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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1301984
審判番号 不服2014-3841  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-28 
確定日 2015-06-12 
事件の表示 特願2009-110651「露光装置用瞳フィルタ、回折光学素子及びそれを備えた露光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月10日出願公開、特開2009-290206〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年4月30日(優先権主張平成20年5月1日)の出願であって、平成25年4月4日付けで拒絶理由が通知され、同年6月7日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたが、その後、同年12月2日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、これに対して、平成26年2月28日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。


第2 本願発明について
1.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年6月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「ArFエキシマレーザの光源より発した光を、照明光学系を介してマスクに照射し、
ピッチが150nm?250nmである前記マスク上のパターンを、投影光学系を介して被露光基板上へ投影露光する露光装置の前記照明光学系で用いられる瞳フィルタにおいて、
前記瞳フィルタは、光透過部と、遮光部と、光低透過率領域を備え、
中心部に前記光透過部より透過率が低く、前記遮光部より透過率が高い前記光低透過率領域を配置し、
前記光低透過率領域の外周に、同心に円環状の前記光透過部を配置し、
前記光透過部の外周に、同心に円環状の前記遮光部を配置し、
前記光低透過率領域の透過率は、5%?30%の範囲内であり、
前記遮光部の透過率は、1%以下であり、
前記瞳フィルタの径を1とした場合、前記光低透過率領域の径方向の寸法割合は0.8であり、前記光透過部の径方向の寸法割合は0.1であり、前記遮光部の径方向の寸法割合は0.1である
ことを特徴とする露光用瞳フィルタ。」

2.引用刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平7-115059号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。)

(a)「【0020】
【実施例】まず、縮小投影露光装置における結像原理が簡単に説明される。
【0021】図16(A)を参照して、縮小投影露光装置において従来の通常照明を用いた投影が概略的な断面図で図解されている。コンデンサレンズ19を通過した照明光は、フォトマスク20上のパターンによって回折され、0次回折ビームL0と2つの±1次回折ビームL1に分離される。この場合、フォトマスク20は、丸印20aの領域を拡大して示している丸印20A内に見られるように、比較的大きなパターンサイズを有している。したがって、回折ビームL0とL1がなす回折角がさほど大きくならず、3つの回折ビームのすべてが投影レンズシステム21の瞳内に進入する。そして、それらの3ビームによって半導体ウエハ22のような結像面上にマスク20上のパターンが縮小投影される。
【0022】しかし、図16(B)中の丸印20bの領域を拡大した丸印20B内に見られるように、フォトマスク20が微細パターンを有するとき、0次回折光L0と1次回折光L1がなす角度が大きくなる。その回折角が大きくなれば、1次回折光L1は投影レンズシステム21の瞳内に入ることができず、半導体ウエハ22上に微細パターンを結像することができなくなる。
【0023】このような問題を解決するために、先行技術において、図17(A)に示されているようなオフ・アキシス(傾斜)照明方法が提案されている。先行技術による図14の投影露光装置は、このようなオフ・アキシス照明を利用している。すなわち、図17(A)において、図15(A)に示されているのと同様な空間フィルタ31がコンデンサレンズ19の上方に配置される。空間フィルタ31中の開口を通過してコンデンサレンズ19によってフォトマスク20上に照射される光線束は、フォトマスク20に対して傾斜させられている。したがって、フォトマスク20が丸印20B内に示されているように微細パターンを有していて回折角が大きい場合であっても、1対の1次回折ビームL1の片方が投影レンズシステム21の瞳内に進入することができなくても、他方の1次回折ビームL1と0次回折ビームL0の2つのビームが瞳内に進入することができる。そして、これら2つのビームによってマスク20上の微細パターンが半導体ウエハ22上に結像される。このとき、瞳内に進入する2つのビーム間において光路差をほとんどなくすことによって位相の整合性を改善することが可能であり、良好な解像度と焦点深度が得られる。他方、図16(A)に示されているような3ビーム結像においては、0次回折ビームL0と1対の1次回折ビームL1との間においてジャストフォーカス条件以外では位相が互いに不整合であり、十分な焦点深度を得ることができない。
【0024】図17(A)に示されているようなオフ・アキシス照明方法において、図15(A)に示されているような空間フィルタの代わりに、図18に示されているようなアニュラー(環状)タイプの空間フィルタを用いることによって、パターンのレイアウトの方向に依存することなく解像度と焦点深度の改善を図ることができる。
【0025】しかし、このようなオフ・アキシス照明技術においても、最適化されたパターンサイズの範囲より大きなサイズを有するパターンに関しては、図16(A)に示されているような通常照明に比べても大幅にDOF特性が低下し、また、パターン内に密度の変動がある場合にもDOF特性の劣化が著しくなる。
【0026】たとえば、図17(B)中の丸印20A内に示されているように、パターンサイズが大きくなって回折角が減少すれば、1対の1次回折ビームL1の両方が投射レンズシステムの瞳内に入射することが可能となり、マスク20上のパターンは3つの回折ビームによって半導体ウエハ22上に投影されることになる。図17(B)に示されているようなオフ・アキシス照明における3ビーム結像においては、図16(A)に示されているようなオン・アキシス(対称)照明における3ビーム結像に比べて、ビーム間の位相のずれが大きくなる。したがって、図17(B)に示されているようなオフ・アキシス照明による3ビーム結像においては、図16(A)に示されているような通常のオン・アキシス照明による3ビーム結像に比べてもDOF特性が劣ることになる。
【0027】このようなDOF特性の低下を防止する方法が、図19(A)において図解されている。図19(A)においては、コンデンサレンズ19の上方にハーフトーン・アニュラータイプの空間フィルタ32が配置され、その空間フィルタ32の中央領域32Aは、所定の光透過率を有している。破線の矢印で示されているように、中央領域32Aを透過した光によるオン・アキシス照明によって、図16(A)に示されている通常照明と同様の結像が行なわれる。すなわち、図17(B)に示されているようなオフ・アキシス照明による3ビーム結像に、減少させられた光強度を有するオン・アキシス照明成分によるバランスさせられた3ビーム結像を重ね合わせることによって、通常照明に比較したDOF特性の劣化を抑制することができる。
【0028】しかし、図19(B)内の丸印20B内に示されているようにパターンサイズが小さい場合には、オフ・アキシス照明の2ビームによる結像に、低減された強度を有するオン・アキシス照明の3ビームによる結像が重ね合わされることになる。このとき、図20(A)の振幅分布23を表わすグラフからわかるように、オフ・アキシス照明の2ビームによる振幅分布のメインピークは比較的狭い幅を有しており、他方、低減された光強度を有するオン・アキシス照明24の3ビームによる振幅分布のメインピークは広い幅を有している。
【0029】図20(B)の強度分布を表わすグラフ中の曲線26は、図20(A)中の振幅分布23と24を重ね合わせて得られる強度分布を表わしている。振幅分布23と24は同符号の位相を有しているので、それら2つの振幅分布を重ね合わせて得られる光強度分布26のメインピークの幅は、振幅分布23のメインピークの幅より大きくなる。
【0030】すなわち、マスクのパターンサイズが小さい場合には、図19(B)に示されているようにオフ・アキシス照明の2ビームによる結像に、低減された強度を有するオン・アキシス照明の3ビームによる結像を重ね合わせる投影方法においては、図17(A)に示されているようなオフ・アキシス照明の2ビームのみによる投影方法に比べて解像度とDOF特性の両方が劣ることになる。
【0031】本発明は、パターンの方向に依存することなくかつパターンのサイズや密度にも依存することなく縮小投影露光装置の解像度とDOF特性を改善し得る空間フィルタを提供する。本発明による空間フィルタは、中央領域が所定の光透過率を有するアニュラータイプに属するが、その中央領域を通過する光と周辺領域を通過する光との間で180°の位相差を生じさせる手段を含んでいる。
【0032】本発明による空間フィルタの作用効果が、図20(A)および(B)とともに図1を参照して説明される。図1において、投影露光装置の照明光学系が模式的な断面図で示されている。光源(図示せず)からの光は、フライアイレンズ18を通過した後には、基本的には部分的コヒーレント光である。すなわち、図1中における振幅位相を表わすグラフ29に示されているように、フライアイレンズ18中のそれぞれの微小レンズを通過したビーム間で大きな位相差は存在していない。したがって、本発明による新規な位相/透過率変調フィルタ40によって、位相調整をすることが可能である。図1中の振幅位相グラフ28と29Aの比較からわかるように、中央領域を透過した光の位相が、周辺領域を通過した光の位相に関して180°シフトされ得る。空間フィルタ40を通過した光は、コンデンサレンズ19によってオン・アキシス成分とオフ・アキシス成分に空間変調され、それらの光成分は180°の位相差を維持したままマスク20上に照射される。
【0033】図1に示されているような照明系を有する露光装置においてマスク20上の微細パターンを結像面上に投影する場合、図19(B)の場合に類似して、オフ・アキシス照明の2ビームによる結像とオン・アキシス照明の3ビームによる結像とが重ね合わせられることになる。しかし、図1の照明方法においては、図20(A)のグラフに示されているように、オフ・アキシス照明の2ビームによる結像は曲線23で示されているような正の位相の振幅分布を有しているのに対して、オン・アキシス照明の3ビームによる結像は曲線25で示されているような負の位相の振幅分布を有している。したがって、これら2つの逆位相の振幅分布23と25は互いにサイドローブを打ち消し合い、図20(B)中の曲線27で示されているような光強度分布を生じる。曲線27と曲線26の比較からわかるように、図1に示されているような本発明による空間フィルタを用いた照明方法によれば、図19(B)に示された先行技術による照明方法に比べて、投射されたパターンの光強度は若干減少するが、光強度分布の幅が著しく低減される。すなわち、図1に示されているような本発明による空間フィルタを用いた投影露光においては、図19(B)に示されているような先行技術による空間フィルタを用いた投影露光に比べて解像度や焦点深度が改善される。
【0034】以上のように、本発明による位相/透過率変調空間フィルタは、用いられるマスクパターンの方向やサイズや密度に依存することなく、投影露光装置の解像度とDOF特性を改善することができる。
【0035】本発明による空間フィルタの基板として、石英などが用いられ得る。空間フィルタにおけるアニュラー開口の外径と内径は、σファクタを用いて表わすことにする。σファクタはσ=NA_(i)/NA_(p)で定義され、ここでNA_(i)は照明系の開口数を表わし、NA_(p)は投射系の開口数を表わす。投影露光装置が用いられるとき、投射系の開口数NA_(p)は一般に一定の最大値に設定され、照明系の開口数NA_(i)は照明系に挿入される絞りのサイズによって変化する。本発明による空間フィルタのアニュラー開口の外径はσ_(1)=0.4?0.7に対応する値に設定することができ、アニュラー開口の内径はσ_(2)=0.2?0.6に対応する値に設定することができる。
【0036】空間フィルタの中央領域の透過率変調は、中央領域の遮光膜に複数の微小な開口を設けるか、または約150nm以下の膜厚を有するCr,Al,Ta,またはMoなどのセミ透過膜を用いることによって実現され得る。また、空間フィルタの中央部を通過した光線束と周辺部を通過した光線束との間で相対的な180°の位相差を生じさせる光路差は、エッチングによってフィルタ基板の厚さを変化させることによって得ることができる。そのような光路差は、所定の厚さのSOG(スピンオングラス)膜,スパッタされたSiO_(2)膜,または有機膜などの付加的な層を設けることによっても得ることができる。180°の位相差を生じさせるための基板厚さの変化量tまたは付加的な層の厚さtは、次式(3a)または(3b)によって求めることができる。
【0037】n・t-t=m・λ/2 …(3a)
t=m・λ/2(n-1) …(3b)
ここで、nはフィルタ基板の屈折率または積層材料の屈折率を表わし、mは正の奇数を表わしている。
【0038】図2(A)は本発明の第1の実施例による空間フィルタの平面図を概略的に示しており、図2(B)は、図2(A)中の線2B-2Bに沿った断面を示している。この第1実施例による空間フィルタにおいては、石英基板1上に遮光パターン2が形成されている。遮光パターン2はアニュラー開口3と中央領域内の複数の小さな開口4を含んでいる。アニュラー開口3の領域内において基板1はエッチングによって厚さが減少させられている。その基板の厚さの変化量G1は、式(3b)によって決定される。たとえば、基板1が石英で露光光としてKrFエキシマレーザ(λ=248nm)が用いられる場合、基板の厚さの変化量G1は270nmにされる。なお、図2(B)においてはアニュラー開口3の領域下で基板1がエッチングされているが、この代わりに、中央領域内の複数の微小開口4下で基板1がエッチングされてもよいことは言うまでもない。
【0039】図3は、図2(B)に示されている空間フィルタを製造するプロセスを図解している。まず図3(A)において石英基板1が用意され、図3(B)において基板1上に約400nmの厚さを有するAl層からなる遮光膜2が形成される。次に図3(C)において、通常のフォトリソグラフィ技術を用いてAl層2がパターン化され、アニュラー開口3が形成される。図3(D)において、RIE(反応イオンエッチング)などのドライプロセスまたはHFなどを用いたウェットプロセスによってアニュラー開口3下の領域において基板1がエッチングされる。図3(E)において、再び通常のフォトリソグラフィ技術を用いてAl層2がパターニングされ、アニュラー開口3の内側の中央領域内に複数の微小な開口4が形成される。これによって、図2(A)および(B)に示されている位相/透過率変調フィルタが完成する。」

(b)「【0044】図6のグラフにおいて、第1実施例と第2実施例による新規な位相/透過率変調フィルタを用いた場合の投影露光装置における解像度が、先行技術との比較において示されている。このグラフにおいて、横軸は結像面上における設計されたライン幅(μm)を表わし、縦軸は結像面上において実際に測定されたライン幅(μm)を示している。丸印は本発明による新規な空間フィルタを用いた場合を表わし、三角印は図18に示されているような先行技術による通常のアニュラータイプの空間フィルタに対応し、正方形印は中央領域が半透明のアニュラー型空間フィルタに対応し、そして菱形印は図16(A)に示されているような従来の通常照明に対応している。図6の測定において、投影露光装置の投射系の開口数はNA=0.45であり、λ=248nmの波長のKrFエキシマレーザが用いられた。また、いずれのアニュラータイプの空間フィルタも、σ_(1)=0.5とσ_(2)=0.4に設定された。さらに、半導体ウエハ上のレジスト層として、化学増幅ネガティブレジストが用いられた。さらに、本発明の空間フィルタにおける中央領域の光透過率は15%に設定された。
【0045】図6からわかるように、先行技術においては、通常のアニュラータイプの空間フィルタが最も優れた0.28μmの解像限界を示すのに対して、本発明による位相/透過率変調フィルタは0.25μm以下の解像限界を示している。すなわち、図6のグラフから、本発明による新規な空間フィルタは、先行技術におけるいずれのタイプの空間フィルタよりも優れた解像限界を実現し得ることが理解されよう。」

(c)「【0053】また、以上の実施例ではλ=248nmのKrFエキシマレーザの照明光を用いて説明されたが、本発明による新規な空間フィルタはλ=436nmのg線、λ=365nmのi線、λ=193nmのArFエキシマレーザ光などの照明光に関しても有効であることは言うまでもない。」

(d)「
【図1】



【図2】


【図15】



【図16】



【図17】



【図18】



【図19】





(e)上記記載事項(a)の【0032】における「図1において、投影露光装置の照明光学系が模式的な断面図で示されている。光源(図示せず)からの光は、フライアイレンズ18を通過した後には、基本的には部分的コヒーレント光である。」、「空間フィルタ40を通過した光は、コンデンサレンズ19によってオン・アキシス成分とオフ・アキシス成分に空間変調され、それらの光成分は180°の位相差を維持したままマスク20上に照射される。」との記載、【0033】における「図1に示されているような照明系を有する露光装置においてマスク20上の微細パターンを結像面上に投影する場合、図19(B)の場合に類似して、オフ・アキシス照明の2ビームによる結像とオン・アキシス照明の3ビームによる結像とが重ね合わせられることになる。」との記載、及び上記記載事項(d)の【図1】の記載から、引用文献1の「投影露光装置」は、「光源からの光」が、「空間フィルタ40」を含む「照明光学系」を通過し「マスク20上に照射され」、「マスク20上の微細パターンを結像面上に投影する」構成を有するものである。
そして、上記記載事項(a)の【0033】における「図19(B)の場合に類似して」との記載、【0021】の「図16(A)を参照して、縮小投影露光装置において従来の通常照明を用いた投影が概略的な断面図で図解されている。コンデンサレンズ19を通過した照明光は、フォトマスク20上のパターンによって回折され、0次回折ビームL0と2つの±1次回折ビームL1に分離される。」、「したがって、回折ビームL0とL1がなす回折角がさほど大きくならず、3つの回折ビームのすべてが投影レンズシステム21の瞳内に進入する。そして、それらの3ビームによって半導体ウエハ22のような結像面上にマスク20上のパターンが縮小投影される。」との記載、【0022】?【0030】の記載内容、及び上記記載事項(d)の【図15】?【図19】の記載から、引用文献1の「投影露光装置」は、「マスク20上の微細パターンを結像面上に投影する」構成について、「フォトマスク20上のパターンによって回折され」た「3つの回折ビームのすべてが投影レンズシステム21の瞳内に進入」し、「それらの3ビームによって半導体ウエハ22のような結像面上にマスク20上のパターンが縮小投影される」ものであることが理解される。

(f)上記記載事項(a)の【0038】の「この第1実施例による空間フィルタにおいては、石英基板1上に遮光パターン2が形成されている。遮光パターン2はアニュラー開口3と中央領域内の複数の小さな開口4を含んでいる。」との記載、及び上記記載事項(d)の図2の記載から、空間フィルタは、中央領域の外周に同心にアニュラー開口3が配置され、アニュラー開口3の外周に遮光パターン2が配置されていることは、明らかである。また、「遮光パターン2」は、光を遮る目的で配置されるものであるから、その光透過率が実質的に0%となるよう設けられていることは明らかである。

すると、上記引用文献1の記載事項から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「光源からの光が、空間フィルタ40を含む照明光学系を通過しマスク20上に照射され、マスク20上のパターンによって回折された3つの回折ビームのすべてが投影レンズシステム21の瞳内に進入し、それらの3ビームによって半導体ウエハ22のような結像面上にマスク20上のパターンが縮小投影される投影露光装置における、空間フィルタであって、空間フィルタは、石英基板1上に遮光パターン2が形成され、遮光パターン2はアニュラー開口3と中央領域内の複数の小さな開口4を含んでおり、中央領域の光透過率は15%に設定され、中央領域の外周に同心にアニュラー開口3が配置され、アニュラー開口3の外周に遮光パターン2が配置されており、遮光パターン2の光透過率が実質的に0%であり、光源がArFエキシマレーザであり、アニュラー開口3の外径はσ_(1)=0.4?0.7に対応する値に設定することができ、アニュラー開口の内径はσ_(2)=0.2?0.6に対応する値に設定することができる、空間フィルタ」


3.対比
(1)本願発明と引用発明の対比
(a)引用発明の「ArFエキシマレーザ」、「光源」、「マスク20」、「マスク20上のパターン」、「投影レンズシステム21」、「半導体ウエハ22のような結像面上」、「投影露光装置」、「空間フィルタ」は、それぞれ、本願発明の「ArFエキシマレーザ」、「光源」、「マスク」、「マスク上のパターン」、「投影光学系」、「被露光基板上」、「露光装置」、「瞳フィルタ」及び「露光用瞳フィルタ」に相当する。

(b)引用発明の「光源がArFエキシマレーザであり、」「光源からの光が、空間フィルタ40を含む照明光学系を通過しマスク20上に照射され、マスク20上のパターンによって回折された3つの回折ビームすべてが投影レンズシステム21の瞳内に進入し、それらの3ビームによって半導体ウエハ22のような結像面上にマスク20上のパターンが縮小投影される投影露光装置における、空間フィルタ」は、本願発明の「ArFエキシマレーザの光源より発した光を、照明光学系を介してマスクに照射し、」「前記マスク上のパターンを、投影光学系を介して被露光基板上へ投影露光する露光装置の前記照明光学系で用いられる瞳フィルタ」に相当する。

(c)引用発明の「光透過率は15%に設定され」た「中央領域」は、本願発明の「光低透過率領域」に相当する。
引用発明の「遮光パターン2」は、「遮光パターン2の光透過率が実質的に0%であ」るから、本願発明の「遮光部」に相当する。
引用発明の「アニュラー開口3」は、「アニュラー」が英語のannularのカタカナ表記であることは明らかであって、その意味が環状であるから、引用発明の「アニュラー開口3」は、本願発明の「円環状の」「光透過部」に相当する。
そして、引用発明の「中央領域」が「空間フィルタ」の中央の領域であることは明らかであるから、引用発明の「空間フィルタは、石英基板1上に遮光パターン2が形成され、遮光パターン2はアニュラー開口3と中央領域内の複数の小さな開口4を含んでおり、中央領域の光透過率は15%に設定され、中央領域の外周に同心にアニュラー開口3が配置され、アニュラー開口3の外周に遮光パターン2が配置されており、遮光パターン2の光透過率が実質的に0%であ」る構成は、本願発明の「前記瞳フィルタは、光透過部と、遮光部と、光低透過率領域を備え、中心部に前記光透過部より透過率が低く、前記遮光部より透過率が高い前記光低透過率領域を配置し、前記光低透過率領域の外周に、同心に円環状の前記光透過部を配置し、前記光透過部の外周に、」「前記遮光部を配置し、前記光低透過率領域の透過率は、5%?30%の範囲内であり、前記遮光部の透過率は、1%以下であ」る構成に相当する。

(2)一致点
してみると、両者は、
「ArFエキシマレーザの光源より発した光を、照明光学系を介してマスクに照射し、
前記マスク上のパターンを、投影光学系を介して被露光基板上へ投影露光する露光装置の前記照明光学系で用いられる瞳フィルタにおいて、
前記瞳フィルタは、光透過部と、遮光部と、光低透過率領域を備え、
中心部に前記光透過部より透過率が低く、前記遮光部より透過率が高い前記光低透過率領域を配置し、
前記光低透過率領域の外周に、同心に円環状の前記光透過部を配置し、
前記光透過部の外周に、前記遮光部を配置し、
前記光低透過率領域の透過率は、5%?30%の範囲内であり、
前記遮光部の透過率は、1%以下である
露光用瞳フィルタ」で一致し、次の各点で相違する。

(3)相違点
(イ)本願発明では、「マスク上のパターン」が「ピッチが150nm?250nmである」のに対して、引用発明では、具体的なピッチについて不明な点。

(ロ)本願発明では、「前記光透過部の外周に、同心に円環状の前記遮光部を配置し、」「前記瞳フィルタの径を1とした場合、前記光低透過率領域の径方向の寸法割合は0.8であり、前記光透過部の径方向の寸法割合は0.1であり、前記遮光部の径方向の寸法割合は0.1である」のに対して、引用発明では、「アニュラー開口3の外周に遮光パターン2が配置されて」いるものの、「同心に円環状」ではなく、「アニュラー開口3の外径はσ_(1)=0.4?0.7に対応する値に設定することができ、アニュラー開口の内径はσ_(2)=0.2?0.6に対応する値に設定することができる」点。


4.判断
(1)相違点(イ)について
ピッチが150nm?250nmであるマスク上のパターンは、本願出願時においては普通に使用されているものであって、引用発明の「マスク20上のパターン」のピッチを150nm?250nmとすることを阻害する要因もないから、引用発明の「マスク20上のパターン」のピッチを150nm?250nmとすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(2)相違点(ロ)について
一般に投影露光装置の照明光学系で用いられる絞りの外縁部分の遮光部の形状は、各々の装置に応じて適宜設計されるものであり、投影露光装置の照明光学系で用いられる輪帯状の開口部を有する絞りにおいて、例えば特開平6-120114号公報(特に図2)に記載されているような輪帯状の開口の周囲に同心状の輪帯遮光部を有するものや、例えば特開2000-311848号公報(特に図7)に記載されているような複数の絞りが形成される絞り切り換え部材における絞り以外の部分がそれぞれの絞りにおける開口外縁の遮光部をなすもの等、様々な外縁部分の遮光部形状となすことは周知事項である。
そして、引用発明の「空間フィルタ」において、これら周知の外縁部分のような遮光部の形状とすることを阻害する要因はないから、引用発明の「空間フィルタ」の「アニュラー開口3の外周に」配置される「遮光パターン2」を、「アニュラー開口3」と同心状の輪帯状の遮光部の形状とすることは、当業者にとって設計上適宜選択する事項にすぎない。
また、引用文献1の【0035】に、「本発明による空間フィルタの基板として、石英などが用いられ得る。空間フィルタにおけるアニュラー開口の外径と内径は、σファクタを用いて表わすことにする。σファクタはσ=NA_(i)/NA_(p)で定義され、ここでNA_(i)は照明系の開口数を表わし、NA_(p)は投射系の開口数を表わす。投影露光装置が用いられるとき、投射系の開口数NA_(p)は一般に一定の最大値に設定され、照明系の開口数NA_(i)は照明系に挿入される絞りのサイズによって変化する。」と記載されているように、引用発明の「アニュラー開口3の外径はσ_(1)=0.4?0.7に対応する値に設定することができ、アニュラー開口の内径はσ_(2)=0.2?0.6に対応する値に設定することができる」構成は、「空間フィルタ」における具体的寸法割合を直接設計したものではなく、投射系の開口数に対する照明系の開口数の割合に基づいて設計されるものであり、本願発明の「前記瞳フィルタの径を1とした場合、前記光低透過率領域の径方向の寸法割合は0.8であり、前記光透過部の径方向の寸法割合は0.1であり、前記遮光部の径方向の寸法割合は0.1である」に格別な技術的意味もないことを勘案すると、引用発明において、「アニュラー開口3」の外径、内径を、それぞれσ_(1)、σ_(2)に対応して、適宜設計して、「前記瞳フィルタの径を1とした場合、前記光低透過率領域の径方向の寸法割合は0.8であり、前記光透過部の径方向の寸法割合は0.1であり、前記遮光部の径方向の寸法割合は0.1である」といった事項を得ることは、当業者が容易になし得ることである。

(4)効果について
本願発明が奏し得る効果は、引用発明及び周知事項から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

(5)結論
したがって、本願発明は、引用発明及び周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第3 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-07 
結審通知日 2015-04-08 
審決日 2015-04-21 
出願番号 特願2009-110651(P2009-110651)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松岡 智也  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 山口 剛
土屋 知久
発明の名称 露光装置用瞳フィルタ、回折光学素子及びそれを備えた露光装置  
代理人 韮澤 弘  
代理人 米澤 明  
代理人 内田 亘彦  
代理人 田中 貞嗣  
代理人 小山 卓志  
代理人 蛭川 昌信  
代理人 阿部 龍吉  
代理人 青木 健二  

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