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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04F
管理番号 1302665
審判番号 不服2014-6748  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-25 
確定日 2015-06-29 
事件の表示 特願2007-190395「塗布床面形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月19日出願公開、特開2009- 35855〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年7月23日の出願であって、平成24年6月24日及び平成25年5月7日に手続補正書が提出され、平成25年5月7日に提出された手続補正書が平成25年11月28日付けで却下され、同日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、平成26年3月25日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に、特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。


第2 平成26年3月25日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年3月25日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正の内容・目的
平成26年3月25日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、本件補正前の請求項1(平成24年6月24日に提出された手続補正書)の、
「【請求項1】
樹脂層を形成ならしむ為の樹脂材料を塗布し、当該樹脂材料の硬化前に各種骨材を散布し、その上面から押さえ処理を行う塗布床面形成方法において、樹脂材料を低粘度のパテ状樹脂にして予め骨材を配合しておき、当該骨材配合樹脂材料を塗布し、その上から更に骨材の散布を行って、樹脂材料がおおむね吸い上がった状態にした後、余剰な骨材を除去し、その後に押さえ処理を施すことで散布骨材を最小限にとどめると共に高密度な骨材の配合を可能としたことを特徴とする塗布床面形成方法。」とあるのを、

「【請求項1】
樹指層を形成ならしむ為の樹脂材料を塗布し、当該樹脂材料の硬化前に各種骨材を散布し、その上面から押さえ処理を行う塗布床面形成方法において、樹脂材料を低粘度のパテ状樹脂にして予め骨材を配合しておき、当該骨材配合樹脂材料を塗布し、その上から更に骨材の散布を行って、樹脂材料がおおむね吸い上がった状態にした後、余剰な骨材を除去し、その後に押さえ処理を施し、硬化後に浸透性樹脂によって浸透処理を行うことで散布骨材を最小限にとどめると共に高密度な骨材の配合を可能としたことを特徴とする塗布床面形成方法。」(下線部は補正箇所を示すために当審にて付したものである。)とする補正を含むものである。

2.本件補正の目的及び新規事項の有無
本件補正後の請求項1に係る上記1.の補正は、本件補正前の請求項1を特定するために必要な事項である「塗布床面形成方法」における「その後に押さえ処理を施すこと」に対し、「その後に押さえ処理を施し、硬化後に浸透性樹脂によって浸透処理を行うこと」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件補正は新規事項を追加するものではない。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平11-131776号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 各種床面下地に樹脂層を形成ならしむ為の樹脂材料を塗布し、当該樹脂材料の硬化前に各種骨材を散布し、その上面から押さえ工具乃至押さえ機器にて押さえ処理したことを特徴とする塗布床面形成工法。」

b 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記ペースト工法や樹脂モルタル工法の場合、樹脂を大量に使用するから高コトスとなり、且つ作業自体が非常に難しく相当な熟練を要し、樹脂の練り作業だけでも大変な重労働であった。又、コテ塗りを対象とした塗り作業であって、樹脂と骨材の割合もコテ塗りしやすさを前提としており、塗りやすさを考えた時にはどうしても骨材が少なめになってしまい、真の意味で材料の強度に対する考慮がなされていないのが実状である。又、無機質系の樹脂材を使用した下地工法(ブリスター止め)もあるが、塗り波が発生しやすく、仕上げ時に波が残ってしまうことになってしまっている。
【0004】又、改修工事のように下地に既に油が付いていたり、ツルツルな状態であったり、ワックスがけが施されていたりと、塗り材料が接着し難い下地状態である場合は、下地を研磨したり、ハツリ込んだり、油拭きをしたりしなければならず、時間が非常に係ってしまい、且つ埃やゴミの飛散原因にもなっていた。又、FRP工法のハンドレイアップ法では、繊維と下地との間に気泡がたまり易く、脱泡ローラで繊維上を転がして気泡を抜く作業を行わなければならない。練り込み法ては樹脂内にカット繊維が入ることで樹脂のレベリング性が悪くなり、コテ波が発生し易く、又、これはFRP工法全てにおいて言えることであるが繊維突起物が発生し易く、面倒な後処理が数多く必要である。又、コンクリート仕上げが悪い場合等に行われる補修材等の塗りは、あくまで塗り易さを前提としており、強度的に十分な配慮がなされていないのが実状である。
【0005】本発明は上記の点に鑑みなされたものであって、樹脂層の厚みを樹脂材料の塗りと低価な各種骨材の散布によって調整させて低コストの床面が得られる点、従来の如き面倒な樹脂と骨材との練り作業を不要として押さえ塗り時に練りが同時に行える点、従来では不可能な樹脂と骨材の配合比も可能であって強度や空隙や厚みの調整を自在にすることが出来、たとえ薄い塗り厚形成であっても十分なる強度が得られる点、空隙形成が自在であってブリスター防止が容易である点、機器による押さえ作業によって骨材が樹脂内を転がって樹脂の接着力が高まる点、押さえ作業によって突起物の研磨等の後処理が省力化出来、FRP形成の際の気泡や繊維突起及び塗り波が発生し難く、強化繊維の間に骨材が入ることでより強度の高いFRP成形が出来る点、空隙調整によりFRPのブリスター対策も可能である点、全体に渡る塗り作業が押さえ機器によって簡易化される点等々に着目し、経験の浅い作業者であっても各種条件に適応した強度、厚み等を備えた床面を短時間で且つ仕上がり良く形成することが出来る塗布床面形成工法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための本発明の床面形成工法は、各種床面下地に樹脂層を形成ならしむ為の樹脂材料を塗布し、又は樹脂層をFRP成形すべく各種強化繊維を有させた樹脂材料を塗布し、当該樹脂材料の硬化前に各種骨材を散布し、その後に上面を押さえ工具乃至押さえ機器にて押さえ処理したことを特徴とするものであり、又、各種床面下地にモルタル層を形成ならしむ為の水を加えたセメント材料を塗布し、当該セメント材料の硬化前に各種骨材を散布し、その後に上面を押さえ工具乃至押さえ機器にて押さえ処理したことを特徴とするものである。」

c 「【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0009】図1は床面下地に樹脂層を形成させる工法の1例を示す工程図、図3は各種強化繊維入り樹脂層を形成させる工法の1例を示す工程図である。
【0010】図1(a)は床面下地Aの上に樹脂層3を形成させるべく、まず樹脂材料1を塗布した状態を示したものであり、同図(b)は樹脂材料1の硬化前に骨材2を散布している状態を示し、同図(c)はその後に上面から押さえ工具B乃至押さえ機器Cを使用し押さえ塗りして骨材2を樹脂材料1内に混在ならしめる状態を示したものであり、これによって骨材2を混入してなる樹脂層3を簡単に下地へ形成することが出来る。下地Aはコクリート面、アスファルト面、改修工事におけるペイント面や塗り床面、その他の下地の何れでも構わず、本発明工法はどのような下地Aにも対応し得るものであって当該下地Aへ比較的簡単に床面を形成することを可能としている。樹脂材料1は、各種塗り床用樹脂、塗膜防水用樹脂、樹脂系接着剤等々の液状樹脂或いは樹脂系混合液であり、骨材2は一般には珪砂、ガラスビーズ、ガラスフレーク、クオーツ系骨材、化粧用樹脂材砕石、玉石等があるが、特に限定するものではない。樹脂材料1に対する骨材2の量は、使用目的によって許容量の幅は大きいが、樹脂量が0.3mm厚/1平方メートルの塗布量のとき、6号珪砂で100g?500gの範囲で調節するのが望ましい。珪砂量300g前後で空隙のある樹脂モルタル状となり、200g程度で樹脂リッチ状となるから、300g以上でブリスター対策が可能な樹脂層を形成することとなるが、この場合、樹脂層3の上面に最終仕上げ処理(流し展べやペイント仕上げ)する時にはパテ処理等の目止め作業が必要である。無論、樹脂材料1の塗布量と骨材2の散布量は、樹脂の下地への吸い込み程度や乾燥・硬化状況、更に骨材2の種類や形状によって大きく変化させなければならず、特定すべきものではない。又、塗り厚によって骨材2の大きさを変えるか、異なる大きさの骨材を混合して散布するのが有効であり、これは塗り厚と同じ乃至は若干小さめの骨材を使用することで下地での転がり摩擦が生じ、下地に小さい傷等をつけて下地Aへの樹脂材料1を接着力を高めることが出来、一方、目止め効果については一層小さい骨材が目詰まりが良い為であり、両者を混合することで固着力に優れ且つ目止めし易い樹脂層3を形成することが出来るからである。
【0011】骨材2の散布時には、手蒔きの場合に骨材の散布状態に偏りが発生してしまい、そのまま押さえ工程に入ると骨材量の多い箇所は樹脂量比率が極端に低くなって強度的に弱くなってしまうから、予め散布時にほうきや送風ブロアーで均等に骨材が塗布樹脂材料に付着又は広がった状態にしておく。尚、小さな欠損部や不陸部は簡単に直るが、大きい部位は直らないので、前以ての修正が必要である。又、本工法であれば、塗り厚の薄い床面形成が簡単であるので、十分な強度が必要な箇所だけを集中的に本工法によって形成することも出来、例えば押さえ機器Cで押さえ処理出来る箇所を本工法で行うことで、他の箇所での押さえ処理を軽減ならしめることになり、作業効率をより高めることが出来る。尚、押さえ工具B(左官用コテ等)や押さえ機器C(トローエルや回転押さえ部材付き押さえ機器等)は特に限定するものではなく、目的、使用場所に応じたものを適宜利用すれば良く、通常のトローエルの場合は波か発生しやすく下地を崩すといった問題もあるから回転押さえ部材による押さえ処理が最適であり、床面端部においては左官用コテを利用して押さえ処理すれば良い。
【0012】上記の樹脂層形成工法によれば、塗布樹脂量、散布骨材量、骨材の種類や大きさを適宜設定することで、ペースト状、樹脂リッチ状、樹脂モルタル状といった具合にどのような状態の樹脂層3を形成することが出来、従来のコテ塗りや塗布機では困難な配合や厚みであっても自在に形成することが出来るものであり、現場において塗り条件(強度、厚み、ブリスター対策等)に応じた作業が即座に且つ簡単に行えるものとなり、而も従来では大変であった練り作業も本工法の工程では練り合わせが省力化出来、又、押さえ処理によってゴミや突起物も樹脂内に押さえ込んでいくことが出来るから、研磨等の後処理も大きく省力化出来るものであって、誰でも容易に強度のある美しい床面を形成し得るものとなり、例えば配合量の調節によってクリープに強く、内部応力に優れた薄い樹脂層の形成も可能であり、低コストによる奇麗な仕上がりの塗り作業が行えるものとなる。更に、本工法では押さえ処理によって骨材2を下地Aで転がり動かすこととなり、下地Aに細かい傷をつけて樹脂材料1の固着力を高めることが出来るものであり、改修工事の場合でも下地面に油、ワックス、ゴミ等が多少あっても同様に骨材2の転がりによって樹脂材料1の固着力を向上させることが可能となり、従来の下地研磨、ハツノ込み、油拭き等の作業を簡易にすると共にハツリゴミや埃の飛散の問題を解消し、作業時間を大幅に短縮し、労働力も軽減し得るといった効果を奏するものである。
【0013】無論、上記の樹脂層3は水性樹脂材料1による形成であっても構わず、エマルジョン系、ラテックス系、高分子シリカ系、カチオン系、水性エポキシ系等の水性樹脂と水を混ぜて樹脂材料1とし、上述の如き工程によって骨材2を内在する樹脂層3を形成させれば良い。この場合、水、水性樹脂材料、セメント材料(白セメントを含む)、各種強化繊維、セメント急結剤、樹脂反応促進剤等を適宜配合して、これを塗布し、骨材2としてセメント材料、珪砂や大理石(化粧用)等の骨材、セラミック系・ガラス系の骨材やステンレス等の金属系骨材といった耐摩耗性骨材を種々選択配合したものを散布骨材2とし、その他に保水性を保つ為のセルロース系化学のりを加えても良い。尚、骨材2は樹脂材料1上に散布しても良いが、樹脂材料1内に所要骨材2を混入しても構わず、現場においてその都度どちら側に入れるか決定すれば良い。但し、粒子の小さい骨材は散布時に埃となるから出来る限り樹脂材料1側に混入する方が好ましい。このようにして樹脂層を形成する工法も前述した有機質系樹脂層の効果と同様の効果を発揮するものであるから具体的記述は省略する。」

d 「【0016】骨材2、5に仕上げ用骨材を使用し、本工法てせの仕上げとした場合は、骨材の固定と変色防止の目的でクリヤー系アクリル・ウレタン等の変色防止の樹脂材を表面に塗布(又は吹き付け)することが望ましい。又、樹脂材料1側にも骨材を混入すれば、塗り厚が骨材の大きさよりも薄くなることはないので安定した塗り厚が得られ、又、散布骨材よりも小さい骨材を混入しておけば散布骨材間に小さめの骨材が入り込んで樹脂層の強度を高めることが出来、且つ目止め効果も発揮する。上記した各樹脂材料1は塗布時に下地Aに幾分か吸い込まれるのでプライマー等で事前に塗布処理しておくと、より安定した作業が図られる。更にプライマー後に塗り厚に相当する骨材を少量散布し、樹脂材料1を塗布用レーキや塗布用ゴムゴテで塗布すると、骨材に合わせた厚みの塗布が行えて一定厚みの樹脂層が得られるものであり、簡単な下準備によって一定厚みで奇麗な床面を形成することが出来る。尚、押さえ処理時には左官用スパイクを使用しても良いが、出来ればスパイク跡の残らないピンスパイクを使用する方が望ましい。」

e 上記cの「尚、骨材2は樹脂材料1上に散布しても良いが、樹脂材料1内に所要骨材2を混入しても構わず、現場においてその都度どちら側に入れるか決定すれば良い。但し、粒子の小さい骨材は散布時に埃となるから出来る限り樹脂材料1側に混入する方が好ましい。」(【0013】)の記載から、樹脂材料は、予め所要の骨材を混入したパテ状樹脂と解される。また、上記cの「・・・塗布樹脂量、散布骨材量、骨材の種類や大きさを適宜設定することで、ペースト状、樹脂リッチ状、樹脂モルタル状といった具合にどのような状態の樹脂層3を形成することが出来、従来のコテ塗りや塗布機では困難な配合や厚みであっても自在に形成することが出来るものであり、現場において塗り条件(強度、厚み、ブリスター対策等)に応じた作業が即座に且つ簡単に行える・・・」(【0012】)との記載から、樹脂材料は、塗布可能な程度に低粘度であると解される。
そうすると、樹脂材料は、予め所要の骨材を混入した低粘度のパテ状樹脂であるといえる。

上記a?eより、引用例1には以下の発明が記載されている(以下、「引用発明1」という。)。
「樹脂層を形成ならしむ為の樹脂材料を塗布し、当該樹脂材料の硬化前に各種骨材を散布し、その上面から押さえ工具乃至押さえ機器にて押さえ処理した塗布床面形成工法において、
樹脂材料は、予め所要の骨材を混入した低粘度のパテ状樹脂であり、該樹脂材料を塗布し、その上から骨材の散布を行い、骨材が塗布樹脂材料に付着した状態にし、その後に上面を押さえ工具乃至押さえ機器にて押さえ処理したことにより、従来では不可能な樹脂と骨材の配合比も可能自在にすることが出来る塗布床面形成工法」

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2002-173902号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
a 「【0033】次に、本発明の被覆層を有する散布式表面処理工法の施工方法について、主として表面処理層を単層に構築する場合を例にとり説明する。
【0034】まず、施工路面をロードスイーパーで清掃した後、例えば、図1に示すように、路面1上に結合材2を散布する。結合材2がアスファルト乳剤や人工アスファルト乳剤である場合には、結合材を散布する前に、水を散布するようにしても良い。水は、アスファルト乳剤や人工アスファルト乳剤と路面との接着性やなじみ性を増強する効果があり、また、夏季には上昇した路面温度を下げる効果もある。結合材2の散布量は、骨材が路面に結合される限り特に制限はないが、通常、100m^(2)当り50?150リットルの範囲が好ましい。100m^(2)当りの結合材の散布量が50リットル未満では、路面と骨材及び骨材と骨材間の結合力、接着力が不足する可能性があり、逆に、150リットルを越えると、養生時間が長くなったり、フラッシュ現象の原因となる。結合材の量は、骨材の粒径に応じて変化し、一般には、粒径の大きな骨材を使用する場合ほど量は多くなる。」

b 「【0037】骨材3の散布後、散布面から余剰に散布された骨材を除去した後、タイヤローラーやスチールローラーなどを用いて骨材3の散布面を転圧する。転圧した状態では、路面1と結合材2と骨材3とは、例えば図2に示すように、骨材3が結合材2によって路面1上に結合された状態になっている。次いで、骨材3の転圧面上にラテックスを散布して、図3に示すように、骨材3の層上にラテックスの被覆層4を形成する。骨材3の散布からラテックスの散布までの間には30?60分程度の時間を開けるのが望ましい。ラテックスの塗布や散布は、ローラー刷毛による塗布や、一本撒きのエンジンスプレヤーや、場合によってはディストリビューターや、或いは、上述した作業車などを用いて行うことができる。散布或いは塗布されるラテックスの量は、100m^(2)当たり50?120リットル程度が好ましく、より好ましくは、100m^(2)当たり60?100リットル程度である。ラテックスの散布量が100m^(2)当たり50リットル未満では、良好な被覆層を形成することができなくなる傾向があり、ラテックスの散布量が100m^(2)当たり120リットルを越えると、養生時間が長くなり過ぎる傾向がある。なお、このラテックスの散布量は、骨材粒径が小さいほど少なくなるものである。ラテックスの散布後、20?50分程度の養生時間を経た後に、施工面は交通開放することができる。」

c 図2と「転圧した状態では、路面1と結合材2と骨材3とは、例えば図2に示すように、骨材3が結合材2によって路面1上に結合された状態になっている。」との記載を併せ読むと、骨材と結合材は路面上に結合された状態になっているから、結合材は硬化した状態であるといえる。そして、図3と「次いで、骨材3の転圧面上にラテックスを散布して、図3に示すように、骨材3の層上にラテックスの被覆層4を形成する。骨材3の散布からラテックスの散布までの間には30?60分程度の時間を開けるのが望ましい。」との記載を併せ読むと、結合材が硬化した状態後、骨材3の転圧面上にラテックスを散布し、骨材3の層上にラテックスの被覆層4を形成したといえる。

上記a?cより、引用例2には次の事項が記載されている。
「路面上に結合材を散布し、骨材の散布後、散布面から余剰に散布された骨材を除去した後、タイヤローラーやスチールローラーなどを用いて骨材の散布面を転圧し、結合材が硬化した状態後、骨材3の転圧面上にラテックスを散布し、骨材3の層上にラテックスの被覆層4を形成した散布式表面処理工法」


(3)対比、判断
補正発明と引用発明1とを対比する。
a 引用発明1の「樹脂層を形成ならしむ為の樹脂材料を塗布し、当該樹脂材料の硬化前に各種骨材を散布し、その上面から押さえ工具乃至押さえ機器にて押さえ処理した塗布床面形成工法において」は、補正発明の「樹指層を形成ならしむ為の樹脂材料を塗布し、当該樹脂材料の硬化前に各種骨材を散布し、その上面から押さえ処理を行う塗布床面形成方法において」に相当する。

b 引用発明1の「樹脂材料」を「低粘度のパテ状樹脂」で「予め所要の骨材を混入した」構成は、補正発明の「樹脂材料を低粘度のパテ状樹脂にして予め骨材を配合し」た構成に相当する。

c 引用発明1の「該樹脂材料を塗布し、その上から骨材の散布を行」う構成は、補正発明の「骨材配合樹脂材料を塗布し、その上から更に骨材の散布を行って」の構成に相当する。

d また、樹脂材料に骨材を散布すると、表面張力や骨材粒子間の毛細管現象により散布された骨材の表面に沿って樹脂材料がおおむね上昇することは自明である。
そして、引用発明1の「予め所要の骨材を混入した低粘度のパテ状樹脂であり、該樹脂材料を塗布し、その上から骨材の散布を行い、骨材が塗布樹脂材料に付着した状態にし」たことは、散布された骨材の表面に沿って樹脂材料がおおむね上昇し、骨材が樹脂材料と付着した状態にあるといえる。
そうすると、引用発明1の「予め所要の骨材を混入した低粘度のパテ状樹脂であり、該樹脂材料を塗布し、その上から骨材の散布を行い、骨材が塗布樹脂材料に付着した状態」は、補正発明の「骨材配合樹脂材料を塗布し、その上から更に骨材の散布を行って、樹脂材料がおおむね吸い上がった状態」に相当する。

e 引用発明1の「その後に上面を押さえ工具乃至押さえ機器にて押さえ処理した」は、補正発明の「その後に押さえ処理を施し」に相当する。

f 引用発明1の「従来では不可能な樹脂と骨材の配合比も可能自在にすることが出来る塗布床面形成工法」と、補正発明の「散布骨材を最小限にとどめると共に高密度な骨材の配合を可能としたことを特徴とする塗布床面形成方法」とは、骨材の配合を可能とした塗布床面形成方法で共通する。

g 上記a?fからみて、補正発明と引用発明1とは
「樹指層を形成ならしむ為の樹脂材料を塗布し、当該樹脂材料の硬化前に各種骨材を散布し、その上面から押さえ処理を行う塗布床面形成方法において、樹脂材料を低粘度のパテ状樹脂にして予め骨材を配合しておき、当該骨材配合樹脂材料を塗布し、その上から更に骨材の散布を行って、樹脂材料がおおむね吸い上がった状態にした後、その後に押さえ処理を施し、骨材の配合を可能とした塗布床面形成方法。」の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
樹脂材料がおおむね吸い上がった状態にした後、補正発明は「余剰な骨材を除去」するのに対し、引用発明1は、骨材が塗布樹脂材料に付着した状態にしておくにすぎない点で相違する。

(相違点2)
押さえ処理を施し、硬化後において、補正発明は「浸透性樹脂によって浸透処理を行う」のに対し、引用発明1にはそのような構成はない点で相違する。

(相違点3)
塗布床面形成方法に関し、補正発明は「散布骨材を最小限にとどめると共に高密度な骨材の配合を可能とした」のに対し、引用発明1は、従来では不可能な樹脂と骨材の配合比も可能自在にすることが出来る点で相違する。

上記相違点1乃至3について検討する。
h 引用例2には、上記(2)のとおり、路面上に結合材を散布し、骨材の散布後、散布面から余剰に散布された骨材を除去した後、タイヤローラーやスチールローラーなどを用いて骨材の散布面を転圧し、結合材が硬化した状態後、骨材の転圧面上にラテックスを散布し、骨材の層上にラテックスの被覆層を形成した散布式表面処理工法が記載されている。

i そして、引用例2に記載された「結合材」は、補正発明の「樹脂材料」に相当する。同様に、引用例2に記載された「結合材を散布し」、「タイヤローラーやスチールローラーなどを用いて骨材の散布面を転圧し」、「散布式表面処理工法」は、それぞれ、補正発明の「樹脂材料を塗布し」、「押さえ処理を施し」、「塗布床面形成方法」に相当する。

j 引用例2に記載された「骨材の層上にラテックスの被覆層を形成」することは、結合材と接触していない骨材表面にラテックスが浸透し被覆することに他ならず、ラテックスの被覆層を形成することは骨材の表面に浸透処理を施すといえる。
そうすると、引用例2に記載された「骨材の層上にラテックスの被覆層を形成」する構成は、補正発明の「浸透性樹脂によって浸透処理を行う」ことに相当する。

k 上記h乃至jより、補正発明の表現に倣えば、引用例2には「樹脂材料を塗布し、骨材の散布後、散布面から余剰に散布された骨材を除去した後、押さえ処理を施し、樹脂材料が硬化した状態後、骨材の転圧面上に浸透性樹脂を散布し、浸透処理を行うこととした塗布床面形成方法」が記載されている。

l 相違点1について
引用例1には、「骨材2の散布時には、手蒔きの場合に骨材の散布状態に偏りが発生してしまい、そのまま押さえ工程に入ると骨材量の多い箇所は樹脂量比率が極端に低くなって強度的に弱くなってしまうから、予め散布時にほうきや送風ブロアーで均等に骨材が塗布樹脂材料に付着又は広がった状態にしておく。」(【0011】)と記載されるように、引用発明1には、骨材に塗布樹脂材料を付着した状態にするとの課題があるといえる。
そうすると、引用発明1の「骨材が塗布樹脂材料に付着した状態に」するために、散布された骨材のうち塗布樹脂材料に付着しない骨材を余剰なものとして、引用例2に記載された発明の「余剰に散布された骨材を除去」する構成を採用し、補正発明の相違点1に係る構成となすことは、当業者が容易に想到し得るものである。

m 相違点2について
引用例1には「・・・その上から各種骨材を散布して押さえ処理によって各種骨材を塗布材料内に浸含させることで、高強度であってバランスのとれた床面を熟練を要さずとも簡単に形成することを可能としたものであり」(【0018】)と記載されているように、骨材を樹脂材料内に浸含させることを目的としたものであるが、散布した骨材量の多い箇所など、表層にある骨材は、骨材の表面の一部と樹脂材料とは接触するとしても、骨材粒子の全表面に樹脂材料が接触し得るものではないと解される。そして、表面の一部にのみで樹脂材料と接触している骨材は樹脂層から剥離しやすいことは容易に想定し得るものである。
そうすると、引用発明1の「塗布床面形成方法」において、骨材と樹脂材料との剥離を防止するために、引用例2に記載の事項の「骨材の転圧面上に浸透性樹脂を散布し、浸透処理を行うこと」を採用し、補正発明の相違点2に係る構成となすことは、当業者が容易に想到し得るものである。

n 相違点3について
引用例1には、「尚、骨材2は樹脂材料1上に散布しても良いが、樹脂材料1内に所要骨材2を混入しても構わず、現場においてその都度どちら側に入れるか決定すれば良い。但し、粒子の小さい骨材は散布時に埃となるから出来る限り樹脂材料1側に混入する方が好ましい。」(【0013】)と記載されるように、樹脂材料に予め混入する骨材の所要量は、現場において適宜決定すべき事項である。そして、散布すると埃となって失われる小さな粒子の骨材があるように、樹脂材料に予め混入しておく骨材が多いほど、散布する骨材が少なくなることは明らかであり、樹脂材料に予め混入する骨材を多くすることにより、散布骨材を最小限とすることは当業者が容易になし得ることである。
また、引用例1には、「塗りやすさを考えた時にはどうしても骨材が少なめになってしまい、真の意味で材料の強度に対する考慮がなされていないのが実状である。」(【0003】)と記載されるように、引用発明1の「従来では不可能な樹脂と骨材の配合比も可能自在にすることが出来る」ことは、樹脂材料に配合する骨材割合を大きく設定し、従来よりも樹脂材料に骨材を高密度に配合することが可能であるといえる。
そうすると、引用発明1の「塗布床面形成工法」において、樹脂材料の塗布や骨材の散布の現場状況や強度に応じて、散布骨材を最小限とし、樹脂材料に骨材を高密度に配合することにより、相違点3に係る構成となすことは当業者が容易に想到し得るものである。

o 補正発明の奏する効果は、当業者が引用発明1及び引用例2に記載の事項が奏する効果から予測することができた程度のものである。

p まとめ
したがって、本願補正発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.小括
以上のとおり、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 本願発明について
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成24年6月24日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年6月24日に補正された特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記「第2〔理由〕1.」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項、およびこれから認定される引用発明は、上記「第2〔理由〕3.(1)(2)」に記載したとおりである。

2.対比、判断
補正発明は、上記「第2〔理由〕2.」のとおり、本願発明の発明特定事項を限定するものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2〔理由〕3.(3)」に記載したとおり、当業者が引用発明1及び引用例2に記載の事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は引用発明1、引用例2に記載の事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-06 
結審通知日 2015-03-31 
審決日 2015-04-20 
出願番号 特願2007-190395(P2007-190395)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (E04F)
P 1 8・ 121- Z (E04F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五十幡 直子  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 中川 真一
竹村 真一郎
発明の名称 塗布床面形成方法  

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