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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61L
管理番号 1302211
審判番号 不服2012-23740  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-30 
確定日 2015-06-17 
事件の表示 特願2004-233655「組織修復移植片」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月26日出願公開、特開2005-131365〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年8月10日(パリ条約による優先権主張2003年8月11日、米国(US))の出願であって、平成24年8月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出され、その後、当審において、平成26年8月19日付けで拒絶理由が通知され、同年12月1日に手続補正書と意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?12に係る発明は、平成26年12月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
疾病のまたは損傷を受けた軟骨が除去された患者の疾病のまたは損傷を受けた関節面を再表面化するのに用いられる組織修復移植片であって、
生体適合性の生物再吸収性の骨格であって、前記骨格が、合成ポリマー、天然ポリマー、注入成形可能なゲル、セラミック材料、自原性の組織、同種異系の組織、異種の組織、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される材料から形成されている、骨格と、
細かく切り刻まれた組織の破片を複数含む、組織の懸濁液であって、前記細かく切り刻まれた組織の破片は、生存可能な細胞、およびそれらの細胞外基質を含み、0.1mm^(3)?3mm^(3)の範囲のサイズを有する粒子を含んでおり、前記組織の懸濁液の少なくとも一部が、前記骨格の外側面の少なくとも一部に関連付けられており、前記細かく切り刻まれた組織の破片は、軟骨、半月、靭帯、およびそれらの組み合わせからなる群から選択された骨を含まない組織タイプを含む、組織の懸濁液と、
前記骨格の前記外側面の少なくとも一部の上に配置されるよう構成された保持要素の少なくとも1つの層であって、前記組織の懸濁液の少なくとも一部が前記骨格と前記保持要素との間に配置されている、少なくとも1つの層と、
を含み、
前記生存可能な細胞の少なくとも一部は、前記細かく刻まれた組織の破片から移動して、前記骨格で増殖して居住することができる、組織修復移植片。」

第3 当審の判断
1 引用出願について
当審の拒絶理由で引用した特願2003-358118号(特開2004-136096号)(以下、「引用出願」という。)は、平成15年10月17日の出願であって、3つの出願に基づくパリ条約による優先権を主張するものであるところ、引用出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載された事項は、パリ条約による優先権主張日を2003年2月25日とする、優先権主張国が米国、優先権主張番号が374772である出願の明細書等に記載された事項と共通していることから、引用出願は、2003年2月25日の優先権を享受することができる。
よって、引用出願は、特許法第29条の2に規定される、本件出願の日前の特許出願であって、本件出願後に出願公開がされた特許出願であると認める。

2 引用出願の記載事項
引用出願の当初明細書等には、以下の事項が記載されている。

(1a)「【請求項2】
生体相容性の移植片において、
一定の生体相容性の支持骨格材料、
前記支持骨格材料の少なくとも一部分に結合している少なくとも1種類の軟骨組織フラグメントを含む一定の懸濁液を備えており、この場合に、前記懸濁液中の少なくとも1種類の組織フラグメントがこの組織フラグメントから外に移動して前記支持骨格材料において集団化する一定の有効量の生活可能な細胞を含有しており、さらに
一定の保持要素を備えており、
この場合に、前記少なくとも1種類の組織フラグメントの少なくとも一部分が前記生体相容性の支持骨格材料と前記保持要素との間に配置されている移植片。」

(1b)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
・・・
本発明は各種組織の傷害の治療において使用するための生体相容性の組織移植装置に関連しており、さらに、当該生体相容性の組織移植装置を作成する方法およびこれらを使用する方法に関連している。
【背景技術】
【0002】
組織が負傷または損傷している、軟骨、皮膚、骨、腱および靭帯等のような軟質組織に対する傷害部分は多くの場合にその損傷を治療して治癒を促進するための外科的介入を必要とする。・・・
【0003】
一例の一般的な組織傷害は軟骨に対する損傷を含み、この組織は一定の非脈管性の弾性で柔軟性の接合組織である。軟骨は一般的に関節を成している連結部分において一定の「衝撃吸収体(shock-absorber)」として作用するが、一部の種類の軟骨は、例えば、咽頭、気道、および耳等のような各種の管状構造体に対して支持を行なう。・・・
【0004】
・・・このような軟骨組織に対する傷害は自発的に治癒することがなく、症候性である場合には、外科的な介入を必要とする。現行における治療様式は洗浄および部分的にまたは全体的に付着している組織フラグメントの除去を含む。加えて、外科医は軟骨欠損部内における出血および一定の凝血を誘発するために剥離処理、ドリル処理または微小骨折処理等のような種々の方法を採用する場合が多い。・・・
【0005】
・・・このように損傷した半月板軟骨に対する現行の従来的な治療様式はその損傷した軟骨の除去および/または外科的な修復処置を含む。
・・・
【0007】
一般的な靭帯の傷害の一例は一定の断裂した前十字靭帯(ACL)であり、この靭帯は膝における4種類の主要な靭帯の一つである。・・・最も一般的な治療技法はその崩壊したACLを除去および廃棄して自己由来性の骨-膝蓋骨、腱-骨または膝窩腱を用いて新しいACLを再構成することである。・・・」

(1c)「【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は組織の治療に使用するための生体相容性の組織移植片およびこれらの装置の作成および使用のための方法に関連している。例えば、この組織移植片は病気のまたは損傷した組織の修復および/または再生のために使用できる。さらに、これらの組織移植片は組織増量、美顔用治療、医療処置、組織増強、および組織修復のために使用できる。これらの移植片は少なくとも1種類の細分化処理した組織フラグメントを含む一定の懸濁液を伴う一定の生体相容性の支持骨格材料を含む。この生体相容性の組織移植片はその細分化処理した組織の懸濁液の上方に配置されている一定の付加的な生物学的物質および/または一定の付随的な保持要素も含むことができる。
【0012】
・・・一例の実施形態において、上記移植片を製造する方法は上記組織サンプル内の細胞が上記支持骨格材料に集団化することを有効に可能にするために十分な諸条件下において一定の持続期間にわたり一定の適当な環境内において上記組織積載型の支持骨格材料を培養するさらに別の工程を含むことができる。」

(1d)「【0018】
本発明の生体相容性の組織移植片は種々の目的のための種々の組織の治療において用いられる。例えば、これらの移植片は病気のまたは損傷した組織の修復および/または再生のために使用でき、あるいは、これらは組織増量、組織増強、美顔用治療、医療処置、および組織密封処理のために使用できる。このような組織移植片は一定の生体相容性の支持骨格材料および少なくとも1種類の細分化処理した組織フラグメントを含む細分化処理した組織の懸濁物を含み、この場合に、細分化処理した組織の懸濁物は上記支持骨格材料に付随している。本発明の上記懸濁物内の細分化処理した組織は少なくとも1種類の生活可能な細胞を含み、この細胞は上記の組織フラグメントから支持骨格材料上に移動できる。
【0019】
上記移植片は本明細書において「組織修復移植片(tissue repair implants)」として呼ばれる場合があり、これらの移植片を使用する方法が組織修復技法として特徴付けられている場合があるが、これらの移植片が組織修復、組織増量、美顔用治療、医療処置、組織増強、および組織密封処理を含むがこれらに限らない種々の組織治療のために使用可能であることが理解されると考える。」

(1e)「【0020】
本発明の生体相容性の組織移植片は少なくとも一部分が細分化処理した組織懸濁物に接触している一定の生体相容性の支持骨格材料を含む。・・・あるいは、この支持骨格材料は一定の欠損部位の場所において硬化する一定の注入可能なゲルの形態にすることも可能である。・・・また、一部の実施形態において、この支持骨格材料は一定の生体吸収性または生体再吸収可能な材料にすることができる。
【0021】
本発明の一例の実施形態において、上記支持骨格材料は一定の生体相容性のポリマーにより形成できる。種々の生体相容性のポリマーが本発明による各種の生体相容性の組織移植片または支持骨格装置を作成するために使用できる。このような生体相容性のポリマーは各種の合成ポリマー、天然ポリマーまたはこれらの組み合わせ物とすることができる。・・・」

(1f)「【0027】
本発明の支持骨格材料は、随意的に、体内環境内において一定の時宜を得た様式で再吸収される能力を有する一定の生体再吸収性または生体吸収性の材料により形成できる。・・・」

(1g)「【0028】
一例の実施形態において、一定の勾配様式の構造において1種類の組成から別の種類の組成に変化する各種の支持骨格材料を形成するために種々のポリマー混合物を使用することが望ましい。このような勾配様式の構造を有する支持骨格材料は軟骨(関節、半月板、中隔、気管、耳介、肋骨等)、腱、靭帯、神経、食道、皮膚、骨、および脈管組織等のような天然に存在する組織の構造を修復または再生するための組織工学的な用途において特に有利である。・・・」

(1h)「【0035】
本発明の別の実施形態において、上記生体相容性の支持骨格材料は一定の生体相容性のセラミック材料により形成できる。・・・
【0036】
本発明の組織移植片のさらに別の実施形態において、上記支持骨格材料は同種異系の組織、自家組織および異種組織により得られるような、各種の組織移植片により形成可能である。・・・
【0037】
別の実施形態において、上記支持骨格材料は一定の欠損部位において位置を設定できる一定の注入可能なゲルの形態にすることも可能である。・・・」

(1i)「【0066】
上記組織は、例えば、生検またはその他の外科的な除去手段による等のような、種々の従来技法のいずれかにより入手できる。好ましくは、この組織サンプルは無菌の条件下に入手される。一定の生活組織のサンプルを入手した後に、このサンプルを無菌条件下に処理して、少なくとも1種類の細分化した、あるいは、微細分割した組織粒子を含む一定の懸濁液が形成できる。各組織フラグメントの粒度は変更可能であり、例えば、この組織の大きさは約0.1mm^(3)乃至3mm^(3)の範囲内、約0.5mm^(3)乃至1mm^(3)の範囲内、約1mm^(3)乃至2mm^(3)の範囲内、あるいは、約2mm^(3)乃至3mm^(3)の範囲内にすることができるが、好ましくは1mm^(3)より小さい。
・・・
【0069】
上記の細分化した生活組織の懸濁液は、その組織と支持骨格材料が結合するように、一定の生体相容性の支持骨格材料の上にこの生活組織の懸濁液を付着させることにより本発明による一定の組織修復移植片を形成するために使用できる。・・・」

(1j)「【0087】
別の実施形態において、上記組織修復移植片は組織を積載した支持骨格材料の上に配置される一定の付加的な保持要素を含むことができる。好ましくは、この実施形態において、上記組織の懸濁液の少なくとも一部分が上記支持骨格材料の外表面部の少なくとも一部分に結合しており、この組織の懸濁液が生体相容性の支持骨格材料と上記保持要素との間に「挟まれている(sandwiched)」。・・・また、別の実施形態において、上記保持要素は一定の多孔質メッシュ材料、例えば、一定の編み物、織り物、不織布、または組織の内部増殖を可能にする複数の穴または孔を有する薄い孔あけ処理した弾性シート等のような多孔質メッシュ様材料とすることができる。・・・また、この保持要素の種類はその望まれる組織修復に応じて変えることができる。非限定的な例として、半月板修復のための一定の実施形態において、上記保持要素は一定のメッシュ状の補強された発泡体とすることができる。・・・」

(1k)「【0092】
本発明の一例の実施形態において、一定の靭帯、腱、神経、皮膚、軟骨または半月板に対する傷害等のような一定組織の傷害の治療において用いられる。この組織の傷害の修復は当該技術分野における通常の熟練者において知られている種々の技法のいずれかにより生活組織の一定のサンプルを入手する工程、例えば、組織を切断することによる等のようなその生活組織のサンプルを無菌の条件下に処理して少なくとも1種類の細分化した微細に分割された組織粒子を形成する工程、その組織サンプルが一定の支持骨格材料に結合して一定の組織修復移植片を形成するようにその生体相容性の支持骨格材料に組織サンプルを付着させる工程、およびその組織修復移植片を組織の傷害部分に対して一定の所望の位置に配置する工程を含む。・・・」

(1l)「【0098】
一例の用法において、上記組織修復移植片は腱または靭帯の修復手術中における組織の損失部位を修復および増強するために使用でき、あるいは、一定の独立型の装置として使用することも可能である。・・・また、一定の単独型の装置としての別の用法においては、崩壊した組織が取り除かれて、細分化した組織を伴う組織修復移植片がその損傷した組織部位の機能の代用として作用する。さらに、この崩壊した組織はその損傷した組織部位を治癒するために用いる組織供給源になり得る。
【0099】
上記組織修復移植片が靭帯組織を修復するために用いられる実施形態において、この組織修復移植片は組織の増強のために使用することができ、あるいは、一定の独立型の装置として使用できる。・・・また、上記組織修復要素が一定の単独型の装置として用いられる実施形態においては、崩壊した靭帯が取り除かれて、その組織修復移植片により完全に置き換えられる。・・・」

(1m)「【0105】
本発明による組織移植片による組織傷害を修復する方法はその組織傷害を修復するための一定の外科手術中に行なうことができる。一定の患者が従来的な外科技法を用いる一定の従来的な様式における組織修復の手術のために用意される。この組織修復は本発明の組織修復移植片を用いる傷害を受けた組織の部位において行なわれる。・・・さらに、この組織修復片は即時にまたは一定期間の生体外培養の後に上記の組織傷害部位に移植される。その後、最終的な傷の閉鎖が従来的な外科技法を用いて一定の従来的な様式において行なわれる。」

(1n)「【0107】
実施例1
種々の関節部分からの健康な軟骨組織をウシの肩関節から入手した。この軟骨組織は骨の組織を実質的に含んでおらず、複数のメス・ブレードを用いて細分化することにより0.2%のコラーゲナーゼの存在下に小さな組織フラグメントを得た。・・・」

2 引用出願に記載された発明
引用出願には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認める(上記(1a)参照)。

「生体相容性の移植片において、
一定の生体相容性の支持骨格材料、
前記支持骨格材料の少なくとも一部分に結合している少なくとも1種類の軟骨組織フラグメントを含む一定の懸濁液を備えており、この場合に、前記懸濁液中の少なくとも1種類の組織フラグメントがこの組織フラグメントから外に移動して前記支持骨格材料において集団化する一定の有効量の生活可能な細胞を含有しており、さらに
一定の保持要素を備えており、
この場合に、前記少なくとも1種類の組織フラグメントの少なくとも一部分が前記生体相容性の支持骨格材料と前記保持要素との間に配置されている移植片。」

3 対比
(1)先願発明と本願発明はいずれも「移植片」という物の発明である。そして、先願発明は、軟骨組織フラグメントを含む懸濁液を備えた支持骨格材料と保持要素を備えた移植片であり、本願発明は、組織の懸濁液を備えた骨格と保持要素を備えた組織修復移植片であるといえる。
そこでまず、両者の各構成要素について対比する。

ア 懸濁液について
先願発明の懸濁液は、「少なくとも1種類の軟骨組織フラグメント」を含み、懸濁液中の少なくとも1種類の組織フラグメントは、「一定の有効量の生活可能な細胞」を含有している。
そして、引用出願の当初明細書等には、組織フラグメントについて、細分化処理した組織であると記載されている(上記(1c)【0011】、(1d)【0018】)。より具体的には、生活組織のサンプルを入手し、細分化あるいは微細分割して組織の粒子とすること、組織の大きさは0.1mm^(3)乃至3mm^(3)の範囲内とすることが記載されている(上記(1i)【0066】)。また、実施例1では、ウシの肩関節から入手した骨の組織を実質的に含まない軟骨組織を複数のメス・ブレードを用いて細分化することにより組織フラグメントを得たと記載されている(上記(1n))。このような処理により、得られた組織フラグメントは、細胞外基質も含んでいるといえる。
以上のことから、
先願発明の「少なくとも1種類の軟骨組織フラグメントを含む一定の懸濁液」であって、「前記懸濁液中の少なくとも1種類の組織フラグメント」が「一定の有効量の生活可能な細胞を含有」することと、
本願発明の「細かく切り刻まれた組織の破片を複数含む、組織の懸濁液であって、前記細かく切り刻まれた組織の破片は、生存可能な細胞、およびそれらの細胞外基質を含み、0.1mm^(3)?3mm^(3)の範囲のサイズを有する粒子を含んでおり」、「前記細かく切り刻まれた組織の破片は、軟骨、半月、靭帯、およびそれらの組み合わせからなる群から選択された骨を含まない組織タイプを含む、組織の懸濁液」とは、
「細かく切り刻まれた組織の破片を複数含む、組織の懸濁液であって、前記細かく切り刻まれた組織の破片は、生存可能な細胞、およびそれらの細胞外基質を含み、0.1mm^(3)?3mm^(3)の範囲のサイズを有する粒子を含んでおり」、「前記細かく切り刻まれた組織の破片は、軟骨であって骨を含まない組織タイプを含む、組織の懸濁液」で一致している。

イ 骨格について
先願発明の支持骨格材料は、「一定の生体相容性」のものである。
そして、引用出願の当初明細書等には先願発明の支持骨格材料は、生体再吸収性のものであり(上記(1e)【0020】、(1f))、合成ポリマー、天然ポリマー(上記(1e)【0021】)、注入可能なゲルの形態(上記(1e)【0020】、(1h)【0037】)、セラミック材料(上記(1h)【0035】)、自家組織、同種異系の組織、異系組織(上記(1h)【0036】)などで形成できることが記載されている。
よって、先願発明の「一定の生体相容性の支持骨格材料」は、本願発明の「生体適合性の生物再吸収性の骨格であって、前記骨格が、合成ポリマー、天然ポリマー、注入成形可能なゲル、セラミック材料、自原性の組織、同種異系の組織、異種の組織、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される材料から形成されている、骨格」に相当する。

ウ 移植片について
先願発明の「移植片」について、引用出願の当初明細書等には、各種組織の傷害の治療に使用するためのものであり(上記(1b)【0001】)、負傷又は損傷している組織は軟骨などを含むと記載されている(上記(1b)【0002】?【0003】)。また、支持骨格材料が軟骨(関節等)の修復又は再生に有利であるとも記載されている(上記(1g))。すなわち、関節を治療の対象としていることは明らかである。
さらに、引用出願の当初明細書等には、移植片は病気の又は損傷した組織の修復及び/又は再生のために使用できること(上記(1c)【0011】、(1d)【0018】)、移植片は「組織修復移植片」という場合もあることが記載されている(上記(1d)【0019】)。
ここで、本願発明の「再表面化」することについて、本願の発明の詳細な説明には、「新しい軟骨組織を成長させるための組織作成構造(・・・)で損傷を受けたまたは疾病の軟骨組織を置換えることによって関節の骨の関節面を再表面化するための方法が提供される。」と記載されている(【0013】)。
そうすると、上記引用出願の当初明細書等に記載された修復及び/又は再生は、本願発明の再表面化と同じことを意味しているといえる。
よって、先願発明の「移植片」は、本願発明の「疾病のまたは損傷を受けた軟骨が除去された患者の疾病のまたは損傷を受けた関節面を再表面化するのに用いられる組織修復移植片」と、「患者の疾病のまたは損傷を受けた関節面を再表面化するのに用いられる組織修復移植片」である点で共通する。

(2)次に、各構成要素の配置関係等について対比する。

ア 先願発明では、「懸濁液」は「支持骨格材料の少なくとも一部分に結合」している。
そして、引用出願の当初明細書等には、「上記の細分化した生活組織の懸濁液は、その組織と支持骨格材料が結合するように、一定の生体相容性の支持骨格材料の上にこの生活組織の懸濁液を付着させることにより本発明による一定の組織修復移植片を形成するために使用できる。」(上記(1i)【0069】)と記載されている。
これに対し、本願発明では、「前記組織の懸濁液の少なくとも一部が、前記骨格の外側面の少なくとも一部に関連付けられて」いると特定されている。
そして、本願の発明の詳細な説明には、「細かく切り刻まれた生きた組織の懸濁液は、組織が骨格と関連付けられるように生きた組織の懸濁液を生体適合性の骨格に付着することによって本発明に基づく組織修復移植片を作るために用いることができる。」と説明されている(【0067】)。
よって、先願発明の「支持骨格材料の少なくとも一部分に結合している少なくとも1種類の軟骨組織フラグメントを含む一定の懸濁液」は、本願発明の「前記組織の懸濁液の少なくとも一部が、前記骨格の外側面の少なくとも一部に関連付けられており、前記細かく切り刻まれた組織の破片は、軟骨であって骨を含まない組織タイプを含む、組織の懸濁液」で一致している。

イ 先願発明では、「前記少なくとも1種類の組織フラグメントの少なくとも一部分が前記生体相容性の支持骨格材料と前記保持要素との間に配置されている」と特定されている。
そして、この配置関係について、引用出願の当初明細書等には、「上記組織修復移植片は組織を積載した支持骨格材料の上に配置される一定の付加的な保持要素を含むことができる。・・・上記組織の懸濁液の少なくとも一部分が上記支持骨格材料の外表面部の少なくとも一部分に結合しており、この組織の懸濁液が生体相容性の支持骨格材料と上記保持要素との間に『挟まれている(sandwiched)』。」と説明されている(上記(1j))。
また、「保持要素は一定の多孔質メッシュ材料、例えば、一定の編み物、織り物、不織布、または組織の内部増殖を可能にする複数の穴または孔を有する薄い孔あけ処理した弾性シート等のような多孔質メッシュ様材料とすることができる」こと、「非限定的な例として、半月板修復のための一定の実施形態において、上記保持要素は一定のメッシュ状の補強された発泡体とすることができる」ことも記載されている(上記(1j))。
これに対し、本願発明では、「前記骨格の前記外側面の少なくとも一部の上に配置されるよう構成された保持要素の少なくとも1つの層であって、前記組織の懸濁液の少なくとも一部が前記骨格と前記保持要素との間に配置されている、少なくとも1つの層」と特定されている。
ここで、本願の発明の詳細な説明には、「保持要素の少なくとも1つの層」について、明確に説明したところはないが、「保持要素は多孔性のメッシュ、例えば編物、織布、不織布、または組織の内殖を可能にする孔または穿孔を有する薄い有孔エラストマーシートのような多孔性のメッシュに類似した材料であってよい」こと、「非限定的な例として、半月を修復するためのある実施の形態では、保持要素はメッシュで補強された発泡体である」ことが記載されている(【0085】)。
よって、先願発明の「前記少なくとも1種類の組織フラグメントの少なくとも一部分が前記生体相容性の支持骨格材料と前記保持要素との間に配置されている」ことは、本願発明の「前記骨格の前記外側面の少なくとも一部の上に配置されるよう構成された保持要素の少なくとも1つの層であって、前記組織の懸濁液の少なくとも一部が前記骨格と前記保持要素との間に配置されている、少なくとも1つの層」に相当する。

ウ 先願発明は、「懸濁液中の少なくとも1種類の組織フラグメントがこの組織フラグメントから外に移動して前記支持骨格材料において集団化する一定の有効量の生活可能な細胞を含有して」いる。
そして、引用出願の当初明細書等には、培養することにより細胞が集団化することを有効に可能にすると説明されている(上記(1c)【0012】)。
これに対し、本願発明は、「細かく切り刻まれた組織の破片を複数含む、組織の懸濁液であって、前記細かく切り刻まれた組織の破片は、生存可能な細胞、およびそれらの細胞外基質を含み」、「前記生存可能な細胞の少なくとも一部は、前記細かく刻まれた組織の破片から移動して、前記骨格で増殖して居住することができる」ものである。
そうすると、先願発明の「集団化」することは、本願発明の「増殖して居住」することと同じことを意味しているといえる。
よって、先願発明の「懸濁液中の少なくとも1種類の組織フラグメントがこの組織フラグメントから外に移動して前記支持骨格材料において集団化する一定の有効量の生活可能な細胞を含有して」いることは、本願発明の「細かく切り刻まれた組織の破片を複数含む、組織の懸濁液であって、前記細かく切り刻まれた組織の破片は、生存可能な細胞、およびそれらの細胞外基質を含み」、「前記生存可能な細胞の少なくとも一部は、前記細かく刻まれた組織の破片から移動して、前記骨格で増殖して居住することができる」ことに相当する。

(3)以上のことから、両発明には、次の一致点及び一応の相違点がある。

一致点:
「患者の疾病のまたは損傷を受けた関節面を再表面化するのに用いられる組織修復移植片であって、
生体適合性の生物再吸収性の骨格であって、前記骨格が、合成ポリマー、天然ポリマー、注入成形可能なゲル、セラミック材料、自原性の組織、同種異系の組織、異種の組織、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される材料から形成されている、骨格と、
細かく切り刻まれた組織の破片を複数含む、組織の懸濁液であって、前記細かく切り刻まれた組織の破片は、生存可能な細胞、およびそれらの細胞外基質を含み、0.1mm^(3)?3mm^(3)の範囲のサイズを有する粒子を含んでおり、前記組織の懸濁液の少なくとも一部が、前記骨格の外側面の少なくとも一部に関連付けられており、前記細かく切り刻まれた組織の破片は、軟骨であって骨を含まない組織タイプを含む、組織の懸濁液と、
前記骨格の前記外側面の少なくとも一部の上に配置されるよう構成された保持要素の少なくとも1つの層であって、前記組織の懸濁液の少なくとも一部が前記骨格と前記保持要素との間に配置されている、少なくとも1つの層と、
を含み、
前記生存可能な細胞の少なくとも一部は、前記細かく刻まれた組織の破片から移動して、前記骨格で増殖して居住することができる、組織修復移植片。」

一応の相違点:
本願発明は、「疾病のまたは損傷を受けた軟骨が除去された」患者の疾病のまたは損傷を受けた関節面を再表面化するのに用いられる組織修復移植片であると特定されているのに対し、先願発明はこの点が明らかでない点

4 判断
上記一応の相違点について検討する。

(1)引用出願の当初明細書等には、「疾病のまたは損傷を受けた軟骨が除去された」患者の疾病のまたは損傷を受けた関節面に用いられるとは明記されていない。

(2)そこで、引用出願の当初明細書等の開示について検討する。
ア 引用出願の当初明細書等には、以下のような記載がある。
「この組織の傷害の修復は当該技術分野における通常の熟練者において知られている種々の技法のいずれかにより生活組織の一定のサンプルを入手する工程、例えば、組織を切断することによる等のようなその生活組織のサンプルを無菌の条件下に処理して少なくとも1種類の細分化した微細に分割された組織粒子を形成する工程、その組織サンプルが一定の支持骨格材料に結合して一定の組織修復移植片を形成するようにその生体相容性の支持骨格材料に組織サンプルを付着させる工程、およびその組織修復移植片を組織の傷害部分に対して一定の所望の位置に配置する工程を含む。」(上記(1k))
「また、一定の単独型の装置としての別の用法においては、崩壊した組織が取り除かれて、細分化した組織を伴う組織修復移植片がその損傷した組織部位の機能の代用として作用する。」(上記(1l)【0098】)
「また、上記組織修復要素が一定の単独型の装置として用いられる実施形態においては、崩壊した靭帯が取り除かれて、その組織修復移植片により完全に置き換えられる。」(上記(1l)【0099】)
「一定の患者が従来的な外科技法を用いる一定の従来的な様式における組織修復の手術のために用意される。この組織修復は本発明の組織修復移植片を用いる傷害を受けた組織の部位において行なわれる。・・・この組織修復片は即時にまたは一定期間の生体外培養の後に上記の組織傷害部位に移植される。その後、最終的な傷の閉鎖が従来的な外科技法を用いて一定の従来的な様式において行なわれる。」(上記(1m))

イ これらの記載から、先願発明の移植片は、従来の外科的手法により移植できることや、崩壊した組織を取り除いた後に移植することが示されているといえる。

ウ これに加えて、引用出願の当初明細書等の従来技術には、次のように記載されている。
「このような軟骨組織に対する傷害は自発的に治癒することがなく、症候性である場合には、外科的な介入を必要とする。現行における治療様式は洗浄および部分的にまたは全体的に付着している組織フラグメントの除去を含む。加えて、外科医は軟骨欠損部内における出血および一定の凝血を誘発するために剥離処理、ドリル処理または微小骨折処理等のような種々の方法を採用する場合が多い。」(上記(1b)【0004】)
「このように損傷した半月板軟骨に対する現行の従来的な治療様式はその損傷した軟骨の除去および/または外科的な修復処置を含む。」(上記(1b)【0005】)
「最も一般的な治療技法はその崩壊したACLを除去および廃棄して自己由来性の骨-膝蓋骨、腱-骨または膝窩腱を用いて新しいACLを再構成することである。」(上記(1b)【0007】)

エ これら従来技術の記載からみても、疾病の又は損傷を受けた関節面を、移植片などを用いて処置する際に、その部分の組織(軟骨等)を予め除去することは、当業者における常套手段であったといえる。

(3)以上のことから、一応の相違点は、引用出願の当初明細書等に明記はされていないとしても、実質的に記載されているに等しい事項といえる。
したがって、両発明は実質的に上記一応の相違点によって相違するものではない。

5 まとめ
上記したとおり、本願発明は先願発明とは実質的に相違点が存在しない。
よって、本願発明は先願発明と同一である。

第4 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用出願の当初明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、本件出願の発明者が上記引用出願に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件出願時に、その出願人が上記引用出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-14 
結審通知日 2015-01-20 
審決日 2015-02-02 
出願番号 特願2004-233655(P2004-233655)
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小森 潔  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 関 美祝
冨永 保
発明の名称 組織修復移植片  
代理人 加藤 公延  
代理人 大島 孝文  

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