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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06K
管理番号 1302681
審判番号 不服2014-6466  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-07 
確定日 2015-07-02 
事件の表示 特願2010- 30747「無線通信装置、及び該無線通信装置に用いられる非接触通信用アンテナ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月25日出願公開、特開2011-165151〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成22年2月15日の出願であって、平成25年8月22日付けで拒絶理由通知がなされ、平成25年10月28日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされたが、平成25年12月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年4月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年4月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は補正前の平成25年10月28日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「非接触型ICカード又は該非接触型ICカードと同等の機能を有する電子機器と通信を行うためのICカード処理装置に対して、非接触通信用アンテナを当該無線通信装置の筐体のかざし面を介してかざすことにより無線接続されて通信を行う無線通信装置であって、
前記非接触通信用アンテナは、
前記ICカード処理装置に対して、比較的短距離隔たる第2の領域内では通信不可領域が発生する一方、比較的長距離隔たる第1の領域内では通信可能に無線接続される第1のループアンテナと、
前記ICカード処理装置に対して、比較的短距離隔たる前記第2の領域内では通信可能に無線接続される一方、比較的長距離隔たる前記第1の領域内では通信不可領域が発生する第2のループアンテナとを有し、
前記第2のループアンテナは、ループ面が前記かざし面から所定の第1の距離の位置に平行に配置され、
前記第1のループアンテナは、
ループ面が、前記第2のループアンテナの前記ループ面よりも、前記かざし面からさらに離れた第2の距離の位置に平行に配置されていることを特徴とする無線通信装置。」
という発明(以下、「本願発明」という。)を、
「非接触型ICカード又は該非接触型ICカードと同等の機能を有する電子機器と通信を行うためのICカード処理装置に対して、非接触通信用アンテナを当該無線通信装置の筐体のかざし面を介してかざすことにより無線接続されて通信を行う無線通信装置であって、
前記非接触通信用アンテナは、
前記ICカード処理装置に対して、比較的短距離隔たる第2の領域内では通信不可領域が発生する一方、比較的長距離隔たる第1の領域内では通信可能に無線接続されるN巻きの第1のループアンテナと、
前記ICカード処理装置に対して、比較的短距離隔たる前記第2の領域内では通信可能に無線接続される一方、比較的長距離隔たる前記第1の領域内では通信不可領域が発生するM巻き(N>M)の第2のループアンテナとを有し、
前記第1のループアンテナは、ループ面が前記かざし面から所定の第1の距離の位置に平行に配置され、
前記第2のループアンテナは、
ループ面が、前記第1のループアンテナの前記ループ面よりも、前記かざし面からさらに離れた第2の距離の位置に平行に配置されていることを特徴とする無線通信装置。」
という発明(以下、「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

2.新規事項の有無及び補正の目的要件について
上記補正のうち、補正後の「前記第1のループアンテナは、ループ面が前記かざし面から所定の第1の距離の位置に平行に配置され、前記第2のループアンテナは、ループ面が、前記第1のループアンテナの前記ループ面よりも、前記かざし面からさらに離れた第2の距離の位置に平行に配置されている」という構成について検討するに、審判請求人は当該補正を誤記の訂正であると主張しているが、遠距離用の第1のループアンテナの方をかざし面に近づける構成は願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載されておらず、当該補正後の構成により初めて補正後の「かざし面とリーダ/ライタ間の距離」を伸ばすことができ、使い勝手がよいという新たな作用効果を奏するに至ったものである。
したがって、上記補正は二つのアンテナの配置に関する新たな作用効果を有する新たな実施例の追加ないしは差し替えであり、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではないから、特許法第17条の2第3項(新規事項)の規定に適合していない。

また上記補正は新たな実施例の追加ないしは差し替えであるから、当該補正は特許請求の範囲の減縮、請求項の削除、誤記の訂正あるいは明りょうでない記載の釈明のいずれでもない。
したがって、上記補正は、特許法第17条の2第5項各号(補正の目的)のいずれの規定にも適合していない。

3.まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)の規定に適合しておらず、また仮に上記補正が願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであるとしても、本件補正は特許法第17条の2第5項各号(補正の目的)のいずれの規定にも適合していないから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正(審判請求時の手続補正)は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明及び公知技術
(1)原審の拒絶理由に引用された特開2006-262055号公報(以下、「引用文献1」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付与したものである。)
(a)「【請求項9】
外部アンテナとの離間時に同調する第1同調コイルと、前記外部アンテナとの近接時に同調する第2同調コイルとを有する非接触通信用のアンテナモジュールが、筐体内部に組み込まれている
ことを特徴とする携帯情報端末。」

(b)「【0001】
本発明は、RFID(無線周波数識別:Radio Frequency Identification)システムに用いられるアンテナモジュール及びこれを備えた携帯情報端末に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、非接触ICカードシステムに代表されるRFID技術においては、ICカード等の識別用非接触ICタグにアンテナコイルを内蔵させ、外部リーダ/ライタの送受信アンテナから発信される電波との誘導結合により、例えば通信周波数13.56MHzにおける非接触データ通信を行うようにしている。
【0003】
この種の非接触ICタグには、例えば、ベース基板表面にループ状に形成されたアンテナコイルを有するアンテナモジュールが用いられている(下記特許文献1参照)。このアンテナモジュールは、必要に応じて磁芯部材や金属シールド板を備え、例えば携帯電話等の携帯情報端末の筐体内部に組み込んで使用することができる。」

(c)「【0025】
以下、本発明の各実施の形態について図面を参照して説明する。以下の各実施の形態では、外部リーダ/ライタと非接触通信を行う非接触ICタグ用のアンテナモジュールを例に挙げて説明する。
・・・(途中略)・・・
【0035】
これら給電コイル12及び同調回路13は、同一基板上に配置形成されている。特に本実施の形態では、給電コイル12の内周側に同調回路13が配置されている。また、同調回路13においては、第1同調コイル13Aと第2同調コイル13Bとが互いに隣接しており、第1同調コイル13Aの内周側に第2同調コイル13Bが配置されている。このとき、モジュール回路14は同一基板上に実装することができる。」

(d)「【0047】
(第3の実施の形態)
図6及び図7は本発明の第3の実施の形態を示している。なお、図において上述の第1の実施の形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0048】
本実施の形態のアンテナモジュール31は、リーダ/ライタとの離間時に同調する第1同調コイル33Aと、リーダ/ライタとの近接時に同調する第2同調コイル33Bとを有している。第1同調コイル33A及び第2同調コイル33Bは、それぞれ給電コイルとしての機能を独立して備え、各々独立してモジュール回路34に電気的に接続されている。
【0049】
第1同調コイル33A及び第2同調コイル33Bは互いに同一の同調点f0(16.76MHz)に設定されている。第2同調コイル33BにはQダンプ抵抗16が並列接続されたQダンプコイルとされており、これにより図7に示したように、第1同調コイル33Aの共振先鋭度Q1は、第2同調コイル33Bの共振先鋭度Q2よりも高くなっている。なお、第1同調コイル33Aと第2同調コイル33B間は、相互誘導による結合を小さくするために、互いに距離を離して配置されている。
【0050】
一方、モジュール回路34には、第1同調コイル33Aと第2同調コイル33Bとを選択的に切り替える切替回路35が設けられている。図6の例では、切替回路35が第1同調コイル33Aを選択している状態を示している。これら第1同調コイル33Aと第2同調コイル33B間の切替は、これらのコイルに発生する誘導電圧を検出する検出部(図示略)の出力に基づいて行われるようになっている。
【0051】
即ち、第1、第2同調コイル33A、33Bの発生誘導電圧は、リーダ/ライタとの間の相対距離(通信距離)によって変化し、両者間の距離が近いほど大きな誘導電圧が発生する。
【0052】
そこで、この電圧レベルが一定値よりも低い場合は第1同調コイル33Aを選択することにより、両者間の通信距離の低下を抑制することができる。一方、電圧レベルが一定値に達している場合は第2同調コイル33Bを選択することにより、同調周波数帯域を広げ、安定した通信動作を確保することができる。」

(e)図6には、「アンテナモジュール31」について、離間時用の2巻きの「第1同調コイル33A」と、近接時用の1巻きの「第2同調コイル33B」が、同一平面上に配置されることが示されている。

(f)以上の(a)ないし(e)の記載から、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

(引用発明)
「外部アンテナとの離間時に同調する第1同調コイルと、前記外部アンテナとの近接時に同調する第2同調コイルとを有する非接触通信用のアンテナモジュールが、筐体内部に組み込まれていることを特徴とする携帯情報端末であって、
前記アンテナモジュールは、外部リーダ/ライタと非接触通信を行う非接触ICタグ用のアンテナモジュールであり、
前記アンテナモジュールは、
リーダ/ライタとの離間時に同調する2巻きの第1同調コイルと、
リーダ/ライタとの近接時に同調する1巻きの第2同調コイルと、
を有し、
前記第1同調コイルと、前記第2同調コイルが、筐体内部の同一平面上に配置される、
携帯情報端末。」

(2)原審の拒絶理由に引用された特開2005-303541号公報(以下、「引用文献2」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。
(a)「【0006】
図3は、携帯端末装置1に内蔵されるアンテナ5を拡大して示している。従来、携帯端末装置1に内蔵されるアンテナ5は多層のフレキシブル基板を利用しており、アンテナとして機能するアンテナ配線11はスパライル状にパターン形成されることによりヘリカルアンテナを構成している。そして、アンテナ配線11の各端部は、コネクタ部12に引き出され、このコネクタ部12がプリント配線基板6に接続される構成とされていた。
【0007】
上記のように一枚のベース材10上にスパライル状のアンテナ配線11を形成し、かつアンテナ配線11の各端部を共にコネクタ部12に引き出す構成であると、必然的にアンテナ配線11が交差してしまう部位が発生する。図3に符号13で示す部位は、アンテナ配線11が交差した状態となっている(以下、このようにアンテナ配線11が交差する位置を交差部13というものとする)。
【0008】
当然のことながら、この交差部13において、交差する各アンテナ配線11は絶縁して短絡が発生しないよう構成する必要がある。このため、従来ではアンテナ5として多層のフレキシブル基板を利用し、交差するアンテナ配線11を異なる層に形成することにより短絡の発生を防止する構成としていた。
【0009】
上記構成とされたアンテナ5は、図2に示されるように、筐体4の底面4aに貼着される構成とされていた。この貼着の際、アンテナ5の面方向と底面4aの面方向とが一致するよう、換言すれずアンテナ5と底面4aとが平行状態で貼着されていた。また、アンテナ5の配設位置は、電子部品7の配設密度が少ない部位に携帯端末装置の機種毎に個別に選定されていた。図1に示す例では、スピーカ8の側部位置にアンテナ5の配設位置が選定されている。」

(b)「【0030】
図9は、本実施例で用いてるアンテナ25を拡大して示している。同図に示すように、本実施例に係るアンテナ25は樹脂よりなるベース材30の片面にアンテナ配線31が形成された構成とされている。アンテナ25の両端部は、アンテナ配線31が露出されて接続可能な構成とされているが、他の部分においけるアンテナ配線31は保護膜により保護された構成とされている。
【0031】
ここで、アンテナ配線31のパターンの形状に注目する。図9に示すように、本実施例に係るアンテナ25は、複数のアンテナ配線31がそれぞれ独立しており(互いに電気的に接続してないことをいう)、互いに平行なパターンとなっている。即ち、アンテナ25上では、複数のアンテナ配線31は交差しない構成とされている。
【0032】
このため、本実施例に係るアンテナ25は、ベース材30の片面にのみアンテナ配線31が形成された構成のフレキシブルプリント基板(以下、このフレキシブルプリント基板を単層フレキシブルプリント基板という)を用いることが可能となる。この単層フレキシブルプリント基板は、従来用いていた多層フレキシブルプリント基板に比べて大幅にコスト低減を図ることができ、これに伴い携帯端末装置20のコスト低減も図ることができる。
【0033】
更に、電池21を囲繞するようアンテナ25を配設する際、図4及び図7に示すように、フラットケーブル構造を有するアンテナ25を、多層プリント配線基板26の面方向に対して略垂直方向に立てた状態(これは、筐体24の底面24aに対して略垂直方向に立てた状態と等価)で配置した構成としている。
【0034】
この構成とすることにより、電池21の外周にアンテナ25を配設するに際し、アンテナ25を配置するために電池21の外周に特別なスペースを設ける必要はない。よって、アンテナ25を電池21の外周に配置しても、携帯端末装置20が大型化するようなことはない。また、アンテナ25の幅寸法(図4及び図7に矢印Wで示す)を電池21の厚さ寸法の範囲内とすることにより、携帯端末装置20の厚さ方向に対しても大型化を抑制することができる。」

(c)「【0038】
図7及び図8は、アンテナ25と多層プリント配線基板26との接続構造を示している。前記したように、本実施例ではアンテナ25の筐体24内におけるスペース効率を高めるため、アンテナ25を多層プリント配線基板26(筐体24の底面24a)に対して立てた構成としている。このため、図7に示されるように、アンテナ25に折曲部39を設け、多層プリント配線基板26との接続位置近傍においてコネクタ部32が多層プリント配線基板26と略平行となるよう構成している。これにより、上記のようにアンテナ25を立てた構成としても、アンテナ25と多層プリント配線基板26との電気的な接続を確実に行うことができる。」

(d)上記引用文献2の記載及び関連する図面(特に図3、図7?9)ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、上記段落9に記載されている従来例としての(ループ)アンテナ5はアンテナ5と底面4aとが平行状態で貼着されており、上記段落33に記載されている「筐体24の底面24a」はアンテナ25のループ面と略平行である。
したがって、上記引用文献2には「従来例としての筐体底面と平行な面に設けたループアンテナ(図3参照)を、ループ面が底面と略平行となるように、フラットケーブルを前記底面に対して略垂直方向に立てた状態で配置する(図7?9参照)改良されたループアンテナ」(以下、「引用文献2記載事項」という。)の構成が開示されている。

3.対比
(1)本願発明の「非接触型ICカード又は該非接触型ICカードと同等の機能を有する電子機器と通信を行うためのICカード処理装置に対して、非接触通信用アンテナを当該無線通信装置の筐体のかざし面を介してかざすことにより無線接続されて通信を行う無線通信装置」について、引用発明の「携帯情報端末」は、「外部リーダ/ライタと非接触通信を行う非接触ICタグ用のアンテナモジュール」が筐体内部に組み込まれており、この「非接触ICタグ」は本願発明でいう「非接触型ICカード」と同等の機能のものであることは明らかであるから、引用発明の「携帯情報端末」は、本願発明の「非接触型ICカードと同等の機能を有する電子機器」に相当するものである。
また、引用発明の上記「外部リーダ/ライタ」は、「携帯情報端末」の筐体内部に組み込まれた「非接触ICタグ」と通信を行うためのものであるから、本願発明の「ICカード処理装置」に相当するものである。
また、「携帯情報端末」の筐体内部に組み込まれた「アンテナモジュール」は、上記「非接触ICタグ」が上記「外部リーダ/ライタ」と、「携帯情報端末」の筐体を介して無線接続されて通信を行うためのものであることから、引用発明の「携帯情報端末」及び「アンテナモジュール」は、本願発明の「無線通信装置」及び「非接触通信用アンテナ」に相当するものである。
そうすると、本願発明と引用発明は、後記する点で相違するものの、
「非接触型ICカード又は該非接触型ICカードと同等の機能を有する電子機器と通信を行うためのICカード処理装置に対して、非接触通信用アンテナを当該無線通信装置の筐体を介して無線接続されて通信を行う無線通信装置」
である点で共通する。
(2)本願発明の「前記ICカード処理装置に対して、比較的短距離隔たる第2の領域内では通信不可領域が発生する一方、比較的長距離隔たる第1の領域内では通信可能に無線接続される第1のループアンテナ」と、引用発明の「リーダ/ライタとの離間時に同調する2巻きの第1同調コイル」について、引用発明の「同調コイル」は、例えば上記2.(1)(b)に「この種の非接触ICタグには、例えば、ベース基板表面にループ状に形成されたアンテナコイルを有するアンテナモジュールが用いられている」と記載されているように、ループ状に形成されたアンテナコイルであるから、これも「ループアンテナ」であるといえる。
また、引用発明の「リーダ/ライタとの離間時に同調する」とは、本願発明でいうところの「ICカード処理装置」に対して、「比較的長距離隔たる」時に同調する、すなわち「無線接続」されるものであるといえる。
そうすると、本願発明と引用発明は、後記する点で相違するものの、
「前記 ICカード処理装置に対して、比較的長距離隔たる時に無線接続される第1のループアンテナ」
を備える点で共通する。
(3)本願発明の「前記ICカード処理装置に対して、比較的短距離隔たる前記第2の領域内では通信可能に無線接続される一方、比較的長距離隔たる前記第1の領域内では通信不可領域が発生する第2のループアンテナ」と、引用発明の「リーダ/ライタとの近接時に同調する1巻きの第2同調コイル」についても上記(2)と同様に、引用発明の「リーダ/ライタとの近接時に同調する」とは、本願発明でいうところの「ICカード処理装置」に対して、「比較的短距離隔たる」時に同調する、すなわち「無線接続」されるものであるといえる。
そうすると、本願発明と引用発明は、後記する点で相違するものの、
「前記 ICカード処理装置に対して、比較的短距離隔たる時に無線接続される第2のループアンテナ」
を備える点で共通する。
(4)本願発明の「前記第2のループアンテナは、ループ面が前記かざし面から所定の第1の距離の位置に平行に配置され、前記第1のループアンテナは、ループ面が、前記第2のループアンテナの前記ループ面よりも、前記かざし面からさらに離れた第2の距離の位置に平行に配置されている」と、引用発明の「前記第1同調コイルと、前記第2同調コイルが、筐体内部の同一平面上に配置される」は、いずれも「前記第1のループアンテナ及び第2のループアンテナは、筐体内の所定位置に配置されている」点で共通するものである。

したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致し、また、相違している。

(一致点)
「非接触型ICカードと同等の機能を有する電子機器と通信を行うためのICカード処理装置に対して、非接触通信用アンテナを当該無線通信装置の筐体を介して無線接続されて通信を行う無線通信装置であって、
前記非接触通信用アンテナは、
前記 ICカード処理装置に対して、比較的長距離隔たる時に無線接続される第1のループアンテナと、
前記 ICカード処理装置に対して、比較的短距離隔たる時に無線接続される第2のループアンテナとを有し、
前記第1のループアンテナ及び第2のループアンテナは、筐体内の所定位置に配置されていることを特徴とする無線通信装置。」

(相違点1)
「ICカード処理装置に対して、非接触通信用アンテナを当該無線通信装置の筐体を介して無線接続されて通信を行う無線通信装置」に関し、本願発明の装置は「ICカード処理装置に対して、非接触通信用アンテナを当該無線通信装置の筐体のかざし面を介してかざすことにより無線接続されて通信を行う無線通信装置」であるのに対し、引用発明の装置は単に「ICカード処理装置に対して、非接触通信用アンテナを当該無線通信装置の筐体を介して無線接続されて通信を行う無線通信装置」である点。

(相違点2)
「比較的長距離隔たる時に無線接続される第1のループアンテナ」に関し、本願発明では「比較的短距離隔たる第2の領域内では通信不可領域が発生する一方、比較的長距離隔たる第1の領域内では通信可能に無線接続される第1のループアンテナ」としているのに対し、引用発明ではそのような記載がない点。

(相違点3)
「比較的短距離隔たる時に無線接続される第2のループアンテナ」に関し、本願発明では「比較的短距離隔たる前記第2の領域内では通信可能に無線接続される一方、比較的長距離隔たる前記第1の領域内では通信不可領域が発生する第2のループアンテナ」としているのに対し、引用発明ではそのような記載がない点。

(相違点4)
「前記第1のループアンテナ及び第2のループアンテナは、筐体内の所定の位置に配置されている」という構成に関し、本願発明は「前記第2のループアンテナは、ループ面が前記かざし面から所定の第1の距離の位置に平行に配置され、前記第1のループアンテナは、ループ面が、前記第2のループアンテナの前記ループ面よりも、前記かざし面からさらに離れた第2の距離の位置に平行に配置されている」という構成であるのに対し、引用発明は「前記2つのループアンテナは筐体内の同一平面上に配置されている」という構成である点。

4.当審の判断
(1)相違点1について
上記相違点1の「ICカード処理装置に対して、非接触通信用アンテナを当該無線通信装置の筐体を介して無線接続されて通信を行う無線通信装置」について検討するに、前記筐体部分の外表面は前記ICカード処理装置に対向する面であり、前記無線通信装置を前記ICカード処理装置に近づける行為はICカード処理装置に対する通常の使用形態であり、いわゆる「かざす」という行為である。
また、このときの前記ICカード処理装置に対向する上記筐体外表面は前記ICカード処理装置に対して「かざす」面であり、該面はいわゆる「かざし面」と呼称して差し支えないものである。
また、一般に非接触型ICカードの機能を備えた電子機器である無線通信装置としては携帯電話機がよく知られているが、リーダであるICカード処理装置に読み取らせる際には、非接触ではあるもののユーザのかざし方によっては携帯電話機の筐体面とICカード処理装置の読み取り面が接触することもあり、通常は液晶画面のない筐体面に非接触型ICカードが搭載されているマークが刻印され、ユーザに対してこのマークをリーダにかざすように取扱説明書に説明されていることは周知の事項である。
したがって、引用発明の無線通信装置においても、筐体とICカード処理装置の読み取り面との接触を考慮して、接触しても影響のない特定の筐体面をICカード処理装置に対する「かざし面」として選定することにより、本願発明のような「ICカード処理装置に対して、非接触通信用アンテナを当該無線通信装置の筐体のかざし面を介してかざすことにより無線接続されて通信を行う無線通信装置」とすることは当業者であれば適宜なし得たことである。
(2)相違点2について
上記相違点2の「遠距離用の第1のループアンテナ」について検討するに、第1のループアンテナは本願発明も引用発明もその巻回数を第2のループアンテナよりも大きくすることによりQを高くして遠距離用としたものであるから、両者の間に構成上の差異はなく、遠距離用であれば近距離領域で性能が劣化することは自明のことであり、近距離用の第2のループアンテナでカバーされる近距離領域の性能の一部に通信不可領域が存在するか否か又はそもそもいかなるレベルを以て通信不可と定義するか等は全体の性能に影響しない単なる設計的事項であるから、当該設計的事項に基づいて、引用発明の「離間時用の第1のループアンテナ」の近距離領域の性能を所望に応じて調整し、本願発明のような「比較的短距離隔たる第2の領域内では通信不可領域が発生する一方、比較的長距離隔たる第1の領域内では通信可能に無線接続される第1のループアンテナ」とする程度のことは、当業者であれば適宜なし得たことである。
(3)相違点3について
上記相違点3の「近距離用の第2のループアンテナ」について検討するに、上記(2)での検討とは逆に、近距離用のループアンテナが所定の遠距離領域で通信不可となることは当業者であれば自明のことであるから、当該自明の事項に基づいて、引用発明の「近接時用の第2のループアンテナ」を本願発明のような「比較的短距離隔たる前記第2の領域内では通信可能に無線接続される一方、比較的長距離隔たる前記第1の領域内では通信不可領域が発生する第2のループアンテナ」とする程度のことは、当業者であれば適宜なし得たことである。
(4)相違点4について
上記相違点4の「前記第1のループアンテナ及び第2のループアンテナは、筐体内の所定の位置に配置されている」という構成について検討するに、引用文献2には「従来例としての筐体底面と平行な面に設けたループアンテナを、ループ面が底面と略平行となるように、フラットケーブルを前記底面に対して略垂直方向に立てた状態で配置する改良されたループアンテナ」の構成が開示されている。
また、上記引用文献2の例えば図5に開示された構造において、ループ面と平行となる底面24aが端末かざし時のかざし面となる旨の記載はないものの、上記(1)で検討したように、かざし面はICカード処理装置と接触する可能性があるので、接触しても影響のない底面24aをかざし面とすることが合理的であり、またそのようにすることを妨げる理由は何ら見当たらないから、上記底面24aをかざし面とすることは当業者であれば適宜なし得たことである。
そして、これらの技術手段に基づいて引用発明の「前記2つのループアンテナは筐体内の同一平面上に配置されている」構成をそのまま「ループ面が底面と略平行となるように、フラットケーブルを前記底面(即ち、かざし面)に対して略垂直方向に立てた状態で配置する」構成とする上での阻害要因もまた何ら見当たらず、また前記同一平面上に配置された2つのループアンテナをそのまま垂直な面に配置替えすれば、前記2つのループアンテナの内外の位置関係は前記かざし面に対する遠近、即ち、いずれか一方のアンテナが前記かざし面の近くに配置され、他方のアンテナがそれよりも遠くに配置される構成となることは自明のことである。
一方、ICカード処理装置と非接触通信用アンテナ間の全体の送信可能距離は遠距離用の第1のループアンテナの通信限界で決定されるのであり、筐体内におけるその位置の選定は所望の送信距離が得られるように送信距離に影響を与えるコイルの他の仕様(コイルの大きさ、巻回数、線径等)と併せて適宜決定すべき事項である。
したがって、2つのループアンテナのいずれをかざし面に近づけても第1のループアンテナの位置等によるそれなりの送信距離が得られるのであり、そのいずれをかざし面に近づけるかは二者択一の単なる設計的事項である。
してみれば、その一方の選択肢である第2のループアンテナの方をかざし面に近づける構成を採用することにより、引用発明の「前記2つのループアンテナは筐体内の同一平面上に配置されている」という構成を本願発明のような「前記第2のループアンテナは、ループ面が前記かざし面から所定の第1の距離の位置に平行に配置され、前記第1のループアンテナは、ループ面が、前記第2のループアンテナの前記ループ面よりも、前記かざし面からさらに離れた第2の距離の位置に平行に配置されている」という構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
(5)そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2記載事項の作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

5.まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び引用例2記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び引用例2記載事項から当業者が予測できる範囲のものである。

第4.むすび
以上のとおり、請求項1に係る発明は、引用発明及び引用例2記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-23 
結審通知日 2015-05-07 
審決日 2015-05-19 
出願番号 特願2010-30747(P2010-30747)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06K)
P 1 8・ 561- Z (G06K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保 正典  
特許庁審判長 手島 聖治
特許庁審判官 金子 幸一
石川 正二
発明の名称 無線通信装置、及び該無線通信装置に用いられる非接触通信用アンテナ  
代理人 西村 征生  
代理人 西村 征生  

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