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審決分類 審判 判定 同一 属する(申立て成立) F23G
管理番号 1302939
判定請求番号 判定2015-600001  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2015-08-28 
種別 判定 
判定請求日 2014-12-26 
確定日 2015-07-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第3025967号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号説明書及びイ号写真に示す「廃油ストーブ」は、特許第3025967号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、イ号説明書及びイ号写真に示す廃油ストーブ(以下、「イ号物件」という)は、特許第3025967号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものと認める。(当審注:判定請求書の請求の趣旨の欄には、「イ号説明書及びイ号写真に示す廃油ストーブは、第3025967号特許の技術範囲に属する、との判定を求める。」と記載されているところ、「第3025967号特許」は、請求の理由における本件特許発明の説明等の記載からみて、特許第3025967号の請求項1に係る発明」の趣旨であり、「技術範囲」は「技術的範囲」の誤記であると判断し、上記のとおり認める。)

第2 手続の経緯
本件特許発明に係る出願は、平成11年3月2日の出願であって、平成12年1月28日に特許権の設定登録がされたものである。
その後、平成26年12月26日に本件判定が請求され、平成27年1月30日に判定請求書を補正する手続補正書が提出され、これに対し、平成27年2月18日付けで被請求人に判定請求書副本を送達するとともに平成27年1月30日付け手続補正書副本を送付し、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが、被請求人から答弁書等の提出はなかった。
そして、平成27年5月20日付けで請求人に対してイ号物件に関する審尋をしたところ、同年5月27日に請求人から回答書が提出された。

第3 本件特許発明
本件特許発明は、これに係る出願の特許権設定登録時の願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、当該明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、これを符号を付して構成要件に分説すると、次のとおりである。

「A 円筒形縦型の燃焼室の中心に四角形の空気噴射管を設け
B 該空気噴射管に空気噴射孔を管の内径の最も外角に同一方向に四面とも且つ全長に等間隔に設け噴射された空気は燃焼室の壁に中心を外れて当たり燃焼を渦状に回転させ、
C 尚、下部に一次燃焼空気管を上記の回転方向に向けて取り付けるとともに
D また空気噴射管の底部の中心に空気噴出孔を設け該空気噴出孔と一次燃焼空気管は着火した直後の燃焼を助けまた消火の際の無煙化に役立ように構成したことを特徴とする
E 回転燃焼廃油焼却ストーブ。」
(以下、分説した構成要件を「構成要件A」などという。)

第4 イ号物件
1 判定請求書のイ号の説明
判定請求時の判定請求書の「5.請求の理由」には、イ号の説明として、以下の記載がある。

「a.円筒形縦型燃焼室の中心に四角形の空気噴射管を設け、
b.該空気噴射管に空気噴射孔を・・・外角に同一方向に四面とも且つ全長に等間隔に設け、(写真4参照)
c.下部に一次燃焼空気管を燃焼の回転方向に向けて取り付け、(写真5参照)
d.空気噴射管の底部角に2カ所、一次燃焼空気管の底部に計4カ所、及び追加空気管底部に計4カ所、合計10カ所に空気噴射孔を設けた(写真5、6参照)
e.回転燃焼廃油ストーブ」

また、平成27年1月30日付け手続補正書により補正された判定請求書の「5.請求の理由」には、本件特許発明とイ号物件の技術的対比の表におけるイ号の説明として、以下の記載がある。

「a.四角形の空気噴射管 ・・・
b.空気噴射孔を・・・外角に同一方向に四面とも且つ全長に等間隔に設け噴射された空気は燃焼室の壁に中心を外れて当たり燃焼を渦状に回転させ
c.下部に一次燃焼空気管・・・
d.空気噴射管の底部角2ヵ所、一次燃焼空気管底部4ヵ所、追加空気管底部4ヵ所、合計10ヵ所に空気噴射孔を設け該空気噴射孔と一次燃焼空気管は着火した直後の燃焼を助けまた消化の際の無煙化に役立つように構成した
e.回転燃焼廃油ストーブ」

2 イ号説明書
判定請求書とともに証拠書類として提出されたイ号説明書(甲第3号証)には、以下の記載がある。

(1)甲第3号証の第1ページには、「廃油ストーブ」との記載があり、第2ページには、「エンジンオイル、作動油、てんぷら油など、いわゆる「廃油」と呼ばれるものなら何でも燃やすことができます。」との記載がある。

(2)甲第3号証の第1ページには、「フロート式油面廃油自動供給について」及び「燃焼した分だけ自動供給されますので、常に安定燃焼します。」との記載がある。

(3)甲第3号証の第1ページには、「安全性を考慮し、灰の取出しはストーブ上部のフタを開けて引っかき棒で残灰を取り出す形をとっています。下部から灰を取り出すものもありますが、油漏れ等の危険があるため、上部からの灰出しを採用しています。」との記載がある。

3 イ号写真
判定請求書とともに証拠書類として提出されたイ号写真(甲第4号証)及び回答書とともに提出されたイ号写真(甲第7号証)から、以下の事項が看て取れる。

(1)甲第4号証の写真1及び3から、燃焼室と廃油タンクはパイプで連結され、パイプは燃焼室の下部に接続されていることが看て取れる。

(2)甲第4号証の写真1ないし3及び甲第7号証の写真1から、燃焼室は円筒形縦型であることが看て取れる。また、甲第4号証の写真2ないし5及び甲第7号証の写真1及び2から、空気噴射管は四角形であり、燃焼室の中心に設けられることが看て取れる。

(3)甲第4号証の写真4及び甲第7号証の写真2から、空気噴射管の側面には、最も外角に、同一方向に、四面とも、全長にわたって等間隔に、空気噴射孔を設けることが看て取れる。

(4)甲第4号証の写真5から、空気噴射管の下部に、2つの一次燃焼空気管を燃焼室の円周方向に向けて、対向に配置して取り付け、さらに2つの追加空気管をそれぞれ一次燃焼空気管の間に取り付けることが看て取れる。

(5)甲第4号証の写真6から、空気噴射管の底部角に2カ所、2つの一次燃焼空気管の底部にそれぞれ2カ所、及び、2つの追加空気管の底部にそれぞれ2カ所に空気噴射孔を設けることが看て取れる。

4 上記2及び3から分かること
廃油ストーブの技術分野における技術常識に照らしてみると、上記2及び3から以下のことが分かる。

(1)上記2(1)の記載から、イ号は「廃油を燃料とするストーブ」であることが分かる。

(2)上記2(2)の記載及び上記3(1)の燃焼室と廃油タンクの構成から、燃料である廃油は、廃油タンクから燃焼室に供給されることが分かる。また、上記2(3)の油漏れに関する記載及び上記3(1)の燃焼室とパイプの接続位置から、廃油は燃焼室の底部に供給されることが分かる。

(3)上記3(2)及び(3)における空気噴射管の構成から、空気噴射管の側面に設けられた空気噴射孔から噴射された空気は、燃焼室の壁に対して非対称な角度で当たることが分かり、それによって、燃焼室の円周方向に燃焼を渦状に回転させることが分かる。

(4)上記(2)のとおり、上記2(3)及び上記3(1)から、廃油が燃焼室の底部に供給されることが分かるので、着火した直後の燃焼及び消火の直前の燃焼は、燃焼室の底部で生じるものであることが分かる。そして、上記3(4)及び(5)における空気噴射管、一次燃焼空気管及び追加空気管の構成から、空気噴射管の底部に設けられた空気噴射孔、一次燃焼空気管及び一次燃焼空気管の底部に設けられた空気噴射孔、並びに、追加空気管及び追加空気管の底部に設けられた空気噴射孔は、燃焼に必要な空気を燃焼室の底部に供給するためのものであるから、少なくとも着火した直後の燃焼を補助し、消火の際の無煙化に寄与することが分かる。

5 イ号物件
イ号物件は、上記1ないし4を総合して、本件特許発明の構成要件の分説と対応するように符号を付して構成に分説すると、以下のとおりのものと認める。

「a 円筒形縦型の燃焼室の中心に四角形の空気噴射管を設け、
b 空気噴射管の側面の最も外角に同一方向に四面とも且つ全長にわたって等間隔に空気噴射孔を設け、空気噴射管から噴射された空気は、燃焼室の壁に対して非対称な角度で当たり、燃焼室の円周方向に燃焼を渦状に回転させ、
c 空気噴射管の下部に、2つの一次燃焼空気管を燃焼室の上記円周方向に向けて、対向に配置して取り付け、2つの追加空気管をそれぞれ一次燃焼空気管の間に取り付け、
d 空気噴射管の底部角に2カ所、2つの一次燃焼空気管の底部にそれぞれ2カ所、及び、2つの追加空気管の底部にそれぞれ2カ所に空気噴射孔を設け、空気噴射管の空気噴射孔、一次燃焼空気管及び一次燃焼空気管の底部に設けられた空気噴射孔、並びに、追加空気管及び追加空気管の底部に設けられた空気噴射孔は、着火した直後の燃焼を補助し、消火の際の無煙化に寄与する
e 廃油を燃料として燃焼を回転させるストーブ。」
(以下、分説した構成を「構成a」などという。)

第5 判断
1 構成要件の充足性について
イ号物件が、本件特許発明の構成要件を充足するか否かについて、検討する。

(1)構成要件A及びEについて
イ号物件の構成a及びeは、本件特許発明の構成要件A及びEにそれぞれ相当することが明らかであるから、イ号物件は、本件特許発明の構成要件A及びEを充足する。

(2)構成要件Bについて
イ号物件の構成bの「空気噴射管から噴射された空気は、燃焼室の壁に対して非対称な角度で当たり、燃焼室の円周方向に燃焼を渦状に回転させ」は、本件特許発明の構成要件Bの「噴射された空気は燃焼室の壁に中心を外れて当たり燃焼を渦状に回転させ」に相当するから、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Bを充足する。

(3)構成要件Cについて
イ号物件の構成cの「一次燃焼空気管を燃焼室の上記円周方向に向けて、・・・取り付け」は、本件特許発明の構成要件Cの「一次燃焼空気管を上記の回転方向に向けて取り付ける」に相当するから、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Cを充足する。

(4)構成要件Dについて
イ号物件の構成dの「一次燃焼空気管・・・は、着火した直後の燃焼を補助し、消火の際の無煙化に寄与する」は、本件特許発明の構成要件Dの「一次燃焼空気管は着火した直後の燃焼を助けまた消火の際の無煙化に役立ように構成した」に相当する。しかしながら、イ号物件の構成dの空気噴射管は、底部角に2カ所の空気噴射孔を備えているものの、本件特許発明の構成要件Dの空気噴射管のように、底部の中心に設けられた空気噴出孔に相当する構成を備えていない。
したがって、イ号物件は、文言上、本件特許発明の構成要件Dを充足しない。

2 均等論適用の可否について
請求人は、構成要件Dに関し、本件特許発明とイ号物件に、仮に差異があるとしても、均等の範囲に含まれると主張しているので、本件特許発明とイ号物件とが構成上異なる部分につき、最高裁判決(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決、最高裁平成6年(オ)1083号)が判示する次の5つの要件にしたがって、均等論適用の可否について検討する。
「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合であっても、
(第一要件)その部分が特許発明の本質的部分ではなく、
(第二要件)その部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
(第三要件)このように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、
(第四要件)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれからその出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、
(第五要件)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、
その対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」

(1)第一要件
本件特許発明の構成要件Dがイ号物件と異なる部分、すなわち「空気噴出孔」の配置や数について、その技術的意義を考察する。

本件特許発明における「空気噴射管の底部の中心」に設けられた「空気噴出孔」に関し、特許明細書に以下の記載がある。

「【0006】
【実施例】添付図面を参照しながら説明する。・・・(略)・・・。なお空気噴射管12の下部に一次燃焼空気管13と底部に空気噴射孔を設け(図5)着火直後の燃焼を助け消火の際も無煙となる、・・・(略)・・・。」(段落【0006】)

「【0008】着火から消火に至る過程を説明する。燃焼室2の上部の蓋7の点検窓14から少量の灯油を燃焼室2に入れ廃油を少量出しながら点検窓14から点火し着火したら送風器4を回す、着火直後は空気噴射管12の下部一次燃焼管13の空気によって一次燃焼する、・・・(略)・・・。消火は調節8バルブを閉める、燃焼が小さくなると一次燃焼管13と空気噴射管12の底部の下に向けた孔一個によって最後まで無煙に近い状態で消火する、・・・(略)・・・。」(段落【0008】)

上記記載に基づいて、技術常識に照らしつつ考察すると、本件特許発明においては、着火した直後の燃焼及び消火の直前の燃焼は燃焼室の底部で生じるところ、空気噴射管の底部の下に向けた孔一個、すなわち本件特許発明の「空気噴出孔」から、円筒形である燃焼室の底部に空気を供給することで、空気噴射管底部に対応する燃焼室底部の中心部から燃焼室底部の周辺部へ空気が拡散して、燃焼室底部全体に燃焼に必要な空気が供給されることにより、着火した直後の燃焼を持続させ、消火の直前の燃焼を完全燃焼となるようにして無煙に近い状態にするものであると考えるのが合理的ないし自然である。
してみると、「空気噴出孔」に関し、本件特許発明特有の課題解決のための技術手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分、すなわち本質的部分は、「空気噴射管の底部」に設けることであり、「空気噴射管の底部」における具体的な配置や数については、本質的部分でないといえる。

(2)第二要件
本件特許発明における「空気噴出孔」に関し、空気噴射管の底部の「中心」から、イ号物件のように空気噴射管の底部「角の2カ所」に置き換えた場合の作用効果等を検討するために、まず、イ号物件の「空気噴射孔」の技術的意義について考察する。

イ号物件における燃焼室底部に向けた「空気噴射孔」は、空気噴射管の底部角に2カ所、2つの一次燃焼空気管の底部にそれぞれ2カ所、及び、2つの追加空気管の底部にそれぞれ2カ所に設けられたものである。
そのうち、空気噴射管の底部角の2カ所に設けられた「空気噴射孔」について、ここから燃焼室の底部に向けて空気を供給した場合には、空気噴射管底部に対応する燃焼室底部の中心部から燃焼室底部の周辺部へ空気が拡散し、燃焼室底部全体に燃焼に必要な空気が供給されるところ、イ号物件は、上記第4 4(4)のとおり、着火した直後の燃焼及び消火の直前の燃焼が燃焼室の底部で生じるものであるから、着火した直後の燃焼を補助し、消火の際の無煙化に寄与するものであると認められる。
なお、一次燃焼空気管の底部及び追加空気管の底部に設けられた「空気噴射孔」については、燃焼室底部の周辺部へ空気を直接供給するものであるから、着火直後の燃焼の補助及び消火の際の無煙化の程度をさらに向上させる機能を有した付加的なものである、と認められる。

そうすると、本件特許発明における「空気噴出孔」を、空気噴射管の底部の「中心」から、イ号物件のように空気噴射管の底部「角の2カ所」に置き換えた場合でも、着火した直後の燃焼を補助し、消火の際の無煙化に寄与することができるものであるから、本件特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであるといえる。

(3)第三要件
本件特許発明における「空気噴出孔」に関し、空気噴射管の底部の「中心」に設けることを、空気噴射管の底部「角の2カ所」に設けることに置き換えることは、少なくとも本件特許発明に係る出願の出願時には、廃油ストーブの技術分野における当業者にとって単なる設計変更にすぎないから、判定請求書に記載された平成26年11月初旬時点において容易に想到することができたものであるといえる。

(4)第四要件
本件特許発明の参考文献である特開平5-157216号公報及び実願昭58-14304号(実開昭59-120325号)のマイクロフィルムに記載された技術を検討しても、イ号物件はこれらの公知技術と同一でなく、当業者がこれらの公知技術から容易に推考できたものでもない。

(5)第五要件
本件特許発明の特許出願手続において、イ号物件が特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情はない。

以上のとおり、上記最高裁判決が判示する均等論が適用できるための5つの要件を全て満たしているから、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Dと構成上異なる部分につき、均等論の適用ができるといえる。
したがって、イ号物件は、本件発明の構成要件Dを充足するといえる。

3 まとめ
上記1及び2のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件をすべて充足するといえる。

第6 むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件をすべて充足するから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属する。

よって、結論のとおり判定する。

 
判定日 2015-07-03 
出願番号 特願平11-100450
審決分類 P 1 2・ 1- YA (F23G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 茂夫  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 伊藤 元人
佐々木 訓
登録日 2000-01-28 
登録番号 特許第3025967号(P3025967)
発明の名称 回転燃焼廃油焼却スト?ブ  

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