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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1302668
審判番号 不服2014-8130  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-02 
確定日 2015-07-01 
事件の表示 特願2011-282763「排気システム中の粒子フィルターの再生が容易になることを目的としたディーゼルエンジンの運転方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月 7日出願公開、特開2012-107625〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2008年2月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年3月6日、フランス国)を国際出願日とする特願2009-552173号の一部を平成23年12月26日に新たな特許出願としたものであって、平成24年1月24日に明細書及び特許請求の範囲の翻訳文並びに手続補正書及び上申書が提出され、平成25年2月20日付けで拒絶理由が通知され、同年5月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月25日付けで拒絶査定がされ、平成26年5月2日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、同年6月11日に審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書(方式)が提出され、さらに、平成27年1月7日に上申書が提出されたものである。

2 本件補正について
(1)本件補正の内容
平成26年5月2日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成25年5月14日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の以下のアに示す請求項1ないし12を、イに示す請求項1ないし6に補正するものである。

ア 本件補正前の請求項1ないし12
「【請求項1】
粒子フィルターが搭載された排気システムが取り付けられたディーゼルエンジンまたは希薄燃焼エンジンの運転方法であって、粒子フィルターによって保持された煤煙の粒子の燃焼温度を低下させることができ、鉄化合物から実質的になる、または鉄化合物およびセリウム化合物から実質的になる添加剤を含有する燃料をエンジンに供給すること、
該添加剤が有機コロイド分散体の形態であること、ならびにエンジン中の燃料の燃焼によって生成した排気ガスが通過する粒子フィルターとして、触媒フィルターが使用され、
この触媒が、煤煙の粒子の燃焼を促進する触媒からなることを特徴とする方法。
【請求項2】
鉄化合物またはセリウム化合物が、鉄もしくはセリウムの酸化物、水酸化物、またはオキシ水酸化物であるコロイド分散体が使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非晶質形態の鉄化合物の粒子、および少なくとも1種類の両親媒性物質が有機相中に分散したコロイド分散体が使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
当該粒子の少なくとも85%が一次粒子であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
当該粒子の少なくとも90%が一次粒子であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
当該粒子の少なくとも95%が一次粒子であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
燃料添加剤中の鉄およびセリウムの比率が、0/100から80/20の範囲内の比で構成され、この比はFe元素に対するCe元素のモル比であることを特徴とする、請求項1から6の一項に記載の方法。
【請求項8】
当該燃料添加剤中の鉄およびセリウムの比率が、10/90から50/50の範囲内の比で構成されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
粒子フィルターの触媒が、白金、または白金族の金属から選択される少なくとも1種類の金属を主成分とする触媒であり、前記金属が、フィルター上に堆積されるコーティング(ウォッシュコート)中に最大70g/フィート^(3)(2.5g/dm^(3))の量で含まれることを特徴とする、請求項1から8の一項に記載の方法。
【請求項10】
触媒の量が最大50g/フィート^(3)(1.8g/dm^(3))であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
粒子フィルターの上流に配置されたディーゼル酸化触媒コンバータを排気ガスが通過することを特徴とする、請求項1から10の一項に記載の方法。
【請求項12】
酸化窒素還元システムを含む排気システムがエンジンに取り付けられることを特徴とする、請求項1から11の一項に記載の方法。」

イ 本件補正後の請求項1ないし6
「【請求項1】
粒子フィルターが搭載された排気システムが取り付けられたディーゼルエンジンまたは希薄燃焼エンジンの運転方法であって、粒子フィルターによって保持された煤煙の粒子の燃焼温度を低下させることができ、鉄化合物から実質的になる、または鉄化合物およびセリウム化合物から実質的になる添加剤を含有する燃料をエンジンに供給すること、燃料添加剤中の鉄およびセリウムの比率が、0/100から80/20の範囲内の比で構成され、この比はFe元素に対するCe元素のモル比であり、該添加剤が有機コロイド分散体の形態であること、ならびにエンジン中の燃料の燃焼によって生成した排気ガスが通過する粒子フィルターとして、触媒フィルターが使用され、この触媒が、煤煙の粒子の燃焼を促進する触媒からなることを特徴とする方法。
【請求項2】
鉄化合物またはセリウム化合物が、鉄もしくはセリウムの酸化物、水酸化物、またはオキシ水酸化物であるコロイド分散体が使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非晶質形態の鉄化合物の粒子、および少なくとも1種類の両親媒性物質が有機相中に分散したコロイド分散体が使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
当該粒子の少なくとも85%が一次粒子であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
粒子フィルターの触媒が、白金、または白金族の金属から選択される少なくとも1種類の金属を主成分とする触媒であり、前記金属が、フィルター上に堆積されるコーティング(ウォッシュコート)中に最大70g/フィート^(3)(2.5g/dm^(3))の量で含まれることを特徴とする、請求項1から4の一項に記載の方法。
【請求項6】
酸化窒素還元システムを含む排気システムがエンジンに取り付けられることを特徴とする、請求項1から5の一項に記載の方法。」
(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

(2)本件補正の目的について
本件補正は、本件補正前の請求項1を引用する請求項7を本件補正後の請求項1とし、本件補正前の請求項2ないし4を引用する請求項7を本件補正後の請求項2ないし4とし、本件補正前の請求項1ないし4を引用する請求項7をさらに引用する請求項9を本件補正後の請求項5とし、本件補正前の請求項2ないし4を引用する請求項7をさらに引用する請求項12又は該請求項7を引用する請求項9をさらに引用する請求項12を本件補正後の請求項6とするとともに、本件補正前の請求項1ないし6、8、10及び11を削除したものであるから、特許法第17条の2第5項第1号に規定する請求項の削除を目的とするものと認められる。

3 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし6に係る発明は、平成26年5月2日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び平成24年1月24日に提出された明細書の翻訳文の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記2(1)イの【請求項1】に記載されたとおりのものである。

4 引用文献
4-1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2005-46836号公報(以下、「引用文献1」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために、当審で付したものである。)

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼル燃料の燃焼から生ずる排ガスを接触浄化するにあたり、窒素酸化物類から窒素への還元及び炭素質化合物から二酸化炭素及び水への酸化に触媒活性を示す材料が供されたウォールフロー式フィルターに上記排ガスを通すことを含む方法であって、上記ウォールフロー式フィルターが、焼結された炭化ケイ素粒子から製造されたものであり、そして各々の粒子の表面上に二酸化チタンの層が供されており、かつ上記触媒活性材料が、バナジウム及びタングステンの各酸化物及び金属パラジウムを含む、上記方法。
【請求項2】
触媒活性材料が金属白金を追加的に含む、請求項1の方法。
【請求項3】
触媒活性材料が、
フィルター1L当たり20?50g、好ましくは25?35gのV_(2) O_(5) 、
フィルター1L当たり1?50g、好ましくは25?35gのWO_(3) 、
フィルター1L当たり0.25?1g、好ましくは0.4?1gのPd、及び
フィルター1L当たり2gまで、好ましくは0.4gまでのPt、
を含む、請求項1または2の方法。
【請求項4】
炭化水素及び/または炭素質物質の酸化に有効な金属錯体の所定量を、燃焼前にディーゼル燃料に加えることを更に含む、請求項1の方法。
【請求項5】
金属錯体が、第I族及び第II族、ランタニド類、鉄及びマンガンから選択される一種またはそれ以上の金属の有機金属錯体である、請求項4の方法。
【請求項6】
ディーゼルエンジンから生ずる排ガスの清浄に使用するためのウォールフロー式フィルターであって、ウォールフロー式フィルターが、焼結された炭化ケイ素粒子から製造されたものであり、そして各々の粒子の表面上に二酸化チタンの多孔性層が供されており、かつ上記二酸化チタンによって担持された触媒活性材料が、バナジウム及びタングステンの各酸化物及び金属パラジウムを含む、上記ウォールフロー式フィルター。
【請求項7】
触媒活性材料として金属白金を更に含む、請求項6のウォールフロー式フィルター。
【請求項8】
触媒活性材料が、
フィルター1L当たり20?50g、好ましくは25?35gのV_(2) O_(5) 、
フィルター1L当たり1?50g、好ましくは25?35gのWO_(3) 、
フィルター1L当たり0.25?1g、好ましくは0.4?1gのPd、及び
フィルター1L当たり2gまで、好ましくは0.4gまでのPt、及び
を含む、請求項6または7のウォールフロー式フィルター。
【請求項9】
請求項6?8のいずれか一つのウォールフロー式フィルターを含む、ディーゼルエンジン排ガスシステム。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項9】)

イ 「【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンからの排ガスを浄化するためのフィルターに関する。具体的には、本発明は、ディーゼルエンジンから生ずる排ガス中のNO_(2) 、CO、不完全燃焼した炭化水素及び微粒状物を除去するためのウォールフロー式フィルターに関する。
【0002】
更に本発明は、燃焼前にディーゼル燃料に添加される燃料添加剤(fuel borne additive)の使用、及びディーゼルエンジンの排ガス路に配置された触媒化ウォールフロー式フィルターの使用に関する。」(段落【0001】及び【0002】)

ウ 「【0004】
ディーゼルエンジンから生ずる排ガスの有害な影響は昔から知られており、そしてこの問題を解決するための幾つかの試みが為されてきた。
【0005】
カワナミらは、ヨーロッパ特許出願公開第0888816号に、ディーゼル排ガスからNOx及び微粒物をフィルターを用いて除去する方法を開示している。このフィルターは、Cu、Pr、Fe、Ce、Co、Ni、La及びNdを含む触媒の層で覆われている。このフィルターは煤粒子を捕捉するが、堆積してしまう。更に、試験結果では、フィルター触媒が約450℃で満足に働くことが示されている。しかし、ディーゼル排ガスは、特に乗用車が通常の適度な速度で運転される場合には、しばしばかなりより低い温度を有する。
【0006】
ディーゼルエンジン排ガス清浄のための他の触媒が、Kimによって米国特許出願第2003/0104932号に開示されており、そしてこの触媒は、Zr-W酸化物のキャリアに担持されたPt及びPdからなる。このキャリアは、Zr-W含有H_(2) SO_(4) ゲルの調製、成形、乾燥及びか焼によって製造されるが、これは労力を要する方法である。上記キャリアは、堆積した煤粒子からの炭素が酸化された際に生ずる高温に対して特に耐久性があるわけではない。
【0007】
更に、燃焼前にディーゼル燃料に加えられるある種の添加剤が、微粒子状物及び未燃焼炭化水素の放出量を減少させることも知られている。これらの添加剤は、典型的には、油溶性有機金属錯体からなる。
【0008】
種々の酸化物及び貴金属を含む触媒で被覆された排ガスフィルターを使用すると、ディーゼル排ガスから不純物を非常に低いレベルまで除去できることがここに見出された。
【0009】
更に、ディーゼルエンジンから生ずる排ガスを上記の金属酸化物/貴金属触媒組成物で触媒処理することと、燃料配合有機金属錯体との組み合わせが、ディーゼル排ガスの浄化、特に触媒フィルターに捕集された煤のより低温での燃焼を向上させることも見出された。」(段落【0004】ないし【0009】)

エ 「【0010】
本発明は、ディーゼル燃料の燃焼から生ずる排ガスの接触(catalytic) 浄化のための方法であって、窒素酸化物類の窒素への還元及び炭素質化合物の二酸化炭素及び水への酸化に触媒活性を示す材料が供されたウォールフロー式フィルターに排ガスを通すことを含む上記方法を提供する。上記ウォールフロー式フィルターは、焼結した炭化ケイ素粒子から製造され、そして各々の粒子表面上に二酸化チタンの層が付与されたものであり、そして上記触媒活性材料は、バナジウム及びタングステンの各酸化物及び金属パラジウムを含む。
【0011】
また、本発明は、ディーゼルエンジンから生ずる排ガスの浄化に使用するためのウォールフロー式フィルターであって、該ウォールフロー式フィルターが、焼結した炭化ケイ素粒子から製造されそして各粒子表面上に二酸化チタンの多孔性層が供されているものである、上記フィルターも提供する。二酸化チタンに担持された上記触媒活性材料は、バナジウム及びタングステンの各酸化物及び金属パラジウムを含む。
【0012】
更に本発明は、ディーゼル燃料の燃焼から生ずる排ガスの触媒浄化方法であって、炭化水素及び/または炭素質物質の酸化に有効な油溶性金属錯体の所定量を燃料に加え、この燃料を燃焼し、そしてその燃焼から生ずる排ガスを上記ウォールフロー式フィルターに通すことを含む上記方法も提供する。
【0013】
本発明の方法を用いることによって、排ガス中のNO_(2) 、CO、不完全燃焼したディーゼル及び煤の含有量が、非常に少量にまで減少される。フィルター中に捕集された煤は、低いガス温度、金属錯体を加えた場合は250℃もの低温でさえ、排ガス中の酸素によって完全に燃焼される。
【0014】
本発明に使用するための特に好適なディーゼル燃料添加剤は、第I族及び第II族、ランタニド類、鉄及びマンガンから選択される一種またはそれ以上の金属を含む上記有機金属錯体を含む。これらの添加剤は、特許文献から公知であり、例えば米国特許第6,488,725号、米国特許第5,593,464号、米国特許第4,968,322号及び米国特許第4,522,357号を参照されたい。なおこれらの特許文献の内容は、本明細書に掲載されたものとする。
【0015】
更に、数種の添加剤が商業的に入手可能である。このような添加剤としては、例えばOctel Corp.製のSatacen及びOctimaxなどがある。
【0016】
ディーゼルエンジン内で燃焼前のディーゼル燃料中の添加剤の有効濃度は、典型的には1?100ppmの範囲である。
【0017】
本発明の方法及びフィルターを使用することによって、SO_(2) 含有分は、フィルターが低温の場合に、凝縮したH_(2) SO_(4) として堆積せず、そして堆積した煤の燃焼は、フィルターが耐え得る温度を超えるような高温を生じさせない。
【0018】
該フィルターは、乗用車、小型トラック(van) 、大型トラック(lorry) 、列車、大型船(ship)もしくは小型船(vessel)、またはこれらの類似機の排気系に設置することができる。」(段落【0010】ないし【0018】)

オ 「【0019】
炭化水素は空気中で燃焼するとH_(2) O、CO及びCO_(2) になる。しかし、石油化学工業の炭化水素、例えばディーゼルは、エンジン中では完全には燃焼せず、更には硫黄も存在する。それため、ディーゼルエンジンから生ずる排ガスはSO_(2) 、部分的に転化された炭化水素、及び煤粒子の形の炭素、加えて、空気に由来する窒素が酸化されるためにNOxも含む。
【0020】
以下のように、煤の一部は過剰の空気に由来する酸素によって酸化される一方で、残りは、NO_(2) の還元と同時に酸化される。
【0021】
C + O_(2) → CO_(2)
NO_(2) + C → 1/2N_(2) + CO_(2)
SO_(2) は、SO_(3) に酸化されてそして冷却時にH_(2) O及びH_(2) SO_(4) の存在下に堆積する場合がある。
【0022】
本発明は、炭素質化合物及び窒素酸化物類、例えばNO_(2) 、CO、残留炭化水素及び煤を、上記の反応に従いディーゼルエンジン排ガスから除去するための方法及びフィルターを提供する。このフィルターは、中程度の圧力低下しか発生させない流路、及び大きい表面積を供するウォールフロー式フィルターである。
【0023】
本発明の方法によって、排ガスからの不純物の上記除去が起こり得る温度が、有機金属燃料添加剤と触媒ウォールフロー式フィルターとの作用の組み合わせによって低減される。
【0024】
フィルターボディは、この目的に従来選択されたSiO_(2) 、Al_(2) O_(3) 及び他の材料と比べて、高い熱容量、高い熱伝導率及び高い分解温度を有するSiCから製造される。そのため、炭素がフィルター中に局部的に堆積した場合は、発生した酸化熱は素早く分散され、そして温度上昇は大きくなく、フィルターが耐え得る温度よりは高くならない。
【0025】
該フィルターは、互いに焼結されたSiC粒子として製造される。これにより、10?20μの孔サイズを有する多孔性材料が生ずる。
【0026】
TiO_(2) の層を上記SiC粒子の表面に被覆する。この層は、触媒キャリアとして働く。このTiO_(2) 層は、浸漬してウォッシュコートを形成することによって被覆し、そしてこの層の厚さは50?100nmである。このTiO_(2) は、排ガス触媒キャリアとして有利な材料である。なぜならば、この材料上にはSO_(2) がH_(2) SO_(4) として堆積しないからである。H_(2) SO_(4) の堆積は、例えば乗用車をエンジンの温度が低い時に始動させた際に、車の排気管からH_(2) SO_(4) の霧が生ずるために望ましくない。
【0027】
上記触媒担体は、V_(2) O_(5) 、WO_(3) 、Pd及び場合によってはPtで含浸処理する。
【0028】
この触媒は、NO_(2) をN_(2) に還元し、残留した炭化水素を酸化しそしてCOを酸化する。該フィルターは、煤粒子を捕捉し、そしてエンジンを通常の作動温度で作動させた際に、触媒がこの煤をCO_(2) に酸化する。
【0029】
本発明に使用されるフィルターは、NO_(2) 、CO、残留炭化水素及び煤を低レベルまで減少させることが分かった。これは以下の試験結果から明らかである。
【0030】
本発明で使用するフィルターは、ウォッシュコート法によって、ウォールフロー式フィルターを、TiO_(2) の水性スラリー中に浸漬し、次いで乾燥、及び550℃で2?5時間か焼し、そしてこれを一度またはそれ以上繰り返すことにより、ウォールフロー式フィルターのSiC粒子上にTiO_(2) を被覆することによって製造される。
【0031】
該フィルターは、被覆されたフィルターの孔に、文献公知の有機錯化剤によって安定化されたバナジウム及びタングステンの無機塩の溶液を充填することによって、フィルター1L当たり20?50g、好ましくは25?35gのV_(2) O_(5) 及びフィルター1L当たり1?50g、好ましくは25?35gのWO_(3) で含浸処理する。このような含浸処理されたフィルターを、乾燥し、そして550℃で2?5時間か焼して、塩を対応する酸化物に分解する。
【0032】
最後に、該フィルターは、フィルター1L当たり0.25?1g、好ましくは0.4?1gのPd、及び場合によってはフィルター1L当たり0?2g、好ましくは0.0?0.4gのPtで含浸処理する。この含浸処理は、孔充填し、次いで乾燥及び350℃で上記貴金属の金属状態に分解することによって、Pd及び場合によってはPt塩を用いて行う。
【0033】
図1に、ウォールフロー式フィルター1を示す。排ガスは入口2に導入される。フィルターは、複数の並行な流路、すなわち入口流路3及び同数の出口流路4を含む。この入口流路は、フィルターの入口では開口しており、そして出口では閉じており、他方、上記出口流路は、フィルターの入口では閉じており、そして出口では開口している。このフィルターは、焼結したSiC粒子からなり、それゆえ壁5は多孔性である。排ガスは、入口流路3、次いで多孔性フィルター壁5を通って流れて出口流路4に出、そしてフィルター1から排出される。
【0034】
図2は、このフィルターを一方の端部から見た図である。
【0035】
図3では、SiCフィルター粒子の表面10を示す。表面10上には、多孔性のTiO_(2) 11が被覆されている。TiO_(2) 11の孔12は、表面13上で、触媒14によって含浸処理されている。」(段落【0019】ないし【0035】)

カ 「【0037】
例1
SiCウォールフロー式フィルターを、か焼後に、フィルター1L当たりTiO_(2) 80gに相当するTiO_(2) ウォッシュコートで被覆した。
【0038】
これを、か焼後に、フィルター1L当たり合計で酸化物50gに相当するV及びWで含浸処理した。この際、バナジウムは、この含浸された金属全体の30重量%を占める。最後に、このフィルターを、フィルター1L当たり0.5gのPdで含浸処理した。
例2
例1の方法を繰り返し、次いでフィルター1L当たり2gのPtで含浸処理することによってフィルターを製造した。
例3
SiCウォールフロー式フィルターを、か焼後に、フィルター1L当たりTiO_(2) 85gに相当するTiO_(2) ウォッシュコートで被覆した。
【0039】
これを、か焼後に、フィルター1L当たり合計で酸化物25gに相当するVで含浸処理した。最後に、このフィルターを、フィルター1L当たり0.4gのPdで含浸処理し、次いでフィルター1L当たり0.4gのPtで含浸処理した。
試験結果
テストベンチでのディーゼルエンジンからの最初の排気試験は、二つの排ガス温度で行った。
【0040】
煤粒子、N_(2) 、11?13%のO_(2) 、5?8%のCO_(2) 、水及び300?750ppmのNOx、50ppmのNO_(2) 、30?90ppmの残留炭化水素、100?120ppmのCO、更に未分析の少量の成分を含む排ガスを、本発明のフィルターに通した。試験結果は表1及び2に示す。
【0041】
次いで、テストベンチでのディーゼルエンジンからの更に二種の排気試験を、二つの排ガス温度で行った。
【0042】
ディーゼル燃料1kg当たり5?20mgの添加剤Octel Octimax^(TM)を含むディーゼル燃料の燃焼から生じた、煤粒子、N_(2) 、11?13%のO_(2) 、5?8%のCO_(2) 、水及び300?750ppmのNOx、50ppmのNO_(2) 、30?90ppmの残留炭化水素、100?120ppmのCO、更に未分析の少量成分を含む排ガスを、例1で製造したフィルターに通した。試験結果は表3及び4に示す。
【0043】
表1、2、3及び4中、サンプル1は例1に従い製造されたフィルターを指し、サンプル2は例2のフィルターを指し、そしてサンプル3は例3のフィルターを指す。従来技術は、類似のテストベンチにおいて350℃及び450℃で試験を行った、ヨーロッパ特許出願公開第0888816号明細書の表2及び3に記載の試験結果である。本発明のフィルターの試験は360℃及び470℃で行った。フィルターの出口において、ガス組成を、慣用の分析法によって測定した。煤粒子は、状態調節したガラスフィルター上に集め、そして或る期間一定にエンジンを作動させた後にその重量を測定した。
【0044】
更に、本発明の被覆されたフィルター中に収集された煤粒子の酸化のための温度を、排ガス温度を高めそして同時にフィルターでの圧力低下を測定することによって求めた。煤が酸化によって除去され始めると、圧力低下が減少し始めるので、その際の対応する温度を記録する。
【0045】
以下の表は、NO_(2) 、残留炭化水素(HC)、CO及び微粒状物(PM)の含有率(%)の減少率を示し、そしてCがCO_(2) に酸化される際の低められた温度を最後の列に示す。
【0046】
【表1】(略)
【0047】
【表2】(略)
【0048】
【表3】(略)(審決注;サンプル番号1の炭素除去温度は250℃である。)
【0049】
【表4】(略)(審決注;サンプル番号1の炭素除去温度は250℃である。)
従来技術からの結果が、“NO_(x) の減少率”に言及している点及びNO_(2) 減少率の数値はヨーロッパ特許出願公開第0888816号明細書には含まれない点に留意しなければならない。それゆえ、この結果は、直接は比較できない。
【0050】
表1及び2の試験結果から、本発明のフィルターは、360℃で既に活性が高く、そして非常に効率的に煤粒子を捕捉していることが分かる。
【0051】
表3及び4の試験結果からは、ディーゼル添加剤の作用と本発明のフィルターの作用との組み合せによって、煤粒子が、250℃もの低い温度においてディーゼル排ガスから効果的に除去されることが分かる。
【0052】
上記の結果は、炭素の酸化に対するWの存在の重要性も示す。
【0053】
乗用車及び大型トラックではエンジンは作動中に温度が変動しそしてたとえ或る期間中に排ガスが400℃ぐらいになるとしても、これは時折500℃を超えるので炭素粒子が酸化される。更に、酸化が発熱反応であるため、これによりフィルターが加熱されて、その結果、或る期間中、酸化に必要な温度が維持される。これは、高い熱容量及び高い分解温度を有するSiCフィルターでは問題なく為される。」(段落【0037】ないし【0053】)

(2)引用文献1の記載から分かること
上記(1)アないしカ及び図面の記載から、以下の事項が分かる。

サ 上記(1)ア、イ及び図面の記載から、引用文献1には、燃料添加剤とウォールフロー式フィルターの組み合わせにより、ディーゼルエンジンからの排ガスを浄化する方法が記載されていることが分かる。

シ 上記(1)カ(特に段落【0048】の【表3】、段落【0049】の【表4】及び段落【0051】の記載)、及び図面の記載から、引用文献1に記載された方法は、ディーゼル燃料添加剤の作用とフィルターの作用との組み合わせによって、排ガス中の煤(もしくは炭素質化合物)が、従来よりも低い250℃の温度においてディーゼル排ガスから効果的に除去されるものであることが分かる。

ス 上記(1)ア(特に請求項4及び5)及びエ(特に段落【0014】)の記載から、引用文献1に記載された方法において、燃料添加剤として、煤の酸化に有効な、第I族及び第II族、ランタニド類(審決注;ランタニド(ランタノイド)類には、セリウムが含まれる。)、鉄及びマンガンから選択される一種またはそれ以上の金属の錯体(特には有機金属錯体)が添加されることが分かる。そして、このような添加剤は、例えばOctel Corp.製のSatacen及びOctimaxとして商業的に入手可能であることが分かる。
そうすると、引用文献1には、鉄及びランタニドを含む群から選択される一種またはそれ以上の金属の化合物を含む添加剤を含有する燃料をエンジンに供給すること、該添加剤が有機金属錯体の形態であることが記載されているといえる。

セ 上記(1)ア、イ(特に段落【0002】)、エ、オ(特に段落【0023】)及びカの記載から、引用文献1に記載された方法において、ウォールフロー式フィルターは、触媒化ウォールフロー式フィルター(もしくは触媒ウォールフロー式フィルター)であることが分かる。そして、オ(特に段落【0028】)の記載から、このフィルターは、煤粒子を捕捉し、エンジンを通常の作動温度で作動させた際に、触媒がこの煤粒子をCO_(2)に酸化することが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図面を参酌すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「ウォールフロー式フィルターが搭載された排気システムが取り付けられたディーゼルエンジンの運転方法であって、ウォールフロー式フィルターによって保持された煤粒子の燃焼温度を低下させることができ、鉄及びランタニドを含む群から選択される一種またはそれ以上の金属の化合物を含む添加剤を含有する燃料をエンジンに供給すること、該添加剤が有機金属錯体の形態であること、ならびにエンジン中の燃料の燃焼によって生成した排気ガスが通過する粒子フィルターとして、触媒ウォールフロー式フィルターが使用され、この触媒が、煤粒子をCO_(2)に酸化する触媒からなる、方法。」

4-2 引用文献2
(1)引用文献2の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特表2005-513204号公報(以下、「引用文献2」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために、当審で付したものである。)

ア 「【要約】
本発明のコロイド分散体は、有機相;非晶質形態にある鉄化合物の粒子;及び少なくとも1種の両親媒性物質を含むことを特徴とする。この分散体は、鉄錯化剤の存在下の鉄塩と塩基とを又は鉄錯体と塩基とを、反応媒体のpHをせいぜい8の値に保ちながら反応させて沈殿を得て(前記鉄錯化剤は、pKが少なくとも3となるような錯化定数Kを有する水溶性カルボン酸から選択され、前記鉄錯体は鉄塩と前記酸との反応生成物から選択される);次いで得られた沈殿又は該沈殿を含有する懸濁液を両親媒性物質の存在下で有機相と接触させて有機相中の分散体を得る方法によって調製される。本発明の分散体は、液体燃料又はエンジン燃料中の燃焼添加剤として用いることができる。」(第1ページ要約欄)

イ 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
・有機相;
・非晶質形態にある鉄化合物の粒子;
・少なくとも1種の両親媒性物質:
を含むことを特徴とする、コロイド分散体。
【請求項2】
・有機相;
・非晶質形態にある鉄化合物の粒子;
・希土類化合物の粒子;
・少なくとも1種の両親媒性物質:
を含むことを特徴とする、コロイド分散体。
【請求項3】
鉄化合物粒子の少なくとも85%が一次粒子であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の分散体。
【請求項4】
粒子のd_(50)が1nm?5nmの範囲、より特定的には3nm?4nmの範囲であることを特徴とする、請求項1?3のいずれかに記載の分散体。
【請求項5】
有機相が非極性炭化水素をベースとすることを特徴とする、請求項1?4のいずれかに記載の分散体。
【請求項6】
両親媒性物質が10?50個の炭素原子、より特定的には15?25個の炭素原子を有するカルボン酸であることを特徴とする、請求項1?5のいずれかに記載の分散体。
【請求項7】
希土類がセリウム、ランタン、イットリウム、ネオジム、ガドリニウム及びプラセオジムから選択されることを特徴とする、請求項2?6のいずれかに記載の分散体。
【請求項8】
・反応媒体のpHをせいぜい8の値に維持しながら、鉄錯化剤の存在下の鉄塩と塩基とを又は鉄錯体と塩基とを反応させて沈殿を得る工程(ここで、前記鉄錯化剤はpKが少なくとも3となるような錯化定数Kを有する水溶性カルボン酸から選択され、前記鉄錯体は鉄塩と前記酸との反応生成物から選択される);
・得られた沈殿又は該沈殿を含有する懸濁液を両親媒性物質の存在下で有機相と接触させて有機相中の分散体を得る工程:
を含むことを特徴とする、請求項1及び3?7のいずれかに記載の分散体の製造方法。
【請求項9】
前記カルボン酸が脂肪族カルボン酸、酸-アルコール又はポリ酸-アルコール、アミノ酸及びポリアクリル酸から選択されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記脂肪族カルボン酸がギ酸又は酢酸であり、前記ポリ酸-アルコールが酒石酸又はクエン酸であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
反応媒体のpHをせいぜい7.5の値、より特定的には6.5?7.5の範囲の値に保つことを特徴とする、請求項8?10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
有機相中の希土類化合物の粒子のコロイド分散体を請求項1及び3?6のいずれかに記載の鉄化合物の粒子のコロイド分散体と混合することを特徴とする、請求項2?7のいずれかに記載の分散体の製造方法。
【請求項13】
内燃機関用エンジン燃料の添加剤としての、請求項1?7のいずれかに記載のコロイド分散体の使用。
【請求項14】
請求項1?7のいずれかに記載のコロイド分散体を含有することを特徴とする、内燃機関用エンジン燃料。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項14】)

ウ 「【0001】
本発明は、鉄粒子の有機コロイド分散体、その調製方法及び内燃機関用エンジン燃料の添加剤としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン中のガス油の燃焼の際に、炭素質物質が煤煙(soot)を形成する傾向があることが知られており、これは環境及び健康の両方に対して有害であることが知られている。かかる炭素質粒子(以下、「煤煙」と呼ぶ)の放出を減少させるための技術は、長い間研究されてきている。
【0003】
1つの満足できる解決策は、煤煙中に触媒を導入してフィルターに採集される煤煙を頻繁に自己発火させることから成る。この目的で、煤煙は、エンジンの通常の動作の間に頻繁に達成される有意に低い自己発火温度を有していなければならない。
【0004】
希土類又は鉄組成物の分散体を添加剤として用いることによって煤煙の自己発火温度を低下させることができるということが知られている。
【0005】
かかるコロイド分散体は、それらが導入される媒体中における良好な分散性、高い経時安定性、及び比較的低濃度においても充分な触媒活性を有しているべきである。
【0006】
既知のコロイド分散体は、これらの基準の全てを常に満足するわけではない。それらは例えば、良好な分散性は有するが充分な安定性を持たなかったり、良好な安定性は有するが経済上有益であるのには高すぎる濃度を必要とする触媒活性を有していたりという場合がある。
【0007】
さらに、それらは調製方法が複雑である場合もある。例として、かかる分散体は有機相中の粒子の分散体であり、一般的には水性相中の出発分散体を最終有機相中に移すことによって得られる。かかる移動は、実施することが困難なことがある。」(段落【0001】ないし【0007】)

エ 「【0008】
本発明は、改善された特性を有し、調製を実施するのが容易であるコロイド分散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的で、第1の局面において、本発明のコロイド分散体は、
・有機相;
・非晶質形態にある鉄化合物の粒子;
・少なくとも1種の両親媒性物質:
を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の局面に従えば、本発明はまた、
・有機相;
・非晶質形態にある鉄化合物の粒子;
・希土類化合物の粒子;
・少なくとも1種の両親媒性物質:
を含むことを特徴とするコロイド分散体にも関する。
【0011】
本発明はまた、前記の第1の局面に従う分散体の調製方法にも関し、この方法は、
・反応媒体のpHをせいぜい8の値に維持しながら、鉄錯化剤の存在下の鉄塩と塩基とを又は鉄錯体と塩基とを反応させて沈殿を得る工程(ここで、前記鉄錯化剤はpKが少なくとも3となるような錯化定数Kを有する水溶性(hydrosoluble)カルボン酸から選択され、前記鉄錯体は鉄塩と前記酸との反応生成物から選択される);
・得られた沈殿又は該沈殿を含有する懸濁液を両親媒性物質の存在下で有機相と接触させて有機相中の分散体を得る工程:
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の分散体は、非常に安定であるという利点を有する。また、高い活性も有する。第1の局面の分散体を調製するための方法は、水性相の有機相への効率よい移動を可能にする。」(段落【0008】ないし【0012】)

オ 「【0014】
本明細書において用語「コロイド分散体」とは、液相中の懸濁液状になっているコロイド寸法の鉄化合物又は希土類化合物の微細固体粒子から構成される任意の系を意味し、前記粒子は残留量の結合し又は吸着したイオン、例えば酢酸イオン又はアンモニウムイオンのようなイオンを含有していてもよい。かかる分散体において、鉄又は希土類は、完全にコロイドの形にあってもよく、同時にイオンの形とコロイドの形とにあってもよいということに留意されたい。
【0015】
以下に、本発明の第1の局面の分散体を説明する。
【0016】
本発明の分散体は、有機相中の分散体である。
【0017】
この有機相は、分散体の用途に応じて選択される。
【0018】
有機相は、非極性炭化水素をベースとするものであることができる。
【0019】
有機相の例としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン又はノナンのような脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、シクロペンタン又はシクロペンタンのような不活性環状脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン又は液状ナフテンのような芳香族炭化水素を挙げることができる。また、Isopar又はSolvesso(EXXON所有の登録商標)石油留分、特にSolvesso 100(これは本質的にメチルエチルベンゼンとトリメチルベンゼンとの混合物を含む)、Solvesso 150(これはアルキルベンゼンの混合物、特にジメチルベンゼンとテトラメチルベンゼンとの混合物を含む)及びIsopar(これは本質的にイソ-及びシクロパラフィン系C-11及びC-12炭化水素を含有する)も好適である。
【0020】
また、クロルベンゼン、ジクロルベンゼン又はクロルトルエンのような塩素化炭化水素を有機相として用いることもできる。エーテル類並びに脂肪族及び環状脂肪族ケトン、例えばジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン又はメシチルオキシドも利用可能である。
【0021】
もちろん、有機相は、上記のタイプの2種以上の炭化水素の混合物をベースとすることもできる。
【0022】
本発明の分散体の粒子は、その組成が本質的に鉄の酸化物及び/又は水酸化物及び/又はオキシ水酸化物に相当する鉄化合物の粒子である。鉄は本質的に酸化状態3で存在するのが一般的である。該粒子はまた、錯化剤をも含有する。錯化剤は、分散体を調製するための方法において用いられるもの(それ自体又は鉄錯体の形にあるもの)に相当する。
【0023】
本発明の分散体の粒子は、非晶質である鉄化合物をベースとする。非晶質特徴は、X線分析によって示すことができ、得られるX線図は有意のピークを何ら示さない。
【0024】
本発明の1つの特徴に従えば、粒子の少なくとも85%、特に少なくとも90%、より一層特定的には少なくとも95%が一次粒子である。用語「一次粒子」とは、完全に離散しており、他の粒子と凝集していない粒子を意味する。この特徴は、TEM(高解像度透過電子顕微鏡)を用いて分散体を検査することによって示すことができる。
(中略)
【0040】
本発明の分散体は、少なくとも8%、より特定的には少なくとも15%、さらにより特定的には少なくとも30%の鉄化合物濃度を有する。この濃度は、分散体の総重量に対する鉄(III)酸化物の当量として表わされる。この濃度は、40%までであることができる。
【0041】
本発明の分散体は、すぐれた安定性を有する。数か月後にも沈降物は何ら観察されない。
【0042】
上記のように第2の局面において本発明はまた、有機相中の混合物としての非晶質形態にある鉄化合物の粒子及び希土類化合物の粒子の有機相中の分散体に関し、この分散体は両親媒性物質をさらに含む。
【0043】
本発明の第1の局面に関する上記の説明並びに有機相及び両親媒性物質の性状に関する上記の説明は、ここでも当てはまる。
【0044】
さらに、希土類化合物中の希土類は、セリウム、ランタン、イットリウム、ネオジム、ガドリニウム及びプラセオジムから選択することができる。より特定的には、セリウムが選択される。
【0045】
希土類化合物の粒子は随意に、鉄化合物について上に与えたものと同じ特徴(特にそれらの寸法及び形態に関してのもの)を有することができる。かくして、これらは上に与えたものと同じ値のd_(50)を有することができ、そして上に示したような一次粒子であることができる。
【0046】
鉄化合物と希土類化合物との割合は広く変化し得る。しかしながら、鉄化合物/希土類化合物のモル比は0.5?1.5の範囲であるのが一般的であり、より特定的にはこの比は1であることができる。
【0047】
前記希土類化合物は、希土類酸化物及び/又は水酸化物及び/又はオキシ水酸化物であることができる。この化合物はまた、有機金属化合物であることもできる。」(段落【0014】ないし【0047】)

カ 「【0048】
以下、本発明の第1の局面に従う本発明の分散体の調製方法を説明する。
【0049】
この方法の第1工程は、錯化剤の存在下の鉄塩と塩基とを又は鉄錯体と塩基とを反応させることから成る。この反応は、水性媒体中で実施される。
【0050】
塩基の特定的な例は、水酸化物タイプの物質であることができる。アルカリ又はアルカリ土類水酸化物及びアンモニアを挙げることができる。また、第2、第3又は第4級アミンを用いることもできる。しかしながら、アルカリ又はアルカリ土類カチオンによる汚染の危険性が少なくなるのでアミン及びアンモニアの方が好ましい。また、尿素を挙げることもできる。
【0051】
鉄塩としては、任意の水溶性塩を用いることができる。より特定的には、硝酸第二鉄を挙げることができる。
【0052】
本発明の方法の特定的な特徴に従えば、鉄錯化剤の存在下で鉄塩と塩基とを反応させる。
(中略)
【0058】
上記のように、塩基との反応はまた、鉄錯体について実施することもできる。この場合、用いられる鉄錯体は、錯化性鉄と上記のタイプの錯化剤とから得られる物質である。この物質は、鉄塩と前記錯化剤とを反応させることによって得ることができる。
(中略)
【0069】
有機相中のコロイド分散体を得るためには、コロイド分散体の媒体にしようとしている有機相を、分離された沈殿と、又は反応媒体から沈殿を分離した後の上で得られた水性懸濁液と、又は反応媒体中に懸濁状の沈殿と、接触させる。前記有機相は、上記のタイプのものである。
(中略)
【0083】
本発明に従えば、上に挙げた特徴を有する有機コロイド分散体が得られる。
【0084】
本発明の第2の局面の分散体は、有機相中の希土類化合物の粒子の第1のコロイド分散体と鉄化合物の粒子の第2のコロイド分散体(この第2の分散体は本発明の第1の局面に従う)とを混合することによって得ることができる。
【0085】
第1の希土類分散体は、例えばヨーロッパ特許公開0206907A号若しくは同第0671205A号公報又は国際公開WO00/49098号に記載されたものであることができる。
【0086】
好ましくは、有機相が同一である分散体を混合する。」(段落【0048】ないし【0086】)

キ 「【0087】
直前に記載した有機コロイド分散体は、内燃機関用ガス油添加剤として、より特定的にはディーゼルエンジン用ガス油添加剤として用いることができる。
【0088】
これらはまた、内燃機関(爆発機関)や家庭用オイルバーナー、反動推進エンジンのようなエネルギー発生装置用の液体燃料又はエンジン燃料中の燃焼添加剤として用いることもできる。
【0089】
最後に、本発明は、上記のタイプのコロイド分散体又は上記の方法によって得られるコロイド分散体を含有する内燃機関用エンジン燃料にも関する。このエンジン燃料は、本発明の分散体と混合することによって得られる。
(中略)
【0095】
透過電子低温顕微鏡によって、寸法約3nmの完全離散粒子が観察された。
分散体のX線分析により、粒子が非晶質であることが示された。
この分散体を1日6回のサイクルの-20℃及び+80℃における一定温度ステージから成る熱処理に付した。6か月後にも沈殿は何ら観察されなかった。
【0096】
例2
この例は、前の例の分散体を用いたエンジンベンチテストに関する。
マニュアル式変速機を備えたフォルクスワーゲンの1.9リッター気筒容量ターボ式ディーゼルエンジンをダイナモメーター装置上に乗せて用いた。排気ラインには、2.5リットル炭化ケイ素粒子フィルター(IBIDEN2000cpsi、5.66×6.00)を設けた。熱電対を用いて粒子フィルター入口において排気ガスの温度を測定した。また、粒子フィルターの入口と出口との間の圧力差も測定した。
【0097】
前の例で得られた有機分散体を燃料に、添加された燃料に対して金属7ppmの量になるように添加した。
粒子フィルターに粒子を次の条件下で装填した:
・エンジン回転速度=2000rpm;
・トルク60Nm;
・フィルターへのガスの入口温度=250℃;
・装填期間=8時間。
【0098】
粒子フィルターに捕捉された煤煙を、次の条件下で2000rpmのエンジン速度で、それぞれ下記の通りの15分間の8つのステージを含むサイクルに従って燃焼させた。
【表1】(略)
【0099】
粒子フィルターによってもたらされる圧力低下は、最初は温度上昇のために増大し、最大値に達した後に、粒子フィルター中に蓄積される炭素質材料の燃焼のせいで小さくなった。圧力低下がもはや増大しなくなる時点(その温度によって記録される)が、添加剤による粒子フィルターの再生ポイントを表わすものと考えられた。
【0100】
ステージ6からステージ7への推移の際に、圧力低下の減少が観察された。これはフィルター中の煤煙の燃焼に対応する。燃焼開始温度は、400?425℃の範囲であり、もっと正確には405℃だった。煤煙燃焼は、425℃において6.49ミリバール/分の圧力低下の減少をもたらした。
これらの結果は、燃料中の添加剤の低濃度について低い再生温度を示す。」(段落【0087】ないし【0100】)

(2)引用文献2の記載から分かること
上記(1)アないしキ及び図面の記載から、以下の事項が分かる。

サ 上記(1)ウ(特に段落【0004】及び【0005】)の記載から、従来から、内燃機関用エンジン燃料の添加剤として希土類又は鉄組成物のコロイド分散体を添加剤として用いることによって煤煙の自己発火温度を低下させることができるという技術が知られていたことが分かる。なお、希土類にはセリウムが含まれることは技術常識である。

シ 上記(1)アないしウ、キ及び図面の記載から、引用文献2には、鉄化合物の粒子を含む、又は、鉄化合物の粒子及び希土類化合物の粒子を含む有機コロイド分散体を、内燃機関用エンジン燃料、特にディーゼルエンジン用燃料の添加剤として使用する方法が記載されていることが分かる。

ス 上記(1)オ(特に段落【0044】ないし【0047】)の記載から、引用文献2に記載された方法において、添加剤に含まれる希土類化合物中の希土類として、特にセリウムが選択されることが分かる。
また、該方法において、鉄化合物/希土類化合物のモル比は0.5?1.5の範囲(希土類としてセリウムを選択したとき、鉄とセリウムの比率が33/66から60/40の範囲)であるのが一般的であり、より特定的にはこのモル比は1(つまり鉄とセリウムの比率が50/50)であることが分かる。
また、引用文献2の請求項1に記載されたものは、鉄化合物を含み希土類化合物を含まないので、鉄化合物から実質的になるものである。

セ 上記(1)オ及びカの記載から、引用文献2に記載された方法において、有機コロイド分散体を構成する希土類酸化物は有機金属化合物であることができ、鉄化合物はカルボン酸等の有機酸を含む鉄錯体であることができることが分かる。

ソ 上記(1)カ(特に段落【0084】)の記載から、引用文献2に記載された方法において、有機コロイド分散体は、有機相中の希土類化合物の粒子の第1のコロイド分散体と鉄化合物の粒子の第2のコロイド分散体とを混合することによって得ることができることが分かる。

タ 上記(1)イ、ウ等の記載から、引用文献2に記載された方法は、内燃機関用エンジン燃料の添加剤として鉄化合物及び/又は希土類の粒子のコロイド分散体を含んでいることから、鉄化合物及び/又は希土類の粒子のコロイド分散体を添加しない場合に比べて、煤煙の自己発火温度を低下させるものであることが分かる。

チ なお、本願明細書において、「この分散体は・・・WO03/053560(審決注:引用文献2の国際公開番号である。)の教示に従って調整した。」(段落【0051】)と記載されていることから、本願の実施例においては、引用文献2に記載された添加剤と同じものを添加剤として使用していることが分かる。

(3)引用文献2記載の技術
上記(1)、(2)及び図面の記載から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「粒子フィルターが搭載された排気システムが取り付けられたディーゼルエンジンの運転方法であって、粒子フィルターによって保持された煤煙の粒子の燃焼温度を低下させることができ、鉄化合物から実質的になる、または鉄化合物およびセリウム化合物から実質的になる添加剤を含有する燃料をエンジンに供給すること、燃料添加剤中の鉄およびセリウムの比率が、0.5?1.5の範囲内の比で構成され、この比はFe元素に対するCe元素のモル比であり、該添加剤が有機コロイド分散体の形態である方法。」

5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「ウォールフロー式フィルター」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明における「粒子フィルター」に相当し、以下同様に、「煤粒子」は「煤煙の粒子」に、「触媒ウォールフロー式フィルター」は「触媒フィルター」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「ディーゼルエンジン」は、「ディーゼルエンジン」という点で、本願発明における「ディーゼルエンジンまたは希薄燃焼エンジン」と一致する。
また、引用発明における「鉄及びランタニドを含む群から選択される一種またはそれ以上の金属の化合物を含む添加剤」は、「鉄化合物を含む、または鉄化合物及びセリウム化合物を含む添加剤」という限りにおいて、本願発明における「鉄化合物から実質的になる、または鉄化合物およびセリウム化合物から実質的になる添加剤」に相当する。
また、引用発明における「煤粒子をCO_(2)に酸化する触媒からなる」は、「煤粒子を酸化する触媒からなる」という限りにおいて、本願補正発明における「煤煙の粒子の燃焼を促進する触媒からなる」に相当する。

したがって両者は、
「粒子フィルターが搭載された排気システムが取り付けられたディーゼルエンジンまたは希薄燃焼エンジンの運転方法であって、粒子フィルターによって保持された煤煙の粒子の燃焼温度を低下させることができ、鉄化合物を含む、または鉄化合物及びセリウム化合物を含む添加剤を含有する燃料をエンジンに供給すること、ならびにエンジン中の燃料の燃焼によって生成した排気ガスが通過する粒子フィルターとして、触媒フィルターが使用され、この触媒が、煤粒子を酸化する触媒からなる方法。」
という点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

<相違点>
(1)「鉄化合物を含む、または鉄化合物及びセリウム化合物を含む添加剤を含有する燃料をエンジンに供給すること」に関して、本願発明においては、「鉄化合物から実質的になる、または鉄化合物およびセリウム化合物から実質的になる添加剤を含有する燃料をエンジンに供給すること、燃料添加剤中の鉄およびセリウムの比率が、0/100から80/20の範囲内の比で構成され、この比はFe元素に対するCe元素のモル比であり、該添加剤が有機コロイド分散体の形態であること」というものであるのに対して、引用発明においては、「鉄及びランタニドを含む群から選択される一種またはそれ以上の金属の化合物を含む添加剤を含有する燃料をエンジンに供給すること、該添加剤が有機金属錯体の形態であること」というものである点(以下、「相違点1」という。)。

(2)触媒フィルターに用いられる触媒が、「煤粒子を酸化する触媒からなる」ことに関して、本願発明においては、「煤煙の粒子の燃焼を促進する触媒からなる」のに対し、引用発明においては、「煤粒子をCO_(2)に酸化する触媒からなる」点(以下、「相違点2」という。)。

6 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
まず、本願発明における「コロイド分散体」という用語の意味を知るために、本願の明細書を参照する。
本願の明細書には、「本明細書の説明における「コロイド分散体」という表現は、液相中の安定な懸濁液中の鉄化合物またはセリウム化合物を主成分とするコロイド寸法の微小固体粒子からなるあらゆる系を意味し、さらに前記粒子は場合により、例えば硝酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、もしくはアンモニウムイオンなどの残量の結合または吸着したイオンを含有することができる。コロイド寸法とは、約1nmから約500nmの間で構成される寸法を意味する。上記粒子は、特に最大約250nm、特に最大100nm、好ましくは最大20nm、より好ましくは最大15nmの平均サイズを有することができる。このような分散体中、鉄化合物またはセリウム化合物は、好ましくは完全にコロイドの形態であってもよく、またはコロイドの形態および部分的にイオンの形態であってもよいことに留意されたい。」(段落【0020】)と記載されている。
すなわち、本願発明における「コロイド分散体」とは、鉄化合物またはセリウム化合物を主成分とするコロイド寸法(約1nmないし約500nm)の微小固体粒子からなるあらゆる系を意味し、さらに前記粒子は場合により、例えば硝酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、もしくはアンモニウムイオンなどの残量の結合または吸着したイオンを含有することができることから、「コロイド分散体」は鉄化合物又はセリウム化合物に硝酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、もしくはアンモニウムイオンなどのイオンが結合または吸着したいわゆる錯体を含みうるものであることが分かる。
次に、本願発明と引用発明と引用文献2記載の技術とは、共に、ディーゼルエンジン等の内燃エンジンからの排気ガスに含まれる煤粒子を粒子フィルターによって除去すると共に、燃料に添加剤を添加することにより煤粒子の燃焼温度を低下させるという共通の課題を有するものである。
そこで、引用文献2記載の技術を本願発明の用語を用いて表すために、本願発明と引用文献2記載の技術を対比すると、引用文献2記載の技術における「ディーゼルエンジン」は、「ディーゼルエンジン」という点で、本願発明における「ディーゼルエンジンまたは希薄燃焼エンジン」と一致する。
したがって、引用文献2記載の技術は、本願発明の用語を用いて、
「粒子フィルターが搭載された排気システムが取り付けられたディーゼルエンジンの運転方法であって、粒子フィルターによって保持された煤煙の粒子の燃焼温度を低下させることができ、鉄化合物から実質的になる、または鉄化合物およびセリウム化合物から実質的になる添加剤を含有する燃料をエンジンに供給すること、燃料添加剤中の鉄およびセリウムの比率が、0.5?1.5の範囲内の比で構成され、この比はFe元素に対するCe元素のモル比であり、該添加剤が有機コロイド分散体の形態である技術。」
と言い換えることができる。
そうすると、引用文献2記載の技術は、添加剤として、本願発明の添加剤と重複するものを使用しているといえる。
さらにいえば、本願明細書には「この分散体は・・・WO03/053560(審決注:引用文献2の国際公開番号である。)の教示に従って調整した。」(段落【0051】)と記載されていることから、本願の実施例においては、引用文献2に記載された添加剤と同じものを添加剤として使用していることが確認できる。
そして、引用発明と引用文献2記載の技術とは、ともに、ディーゼルエンジンからの排気ガスから粒子フィルターによって除去された煤煙の粒子を燃焼させる技術であり、燃料に添加剤を加えることにより燃焼温度を下げるという共通の課題を解決するものである。
さらに、引用文献2(上記4-2(1)オ、カ及び(2)セを参照。)に記載されているように、引用文献2に記載された添加剤の「有機コロイド分散体」は、有機金属化合物及び金属錯体を含むものであるから、引用発明における添加剤の「有機金属錯体」に適用する十分な動機付けがあり、引用発明における添加剤中の「有機金属錯体」の寸法を約1nmないし500nmのコロイド寸法とすることにより、「有機コロイド分散体」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
もしくは、引用発明における添加剤中の「有機金属錯体」を、引用文献2記載の技術における「有機コロイド分散体」に置換することは、当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、上記相違点1に係る発明特定事項は、引用発明において、引用文献2記載の技術を適用することにより、当業者が容易に想到できたものである。

(2)相違点2について
引用発明における触媒は、「煤粒子をCO_(2)に酸化する触媒からなる」ものであり、「煤粒子をCO_(2)に酸化する」ことは、換言すれば、「煤粒子を燃焼させる」ことである。
また、触媒とは、それ自体は変化せず、化学反応の速度を変化させる物質であり、引用発明においては、煤粒子をCO_(2)に酸化する反応の速度を促進している。
そうすると、引用発明における触媒は、「煤粒子の燃焼を促進する触媒」であるといえるから、上記相違点2は実質的な相違点ではない。

なお、仮に、本願発明における「煤煙の粒子の燃焼を促進する触媒」という事項が、本願の実施例に記載された「白金からなる触媒」を意味するとしても、引用文献1には、例えば「触媒活性材料として金属白金を更に含む」(特許請求の範囲の請求項2及び請求項7を参照。)と記載され、「白金からなる触媒」を含むことも記載されている。
また、粒子フィルターにおいて白金からなる触媒を含むことは本願の優先日前に周知の技術(以下、「周知技術」という。例えば、引用文献1(例えば、段落【0006】の記載を参照。)、特開2006-326586号公報(例えば、段落【0014】等の記載を参照。)、国際公開第2005/064128号(例えば、第23ページ第6ないし10行の記載を参照。)等を参照。)である。

そうすると、相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、実質的な相違点ではないか、又は、引用発明において、周知技術を適用することにより、当業者が容易に想到できたことである。

(3)効果について
本願発明を全体として検討してみても、その作用効果は格別顕著なものではない。

なお、請求人は、審判請求書において、「本願発明は、240℃程度の低い温度で煤の堆積を減少できる効果を奏します。」(審判請求書の補正書のII.理由2の欄)と主張するが、引用発明においても、「煤粒子が、250℃もの低い温度においてディーゼル排ガスから効果的に除去されることが分かる。」(段落【0051】)という効果を奏するものであるから、請求人が主張する本願発明の作用効果が格別顕著なものであるとはいえない。

7 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術に基づいて、又は、引用発明並びに引用文献2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、平成26年1月7日付け上申書についても検討したが、進歩性の判断を覆すに至らなかった。

8 むすび
上記7のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-30 
結審通知日 2015-02-03 
審決日 2015-02-16 
出願番号 特願2011-282763(P2011-282763)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲村 正義菅野 裕之  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 槙原 進
金澤 俊郎
発明の名称 排気システム中の粒子フィルターの再生が容易になることを目的としたディーゼルエンジンの運転方法  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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