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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1302418
審判番号 不服2013-22461  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-18 
確定日 2015-06-24 
事件の表示 特願2010- 1977「試料処理装置及び試薬貯槽の液レベル測定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月22日出願公開,特開2010-160153〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は,平成22年1月7日(パリ条約による優先権主張 平成21年1月8日,独国)の出願であって,平成24年11月26日付けで拒絶理由が通知され,平成25年3月4日付けで意見書が提出され,さらに,同年3月22日付けで拒絶理由が通知され,同年6月26日付けで意見書及び手続補正書が提出され,同年7月10日付けで拒絶査定されたのに対し,同年11月18日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
そして,その請求項1?13に係る発明は,上記平成25年6月26日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるものと認められるところ,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである。
「【請求項1】
所定の位置に配置された複数の試薬貯槽(12)と、
1以上の試料を配置した1以上の試料担体(20)を収容する1以上の移送容器(16a、16b)を移送するための移送機構(22a、22b)と、を含み、該移送容器(16a、16b)が該試薬貯槽(12)に導入可能に構成された試料処理装置であって、
試薬(42)を入れた該試薬貯槽(12)の液レベル(44)を測定するための1以上のセンサ(34)を備え、
前記移送機構(22a、22b)は、前記移送容器(16a、16b)を前記試薬貯槽(12)内に導入し、また前記試薬貯槽(12)から取り出すためのグリッパ(32a、32b)を含み、
該センサは、前記グリッパ(32a、32b)による前記移送容器(16a、16b)の昇降運動の間、該複数の試薬貯槽(12)までの垂直距離が一定となるように該移送機構(22a、22b)に配置されている、
ことを特徴とする装置。」

第2 引用刊行物及びその記載事項
(1)本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2001-21468号公報(以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。なお,以下の摘記事項において,下記の引用発明の認定に関連する箇所に下線を付与した。
(1-ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、血液塗抹標本の染色方法および染色装置に関する。
【0002】
【従来の技術】病院や研究所では、血液を顕微鏡観察するために、スライドガラスに血液を塗抹し、これを染色した血液塗抹標本を用いる。より良い観察を行なうためには、血液は適切に染色されていなければならない。
【0003】しかし、従来の染色工程は、管理されておらず、温度や液の量など染色の条件がそのときどきで異なり、安定した染色結果を得ることはできなかった。このため試料血液中の細胞の大きさ、核の大きさ、色合いが染色によって大きく異なっていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このように、従来の血液塗抹標本の染色は、その工程が管理されていなかったため、染色によって観察結果が大きく異なるという欠点があった。
【0005】本発明は、このような従来の欠点を解決するためになされたものである。本発明の目的は、血液塗抹標本の安定した染色が行なわれるようにすることである。」

(1-イ)【0013】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態の染色装置を説明する。図1はその全体構成を示す図である。以下に各部を説明する。
【0014】搬送部10は、各所に搬送アームを備え、各ユニット間および各ユニットにおいてスライドガラスを搬送するものである。」

(1-ウ)「【0023】次にこのように構成された装置の動作を図4のフローチャートを参照して説明する。
・・・
【0025】次のステップS2では、スライドガラス1に塗抹された血液2を乾燥させる。具体的には次のようになる。搬送アーム42は、血液2を塗抹されたスライドガラス1(以下、説明を簡単にするため標本Aと称する)を第1乾燥ユニット12に搬送し、37度の恒温板45に載置し、1分経過後、恒温板45から降ろす。次にファン46を動作開始とし、標本Aを送風により乾燥させる。
・・・
【0027】次のステップS3では、スライドガラス1に塗抹された血液2をメタノール固定する。すなわち、固定ユニット13において、標本Aを、固定液槽51の固定液に浸漬する。この浸漬時間は20秒が最適であるが、10秒から30分の間であれば特に問題はない。なお、このステップ以降は図3に示すような搬送アーム58により複数の標本Aを一括して搬送する。
【0028】次のステップS4では、第1の染色処理を行なう。すなわち、第1染色ユニット14において、標本Aを第1染色液槽52の染色液に2分間浸漬する。
【0029】次のステップS5では、第2の染色処理を行なう。すなわち、第2染色ユニット15において、標本Aを第2染色液槽53の染色液に5分間浸漬する。」

(1-エ)【0036】第1染色液については、液量を管理する。この液は次の槽へ持ち込まれるためと、この液の溶媒が100%メタノールであり揮発性が高いため、長時間使用していると大幅に減少する。これを液面センサ24で検出し、設定値以下となったとき、アラームを発生させ、操作者に報知する。
【0037】第2染色液については、濃度と液量を管理する。この液は前の槽からの持ち込みで濃度が変化するので、それを吸光度センサ26によって検出する。そして濃度が設定値を超えたときにアラームを発生させ、操作者に報知する。また、次の槽への持ち込みにより液量が設定量より減ると液面センサ26によりそれを検出してアラームを発生させ、操作者に報知する。」

(1-オ)図3として以下の図面が記載されている。

上記図3には,搬送アーム58が,複数のスライドガラスを把持し,その搬送アームが昇降することにより,複数のスライドガラスが第1染色液槽に浸漬され取り出され,第2染色液槽に浸漬され取り出されることが示されている。

してみれば,上記引用例1の記載事項を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「第1染色槽及び第2染色槽と,
複数の血液を塗抹されたスライドガラスを搬送する搬送部と,を含む,染色装置であって,
第1染色液の液量を管理する液面センサ,第2染色液の液量を管理する液面センサを備え,
前記搬送部は,複数の血液を塗抹されたスライドガラスを一括して搬送するために,それらのスライドガラスを把持する搬送アームを備え,その搬送アームが昇降することにより,それらのスライドガラスが第1染色液槽に浸漬され取り出され,第2染色液槽に浸漬され取り出される,染色装置。」

(2)本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である実願昭58-49358号(実開昭59-154632号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)には,次の事項が記載されている。なお,下線は当審において付与した。
(2-ア)「(イ)考案の分野
この考案は、たとえば検鏡用血液標本作製工程において使用される染色装置のように、血液塗抹標本を所要の染色液に浸漬し且つ染色するような液体処理装置に関する。
(ロ)考案の背景
上述例の検鏡用血液標本の作製は、血液のスライドグラスへの塗抹と、これによって得られる塗抹標本の染色という手順で行なわれるが、染色工程はその染色効率の点から複数枚の塗抹標本を被染色容器に収め、これら標本を一括して染色槽に一定ストローク、一定時間浸けこんで液浸する所謂バッチ処理が通常多用され、このための染色装置にあっては染色液を一槽分のみ用意するのではなく、多槽式に備えさせて、これら染色槽に塗抹標本を一定順序で浸漬して染色し、最後に蒸留水等で洗浄するようにしている。」(1頁16行?2頁12行)

(2-イ)「図面は浸漬装置の一例である染色装置を示し、第1図において1a,1bはそれぞれ染色液を貯液する洗色槽、1cは洗浄液を貯液する洗浄槽であり、これらの槽1a,1b,1cの上方箇所に、一対のプーリー2a,2b間にわたってエンドレスベルト2cを張架した搬送手段2が設けられ、この搬送手段2が正逆転モータ3にて駆動される。・・・。この被染色容器11に対応して吊持手段8の水平プレート9には液面レベル検出手段20が装備される。」(6頁4行?8頁7行)。なお,「染色液を貯液する洗色槽」は「染色液を貯液する染色槽」の誤記と認められる。

(2-ウ)第1図として,以下の図が記載されている。


(3)本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2000-321289号公報(以下「引用例3」という。)には,次の事項が記載されている。なお,下線は当審において付与した。
(3-ア)「【0005】本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、共栓付試験管内からの試液の分注を安定に、且つ的確に行うことのできる分注装置を提供することにある。また本発明の別の目的は、共栓付試験管に収納された試液が揮発性の有機溶媒からなる場合であっても、その液面高さを正確に計測して分注作業を進めること
のできる分注装置を提供することにある。」
【0006】
【課題を解決するための手段】上述した目的を達成するべく本発明は、吸注プラグの先端に装着したピペットチップを用いて共栓付試験管内の試液を分注する分注装置に係り、 支持機構により上下動自在に支持された吸注プラグの先端に装着されるピペットチップを共栓付試験管内に挿入可能に設けると共に、分注に供される共栓付試験管の上方に超音波センサを位置付けて該共栓付試験管内に収容された試液の液面高さを計測するようにし、この超音波センサにより計測された液面高さに応じて前記支持機構を駆動することで前記共栓付試験管内に挿入されるピペットチップの先端位置を制御する(挿入深さ制御手段)ように構成したことを特徴としている。」

(3-イ)「【0024】・・・
その後、計測アーム45に装着された超音波センサ55を吸注位置Xの上方に位置付ける。そして超音波センサ55から吸注位置Xにある共栓付試験管Tに向けて超音波ビームを送波し、その反射波を受信することで共栓付試験管Tに収容された試液の液面高さを計測する。
【0025】しかる後、分注アーム44を旋回させてピペットチップPTを装着したチップ装着ヘッド60を吸注位置Xの上方に位置付ける。そして昇降軸43(分注アーム44)を下降させてピペットチップPTを共栓付試験管Tの口部から進入させる。」

(3-ウ)以下の図6には,超音波センサ55を装着された計測アーム45と分注アーム44の動きが示されている。


(3-エ)【0028】・・・
図7にその概念を示すように、可動テーブル22の上面と上昇位置にあるアーム44,45との距離hrefは基準高さとして予め既知である。従ってピペットチップPTの先端の高さ位置は、チップ装着ヘッド60へのピペットチップPTの装着長Lptに従い、[href-Lpt]として求めることができ、また超音波センサ55の超音波送受波面の高さ位置は、該超音波センサ55装着長Lsに従い、[href-Ls]として求めることができる。
【0029】しかして超音波センサ55は、送波した超音波ビームの試液の液面による反射波が受信されるまでの時間から、その送受波面から試液の液面に至る距離h2を計測しており、この距離h2は[href-Ls-h2]として示される試液の液面高さh1を表すことになる。」

(3-オ)上記摘記(3-ウ)の説明として,以下の図7が記載されている。


第3 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「第1染色液槽」及び「第2染色液槽」は,本願発明の「所定の位置に配置された複数の試薬貯槽」に相当する。

(2)引用発明の「血液を塗抹されたスライドガラス」は,本願発明の「1以上の試料を配置した1以上の試料担体」に相当する。

(3)引用発明の「染色装置」は,「血液を塗抹されたスライドガラス」を「第1染色液槽」及び「第2染色液槽」に浸漬する,すなわち導入するものであって,試料を染色処理する装置であり,本願発明は,試料担体を収容する移送容器を試薬貯槽に導入することにより,試料担体を試薬貯槽に導入するものであるから,引用発明の「血液を塗抹されたスライドガラス」を「第1染色液槽」及び「第2染色液槽」に浸漬する「染色装置」と,本願発明の「該移送容器が該試薬貯槽に導入可能に構成された試料処理装置」とは,「試料担体が該試薬貯槽に導入可能に構成された試料処理装置」の点で共通する。

(4)引用発明の「血液を塗抹されたスライドガラス」は,本願発明の「1以上の試料を配置した1以上の試料担体」に相当するものであるから,引用発明の「血液を塗抹されたスライドガラス」を「複数」「一括して搬送する」「搬送部」と,本願発明の「1以上の試料を配置した」「1以上」の「試料担体」を収容する「1以上の移送容器」を「移送するための移送機構」とは,共に「1以上の試料を配置した1以上の試料担体を移送するための移送機構」の点で共通するものといえる。

(5)引用発明の「第1染色液の液量を管理する液面センサ」及び「第2染色液の液量を管理する液面センサ」は,摘記(1-エ)の記載より設定値との比較を行うものであり,液レベルを測定しているといえることから,本願発明の「試薬を入れた該試薬貯槽の液レベルを測定するための1以上のセンサ」に相当する。

(6)本願発明の「グリッパ」について,本願明細書に「グリッパ(持ち上げ手段)32a、32bを含む。グリッパ32a、32bは、x軸、y軸両方に対して直角であるz軸方向に移動可能である。」(【0032】)と記載され,さらに「移送容器16a、16bを移送する場合、グリッパ32a、32bを少なくともその一部が移送する移送容器16a、16bの把手18a、18bの下方にくるようにする。そしてグリッパ32a、32bを持ち上げる。グリッパ32a、32bは移送する移送容器16a、16bの(逆U字状の)把手18a、18bの上部梁(横バー)部材の下部に係合する。移送する移送容器16a、16bがグリッパ32a、32bによって、移送容器16a、16bの下端が移送容器16a、16bを運び出す試薬貯槽12の上にくるまで持ち上げられる。次に移送容器16a、16bは、各移送ユニット22a、22bによってx軸及び/又はy軸方向に移動され、次に移送容器16a、16bを浸漬する試薬貯槽12の上に移動される。そして移送容器16a、16bが試薬貯槽12の底部に乗るまで、グリッパ32a、32bとそれに支持されている移送容器16a、16bをz軸方向に下降させる。グリッパ16a、16bは好ましくはさらにもう少し下方に移動し、そして移送容器16a、16bの把手18a、18bの下方でx軸方向へ引き離される。」(【0033】)と記載されている。本願発明では,グリッパと移送容器との動作をつなぐ上記「把手(18a、18b)」については特定されていないものの,本願発明の「グリッパ」は,移送容器の移送,z軸方向の移動,移送容器への係合・引き離しの機能を担うものといえる。
一方,引用発明の「搬送アーム」は,「複数の血液を塗抹されたスライドガラスを一括して搬送するために,それらのスライドガラスを把持する」ものであり,「その搬送アームが昇降することにより,それらのスライドガラスが第1染色液槽に浸漬され取り出され,第2染色液槽に浸漬され取り出される」ものであることから,上記本願明細書に記載の移送容器の移送,z軸方向の移動の機能を担っているものである。
してみれば,引用発明の「搬送部」に「備え」られ「血液を塗抹されたスライドガラス」を「複数」「一括して搬送するために,それらのスライドガラスを把持」し「昇降することにより,それらのスライドガラスが第1染色液槽に浸漬され取り出され,第2染色液槽に浸漬され取り出される」ものである「搬送アーム」と,本願発明の「移送機構」に「含」まれ「前記移送容器を前記試薬貯槽内に導入し、また前記試薬貯槽から取り出すためのグリッパ」とは,「移送機構」に「含」まれ「試料担体を前記試薬貯槽内に導入し、また前記試薬貯槽から取り出すための手段」の点で共通する。

そうすると,本願発明と引用発明とは,
(一致点)
「所定の位置に配置された複数の試薬貯槽と,
1以上の試料を配置した1以上の試料担体を移送するための移送機構と,を含み,該試料担体が該試薬貯槽に導入可能に構成された試料処理装置であって,
試薬を入れた該試薬貯槽の液レベルを測定するための1以上のセンサを備え,
前記移送機構は,前記試料担体を前記試薬貯槽内に導入し,また前記試薬貯槽から取り出すための手段を含む,
装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
試料担体が,本願発明では1以上の「移送容器」に「収容」され,その「移送容器」が移送され,試薬貯槽内に導入され,また前記試薬貯槽から取り出されるのに対し,引用発明では,試料担体が移送され,試薬貯槽に導入し,また前記試薬貯槽から取り出されるものであるものの,その試料担体が「移送容器」に「収容」されるとは特定されていない点。

(相違点2)
試料担体を試薬貯槽内に導入し,また試薬貯槽から取り出すための手段が,本願発明では「グリッパ」であるのに対し,引用発明では搬送アームである点。

(相違点3)
センサが,本願発明では「グリッパによる前記移送容器の昇降運動の間、該複数の試薬貯槽までの垂直距離が一定となるように該移送機構に配置されている」のに対し,引用発明では,そのように配置されるとは特定されていない点。

2 当審の判断
(1)相違点1について
移送容器について,本願明細書で「移送容器16a、16bは好ましくは移送バスケット16a、16bであり、ラックとも称する。」(【0027】)と記載されている。一方,引用例2の摘記(2-ア)に記載されているように,染色装置において,複数枚の塗抹標本を被染色容器に収め,これら標本を一括して染色槽に浸漬することが通常多用されるものであり,ここで被染色容器が本願発明の「移送容器」に対応するものであることから,本願発明のように,染色装置において試料担体を移送容器に収容することは周知技術といえ,引用発明のようにアームだけで複数のスライドガラスを保持するのは安定性が十分とはいえないことから,引用発明においても,上記周知技術に鑑みて,複数のスライドガラスを移送容器に収容することは当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
本願発明においては,グリッパと移送容器との動作をつなぐ「把手(18a、18b)」については特定されていないものの,本願発明の「グリッパ」は,具体的には上記「1」対比の(6)で記載したとおりの機能を有するものであり,引用発明の「搬送アーム」も,「血液を塗抹されたスライドガラス」を「複数」「一括して搬送するために,それらのスライドガラスを把持する」もので,「その搬送アームが昇降することにより,それらのスライドガラスが第1染色液槽に浸漬され取り出され,第2染色液槽に浸漬され取り出される」ものである。そうすると,引用発明の「搬送アーム」について,それらのスライドガラスを搬送,浸漬,取り出すという動作中には「把持」を行い,第1染色液槽及び第2染色液槽に浸漬中,あるいは,染色処理前,染色処理後には,それらのスライドガラスを搬送アームから解放する必要があることから,引用発明の「搬送アーム」に把持を解放するという機能(係合・引き離しの機能)を持たせること,すなわち,引用発明において「搬送アーム」を本願発明のような「グリッパ」とすることは当業者が容易になしえたことである。

(3)相違点3について
引用例2の摘記(2-イ)及び(2-ウ)にも記載されているように,染色装置において,各槽の液面レベルを検出するに当たって,液面レベル検出手段(センサ)を各槽に設けるのではなく,被染色容器(移送容器)を吊持つ手段の方に設けることによって,一つのセンサで液面レベルの検出を行うことは周知技術といえる。
また,引用例3の摘記(3-ア)には,液面の高さを正確に計測するために超音波センサを用いることが記載されており,その液面の高さを計測する方法が記載されている摘記(3-エ)及び(3-オ)を参照するに,超音波センサで計測するものはh2であることから,液面の高さh1([href-Ls-h2])を求めるには,[href-Ls]が既知の値として一定でなければならない,すなわち,本願発明でいうところの「センサは、該複数の試薬貯槽までの垂直距離が一定となるように」しなければならないことが示されている。そして,摘記(3-イ)を参照するに,計測アーム45に装着された超音波センサで液面の高さを計測した後,分注アーム44を下降させることが記載されており,これは分注アームと超音波センサの動きが分注アームの昇降運動の際に連動していないといえ,これは計測アーム45は一定の高さであるのに対し分注アーム44のみが昇降していることを示す図6の記載からも明らかである。してみれば,引用例3には,液面の高さを正確に計測するために超音波センサを用い,他の部材が昇降運動しても,センサと液体を保持するものとの垂直距離を一定にとなるようにすることが記載されているといえる。
一方,引用発明は染色装置であり,第1染色槽及び第2染色槽を含む複数の槽を有するものであるから,上記染色装置における周知技術に鑑みて,センサを各槽に設けるのではなく,スライドガラスを把持する搬送アームを備えた搬送部の方に設けることによって一つのセンサで液面レベルの検出を行うことは,槽の数だけセンサが必要であることに替えて一つのセンサですむという効率性の観点からも,当業者が容易に想到することであり,引用発明においては,摘記(1-ア)に記載されている課題を解決するために液の量を管理するもので,液量すなわち液面の高さを正確に計測する必要があることから,そのセンサとして,上記引用例3に記載の技術的事項に鑑みて,液面の高さを正確に計測する超音波センサを採用することは,当業者が容易になし得たことである。その際,引用例3に記載の上記技術的事項に照らせば,他の部材が昇降運動してもセンサと液体を保持するものとの垂直距離を一定にとなるようにすること,すなわち本願発明でいう「センサは、前記グリッパによる前記移送容器の昇降運動の間、該複数の試薬貯槽までの垂直距離が一定となるように」することは当業者において当然に考慮される事項であり,超音波センサの具体的な配置場所として,複数の染色槽までの垂直距離が一定である,染色槽の上にある「搬送部」(本願発明における「移送機構」)とすることは当業者が通常になし得た設計事項といえる。

そして,本願発明に基づく効果も,引用例1及び3の記載事項並びに周知技術から当業者が予期しうる範囲のものであり,格別顕著なことではない。
したがって,本願発明は,引用発明,引用例3の記載事項及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明することができたものである。

なお,請求人は,審判請求書で,引用例1(下記の引用文献3)について,
「[3.3.4]引用文献3(特開2001-21468号公報)
[3.3.4.1]引用文献3は、上記拒絶理由通知書の「備考」欄の記載からすると、従属請求項である請求項に係る本願発明7に対して引用されたと解されるが、引用文献3に記載された発明(以下「引用発明3」ともいう。)は、少なくとも、本願発明1の分節構成要件[F]を備えていないことは明らかである。
・・・
[3.3.4.3]従って、引用発明3において、仮に処理ユニットの数が増加される場合であっても、引用発明3の技術的思想を考慮すれば、増加された各処理ユニットに対し処理特異的なセンサを固定的に設けることが教示ないし示唆されるに留まり、これらの処理特異的に固定的に設けられるセンサに代えて、本願発明の「1以上の試料を配置した1以上の試料担体(20)を収容する1以上の移送容器(16a、16b)を移送するための移送機構(22a、22b)」に配置される「センサ(34)」のようなセンサを採用する動機付けはない。」と主張している。
まず,請求人は,引用例1は本願発明7(請求項7に係る発明)に対して引用されたと解しているが,原査定の平成25年3月22日付け拒絶理由通知書(請求書記載の「上記拒絶理由通知書」)には「上記周知・慣用技術に鑑みますと、引用文献3に記載された上記試料処理装置において、液レベルを測定するために、容器毎にセンサを設けることに代えて、引用文献2に記載された超音波センサを用いた検知手段を用いて、本願の請求項1に係る発明との相違点に関し、本願の請求項1に係る発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到することができたことです。その余の事項は、引用文献1?5に記載された事項です、又は、関連する技術分野における周知・慣用技術による設計変更にすぎません。」(引用文献3が当審の引用例1,引用文献2が当審の引用例3である)と記載されており,引用例1は,本願発明(請求項1に係る発明)が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとの判断において主引用例とされているものであるから,請求人の該主張は当を得たものではない。
さらに,請求人は,引用例1における液面センサについて,「増加された各処理ユニットに対し処理特異的なセンサを固定的に設けることが教示ないし示唆されるに留まり、これらの処理特異的に固定的に設けられるセンサ」と主張しているが,引用例1においては,液面センサによって各染色槽の液量を管理できればいいものであり,液面センサが各処理ユニットに対し「固定的に設け」なければならないともいえない。そして,液面センサについて限定のない引用発明において,液面センサとして超音波センサを用い,それを移送機構に配置することは上記判断のとおり動機付けがあるから,上記請求人の主張は当を得たものではない。


第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2015-01-20 
結審通知日 2015-01-27 
審決日 2015-02-09 
出願番号 特願2010-1977(P2010-1977)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷 潮  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 信田 昌男
三崎 仁
発明の名称 試料処理装置及び試薬貯槽の液レベル測定方法  
代理人 加藤 朝道  
代理人 内田 潔人  

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