• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1302425
審判番号 不服2014-450  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-09 
確定日 2015-06-24 
事件の表示 特願2011-527227「反射光学素子とその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 3月25日国際公開、WO2010/031483、平成24年 2月 2日国内公表、特表2012-503318〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2009年8月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年9月19日、独国、2008年9月19日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年9月4日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、これを不服として、平成26年1月9日に請求された拒絶査定不服審判であって、請求と同時に手続補正がなされたものである。

2 本願発明
平成26年1月9日付けの手続補正は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項26ないし45を削除するものであるから、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的とするものである。
そうすると、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成26年1月9日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
特にEUVリソグラフィ装置において使用するための、軟X線領域及び極紫外線領域を作動波長域とする反射光学素子の製造方法であって、前記反射光学素子は前記作動波長域における屈折率の実部が異なる少なくとも二種類の交互に繰り返される材料で構成されて基材に応力を及ぼす多層系を前記基材上に有し、前記多層系と前記基材との間には材料の層が配置され、前記材料の層の厚みは前記多層系の応力を補償するような寸法とされ、前記応力補償のための層の蒸着は少なくとも40eVのエネルギーを有する層形成粒子によって行われることにより特徴付けられる、反射光学素子の製造方法。」

3 引用刊行物
(1)引用刊行物1
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前である平成16年4月2日に頒布された特開2004-104118号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)
a 発明の詳細な説明の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体のパターン転写などに用いられる露光用反射型マスクブランク及び反射型マスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業において、半導体デバイスの微細化に伴い、極端紫外(Extreme Ultra Violet)光(以下、EUV光と称す)を用いた露光技術であるEUVリソグラフィーが有望視されている。なお、ここで、EUV光とは、軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2?100nm程度の光のことである。このEUVリソグラフィーにおいて用いられるマスクとしては、例えば特開平8-213303号公報に記載されたような露光用反射型マスクが提案されている。」
「【0008】
本発明の反射型マスクブランクの製造方法について上記バッファ層を有する場合を例にとり説明する。
まず基板を準備し、基板上に順次、所定の膜応力を有する応力補正膜、多層反射膜を形成する。この応力補正膜及び多層反射膜を形成した基板を加熱処理することにより、多層反射膜の有する膜応力と、応力補正膜の有する膜応力の大きさが互いに向きが逆向きで大きさが等しくなるようにする。
加熱処理後、多層反射膜上に、順次バッファ層及び吸収体層を形成して、本実施の形態に係る反射型マスクブランクが得られる。
次に、各製造工程について説明する。
【0009】
まず、基板の準備について説明する。
本発明に用いる基板としては、露光時の熱によるパターンの歪みを防止するため、0±1.0×10^(-7)/℃の範囲内、より好ましくは0±0.3×10^(-7)/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましい。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、アモルファスガラス、セラミック、金属の何れでも使用できる。例えばアモルファスガラスであればSiO_(2)-TiO_(2)系ガラス、石英ガラス、結晶化ガラスであればβ石英固溶体を析出した結晶化ガラス、などを用いることができる。金属としては、インバー合金(Fe-Ni系合金)等を用いることができる。
又、基板は、高い反射率及び転写精度を得るために、高い平滑性と平坦性を備えた基板が好ましい。特に、0.2nmRms以下の平滑性(10μm角エリアでの平滑性)、100nm以下の平坦度(142mm角エリアでの平坦度)を有していることが好ましい。
又、基板は、その上に形成される膜の膜応力による変形を防止するために、高い剛性を有しているものが好ましい。特に、65GPa以上の高いヤング率を有しているものが好ましい。以上のような点を考慮して、基板を選択し、準備する。
【0010】
次に、基板上への応力補正膜の形成について説明する。
本発明における応力補正膜は、形成される多層反射膜の有する応力と逆向きの応力を有するものから選択される。一般に多層反射膜は緻密に形成され、圧縮応力を有するので、応力補正膜は、引っ張り応力を有する膜から選択されることになる。
そして例えば、加熱処理により応力補正膜の応力の大きさ(絶対値)が大きくなるものを選択する。具体的には、応力がより引っ張り応力側にシフトするものである。
更に、応力補正膜は、平滑な膜である事が好ましいため、アモルファス材料であることが好ましい。応力補正膜の表面の平滑性は、0.2nmRms以下であることが好ましく、更に好ましくは0.15nmRms以下である。
又、応力制御が容易な膜を用いると、応力補正膜に与える初期応力の値が容易に調整出来るため好ましい。このような応力補正膜としては、タンタル(Ta)を主成分とした材料が好ましい。
Taを主成分とした材料としては、例えば、Ta合金等が挙げられる。更には、Taを主成分としたアモルファス材料が好ましい。このような材料としては、タンタルとホウ素を含む合金、例えば、タンタルホウ素合金(TaB)、タンタルホウ素合金の窒化物(TaBN)等が挙げられる。
【0011】
例えば、タンタルホウ素合金の場合、DCマグネトロンスパッタ法を用いて、室温、Arガス雰囲気で基板上に形成することが好ましい。この場合、ガス圧を上げるに伴い、圧縮応力側から引っ張り応力側へ応力が変化するため、投入パワー一定の下でスパッタガス圧を変化させることにより、応力制御を微調整することが可能である。
TaとBを含む合金膜は、良好なアモルファス状態を得るために、Bの含有量が10?30at%であるのが好ましい。TaとBとNを含む合金膜の場合、Nが5?30at%であり、N以外の成分を100at%とした時、Bが10?30at%であるのが好ましい。
応力補正膜としては、その他にSiを主成分とした材料を用いることも出来る。具体的には、Si単体や、Siに添加物をドープしたものである。この場合の添加物としては、窒素や酸素が挙げられる。このSiを主成分とする材料もアモルファス状態のものが好ましく用いられる。
更には、応力補正膜としてCrを含む材料を用いることも出来る。例えば、クロムと窒素を含む材料、これに更に酸素及び/又は炭素を含む材料が挙げられる。これらのCrを含む材料は、平滑性、耐洗浄性に優れており、応力の制御性も良好である。CrN膜の場合、Nは10?50at%、好ましくは20?50at%が望ましい。
その他の応力補正膜としては、TaとGeの合金,TaとGeの合金の窒化物,TaとSiの合金、TaとSiの合金の窒化物,WとNの合金等も挙げられる。
【0012】
これらの応力補正膜は、成膜方法や成膜条件を適宜制御することによって、初期応力の値を所望の応力値に調整することができ、又、加熱により、応力の値が引っ張り方向へ変化する性質を有している。成膜方法としては、前述のDCマグネトロンスパッタリング法等を用いて基板上に形成することができる。
ところで、本発明の目的を達成するため、基板上への応力補正膜の形成は、次のような点を考慮して行うことが肝要である。即ち、後工程で行われる加熱処理後において、応力補正膜の有する膜応力と、多層反射膜が有する膜応力とが、向きが反対で大きさが同等となる必要がある。従って、多層反射膜及び応力補正膜の加熱処理による膜応力の変化分を考慮して、加熱処理前の応力補正膜に与える初期応力及び膜厚を決定する。
例えば、多層反射膜の構成が予め決定している場合、まず、加熱処理温度と加熱処理後の多層反射膜の膜応力の変化との関係を求める。更に、所定の応力補正膜材料において、加熱処理温度と膜厚と加熱処理後の膜応力の変化との関係を求める。これらの情報を参照して、加熱処理後の多層反射膜の膜応力と、加熱処理後の応力補正膜の膜応力が互いに逆向きで大きさがほぼ等しくなるように、両方の膜応力の変化分を見込んで、加熱処理温度、応力補正膜に最初に与える応力及び応力補正膜の膜厚を決定すればよい。
但し、前述のように、応力補正膜に与える初期の応力が非常に高いと、表面粗さが大きくなるため、応力補正膜に与える膜応力は、0?+300MPa程度(多層反射膜と同じ膜厚に換算した値)とするのがよい。
【0013】
又、応力補正膜の膜厚は、表面粗さを増大させないために、必要な膜応力が得られる範囲で小さい方がよい。好ましくは、10?300nm程度の厚さである。
本実施の形態では、後工程で行う加熱処理により、応力補正膜と多層反射膜の膜応力が相殺しあうので、応力補正膜として最初から高い応力の膜を形成する必要がなく、表面粗さが小さくてすむ。
なお、加熱処理後の多層反射膜を形成した基板の好ましい平坦度は、100nm以下である。本発明においては、加熱処理後、応力補正膜と多層反射膜の膜応力の絶対値が全く等しくはならなくとも、所定の平坦度を得るのに十分となる程度に、応力補正膜と多層反射膜の膜応力が相殺しあうようにすればよい。
又、本実施の形態のように、応力補正膜は、基板と多層反射膜の間に形成されてもよいが、多層反射膜上に形成してもよい。この場合も、材料及び成膜、応力補正膜の設計の考え方は、上述した実施形態の場合と同様である。
【0014】
次に、多層反射膜の形成について説明する。
本発明における多層反射膜は、屈折率の異なる物質を周期的に積層させた構造をしており、特定の波長の光を反射するように構成されている。例えば、約13nmの波長の露光光(EUV光)に対しては、MoとSiを交互に40周期程度積層した多層反射膜が通常用いられる。Mo/Si多層反射膜の場合、相対的に屈折率の大きい層がMo、相対的に屈折率の小さい(屈折率がより1に近い)層がSiである。多層反射膜を形成する材料は使用する露光光の波長に応じて、適宜選択すればよい。EUV光の領域で使用されるその他の多層反射膜の例としては、Ru/Si周期多層反射膜、Mo/Be周期多層反射膜、Mo化合物/Si化合物周期多層反射膜、Si/Nb周期多層反射膜、Si/Mo/Ru周期多層反射膜、Si/Mo/Ru/Mo周期多層反射膜、及びSi/Ru/Mo/Ru多層反射膜などが挙げられる。
多層反射膜は、基板上、或いは、応力補正膜上に例えば、DCマグネトロンスパッタ法により形成できる。Mo/Si多層反射膜の場合、Arガス雰囲気下で、SiターゲットとMoターゲットを交互に用いて、30?60周期、好ましくは40周期程度積層し、最後にSi膜を成膜すればよい。他の成膜方法としては、IBD(イオン・ビーム・デポディション)法等が使用できる。
【0015】
前述したように、多層反射膜及び応力補正膜の設計において、加熱処理後の多層反射膜の膜応力の変化分を予め考慮しておく必要がある。
次に、加熱処理について説明する。
本実施の形態における、基板上に形成された応力補正膜及び多層反射膜の加熱処理は、応力補正膜の有する膜応力と、多層反射膜の有する膜応力とを互いに逆向きで大きさ(絶対値)を略等しくし、膜応力が相殺し合うようにする作用を有する。
膜の有する力は、単位膜厚当たりの膜応力と、膜厚との積で表される力であるから、加熱処理により、多層反射膜の有する力と、応力補正膜の有する力がつりあうようにすればよい。このためには、前述の多層反射膜の膜厚換算で示される応力補正膜の膜応力と、多層反射膜の単位膜厚あたりの膜応力が互いに逆向きで大きさ(絶対値)がほぼ等しくなるようにすればよい。
一般に、大きな圧縮応力を有する多層反射膜は、加熱処理により、その応力が緩和される(引っ張り応力方向に変化し、ゼロに近づく方向になる)傾向にある。従って、加熱処理により、多層反射膜の有する膜応力の大きさの絶対値は小さくなる。
【0016】
一方、本実施の形態では、応力補正膜は、加熱処理することにより、その応力の絶対値が大きくなる材料を用いることができる。即ち、応力補正膜には、ゼロ応力あるいは多層反射膜と逆向きの応力である引っ張り応力を有する膜を使用し、加熱処理をすることにより、応力補正膜の応力は更に、引っ張り応力が増大する方向に変化する。
従って、加熱処理前には、多層反射膜の有する膜応力(圧縮応力)の大きさ(絶対値)は、応力補正膜の有する膜応力(引っ張り応力)の大きさ(絶対値)より大きく、これらは互いにつりあっていないが、加熱処理することにより、多層反射膜の膜応力(圧縮応力)の大きさ(絶対値)が小さくなると共に、応力補正膜の膜応力(引っ張り応力)の大きさ(絶対値)が大きくなり、これらがつりあい、相殺されるようになる。
このように、多層反射膜の膜応力を相殺するためには、前述したように、予め加熱処理による多層反射膜及び応力補正膜の膜応力のそれぞれの変化分を考慮して、加熱処理温度、多層反射膜の初期応力や膜厚、応力補正膜の初期応力や膜厚を設計すればよい。
高温で加熱処理を行うと、多層反射膜の反射率低下を招くため、加熱処理は、応力補正膜の成膜時の温度よりも高く200℃以下の基板加熱温度、更には、150℃以下で行うのが好ましい。また、十分な応力変化を得るためには、90℃以上の温度が好ましい。また、加熱処理時間は、加熱処理による応力補正膜と多層反射膜の膜応力の変化が達成されるのに十分な時間であればよく、通常は1時間程度である。
【0017】
加熱処理は、応力補正膜及び多層反射膜を同時に加熱処理する場合は、基板上に応力補正膜及び多層反射膜が形成された後に行うのであれば、製造工程中のどの工程で行ってもよい。他の層への影響等が少ない点から、基板上に応力補正膜と多層反射膜を形成後、バッファ層や吸収体層等の他層の形成の前に行うのが好ましい。
以上の実施形態では、基板上に応力補正膜及び多層反射膜を形成後、これらを同時に加熱処理する形態を説明したが、基板と多層反射膜の間に応力補正膜を形成する場合には、まず基板上に応力補正膜を形成し、多層反射膜を形成する前に、応力補正膜の加熱処理を行って、応力補正膜の応力を引っ張り応力側に変化させた後、多層反射膜を形成し、多層反射膜の加熱処理を行ってもよい。このようにすると、加熱工程は二工程で行うことになるが、多層反射膜形成前に応力補正膜の加熱処理による応力変化を行うことで、多層反射膜の特性に影響を及ぼすような比較的高温での加熱処理が可能であるため、応力補正膜の応力の変化量を大きくとることが出来るようになる。
本発明では、加熱処理による多層反射膜及び応力補正膜の膜応力の相殺を利用しているため、成膜時において、応力補正膜に多層反射膜の有する膜応力を相殺するための大きな応力を与える必要がない。従って、応力補正膜の表面粗さが大きくなることがない。又、本発明では、多層反射膜の加熱処理による応力緩和と、応力補正膜による多層反射膜の膜応力の相殺を同時に利用しているため、多層反射膜自身の有する膜応力を加熱処理だけでゼロに近づける必要がないため、高温での加熱処理は必要なく、多層反射膜の反射率低下を招くことがない。
なお、加熱処理による応力補正膜の応力の変化量は、応力補正膜の成膜条件(成膜温度等)によっても変化する。従って、応力補正膜の応力の変化量は、成膜条件を調整することでコントロールすることが可能である。
上述の実施の形態では、加熱処理により応力の絶対値が増大するような材料を用いた応力補正膜を例に説明したが、本発明はこれに限られない。必要な表面粗さ(平滑性)が得られ、且つ、多層反射膜の反射率に影響しない程度の加熱処理によって多層反射膜との応力の釣り合いがとれるのであれば、加熱処理によりその応力が変化しない、或いは僅かに減少するような材料を用いた応力補正膜であってもよい。応力補正膜が加熱処理によって、その応力が変化しない或いは僅かに減少するものであっても、加熱処理後に多層反射膜の応力と相殺しあうことで、上述の応力補正膜の表面粗さと多層反射膜の反射率低下を解決できる。
【0018】
次に、バッファ層の形成について説明する。
バッファ層は、吸収体層に転写パターンを形成する際に、エッチング停止層として下層の多層反射膜を保護する機能を有し、通常は多層反射膜と吸収体層との間に形成される。なお、バッファ層は必要に応じて設ければよい。
バッファ層の材料としては、吸収体層とのエッチング選択比が大きい材料が選択される。バッファ層と吸収体層のエッチング選択比は5以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは20以上である。更に、低応力で、平滑性に優れた材料が好ましく、とくに0.3nmRms以下の平滑性を有していることが好ましい。このような観点から、バッファ層を形成する材料は、微結晶あるいはアモルファス構造であることが好ましい。
一般に、吸収体層の材料には、TaやTa合金等が良く用いられている。吸収体層の材料にTa系の材料を用いた場合、バッファ層としては、Crを含む材料を用いるのが好ましい。例えば、Cr単体や、Crに窒素、酸素、炭素の少なくとも1つの元素が添加された材料が挙げられる。具体的には、窒化クロム(CrN)等である。
一方、吸収体層として、Cr単体や、Crを主成分とする材料を用いる場合には、バッファ層には、Taを主成分とする材料、例えば、TaとBを含む材料や、TaとBとNを含む材料等を用いることができる。
【0019】
このバッファ層は、反射型マスク形成時には、マスクの反射率低下を防止するために、通常、吸収体層に形成されたパターンに従って、パターン状に除去される。しかし、バッファ層に露光光であるEUV光の透過率の大きい材料を用い、膜厚を十分薄くすることが出来れば、パターン状に除去せずに、多層反射膜を覆うように残しておいてもよい。
バッファ層は、例えば、DCスパッタ、RFスパッタ、イオンビームスパッタ等のスパッタ法で形成することができる。
バッファ層の有する膜応力はゼロであることが好ましいが、このバッファ層の膜応力がゼロ又はそれに近い値ではなく、かつ反射型マスクとして用いられる際に、バッファ層にパターンが形成されない場合には、バッファ層の有する膜応力も考慮して、バッファ層、多層反射膜、応力補正膜の応力がつりあうように設計すればよい。
バッファ層以外のパターンが形成されない層を更に有する場合にも同様な考え方で設計を行えばよい。
【0020】
次に、吸収体層の形成について説明する。
本発明における吸収体層の材料としては、露光光の吸収率が高く、吸収体層の下側に位置する層(通常バッファ層或いは多層反射膜)とのエッチング選択比が十分大きいものが選択される。例えば、Taを主要な金属成分とする材料が好ましい。この場合、バッファ層にCrを主成分とする材料を用いれば、エッチング選択比を大きく(10以上)取ることができる。ここで、Taを主要な金属元素とする材料とは、成分中の金属元素のうち、もっとも組成比の大きい金属がTaであるという意味である。この吸収体層に用いられるTaを主要な金属元素とする材料は、通常金属または合金である。また、平滑性、平坦性の点から、アモルファス状または微結晶の構造を有しているものが好ましい。Taを主要な金属元素とする材料としては、TaとBを含む材料、TaとNを含む材料、TaとBとOを含む材料、TaとBとNを含む材料、TaとSiを含む材料、TaとSiとNを含む材料、TaとGeを含む材料、TaとGeとNを含む材料等を用いることができる。TaにBやSi,Ge等を加えることにより、アモルファス状の材料が容易に得られ、平滑性を向上させることができる。また、TaにNやOを加えれば、酸化に対する耐性が向上するため、経時的な安定性を向上させることができるという効果が得られる。
【0021】
他の吸収体層の材料としては、Crを主成分とする材料(クロム、窒化クロム等)、タングステンを主成分とする材料(窒化タングステン等)、チタンを主成分とする材料(チタン、窒化チタン)等を用いることができる。
これらの吸収体層は、通常のスパッタ法で形成する事が出来る。なお、パターン形成後のパターンの形状精度、位置精度を高く保つために、吸収体層は応力が小さくなるように形成するのが好ましい。
以上のようにして、本実施の形態の反射型マスクブランクが得られる。
なお、本実施の形態の反射型マスクブランクは必要に応じて更に別の層を有していてもよい。
【0022】
次に、反射型マスクの製造方法について説明する。
反射型マスクは、上述した反射型マスクブランクの吸収体層にパターンを形成することで製造できる。
吸収体層へのパターン形成は次のようにして行う。上記反射型マスクブランク上に電子線描画用レジスト層を形成し、電子線描画及び現像によりレジストパターンを形成する。次いで、このレジストパターンをマスクとして、吸収体層をドライエッチングなどの方法でエッチングする。吸収体層がTaを主要な金属成分とする材料の場合、バッファ層を多層反射膜の保護層として、塩素を用いたドライエッチングでパターンを形成することができる。吸収体層のパターン形成後、吸収体層のパターン上に残ったレジスト層を除去する。更に、必要に応じて、バッファ層を吸収体層のパターンに従って、パターン状に除去する。例えば、バッファ層にCrを主成分とする膜を使用している場合には、塩素と酸素の混合ガスを用いたドライエッチングでバッファ層を除去することができる。
以上のようにして、反射型マスクが得られる。
【0023】
以上のように、本発明の反射型マスクブランク及び反射型マスクの製造方法においては、加熱処理による多層反射膜の膜応力と応力補正膜の膜応力の相殺を利用して多層反射膜の膜応力の影響を低減するようにしたため、応力補正膜の表面荒れを抑え、平坦性に優れた高精度なパターン転写が可能な反射型マスクブランク及び反射型マスクが得られる。又、比較的低温での加熱処理で良いため、多層反射膜の反射率の低下を招かずに、平坦性に優れた反射型マスクブランク及び反射型マスクが得られる。
次に、本発明の実施例により本発明を更に具体的に説明する。」
b 図面の記載
「【図1】


c 引用例1記載の発明
上記a及びbの記載事項によると、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィー用の反射型マスクの製造方法であって、
反射型マスクは、基板上に順次、所定の膜応力を有する応力補正膜、多層反射膜を形成し、この応力補正膜及び多層反射膜を形成した基板を加熱処理することにより、多層反射膜の有する膜応力と、応力補正膜の有する膜応力の大きさが互いに向きが逆向きで大きさが等しくなるようにし、加熱処理後、多層反射膜上に、順次バッファ層及び吸収体層を形成し、ドライエッチングによりバッファ層及び吸収体層を除去して得るものであって、
多層反射膜は、屈折率の異なる物質を周期的に積層させた構造をしており、特定の波長の光を反射するように構成されており、例えば、約13nmの波長の露光光(EUV光)に対しては、MoとSiを交互に40周期程度積層した多層反射膜が通常用いられ、
応力補正膜は、DCマグネトロンスパッタリング法を用いて形成され、平滑な膜である事が好ましいため、アモルファス材料であることが好ましい反射型マスクの製造方法。」

(2)引用刊行物2
また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前である2008年2月21日に頒布された国際公開第2008/020965号(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。(ここでは、翻訳文として引用例2のファミリーである特表2010-500776号公報の記載を採用する。また、下線は当審で付した。)
a 明細書の記載
「背景技術
EUV光、例えば約50nm又はそれ未満の波長を有し、約13.5nmの波長での光を含む電磁放射線(軟X線とも呼ばれることもある)は、基体、例えばシリコンウェーハ内の極めて小さな特徴部を生成するためにフォトリソグラフィ処理において使用することができる。」(第1頁第30?35行)
「図2は、図1及び3に示す楕円ミラー30のような比較的大きなEUV光源ミラーを製作する処理段階/段を示す流れ図を示している。図示の製作工程は、必ずしも垂直入射ミラー、集光ミラー、又はあらゆる特定の形態、例えば、楕円体を有するミラーに限定されず、代わりに、20度を超える入射角で反射するように設計されたミラー、球面ミラー、非球面光学器械などを含むグレージング入射ミラーのような他の大きなEUV光学器械を生成するためにも使用することができることは認められるものとする。
図2に示すように、EUV光源ミラーを製作する方法は、複数の個別の基体を準備する(ボックス100)ことにより始めることができる。次に、図2に示すように、その後、光学器械の最終の望ましい面形状精度に近似した構成に基体を位置決めする(ボックス102)。例えば、楕円集光ミラーに対しては、各被覆基体は、第1の楕円焦点(例えば、図1の28)、第2の楕円焦点(例えば、図1の40)、又は両方を確立するように位置決め及び試験することができる。適切な構成になった時に基体を互いに固定する(ボックス104)。固定する段/段階は、接合及び/又はろう付けにより達成することができる。接合及び/又はろう付けの代わりに、更に、他の締結技術、例えば、機械式留め具を使用して被覆基体を互いに固定することができる。組み付け後、基体を研磨して(アセンブリとして)光学器械としての精巧な面形状精度及び表面仕上げにすることができる(ボックス106)。研磨したら、アセンブリ内の各基体をMo/Si誘電体コーティングのような多層コーティングで被覆することができる(ボックス108)。
図1及び3を相互に参照すると、中央楕円状基体110及び8つの周辺基体112a?hを含む9つの基体110、112a?hは、単一の比較的大きな楕円ミラー30として配置することができ、一部の場合には、500mmを超える直径dを有する楕円が可能であるということが見出されている。9つの基体110、112a?hを有する実施形態が示されているが、本明細書で説明する手順を使用して9つを超える基体及び僅か2つの基体を接合することができることは認められるものとする。一部の用途に対しては、上述の技術を用いると、単一の結晶シリコンの使用により、使用しない場合では技術的及び/又は経済的に実行不可能なミラーサイズを作り出すことを可能にすることができるが、本明細書のいかなる内容も製作方法をあらゆる特定形式の基体材料又はサイズに限定しないと解釈すべきである。
図4及び図5は、図1に示す集光ミラー30のような光学要素基体のコーティングを示している。本明細書で説明するように、図4及び図5に示すコーティング及びコーティング処理は、図1及び3に示すミラー30のような多重基体ミラー、単一基体、例えばモノリシックミラー、集光ミラーなど垂直入射ミラー、グレージング入射ミラー、例えば、低角度(<20度)、一般的に金属被膜、例えば、ルテニウムを使用するグレージング入射ミラー、及び一般的に多層コーティング、例えば、誘電体多層コーティング、例えば、Mo/Si多層コーティングを使用する高角度(20?40度)グレージング入射ミラー上で用いることができる。更に、図4及び図5に示すコーティング及びコーティング処理は、多層コーティングで被覆されるあらゆる他のEUV光学器械に対して用いることができる。
図4から始めると、13nm光との使用に向けて、基体118aは、単結晶材料及び多結晶材料、グリッドコップ、フロートガラス、ULEガラス(超低膨張ガラス)、Zerodur、石英ガラス、アルミニウム、ベリリウム、モリブデン、銅、ニッケル又はニッケル合金、高密度SiC及び他の密度を含む炭化珪素、「CVD SiC」、「CVC SiC」のような様々な技術により生成されるSiC、反応接合SiC、及びSiCを含む他の複合材料、又は当業技術で公知の又は明らかである他の適切な基体材料を含むシリコンで製造することができる。コーティングは、図示のように、基体の表面を覆いかつ接触するように基体118a上に堆積されるいわゆる平滑化層とすることができる層130を含むことができる。図4は、コーティングが層130を覆う多層システム132を更に含むことができることを示している。本明細書で使用する時、用語「平滑化層」及びその派生語は、平滑化層を覆うその後に適用される層で平滑仕上げを容易にすると共に、平滑化層の上に覆われるトップコートを含むその後の層のために滑らかな表面を作り出すことによりこの機能を実行することができ、平滑化層の滑らかな表面は、堆積させたままで又はその後の作業、例えば、研磨などの後に作り出される層を含むが必ずしもこれに限定されるわけではない。
特に、平滑化層の使用は、研磨しにくい場合がある光学器械、例えば、非球面光学器械に対して適切とすることができるが、他の光学器械、例えば、平坦な光学器械及び球面光学器械に対しても用途があると考えられる。平滑化層は、多層コーティングを再付加する前に、使用済みEUV光学器械(浸食、デブリ堆積、汚濁などが発生している場合がある)の表面状態を滑らかにして改善するために付加することができる。
一実施例では、層130は、高エネルギ堆積条件を用いて堆積させたSi、C、Si_(3)N_(4)、B_(4)C、SiC、Cr、CrSi_(2)、MoC_(2)、又はMoSi_(2)のような平滑化層材料を含むことができる。高エネルギ堆積条件として、標準的な堆積技術と比較して、基体加熱及び/又は粒子エネルギ増大による材料堆積を含むことができる。本明細書で使用する時、用語「粒子」及びその派生語は、特定の化学元素又は分子のイオン及びニュートラルを含むがこれらに限定されるものではない。例えば、基体は、約100?200度Cの範囲の温度に加熱することができる。
堆積中に供給される高エネルギ(基体加熱により、又は堆積中にイオン及びニュートラルのエネルギを増大させることにより)は、堆積中に表面での原子移動度を増大させ、これは、平滑化をもたらすことができる。一般的なイオンエネルギは、数100eV?数1000eVの範囲とすることができる。グレージング入射イオン角度を用いてイオン研摩を通して平滑面を得ることができる。一部の場合には、平滑化層が堆積される前に暫くの間イオン衝撃により最初に表面を処理することが有利であると考えられる。それによって平滑化層付加前に基体表面上で最も粗い特徴部を排除することができる。
図4が単一の平滑化層130を示すが、本明細書で示す開示内容は、単一の連続的堆積処理中に堆積される単一の平滑化層に限定されるものではない。代替的に、複数の平滑化層は、平滑化材料及び/又は堆積の時間を変えて付加することができ、例えば、堆積間で他の処理段階、例えば、研磨を実行することができる。例えば、平滑化層を付加し、次に、イオン衝撃研磨を与え、かつその後に別の平滑化層を付加することができる。各層は、異なる持続時間で付加することができる。また、アルゴンイオン又は他のスパッタイオンによるイオン衝撃の異なるエネルギを堆積期間中に又はその間に使用することができる。
層30は、熱源又は電子ビーム又はイオン補助堆積による物理堆積などであるがこれらに限定されない当業技術で公知の堆積技術を使用して堆積させることができる。層130の堆積の前に、基体は、超音波水性洗浄及び/又は溶剤洗浄を含むような技術の1つ又はそれよりも多くを使用して、例えば、高純度メタノール又は一部の他の適切な溶剤を使用して洗浄することができる。一部の場合には、一部の材料、例えば、炭素及び窒化珪素に対しては、層130は、結晶化が発生する臨界厚みよりも小さい厚み「t」まで堆積させて、実質的にアモルファスコーティング12を取得することができる。一部の実施形態に対しては、平滑化層は、3nm?100nmの範囲の厚みを有することができる。使用する厚みは、一般的に、使用する材料(例えば、基体及び平滑化材料)に依存することになる。例えば、Siに対しては、5?20nmの厚みを使用することができ、クロミウムに対しては、20?40nmの厚みを使用することができる。
一部の場合には、十分なエネルギを有する堆積条件中に表面原子との多価化学結合を通じて開始されるアモルファス層成長により高度な基体平滑化行うことができる。従って、炭素(C)及びシリコン(Si)に加えて、SiC、B_(4)C、Si_(3)N_(4)のような化合物を含む炭素又はシリコンの薄膜層を適切とすることができる。クロミウム又はCrSi_(2)は、成長特性により良好な平滑化層を形成することができ、例えば、広範囲にわたる堆積パラメータに対して、クロミウムの20nm?40nm厚のアモルファス層を成長させることができる。」(第11頁第3行?第14頁第22行)
b 図面の記載





4 対比
以下、本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「反射型マスク」は、本願発明の「反射光学素子」に相当する。
そうすると、引用発明の「軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィー用の反射型マスクの製造方法」は、本願発明の「特にEUVリソグラフィ装置において使用するための、軟X線領域及び極紫外線領域を作動波長域とする反射光学素子の製造方法」に相当する。
(2)引用発明の「基板」、「多層反射膜」は、本願発明の「基材」、「多層系」に相当する。
また、引用発明の「反射型マスクは、基板上に」、「膜応力」を「有する」「多層反射膜を形成」するものであるから、引用発明の「多層反射膜は、屈折率の異なる物質を周期的に積層させた構造をしており、特定の波長の光を反射するように構成されており、例えば、約13nmの波長の露光光(EUV光)に対しては、MoとSiを交互に40周期程度積層した多層反射膜が通常用いられ」る構成は、本願発明の「反射光学素子は前記作動波長域における屈折率の実部が異なる少なくとも二種類の交互に繰り返される材料で構成されて基材に応力を及ぼす多層系を前記基材上に有」する構成に相当する。
(3)引用発明の「応力補正膜」は、本願発明の「材料の層」及び「応力補償のための層」に相当する。
そうすると、引用発明の「基板上に順次、所定の膜応力を有する応力補正膜、多層反射膜を形成」する構成は、本願発明の「多層系と前記基材との間には材料の層が配置され」る構成に相当する。
(4)引用発明の「多層反射膜の有する膜応力と、応力補正膜の有する膜応力の大きさが互いに向きが逆向きで大きさが等しくなるように」する構成と、本願発明の「材料の層の厚みは前記多層系の応力を補償するような寸法とされ」る構成とは、「材料の層は前記多層系の応力を補償する」構成で共通する。

上記(1)乃至(4)から、本願発明と引用発明は、
「特にEUVリソグラフィ装置において使用するための、軟X線領域及び極紫外線領域を作動波長域とする反射光学素子の製造方法であって、前記反射光学素子は前記作動波長域における屈折率の実部が異なる少なくとも二種類の交互に繰り返される材料で構成されて基材に応力を及ぼす多層系を前記基材上に有し、前記多層系と前記基材との間には材料の層が配置され、前記材料の層は前記多層系の応力を補償する反射光学素子の製造方法。」
で一致し、以下a及びbの点で相違する。

(相違点)
a 本願発明は、「材料の層の厚み」が「多層系の応力を補償するような寸法」であるのに対し、引用発明は、「応力補正膜」の厚みが不明であって、単に、「多層反射膜の有する膜応力と、応力補正膜の有する膜応力の大きさが互いに向きが逆向きで大きさが等し」い点。

b 「応力補償のための層」の形成が、本願発明は、「蒸着」であって、「少なくとも40eVのエネルギーを有する層形成粒子によって行われる」のに対し、引用発明は、「DCマグネトロンスパッタリング法」が「用い」られる点。

5 当審の判断
以下、上記a及びbの相違点について検討する。
(aの相違点について)
一般的に、応力を有する薄膜が膜厚によって応力が変化することは技術常識であって、引用発明の「応力補正膜」においても、膜厚によって応力が変化することは自明である。
そして、引用発明は、「応力補正膜」の厚みが不明ではあるが、「多層反射膜の有する膜応力と、応力補正膜の有する膜応力の大きさが互いに向きが逆向きで大きさが等し」いものであるから、引用発明の「応力補正膜」の厚みは「多層反射膜」の応力を補償するような寸法であるといえる。
よって、引用発明は、本願発明の「材料の層の厚みは前記多層系の応力を補償するような寸法とされ」る構成に相当する構成を有するものであるといえるから、上記aの相違点は実質的な相違点ではない。
(bの相違点について)
EUVフォトリソグラフィ処理に用いられるミラー30(本願発明の「反射光学素子」、引用発明の「反射型マスク」に相当。)において、基体118a(本願発明の「基材」、引用発明の「基板」に相当。)上に堆積され、多層システム132(本願発明の「多層系」、引用発明の「多層反射膜」に相当。)に覆われる平滑化層130(本願発明の「材料の層」、引用発明の「応力補正膜」に相当。)を、熱源又は電子ビーム又はイオン補助堆積による物理堆積などで堆積するにあたり、堆積中に供給される数100eV?数1000eVの範囲の高エネルギは、堆積中に表面での原子移動度を増大させ、平滑化をもたらすようにすること(以下「引用例2記載の事項」という。)が、引用例2(上記「3」「(2)」の摘記事項の下線部参照。)に記載されている。
そして、引用発明の応力補正膜は、引用例2記載の「平滑化層130」と同様に「基体118a」と「多層システム132」の間に形成され、かつ、「平滑な膜である事が好ましい」点で共通するものであるから、引用発明の応力補正膜を形成する方法において、引用例2記載の事項を適用して、堆積中に供給されるエネルギーを数100eV?数1000eVの範囲の高エネルギとすることにより、本願発明の上記bの相違点に係る発明特定事項を構成することは、当業者が容易になし得たことである。

上記a及びbの相違点については以上のとおりである。また、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明、及び、引用例2記載の事項から当業者が予測できる範囲内のものである。
よって、本願発明は、引用発明、及び、引用例2記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 審判請求人の主張
(1)審判請求人は、審判請求書において、「引用文献2は、「高エネルギー堆積条件」を用いて平滑化層を堆積する方法について記載している。しかし、引用文献2には、平滑化層によって生じる応力について如何なる記載もされていない。したがって、引用文献1に記載の応力補正膜に、引用文献2の平滑化方法を採用した場合、応力補正膜にどのような応力が発生するか予測することはできない。したがって、引用文献1において、応力補正膜を平滑にするために、引用文献2に記載された平滑化方法を採用しても、本願発明とはならない」と主張している。
しかしながら、引用文献1には、「本発明の目的を達成するため、基板上への応力補正膜の形成は、次のような点を考慮して行うことが肝要である。即ち、後工程で行われる加熱処理後において、応力補正膜の有する膜応力と、多層反射膜が有する膜応力とが、向きが反対で大きさが同等となる必要がある。従って、多層反射膜及び応力補正膜の加熱処理による膜応力の変化分を考慮して、加熱処理前の応力補正膜に与える初期応力及び膜厚を決定する」(上記「3」「(1)」の摘記事項【0012】参照。)と記載されており、引用発明は、多層反射膜及び応力補正膜の加熱処理後の応力を考慮しながら初期応力及び膜厚を決定するものである。
そして、引用発明の応力補正膜に引用例2記載の事項を採用した場合、応力補正膜の膜厚を様々な値に変化させたときの応力は実験等により容易に知ることができることは明らかである。
したがって、「引用文献1に記載の応力補正膜に、引用文献2の平滑化方法を採用した場合、応力補正膜にどのような応力が発生するか予測することはできない」とする主張は当を得ないものである。
(2)また、審判請求人は、審判請求書において、「引用文献1では、応力補正膜の生成には、成膜方法や成膜条件を適宜制御することが必要である旨が記載されている(段落[0012])。ここで、応力補正膜の生成に関して、「例えば、タンタルホウ素合金の場合、DCマグネトロンスパッタ法を用いて、室温、Arガス雰囲気で基板上に形成することが好ましい」(段落[0011])や、「加熱処理は、応力補正膜の生成時の温度よりも高く、200°C以下の基板加熱温度、更には、150°C以下で行うのが好ましい。また十分な応力変化を得るためには、90°C以上の温度が好ましい」(段落[0016])等の記載から、引用文献1の応力補正膜の生成は、少なくとも90°C未満、好ましくは、室温で行われることが理解できる。また、応力補正膜の製膜時の温度が90°C以上となれば、製膜時に応力変化が生じてしまい、引用文献1の発明の効果が達成されなくなると理解できる。
一方、引用文献2では、平滑化層を「高エネルギー堆積条件」で堆積させるとし、「例えば、基体は、約100?200度Cの範囲の温度に加熱することができる」(段落[0032])と記載している。このように基板を加熱する場合は、引用文献1の応力補正膜の生成には適用できないことは明らかである。また、仮に、基板を加熱しないとしても、イオンエネルギーが数100eV?数1000eVの高エネルギーにより堆積された引用文献2の平滑化層が、そのまま、引用文献1の応力補正膜の製膜方法や製膜条件を満たすとは考えられない。よって、引用文献2の平滑化方法は、引用文献1の応力補正膜に容易に適用することができないものである」と主張している。
しかしながら、引用文献2に、「例えば、基体は、約100?200度Cの範囲の温度に加熱することができる」と、「堆積中に供給される高エネルギ(基体加熱により、又は堆積中にイオン及びニュートラルのエネルギを増大させることにより)は、堆積中に表面での原子移動度を増大させ、これは、平滑化をもたらすことができる」(いずれも上記「3」「(2)」の摘記事項の下線部参照。)と記載されているように、「引用例2記載の事項」において、基体を加熱することは必須のことではない。
さらに、引用文献2には、「堆積中に供給される高エネルギ(基体加熱により、又は堆積中にイオン及びニュートラルのエネルギを増大させることにより)は、・・・(略)・・・平滑化をもたらすことができる」こと、及び、「熱源又は電子ビーム又はイオン補助堆積による物理堆積などで・・・(略)・・・堆積させること」(いずれも上記「3」「(2)」の摘記事項の下線部参照。)が記載されており、これらの記載からみて、引用文献2記載の「平滑化層」の堆積は、堆積中に高エネルギーを供給するものであるものの、具体的な堆積方法は「熱源又は電子ビーム又はイオン補助堆積による物理堆積」としか特定していない。
そして、引用発明の「応力補正膜は、DCマグネトロンスパッタリング法を用いて形成され」るものであるから、引用発明の「応力補正膜」をDCマグネトロンスパッタリング法で形成するにあたり、引用文献2記載の事項を適用して、堆積中に供給されるエネルギーを数100eV?数1000eVの範囲の高エネルギとして、本願発明の上記相違点に係る発明特定事項を構成することに、特段の困難性はない。

7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、及び、引用例2記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-21 
結審通知日 2015-01-27 
審決日 2015-02-09 
出願番号 特願2011-527227(P2011-527227)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮川 数正  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 土屋 知久
山口 剛
発明の名称 反射光学素子とその製造方法  
代理人 杉村 憲司  
代理人 下地 健一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ