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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1302720
審判番号 不服2013-12129  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-26 
確定日 2015-07-01 
事件の表示 特願2008-509964「酢酸エスリカルバゼピン及び使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月16日国際公開、WO2006/121363、平成20年11月20日国内公表、特表2008-540405〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、2005年5月6日を国際出願日とする出願であって、平成23年10月26日付け拒絶理由に対してその応答期間内の平成24年5月22日付けで誤訳訂正がなされたが、その後、平成25年1月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年6月26日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に手続補正がなされたものである。

2.平成25年6月26日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成25年6月26日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正後の特許請求の範囲に係る発明
本件補正により、特許請求の範囲、
「【請求項1】?【請求項35】省略
【請求項36】
それを必要とする患者におけるてんかんを治療するための医薬組成物であって、1日1回の投与量の酢酸エスリカルバゼピンを含む、前記医薬組成物。
【請求項37】
酢酸エスリカルバゼピンの前記1日1回の投与量が、少なくとも400mgである、請求項36記載の医薬組成物。
【請求項38】
酢酸エスリカルバゼピンの前記1日1回の投与量が、400mgである、請求項37記載の医薬組成物。
【請求項39】
酢酸エスリカルバゼピンの前記1日1回の投与量が、800mgである、請求項37記載の医薬組成物。
【請求項40】
酢酸エスリカルバゼピンの前記1日1回の投与量が、1200mgである、請求項37記載の医薬組成物。
【請求項41】
患者におけるてんかん発作を減少させるための、請求項36?40のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項42】
患者におけるてんかん発作の回数を減少させるための、請求項36?40のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項43】
酢酸エスリカルバゼピンの1日1回の投与量が、1200gm/日である場合に、前記てんかん発作の回数が、59.5%減少される、請求項42記載の医薬組成物。
【請求項44】
酢酸エスリカルバゼピンの1日1回の投与量が、800gm/日である場合に、前記てんかん発作の回数が、55.8%減少される、請求項42記載の医薬組成物。
【請求項45】
酢酸エスリカルバゼピンの1日1回の投与量が、400gm/日である場合に、前記てんかん発作の回数が、38.9%減少される、請求項42記載の医薬組成物。
【請求項46】
患者におけるてんかん発作の持続時間を減少させるための、請求項36?40のいずれか一-項記載の医薬組成物。
【請求項47】
患者におけるてんかん発作の頻度を減少させるための、請求項36?40のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項48】
てんかん発作の頻度の減少が、50%以上である、請求項47記載の医薬組成物。
【請求項49】
投与時に、患者が発作を起こさなくなる、請求項47又は48記載の医薬組成物。
【請求項50】
前記1日1回の投与量が、7400ng/mLを上回るエスリカルバゼピンの最大観察血漿濃度Cmaxをもたらす量で投与される、請求項36?40のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項51】
前記1日1回の投与量が、12000ng/mLを上回るエスリカルバゼピンのCmaxをもたらす量で投与される、請求項36?40のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項52】
前記1日1回の投与量が、58800ng/mLまでのエスリカルバゼピンのCmaxをもたらす量で投与される、請求項36?40のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項53】
前記1日1回の投与量が、67800ng/mLまでのエスリカルバゼピンのCmaxをもたらす量で投与される、請求項36?40のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項54】
前記1日1回の投与量が、7392ng/mL?67800ng/mLのエスリカルバゼピンのCmaxをもたらす量で投与される、請求項36?40のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項55】
前記1日1回の投与量が、110000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンの濃度曲線下面積AUC0-τ(式中、τは投与間隔である)をもたらす量で投与される、請求項36?40のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項56】
前記1日1回の投与量が、240000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンのAUC0-τをもたらす量で投与される、請求項36?40のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項57】
前記1日1回の投与量が、375000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンのAUC0-τをもたらす量で投与される、請求項36?40のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項58】
前記1日1回の投与量が、595000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンのAUC0-τをもたらす量で投与される、請求項36?40のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項59】
前記1日1回の投与量が、790000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンのAUC0-τをもたらす量で投与される、請求項36?40のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項60】
前記1日1回の投与量が、111523ng・h/mL?1021855ng・h/mLのエスリカルバゼピンのAUC0-τをもたらす量で投与される、請求項36?40のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項61】
前記医薬組成物における活性成分が、本質的に酢酸エスリカルバゼピンからなる、請求項36?60のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項62】
経口投与のために処方される、請求項36?61のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項63】
錠剤である、請求項62記載の医薬組成物。
【請求項64】
経口懸濁液である、請求項62記載の医薬組成物。」

は、

「【請求項1】
それを必要とする患者におけるてんかんを治療するための医薬組成物であって、1日1回の投与量の酢酸エスリカルバゼピンを含み、経口投与のために処方される、前記医薬組成物。
【請求項2】
錠剤である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
湿式造粒法によって製造される、請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
少なくとも1つの賦形剤、補助物質、及び/又は担体材料を更に含む、請求項2又は3記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1つの賦形剤、補助物質、及び/又は担体材料が、ポビドン、クロスカルメロースナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、第二リン酸カルシウム二水和物、ラウリル硫酸ナトリウム、香料、及びそれらの組合せから選択される、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】
経口懸濁液である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項7】
少なくとも1つの賦形剤、補助物質、及び/又は担体材料を更に含む、請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記少なくとも1つの賦形剤、補助物質、及び/又は担体材料が、キサンタンガム、ステアリン酸マクロゴール、メチルパラベン、プロピルパラベン、サッカリンナトリウム、ソルビトール、緩衝剤、香料、及びそれらの組合せから選択される、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
酢酸エスリカルバゼピンの前記1日1回の投与量が、20mgから2400mgである、請求項1?8のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項10】
酢酸エスリカルバゼピンの前記1日1回の投与量が、少なくとも400mgである、請求項1?8のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項11】
酢酸エスリカルバゼピンの前記1日1回の投与量が、400mgから2400mgである、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項12】
酢酸エスリカルバゼピンの前記1日1回の投与量が、400mgから1800mgである、請求項10又は11記載の医薬組成物。
【請求項13】
酢酸エスリカルバゼピンの前記1日1回の投与量が、400mgから1200mgである、請求項10?12のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項14】
酢酸エスリカルバゼピンの前記1日1回の投与量が、400mgである、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項15】
酢酸エスリカルバゼピンの前記1日1回の投与量が、800mgである、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項16】
酢酸エスリカルバゼピンの前記1日1回の投与量が、1200mgである、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項17】
酢酸エスリカルバゼピンの前記1日1回の投与量が、1800mgである、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項18】
酢酸エスリカルバゼピンの前記1日1回の投与量が、2400mgである、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項19】
患者におけるてんかん発作を減少させるための、請求項1?18のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項20】
患者におけるてんかん発作の回数を減少させるための、請求項1?18のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項21】
酢酸エスリカルバゼピンの1日1回の投与量が、1200mg/日である場合に、前記てんかん発作の回数が、59.5%減少される、請求項20記載の医薬組成物。
【請求項22】
酢酸エスリカルバゼピンの1日1回の投与量が、800mg/日である場合に、前記てんかん発作の回数が、55.8%減少される、請求項20記載の医薬組成物。
【請求項23】
酢酸エスリカルバゼピンの1日1回の投与量が、400mg/日である場合に、前記てんかん発作の回数が、38.9%減少される、請求項20記載の医薬組成物。
【請求項24】
患者におけるてんかん発作の持続時間を減少させるための、請求項1?18のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項25】
患者におけるてんかん発作の頻度を減少させるための、請求項1?18のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項26】
てんかん発作の頻度の減少が、50%以上である、請求項25記載の医薬組成物。
【請求項27】
投与時に、患者が発作を起こさなくなる、請求項25又は26記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記1日1回の投与量が、7400ng/mLを上回るエスリカルバゼピンの最大観察血漿濃度Cmaxをもたらす量で投与される、請求項1?18のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項29】
前記1日1回の投与量が、12000ng/mLを上回るエスリカルバゼピンのCmaxをもたらす量で投与される、請求項1?18のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項30】
前記1日1回の投与量が、58800ng/mLまでのエスリカルバゼピンのCmaxをもたらす量で投与される、請求項1?18のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項31】
前記1日1回の投与量が、67800ng/mLまでのエスリカルバゼピンのCmaxをもたらす量で投与される、請求項1?18のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項32】
前記1日1回の投与量が、7392ng/mL?67800ng/mLのエスリカルバゼピンのCmaxをもたらす量で投与される、請求項1?18のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項33】
前記1日1回の投与量が、110000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンの濃度曲線下面積AUC0-τ(式中、τは投与間隔である)をもたらす量で投与される、請求項1?18のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項34】
前記1日1回の投与量が、240000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンのAUC0-τをもたらす量で投与される、請求項1?18のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項35】
前記1日1回の投与量が、375000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンのAUC0-τをもたらす量で投与される、請求項1?18のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項36】
前記1日1回の投与量が、595000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンのAUC0-τをもたらす量で投与される、請求項1?18のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項37】
前記1日1回の投与量が、790000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンのAUC0-τをもたらす量で投与される、請求項1?18のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項38】
前記1日1回の投与量が、111523ng・h/mL?1021855ng・h/mLのエスリカルバゼピンのAUC0-τをもたらす量で投与される、請求項1?18のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項39】
前記医薬組成物における活性成分が、本質的に酢酸エスリカルバゼピンからなる、請求項1?38のいずれか一項記載の医薬組成物。」

と補正された。

(2)本件補正について
本件補正は、補正前の請求項1?35の医薬組成物の製造における酢酸エスリカルバゼピンの使用に係る発明を削除するとともに、補正前の請求項36?64の酢酸エスリカルバゼピンを含む医薬組成物に係る発明について、特許を受けようとする発明として請求項1?39とする補正を含むものである。すなわち、酢酸エスリカルバゼピンを含む医薬組成物に係る発明についてみれば、本件補正は、特許請求項の範囲の請求項数を29から39に増加するものである。
しかし、請求項数を増加させる上記補正は、形式的な減縮に当たらないし、また、その補正は、下記のとおりであって、このような請求項を認めるべき特段の事情も存在しない。
請求項1は、補正前の請求項36を「経口投与のために処方される」として限定的に減縮するものであり、また、請求項2、6は、それぞれ補正前の請求項63、64を、その請求項36を引用する発明に限定的に減縮するものである。
しかし、請求項3?5のうちのいずれか2つ、7、8、9、11?13、17、18については、以下のとおり、対応する補正前の請求項は見られない。
本件補正後の請求項3?5は、上記補正後の請求項2に記載される錠剤について、直接または間接に、その製造方法及び/又は配合成分の種類を規定するものであり、投与量、あるいは用途について発明を特定するための事項とするものではない。しかし、補正前の請求項36?64において、投与量、あるいは用途に関する規定がなされていないのは請求項36、62、63のみである。それら補正前の請求項のうち、請求項36、63が、各々、補正後の請求項1、2に対応することは上記のとおりである。そうすると、補正後の請求項3?5に対応しうる補正前の請求項は、わずかに請求項62のみである。よって、補正後の請求項3?5には、補正前の請求項に対応する請求項が存在しない請求項があることは明らかである。また、補正後の請求項7、8についてした本件補正についても、同様であるといえるから、補正前の請求項に対応する請求項は存在しない。
そして、請求項9、11?13、17、18について、本件補正は、酢酸エスカルバゼピンの1日1回投与量を「20mgから4000mg」、「400mg?2400mg」、「400mg?1800mg」、「400mg?1200mg」、「1800mg」、「2400mg」と規定するものであるが、これら請求項について、本件補正後の請求項に対応すると認められる上記の、もしくは下記に記載の補正前の請求項36?64、規定した補正前の請求項は見られない。
請求項10、14?16、19?39は、それぞれ請求項1?8、9、1?18もしくは、25、26を引用しており、それら被引用請求項には、本件補正で追加された請求項3?5、7、8、9、11?13、17、18が含まれている。それら被引用請求項は、上記のとおり、補正前の特許請求の範囲に対応する請求項が見当たらないものであるから、結局、請求項10、14?16、19?39には、補正前の請求項37、38?40、41?61に対応する発明にさらに他の発明を追加するものであり、請求項10、14?16、19?39についてした本件補正は、該他の発明を追加する点において請求項に記載される発明の範囲を拡張するものであって、補正前の請求項を特定するために必要な事項を限定するものではなく、限定的減縮を目的としたものとは認められない。
また、本件補正は、請求項の削除、明りょうでない記載の釈明、又は誤記の訂正を目的とするものでもない。

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

なお、請求人は、補正前の請求項36に、「経口投与のために処方される」との記載を加えて請求項1とした、として該補正が限定的減縮を目的としてなされた旨主張する。
しかし、該請求項1に係る補正については、たとえ限定的減縮を目的とするものに該当するとしても、補正全体として不適法である点に変わりはなく、上記本件補正に対する判断はなんら変わらない。仮に、検討したとしても、以下に記載のとおり、補正後の請求項1に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるとはいえないものであり、結局のところ、却下すべきものである。

(2)-1 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物であるEpilepsia,2004年,vol.45, suppl.3,p.158(以下、「引用例1」という)、.ALMEIDA,L.,JOURNAL OF CLINICA PHARMACOLOGY,2004年,V44 N8,P906-918(以下、「引用例2」という)、ALMEIDA,L,DRUGS IN R & D,NZ,ADIS INTERNATIONAL,2003年,V4 N5,P269-284(以下、「引用例3」という)には、各々、以下の記載がある。なお、上記引用例はいずれも外国語で記載された刊行物であるので、翻訳文を示す。

引用例1
(ア)成人における難治性部分てんかん用の補充療法としてのBIA2-093(タイトル)
(イ)目的:新規な電位開口型Naチャンネル遮断剤である、BIA2-093[(S)-(-)-10-アセトキシ-10,11-ジヒドロ-5H-ジベンズ/b,f/アゼピン-5-カルボキサミド]の、部分てんかんを患う成人患者用補充療法として有効性と安全性を試験すること。
(ウ)方法:1、2種の抗てんかん剤による処置にもかかわらず、検査時に月に4回の部分発作を起こす、年齢18-65歳の143名の患者に対してなされた、多施設における、二重盲検、ランダム化された、プラセボコントロール研究。患者はランダムに以下の3群の内の一に割り当てられた:12週間にわたる、プラセボ処置群(46名)、BIA2-093 1日1回処置群(50名)、又は、BIA2-093 1日2回処置群(47名)。最初の4週間は1日量は400mgで、その後、4週間間隔で、用量は、800、1200mgと漸増された。
(エ)結果:患者が800mg、1200mgの1日量で処置された場合、1日1回処置群における発作頻度が50%以上減少した患者の割合は、プラセボ群に比べて有意に高かった(p<0.03);1日1回群と1日2回群との間に有意な違いは見られなかった。1日1回800mg(p<0.05)の処置、及び1200mg(p<0.01)の処置、ともに、プラセボ処置に対して、発作回数において統計的に有意な減少が達成され、1日1回投与法による結果は1日2回群における結果より優れる傾向にあった。副作用の出現率は群間において同様であった。最も頻度の高い副作用は、頭痛、めまい、及び嘔吐である。ほとんどの副作用は軽度であり、薬物に関連する重大な副作用は発生しなかった。
(オ)結論:本プラセボコントロール試験研究において、BIA2-093は、難治性部分てんかんを患う患者用の補充療法として、有効であり、かつ、よく認容された。

引用例2
(カ)新規な抗てんかん性作用が推定されているBIA2-093の、若年健康者に対する増加する反復投与研究における安全性、認容性、及び薬物動態プロファイル(タイトル)
(キ)本研究において、我々は、若年健康男性ボランティアにおけるBIA2-093の反復投与療法の安全性、認容性、及び薬物動態を評価することを目的とする研究についての結果を記載する(p907右欄12?16行)
(ク)これは、単一施設における、フェーズI、二重盲検、ランダム化された、プラセボコントロール研究であって、6名の若年健康男性被験者からなる4群において、BIA2-093の増加する反復経口用量を調査するものである(p907右欄下から9?6行)。
(ケ)被験者は、経口錠剤形態の、BIA2-093もしくは対応するプラセボを反復投与された(p908左欄1?3行)。

引用例3
(コ)人間に対する初めての投与における、新規な、推定抗てんかん薬であるBIA2-093の安全性、認容性、及び薬物動態プロファイル(タイトル)
(サ)目的:健康な男性ボランティアにおける、BIA2-093[(S)-(-)-10-アセトキシ-10,11-ジヒドロ-5H-ジベンズ/b,f/アゼピン-5-カルボキサミド]の安全性、認容性、薬物動態、薬力学を評価すること。
・・・
参加者及び方法:8名(2名のプラセボ投与者と残り6名のBIA2-093投与者とがランダム化された)の健康な男性治験者からなる群に、BIA2-093の20、50、100、200、400、600、900、1200mgの単回経口用量が投与された(要約 p269 1?3行、6?8行)。

(2)-2 対比・判断
引用例1には、BIA2-093[(S)-(-)-10-アセトキシ-10,11-ジヒドロ-5H-ジベンズ/b,f/アゼピン-5-カルボキサミド](イ)が、難治性のてんかん患者に対して(上記(ウ))、1日1回800mg(p<0.05)、あるいは1200mg(p<0.01)投与された場合に、プラセボ処置に対して、発作頻度の減少において有意に高く、発作回数において有意に減少したことが記載されており(上記(エ))、これらの試験結果から、BIA2-093が難治性てんかん患者の治療に有効、かつ認容性があるものとして結論付けられている(上記(ア)、(オ))ことから、「1日1回800mg、1200mg投与量の[(S)-(-)-10-アセトキシ-10,11-ジヒドロ-5H-ジベンズ/b,f/アゼピン-5-カルボキサミド](BIA2-093)を含むてんかん患者の治療用医薬組成物」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

本件補正後の請求項1に係る発明と引用発明とを対比する。
本件明細書の段絡0004には、補正後の請求項1に係る発明の「酢酸エスリカルバゼピン」は、(S)-(-)-10-アセトキシ-10,11-ジヒドロ-5H-ジベンズ/b,f/アゼピン-5-カルボキサミド(「BIA2-093」)であると記載されているから、引用発明の[(S)-(-)-10-アセトキシ-10,11-ジヒドロ-5H-ジベンズ/b,f/アゼピン-5-カルボキサミド]は、補正後の請求項1に係る発明の「酢酸エスリカルバゼピン」に相当する。そして、補正後の請求項1に係る発明の「それを必要とする患者」には、当然に「てんかんを治療する」ことを必要とする患者、すなわちてんかん患者を含むものであるといえるから、
両者は、
「それを必要とする患者におけるてんかんを治療するための医薬組成物であって、1日1回の投与量の酢酸エスリカルバゼピンを含む医薬組成物。」である点で一致し、補正後の請求項1に係る発明では、「経口投与のために処方される」と規定されているのに対して、引用発明においてはそのような特定がなされていない点(以下、「相違点」という。)で相違する。

そこで、上記相違点について検討する。
引用例2には、フェーズI臨床試験において、BIA2-093、すなわち酢酸エスリカルバゼピンを健常者に反復投与した場合の、安全性、認容性、及び薬物動態プロファイルを評価するための試験において(上記(カ)、(キ))、BIA2-093が経口錠剤形態として投与されていること(上記(ク)、(ケ))が記載されており、また、引用例3には、同薬剤を健常者に単回投与した場合の、安全性、認容性、及び薬物動態プロファイルを評価するための試験において(上記(コ))、経口投与したこと(上記(サ))が記載されているように、BIA2-093、すなわち酢酸エスリカルバゼピンは、経口投与することによって治療に供されることが本出願前に知られているのであるから、該医薬成分を含む医薬組成物に関する引用発明にあっても、その投与の形態として経口投与を着想し、「経口投与のために処方される」医薬組成物として提供することを当業者が想到することに格別の困難性は見いだせない。

そして、本件明細書記載の発明の効果にしても、1)患者におけるてんかん発作の低減、すなわち、治療されていない患者が経験するてんかん発作と比較して、その回数、持続時間又は頻度が減少する(段落0033)、2)治りにくいてんかん患者において、1日1回投与が1日2回投与に比較して優れる(段落0035、0049?0052、図1)、3)健常者における薬物動態において、1日1回投与が1日2回投与に比較して曝露の点で優れる(段落0035、図2)というものであり、いずれも、引用発明、もしくは、引用例2、3に記載される、酢酸エスリカルバゼピンの薬物動態から予測しうるものにすぎない。
1)について、本件明細書、及び本件出願手続において提出された全書類を参照しても、酢酸エスリカルバゼピンがてんかん発作の持続時間に影響を及ぼした旨の記載はなんらなされていない。そして、てんかん発作の頻度、回数については、引用例1に、本件明細書記載の効果と同様、1日1回投与の酢酸エスリカルバゼピンがプラセボに対して有意に優れた効果を奏する旨が記載されている(上記(エ))。
2)について、引用例1には、上記(エ)で指摘した事項が記載されている、請求人は、本件特許請求の範囲に記載される医薬組成物が、1日2回の投与に較べて発作頻度を有意に減少させるという治療効果を有する点で引用例1記載の発明とは異なる旨主張し、その根拠として、段落0049の記載を引用する(平成25年9月5日付けの請求の理由を補充する手続補正書(以下、「請求理由補正書」という。)3(c))。しかし、同段落には、「1日1回の群における応答者の割合(54%)は、1日2回の群(41%)よりも高かった。」との記載があるにすぎず、その差が有意であるか否かについては記載はない。
3)について、本件明細書には、本件特許請求の範囲に記載される医薬組成物への曝露に関連して、段落0013に、「曝露率及び曝露規模(Cmax及びAUC0-τ)で測定される、エスリカルバゼピンへの全曝露」との記載があり、また、段落0027に、「エスリカルバゼピンの投与間隔の間、濃度曲線下面積(全身曝露の規模に対応する)(AUC0-τ)をもたらす量の酢酸エスリカルバゼピンを患者に投与する」ことや、段落0032に、「曝露を増加させるための方法とは、患者において投与間隔の間エスリカルバゼピンの血漿濃度を増加させるのに有用な任意の量の化合物を患者に投与することを意味する」ことが記載されている。これらの記載からみて、本件医薬組成物への曝露は、Cmax及びAUC0-τの値で確認することができると認められる。そして、引用例2の表2には、1日2回200mg投与に比べて、1日1回400mg投与が、Cmax及びAUC0-τの点で優れていることが示されているのであるから、1日1回の投与量の本件特許請求の範囲に記載される発明が1日2回投与量の発明に比べて優れた効果を奏することは、酢酸エスリカルバゼピンの薬物動態から予測しうることにすぎない。請求人は、請求理由補正書(3(c))において、引用例2、3に記載されているのは健常者に対する薬物動態プロファイルにすぎず、てんかん患者の治療のための酢酸エスリカルバゼピンの投与については、それらいずれの引用例になんら開示されていないと主張する。しかし、引用例2はフェーズI試験におけるものであることは前記のとおりであり、臨床試験は、ヒトの治療薬を意図してなされるものであるから、同引用例の記載は、当然に酢酸エスリカルバゼピンの治療用途を目的としてなされたものといえるし、また、本件明細書においても、健常者に対して酢酸エスリカルバゼピンを投与して薬物動態プロファイルを確認し、その結果をもって酢酸エスリカルバゼピンへの曝露について検討がなされているのであるから、請求人の主張を裏付ける根拠は見当たらない。
したがって、本件補正後の請求項1に係る発明は、引用例1?3に記載された発明、並びに技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.本願発明

平成25年6月26日になされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項36に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成24年5月22日付け誤訳訂正書の特許請求の範囲の請求項36に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項36】
それを必要とする患者におけるてんかんを治療するための医薬組成物であって、1日1回の投与量の酢酸エスリカルバゼピンを含む、前記医薬組成物。」

4.引用例の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物であるEpilepsia,2004年,vol.45, suppl.3,p.158(引用例1)には、上記2(2)-1で指摘した事項が記載されている。

5.対比・判断

引用例1に、「1日1回800mg、1200mg投与量の[(S)-(-)-10-アセトキシ-10,11-ジヒドロ-5H-ジベンズ/b,f/アゼピン-5-カルボキサミド](BIA2-093)を含むてんかん患者の治療用医薬組成物」に係る発明(引用発明)が記載されていると認められることは(2)-2に記載のとおりである。
そして、引用発明の[(S)-(-)-10-アセトキシ-10,11-ジヒドロ-5H-ジベンズ/b,f/アゼピン-5-カルボキサミド](BIA2-093)が本願発明の酢酸エスリカルバゼピンに相当することや、「それを必要とする患者」には、当然に「てんかんを治療する」ことが必要とする患者、すなわちてんかん患者を含むものであるといえることも上記(2)-2に記載のとおりである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「それを必要とする患者におけるてんかんを治療するための医薬組成物であって、1日1回の投与量の酢酸エスリカルバゼピンを含む医薬組成物。」である点で一致すると認められ、両発明に相違点は存在しない。

6.むすび

本願発明は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-26 
結審通知日 2014-12-02 
審決日 2015-02-13 
出願番号 特願2008-509964(P2008-509964)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
P 1 8・ 57- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 亜希岡部 佐知子  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 増山 淳子
穴吹 智子
発明の名称 酢酸エスリカルバゼピン及び使用方法  
代理人 石川 徹  

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