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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01Q
管理番号 1302896
審判番号 不服2014-10037  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-29 
確定日 2015-07-09 
事件の表示 特願2012- 55837「電子機器およびアンテナの配置方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月18日出願公開,特開2012-199918〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年3月18日を出願日とする特願2011-61542号(以下「原出願」という。)の一部を平成24年3月13日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成24年 3月13日 審査請求
平成24年 3月16日 上申書
平成25年 7月25日 拒絶理由通知
平成25年 9月 6日 意見書・手続補正書
平成25年10月 8日 拒絶理由通知(最後)
平成25年12月 4日 意見書
平成26年 3月10日 拒絶査定
平成26年 5月29日 審判請求・手続補正書
平成27年 2月20日 拒絶理由通知
平成27年 3月11日 意見書・手続補正書

第2 当審による拒絶理由通知の概要
審判合議体が平成27年2月20日付けで通知した拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由通知」という。)における,特許法第29条第2項の判断(本願に係る発明の容易想到性の判断)の概要は次のとおりである。
平成26年5月29日付け手続補正書により補正された,本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,特開2007-317125号公報(以下「引用文献1」という。)記載の発明において,特開2008-288801号公報(以下「引用文献2」という。)にみられるような周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであるから,上記手続補正書により補正された,本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第3 本願発明の容易想到性について
1 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成26年5月29日手続補正書により補正された,特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
薄いボード状の筐体を有し,前記筐体の端部が把持された状態で利用され得る電子機器であって,
表示画面が前記筐体の前面から露出される表示装置と,
前記表示画面の周辺部であって前記筐体の第1の辺に配置されるカメラと,
第1の無線通信モジュールと,
第2の無線通信モジュールと,
前記第1の無線通信モジュール用の第1および第2のアンテナと,
前記第2の無線通信モジュール用の第3および第4のアンテナと,
を具備し,
前記第1のアンテナおよび前記第3のアンテナが,前記第1の辺に配置され,
前記第2のアンテナおよび前記第4のアンテナが,前記表示画面の周辺部であって前記第1の辺と直交する前記筐体の第2の辺に配置され,
前記第2のアンテナが,前記第2の辺の中央部に配置され,
前記第4のアンテナから前記第1の辺までの距離は,前記第2のアンテナから前記第1の辺までの距離よりも長く,
前記第1のアンテナから前記第2の辺までの距離は,前記第3のアンテナから前記第2の辺までの距離よりも長い,
電子機器。」

2 引用文献及び周知例の記載と引用発明及び周知技術
(1)引用文献1の記載と引用発明
ア 引用文献1
当審拒絶理由通知で引用された,原出願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である引用文献1には,図面とともに,次の記載がある。(当審注.下線は当審において付加した。以下同じ。)
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は,一対の無線通信用アンテナを備えたノート型パーソナルコンピュータ(以下,単にPCと呼ぶ)に関するものである。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0004】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり,その目的とするところは,一対の無線用アンテナを使用する際に,通信性能を向上させることのできるノート型PCを提供することにある。」
(イ)「【0012】
以下,図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は,本実施形態が適用されるノート型PCの外観斜視図である。ノート型PC100は,表示筐体10と,該表示筐体10に対して接続部としてのヒンジ部11により回動可能に接続される本体筐体12とから構成される。表示筐体10は,略矩形形状の表示部としてのLCD10-1を備えている。
【0013】
ここで,表示筐体10の端部のうち,ヒンジ部11の長手方向に略平行な端部を上端部10-2とし,ヒンジ部11の長手方向に略直交する左右の端部をそれぞれ右端部10-3,左端部10-4として定義する。なお,ここで言う「右」及び「左」とは,利用者が表示筐体10のLCD10-1に対峙したときの左右の方向に対応する。「上」及び「下」についても同様である。
・・・
【0016】
・・・図2は,図1に示すノート型PCを折り畳んだ状態を示している。」
(ウ)「【0018】
(第1実施形態)
・・・
【0021】
図3は,本発明の第1実施形態に係るノート型PCの表示筐体の構成を示す図である。PCの表示筐体10は,ヒンジ部11を介して本体筐体(例えば図1の12)に接続されている。LCD10-1を備える表示筐体10の上端部10-2には,左から順に,無線LAN(WLAN)用アンテナ20-1,20-2,サブアンテナ21-1,UWB(Ultra Wide Band)用アンテナ22が搭載されている。また,表示筐体10の右端部10-3にはメインアンテナ21-2が搭載されている。10-4は表示筐体10の左端部である。また,10-5は表示筐体10の下端部である。
・・・
【0022】
また,メインアンテナ21-2と無線通信モジュールとは,ヒンジ部11を介して給電ケーブル10-7により接続されるとともに,サブアンテナ21-1と無線通信モジュールとは,ヒンジ部11を介して給電ケーブル10-6により接続されている。
【0023】
図3において,無線LAN(WLAN)用アンテナ20-1,20-2を2本搭載するのはダイバーシチ機能を持たせるためである。また,サブアンテナ21-1及びメインアンテナ21-2は例えばセルラーシステムにおいて用いられ,ダイバーシチ機能を持たせるために上記一対のアンテナが配置される。特に,セルラーシステム用アンテナ21-1,21-2を90度異なる角度で設置し,異なる偏波を受信することにより偏波ダイバーシチ効果を高めることができる。
・・・
【0025】
なお,上記した3つの無線システム(無線LAN,UWB,セルラーシステム)において,無線LANの周波数帯域は概して5.15?5.825GHz,UWBの周波数帯域は概して3.1?10.6GHzである。また,セルラーシステムの周波数帯域は概して,800MHz近傍および2GHz近傍であり,加えてそれらの間の周波数が適宜用いられる。」
(エ)「【0038】
(第5実施形態)
第5実施形態では本発明をタブレットPCに適用したときのユーザの使用状態を考慮してアンテナの最適な配置を考慮したものである。図9は,本発明の第5実施形態に係るノート型PCの構成を示している。・・・LCD10-1を備える表示筐体10の上端部10-2にはセルラーシステム用サブアンテナ21-1が配置され,表示筐体10の右端部10-3にはセルラーシステム用メインアンテナ21-2が配置されている。
【0039】
以下,図10を参照して第5実施形態の作用を説明する。ノート型PCを折り畳んだときには,図2に示すように,表示筐体10と本体筐体12とが隣接した状態になる。図10は,このように折り畳んだタブレットPCを左手50-2によって保持しつつ,右手50-1でペン入力を行っている状態を示している。左手50-2は上端部10-2に配置されたサブアンテナ21-1を覆っており,アンテナの特性が劣化することが考えられるが,右端部10-3に配置されたメインアンテナ21-2は覆われていない。したがって,このメインアンテナ21-2を用いて通信を行うことができるので,セルラーシステムの特性を維持することができる。
【0040】
図11は,第5実施形態の他の作用を説明するための図である。図11は,折り畳んだ状態のタブレットPCを縦向きにして左手で保持しつつ,右手50-1でペン入力を行っている状態を示している。この場合,左手50-2は上端部10-2に配置されたサブアンテナ21-1に隣接した状態になるのでアンテナの特性が劣化することが考えられるが,メインアンテナ21-2は手によって覆われていないし隣接もしていない。したがって,このメインアンテナ21-2を用いて送受信を行うことができるので,セルラーシステムの通信特性を維持することができる。」
イ 引用発明
(ア)上記ア(イ)及び(エ)より,引用文献1には,表示筐体10と本体筐体12とが隣接してなるボード状の筐体を有し,上記筐体が手で保持された状態で利用され得るタブレットPCが記載されていると認められる。
そして,上記ア(イ)及び(ウ)によれば,引用文献1には,上記タブレットPCの筐体を構成する上記表示筐体10が,略矩形形状の表示部としてのLCD10-1を具備することが記載されている。加えて,上記ア(イ)及び(エ),並びに本願の図2,図10及び図11より,上記タブレットPCは,上記LCD10-1が上記表示筐体10の前面から露出される構成を具備すると認められ,こうした構成を表示装置と称することは任意である。
また,上記ア(イ)及び(ウ)によれば,引用文献1には,上記タブレットPCが,セルラーシステム用の2つのアンテナ21-1及び21-2と,無線LAN用の2つのアンテナ20-1及び20-2とを具備することが記載されており,当該技術分野における技術常識に照らせば,上記タブレットPCが,セルラーシステム用の無線通信モジュールと,無線LAN用の無線通信モジュールとを具備することは,上記ア(イ)及び(ウ)より明らかである。
そうすると,引用文献1には,表示筐体10と本体筐体12とが隣接してなるボード状の筐体を有し,上記筐体が手で保持された状態で利用され得るタブレットPCであって,略矩形形状の表示部としてのLCD10-1が上記筐体の前面から露出される表示装置と,セルラーシステム用の無線通信モジュールと,無線LAN用の無線通信モジュールと,セルラーシステム用の2つのアンテナ21-1及び21-2と,無線LAN用の2つのアンテナ20-1及び20-2と,を具備することが記載されていると認められる。
(イ)上記ア(イ)及び(エ)より,引用文献1には,表示筐体10と本体筐体12とが隣接してなるボード状の筐体を有し,上記筐体が手で保持された状態で利用され得るタブレットPCにおいて,セルラーシステム用サブアンテナ21-1,並びに無線LAN用の2つのアンテナ20-1及び20-2が,表示部としてのLCD10-1の周辺部であって上記タブレットPCの筐体を構成する上記表示筐体10の上端部10-2に配置されることが記載されていると認められる。
また,上記ア(イ)及び(エ)より,引用文献1には,上記タブレットPCにおいて,上記セルラーシステム用メインアンテナ21-2が,上記LCD10-1の周辺部であって,上記上端部10-2と略直交する,上記表示筐体10の右端部10-3に配置されることが記載されていると認められる。
そして,上記タブレットPCの筐体を構成する上記表示筐体10の上端部10-2及び右端部10-3を,それぞれ,筐体の第1の辺及び第2の辺と称することは任意である。
そうすると,引用文献1には,上記タブレットPCにおいて,上記セルラーシステム用サブアンテナ21-1,並びに無線LAN用の2つのアンテナ20-1及び20-2が,表示部としてのLCD10-1の周辺部であって上記筐体の第1の辺に配置され,上記セルラーシステム用メインアンテナ21-2が,上記LCD10-1の周辺部であって上記第1の辺と略直交する上記筐体の第2の辺に配置されることが記載されていると認められる。
(ウ)以上によれば,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「表示筐体10と本体筐体12とが隣接してなるボード状の筐体を有し,上記筐体が手で保持された状態で利用され得るタブレットPCであって,
略矩形形状の表示部としてのLCD10-1が上記筐体の前面から露出される表示装置と,
セルラーシステム用の無線通信モジュールと,
無線LAN用の無線通信モジュールと,
セルラーシステム用の2つのアンテナ21-1及び21-2と,
無線LAN用の2つのアンテナ20-1及び20-2と,
を具備し,
上記セルラーシステム用サブアンテナ21-1,並びに無線LAN用の2つのアンテナ20-1及び20-2が,上記LCD10-1の周辺部であって上記筐体の第1の辺に配置され,上記セルラーシステム用メインアンテナ21-2が,上記LCD10-1の周辺部であって上記第1の辺と略直交する上記筐体の第2の辺に配置される,
タブレットPC。」

(2)引用文献2及び周知例の記載と周知技術
ア 引用文献2及び周知例の記載
(ア)引用文献2
当審拒絶理由通知で引用された,原出願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である引用文献2には,図面とともに,次の記載がある。
a「【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピューター,携帯電話,PDA(Personal Digital Assistant)等の電子機器には,所定の方式で通信を行うためのアンテナが表示パネルを有する表示部の内部に配置されているものがある(例えば,特許文献1参照)。
【0003】
このような電子機器にあっては,不要輻射の抑制や強度の向上を図るために表示パネルが配置されるパネル用筐体を金属材料によって形成する場合があるが,アンテナをパネル用筐体に配置した場合には金属材料中を伝導するノイズの影響により受信感度の低下を来たす場合がある。
【0004】
そこで,従来は,パネル用筐体の一端部に樹脂材料によって形成されたアンテナ配置部材を取り付け,このアンテナ配置部材にアンテナを配置する方法があった。
【0005】
【特許文献1】特開2002-32150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが,近年,通信方式の拡張により,通信方式が異なる複数の種類のアンテナを配置する必要性が高まり,また,通信方式によっては同一の種類の複数のアンテナを配置する必要があり,表示部の内部に配置するアンテナの数が増加した。
【0007】
従って,パネル用筐体の一端部に樹脂材料によって形成されたアンテナ配置部材を取り付けると言う上記した従来の方法では,アンテナを配置するための十分なスペースを確保することが困難となり,通信性能の低下を来たすおそれがあった。
【0008】
そこで,本発明電子機器は,複数のアンテナの配置スペースを確保した上で通信性能の向上を図ることを課題とする。」
b「【発明を実施するための最良の形態】
・・・
【0017】
以下に示した最良の形態は,本発明電子機器を情報処理装置としてのパーソナルコンピューターに適用したものである。
・・・
【0019】
電子機器(パーソナルコンピューター)1は,装置本体部2の後端部にヒンジ部3,3を介して表示部4が回動自在に支持されて成る(図1及び図2参照)。
・・・
【0062】
表示部4は,図27及び図28に示すように,表示パネル38と該表示パネル38が配置されたパネル用筐体39と該パネル用筐体39の外周に取り付けられた配置用枠40と該配置用枠40を前方から覆う外枠41とを有している。
【0063】
表示パネル38としては,例えば,液晶パネルが用いられ,表示パネル38の下端部には横長の制御基板42が取り付けられている。・・・
【0064】
パネル用筐体39は,例えば,カーボン材料によって形成されたベース板部43と該ベース板部43の外周部に設けられたフレーム部44とが,例えば,インサート成形によっ
て一体に形成されて成る(図29参照)。
・・・
【0079】
パネル用筐体39における上部45のカメラユニット取付部45bには,カメラユニット57が取り付けられる(図28及び図31参照)。・・・」
c「【0080】
パネル用筐体39と配置用枠40が結合された状態において,第1のアンテナ58,58,58と第2のアンテナ59が配置される(図31及び図32参照)。第1のアンテナ58,58,58はそれぞれ,例えば,ワイヤレスラン(WLAN)用のアンテナであり,第2のアンテナ59は,例えば,1セグメント放送用のアンテナである。
【0081】
第1のアンテナ58,58,58はそれぞれ配置用枠40の上面部52における左端寄りの位置と左側面部53における上方側の位置に上下に離隔して配置される。・・・
・・・
【0097】
また,上記には,第2のアンテナ59として1セグメント放送用のアンテナを配置した例を示したが,例えば,図34及び図35に示すように,第2のアンテナ59AとしてWAN(広域ネットワーク:Wide Area Network)用のアンテナを配置することも可能である。この場合には,二つの第2のアンテナ59A,59Aを配置する必要が生じる可能性があるが,二つの第2のアンテナ59A,59Aが必要とされる場合には該第2のアンテナ59A,59Aを上面部52と右側面部54にそれぞれ配置することが可能である。
【0098】
第2のアンテナ59A,59Aを上面部52と右側面部54にそれぞれ配置することにより,各第2のアンテナ59A,59Aにおいて必要とされる強さの信号が受信されて感度の向上が図られ,通信性能を高めることが可能となる。」
(イ)周知例
原出願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2010-171973号公報(以下「周知例」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「【0034】
図1は,画像式位置システムを実現するのに適したモバイル機器100の前面図である。図1に示すように,モバイル機器100は,筐体101,複数の押しボタン102,方向指示キーパッド104(例えば5方向キー),マイクロホン105,スピーカ106,カメラ108,及び筐体101によって支持されたディスプレイ110を含むことができる。モバイル機器100は,マイクロホン,トランシーバ,フォトセンサ(光センサ),及び/またはPDA装置,携帯電話,ラップトップコンピュータ,タブレット型PC,スマートフォン(多機能電話機),ハンドヘルド電子メール装置,または他のモバイル通信/コンピュータ装置に一般に見られる他のコンピュータ構成要素を含むこともできる。
【0035】
ディスプレイ110は,液晶ディスプレイ(LCD),プラズマディスプレイ,真空蛍光表示管,発光ダイオード(LED)ディスプレイ,電界発光ディスプレイ,及び/またはユーザインタフェースを提示するように構成された他の適切な種類のディスプレイを含むことができる。モバイル機器100は,ユーザからの入力を受けるタッチセンサ要素109を含むこともできる。・・・
【0036】
モバイル機器100は,写真を撮るかビデオを記録するのに適したカメラ108を含むこともできる。カメラ108は,光学イメージセンサ及びレンズを含み,絵,写真,またはビデオを撮影するためのフラッシュを有することもできる。カメラ要素108はモバイル機器100の前面に示しているが,カメラ要素108は機器の背面または側面に配置することもできる。あるいはまた,モバイル機器100は,例えば前面に第1カメラ,背面に第2カメラのように,複数のカメラを有して構成することができる。」
イ 周知技術
(ア)上記ア(ア)a及びb,並びに(イ)より,無線機能を有し,片手又は両手で把持された状態で利用され得る電子機器において,表示画面の周辺部である上記電子機器筐体の辺上のいずれかの位置にカメラを設けることは,原出願の出願日前,当該技術分野では周知の技術と認められる。
(イ)上記ア(ア)a及びcより,表示画面の周辺部である上記電子機器筐体のある辺,及び当該辺と直交する辺の2辺に,無線LAN用アンテナやWAN用アンテナを配置して,感度の向上を図り,通信性能を高めることは,原出願の出願日前,当該技術分野では普通に行われていたと認められる。

3 本願発明と引用発明との対比
(1)対比
ア 本願発明の「薄いボード状の筐体」と引用発明における「表示筐体10と本体筐体12とが隣接してなるボード状の筐体」とは,後述する相違点に係る構成を除き,「ボード状の筐体」である点で共通するといえる。
そして,本願発明の「前記筐体の端部が把持された状態」と,引用発明における「上記筐体が手で保持された状態」とは,後述する相違点に係る構成を除き,「前記筐体が把持された状態」である点で共通するといえる。
また,本願発明の「電子機器」と引用発明における「タブレットPC」とは,後述する相違点に係る構成を除き,「電子機器」である点で共通するといえる。
そうすると,後述する相違点に係る構成を除き,本願発明と引用発明とは,「ボード状の筐体を有し,前記筐体が把持された状態で利用され得る電子機器」である点で共通するということができる。
イ 引用発明における「略矩形形状の表示部としてのLCD10-1が上記筐体の前面から露出される表示装置」,「セルラーシステム用の無線通信モジュール」,「無線LAN用の無線通信モジュール」,「セルラーシステム用の2つのアンテナ21-1及び21-2」,及び「無線LAN用の2つのアンテナ20-1及び20-2」は,それぞれ,本願発明の「表示画面が前記筐体の前面から露出される表示装置」,「第1の無線通信モジュール」,「第2の無線通信モジュール」,「前記第1の無線通信モジュール用の第1および第2のアンテナ」,及び「前記第2の無線通信モジュール用の第3および第4のアンテナ」に相当するといえる。
そうすると,後述する相違点に係る構成を除き,本願発明と引用発明とは,「表示画面が前記筐体の前面から露出される表示装置と,第1の無線通信モジュールと,第2の無線通信モジュールと,前記第1の無線通信モジュール用の第1および第2のアンテナと,前記第2の無線通信モジュール用の第3および第4のアンテナとを具備」する点で共通するということができる。
ウ 本願請求項1における「前記表示画面の周辺部であって前記筐体の第1の辺に配置されるカメラ」との記載より,本願発明の「前記第1のアンテナおよび前記第3のアンテナが,前記第1の辺に配置され」ることと,引用発明における「上記セルラーシステム用サブアンテナ21-1,並びに無線LAN用の2つのアンテナ20-1及び20-2が,上記LCD10-1の周辺部であって上記筐体の第1の辺に配置され」ることとは,後述する相違点に係る構成を除き,「前記第1のアンテナが,前記表示画面の周辺部であって前記筐体の第1の辺に配置され」る点で共通するといえる。
そして,本願発明の「前記表示画面の周辺部であって前記第1の辺と直交する前記筐体の第2の辺に配置され」ることと,引用発明における「上記セルラーシステム用メインアンテナ21-2が,上記LCD10-1の周辺部であって上記第1の辺と略直交する上記筐体の第2の辺に配置される」こととは,後述する相違点に係る構成を除き,「前記表示画面の周辺部であって前記第1の辺と直交する前記筐体の第2の辺に配置され」る点で共通するといえる。

(2)一致点及び相違点
上記(1)から,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,それぞれ以下のとおりであると認められる。
ア 一致点
「ボード状の筐体を有し,前記筐体が把持された状態で利用され得る電子機器であって,
表示画面が前記筐体の前面から露出される表示装置と,
第1の無線通信モジュールと,
第2の無線通信モジュールと,
前記第1の無線通信モジュール用の第1および第2のアンテナと,
前記第2の無線通信モジュール用の第3および第4のアンテナと
を具備し,
前記第1のアンテナが,前記表示画面の周辺部であって前記筐体の第1の辺に配置され,
前記第2のアンテナが,前記表示画面の周辺部であって前記第1の辺と直交する前記筐体の第2の辺に配置される,
電子機器。」
イ 相違点
・相違点1
本願発明の「電子機器」は,「薄いボード状の単一の筐体を有し,前記筐体の端部が把持された状態で利用され得る」のに対し,引用発明は,筐体が「薄いボード状の単一の」ものではなく,また,筐体が手で保持された状態で保持された状態で利用され得るものの,「筐体の端部」が把持された状態で利用され得ることは明示されていない点。
・相違点2
本願発明は,「前記表示画面の周辺部であって前記筐体の第1の辺に配置されるカメラ」を具備するのに対し,引用発明は,セルラーシステム用サブアンテナ21-1(本願発明の「前記第1の無線通信モジュール用の第1のアンテナ」に相当。)が配置される,表示部としてのLCD10-1の周辺部であってタブレットPCの筐体の第1の辺に配置されたカメラを具備していない点。
・相違点3
本願発明は,「第3のアンテナが,前記第1の辺に配置され」,「第4のアンテナが,前記表示画面の周辺部であって前記第1の辺と直交する前記筐体の第2の辺に配置され」ているのに対し,引用発明では,無線LAN用の2つのアンテナ20-1及び20-2(本願発明の「前記第2の無線通信モジュール用の第3および第4のアンテナ」に相当。)が,表示部としてのLCD10-1の周辺部であってタブレットPCの筐体の第1の辺に配置されている点。
・相違点4
本願発明は,第1ないし第4のアンテナの配置に関し,「前記第2のアンテナが,前記第2の辺の中央部に配置され,前記第4のアンテナから前記第1の辺までの距離は,前記第2のアンテナから前記第1の辺までの距離よりも長く,前記第1のアンテナから前記第2の辺までの距離は,前記第3のアンテナから前記第2の辺までの距離よりも長い」と特定されているのに対し,引用発明は,セルラーシステム用の2つのアンテナ21-1及び21-2と,無線LAN用の2つのアンテナ20-1及び20-2の配置に関し,上記のような特定はされていない点。

4 相違点についての検討
(1)相違点1について
引用発明において,タブレットPCを,表示筐体10と本体筐体12とを隣接させることで構成するか,薄いボード状の単一の筐体でタブレットPCを構成するかは,当業者が適宜選択し得ることといえる。
また,引用発明において,タブレットPCの使用者が,表示部としてのLCD10-1の周辺部に位置する筐体の任意の箇所を把持して利用することは当然であり,引用発明において,上記筐体のいずれの箇所が把持された状態でも,タブレットPCが利用され得るようにすることは,当業者が当然に行い得るものといえるから,引用発明において,タブレットPCの筐体の端部が把持された状態で利用され得るようにすることは,当業者が普通に行い得るものである。
そうすると,相違点1に係る構成は,引用発明において,当業者が適宜なし得たものである。

(2)相違点2について
上記2(2)イ(ア)のとおり,無線機能を有し,片手又は両手で把持された状態で利用され得る電子機器において,表示画面の周辺部である上記電子機器筐体の辺上のいずれかの位置にカメラを設けることは,原出願の出願日前,当該技術分野では周知の技術であり,引用発明において,上記LCD10-1の周辺部であるタブレットPCの筐体の第1の辺にカメラを設けることは,当業者が適宜なし得たものである。
そうすると,相違点2に係る構成は,引用発明において,当業者が適宜なし得たものである。

(3)相違点3及び4について
以下,相違点3及び4についてまとめて検討する。
ア 上記2(2)イ(イ)のとおり,表示画面の周辺部である上記パーソナルコンピュータ筐体のある辺,及び当該辺と直交する辺の2辺に,無線LAN用アンテナやWAN用アンテナを配置して,感度の向上を図り,通信性能を高めることは,原出願の出願日前,当該技術分野では普通に行われていたと認められる。
そうすると,引用発明において,セルラーシステム用サブアンテナ21-1(本願発明の「前記第1の無線通信モジュール用の第1のアンテナ」に相当。)と同様に,無線LAN用のアンテナ20-1(本願発明の「前記第2の無線通信モジュール用の第3のアンテナ」に相当。)を,上記LCD10-1の周辺部であるタブレットPCの筐体の第1の辺に配置し,セルラーシステム用メインアンテナ21-2(本願発明の「前記第1の無線通信モジュール用の第2のアンテナ」に相当。)と同様に,無線LAN用のアンテナ20-2(本願発明の「前記第2の無線通信モジュール用の第4のアンテナ」に相当。)を,上記LCD10-1の周辺部であって上記第1の辺と略直交する上記筐体の第2の辺に配置し,感度の向上を図り,通信性能を高めることは,当業者が普通に行い得るものということができる。
イ 引用文献1の図3,図10及び図11より,引用文献1には,上記セルラーシステム用メインアンテナ21-2が,上記第2の辺の中央部に配置された構成が示されていると認められる。
また,上記ア(イ)及び(エ)より,引用文献1には,表示部としてのLCD10-1の周辺部であるタブレットPCの筐体にアンテナを配置する際に,タブレットPCを把持することで上記アンテナが手で覆われ,アンテナ特性が劣化しないように,上記アンテナを配置することが記載されていると認められるから,引用発明において,上記セルラーシステム用サブアンテナ21-1,及び上記無線LAN用のアンテナ20-1を上記第1の辺に配置し,上記セルラーシステム用メインアンテナ21-2,及び上記無線LAN用のアンテナ20-2を上記第2の辺に配置する際に,タブレットPCを把持することで上記アンテナが手で覆われ,アンテナ特性が劣化しないように,上記各アンテナの配置を決定することは,当業者が当然に考慮するものということができる。
そうすると,引用発明において,上記セルラーシステム用メインアンテナ21-2を,上記第2の辺の中央部に配置するとともに,上記上記無線LAN用のアンテナ20-2から上記第1の辺までの距離は,上記セルラーシステム用メインアンテナ21-2から上記第1の辺までの距離よりも長くなり,上記セルラーシステム用サブアンテナ21-1から上記第2の辺までの距離は,上記無線LAN用のアンテナ20-1上記第2の辺までの距離よりも長くなるように,上記各アンテナの配置を決定することは,引用文献1の記載に基づいて,アンテナが手で覆われ,アンテナ特性が劣化しないように,上記各アンテナの配置を決定する際,タブレットPCの使用時にユーザにより頻繁に把持されるタブレットPC筐体の位置に応じて,当業者が適宜選択し得るものと認められる。
ウ 以上から,相違点3及び4に係る構成は,いずれも,引用発明において,当業者が適宜なし得たものである。

5 本願発明の作用効果について
本願明細書の記載によれば,本願発明は,「ユーザによって把持された場合におけるアンテナ特性劣化を抑えることを実現する電子機器および同機器におけるアンテナの配置方法を提供すること」(段落【0007】)を目的とし,これを達成したものである。
他方,上記2(1)ア(ア)によれば,引用発明は,一対の無線用アンテナを使用する際に,通信性能を向上させることのできるノート型PCを提供することを目的としたもので,上記ア(イ)及び(エ)より,上記の目的を達成するために,表示部としてのLCD10-1の周辺部であるタブレットPCの筐体にアンテナを配置する際に,タブレットPCを把持することで上記アンテナが手で覆われ,アンテナ特性が劣化しないように,上記アンテナを配置することが記載されていると認められる。
そうすると,引用発明1は,本願発明と同様の作用効果を奏するものと認められ,両者の間に,作用効果の点で格別の相違があるとはいえない。
なお,審判請求人は,本願発明における相違点3及び4に係る構成について,「例えば,第1の辺と第2の辺とが接続する角(図15でいえば筐体右上端部)をユーザが持ち,この角から第1の辺の中央部および第2の辺の中央部に至る範囲が覆い隠された場合であっても,第1の辺と第2の辺とで(当該角からの遠近を入れ替えるべく)互い違いに2つの無線通信システムのアンテナが2つの辺それぞれに配置される本願の請求項1に係る発明においては,2つの無線通信システムのうちの一方の無線通信システムのアンテナが揃って覆い隠されることがありません。つまり,このような状況下でも,本願の請求項1に係る発明においては,2つの無線通信システムそれぞれにつき,少なくとも1つのアンテナは覆い隠されることが回避されるので,2つの無線通信システムの両方を利用することが可能です。」として,格別の作用効果を奏すると主張する。
しかし,上記の主張は採用できない。その理由は以下のとおりである。
審判請求人が主張するように,電子機器であるタブレット端末の「第1の辺と第2の辺とが接続する角(図15でいえば筐体右上端部)」をユーザが持った場合に,「この角から第1の辺の中央部および第2の辺の中央部に至る範囲」が覆い隠されるか否かは,上記タブレット端末の大きさや,ユーザの手の大きさによっても決まり,相違点3及び4に係る構成を採用するか否かのみによって決まるとは認められないから,相違点3及び4に係る構成と,審判請求人が主張する作用効果との間に因果関係があるということはできない。
仮に,上記の主張のように,電子機器であるタブレット端末の使用時,ユーザが「第1の辺と第2の辺とが接続する角(図15でいえば筐体右上端部)」を持つことで,「この角から第1の辺の中央部および第2の辺の中央部に至る範囲」が覆い隠されるとしても,この場合には,上記タブレット端末の表示画面も手で覆われ,表示画面の内容を視認することが困難になるから,上記タブレット端末の使用時にユーザが上記のような持ち方をすることは,合理的ではなく,通常行われるものとはいえない。
そうすると,相違点3及び4に係る構成と,審判請求人が主張する作用効果との間に因果関係があるとは認められず,また,仮にそうでないとしても,審判請求人が主張する電子機器であるタブレット端末の持ち方は,その使用時にユーザが通常行うものとはいえないから,相違点3及び4に係る構成により,本願発明が,審判請求人が主張する作用効果を奏するということはできない。
以上から,本願発明の奏する作用効果は,格別のものとはいえない。

6 小括
したがって,本願の請求項1に係る発明(本願発明)は,引用文献1記載の発明(引用発明),並びに引用文献2及び周知例にみられるような周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

第3 結言

以上検討したとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-11 
結審通知日 2015-05-12 
審決日 2015-05-27 
出願番号 特願2012-55837(P2012-55837)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 富澤 哲生赤穂 美香船越 亮  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 河口 雅英
萩原 義則
発明の名称 電子機器およびアンテナの配置方法  
代理人 特許業務法人スズエ国際特許事務所  

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