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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02B
管理番号 1302017
審判番号 不服2014-2400  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-07 
確定日 2015-06-09 
事件の表示 特願2008-312577「ガスエンジン、特にガス状の燃料・空気混合気を点火するための点火装置を備えたガスオットーエンジン」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月 2日出願公開、特開2009-144707〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2008年12月8日(パリ条約による優先権主張2007年12月15日、ドイツ連邦共和国)を出願日とする出願であって、平成24年10月26日付けで拒絶理由が通知され、平成25年4月30日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年10月1日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成26年2月7日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

2 本件補正の適否
(1)本件補正の内容
平成26年2月7日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正により補正される前の(すなわち、平成25年4月30日付けで提出された手続補正書で補正された)下記アの請求項1の記載を、下記イに示す請求項1の記載へ補正するものである。
ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
ガス状燃料・空気混合気に点火するために主燃焼室内または予燃焼室内に突出している少なくとも1つの点火装置を有する、ガス状燃料・空気混合気を燃焼させるためのガスエンジンであって、前記点火装置(2)は高圧ガス噴射器(4)と、熱用シールド(6)を有する加熱部材(5)とを含み、前記高圧ガス噴射器(4)に関する前記加熱部材(5)の配置が選択され、それによって前記高圧ガス噴射器(4)を用いて供給されるガス状燃料が前記加熱部材(5)の領域で体積(7)を決定し、当該体積においては、前記加熱部材(5)は開始プロセスにあたり、高圧縮されたガス状燃料に点火するために自己点火温度を能動的に提供することが可能であり、その結果、高圧縮されたガス状自己点火式燃料はふたたび、前記主燃焼室(1)に供給される量のガスの点火装置として機能しうることを特徴とするガスエンジン。」
イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
ガス状燃料・空気混合気に点火するために主燃焼室内または予燃焼室内に突出している少なくとも1つの点火装置を有する、ガス状燃料・空気混合気を燃焼させるためのガスエンジンであって、
前記点火装置(2)は高圧ガス噴射器(4)と、熱用シールド(6)を有すると共に予燃焼室(3)内に突出している加熱部材(5)とを含み、
開始プロセスにおいて、前記高圧ガス噴射器(4)を用いて供給されるガス状燃料が、前記加熱部材(5)の能動的に自己点火温度になっている表面付近に噴射されることによって、前記予燃焼室(3)内で燃焼されるように、及び、開始プロセスの終了後において、燃焼された前記ガス状燃料の熱エネルギーが前記点火装置(2)内の温度を前記ガス状燃料の自己点火温度に維持することによって、前記加熱部材(5)が点火源として機能するように、前記加熱部材(5)が、前記高圧噴射器(4)に対して配置されており、
運転に用いられる前記ガス状燃料全体の0.5%?1.5%が高圧縮された状態で、前記高圧ガス噴射器(4)によって前記点火装置(2)を通過することを特徴とするガスエンジン。」(下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

(2)本件補正の適否
本件補正の請求項1における補正(以下、「補正事項」という。)について、審判請求書の「〔3〕補正の根拠の明示」「(1)請求項1」において、「同第6?11行において、「前記高圧ガス噴射器(4)に関する前記加熱部材(5)の配置が選択され、それによって前記高圧ガス噴射器(4)を用いて供給されるガス状燃料が前記加熱部材(5)の領域で体積(7)を決定し、当該体積においては、前記加熱部材(5)は開始プロセスにあたり、高圧縮されたガス状燃料に点火するために自己点火温度を能動的に提供することが可能であり、その結果、高圧縮されたガス状自己点火式燃料はふたたび、前記主燃焼室(1)に供給される量のガスの点火装置として機能しうる」との旧記載を削除して、「開始プロセスにおいて、前記高圧ガス噴射器(4)を用いて供給されるガス状燃料が、前記加熱部材(5)の能動的に自己点火温度になっている表面付近に噴射されることによって、前記予燃焼室(3)内で燃焼されるように、及び、開始プロセスの終了後において、燃焼された前記ガス状燃料の熱エネルギーが前記点火装置(2)内の温度を前記ガス状燃料の自己点火温度に維持することによって、前記加熱部材(5)が点火源として機能するように、前記加熱部材(5)が、前記高圧噴射器(4)に対して配置されており」との記載を追加致しました。当該補正は、本願当初明細書段落[0013]及び[0016]の「点火は、少量のガス状燃料を、高圧ガス噴射器(4)によって、加熱部材(5)の高温となっている表面付近に噴射することで実現される。加熱部材(5)の当該表面では、開始プロセスにあたり能動的な加熱が行われ、開始プロセス終了後には当該表面は、燃焼エネルギーによって加熱される蓄熱装置として機能する。」、及び、「受動的な運転においても、加熱部材(5)は点火源として機能する。予燃焼室の点火エネルギーによって供給されたエネルギーは、点火装置(2)を自己点火温度に保つからである(原理:受動的蓄熱装置のキャリア)。」との記載に基づくものです。」と記載するとおり、補正事項は、本件補正前の発明特定事項を削除するとともに、出願当初の明細書の記載に基づく発明特定事項を新たに追加したものである(なお、下線は当審で付した。)。
そこで、最初に、補正事項が特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」に該当するものであるかについて検討すると、本件補正前の発明特定事項である「前記高圧ガス噴射器(4)に関する前記加熱部材(5)の配置が選択され、それによって前記高圧ガス噴射器(4)を用いて供給されるガス状燃料が前記加熱部材(5)の領域で体積(7)を決定し、当該体積においては、」については、本件補正後に削除されており、補正事項が、特許請求の範囲の減縮に該当しないものであることは明らかである。
また、補正事項が、特許法第17条の2第5項第1号に規定する「請求項の削除」及び同条同項第3号に規定する「誤記の訂正」に該当しないものであることも明らかである。
最後に、補正事項が、特許法第17条の2第5項第4号に規定する「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」に該当するものであるかについて以下に検討する。
平成24年10月26日付け拒絶理由通知書(審査段階における拒絶理由通知書)の理由1として、以下の事項が指摘されている。
「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。・・・2)請求項1に記載の「高圧ガス噴射器に関する加熱部材の配置が選択され、それによって高圧ガス噴射器を用いて供給されるガス状燃料が加熱部材の領域で体積を決定し、当該体積においては、加熱部材は開始プロセスにあたり、高圧縮されたガス状燃料に点火するために自己点火温度を能動的に提供することが可能であり、その結果、高圧縮されたガス状自己点火式燃料はふたたび、主燃焼室に供給される量のガスの点火装置として機能しうる」ことの意味を理解することができない。(該記載は文意不明であり、日本語として不適切であると考えられる。)」
そうすると、補正事項は、上記拒絶理由通知書において不明確であるとされた発明特定事項を削除するものということができるので、その場合にあっては、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するといえる。

(3)まとめ
したがって、本件補正は、明りょうでない記載の釈明を目的とする補正事項を含むものであって、適法になされたものである。

3 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記2(1)イのとおりである。

4 引用文献
(1)引用文献1
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶理由に引用された刊行物である特開2004-3458号公報(以下、「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
主燃焼室(7)から分離されている予燃焼室(4)が、少なくとも1つの開口部(6)により前記主燃焼室(7)と互いに連結し、前記主燃焼室(7)が、低圧の燃料ガス導管と連結し、前記予燃焼室(4)が、高圧の燃料ガス導管と連結し、燃料/空気からなる混合気が、圧縮燃料/空気からなる混合気を点火するために、前記予燃焼室(4)から前記主燃焼室(7)内へブロー流出され、ガス状燃料の圧縮混合気を使用して自己点火を行うための内燃機関において、
前記予燃焼室(4)が、シリンダヘッド(5)に装着された差込み機器(1)内に形成され、前記差込み機器(1)に、高圧の燃料ガス導管に接続するノズル(10)が配置され、前記燃料ガスは前記ノズル(10)を通して前記予燃焼室(4)内へ噴射され、前記差込み機器(1)に少なくとも1つのブロー流出用開口部(6)が設けられ、該ブロー流出用開口部(6)により前記予燃焼室(4)と前記主燃焼室(7)が連結していることを特徴とする内燃機関。
・・・
【請求項3】
前記差込み機器(1)に、前記予燃焼室(4)の中まで達するグロープラグ(2)が設けられ、該グロープラグの少なくとも一部の箇所が高温に耐え得るシールド(3)によって取り囲まれていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の圧縮混合気を使用して自己点火を行うための内燃機関。
・・・
【請求項6】
ガス状の燃料が、予燃焼室に送入され、予燃焼室において燃料成分を多く含む燃料/空気からなる混合気が作られ、主燃焼室内へ吸入されるが、ここでガス状の前記燃料が、前記主燃焼室における最終圧縮圧力を超える圧力の下で前記予燃焼室内へ噴射される内燃機関を作動させる方法であって、作動に使用されるガス状の前記燃料全量の0.5%未満が、高圧に圧縮されて前記予燃焼室内へ噴射されることを特徴とする、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の圧縮混合気を使用して自己点火を行うための内燃機関の作動方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項6】)

イ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、高圧の下に圧縮されて予燃焼室内に噴射される燃料ガスの比率を現在の技術水準に対して著しく減少させることにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、本発明の請求項1に記載の新規な構造的手段により解決され、特に、請求項6に記載の方法によって実現される。
【0006】
本発明の内燃機関において、耐熱保護プレートが有利に働いてガス噴射用バルブの運転温度が低下し、長期にわたる耐久性が得られる。
【0007】
グロープラグピンに有効に働く特殊な取り囲みを施すことにより、予燃焼室における混合気の点火を確実に行うことができるようになり、グロープラグの耐久性が高められる。
【0008】
絞りプラグノズルを有利に使用することにより自己洗浄効果が得られるので、予燃焼室内へガスを噴射させるときに絞りプラグノズルが有効に働いて作動時間中、一定の条件が保たれる。
【0009】
本発明により予燃焼室内の体積と主燃焼室に至る吹出し開口部の断面積との比率を予め定めることによりサイクル変動が減少する結果、内燃機関の作動を安定して調整できる有利な性質が得られる。
【0010】
本発明に従って簡単な構成部品を配置することにより、有利に作動するガス噴射用バルブを特に好都合に実現させることができる。
【0011】
予燃焼室におけるガス比率を、好適には、約0.2?0.3%の間に調整することにより、作動値と作動挙動が最高の水準に達する。
【0012】
本発明に従って予燃焼室におけるガス量を減少させることにより、結果として圧縮に要する仕事が減少するが、そのために内燃機関の実質的な効率が有利に高められる。
他の特徴および有利な特性は、従属請求項および発明の説明に記載されている。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下は実施された例に基づいて本発明を詳しく説明するものである。
【0014】
シリンダおよび燃焼室にはガスを交換するために通常使用される装置およびピストンが設けられているが、図示していない。シリンダヘッド5は、図の端を切断した形で示されているが、この中に差込み機器1が装着され、例えば、ねじ込みによって挿入される。差込み機器1には予燃焼室4が設けられ、この予燃焼室は、好適には、2つ以上の移送用開口部6により主燃焼室7と連通している。
【0015】
高圧下において、燃料ガスは、ノズルを、好適には、絞りプラグノズル10を通して予燃焼室4内に送入され、ここでジェット流8が形成される。ジェット流の特性により燃料ガスは、予燃焼室4内に存在する燃料/空気からなる混合気と非常に強く混ざりあうが、その後に加熱されたグロープラグピンの表面上で点火されるか、または自己点火される。その結果、予燃焼室4内で急速な圧力の上昇が起こり、そのために主燃焼室7においてより希薄になっている燃料/空気からなる混合気に対して安定した点火を確実に行うことができる。絞りプラグノズル10を有利に使用することにより、上記長所のほかにも自己清浄効果が得られ、そのためにノズルの吹出し断面に付着するコークスの生成が抑制される。
・・・
【0018】
燃料/空気からなる混合気を予燃焼室4内で点火するためにグロープラグ2を設けることができるが、このグロープラグはグローピンによって予燃焼室4内に差し込まれている。シールド3が、グロープラグのグローピンを取り囲み、適切な開口部または穿孔部を設けていることは長所であり、このために予燃焼室4を掃気している間に強制対流による熱の移動が減少してグローピンの表面温度を上昇させることができる。始動過程において、部分負荷が低い状態のときに、予燃焼室4において混合気を自己点火させる温度が常に確実に得られ、より高い負荷においてグロープラグ2の加熱効率を零にまで低下させることができる。この処置を施すことによってグロープラグの耐久性が明らかに高められるが、それはグロープラグの加熱スパイラルが定常的な熱負荷を受けないからである。シールド3に開口部をうまく配置することによって、点火が可能な混合気を、シールド3とグローピンとの間に送り込むことができる。グロープラグ2のシールド3は、高温に耐え得る材料を用いて製造しなければならないが、さらに性能を高めるためには触媒を用いて層状の材料にする。
【0019】
燃料ガスを自己点火させると予燃焼室内の圧力が急速に上昇するために、部分的に燃焼したガスが、移送用開口部6を通過して主燃焼室7内へブロー流出され、主燃焼室内で燃料/空気からなる混合気が点火される。予燃焼室4の体積と移送用開口部6における断面積との比率を予め定めることにより、次に位置する主燃焼室7内への吹出しが強力になるために、予燃焼室4内の圧力を最適な値まで上昇させることができ、その結果、主燃焼室7内で燃料/空気からなる混合気を有利に安定に点火することができる。主燃焼室7内で、確実にして安定な点火を行わせることに基づいて、本発明の内燃機関を備えた燃焼方法を使用することにより、サイクル変動はごく僅かしか起こらない。予燃焼室の体積と移送用開口部における吹出し断面積との比率は、好適には、50?80cm^(3)/cm^(2)(立方センチメートル/平方センチメートル)の間にあることが好ましい。
【0020】
本発明の内燃機関を作動させる方法において、作動に使用されるガス状の燃料全体の0.5%未満、好適には、0.2?0.3%が、高圧に圧縮されて予燃焼室内へ噴射される。予燃焼室内へ噴射されるガス状燃料の圧力は、主燃焼室に吸入されている燃料/空気からなる混合気の最終圧縮圧力よりも高くなるようにする。予燃焼室内で燃料成分を多く含む燃料/空気からなる混合気が作られ、この混合気が主燃焼室内へ流入し、この主燃焼室内で燃料成分の少ない燃料/空気からなる圧縮混合気の点火が行われる。」(段落【0004】ないし【0020】)

(2)引用文献に記載された事項
ア 図1を参照すると、差込み機器(1)が主燃焼室(7)内に突出し、グロープラグ(2)が予燃焼室(4)内に突出していることが看取できる。

イ 上記(2)アに加え、上記(1)アの【請求項1】及び上記(1)イの段落【0015】及び【0018】の記載から、ガス状燃料・空気混合気を点火するために主燃焼室(7)内に突出している差込み機器(1)を有する、ガス状燃料・空気混合気を燃焼させるための内燃機関であることが分かる。

ウ 上記(1)イの段落【0015】における「燃料ガスは、ノズルを、好適には、絞りプラグノズル10を通して予燃焼室4内に送入され、ここでジェット流8が形成される。ジェット流の特性により燃料ガスは、予燃焼室4内に存在する燃料/空気からなる混合気と非常に強く混ざりあうが、その後に加熱されたグロープラグピンの表面上で点火されるか、または自己点火される。」という記載、上記(1)イの段落【0018】における「・・・シールド3が、グロープラグのグローピンを取り囲み、適切な開口部または穿孔部を設けている・・・シールド3に開口部をうまく配置することによって、点火が可能な混合気を、シールド3とグローピンとの間に送り込むことができる。」という記載、及び上記(1)イの段落【0018】における「始動過程において、部分負荷が低い状態のときに、予燃焼室4において混合気を自己点火させる温度が常に確実に得られ、より高い負荷においてグロープラグ2の加熱効率を零にまで低下させることができる。」という記載、並びに図1の記載から、ノズル(10)を用いて供給されるガス状燃料が、グロープラグ(2)の能動的に自己点火温度になっている表面付近に噴射されることによって、予燃焼室(4)内で燃焼されることが分かる。

(3)引用文献に記載された発明
上記(1)及び(2)並びに図1の記載を総合すると、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「ガス状燃料・空気混合気を点火するために主燃焼室(7)内に突出している差込み機器(1)を有する、ガス状燃料・空気混合気を燃焼させるための内燃機関であって、
差込み機器(1)はノズル(10)と、シールド(3)を有すると共に予燃焼室(4)内に突出しているグロープラグ(2)とを含み、
ノズル(10)を用いて供給されるガス状燃料が、グロープラグ(2)の能動的に自己点火温度になっている表面付近に噴射されることによって、予燃焼室(4)内で燃焼されるようになっており、
作動に使用されるガス状の燃料全体の0.5%未満、好適には、0.2?0.3%が、高圧に圧縮されて予燃焼室内へ噴射される内燃機関。」

4 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「ガス状燃料・空気混合気を点火するために主燃焼室(7)内に突出している差込み機器(1)」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、本願発明における「ガス状燃料・空気混合気に点火するために主燃焼室内または予燃焼室内に突出している少なくとも1つの点火装置」に相当し、以下同様に、「内燃機関」は「ガスエンジン」に、「差込み機器(1)」は「点火装置(2)」に、「ノズル(10)」は「高圧ガス噴射器(4)」に、「シールド(3)」は「熱用シールド(6)」に、「予燃焼室(4)」は「予燃焼室(3)」に、「グロープラグ(2)」は「加熱部材(5)」にそれぞれ相当する。
また、引用発明における「ノズル(10)を用いて供給されるガス状燃料が、グロープラグ(2)の能動的に自己点火温度になっている表面付近に噴射されることによって、予燃焼室(4)内で燃焼されるようになっており、作動に使用されるガス状の燃料全体の0.5%未満、好適には、0.2?0.3%が、高圧に圧縮されて予燃焼室内へ噴射される」は、「高圧ガス噴射器を用いて供給されるガス状燃料が、加熱部材の能動的に自己点火温度になっている表面付近に噴射されることによって、予燃焼室内で燃焼される」という限りにおいて、本願発明における「開始プロセスにおいて、前記高圧ガス噴射器(4)を用いて供給されるガス状燃料が、前記加熱部材(5)の能動的に自己点火温度になっている表面付近に噴射されることによって、前記予燃焼室(3)内で燃焼されるように、及び、開始プロセスの終了後において、燃焼された前記ガス状燃料の熱エネルギーが前記点火装置(2)内の温度を前記ガス状燃料の自己点火温度に維持することによって、前記加熱部材(5)が点火源として機能するように、前記加熱部材(5)が、前記高圧噴射器(4)に対して配置されており、運転に用いられる前記ガス状燃料全体の0.5%?1.5%が高圧縮された状態で、前記高圧ガス噴射器(4)によって前記点火装置(2)を通過する」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明は、
「ガス状燃料・空気混合気に点火するために主燃焼室内または予燃焼室内に突出している少なくとも1つの点火装置を有する、ガス状燃料・空気混合気を燃焼させるためのガスエンジンであって、
点火装置は高圧ガス噴射器と、熱用シールドを有すると共に予燃焼室内に突出している加熱部材とを含み、
高圧ガス噴射器を用いて供給されるガス状燃料が、加熱部材の能動的に自己点火温度になっている表面付近に噴射されることによって、予燃焼室内で燃焼されるエンジン。」の点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
高圧ガス噴射器を用いて供給されるガス状燃料が、加熱部材の能動的に自己点火温度になっている表面付近に噴射されることによって、予燃焼室内で燃焼されることに関して、本願発明においては、「開始プロセスにおいて、前記高圧ガス噴射器(4)を用いて供給されるガス状燃料が、前記加熱部材(5)の能動的に自己点火温度になっている表面付近に噴射されることによって、前記予燃焼室(3)内で燃焼されるように、及び、開始プロセスの終了後において、燃焼された前記ガス状燃料の熱エネルギーが前記点火装置(2)内の温度を前記ガス状燃料の自己点火温度に維持することによって、前記加熱部材(5)が点火源として機能するように、前記加熱部材(5)が、前記高圧噴射器(4)に対して配置されており」であるのに対し、引用発明においては、「ノズル(10)を用いて供給されるガス状燃料が、グロープラグ(2)の能動的に自己点火温度になっている表面付近に噴射されることによって、予燃焼室(4)内で燃焼される」ものの、他の本願発明における技術的事項を有しているかについては不明である点(以下、「相違点1」という。)。
(相違点2)
高圧ガス噴射器を用いて供給されるガス状燃料が、加熱部材の能動的に自己点火温度になっている表面付近に噴射されることによって、予燃焼室内で燃焼されることに関して、本願発明においては、「運転に用いられる前記ガス状燃料全体の0.5%?1.5%が高圧縮された状態で、前記高圧ガス噴射器(4)によって前記点火装置(2)を通過する」ものであるのに対し、引用発明においては、「作動に使用されるガス状の燃料全体の0.5%未満、好適には、0.2?0.3%が、高圧に圧縮されて予燃焼室内へ噴射される」ものである点(以下、「相違点2」という。)。

5 判断
(1)相違点1について
引用発明は、本願発明と同様に、高圧ガス噴射器を用いて供給されるガス状燃料が、加熱部材の能動的に自己点火温度になっている表面付近に噴射されることによって、予燃焼室内で燃焼されるという共通の技術的事項を有するものである。そして、引用文献の「始動過程において、部分負荷が低い状態のときに、予燃焼室4において混合気を自己点火させる温度が常に確実に得られ、より高い負荷においてグロープラグ2の加熱効率を零にまで低下させることができる。」(上記4(1)イの段落【0018】)という記載から、引用発明における上記共通の技術的事項は、始動過程及び始動過程終了後の運転、すなわち開始プロセス及び開始プロセス終了後においても当然に採用されるものである。
さらに、引用文献の「部分負荷が低い状態のときに、予燃焼室4において混合気を自己点火させる温度が常に確実に得られ、より高い負荷においてグロープラグ2の加熱効率を零にまで低下させることができる。」(上記4(1)イの段落【0018】)という記載、及び、「燃料ガスは、ノズルを、好適には、絞りプラグノズル10を通して予燃焼室4内に送入され、ここでジェット流8が形成される。ジェット流の特性により燃料ガスは、予燃焼室4内に存在する燃料/空気からなる混合気と非常に強く混ざりあうが、その後に加熱されたグロープラグピンの表面上で点火されるか、または自己点火される。」(上記4(1)イの段落【0015】)という記載から、引用発明における「ノズル(10)」に対する「グロープラグ(2)」の配置が、燃焼されたガス状燃料の熱エネルギーが「差込み機器(1)」(本願発明における「点火装置(2)」に相当。)内の温度をガス状燃料の自己点火温度に維持することによって、「グロープラグ(2)」が点火源として機能するものであることは、当業者において予測可能な範囲内の作用効果、又は引用発明において自明の作用効果であるといえる。また、引用発明において、「ノズル(10)」により形成されるジェット流及び予燃焼室内における燃焼態様を考慮して「ノズル(10)」に対する「グロープラグ(2)」の配置を、燃焼されたガス状燃料の熱エネルギーが「差込み機器(1)」(本願発明における「点火装置(2)」に相当。)内の温度をガス状燃料の自己点火温度に維持することによって、「グロープラグ(2)」が点火源として機能するように適宜設定することは、技術の具体化に際し、当業者が容易になし得る設計事項であるといえる。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではないか、又は、相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明に基づき当業者が容易になし得る設計事項である。

(2)相違点2について
本願発明の「運転に用いられる前記ガス状燃料全体の0.5%?1.5%が高圧縮された状態で、前記高圧ガス噴射器(4)によって前記点火装置(2)を通過する」という発明特定事項について、本願の明細書を参照すると、「【0017】図3の実施例では、点火装置(2)は主燃焼室(1)に組み込まれている。点火を誘導するための点火可能な混合気の体積は、ジェット流拡散(f(t))によって決定されている。ガス状燃料は熱力学的プロセスにおける圧縮最終圧力のほぼ1.5倍から3倍の圧力で体積(7)中に噴射される。このとき、運転に使用されるガス状燃料全体の0.2%?50%が高圧縮されて体積(7)中に噴射されるが、しかしながら好適には運転に使用されるガス状燃料全体量の0.5%?1.5%のみである。」(段落【0017】)と記載されており、上記発明特定事項は、運転に使用されるガス状燃料全体の0.2%?50%が高圧縮されて体積(7)中なる点火装置(2)内の予燃焼室に噴射されるものにおいて、好適な数値範囲として、0.5%?1.5%としたものであることが理解できる。これに対し、相違点2に係る引用発明の事項は、「作動に使用されるガス状の燃料全体の0.5%未満、好適には、0.2?0.3%が、高圧に圧縮されて予燃焼室内へ噴射される」ものであるから、引用発明も本願発明と同様に、高圧縮された状態で、ノズル(19)(本願発明の「高圧ガス噴射器(4)」に相当。)によって差込み機器(1)(本願発明の「点火装置(2)」に相当。)を通過するものといえ、本願発明及び引用発明(以下、「両者」ともいう。)は、「運転に使用されるガス状燃料全体の0.2%?50%が高圧縮された状態で、高圧ガス噴射器によって点火装置を通過する」ことで技術が共通するところ、本願発明においては、「ガス状燃料全体の0.5%?1.5%」であるのに対し、引用発明においては、「ガス状の燃料全体の0.5%未満、好適には、0.2?0.3%」であることで両者は相違するものということができる。
両者は、上記5(1)で述べたとおり、高圧ガス噴射器を用いて供給されるガス状燃料が、加熱部材の能動的に自己点火温度になっている表面付近に噴射されることによって、予燃焼室内で燃焼されることで技術が共通し(以下、「共通の技術事項1」という。)、さらに、運転に使用されるガス状燃料全体の0.2%?50%が高圧縮された状態で、高圧ガス噴射器によって点火装置を通過することでも技術が共通しており(以下、「共通の技術事項2」という。)、共通の技術事項1及び2から導出される作用効果は同様であるといえる。そして、本願の明細書又は図面を参照しても、「ガス状燃料全体の0.2%?50%」の範囲に対し、本願発明における「ガス状燃料全体の0.5%?1.5%」の数値範囲が、際だって優れた効果を奏する範囲であることは把握できない。そうすると、実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮であるから、相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明に基づき、当業者が容易になし得る設計事項である。

(3)効果等について
本願発明は、全体として検討しても、引用発明から、当業者が予測することができる以上の格別顕著な効果を奏するものではない。

(4)まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6 むすび
上記のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-07 
結審通知日 2015-01-13 
審決日 2015-01-26 
出願番号 特願2008-312577(P2008-312577)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 淳  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 藤原 直欣
槙原 進
発明の名称 ガスエンジン、特にガス状の燃料・空気混合気を点火するための点火装置を備えたガスオットーエンジン  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
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