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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1302682
審判番号 不服2014-8385  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-07 
確定日 2015-07-02 
事件の表示 特願2012- 30719「電気を発生させる方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月26日出願公開、特開2012-142291〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件の出願(以下,「本願」という。)は,2005年7月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年7月14日,米国)を国際出願日とする出願である特願2007-521605号の一部を平成24年2月15日に新たな特許出願としたものであって,平成25年12月25日付け(発送日:平成26年1月6日)で拒絶査定がなされ,これに対し,平成26年5月7日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正書が提出されたものである。

2.平成26年5月7日付け手続補正書による補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成26年5月7日付け手続補正書による補正を却下する。

[理由]
(1)本願補正発明
平成26年5月7日付け手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)により,特許請求の範囲の請求項1は,次のとおりに補正された。

「電気を発生させる方法であって、
単独の湿り空気流路から水素流路に水蒸気を供給するステップと、
前記湿り空気流路からの水蒸気が前記水素流路内へ流れることを許容するステップと、
水素流路に流れを引き起こすステップであって、水蒸気と反応して水素を生成する水素含有燃料を当該水素流路が含む、ステップと、
前記水素含有燃料によって生成された前記水素を燃料電池に向け、当該燃料電池を陽極で前記水素の少なくとも一部と反応させて電気と湿気とを陰極で生成させるステップと、
前記燃料電池の前記陰極で生成された湿気を前記湿り空気流路へ方向付け、その湿気の大部分を水蒸気の形態で前記水素流路へ供給して、水の閉サイクルを提供するステップと、を含む方法において、
前記燃料電池の前記陰極で生成された前記湿気を前記水素流路へ供給するステップは、当該燃料電池の当該陰極で生成された湿気が、前記湿り空気流路の流れと前記水素流路の乾燥水素との間の相対湿度差に起因して、当該燃料電池とは分離して配置された水蒸気交換膜を通じて、前記湿り空気流路から当該水素流路へ水蒸気の形態で浸透し、これによって前記水素流路内の流れが水蒸気を含むステップを含む、方法。」

本件補正は,本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項(以下,「発明特定事項」という。)である「当該燃料電池の当該陰極で生成された湿気が、当該燃料電池とは分離して配置された水蒸気交換膜を通じて、前記湿り空気流路から当該水素流路へ水蒸気の形態で浸透」という事項に,「前記湿り空気流路の流れと前記水素流路の乾燥水素との間の相対湿度差に起因して、」との限定を付加したことを含むものであって,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,本件補正は,本件補正前の「前記燃料電池の前記陰極で生成された前記湿気を前記水素流路へ供給するステップ」に含まれる「当該燃料電池の当該陰極で生成された湿気が、当該燃料電池とは分離して配置された水蒸気交換膜を通じて前記湿り空気流路から当該水素流路へ水蒸気の形態で浸透するステップ」という発明特定事項に「これによって前記水素流路内の流れが水蒸気を含む」と限定を付加して「当該燃料電池とは分離して配置された水蒸気交換膜を通じて、前記湿り空気流路から当該水素流路へ水蒸気の形態で浸透し、これによって前記水素流路内の流れが水蒸気を含むステップ」とし,この限定の付加により重複する記載となった「水素流路に流れを引き起こすステップであって、当該流れが前記水蒸気を含み、さらに当該水蒸気と反応して水素を生成する水素含有燃料を当該水素流路が含む、ステップ」の「当該流れが前記水蒸気を含み、」という発明特定事項を削除し,「水素流路に流れを引き起こすステップであって、水蒸気と反応して水素を生成する水素含有燃料を当該水素流路が含む、ステップ」としたことも含むものでもあるが,このこと自体は,内容を追加及び削除したものではなく,内容を実質的に変更するものではない。
結局,本願補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用した特開2002-80202号公報(以下,「引用例」という。)には,図面とともに次の記載がある。

ア.「水素と酸素の電気化学反応により起電力を得る燃料電池が知られている。燃料電池を運転するためのシステム構成には、予め蓄積された水素ガスをアノード(水素極)に供給するタイプと、所定の原料から化学反応によって生成された水素を供給するタイプとがある。後者の例として、金属水素化物、いわゆるケミカルハイドライドを用いた構成が知られている。」(段落【0002】)

イ.「A.第1実施例 生成水を利用する構成:図1は第1実施例としての燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。第1実施例では、ケミカルハイドライドと呼ばれる金属水素化物を加水分解して燃料ガスを生成する際に、燃料電池1の生成水を利用する構成について説明する。図示する通り、このシステムは、燃料電池1、燃料ガス生成システム20、制御ユニット10、およびその他の周辺装置で構成される。
燃料電池1は、アノード1aに供給される水素とカソード1cに供給される空気中の酸素の電気化学反応によって発電するユニットである。本実施例では、小型かつ運転効率が比較的高い固体高分子型を用いた。その他、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体電解質型、アルカリ型など種々の形式の燃料電池を適用可能である。
燃料ガス生成システム20は、ケミカルハイドライドと呼ばれる金属水素化物の固まりを貯蔵する貯蔵部21、金属水素化物を粉末状に微細化する微細化機構22、反応器23、水噴射用の噴射機3から構成される。本実施例では、NaBH_(4)を用いるものとした。この物質は、次式により加水分解して水素を生成することが知られている。
NaBH_(4)+2H_(2)O→NaBO_(2)+4H_(2)
金属水素化物は、加水分解して水素を生成する種々の物質を用いることができる。かかる物質として、NaH、NaBH_(4)、NaAlH_(4)、LiAlH_(4)、LiBH_(4)、LiH、CaH_(2)、AlH_(3)、MgH_(2)などが知られている。
微細化機構22は、金属水素化物との接触面が粗面となっているやすりをモータ等で駆動することによって、金属水素化物を徐々に微細化する機構である。微細化機構22に変えて、予め粉末化された金属水素化物を備えるものとしてもよい。微細化機構22を省略し、金属水素化物に直接水を噴射する構成を採ることも可能である。」(段落【0036】-【0039】)

ウ.「反応器23では、微細化された金属水素化物に、噴射機3から水を供給することにより上式で表される加水分解反応が起きる。液体で噴霧するものとしてもよいし、水蒸気で供給するものとしてもよい。本実施例では、この水として燃料電池1での生成水が利用される。周知の通り、燃料電池1では、アノード1aに供給された水素が電解質膜中をカソード1c側に移動し、カソード1cに供給された空気中の酸素と反応して水を生成する。従って、カソードオフガスは、生成された水を多量に含んだガスとなる。本実施例では、こうして生成された水を反応器に供給して加水分解に利用する。カソードオフガスを直接に反応器23に供給することも可能ではあるが、本実施例では、凝縮器2で水を分離した上で反応器23に供給するものとした。こうすることにより、水以外の成分が反応器に供給され、好ましくない化学反応が生じることを回避することができる。また、噴射量と反応に供される水の量がほぼ一義的に対応するため、水素の生成量に応じた噴射量の制御が比較的容易になる。」(段落【0040】)

エ.「反応器23には、加水分解を促進する触媒を備えてもよい。かかる触媒としては、例えば、白金系、ルテニウム系、チタニア系を用いることができる。触媒は、例えば、反応器23内部にハニカムモノリス等の担体を備え、これに担持する方法を採ることができる。貯蔵部21に、金属水素化物と触媒の混合物を蓄え、両者を併せて反応器23に供給する構成を採ることもできる。
かかる加水分解反応によって生成された生成物24、即ちNaBO_(2)は、反応器23の底に蓄積される。生成された水素は、配管によって燃料電池1のアノード1aに供給される。この配管途中には、ガス流量を検出するためのガス流量センサ4、流量を調整するためのバルブ12が設けられている。また、反応器23には、水素圧センサ11が備えられている。この検出値に基づき反応器23で発生している水素量を検出することができる。
燃料電池システムの運転は、制御ユニット10により制御される。制御ユニット10は、内部にCPU、メモリを備えたマイクロコンピュータとして構成されている。運転を制御するため、制御ユニット10には、水素圧センサ11、ガス流量センサ4等からの検出信号が入力される。これらの信号に基づき、制御ユニット10は、要求された電力の発電に必要となる水素を燃料電池1で供給するよう、噴射機3からの水の噴射量や、バルブ12の開度を制御する。図示を省略するが、制御ユニット10には、燃料電池1、凝縮器、その他図1への図示を省略した種々のユニットの運転状態を制御するための信号が入出力される。」(段落【0041】-【0043】)

オ.「以上で説明した第1実施例の燃料ガス生成システム20では、エネルギ密度に優れる金属水素化物を利用して水素を生成するため、貯蔵部21の小型化を図ることができる。また、加水分解により水素を生成できるため、反応器23の構成が比較的簡単になる利点がある。燃料ガス生成システム20では、加水分解への供給水として、燃料電池1で生成された水を用いるため、供給水用の水タンクの省略または小型化を図ることができる。燃料電池1を運転するために水を頻繁に補給する必要もない。これらの利点は、燃料電池システムが車両その他の移動体に搭載されている場合に有効である。車両その他の移動体では、燃料電池システムを搭載するためのスペース上の制約が厳しく、水等の補給回数の低減に対する要請も高いからである。
なお、燃料電池1の始動前は、生成水を反応器23に十分供給することができない。従って、第1実施例のシステムにおいては、燃料電池1の始動用の水素を貯蔵する水素貯蔵部、または始動前に反応器23に水を供給するための始動用水タンクを備えることが望ましい。水素貯蔵部は、例えば水素吸蔵合金や気密性の容器を用いることができる。反応器を水素貯蔵部と兼用するものとしてもよい。
水素貯蔵部および始動用水タンクは、少なくとも一方を備えれば良い。」(段落【0046】-【0047】)

カ.「A2.第2変形例 還元機構を備える構成:図7は第2変形例としての燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。燃料ガス生成システム20Bと第1実施例のシステムとの相違点は次の通りである。反応器23に水素供給口25が備えられている。反応器23で生成された水素をアノード1aに供給する配管途中には、切替バルブ5が設けられており、水素を水素供給口25に供給することができる。燃料電池1のアノードオフガスも切替バルブ6によって大気中への排気と水素供給口25への供給に切り替えることができる。
金属水素化物が加水分解して生成された生成物24は反応器23の底部に蓄積されている。金属水素化物としてNaBH_(4)を用いる場合、生成物はNaBO_(2)である。この生成物は、水素を供給することにより、元の金属水素化物に還元できる。例えば、NaBO_(2)の場合には、次式で表される還元反応が生じる。
NaBO_(2)+4H_(2)→NaBH_(4)+2H_(2)O
この反応は、約1300KJの吸熱反応である。反応に必要な熱は、例えば、反応器23にヒータを設け、そのヒータへの通電によって供給すればよい。
燃料ガス生成システム20Bによれば、切替バルブ5,6の切り替えにより、反応器23で生成された余剰の水素や、燃料電池1で消費されなかった余剰の水素を生成物24に供給することができる。従って、生成物24を金属水素化物に還元し、再利用することができるため、金属水素化物の浪費を避けることができる。
第2変形例では、余剰の水素を生成物24に供給する場合を例示したが、別途用意された外部の水素タンクから水素を供給するものとしてもよい。」(段落【0061】-【0064】)

また,図1及び7,並びに,上記「イ.」及び「ウ.」の記載から,カソードオフガスは,配管を通じて流れるものであり,カソードオフガスが排気される際には,排気前に配管途中に設けられた凝縮器等によりカソードオフガス中に含まれる水が分離回収されることは,明らかである。
さらに,図7,並びに,上記「エ.」及び「カ.」には,反応器(23)から生成された水素は燃料電池(1)のアノードに供給され,燃料電池(1)から排出されたアノードオフガスが再び反応器(23)に戻ることが開示されており,すなわち,図7,並びに,上記「エ.」及び「カ.」の記載から,水素が循環する水素配管が形成されること,また,反応器(23)が,燃料電池(1)とは離れた,水素が循環する水素配管の一部を構成することは,明らかである。
加えて,図1及び7,並びに,上記「ウ.」及び「オ.」の記載から,引用例に開示された燃料電池システムには,燃料電池で生成された生成水を水素生成に利用され,外部から供給される水に頼らない水の閉じた系が形成されていることも明らかである。

以上の事項及び図面の記載内容を本願補正発明の表現に倣って方法として整理すると,引用例には,次の発明(以下,「引用例発明」という。)が記載されていると認められる。

「配管を流れるカソードオフガスから,反応器(23)に水を供給し,
配管を流れるカソードオフガスからの水が反応器(23)内に供給されるようにし,
水素が循環する水素配管に水素を循環させ,水と反応して水素を生成する,内部に金属水素化物を有する反応器(23)を含み,
金属水素化物によって生成された水素を燃料電池(1)に供給し,燃料電池(1)のアノードに供給し,供給された水素の一部とカソードに供給される空気とを反応させて電気と生成水とをカソードで生成させ,
燃料電池(1)のカソードで生成された生成水を多量に含んだガスがカソードオフガスとして配管を流れ,カソードオフガス中に含まれる生成水が,水素が循環する水素配管に供給され,水の閉じた系を提供し,
燃料電池のカソードで生成された生成水を水素が循環する水素配管に供給する際に,カソードオフガス中に含まれる生成水を水蒸気の形態で供給する,燃料電池システムにより電気を発生させる方法。」

(3)対比
本願補正発明と上記引用例発明とを対比する。

引用例発明の「カソードオフガス」は,本願補正発明の「湿り空気」に相当し,以下同様に,「金属水素化物」は「水素含有燃料」に,「アノード」は「陽極」に,「カソード」は「陰極」に,「生成水」は「湿気」に,「水の閉じた系」は「水の閉サイクル」にそれぞれ相当する。
また,引用例発明のカソードオフガスが流れる「配管」は,本願補正発明の「湿り空気流路」に相当する。
そして,引用例発明の「反応器(23)」は水素が循環する水素配管の一部を構成するものであり,また,引用例発明を開示する引用例においてカソードオフガス内の水を反応器に供給する際に,水蒸気の形態で供給してもよい旨記載されている(例えば,上記「(2)ウ.」を参照。)ことから,引用例発明の「配管を流れるカソードオフガスから,反応器(23)に水を供給し,」は,本願補正発明の「湿り空気流路から水素流路に水蒸気を供給する」に,同様に,「配管を流れるカソードオフガスからの水が反応器(23)内に供給されるようにし,」は「湿り空気流路からの水蒸気が水素流路内へ流れることを許容する」に相当する。
さらに,引用例発明は,反応器(23)から生成された水素は燃料電池(1)のアノードに供給され,燃料電池(1)から排出されたアノードオフガスが再び反応器(23)に戻るように水素の流れが起こるように構成されたものである(例えば,図7,並びに,上記「(2)エ.」及び「(2)カ.」を参照。)から,引用例発明の「水素が循環する水素配管」は,本願補正発明の「水素流路に流れを引き起こす」ものに相当する。
加えて,本願補正発明の「当該燃料電池を陽極で前記水素の少なくとも一部と反応させて電気と湿気とを陰極で生成させる」という事項は,必ずしも明確であるとは言えないが,本願明細書の段落【0023】及び図3に説明されるように,水素の一部が燃料電池の陽極にて消費され,燃料電池の陰極にて水素と空気中の酸素とが反応して水が生成されることを表現している事項と解されるから,引用例発明の「燃料電池(1)のアノードに供給し,供給された水素の一部とカソードに供給される空気とを反応させて電気と生成水とをカソードで生成させる」態様は,本願補正発明の「燃料電池を陽極で水素の少なくとも一部と反応させて電気と湿気とを陰極で生成させる」態様に相当する。
さらに加えて,引用例発明の「燃料電池(1)のカソードで生成された生成水を多量に含んだガスがカソードオフガスとして配管を流れ,カソードオフガス中に含まれる生成水が,水素が循環する水素配管に供給され,水の閉じた系を提供し,燃料電池のカソードで生成された生成水を水素が循環する水素配管に供給する際に,カソードオフガス中に含まれる生成水を水蒸気の形態で供給する」態様と,本願補正発明の「前記燃料電池の前記陰極で生成された湿気を前記湿り空気流路へ方向付け、その湿気の大部分を水蒸気の形態で前記水素流路へ供給して、水の閉サイクルを提供するステップと、を含む方法において、前記燃料電池の前記陰極で生成された前記湿気を前記水素流路へ供給するステップは、当該燃料電池の当該陰極で生成された湿気が、前記湿り空気流路の流れと前記水素流路の乾燥水素との間の相対湿度差に起因して、当該燃料電池とは分離して配置された水蒸気交換膜を通じて、前記湿り空気流路から当該水素流路へ水蒸気の形態で浸透し、これによって前記水素流路内の流れが水蒸気を含むステップを含む、」とは,「燃料電池の陰極で生成された湿気を湿り空気流路へ方向付け,その湿気を水蒸気の形態で水素流路へ供給して,水の閉サイクルを提供するステップと,燃料電池の陰極で生成された湿気を水素流路へ供給するステップは,燃料電池の陰極で生成された湿気が、水素流路内の流れが水蒸気を含むステップを含む,」という概念で一致する。
また,引用例発明のそれぞれの動作の態様は,それぞれステップとして理解することができる。

したがって,両者は,

「電気を発生させる方法であって,湿り空気流路から水素流路に水蒸気を供給するステップと,前記湿り空気流路からの前記水蒸気が水素流路内へ流れることを許容するステップと,水素流路に流れを引き起こすステップであって,水蒸気と反応して水素を生成する水素含有燃料を当該水素流路が含むステップと,水素含有燃料によって生成された前記水素を燃料電池に向け,当該燃料電池を陽極で前記水素の一部と反応させて電気と湿気とを陰極で生成させるステップと,前記燃料電池の前記陰極で生成された前記湿気を湿り空気流路へ方向付け,その湿気を水蒸気の形態で水素流路へ供給して,水の閉サイクルを提供するステップと,を含む方法において,前記燃料電池の前記陰極で生成された前記湿気を前記水素流路へ供給するステップは,前記水素流路内の流れが水蒸気を含むステップを含む,方法。」

の点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1]
湿気を水蒸気の形態で水素流路に供給する際に,本願補正発明では,湿気の「大部分」を水蒸気の形態で水素流路へ供給するのに対し,引用例発明では,そのような特定はなされていない点。

[相違点2]
燃料電池の陰極で生成された湿気を水素流路へ供給するステップに関して,本願補正発明では,「燃料電池の陰極で生成された湿気が,湿り空気流路の流れと水素流路の乾燥水素との間の相対湿度差に起因して,燃料電池とは分離して配置された水蒸気交換膜を通じて,湿り空気流路から水素流路へ水蒸気の形態で浸透し,これによって水素流路内の流れが水蒸気を含む」としているのに対し,引用例発明では,カソードオフガス中に含まれる生成水を水蒸気の形態で供給するものの,それ以上の特定はなされていない点。

(4)判断
まず,上記相違点1について検討する。
本願補正発明の「湿気の大部分を水蒸気の形態で水素流路へ供給」という事項が,「その湿気の,大部分を水蒸気の形態で前記水素流路へ供給」,即ち,水素流路に供給する湿気の大部分が水蒸気の形態であり,そのような湿気を水素流路に供給することであるのか,「その湿気の大部分を,水蒸気の形態で前記水素流路へ供給」,即ち,生成された湿気の大部分が水素流路に供給され,供給の際に湿気を水蒸気の形態で供給することであるのか,いずれであるのか,必ずしも明確でない。
しかし,引用例には,燃料電池のカソードで生成された生成水(湿気)を水蒸気の形態で供給することが開示されているところ(例えば,上記「(2)ウ.」を参照。),湿気を水蒸気の形態で供給する際に,その湿気の大部分が水蒸気の状態で供給されるようにすることは,当業者が適宜なし得たことである。
また,引用例発明は,本願補正発明と同様,上記「(2)オ.」に開示されるように,水素生成に必要な水を専ら燃料電池のカソードで生成された生成水(湿気)でまかなうようにしたものであり,その際に,必要な水の量を生成水の大部分とすることは,当業者が適宜なし得たことである。

したがって,本願補正発明の「湿気の大部分を水蒸気の形態で水素流路へ供給」という事項を,上記いずれの場合に解しても,引用例発明において,湿気の大部分を水蒸気の状態で供給し,上記相違点1に係る本願補正発明の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。

次に,相違点2について検討する。
燃料電池システムにより電気を発生させる方法において,水素循環流路を形成し,カソード(陰極)で生成された湿気を,交換膜を通じて水素循環流路に供給することは,当業者にとって従来周知の技術的事項(例えば,原査定の拒絶の理由にて開示された特開2004-71349号公報(特に,段落【0018】-【0026】,図1を参照(以下,「周知例1」という。)。)や原査定の拒絶の理由にて開示された特開2003-17094号公報(例えば,段落【0019】-【0023】,図1を参照(以下,「周知例2」という。)。)に記載されたものを挙げることができる。)である。
また,交換膜に湿気を供給して,相対湿度差を利用して湿気を移動させることは,普通に行われていることである(例えば,上記周知例1の段落【0026】を参照。)。
さらに,交換膜に湿気を供給して,その湿気を水蒸気の状態で移動させることも,普通に行われていることである(例えば,上記周知例2の段落【0023】を参照。)。

そうしてみると,引用例発明において,上記周知の技術的事項を採用し,燃料電池のカソードで生成された生成水を水蒸気の状態で,交換膜を通じて反応器を含む水素が循環する水素配管に供給するように構成することは,当業者にとって格別の創作能力を要せずなし得たことである。

したがって,引用例発明において,上記相違点2に係る本願補正発明の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。

しかも,本願補正発明の構成により,引用例発明及び上記周知の技術的事項から予測される以上の格別顕著な効果が奏されるとも言えない。

したがって,本願補正発明は,引用例発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「電気を発生させる方法であって、
単独の湿り空気流路から水素流路に水蒸気を供給するステップと、
前記湿り空気流路からの水蒸気が前記水素流路内へ流れることを許容するステップと、
水素流路に流れを引き起こすステップであって、当該流れが前記水蒸気を含み、さらに当該水蒸気と反応して水素を生成する水素含有燃料を当該水素流路が含む、ステップと、
前記水素含有燃料によって生成された前記水素を燃料電池に向け、当該燃料電池を陽極で前記水素の少なくとも一部と反応させて電気と湿気とを陰極で生成させるステップと、
前記燃料電池の前記陰極で生成された湿気を前記湿り空気流路へ方向付け、その湿気の大部分を水蒸気の形態で前記水素流路へ供給して、水の閉サイクルを提供するステップと、を含む方法において、
前記燃料電池の前記陰極で生成された前記湿気を前記水素流路へ供給するステップは、
当該燃料電池の当該陰極で生成された湿気が、当該燃料電池とは分離して配置された水蒸気交換膜を通じて前記湿り空気流路から当該水素流路へ水蒸気の形態で浸透するステップを含む、方法。」

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用した引用例,及びその記載事項は,上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は,実質的に,上記「2.」で検討した本願補正発明から「燃料電池の前記陰極で生成された前記湿気を前記水素流路へ供給するステップ」の限定事項である「前記湿り空気流路の流れと前記水素流路の乾燥水素との間の相対湿度差に起因して、」という構成を省いたものである。
そして,結局,本願発明と引用例発明とは,本願補正発明と引用例発明との相違点以外の相違点はない。

そうすると,相違点についての判断は,上記「2.(4)」に記載したものと同じであり,本願補正発明が,上記「2.(4)」に記載したとおり,引用例発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用例発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。

(4)むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

そうすると,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-27 
結審通知日 2015-01-28 
審決日 2015-02-20 
出願番号 特願2012-30719(P2012-30719)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H01M)
P 1 8・ 575- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上野 力  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 藤井 昇
関口 哲生
発明の名称 電気を発生させる方法  
代理人 宮前 徹  
代理人 小野 新次郎  
代理人 山本 修  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小林 泰  

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