• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1302457
審判番号 不服2013-21087  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-30 
確定日 2015-06-22 
事件の表示 特願2009-263335「希釈用空気精製方法および希釈用空気精製装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月 2日出願公開、特開2011-106999〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成21年11月18日を出願日とする出願であって,平成25年3月27日付けで拒絶理由が通知され,同年6月3日に意見書の提出及び手続補正がなされ,同年7月19日付けで拒絶査定がなされ,同年10月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,同時に手続補正がなされたものである。
そして,同年12月16日付けで前置審査において拒絶理由が通知され,平成26年2月17日に意見書の提出及び手続補正がなされたものである。
さらに,平成27年2月23に上申書の提出がなされ,同年2月27日に当審において電話による求釈明がなされ,同年3月16日に請求人からファクシミリによる釈明がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は,平成26年2月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。)(下線は補正箇所を示す。)
「 【請求項1】
エンジン排ガスを希釈用空気によって希釈し,その希釈排ガスを希釈排ガスバッグに採取するとともに,前記希釈用空気を希釈用空気バッグに採取して,ガス分析計により前記希釈排ガスバッグ内の希釈排ガス中の少なくともN_(2)O成分の濃度及び前記希釈用空気バッグ内の希釈用空気中の少なくともN_(2)O成分の濃度を測定して,それらの差から前記エンジン排ガス中の少なくともN_(2)O成分の濃度を測定する排ガスサンプリング分析システムに用いられる希釈用空気精製方法であって,
エンジン排ガスの希釈に用いられる希釈用空気が流れる流路上に,希釈用空気を加熱する加熱器,Pdを含有するPd触媒,Ptを含有するPt触媒およびNO_(X)を吸着するNO_(X)除去部をこの順に配置して,前記加熱器により前記希釈用空気を430度以上500度以下に加熱し,前記加熱器を含む加熱機構により少なくとも前記Pd触媒を430度以上500度以下に温度制御し,前記Pd触媒および前記Pt触媒により希釈用空気中のN_(2)OをNO_(X)に酸化し,またはそのN_(2)OをN_(2)に還元し,前記NO_(X)除去部において前記Pd触媒および前記Pt触媒によりN_(2)Oが酸化されて生じたNO_(X)を吸着することを特徴とする希釈用空気精製方法。」

第3 引用刊行物およびその記載事項(下線は当審により付与した。)
(1)本願の出願前に頒布された刊行物である特開平6-3232号公報(以下,「刊行物1」という。)には,「希釈空気精製装置から供給される希釈空気のオーバーフロー監視モニター方法およびそのモニター機能を有する定容量試料採取装置」について図面とともに次の事項が記載されている。
(1ーア)
「【0002】
【従来の技術】定容量試料採取装置を用いて自動車から排出される排気ガスの全量を希釈する場合,希釈空気精製装置によって精製された希釈用空気で希釈しサンプリングすることが多い。その精製された空気はオーバーフロー接続口を介して排ガス導入管内に供給され,排ガスが所定の割合に希釈された後採取バッグ等で採取されて成分濃度の測定がおこなわれる。」

(1ーイ)
「【0012】より詳しく説明すると,希釈空気精製装置1(図3参照)は,バックグラウンドの低濃度安定化を図るために,希釈空気中のCO,HC,NO_(X) を除去するものであり,CO,HCをCO_(2) とH_(2) Oに変換させる触媒酸化法を採用し,NO_(X) を除去する方法としては,酸化剤入りのNO_(X) 吸着剤を用い,NOを酸化させてNO_(2) として吸着処理するようにしている。図3にて,符号11は吸気フィルタ,12はブロア,13は熱交換器,14は加熱器,15はPt,Pd系またはCu,Mn系を用いた酸化触媒,16は三方電動弁,17は冷却器,18はNO_(X) 吸着器である。なお,NO_(X) 吸着器でNO_(X) が除去された後の精製希釈空気の温度は40℃?60℃であり,その希釈空気が吐出管1aからオーバーフロー接続口2に吐出供給される。」

(1ーウ)
「【0014】希釈空気を導入して排ガスの成分分析をおこなう定容量試料採取装置10は,図2に概略構成を示すように,オーバーフロー接続口2と接続された接続管7aが,シャシダイナモ21に乗載させた自動車22の排気管に接続された排ガス導入ライン7に合流接続され,その下流側に設けたサイクロン23で排ガスが希釈空気と撹拌混合された後,サンプル採取ポンプ24により,バッグサンプル用のベンチュリ25からその希釈された排ガスを分取してこれを採取バッグ26,27,28内にサンプル採取する一方,空気採取ポンプ31により接続管7aから精製された希釈空気をバックグラウンド用として採取バッグ32,33,34に採取し,分析装置35によりいわゆるバッグ測定がおこなえるようになっている。なお,図2中符号36はベンチュリ管,37はターボブロア,38は消音器である。」

図3



上記(1ーア)?(1ーウ)の記載と図3を参照すると,上記刊行物1には,
「自動車22から排出される排気ガスを,加熱器14,Pt,Pd系を用いた酸化触媒15,NO_(X) 吸着器18の順に配置されている希釈空気精製装置1によって精製された希釈用空気で希釈し ,サンプル採取ポンプ24により採取バッグ26,27,28内にサンプル採取する一方,空気採取ポンプ31により精製された希釈空気をバックグラウンド用として採取バッグ32,33,34に採取し,バッグ測定を行い成分濃度の測定をおこなう分析装置35。」の発明が記載されているものと認める(以下,「引用発明」という。)。

(2)本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-19744号公報(以下,「刊行物2」という。)には,「排ガス計測装置」について次の事項が記載されている。
(2-ア)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,エンジンから放出された排ガス排出重量を求める排ガス計測装置に関する。」

(2ーイ)
「【0040】採集部30には,通路外に配設した吸引ポンプ31の吸込力により,ベンチュリセット部25の上流側に配設してあるサンプリングベンチュリ32から,希釈した排ガス(排ガスと希釈空気との混合気体)を一定の流量で採集して,バッグ33に蓄える構造が採用してある。
【0041】この採集構造により,排ガステストモード中,希釈した排ガスをバッグ33内に蓄えて,排ガステストモード中における排ガス平均濃度の情報が得られるようにしてある。
【0042】また,ミキシング部18の直上流には,吸引ポンプ34で希釈空気だけを通路38を通じ採集してバッグ35に蓄えるようにした,希釈空気用の採集部36が設けられている。
【0043】この採集部36により,排ガステストモード中,精製空気(希釈空気)に残留しているHC,CO,NOX などの規制物質(不純物)を蓄えるようにしてある。
【0044】これらバッグ33,35内の気体は,分析装置37(計測系40と共に計測手段を構成するもの)にて分析されて,正味排ガス濃度が求められるようにしてある。
【0045】具体的には,分析装置37は,例えばバッグ33により採集された希釈排ガスから,バッグ35により採集された精製空気に含まれるHC,CO,NOX などの規制物質(不純物)を差し引いて正味排ガス濃度を求める機能,この正味排ガス濃度と先の標準状態の希釈排ガス量とを演算して排ガス排出重量を求める機能を有している。」

(3)本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-165827号公報(以下,「刊行物3」という。)には,「排ガス分析システム」について次の事項が記載されている。
(3ーア)
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,排ガス分析システムに関する。」

(3-イ)
「【0031】この発明は,上述した各実施の形態に限られるものではなく,例えばトレースガスTとしては,化学的に安定なSF6 を用いることができる。このSF6 をトレースガスTとして用いる場合,その濃度分析手段としては,NDIRの他に,例えばフーリエ変換赤外分光光度計を用いたFTIR法ガス分析計を採用することができ,このFTIR法ガス分析計1台によって,エンジン排ガスの主要成分であるCO,CO_(2) ,NO,H_(2) Oや,さらに関心の高いNO_(2) ,N_(2) O,NH_(3 ),HCHO,CH_(4) などを同時測定することができ,ガス分析部19の構成を簡略化できる。
【0032】また,ミニダイリュータ6内の流量を規定する構成は,CFVに限定されるものではなく,例えばMFCなどの流量制御装置を採用することもできる。」

(4)本願の出願前に頒布された刊行物である特開平6-154611号公報(以下,「刊行物4」という。)には,「亜酸化窒素分解用触媒」について次の事項が記載されている。
(4ーア)
「本発明に係る亜酸化窒素分解用触媒が,N_(2)Oに対して活性を示す最適な温度は,触媒種によって異なるが通常300℃?600℃であり,この温度領域においては,空間速度(SV)500?500000程度で排ガスを通流させることが好ましい。なお,より好適な使用温度領域は400℃?500℃である。」(第3頁3欄43行?49行)

(5)本願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-14029号公報(以下,「刊行物5」という。)には,「内燃機関の排気ガス浄化装置」について次の事項が記載されている。
(5ーア)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 機関の排気通路内に排気ガス浄化用触媒を配置し,排気通路内に設けた空燃比センサの出力信号に基いて空燃比をほぼ理論空燃比に維持するようにした内燃機関において,該触媒担体の排気ガス流入側端部領域のみにパラジウムを担持させると共に該排気ガス流入側端部領域下流側の残りの触媒担体領域のみに白金およびロジウムを担持させ,上記排気ガス流入側端部領域の触媒担体上にはセリウムを担持させないようにした内燃機関の排気ガス浄化装置
・・・
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は内燃機関の排気ガス浄化装置に関する。」

(5-イ)
「【0022】また,前述したように排気ガス流入側端部領域8aの触媒担体には白金PtおよびロジウムRhが担持されていない。従ってこの排気ガス流入側端部領域8a内において白金Ptの劣化問題は生じない。排気ガス流入側端部領域8aを通過した排気ガスは残りの触媒領域8b内に流入し,この残りの触媒領域8bにおいてCOの酸化作用とNOxの還元作用が行われる。この残りの触媒領域8b内に流入する排気ガスの温度はかなり高く,従ってこのとき排気ガス中に多量の酸素が存在すると白金Ptが酸化白金PtO2となって粒成長してしまう。しかしながら排気ガス中の酸素は排気ガス流入側端部領域8aにおけるパラジウムPdによる酸化反応により使用されるので残りの触媒領域8b内に流入する排気ガス中の酸素量は少なく,従って白金Ptが酸化白金PtO_(2) となって粒成長することがない。斯くして白金Ptが劣化し難くなる。」

第4 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「自動車22から排出される排気ガス」,および「希釈空気精製装置1によって精製された希釈用空気」は,それぞれ,本願発明の「エンジン排ガス」,「希釈用空気」に相当する。
また,引用発明の「採取バッグ26,27,28」は,「自動車22から排出される排気ガス」を,「希釈用空気で希釈し」 「サンプル採取する」ものであるから,本願発明の「希釈排ガスバッグ」に相当し,引用発明の「採取バッグ32,33,34」は,「精製された希釈空気をバックグラウンド用として」「採取」するものであるから,本願発明の「希釈用空気バッグ」に相当する。
そうすると引用発明の「自動車22から排出される排気ガスを,」「希釈空気精製装置1によって精製された希釈用空気で希釈し ,サンプル採取ポンプ24により採取バッグ26,27,28内にサンプル採取する一方,空気採取ポンプ31により精製された希釈空気をバックグラウンド用として採取バッグ32,33,34に採取」することは,本願発明の「エンジン排ガスを希釈用空気によって希釈し,その希釈排ガスを希釈排ガスバッグに採取するとともに,前記希釈用空気を希釈用空気バッグに採取」することに相当する。
さらに,引用発明の「分析装置35」は「バッグ測定を行い成分濃度の測定をおこなう」のであるから,本願発明の「ガス分析計」,および「排ガスサンプリング分析システム」に相当する。
そうすると,引用発明の「自動車22から排出される排気ガスを,」「希釈空気精製装置1によって精製された希釈用空気で希釈し ,サンプル採取ポンプ24により採取バッグ26,27,28内にサンプル採取する一方,空気採取ポンプ31により精製された希釈空気をバックグラウンド用として採取バッグ32,33,34に採取」し,「バッグ測定を行い成分濃度の測定をおこなう分析装置35」と,
本願発明の「ガス分析計により前記希釈排ガスバッグ内の希釈排ガス中の少なくともN_(2)O成分の濃度及び前記希釈用空気バッグ内の希釈用空気中の少なくともN_(2)O成分の濃度を測定して,それらの差から前記エンジン排ガス中の少なくともN_(2)O成分の濃度を測定する排ガスサンプリング分析システム」とは,
「ガス分析計により前記希釈排ガスバッグ内の希釈排ガス及び前記希釈用空気バッグ内の希釈用空気から前記エンジン排ガス中の少なくとも測定対象の排ガス成分の濃度をバッグ内の気体を用いて測定する排ガスサンプリング分析システム」の点で共通する。

イ 引用発明の「希釈空気精製装置1」は,「加熱器14,Pt,Pd系を用いた酸化触媒15,NO_(X) 吸着器18」がこ「の順に配置されて」おり,「分析装置35」で用いる「希釈用空気」を「精製」するのであるから,引用発明が「希釈用空気」の流路上に「加熱器14,Pt,Pd系を用いた酸化触媒15,NO_(X) 吸着器18」がこ「の順に配置されて」おり,その順に上記「希釈用空気」を流すことにより「分析装置35」で用いる「希釈用空気」を「精製」する方法を内在していることは明らかであり,また,引用発明の「加熱器14,」,および「NO_(X) 吸着器18」は,それぞれ,本願発明の「希釈用空気を加熱する加熱器」,および「NO_(X)を吸着するNO_(X)除去部」に相当するといえる。
さらに,本願発明の「Pdを含有するPd触媒,Ptを含有するPt触媒」は「前記Pd触媒および前記Pt触媒により希釈用空気中のN_(2)OをNO_(X)に酸化」するものと「前記Pd触媒および前記Pt触媒により希釈用空気中のN_(2)OをN_(2)に還元」するものを包含するから,「前記Pd触媒および前記Pt触媒により希釈用空気中のN_(2)OをNO_(X)に酸化」するものに注目すると,
引用発明の「Pt,Pd系を用いた酸化触媒15」と,
本願発明の「Pdを含有するPd触媒,Ptを含有するPt触媒」とは,
「Pt,Pd系を用いた酸化触媒」の点で共通する。

その結果,上記の引用発明の内在する方法である「希釈用空気」の流路上に「加熱器14,Pt,Pd系を用いた酸化触媒15,NO_(X) 吸着器18」がこ「の順に配置されて」おり,その順に上記「希釈用空気」を流すことにより「分析装置35」で用いる「希釈用空気」を「精製」する方法と,
本願発明の「排ガスサンプリング分析システムに用いられる希釈用空気精製方法であって,
エンジン排ガスの希釈に用いられる希釈用空気が流れる流路上に,希釈用空気を加熱する加熱器,Pdを含有するPd触媒,Ptを含有するPt触媒およびNO_(X)を吸着するNO_(X)除去部をこの順に配置して,前記加熱器により前記希釈用空気を430度以上500度以下に加熱し,前記加熱器を含む加熱機構により少なくとも前記Pd触媒を430度以上500度以下に温度制御し,前記Pd触媒および前記Pt触媒により希釈用空気中のN_(2)OをNO_(X)に酸化し,またはそのN_(2)OをN_(2)に還元し,前記NO_(X)除去部において前記Pd触媒および前記Pt触媒によりN_(2)Oが酸化されて生じたNO_(X)を吸着することを特徴とする希釈用空気精製方法」とは,
「排ガスサンプリング分析システムに用いられる希釈用空気精製方法であって,
エンジン排ガスの希釈に用いられる希釈用空気が流れる流路上に,希釈用空気を加熱する加熱器,Pt,Pd系を用いた酸化触媒およびNO_(X)を吸着するNO_(X)除去部をこの順に配置して,前記加熱器により前記希釈用空気を加熱し,前記Pd触媒および前記Pt触媒により希釈用空気中の測定対象の排ガス成分を酸化し,前記NO_(X)除去部において前記Pd触媒および前記Pt触媒により測定対象の排ガス成分が酸化されて生じたNO_(X)を吸着する希釈用空気精製方法」の点で共通する。

そうすると,本願発明と引用発明とは,
「エンジン排ガスを希釈用空気によって希釈し,その希釈排ガスを希釈排ガスバッグに採取するとともに,前記希釈用空気を希釈用空気バッグに採取して,ガス分析計により前記希釈排ガスバッグ内の希釈排ガス及び前記希釈用空気バッグ内の希釈用空気から前記エンジン排ガス中の少なくとも測定対象の排ガス成分の濃度をバッグ内の気体を用いて測定する排ガスサンプリング分析システムに用いられる希釈用空気精製方法であって,
エンジン排ガスの希釈に用いられる希釈用空気が流れる流路上に,希釈用空気を加熱する加熱器,Pt,Pd系を用いた酸化触媒およびNO_(X)を吸着するNO_(X)除去部をこの順に配置して,前記加熱器により前記希釈用空気を加熱し,前記Pd触媒および前記Pt触媒により希釈用空気中の測定対象の排ガス成分を酸化し,前記NO_(X)除去部において前記Pd触媒および前記Pt触媒により測定対象の排ガス成分が酸化されて生じたNO_(X)を吸着する希釈用空気精製方法。」で一致し,次の点で相違している。

(相違点1)
ガス分析計により前記希釈排ガスバッグ内の希釈排ガス及び前記希釈用空気バッグ内の希釈用空気から前記エンジン排ガス中の少なくとも測定対象の排ガス成分の濃度をバッグ内の気体を用いて測定することについて,本願発明では,「希釈排ガスバッグ内の希釈排ガス中の少なくとも測定対象の排ガス成分の濃度及び前記希釈用空気バッグ内の希釈用空気中の少なくとも測定対象の排ガス成分の濃度を測定して,それらの差から」行うのに対して,引用発明では,どのように行うのか特定していない点。

(相違点2)
「測定対象の排ガス成分」,「測定対象の排ガス成分を酸化還元するために用いる少なくとも一つのPt,Pd系を用いた酸化触媒並びに希釈用空気の温度」,および「酸化する排ガス成分」について,本願発明では,「少なくともN_(2)O」,「430度以上500度以下」,および「N_(2)O」であるのに対して,引用発明では,いずれも特定されていない点。

(相違点3)
希釈用空気が流れる流路上の,加熱器とNO_(X)除去部との間に配置するPt,Pd系の触媒の配置順について,本願発明では,「Pdを含有するPd触媒,Ptを含有するPt触媒」の順であるのに対して,引用発明では,配置順を特定していない点。

(1)相違点1についての検討
精製空気により希釈された希釈排ガス中の測定対象ガス濃度を測定するにあたり,希釈排ガス中の測定対象ガス濃度と精製空気中の測定対象ガス濃度を測定し,希釈排ガス中の測定対象ガス濃度から精製空気中の測定対象ガス濃度を差し引くことにより,正味の測定対象ガス濃度を求めることができることは,技術常識であり,本願発明の「希釈排ガスバッグ内の希釈排ガス中の少なくとも測定対象の排ガス成分の濃度及び前記希釈用空気バッグ内の希釈用空気中の少なくとも測定対象の排ガス成分の濃度を測定して,それらの差から」「排ガス中の測定対象の排ガス成分を測定すること」は,上記技術常識に相当する。
このことは,刊行物2の摘記事項である(2-イ)に,「分析装置37は,・・・バッグ33により採集された希釈排ガスから,バッグ35により採集された精製空気に含まれる・・・(不純物)を差し引いて正味排ガス濃度を求める機能・・・を有している。」と記載されていることからも支持される。
したがって,相違点1に記載の本願発明の構成は,技術常識といえるで,相違点1は,実質的な相違点ではない。
または,引用発明と刊行物2記載の技術事項から,相違点1に記載の本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到するものといえる。

(2)相違点2についての検討
刊行物3の摘記事項である(3-イ)には,「エンジン排ガスの主要成分である・・・さらに関心の高い・・・N_(2) O,・・・などを同時測定することができ」と「N_(2) O」が,エンジン排ガスの成分の内,関心の高いものであることが記載されている。
そうすると,引用発明の「測定対象の排ガス成分」として「N_(2) O」を選択することは当業者が必要に応じて適宜成し得る設計事項にすぎない。
また,刊行物4の摘記事項である(4-ア)には「亜酸化窒素分解用触媒が,N_(2)Oに対して活性を示す最適な温度は,触媒種によって異なるが・・・より好適な使用温度領域は400℃?500℃である。」と記載されている。
そうすると,引用発明の「測定対象の排ガス成分」として「N_(2) O」を選択したことに応じて,引用発明の「測定対象の排ガス成分を酸化するために用いる少なくとも一つの触媒並びに希釈用空気の温度」として,より好適な使用温度領域の400℃?500℃を採用するに当たり,触媒種をPt,Pd系に特定したことに応じて使用温度領域を狭めて430度以上500度以下」とすることは,当業者が普通に試行錯誤する程度であり,容易に想到するものといえる。
このことは,本願明細書で触媒の温度範囲を特定した根拠とされる図4から温度の下限を430度とすることの臨界的意義が認められないことからも,支持されるといえる。
さらに「Pt,Pd系を用いた酸化触媒」は酸化触媒であるから,「測定対象の排ガス成分」として上記刊行物3の記載を勘案して「N_(2) O」に注目したことにより,引用発明の「酸化する排ガス成分」は,「N_(2)O」となる。

(3)相違点3についての検討
刊行物5の摘記事項である(5-イ)には,「排気ガス中に多量の酸素が存在すると白金Ptが酸化白金PtO_(2)となって粒成長してしまう。しかしながら排気ガス中の酸素は排気ガス流入側端部領域8aにおけるパラジウムPdによる酸化反応により使用されるので残りの触媒領域8b内に流入する排気ガス中の酸素量は少なく,従って白金Ptが酸化白金PtO_(2) となって粒成長することがない。斯くして白金Ptが劣化し難くなる。」と,「Pt,Pd系の触媒の配置順」として,酸素の多い状態では,「Pdを含有するPd触媒,Ptを含有するPt触媒」の順序が良いという技術事項が記載されており,引用発明は,排気ガスよりも酸素が多い「希釈用空気」に関する発明であるから,同様の課題があるといえるので,引用発明において,上記技術事項を採用して相違点3に記載された本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到するものといえる。

(4)そして,本願発明の効果も,引用発明及び刊行物1?5に記載の技術事項から,当業者が予測し得る範囲のものであり,格別顕著なものといえない。

(5)したがって,本願発明は,引用発明及び刊行物1?5に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

(6) 請求人は,平成27年2月23日提出の上申書「2.(3)排気ガスに含まれるN_(2)Oの除去」において「ここで,通常の排気ガス中のN_(2)Oを除去する場合の配置について触れておく。
通常,排気ガス中のN_(2)Oを除去する場合には,Pt触媒及びPd触媒の順に配置する。 これは,排気ガス中には,硫黄(S),塩素(Cl),フッ素(F),ケイ素(Si)等の触媒毒と呼ばれる成分が含まれており,この触媒毒の影響をPd触媒よりもPt触媒の方が受け難いためである。
そのため,排気ガスに含まれるN_(2)Oを大気レベルに低減する場合には,Pd触媒とPt触媒とのどちらを上流側に配置しても同等の効果を得ることができるため,前記触媒毒の影響を低減すべく,Pt触媒を上流側に配置し,Pd触媒を下流側に配置することが技術常識である。」と主張する。
そこで,平成27年2月27日に上記の主張を文献等の提示で釈明するように求めたが,3月16日の釈明で提示された文献は,何れも「排気ガス中のN_(2)Oを除去する」ことについての言及がないものであり,そのことは,3月17日に請求人に確認している。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。

第5 まとめ
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その他の請求項について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-16 
結審通知日 2015-04-21 
審決日 2015-05-11 
出願番号 特願2009-263335(P2009-263335)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土岐 和雅  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 信田 昌男
藤田 年彦
発明の名称 希釈用空気精製方法および希釈用空気精製装置  
代理人 西村 竜平  
代理人 西村 竜平  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ