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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1302711
審判番号 不服2012-20112  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-12 
確定日 2015-07-01 
事件の表示 特願2007-543575「被覆薬物送達製剤」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月 8日国際公開、WO2006/060325、平成20年 6月26日国内公表、特表2008-521823〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2005年11月29日(パリ条約による優先権主張:2004年11月30日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成20年11月21日に手続補正書が提出され、平成23年11月16日付けで拒絶理由が通知され、平成24年5月21日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月7日付けで拒絶査定され、同年10月12日に拒絶査定不服審判が請求され、当審において平成26年6月19日付けで拒絶理由が通知され、同年12月24日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?18に係る発明は、平成26年12月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?18にそれぞれ記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下、請求項1?18に係る発明を全体として「本願発明」という。
「【請求項1】
テストステロン、界面活性剤及びリン脂質の分散体を含むプロリポソーム粉末;並びに
腸溶性コーティング
を含む製剤であって、
界面活性剤は、ポリソルベート、胆汁酸塩及びアルキルグリコシドからなる群より選ばれる、製剤。
【請求項2】
カプセルを更に含み、前記プロリポソーム粉末が、当該カプセルに含まれる、請求項1記載の製剤。
【請求項3】
前記カプセルが腸溶性コーティングで被覆されている、請求項2記載の製剤。
【請求項4】
前記リン脂質が、ジステアロイル ホスファチジルコリン、ジパルミトイル ホスファチジルコリン、ジミリストイル ホスファチジルコリン、卵PC、大豆PC、DMPG、DMPA、DPPG、DPPA、DSPG、DSPA、ホスファチジルセリン及びスフィンゴミエリンからなる群より選ばれる、請求項1?3のいずれか1項記載の製剤。
【請求項5】
前記腸溶性コーティング材料が、酢酸セルロースフタレート、アルギン酸塩、アルカリ-溶解性アクリル樹脂、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリレート-メタクリル酸共重合体、酢酸ポリビニルフタレート、スチロールマレイン酸共重合体、セラック、酢酸セルロース、及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項3記載の製剤。
【請求項6】
前記リン脂質が、ジステアロイル ホスファチジルコリンである、請求項4記載の製剤。
【請求項7】
担体、希釈剤、滑剤及びそれらの混合物からなる群より選択される追加の成分を更に含む、請求項4記載の製剤。
【請求項8】
フタル酸エステル、クエン酸エステル及びトリアセチンからなる群より選択される可塑剤を更に含む、請求項7記載の製剤。
【請求項9】
前記追加の成分が、微結晶性セルロース、デンプン、ラクトース、タルク、マンニトール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、脂肪酸、脂肪酸塩、グリセリルベヘネート、デキストロース、リン酸二カルシウムからなる群より選択される、請求項7記載の製剤。
【請求項10】
錠剤又はカプセル剤である、請求項1記載の製剤。
【請求項11】
テストステロン、界面活性剤及びリン脂質の分散体を含むプロリポソーム粉末であって、界面活性剤は、ポリソルベート、胆汁酸塩及びアルキルグリコシドからなる群より選ばれる、プロリポソーム粉末。
【請求項12】
前記リン脂質が、ジステアロイル ホスファチジルコリン、ジパルミトイル ホスファチジルコリン、ジミリストイル ホスファチジルコリン、卵PC、大豆PC、DMPG、DMPA、DPPG、DPPA、DSPG、DSPA、ホスファチジルセリン及びスフィンゴミエリンからなる群より選ばれる、請求項11記載のプロリポソーム粉末。
【請求項13】
酢酸セルロースフタレート、アルギン酸塩、アルカリ-溶解性アクリル樹脂、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリレート-メタクリル酸共重合体、酢酸ポリビニルフタレート、スチロールマレイン酸共重合体、セラック、酢酸セルロース、及びそれらの混合物からなる群より選択される腸溶性コーティング材料で被覆された、請求項11記載のプロリポソーム粉末。
【請求項14】
前記リン脂質が、ジステアロイル ホスファチジルコリンである、請求項11記載のプロリポソーム粉末。
【請求項15】
テストステロンを必要としている患者を治療するための請求項1記載の製剤であって、当該患者に投与される、製剤。
【請求項16】
テストステロンを必要としている患者を治療するための請求項4記載の製剤であって、当該患者に投与される、製剤。
【請求項17】
テストステロン、界面活性剤及びリン脂質の分散体を含むプロリポソーム粉末の製造方法であって、以下のステップ:
ポリソルベート、胆汁酸塩及びアルキルグリコシドからなる群より選ばれる少なくとも1つの界面活性剤を提供し;
少なくとも1つの界面活性剤、テストステロン及び少なくとも1つのリン脂質を、水性溶媒に曝露することなく、非-水性溶媒に溶解して、溶液を形成し;及び
該溶液から当該非-水性溶媒を除いて、テストステロン、リン脂質及び少なくとも1つの界面活性剤を含むプロリポソーム粉末を形成すること、
を含む、方法。
【請求項18】
前記リン脂質が、ジステアロイル ホスファチジルコリン、ジパルミトイル ホスファチジルコリン、ジミリストイル ホスファチジルコリン、卵PC、大豆PC、DMPG、DMPA、DPPG、DPPA、DSPG、DSPA、ホスファチジルセリン及びスフィンゴミエリンからなる群より選ばれる、請求項17項記載の方法。」

3.当審における拒絶理由の概要
上記したように、当審において平成26年6月19日付けで拒絶理由を通知した。その概要は、次のとおりである。
「2.本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
《下記省略》」

4.当審の判断
(1)特許法第36条第4項第1号に規定する要件について
ア.本願発明では、界面活性剤として、ポリソルベート、胆汁酸塩及びアルキルグリコシドからなる群より選ばれるものを使用する。しかしながら、界面活性剤は、界面活性剤というだけで、必ずしも同等の性質を有するものではないことは当業者に自明である。このことは、例えば、請求人が原審における意見書に添付した参考資料の追加実験で、界面活性剤として「TPGS:D-α-トコフェロールポリエチレングリコール1000コハク酸塩」及び「ツィーン80」(ポリソルベートの一種)を使用しているところ、そのテストステロン溶解効果は同様ではないことからも明らかである。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、「テストステロン及びリン脂質の分散体を含むプロリポソーム粉末」(これは例えば実施例2等に記載されている。)に界面活性剤を配合したものについて、具体的には一切開示されておらず、どのような界面活性剤を使用することによりどのような効果が得られるのか当業者が理解できるように記載されていない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできない。

イ.確かに、本願明細書の発明の詳細な説明には界面活性剤について、
A.「1つの実施態様では、1以上の界面活性剤が使用される。1つの実施態様では、界面活性剤は、薬物及びリン脂質と共に加えられる。界面活性剤は、限定されないが、ポリソルベート、胆汁酸塩及びアルキルグリコシドを含む。1つの実施態様では、約1%?約50%、好ましくは約5%?約20%の濃度の界面活性剤が使用される。従って、1つの実施態様では、本発明は、患者への投与のために好適な製剤の製造法であって、以下のステップ:(i) 少なくとも1つのリン脂質、少なくとも1つの界面活性剤及び少なくとも1つの生物活性剤を提供し;(ii) 当該界面活性剤、当該生物活性剤及び当該リン脂質を、非-水性溶媒に曝露し;(iii) 当該非-水性溶媒を蒸発させ、それによって粉末を製造し;並びに (iv) 当該生物活性剤を水性溶媒に曝露することなく、1以上のコーティングにより当該粉末を被覆し、それによって被覆粒子を製造すること、ここで、当該1以上のコーティングは、当該粉末の少なくとも一部分と接触する、を含む、前記方法を含む。」(段落0029)

B.「1つの実施態様では、1以上の界面活性剤が使用される。1つの実施態様では、界面活性剤は、薬物及びリン脂質と共に添加される。他の実施態様では、界面活性剤は、粉末をつくる前に、粉末を被覆する前に、又は粒子もしくは顆粒を投薬形態に形成する前に、添加される。本明細書で用いる界面活性剤は、通常使用される意味であり、液体の表面張力を減少させる物質も含む。ある実施態様では、界面活性剤は、疎水性基及び親水性基を含む有機化合物であり、従って、ある実施態様では、有機溶媒又は水性溶媒中に半-溶解性である。1つの実施態様では、界面活性剤は、いずれの相(水相又は有機相)にも存在することを好まないような、両親媒性化合物である。このような理由により、ある実施態様では、界面活性剤は、有機相と水相との境界相に存在する。ある実施態様では、界面活性剤はまた、凝集し、ミセルを形成することができる。
界面活性剤は、限定されないが、ポリソルベート、胆汁酸塩及びアルキルグリコシドを含む。……。ある実施態様では、約1%?約50%の濃度、好ましくは約5%?約20%の濃度の界面活性剤が使用される。
1以上の界面活性剤を使用する本発明のある実施態様は、ある利点を有する。例えば、界面活性剤は、(1) 混合ミセルを形成し、希釈すると、リポソームを形成することができる;(2) 製剤中で完全なタンパク質分子を維持することができる;(3) 疎水性分子のカプセル化を改善することができる;及び (4) リポソームをより変形可能にし、それによって吸収バリアを通過して薬物を送達させることができる。」(段落0053?0055)
と記載されている。
しかしながら、このような包括的な記載のみでは、界面活性剤、とりわけ、ポリソルベート、胆汁酸塩及びアルキルグリコシドからなる群より選ばれる界面活性剤を配合することにより、どのような課題を解決しようとしているのか理解できない。

ウ.請求人は、上記摘示Bに関し、「上記の(1)?(3)が、界面活性剤が有する一般的性質であるとしても、上記(4)の効果は界面活性剤が一般的に有する性質であるとは言えません。」(当審で提出された平成26年12月24日付け意見書(以下、「当審意見書」という。))と主張するとともに、この(4)の効果について、
「界面活性剤の存在は、リポソームをより変形可能にし(このことは、界面活性剤が、均質な液体二層層を十分に崩壊することができることを意味し)、それによって、リポソームを放出するための薬剤のバリアとしての液体二重層なしに、低水溶性薬物を送達させることができます(段落「0055」)。」(原審で提出された平成24年5月21日付け意見書(以下、「原審意見書」という。))
「本願明細書の例えば段落「0055」には、界面活性剤が均質な液相二層層を十分に崩壊することができることが記載されています。このことは、当該二重層が崩壊された後に、低水溶性薬物の胃腸管での高い吸収率を可能にすることを意味します。」(審判請求書)
と説明し、界面活性剤(いかなる界面活性剤かは不明)が均質な液体二層層を十分に崩壊し、それによって低水溶性薬物の胃腸管での高い吸収率を可能にすることを意味するものと説明している。(この説明が妥当か否かの判断については措く。)
一方で、請求人は、
「低水溶性薬物(すなわち、テストシテロン)が、液体二層層に取り込まれた界面活性剤分子を有するリポソーム構造とどのように相互作用して、胃腸管で高度に吸収され得るかは、本願出願時の技術常識ではな」い(審判請求書)
とも述べていることに鑑みると、当業者は本願出願時に上記(4)の点を直ちに具現できるものではないものと認められる。
そうすると、上記(4)の効果は、そもそも界面活性剤が有する一般的な性質ではないことに加え、さらに本願出願時の技術常識ではない事項に関するものであるから、この点について具体的に開示のない本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできないものである。

(2)特許法第36条第6項第1号に規定する要件について
ア.本願明細書及び図面には上記(1)イの摘示A及びBに加えて、次の記載がある。
C.「発明の分野
本発明は、一般的に、生物活性剤を含む製剤のための送達システムに関する。1つの実施態様では、低水溶性薬物のための被覆プロリポソーム型製剤に関する。」(段落0001)

D.「発明の概要
プロリポソームの使用、及び腸溶性及び非-腸溶性コーティングの使用は、それぞれ、当該分野では公知であるが、コーティングとプロリポソーム型製剤との組み合わせは開示されていなかった。驚くべきことに、本発明のいくつかの実施態様のコーティングが、本発明のいくつかの実施態様のプロリポソーム型製剤と組み合わされるときに、薬物送達は増加する。本発明の多くの実施態様では、この新規かつ予測できない増加は、コーティングとプロリポソーム型製剤との唯一の組み合わせから得られるものであり、増加した薬物吸収、安定性及び生物学的利用性に関する。
本発明の多くの実施態様では、コーティングとプロリポソーム型製剤との組み合わせは、当該分野で公知の薬物送達システムの欠点を解消する。例えば、不安定な薬理学的物質を経口的に投与するための従来のシステムの有用性は、送達剤の毒性量を用いる必要性、システムの不安定性、活性成分を保護することの不可能性、水にほとんどよけない又は不安定な薬物を効率的に送達することの不可能性、システムの不十分な保存期間、活性剤の吸収を促進する薬物送達システムの欠陥、及びシステムを構築することに固有の困難性、により制限されていた。本発明のいくつかの実施態様は、1以上のこれらの欠点を解消する。」(段落0006?0007)

E.「好ましい実施態様の詳細な説明
本発明のいくつかの実施態様は、生物活性(例えば、医薬活性)剤、リン脂質及びコーティング材料を含む、被覆プロリポソーム型製剤に関する。
ある実施態様では、腸溶性コーティングが使用される。……。1つの実施態様では、被覆製剤は、薬物の分解及び生物的利用性を増加させる。この効果は、極度に低水溶性の薬物、例えば、ハロファントリン及びテストステロンにより顕著である。……。1つの実施態様では、本発明は、薬物単独の投与と比べて、より速い薬物作用の開始、より長期間の作用、及び高いC_(max)を提供する薬物送達システムからなる。ある実施態様では、腸溶性被覆プロリポソーム型製剤を提供する(例えば、EnProLip(商標))。」(段落0035?0036)

F.「1つの実施態様では、生物活性剤は、医薬活性剤である。1つの実施態様では、医薬活性剤は、低水溶性薬物である。本明細書で用いる低水溶性薬物は、通常使用される意味であり、溶解するための、約30超重量部の溶媒/1重量部の溶質を必要とする薬剤を含む。
低水溶性薬物の例は、限定されないが、……、テストステロン、……等を含む。……。1つの実施態様では、医薬製剤(及びその製造法)は、テストステロン(天然又は合成)、テストステロン前駆体、テストステロン誘導体、テストステロンを増加させる薬剤、テストステロン調節因子、又はこれらの化合物の2以上の組み合わせを含む。従って、1つの実施態様では、本発明は、哺乳動物のテストステロン欠乏を治療又は予防するための製剤、又は医薬の製造法を含む。別の実施態様では、本発明は、哺乳動物の通常のテストステロンレベルを増加させるための製剤、又は医薬の製造法を含む。」(段落0038?0039)

G.「実施例2:
テストステロン及びリン脂質(DMPC、DPPC又はDSPC;1:1比)をクロロホルムに溶解した。クロロホルムは、窒素ガスを用いて蒸発させた。乾燥粉末は、60番メッシュ篩を用いて通過させた。酢酸セルロースフタレート(40 mg)をアセトン(5 ml)に溶解し、得られた溶液を、テストステロン及びリン脂質を含む固体分散体上にスプレイした。粉末を乾燥させるために窒素ガスを使用した。
II型USP溶解器を用いて、製剤の45 mgを用いて溶解を行った。溶解媒体(300 ml)は、リン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4)であった。溶解媒体の温度は、37±0.5℃に維持し、パドルの回転を50rpmに設定した。試料(5ml)を2、5、8、10、15、20、25、30、40、50、60、80、100及び120分に採取した。同等の体積のリン酸緩衝生理食塩水は、溶解媒体の一定体積を維持するように加えた。溶解試料を吸光度254 nmで測定することにより分析した。
テストステロンの溶解速度及び溶解率は、図2に示すように、純粋なテストステロンに比べて、全てのプロリポソーム型製剤について、著しく高かった。溶解率は、DMPCを含むプロリポソーム型製剤について最も高く、次いでDSPCを含むプロリポソーム型製剤、DPPCを含むプロリポソーム型製剤の順であった。このことは、これらの脂質の相転移温度(Tc)により説明することができる。DPPCは、41℃のTcを有し、溶解試験の温度(37℃)に非常に近い。DMPC及びDSPCは、各々、23℃、56℃のTcを有する。37℃では、DMPCは液体で、DSPCはゲル状態で存在する。DPPCのTcは、溶解試験の温度に近いので、製剤は不安定であったかもしれず、そのため、テストステロンの溶解を抑制した。それにもかかわらず、このデータは、テストステロンの溶解速度及び溶解率が、腸溶性被覆プロリポソーム型製剤を用いることにより増加したことを示している。」(段落0073?0075)

H.「【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、様々なプロリポソーム型製剤及び純水なテストステロンを用いる、テストステロンの溶解速度の比較を示す。」(段落0087)

I.「

」(【図面】の図1)

イ.発明の詳細な説明には、「低水溶性薬物のための被覆プロリポソーム型製剤」(摘示C)に関し、「生物活性(例えば、医薬活性)剤、リン脂質及びコーティング材料を含む、被覆プロリポソーム型製剤」(摘示E)に関する発明が記載されている。ここで、低水溶性薬物、生物活性(例えば、医薬活性)剤はテストステロンである(摘示F)。
そして、発明の詳細な説明の摘示Dには、「解決しようとする課題」に係る事項が記載され、実施例2(摘示G?I)にテストステロンの溶解速度及び溶解率が、腸溶性被覆プロリポソーム製剤を用いることにより増加したことが記載されているが、この課題及びその解決は、界面活性剤の使用について何ら触れておらず、その上、例えば特表2004-535383号公報(原査定における刊行物1)の段落0001、0005、0006、0019、0021、0053?0055及び0060並びに図1に摘示C?Iとほぼ同じ事項が記載されていることからすると、上記課題は本願出願時(優先権主張日当時)にはすでに解決されていたものといえ、本願発明についてのものではないことは明らかである。
そして、本願発明は、プロリポソーム粉末を構成する成分としてテストステロン及びリン脂質に加え、さらに界面活性剤(ポリソルベート、胆汁酸塩又はアルキルグリコシド)を使用する点に特徴があるものといえるが(摘示A及びB)、これらの界面活性剤を使用することの課題やその効果は本願明細書の発明の詳細な説明には明確には記載されていないものである。
ところで、摘示Bには、「1以上の界面活性剤を使用する本発明のある実施態様は、ある利点を有する。例えば、界面活性剤は、(1) 混合ミセルを形成し、希釈すると、リポソームを形成することができる;(2) 製剤中で完全なタンパク質分子を維持することができる;(3) 疎水性分子のカプセル化を改善することができる;及び (4) リポソームをより変形可能にし、それによって吸収バリアを通過して薬物を送達させることができる。」と記載されているが、請求人は、「上記の(1)?(3)が、界面活性剤が有する一般的性質であるとしても、上記(4)の効果は界面活性剤が一般的に有する性質であるとは言えません。」(当審意見書)と主張している。そして、本願発明では、界面活性剤は「ポリソルベート、胆汁酸塩及びアルキルグリコシドからなる群より選ばれる」ものに限定されているところ、(4)が界面活性剤の一般的な性質ではなく、「ポリソルベート、胆汁酸塩又はアルキルグリコシド」に特有の性質であることは本願明細書に記載されておらず、当業者に自明なことでもない。
なお、実施例2の記載(摘示G?I)からは、リン脂質のみで(すなわち界面活性剤を使用しなくても)十分高いテストステロンの溶解速度及び溶解率が得られることが示されているにすぎず、したがって、「リポソームをより変形可能にし、それによって吸収バリアを通過して薬物を送達させることができる」ことを示すものではない。
そうすると、プロリポソーム粉末を構成する成分として「ポリソルベート、胆汁酸塩及びアルキルグリコシドからなる群より選ばれる」界面活性剤を使用することは、その発明の課題も不明である上、実際にどのような効果を奏するかも具体的には不明であるから、そのような発明特定事項を含む本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものということはできない。

ウ.(ア)請求人は、上記(4)に関し、「界面活性剤の存在は、リポソームをより変形可能にし(このことは、界面活性剤が、均質な液体二層層を十分に崩壊することができることを意味し)、それによって、リポソームを放出するための薬剤のバリアとしての液体二重層なしに、低水溶性薬物を送達させることができます(段落「0055」)。」(原審意見書)とか、「本願明細書の例えば段落「0055」には、界面活性剤が均質な液層二層層を十分に崩壊することができることが記載されています。このことは、当該二重層が崩壊された後に、低水溶性薬物の胃腸管での高い吸収率を可能にすることを意味します。」(審判請求書)などと主張しているが、「リポソームをより変形可能」にすることと「均質な液体二層層を十分に崩壊することができる」こととは同義ではなく、「吸収バリアを通過して薬物を送達させる」ことと「リポソームを放出するための薬剤のバリアとしての液体二重層なしに、低水溶性薬物を送達させる」あるいは「当該二重層が崩壊された後に、低水溶性薬物の胃腸管での高い吸収率を可能にする」こととの関係も明らかではない。

(イ)請求人は、原審で提出の意見書に添付された参考資料について、
「本願発明において、界面活性剤が均質な液相二層層を十分に崩壊することができる(段落「0055」)との効果は、本意見書に添付する参考資料に記載の追加実験の結果によってさらに支持されます。この追加実験の結果は、本願発明のプロリポソーム型テストステロン製剤中の界面活性剤成分……が、界面活性剤を含まないプロリポソーム型テストステロン製剤と比較して、増加した溶解速度及び溶解率(……)を与えることを示しています。」(原審意見書)
「ポリソルベートの1種であるツィーンの、低水溶性薬物であるテストステロンに対する効果、すなわち、界面活性剤を含む製剤からのテストステロンの溶解率が、界面活性剤を含まないテストステロン製剤からのそれと比べて遙かに高いこと、を明確に示しています。」(当審意見書)
と述べているが、この参考資料の追加実験の結果は、界面活性剤を含有するテストステロンプロリポソーム型製剤が界面活性剤を含まないものより溶液中でテストステロンを放出しやすいことを示すものにすぎず、界面活性剤としてポリソルベート、胆汁酸塩又はアルキルグリコシドを使用することにより「リポソームをより変形可能にし、それによって吸収バリアを通過して薬物を送達させる」ことを示すものではない。
すなわち、この参考資料では、「ポリソルベート」に該当する「ツィーン80」を使用する「表3、図2及び表4」の試験についてその試験方法の詳細が記載されていないことから、直ちにこの試験結果に依拠した結論を導き出すことはできない。仮に「ポリソルベート、胆汁酸塩及びアルキルグリコシド」に該当しない界面活性剤を使用する「表1、図1及び表2」の試験のように、「ラウリル硫酸ナトリウムを含むリン酸バッファ(pH6.8)」の分解媒体中でのテストステロン溶解試験であるとした場合でも、この溶解条件は胃腸管での溶解を模したものではなく、さらに、胃腸管での「吸収」については何も示されていないことから、上記「(4) リポソームをより変形可能にし、それによって吸収バリアを通過して薬物を送達させることができる」についての効果を示すものということはできない。
そうすると、この追加試験は胃腸管での吸収について示すものではないことから、請求人が、
「上記の、テストステロンの界面活性剤成分による高い溶解性は、当該プロリポソーム型製剤を投与された患者の胃腸管内での高い安定性及び吸収と相関するものと考えられ、低水溶性生物活性剤を含むプロリポソーム型製剤の胃液中での安定性の問題(本願明細書の段落「0003」、「0004」等)を解決し得るものであります。」(原審意見書)
と主張する点とどのように関係するのかも不明である。(そもそも、段落0003?0004における胃液での不安定性の問題については、段落0005?0007によれば、腸溶性コーティング材料で被覆することで既に解決されていたものと解される。)
そして、請求人が、「低水溶性薬物(すなわち、テストシテロン)が、液体二層層に取り込まれた界面活性剤分子を有するリポソーム構造とどのように相互作用して、胃腸管で高度に吸収され得るかは、本願出願時の技術常識ではなく」(審判請求書)と主張しているように、当業者が、摘示G?Iの実施例2の記載及び摘示Bの界面活性剤の記載から、テストステロンが液体二層層に取り込まれた界面活性剤分子を有するリポソーム構造とどのように相互作用して、胃腸管で高度に吸収されるかは、本願出願時の技術常識を考慮しても理解することはできないものと認められる。
したがって、参考資料の追加実験の結果は発明の詳細な説明に記載された範囲のものとは認められず、これを参酌しつつ発明の詳細な説明の記載を解釈することはできない。

(ウ)請求人は、
「本意見書に添付する参考資料1、2は、界面活性剤を含有するリポソーム製剤の効果をよく説明しています。
すなわち、参考資料1(……)は、界面活性剤を含有しない脂質溶液と比べて、界面活性剤、ポリオキシエチル化水素化キャスターオイル及び脂質の混合ミセル溶液中のシクロスポリンA(CsA)の経口投与が胃腸管からのCsAの吸収、及びCsAのリンパへの送達を促進した、ことを示しています。参考資料2(……)は、リポソーム組成物中にポリソルベートを含有することが、リポソームを高度に変形可能な小胞にすることによって皮膚バリアを介してのリポソームの拡散を約2倍に改善したことを記載しています(……)。つまり、参考資料2は、界面活性剤を含有するリポソームは、それによって高度に変形可能になり、脂質のみを含むリポソームと比べて、皮膚バリアを介してのリポソーム拡散速度を顕著に改善したことを示しています。
したがって、上記(4)の、リポソームをより変形可能にし、それによって吸収バリアを通過して薬物を送達させることができるとの効果は、本願出願時前に頒布された刊行物によって十分に支持されています。」(当審意見書)
と述べている。
しかしながら、参考資料1は界面活性剤として「ポリオキシエチル化水素化キャスターオイル」を使用するものであるが、これは「ポリソルベート、胆汁酸塩又はアルキルグリコシド」に該当するものではなく、シクロスポリンAは環状ポリペプチド抗生物質であって、テストステロンとは胃腸管での溶解性や吸収において異なるものであるから、本願発明の理解には直接関係しないものである。
また、参考資料2は、「界面活性剤を含む高度に変形可能なベシクルの懸濁液」(なお低水溶性薬物などの薬物は含まない。)のバリア、すなわち皮膚代替物(ポリマー性微多孔膜)の透過流量を測定したものであるところ、請求人が指摘する箇所は、バリア間の圧力差が小さい(occluded, RH=100%)場合には、ポリソルベートを含む超適応性ベシクルの透過流量が大豆ホスファチジルコリンからなるリポソームの2倍以内である旨記載しているものの、この流量はバリアをほとんど通過しないレベルにすぎないものであるうえ、胃腸管ではなく皮膚代替物の透過であるから、「(4) リポソームをより変形可能にし、それによって吸収バリアを通過して薬物を送達させることができる」を支持するものではない。なお、バリアを通過するものは、薬物を含んでいないことから、「超適応性ベシクル」すなわち「界面活性剤を含む高度に変形可能なベシクル」自体であることは明らかであり、請求人が主張するような「界面活性剤の存在は、リポソームをより変形可能にし(このことは、界面活性剤が、均質な液体二層層を十分に崩壊することができることを意味し)、それによって、リポソームを放出するための薬剤のバリアとしての液体二重層なしに、低水溶性薬物を送達させることができます(段落「0055」)。」(原審意見書)とも無関係である。
そうすると、
「このような上記参考資料で確認された、界面活性剤を含むリポソーム製剤からのテストステロンの溶解率が高いとの事実は、本意見書に添付する参考資料1及び2に記載の内容を併せて考慮すると、界面活性剤を含有することによってリポソームを高度に変形させ、それによってリポソーム製剤からのテストステロンの溶解を促進させた、との結論に導くことができます。」(当審意見書)
などと結論することはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許請求の範囲及び明細書の発明の詳細な説明の記載に不備があり、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-27 
結審通知日 2015-02-03 
審決日 2015-02-16 
出願番号 特願2007-543575(P2007-543575)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (A61K)
P 1 8・ 121- WZ (A61K)
P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 悟  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 関 美祝
冨永 保
発明の名称 被覆薬物送達製剤  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 武居 良太郎  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 中村 和美  
代理人 福本 積  
代理人 石田 敬  
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