S_(1604); ACP6 = S_(1715); ACP7 = S_(1819); ACP8 = S_(1930); およびACP9 = S_(2034)); ならびに(d) 1個のβ-ケトアシル-ACPレダクターゼ(KR)ドメイン(SEQ ID NO:14の約2200位から約2910位により表される)。
[0212] シゾキトリウムOrfBの完全なヌクレオチド配列は,本明細書においてSEQ ID NO:15として表されている。OrfBは6177ヌクレオチドの配列(終止コドンを含んでいない)であり,これは本明細書においてSEQ ID NO:16として表される2059アミノ酸の配列をコードする。OrfBの中には4個のドメインがある: (a) 1個のβ-ケトアシル-ACPシンターゼ(KS)ドメイン(SEQ ID NO:16の約1位から約450位により表される); (b) 1個の鎖伸長因子(CLF)ドメイン(SEQ ID NO:16の約460位から約900位により表される); (c) 1個のアシルトランスフェラーゼ(AT)ドメイン(SEQ ID NO:16の約901位から約1400位により表される); ならびに(d) 1個のエノイル-ACPレダクターゼ(ER)ドメイン(SEQ ID NO:16の約1550位から約2059位により表される)。
[0213] シゾキトリウムOrfCの完全なヌクレオチド配列は,本明細書においてSEQ ID NO:17として表されている。OrfCは4509ヌクレオチドの配列(終止コドンを含んでいない)であり,これは本明細書においてSEQ ID NO:18として表される1503アミノ酸の配列をコードする。OrfCの中には3個のドメインがある: (a) 2個のFabA様β-ヒドロキシアシル-ACPデヒドラーゼ(DH)ドメイン(SEQ ID NO:18の約1位から約450位により表される; およびSEQ ID NO:18の約451位から約950位により表される); ならびに(b) 1個のエノイル-ACPレダクターゼ(ER)ドメイン(SEQ ID NO:18の約1000位から約1502位により表される)。」

(刊1-7)「[0231] 本発明者らは,PPTaseが異種のPUFA PKS ACPドメインを活性化できることを以前に見出した。ビブリオ・マリナス由来のPUFA PKS遺伝子で形質転換された大腸菌でのDHAの産生は,適切なPPTase遺伝子(この場合には,シュワネラSCRC2738由来)が同様に存在した場合にだけ起こった(米国特許第6,140,486号,前記を参照のこと)。このことから,シュワネラPPTaseがビブリオPUFA PKS ACPドメインを活性化できることが実証された。さらに,本発明者らは,今回,枯草菌(Bacillus subtilus)由来のPPTase (sfp)を用いたシゾキトリウムOrfA由来のACPドメインの活性化(パンテテイニル化)を実証した(実施例3参照)。本発明者らは同様に,ノストック(Nostoc)由来のHet Iと呼ばれるPPTaseによるシゾキトリウムOrfA由来のACPドメインの活性化(パンテテイニル化)を実証した(実施例3参照)。組換えシゾキトリウムPUFA PKS遺伝子を用いた大腸菌でのDHAおよびDPAの産生のための上記に論じられる実験のなかで,PPTaseとしてHetI酵素がさらに使われた(実施例3)。」

(刊1-8)「実施例3
[0302] 以下の例は,大腸菌での機能的発現を介してシゾキトリウムのOrfA,BおよびCが機能的なDHA/DPA合成酵素をコードすることを実証する。
・・・
[0313] ・・・いくつかの条件の下,大腸菌でのシゾキトリウムOrfA,B*,CとのHet Iの同時発現により,その細胞でDHAおよびDPAの蓄積が起こった。sfpおよびHet Iが比較された実験の全てで,sfp構築体を含有する細胞でよりもHet Iを含有する細胞で,多くのDHAおよびDPAが蓄積した。・・・
[0314]大腸菌形質転換体でのDHAおよびDPAの産生
[0315] 2つのプラスミド: (1) シゾキトリウムPUFA PKS遺伝子(OrfA,B^(*)およびC),及び,(2) PPTase (sfp由来またはHet I由来)をコードする,2つのプラスミドを,誘導性T7 RNAポリメラーゼ遺伝子を含む大腸菌株BL21に形質転換した。シゾキトリウム・タンパク質の合成は培地へのIPTGの添加によって誘導し,その一方でPPTaseの発現は別個の調節要素(上記参照)によって制御した。種々の定義済みの条件下でおよび2つの異種PPTase遺伝子のいずれかを用いて,細胞を増殖させた。細胞を集菌し,脂肪酸をメチルエステル(FAME)に変換し,ガス液体クロマトグラフィーにより分析した。
[0316] いくつかの条件の下で,2つの異種PPTaseのいずれかに加えて,シゾキトリウムPUFA PKS遺伝子を発現する大腸菌細胞においてDHAおよびDPAが検出された(データは示されていない)。対照細胞(すなわち,Orfの1つを欠くプラスミドを用いて形質転換された細胞)から調製されたFAMEでは,DHAまたはDPAが検出されなかった。大腸菌で確認されたDHAとDPAとの比率は,シゾキトリウムで確認された内因性DHAおよびDPAの産生の比率に近い。全FAMEの約17%に相当する,最高レベルのPUFA (DHAに加えてDPA)は,10% (重量で)グリセロールの補充された765培地(配合表はAmerican Type Culture Collectionから入手可能)の中で32℃にて増殖させた細胞で見出された。PUFAの蓄積は,細胞を5または10%グリセロールの補充されたLuria Broth中で増殖させた場合,および20℃で増殖させた場合にも確認された。各プラスミドの存在に対する選択は増殖の間に適切な抗生物質を含めることで維持し,IPTG (0.5 mMの終濃度まで)を用いて,OrfA,B^(*)およびCの発現を誘導した。」

(2)刊行物1に記載の発明
ア 請求項79に記載の発明
刊行物1の請求項79(刊1-1)には
「細菌性PUFA PKS系が反復および非反復の両酵素反応を触媒し,細菌性PUFA PKS系が少なくとも約25℃の温度でPUFAを産生し,かつ細菌性PUFA PKS系が,
a) 少なくとも1つのエノイルACP-レダクターゼ(ER)ドメイン;
b) 少なくとも6つのアシルキャリヤータンパク質(ACP)ドメイン;
c) 少なくとも2つのβ-ケト・アシル-ACPシンターゼ(KS)ドメイン;
d) 少なくとも1つのアシルトランスフェラーゼ(AT)ドメイン;
e) 少なくとも1つのケトレダクターゼ(KR)ドメイン;
f) 少なくとも2つのFabA様β-ヒドロキシ・アシル-ACPデヒドラーゼ(DH)ドメイン;
g) 少なくとも1つの鎖伸長因子(CLF)ドメイン;
h) 少なくとも1つのマロニル-CoA:ACPアシルトランスフェラーゼ(MAT)ドメイン; および
i) 少なくとも1つの4'-ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(PPTase)ドメインを含み,ならびに
遺伝的改変がPUFA PKS系の活性に影響を及ぼす,
細菌の多価不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系の少なくとも1つのタンパク質またはドメインを含む遺伝的に改変された生物。」
という発明が記載されている。

イ 生物について
(刊1-2)に請求項79の特定事項の記載の後に「生物は植物または微生物を含むことができる。」と記載されていることから,請求項79の生物とは「微生物又は植物」をいうことが分かる。
本願優先日当時,例えば下記刊行物Aに「比較的簡便かつ確実に様々な遺伝形質を有する植物(遺伝的改変植物)の作出が可能となっている。」(刊A-1)と記載されているように,植物の遺伝子組換えは簡便かつ確実に行えるような技術水準にあったから,請求項79に記載の「細菌性PUFA PKS系」により遺伝的改変がなされた「植物」を作成できることは明白であって,請求項79に記載の発明の「生物」として,「植物」が包含されることは明らかである。

刊行物A:特開2005-143447号公報
「【0004】
一方,遺伝子組換え法によって有用な遺伝子(外来遺伝子)を植物個体に導入する方法が確立されつつあり,比較的簡便かつ確実に様々な遺伝形質を有する植物(遺伝的改変植物)の作出が可能となっている。このような形質転換(遺伝子組換え)植物の作成における遺伝子導入方法としては,主に二つの手法が用いられている。その一つは「アグロバクテリウム法」であり,土壌細菌Agrobacterium tumefaciensまたはA. rhizogenesが植物に感染し,アグロバクテリウム細胞内のプラスミドの一部を植物ゲノムDNAに組込み,ホルモン異常を起こさせる現象を利用したものである。もう一つが「パーティクルガン法」であり,DNAを金属粒子(直径1μm程度)にコーティングし,音速以上に加速して植物細胞に打ち込み,細胞壁および細胞膜を貫通させて細胞内に組込むことにより植物を形質転換する方法である。」

ウ 種子及び油について
「PUFAポリケチドシンターゼ(PKS)系の操作によって種々の多価不飽和脂肪酸(PUFA)に富む脂質を効率的に産生するための遺伝的に改変された植物および微生物ならびに方法に関する。」(刊1-5)との発明の目的に照らし,多価不飽和脂肪酸に富む油を取得することを目的とすることは明らかである。そして,請求項79の「生物」に含まれる「植物」には,植物の部分である「種子」(刊1-3)が含まれていること,及び,ナタネ,トウモロコシ,大豆等の油糧植物のほとんどが,種子から油を得るものであることからみて,刊行物1に接した当業者であれば,油を取得するための「植物」といえば,「植物の種子」をまず最初に思い浮かべるものといえる。
そうすると,刊行物1には,「植物の種子から得られた油」の発明も開示されていることは明らかである。

エ PUFAについて
また,ここに記載の「PUFA」とは,微生物及び植物ともに,「遺伝的に改変された植物又は植物の部分は,遺伝子組換えの結果として,次からなる群から選択される一つ又はそれ以上の多価不飽和脂肪酸を産生する:DHA (ドコサヘキサエン酸(C22 :6,ω- 3)),ARA (エイコサテトラエン酸 又はアラキドン酸(C20:4,n-6)), DPA(ドコサペンタエン酸(C22:5,ω-6又はω-3)),及び/又はEPA(エイコサペンタエン酸(C20:5,ω-3)。」(刊1-4)をいうものと理解される。
さらに,「PUFAポリケチドシンターゼ(PKS)系の操作によって種々の多価不飽和脂肪酸(PUFA)に富む脂質を効率的に産生するための遺伝的に改変された植物および微生物ならびに方法に関する。」(刊1-5)と記載されていることからみて,請求項79に記載の発明により「富んだ多価不飽和脂肪酸(PUFA)」を産生する生物が得られることは明らかである。

オ 細菌性PUFA PKS系について
(刊1-6)には,請求項79に記載の「細菌性PUFA PKS系」の例とし
て,
A)SEQ ID NO:13のシゾキトリウムOrfA(KS,MAT,ACP及びKRドメインを包含)
B)SEQ ID NO:15のシゾキトリウムOrfB(KS,CLF,AT及びERドメインを包含)
C)SEQ ID NO:17のシゾキトリウムOrfC(DH及びERドメインを包含)
を使用する例が開示されている。
また,請求項79の「PPTase」として「PPTaseとしてHetI酵素」(刊1-7)が使用されている。
そして,大腸菌については,請求項79記載の発明の実施例として,実施例3(刊1-8)が記載され,「大腸菌でのシゾキトリウムOrfA,B^(*),CとのHet Iの同時発現により,その細胞でDHAおよびDPAの蓄積が起こった。sfpおよびHet Iが比較された実験の全てで,sfp構築体を含有する細胞でよりもHet Iを含有する細胞で,多くのDHAおよびDPAが蓄積し」(刊1-8)「全FAMEの約17%に相当する,最高レベルのPUFA (DHAに加えてDPA・・・が見出された」(刊1-8)ことが確認されている。
そうすると,請求項79に記載の発明の「細菌性PUFA PKS系」として,シゾキトリウムOrfA,OrfB^(*)及びOrfC並びにHetI酵素を用いるものが包含されているといえる。

以上のことを総合すると刊行物1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「富んだ多価不飽和脂肪酸PUFAを産生し,
該多価不飽和脂肪酸PUFAが,DHA (ドコサヘキサエン酸(C22 :6,ω - 3)),ARA (エイコサテトラエン酸 又はアラキドン酸(C20:4,n-6)), DPA(ドコサペンタエン酸(C22:5,ω-6又はω-3)),及び/又はEPA(エイコサペンタエン酸(C20:5,ω-3)であり,
かつ
細菌性PUFA PKS系が,シゾキトリウムOrfA,OrfB^(*)及びOrfC並びにHetI酵素によるものであり,
遺伝的改変がPUFA PKS系の活性に影響を及ぼす,
細菌の多価不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系の少なくとも1つのタンパク質またはドメインを含む
遺伝的に改変された植物の種子から得られた油。」

(3)対比
補正発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「DHA (ドコサヘキサエン酸(C22 :6,ω - 3)),ARA (エイコサテトラエン酸 又はアラキドン酸(C20:4,n-6)), DPA(ドコサペンタエン酸(C22:5,ω-6又はω-3)),及び/又はEPA(エイコサペンタエン酸(C20:5,ω-3) 」である「富んだ多価不飽和脂肪酸PUFA」を産生するものと,補正発明の「少なくとも20個の炭素および4つまたはそれ以上の炭素-炭素二重結合を有する少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸(PUFA)を少なくとも約0.5重量%含」むものとは,「植物の種子における総脂肪酸プロフィールが,少なくとも20個の炭素および4つまたはそれ以上の炭素-炭素二重結合を有する少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸(PUFA)を所定量含む」点で共通する。

イ 引用発明の「植物の種子から得られた油」には,補正発明の「植物の種子における総脂肪酸プロフィールが,以下:γ-リノレン酸(GLA;18:3,n-6),18個の炭素および4つの炭素-炭素二重結合を有するPUFA,20個の炭素および3つの炭素-炭素二重結合を有するPUFA,ならびに22個の炭素および2つまたは3つの炭素-炭素二重結合を有するPUFAのすべてのPUFAを合計で5%未満含」むものか不明である。(なお,以下,補正発明の「γ-リノレン酸・・・の全てのPUFA」を「γ-リノレン酸等のPUFA」ということとする。)

以上の事項を総合すると,両発明の間には,次の(一致点)があり,(相違点1)及び(相違点2)に示す点で一応相違する。

(一致点)
「植物の種子における総脂肪酸プロフィールが,少なくとも20個の炭素および4つまたはそれ以上の炭素-炭素二重結合を有する少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸(PUFA)を所定量含む,植物の種子から得られた油。」

(相違点1)
少なくとも20個の炭素および4つまたはそれ以上の炭素-炭素二重結合を有する少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸(PUFA)を所定量含むことが,補正発明では「少なくとも0.5重量%」含むのに対して,引用発明では具体的な量までは不明な点。

(相違点2)
補正発明では「γ-リノレン酸等のPUFAを合計で5%未満含む」という総脂肪酸プロフィールであるのに対して,引用発明では,かかるγ-リノレン酸等のPUFAの脂肪酸プロフィールを有するか不明な点。

(4)検討
補正発明の実施例として,本願明細書には,
「【0228】実施例2
下記の実施例は,アラビドプシスにおける,シゾキトリウム属PUFAシンターゼをコードする遺伝子(OrfA,OrfB^(*)およびOrfC)のHetIを伴っての発現,ならびに検出可能な中間体または副生成物が実質的に存在しない標的PUFA,DHAおよびDPAn-6の産生を説明している。」
と記載され,宿主植物であるアラビドプシスに外来遺伝子としてシゾキトリウム属PUFAシンターゼをコードする遺伝子(OrfA,OrfB^(*)およびOrfC)及びHetIを導入して発現した実施例が記載されている。
そして,実施例2(【0228】?【0241】)の結果,
相違点1に記した補正発明の「少なくとも20個の炭素および4つまたはそれ以上の炭素-炭素二重結合を有する少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸(PUFA)を少なくとも約0.5重量%含」むものとなり,
相違点2に記した補正発明のγ-リノレン酸等の合計が総脂肪酸プロフィールの5%未満含となったことを確認している。

他方,本願明細書記載の補正発明の実施例で導入されたHetIを伴ったシゾキトリウム属PUFAシンターゼをコードする遺伝子(OrfA,OrfB*およびOrfC)と,引用発明の「遺伝的に改変された植物」に導入された「シゾキトリウムOrfA,OrfB^(*)及びOrfC並びにHetI酵素」は同じものであり,両者の遺伝子構成が同じである以上,相違点1及び相違点2に記載された補正発明の特定事項のごとくなることは当然のことであって,相違点1及び相違点2は,実質的に相違点ではない。

又は、引用発明において,引用発明の「植物」を作成し,「植物の種子から得られた油」を調べ,相違点1及び相違点2に記載された補正発明の特定事項のごとくなることを確認する程度のことは,当業者が容易になし得たことといえ,補正発明の効果も刊行物1から予測し得る程度のものである。

(5)むすび
補正発明は,刊行物1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当する,又は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
以上のいずれかの理由により,補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって,本件補正は,平成18年改正前の特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反するものであり,同法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成24年11月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおり,次の事項により特定される発明と認める。
「【請求項1】
植物または植物の部分における総脂肪酸プロフィールが,少なくとも20個の炭素および4つまたはそれ以上の炭素-炭素二重結合を有する少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸(PUFA)を少なくとも約0.5重量%含み,植物または植物の部分における総脂肪酸プロフィールが,以下:γ-リノレン酸(GLA;18:3,n-6),18個の炭素および4つの炭素-炭素二重結合を有するPUFA,20個の炭素および3つの炭素-炭素二重結合を有するPUFA,ならびに22個の炭素および2つまたは3つの炭素-炭素二重結合を有するPUFA
のすべてのPUFAを合計で5%未満含む,植物または植物の部分。」

(1)引用刊行物及び引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物,及びその記載事項は,前記「第2 2(1)引用刊行物記載の事項」に記載したとおりである。
そして,刊行物1に記載された発明(引用発明)は,前記「第2 2(2)イ 刊行物1に記載の発明」に記したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は,前記「第2 2 独立特許要件について」で検討した補正発明の「植物の種子」を「植物の部分」とし,補正発明の「植物の種子から得られた油」を「植物の部分」とするものであり,いずれも補正発明の特定事項を上位に拡張するものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに特定事項を上位に拡張したものに相当する補正発明が,上記「第2 2(5) むすび」に記載したとおり,刊行物1に記載された発明であるから,本願発明も同様の理由により,刊行物1に記載された発明であるといえるし,又は,補正発明が、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(3)むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない,又は,刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-15 
結審通知日 2015-01-19 
審決日 2015-01-30 
出願番号 特願2009-500612(P2009-500612)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A01H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 雄三名和 大輔  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 中島 庸子
植原 克典
発明の名称 多価不飽和脂肪酸を含む植物種子油  
代理人 五十嵐 義弘  
代理人 小林 智彦  
代理人 刑部 俊  
代理人 佐藤 利光  
代理人 新見 浩一  
代理人 川本 和弥  
代理人 山口 裕孝  
代理人 清水 初志  
代理人 渡邉 伸一  
代理人 大関 雅人  
代理人 春名 雅夫  
代理人 井上 隆一  
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