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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03B |
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管理番号 | 1302093 |
審判番号 | 不服2014-10363 |
総通号数 | 188 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-08-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-06-03 |
確定日 | 2015-06-18 |
事件の表示 | 特願2012-215485「表示装置及び投写型照明装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年1月10日出願公開、特開2013-8062〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続きの経緯 本願は、平成19年2月28日に出願した特願2007-48335号(以下、「原出願」という。)の一部を平成24年9月28日に新たな特許出願としたものであって、平成25年7月18日付けで拒絶理由が通知され、同年25年9月5日付けで意見書が提出されたが、平成26年2月28日付けで拒絶査定がなされた。本件は、これに対して同年6月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。 第2 平成26年6月3日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成26年6月3日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 (1)本件補正後の特許請求の範囲 平成26年6月3日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲を以下のとおり補正することを含むものである(下線は請求人が付与したとおりである。)。 <本件補正後の特許請求の範囲> 「 【請求項1】 光源からの光を所定の方向の偏波成分に変換する偏光変換部と、 前記偏光変換部からの光を変調する第1の光変調部と、 前記第1の光変調部が変調した光を拡大投写する投写部と、 前記第1の光変調部が変調した光を略同一方向に変換する光方向変換部と、 前記第1の光変調部よりサイズ及び精細度が大きく、前記光方向変換部からの光を変調する第2の光変調部と、を備え、 前記第1の光変調部と前記第2の光変調部のいずれか一方は、前記投写部の光軸に対して傾けて配置され、前記第1の光変調部の光が前記光方向変換部に対して斜め方向から入射する構成を成し、 前記投写部は、前記第1の光変調部から前記第2の光変調部に向かって順に、 第1のレンズ群と、 少なくとも回転非対称なレンズ面を1面有するレンズを含む第2のレンズ群と、 回転非対称な反射面を含む反射ミラーと、を有し、 前記光方向変換部は、屈折領域と全反射領域を含むフレネルレンズである、表示装置。 【請求項2】 前記反射ミラーの画面垂直方向の前記第1の光変調部に近い側の有効断面寸法と、前記反射ミラーの画面垂直方向の前記第1の光変調部に遠い側の有効断面寸法は異なる、請求項1記載の表示装置。 【請求項3】 前記反射ミラーと前記第1の光変調部との間に平面ミラーが少なくとも1枚配置される、請求項1記載の表示装置。 【請求項4】 前記光源からの光束を複数の光束に分割するための、複数の凸レンズを二次元的に配列した第1のレンズ素子と、 前記第1のレンズ素子に対向して設けられた第2のレンズ素子と、を更に備え、 前記偏光変換部は、前記第2のレンズ素子から出射された複数の光束を所定の方向の偏波成分に変換する、請求項1乃至3何れか一に記載の表示装置。 【請求項5】 前記光源からの光束を集光する集光部と、 前記集光部が集光した光束が入射する四面の反射面を有するライトファネルと、を更に備え、 前記ライトファネルからの光が前記第1のレンズ素子に入射し、 前記偏光変換部は、前記ライトファネルと前記第1の光変調部との間に配置される、請求項4記載の表示装置。 【請求項6】 前記第1の光変調部の画面表示有効領域対角寸法をL1、前記第2の光変調部の画面表示有効領域対角寸法をL2とすると、10<L2/L1<150を満たす、請求項1乃至5何れか一に記載の表示装置。 【請求項7】 前記光方向変換部は、前記投写部からの光を前記第2の光変調部の入射面に略垂直に入射させる、請求項1乃至6何れか一に記載の表示装置。 【請求項8】 前記第1の光変調部はTN型液晶パネルであり、前記第2の光変調部はTFT型液晶パネルである、請求項1乃至7何れか一に記載の表示装置。 【請求項9】 前記光源は、白色高圧水銀ランプ、発光ダイオード、半導体レーザのうち、何れか一つである、請求項1乃至8何れか一に記載の表示装置。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の特許請求の範囲は、願書に最初に添付した特許請求の範囲により、下記のとおりのものとなっていた。 「 【請求項1】 光源からの光を所定の方向の偏波成分に変換する偏光変換部と、 前記偏光変換部からの光を変調する第1の光変調部と、 前記第1の光変調部が変調した光を拡大投写する投写部と、 前記投写部が拡大した光を略同一方向に変換する光方向変換部と、 前記第1の光変調部よりサイズ及び精細度が大きく、前記光方向変換部からの光を変調する第2の光変調部と、を備え、 前記投写部は、前記第1の光変調部から前記第2の光変調部に向かって順に、 第1のレンズ群と、 少なくとも回転非対称なレンズ面を1面有するレンズを含む第2のレンズ群と、 回転非対称な反射面を含む反射ミラーと、を有し、 前記光方向変換部は、屈折領域と全反射領域を含むフレネルレンズである、表示装置。 【請求項2】 前記反射ミラーの画面垂直方向の前記第1の光変調部に近い側の有効断面寸法と、前記反射ミラーの画面垂直方向の前記第1の光変調部に遠い側の有効断面寸法は異なる、請求項1記載の表示装置。 【請求項3】 前記反射ミラーと前記第1の光変調部との間に平面ミラーが少なくとも1枚配置される、請求項1記載の表示装置。 【請求項4】 前記光源からの光束を複数の光束に分割するための、複数の凸レンズを二次元的に配列した第1のレンズ素子と、 前記第1のレンズ素子に対向して設けられた第2のレンズ素子と、を更に備え、 前記偏光変換部は、前記第2のレンズ素子から出射された複数の光束を所定の方向の偏波成分に変換する、請求項1乃至3何れか一に記載の表示装置。 【請求項5】 前記光源からの光束を集光する集光部と、 前記集光部が集光した光束が入射する四面の反射面を有するライトファネルと、を更に備え、 前記ライトファネルからの光が前記第1のレンズ素子に入射し、 前記偏光変換部は、前記ライトファネルと前記第1の光変調部との間に配置される、請求項4記載の表示装置。 【請求項6】 前記第1の光変調部の画面表示有効領域対角寸法をL1、前記第2の光変調部の画面表示有効領域対角寸法をL2とすると、10<L2/L1<150を満たす、請求項1乃至5何れか一に記載の表示装置。 【請求項7】 前記光方向変換部は、前記投写部からの光を前記第2の光変調部の入射面に略垂直に入射させる、請求項1乃至6何れか一に記載の表示装置。 【請求項8】 前記第1の光変調部はTN型液晶パネルであり、前記第2の光変調部はTFT型液晶パネルである、請求項1乃至7何れか一に記載の表示装置。 【請求項9】 前記光源は、白色高圧水銀ランプ、発光ダイオード、半導体レーザのうち、何れか一つである、請求項1乃至8何れか一に記載の表示装置。」 (3)請求項1についての補正事項 本件補正後の請求項1と本件補正前の請求項1を対比すると、本件補正による請求項1に係る補正は下記の補正事項よりなる。 ア 本件補正前の「前記投写部が拡大した光を略同一方向に変換する光方向変換部」との記載を「前記第1の光変調部が変調した光を略同一方向に変換する光方向変換部」と補正すること イ 「前記投写部は」との記載の前に「前記第1の光変調部と前記第2の光変調部のいずれか一方は、前記投写部の光軸に対して傾けて配置され、前記第1の光変調部の光が前記光方向変換部に対して斜め方向から入射する構成を成し、」との記載を挿入すること 2 本件補正の目的 ア 補正事項アについて 本件補正前の請求項1において、第1の光変調部が変調した光は投写部により拡大投写されるものであるから、光方向変換部によって略同一方向に変換される投写部が拡大した光は、第1の光変調部が変調した光であるともいえる。 また、本件補正後の請求項1において、第2の光変調部は第1の光変調部よりサイズが大きく、光方向変換部が拡大された光を略同一方向に変換する機能を有することは技術常識であるから、光方向変換部によって略同一方向に変換される第1の光変調部が変調した光は、投写部によって拡大投写された光投写部が拡大した光であるともいえる。 そうすると、補正事項アは実質的な補正ではない。 イ 補正事項イについて 補正事項イは、第1の光変調部と第2の光変調部のいずれか一方の配置を限定するものである。 したがって、補正項1に係る補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。 3 独立特許要件違反 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (1)本願補正発明の認定 本願補正発明は、上記1において、補正後のものとして記載したとおりのものと認める。 (2)刊行物、各刊行物の記載事項及び引用発明の認定 ア 原査定の拒絶の理由に引用され、原出願の出願前に頒布された刊行物である、特開2005-234539号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線部は当審による。)。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、複数の光変調素子を介して光源からの光を変調する光学系に適用される構造および装置、並びに方法に係り、特に、輝度ダイナミックレンジおよび階調数の拡大を実現し、視野角の低下を防止するとともに画質を向上するのに好適な光学系の光伝搬構造、光学表示装置および光変調素子に関する。」 (イ)「【0052】 本実施の形態は、本発明に係る光学系の光伝搬構造、光学表示装置および光変調素子を、図1に示すように、投射型表示装置100に適用したものである。 【0053】 まず、投射型表示装置100の構成を図1を参照しながら説明する。 【0054】 図1は、投射型表示装置100のハードウェア構成を示すブロック図である。 【0055】 投射型表示装置100は、図1に示すように、光源10と、光源10から入射した光の輝度分布を均一化する輝度分布均一化部12と、輝度分布均一化部12から入射した光の全波長領域の輝度を変調する輝度変調部14と、輝度変調部14から入射した光を投射する投射部16と、投射部16から入射した光の波長領域のうちRGB3原色の輝度をそれぞれ変調する色変調部18とで構成されている。 【0056】 光源10は、高圧水銀ランプ等のランプ10aと、ランプ10aからの出射光を反射するリフレクタ10bとで構成されている。 【0057】 輝度変調部14は、透過率を独立に制御可能な複数の画素をマトリクス状に配列した液晶ライトバルブ14aと、フィールドレンズ14bとで構成されている。そして、輝度分布均一化部12からの光をフィールドレンズ14bを介して入射し、入射した光の全波長領域の輝度を液晶ライトバルブ14aにより変調し、変調した光を投射部16に出射する。 【0058】 液晶ライトバルブ14aは、画素電極およびこれを駆動するための薄膜トランジスタ素子や薄膜ダイオード等のスイッチング素子がマトリクス状に形成されたガラス基板と、全面にわたって共通電極が形成されたガラス基板との間にTN型液晶を挟み込むとともに、外面に偏光板を配置したアクティブマトリックス型の液晶表示素子である。液晶ライトバルブ14aは、電圧非印加状態で白/明(透過)状態、電圧印加状態で黒/暗(非透過)状態となるノーマリーホワイトモードまたはその逆のノーマリーブラックモードで駆動され、与えられた制御値に応じて明暗間の階調がアナログ制御される。 【0059】 輝度分布均一化部12は、2枚のフライアイレンズ12a,12bと、偏光変換素子12cと、集光レンズ12dとで構成されている。そして、光源10からの光の輝度分布をフライアイレンズ12a,12bにより均一化し、均一化した光を偏光変換素子12cにより液晶ライトバルブ14aの入射可能振幅方向に偏光し、偏光した光を集光レンズ12dにより集光して輝度変調部14に出射する。 【0060】 偏光変換素子12cは、例えば、PBSアレイと、1/2波長板とで構成されている。波長板は、特定の波長の光が通過する際、S偏光とP偏光との間に位相差が生じる複屈折素子である。特定の波長に対応してそれぞれに厚みを設定して人工水晶を研磨し、各々の結晶の光学軸が直交するように貼り合わせてある。1/2波長板は、直線偏光をそれと直交する直線偏光に変換し、その位相差を180°(π)にするものである。 【0061】 色変調部18は、透過率を独立に制御可能な複数の画素をマトリクス状に配列しかつ液晶ライトバルブ14aよりも高い解像度を有するカラー液晶パネル30と、カラー液晶パネル30の光入射面に密着して設けられた光拡散部材32と、光拡散部材32の光入射側に設けられたフレネルレンズ34とで構成されている。そして、投射部16からの光をフレネルレンズ34により平行化し、フレネルレンズ34からの光を光拡散部材32により拡散し、光拡散部材32からの光の波長領域のうちRGB3原色の輝度をそれぞれカラー液晶パネル30により変調する。フレネルレンズ34で光を平行化することにより、表示画像に輝度ムラが生じるのを抑制することができる。」 (ウ)図1は次のとおりのものである。 図1より、液晶ライトバルブ14aから順に、投射部16、カラー液晶パネル30が配置されていることが看取できる。 (エ)上記(ア)ないし(ウ)によれば、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「光源10から入射した光の輝度分布を均一化する輝度分布均一化部12であって、2枚のフライアイレンズ12a,12bと、偏光変換素子12cと、集光レンズ12dとで構成され、光源10からの光の輝度分布をフライアイレンズ12a,12bにより均一化し、前記均一化した光を前記偏光変換素子12cにより液晶ライトバルブ14aの入射可能振幅方向に偏光する、前記輝度分布均一化部12と、 前記輝度分布均一化部12から入射した光の全波長領域の輝度を変調する輝度変調部14であって、透過率を独立に制御可能な複数の画素をマトリクス状に配列した前記液晶ライトバルブ14aと、フィールドレンズ14bとで構成され、前記輝度分布均一化部12からの光をフィールドレンズ14bを介して入射し、前記入射した光の全波長領域の輝度を前記液晶ライトバルブ14aにより変調する、前記輝度変調部14と、 前記輝度変調部14から入射した光を投射する投射部16と、 前記投射部16から入射した光の波長領域のうちRGB3原色の輝度をそれぞれ変調する色変調部18であって、透過率を独立に制御可能な複数の画素をマトリクス状に配列しかつ前記液晶ライトバルブ14aよりも高い解像度を有するカラー液晶パネル30と、前記カラー液晶パネル30の光入射面に密着して設けられた光拡散部材32と、光拡散部材32の光入射側に設けられたフレネルレンズ34とで構成され、前記投射部16からの光を前記フレネルレンズ34により平行化する、前記色変調部18と、 で構成されている、投射型表示装置100。」 イ 原査定の拒絶の理由に引用され、原出願の出願前に頒布された刊行物である、特開2006-292901号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている(下線部は当審による。)。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 投写型映像表示装置において、 映像表示素子と、スクリーンと、前記映像表示素子に表示された映像を拡大して、前記スクリーンの主平面の法線に対し所定の角度で投写するための、複数のレンズを含む投写レンズと、を備え、 前記投写レンズは、光の出射方向に凹を向けた回転非対称の形状を持つ面を有する少なくとも1つの非対称レンズを含むことを特徴とする投写型映像表示装置。」 (イ)「【0014】 図1に示すように、画像表示素子1から射出した光は、複数のレンズで構成される第1の光学系に入射される。第1の光学系は、前群2と後群3を含む。画像表示素子1からの光は、まず回転対称な面形状を有する複数の屈折レンズを含む前群2を通過する。その後、少なくとも一方の面が回転対称でない(回転非対称の)自由曲面の形状を有する2枚のレンズを含む後群3を通過する。そして、回転対称でない自由曲面形状の反射面を有する反射鏡(以下、自由曲面ミラーと言う)4を少なくとも一つを含む第2の光学系で反射された後、平面の反射面を有する背面ミラー5で反射されてスクリーン6に入射する。 【0015】 ここで上記画像表示素子1は、自発光型でもよく、また液晶パネルのような透過型でもよい。透過型の場合に必要な、液晶パネルを照射するランプ等については、本実施形態の特徴に直接的に関係しないため、その図示を省略している。また、画像表示素子1は、所謂3板式のように複数の画を合成する方式でもよい。その場合、映像合成用のプリズム等が必要となるが、これも同様にその図示も省略している。 【0016】 本実施形態では、図1に示すように、上記画像表示素子1は、その表示画面の中央が上記第1の光学系の光軸上に配置されている。従って、上記画像表示素子1の表示画面の中央から出て上記第1光学系の入射瞳の中央を通ってスクリーン6上の画面中央に向かう光線11は、ほぼ上記第1の光学系の光軸に沿って進む(以下、これを画面中央光線という)。この画面中央光線は、上記第2の光学系の自由曲面形状を有する反射面4上の点P2で反射された後、背面ミラー5上の点P5で反射されて、スクリーン6上画面中央の点P8にスクリーンの法線8に対して、スクリーン6の下方から斜めに入射している。この角度を以下、「斜め入射角度」と称し、θsで表わすこととする。このことはすなわち、前記第1の光学系の光軸に沿って通過した光線がスクリーンに対して斜めに入射していることで、実質的に第1の光学系の光軸がスクリーンに対して斜めに設けられていることになる。このような方法でスクリーンに斜め入射させると、投写した長方形の形状が台形になる所謂台形歪の他にも光軸に対して回転対称でない種々の収差が生じ、これを前記第1の光学系の後群と前記第2の光学系の反射面とで補正するものである。」 (ウ)「【0026】 一方、前記画像表示素子1は、その表示画面の中央を前記第1の光学系の光軸上に配置されているが、当該表示画面の法線は前記第1の光学系の光軸に対して傾けて配置するのが望ましい。図1を見ると、前にも述べように、点P3から点P6を経由して点P9に到る光路長は、点P1から点P4を経由して点P7に到る光路長よりも長くなっている。これは、第1の光学系から見て、スクリーン上の像点P9が像点P7よりも遠くにあることを意味している。そこで、スクリーン上の像点P9に対応する物点(表示画面上の点)がより第1の光学系に近い点に、また、像点P7に対応する物点がより第1の光学系から遠い点にあれば、像面の傾きを補正できる。そのためには、前記画像表示素子1の表示画面中央の法線ベクトルを、スクリーン6の法線と画面中央光線を含む平面内において、第1光学系の光軸に対し傾けるようにする。そして、その傾斜の方向を、スクリーン6が位置する方向とすればよい。 【0027】 光軸に対して傾いた像平面を得るのに物平面を傾ける方法は知られているが、実用的な大きさの画角では物平面の傾きによる像面は、光軸に対して非対称な変形を生じ、回転対称な投写レンズでは補正が困難であった。本実施形態では、回転非対称の自由曲面レンズを用いているため、非対称な像面の変形に対応できる。このため、物平面を傾けること、すなわち映像表示素子の表示面を傾けることで低次の像面の歪を大きく低減でき、自由曲面による収差補正を補助する上で効果的である。」 (エ)上記(ア)ないし(ウ)によれば、引用文献2に、以下の事項が記載されていると認められる(以下「引用文献2に記載された事項」という。)。 「画像表示素子1は、その表示画面の中央を第1の光学系の光軸上に配置されているが、当該表示画面の法線は前記第1の光学系の光軸に対して傾けて配置し、画像表示素子1から射出した光は、複数のレンズで構成される第1の光学系に入射され、第1の光学系は、前群2と後群3を含み、画像表示素子1からの光は、まず回転対称な面形状を有する複数の屈折レンズを含む前群2を通過し、その後、少なくとも一方の面が回転対称でない(回転非対称の)自由曲面の形状を有する2枚のレンズを含む後群3を通過し、そして、回転対称でない自由曲面形状の反射面を有する反射鏡(以下、自由曲面ミラーと言う)4を少なくとも一つを含む第2の光学系で反射された後、平面の反射面を有する背面ミラー5で反射されてスクリーン6に入射する、投写型映像表示装置。」 ウ 原査定の拒絶の理由に引用され、原出願の出願前に頒布された刊行物である、国際公開第2004/049059号(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている(下線部は当審による。)。 (ア)第5頁第5行?第8行 「第1図は、この発明の実施の形態1に係る透過型スクリーン100を備えた投写型表示装置を示す概略図である。第1図に示すように、この投写型表示装置は、透過型スクリーン100、平面ミラー2、および投写光学系4を備える。」 (イ)第6頁第1行?第5行 「第2図に示すように、透過型スクリーン100は、矩形の屈折全反射板1と、これにほぼ同形同大の矩形の結像表示板3を備える。屈折全反射板1は、フレネルレンズ状であって、平面ミラー2から進行する光が入射する側に同心円状の多数の輪体が形成され(第1図の断面図では鋸歯状になっている)、その反対の面が平面状である。」 (ウ)第10頁第1行?第4行 「屈折全反射板1の下部(鋸歯状の輪体の共通軸線Bに近い内側部分)は屈折領域1Lで構成され、中央部は屈折・全反射領域1Mで構成され、上部(共通軸線Bから遠い外側部分)は全反射領域1Uで構成されている。」 (エ)第35頁第1行?第38頁第6行 「請求の範囲 1.投写光が入射する鋸歯状の入射面と、投写光が出射する出射面とを有するフレネルレンズ状の屈折全反射板と、 前記屈折全反射板から出射した光を結像して投写画像を得る結像表示板とを備え、 前記屈折全反射板の入射面には、投写光を屈折して前記出射面に向けて進行させる複数の屈折射面と、投写光を透過する複数の透過斜面と、前記透過斜面とが、同心円上に形成されており、 前記屈折全反射板は散乱粒子が分散されていない透明材料から形成されている透過型スクリーン。 ・・・中略・・・ 15.進行するにつれて拡大する投写光束を発する投写光学系と、 請求の範囲第1項記載の透過型スクリーンと、 前記投写光学系からの投写光束を前記透過型スクリーンに向けて反射する平面ミラーとを備え、 前記投写光学系は前記透過型スクリーンおよび前記平面ミラーの間でかつ下方に配置されていることを特徴とする投写型表示装置。」 (オ)上記(ア)ないし(エ)によれば、引用文献3に、以下の事項が記載されていると認められる(以下「引用文献3に記載された事項」という。)。 「投写光学系は透過型スクリーンおよび平面ミラーの間でかつ下方に配置され、屈折全反射板1の下部は屈折領域1Lで構成され、中央部は屈折・全反射領域1Mで構成され、上部は全反射領域1Uで構成されているフレネルレンズ状の前記屈折全反射板1を備えた透過型スクリーン100を備えた投写型表示装置。」 (3)対比・判断 ア 本願補正発明と引用発明を対比する。 (ア)引用発明の「光源10」、「偏光」、「偏光変換素子12c」、「液晶ライトバルブ14a」、「投射」、「投射部16」、「カラー液晶パネル30」及び「投射型表示装置100」は、本願補正発明の「光源」、「偏波成分」、「偏光変換部」、「第1の光変調部」、「投写」、「投写部」、「第2の光変調部」及び「表示装置」にそれぞれ相当する。 (イ)引用発明の「液晶ライトバルブ14aの入射可能振幅方向に偏光」することは、本願補正発明の「所定の方向の偏波成分に変換する」ことに相当する。 ここで、引用発明の輝度分布均一化部12は偏光変換素子12cに加えて2枚のフライアイレンズ12a、12b、集光レンズ12dを含むものの、光源10からの光を偏光変換素子12cにより液晶ライトバルブ14aの入射可能振幅方向に偏光するという機能を有しているので、引用発明の「光源10から入射した光の輝度分布を均一化する輝度分布均一化部12であって、2枚のフライアイレンズ12a,12bと、偏光変換素子12cと、集光レンズ12dとで構成され、光源10からの光の輝度分布をフライアイレンズ12a,12bにより均一化し、前記均一化した光を前記偏光変換素子12cにより液晶ライトバルブ14aの入射可能振幅方向に偏光する、前記輝度分布均一化部12」と本願補正発明の「光源からの光を所定の方向の偏波成分に変換する偏光変換部」は、「光源からの光を所定の方向の偏波成分に変換する偏光変換部」の点で一致する。 (ウ)引用発明の「輝度分布均一化部12」は「偏光変換素子12c」を含むものであるから、引用発明の「輝度分布均一化部12から入射した光」は本願補正発明の「偏光変換素子12cからの光」に相当するといえる。 ここで、引用発明の輝度変調部14は液晶ライトバルブ14aに加えてフィールドレンズ14bを含むものの、液晶ライトバルブ14aにより変調する機能を有しているので、引用発明の「前記輝度分布均一化部12から入射した光の全波長領域の輝度を変調する輝度変調部14であって、透過率を独立に制御可能な複数の画素をマトリクス状に配列した前記液晶ライトバルブ14aと、フィールドレンズ14bとで構成され、前記輝度分布均一化部12からの光をフィールドレンズ14bを介して入射し、前記入射した光の全波長領域の輝度を前記液晶ライトバルブ14aにより変調する、前記輝度変調部14」と本願補正発明の「前記偏光変換部からの光を変調する第1の光変調部」は、「前記偏光変換部からの光を変調する第1の光変調部」の点で一致する。 (エ)引用発明の「輝度変調部14」は「液晶ライトバルブ14a」を含むものである。また、投射部16が拡大投射する機能を有することは明らかである。 そうすると、引用発明の「前記輝度変調部14から入射した光を投射する投射部16」と本願補正発明の「前記第1の光変調部が変調した光を拡大投写する投写部」は、「前記第1の光変調部が変調した光を拡大投写する投写部」の点で一致する。 (オ)引用発明の「フレネルレンズ34」が本願補正発明の「光方向変換部」及び「フレネルレンズ」に相当することは明らかである。 (カ)引用発明の「投射部16からの光をフレネルレンズ34により平行化する」ことにおける「平行化する」ことが、本願補正発明の「略同一方向に変換する」ことに包含されることは明らかである。 (キ)引用発明において、「輝度変調部14」は「液晶ライトバルブ14a」を含み、「投射部16」は「輝度変調部14から入射した光を投射」し、「投射部16からの光」を「フレネルレンズ34により平行化」するものであるから、引用発明において、「フレネルレンズ34により平行化」される光は「液晶ライトバルブ14a」が変調した光といえる。 (ク)引用発明は、液晶ライトバルブ14aから順に、投射部16、カラー液晶パネル30が配置されている。また、上記(エ)で示したように投射部16が拡大投射する機能を有することは明らかであるから、液晶ライトバルブ14aから順に、投射部16、カラー液晶パネル30が配置された引用発明において、「カラー液晶パネル30」が「液晶ライトバルブ14a」よりサイズが大きいことも明らかである。 (ケ)引用発明において、「カラー液晶パネル30」は「液晶ライトバルブ14a」よりも高い解像度を有するので「カラー液晶パネル30」は「液晶ライトバルブ14a」よりも精細度が大きいといえる。 (コ)引用発明において、色変調部18は、「カラー液晶パネル30と、前記カラー液晶パネル30の光入射面に密着して設けられた光拡散部材32と、前記光拡散部材32の光入射側に設けられたフレネルレンズ34とで構成され」ているので、「カラー液晶パネル30」によって変調されるのは「フレネルレンズ34」からの光といえる。 (サ)上記(オ)ないし(コ)より、引用発明の「前記投射部16から入射した光の波長領域のうちRGB3原色の輝度をそれぞれ変調する色変調部18であって、透過率を独立に制御可能な複数の画素をマトリクス状に配列しかつ前記液晶ライトバルブ14aよりも高い解像度を有するカラー液晶パネル30と、前記カラー液晶パネル30の光入射面に密着して設けられた光拡散部材32と、光拡散部材32の光入射側に設けられたフレネルレンズ34とで構成され、前記投射部16からの光を前記フレネルレンズ34により平行化する、前記色変調部18」と本願補正発明の「前記第1の光変調部が変調した光を略同一方向に変換する光方向変換部と、前記第1の光変調部よりサイズ及び精細度が大きく、前記光方向変換部からの光を変調する第2の光変調部」は、「前記第1の光変調部が変調した光を略同一方向に変換する光方向変換部と、前記第1の光変調部よりサイズ及び精細度が大きく、前記光方向変換部からの光を変調する第2の光変調部」である点で一致する。 そうすると、本願補正発明と引用発明は、 「光源からの光を所定の方向の偏波成分に変換する偏光変換部と、 前記偏光変換部からの光を変調する第1の光変調部と、 前記第1の光変調部が変調した光を拡大投写する投写部と、 前記第1の光変調部が変調した光を略同一方向に変換する光方向変換部と、 前記第1の光変調部よりサイズ及び精細度が大きく、前記光方向変換部からの光を変調する第2の光変調部と、を備え、 前記光方向変換部は、フレネルレンズである、表示装置。」 の点で一致し、下記の点で相違すると認められる。 <相違点1> 本願補正発明の「第1の光変調部と第2の光変調部のいずれか一方は、投写部の光軸に対して傾けて配置され、前記第1の光変調部の光が光方向変換部に対して斜め方向から入射する構成を成」すのに対して、引用発明「液晶ライトバルブ14a」及び「カラー液晶パネル30」はそのように特定されない点。 <相違点2> 本願補正発明の「投写部」は、「第1の光変調部から第2の光変調部に向かって順に、第1のレンズ群と、少なくとも回転非対称なレンズ面を1面有するレンズを含む第2のレンズ群と、回転非対称な反射面を含む反射ミラーと、を有」するのに対して、引用発明の「投射部16」はそのように特定されない点。 <相違点3> 本願補正発明の「光方向変換部」は、「屈折領域と全反射領域を含むフレネルレンズである」のに対して、引用発明は「フレネルレンズ34」であるのにとどまる点。 イ 相違点の検討・判断 (ア)上記相違点1及び2について検討する。 投写部を備えた表示装置において奥行きを小さくするために光を光方向変換部に対して斜め方向から入射するようにすることは、周知慣用技術であるので、引用発明において、奥行きを小さくするために光を光方向変換部に対して斜め方向から入射するようにすることに何ら困難性はない。 ここで、投写部を備えた表示装置において斜め方向から入射することによって生じる台形歪等の補正をすることは周知の課題であり、引用文献2には、「スクリーンに斜め入射させると、投写した長方形の形状が台形になる所謂台形歪の他にも光軸に対して回転対称でない種々の収差が生じ、これを前記第1の光学系の後群と前記第2の光学系の反射面とで補正する斜め入射による台形歪の補正する」(引用文献2の段落【0016】)との課題を解決するための事項が記載されている。 そして、引用発明及び引用文献2に記載された事項は、投写部を備えた表示装置という共通する構成を有しているので、引用発明において、奥行きを小さくするために光を光方向変換部に対して斜め方向から入射するようにし、斜め方向から入射することによって生じる台形歪等の補正をするために、引用文献2に記載された事項を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。 してみると、引用発明に引用文献2に記載された事項を適用して、引用発明において、「第1の光変調部と第2の光変調部のいずれか一方は、投写部の光軸に対して傾けて配置され、前記第1の光変調部の光が光方向変換部に対して斜め方向から入射する構成を成し、前記投写部は、第1の光変調部から第2の光変調部に向かって順に、第1のレンズ群と、少なくとも回転非対称なレンズ面を1面有するレンズを含む第2のレンズ群と、回転非対称な反射面を含む反射ミラーと、を有」するようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (イ)相違点3について検討する。 投写部を備えた表示装置において奥行きを小さくするために光を光方向変換部に対して斜め方向から入射するようにすることは、周知慣用技術であるので、引用発明において、奥行きを小さくするために光を光方向変換部に対して斜め方向から入射するようにすることに何ら困難性はない。 ここで、投写部を備えた表示装置において入射する光に応じてフレネルレンズを設計することは当業者が当然考慮に入れるべき事項である。そして、引用発明及び引用文献3に記載された事項は、投写部を備えた表示装置においてフレネルレンズを備えるという共通する構成を有している。 してみると、引用発明に引用文献3に記載された事項を適用して、引用発明の「フレネルレンズ」を「屈折領域と全反射領域を含むフレネルレンズ」とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (4)相違点の検討・判断の小括 以上のとおり、相違点1乃至3は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び引用文献3に記載された事項から当業者が容易に想到し得ることである。 そして、本願補正発明が奏する作用効果も、当業者が予測できる域を超えるものではない。 よって、本願補正発明は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び引用文献3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)独立特許要件についての小括 以上検討のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさないものである。 4 本件補正についての結び 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさないものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものである(上記「第2」の「1」の「(2)本件補正前の特許請求の範囲」を参照。請求項1に係る発明を以下「本願発明」という。)。 2 刊行物、各刊行物の記載事項及び引用発明の認定 上記「第2」の「3」の「(2)」の「ア 刊行物、各刊行物の記載事項及び引用発明の認定」に記載したとおりである。 3 対比・判断 上記「第2」の「2 本件補正の目的」のとおり、本願補正発明は、本願発明に限定を付加したものである。 そして、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加した本願補正発明が、引用発明、引用文献2に記載された事項及び引用文献3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、上記「第2」の「3」の「(3)対比・判断」での検討と同様の理由により、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び引用文献3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び引用文献3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-04-16 |
結審通知日 | 2015-04-21 |
審決日 | 2015-05-07 |
出願番号 | 特願2012-215485(P2012-215485) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G03B)
P 1 8・ 121- Z (G03B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 請園 信博 |
特許庁審判長 |
神 悦彦 |
特許庁審判官 |
井口 猶二 松川 直樹 |
発明の名称 | 表示装置及び投写型照明装置 |
代理人 | 青稜特許業務法人 |